バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
キールこと水無怜奈が逃走中に不幸な事故を起こし、病院に運ばれた。
現在はFBIのもとで監視されながら治療を受けている。意識は戻っていないとのこと。
その報はコナン君を通して私にもすぐさま伝わった。
とはいえ。
コナン君とともに急いで病院に駆けつければ、ジェイムズ、ジョディほかFBIの面々に一斉に銃口をむけられることになったが。
ざっ、と勢いよく向けられるいくつもの銃口。
セーフティは外れており、病院の廊下は緊迫した空気に包まれている。
コナン君が銃口を気にすることなく前へ出て両手を広げた。
「待って!バーボンなら問題ないよ!」
「離れたまえコナン君。その男は大量殺人の容疑で指名手配されている」
「……ッ」
返事をしたのはFBIの日本におけるとりまとめ役、ジェイムズ・ブラックだ。
軽くすら聞こえる声色で、しかし一切の交渉を許さない断定的な口調。
話はここで終わりだ、と言外に告げる言葉の重み。
コナン君は押し黙り、それでも勢いよくジェイムズさんを睨め上げた。
少々困った展開に、わたしは苦い笑顔を浮かべざるを得なかった。
コナン君をそっと背後へ押し返し、FBIの面々の前に立つ。
心配そうなコナン君の視線を背中に感じる。
私はニコリと威圧ついでに笑って首を傾げた。
「拳銃12丁。そのほか武装無し。そんなの僕にとって水鉄砲を主武装に挑まれているようなものです。命が惜しくないんですか?」
「今の君はお得意の武器を持っていない」
「そんなの誤差ですよ誤差。子犬相手にまともな武器なんて必要ないにきまってるじゃないですか」
実際にはコナン君がくれた警棒を持っているが、彼の印象が悪くなることは言いたくない。
ここで銃撃戦になれば使わざるを得ないかもしれないが……おそらくそうはならないだろう。
一歩前に踏み出し、私が舐め切っているのがわかるようにペロリと舌を出した。
「別に、全員かかってきてもいいですよ。怪我はなるべくさせないので、何回でも挑戦をどうぞ。5回ぐらい打ちのめせば理解もしてくれるでしょう」
殺気立つ気配、銃を構え直す重苦しい金属音。
意図的に挑発したが、簡単に引っかかるようではこの先が心配だぞ、FBI。
「よせ」
そこに口を挟んだのは、最後尾で様子を窺っていた赤井秀一であった。
彼はチラリと私の自然体を確認して、それでも動かない鉄面皮で冷静に評を下す。
「その男の能力は本物だ。奴を真正面から捕まえるなら、軍の特殊部隊を用意しても足りないほどだ。やるなら毒殺か、大量破壊兵器を使うのが確実だろう」
そうでなければ塵を掃くように殺されるだけだ、なんて。
彼は実に的確に私を分析してみせた。
とはいえ毒なら直感で分かるので、どちらかと言えば石川五エ門のような純粋な強者をぶつけられる方が苦手なのだが。
ふむ、と言葉を選ぶジェイムズさんが私を見やる。
「では、君の目的は一体なんだね。こんな敵地にわざわざやって来て、物見遊山というわけでもあるまい」
「単純な話、コナン君の手助けになればと思っただけです」
「彼の?」とジェイムズさんは予想外の言葉を聞いた様な顔をした。
ジェイムズさんとは逆に、コナン君はと言えば嫌そうな顔で私の後ろに隠れてしまう。
「彼とはいったいどういう関係かね」
「彼には弱みを握られてまして。割と従順にシモベをやっているところですよ」
宮野明美をこっそり生かして匿ってたっていう弱みだね。物は言いようという奴である。
次の瞬間には激怒したコナン君に胸ぐらをつかまれて引き下ろされたが。
「バッ、バーロー!!!言い方ってもんがあんだろうが!!!なんだよシモベって!」
「不服かい?ちょうどいい言葉だと思ったんだけど───本当に君は弄りがいがあるな」
「弄りってお前らな!!!俺の立場がどんどん複雑になっちまうじゃねーかふざけんな!」
にやにや顔の降谷さんとしらばっくれの私の二人を相手にしてプリプリ怒る主人公殿はなんとも可愛らしく揶揄い甲斐がある。
心の底で2人してニヤリ。
悪い大人というやつだ。
ぱちくり、と瞬いたジェイムズ・ブラックが咳払いしてからすっと右手を上げた。
「皆、銃を下ろしてくれ」
「ジェイムズさん、ですが!」
「本当に彼はウルフドッグの手綱を握っているらしい。それが我らにとってどれほどの利となるか、数え上げるのも馬鹿らしいほどだ。違うかね」
ウインクする老紳士、といった風情のジェイムズさんは実に様になってる。
ひとまずのところ私達を見逃すことに決めたらしい。
不満の残るFBIの人員達も口を出さないあたり、かなり人望もあるらしい。
ジェイムズさんは「ただし」、と姿勢を崩そうとする私に制止の一言をかけた。
「君に情報は渡せない。この先の部屋も立ち入り禁止とする。構わないかな」
「ええ。僕はあくまでコナン君の手足。命を頂ければそれで構いませんよ」
「坊やも、それで構わないね」
「う、うん……」と幼げに頷き、コナン君はおずおずと私の後ろから出て私の方に振り返る。
こうしてみると本当にただの子供のようだ。
私は優しく微笑んでその背を押した。
「ここで待ってるから、行ってらっしゃい。コナン君」
見張りが付いているが、なんの脅威でもないし特段の問題も見受けられない。
去っていく後ろ姿を確認してから、病院のベンチに座って内心で降谷さんと相談する。
潜り降りた先は武家屋敷。
私たちの住処であり、娯楽施設であり、真なる意味でのセーフティハウスだ。
───これからどう動きます?
───おそらくはキールを別の病院へ移すことになるだろう。赤井秀一が生き残るかは……まあ運だな。奴のことなんてどうでもいいが
───コナン君が妙案を出してくれるかもしれませんよ?
そういうと、降谷さんは「確かに彼は事件解決という分野で他の追随を許さない力があるが、あくまで小学生だろう?」と私の評価に首をかしげた。
そして手に持った袋から餌を取り出し、池の錦鯉に撒いた。
ちなみにだが、錦鯉用の池は高透明度のガラスの蓋で覆われて上に出られないようになっている。
先日うっかり逃げた錦鯉が私たちの就寝中に表層へ出てしまい……。
セーフティハウスの中で真顔のままビチビチ跳ねる安室透29歳、とかいう悲しみの大惨事が起きてしまったが故の措置だ。
2人して腹がよじれるほど爆笑し、錦鯉物まね大会とか言ってその時の動きをマネする大会を突如開催して。
ひとしきり笑った後「これが敵中で意識を失ったときとかじゃなくてよかったな…」と沈鬱な会議が開かれることとなった。
本当にそうだよ。
私達の尊厳が決定的に失われるところだったよ。
───確かに彼は小学生だ。若く、まだ経験も無い。
───……それでもお前の琴線に触れるものがある、か。お前の直感は恐ろしいからな。根拠なんてまるで無いが、馬鹿にできない信頼性がある。
───まあ、他称は獣ですので。野生の勘は冴えてますよ?
───いいなぁそれ。俺も欲しい。俺と一緒の身体を使ってるくせにお前だけズルいぞ
そう言われましても。こればっかりはどうしようもなく。
そんな感じに深層心理の底で兄弟のように戯れつつ今日という激動の日は過ぎ去っていくのであった。