バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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来葉峠の顛末③

 

 キールにとって組織幹部バーボン・血塗られたウルフドッグとは、ジンと同じある種の組織の象徴としての意味を持っていた。

 

 かの幹部を一度、キールは調べたことがある。

 

 どうとでもなる下働きから始まり、その有能さから幹部の側仕えの仕事を任されるようになった。

 そこで類稀なる身体能力と冷酷な精神性を買われて幹部へ昇進。

 その後はルパン一味ともコネクションを持ち、組織の『武力』の側面をたった一人で担ってきた。

 

 また、裏切り者の処刑役として恐怖と畏怖とを一身に集める存在となり、多くのNOCが彼の行いにより命を落としたという。

 

 バーボン自身に裏切り者の疑惑が向けられたことも無いとは言わない。

 恨み妬みから嘘の情報を流す輩など数知れず、足の引っ張り合いだって枚挙にいとまがないからだ。

 しかし、その圧倒的功績と…なによりも表にそぐわない快楽殺人鬼としての在り方から、その疑惑は口さがないものの単なるうわさとして処理された。

 

 キールの父であるイーサン・本堂も、バーボンによって追い立てられたあげくキールの元へと逃げ延び、キールをかばう形で自殺した。

 まるで猛獣が獲物を弄ぶように手足をぐちゃぐちゃに切り裂かれた父は、もはや逃げられないと悟っていたのだろう。

 そうしたバーボンの残虐性こそが、キールを組織に食い込ませ、組織崩壊の道を切り開くのだ。

 キールはそのように固く己に誓っていた。

 

 

 

 来葉峠での一件は、キールにとっては渡りに船の取引だった。

 

 赤井秀一を殺害に見せかけて生存させ、それによってキール自身の信用も回復させる。

 ここまで上手くいくものか、と赤井ですら感嘆したその作戦は見事にはまり、赤井秀一の死亡偽装は文句のつけようのない形で決着した。

 他ならぬジンの命令で赤井秀一の脳天を撃ち抜き、狙い通りに額に仕込んだ超薄型血糊を破裂させる。

 江戸川コナンの目論見はここに結実した。

 

 その喜びに、水を差すように。

 

「ご苦労様です、キール」

「!!!……居たのね、バーボン」

 

 重力を感じさせない動きでトン、と背後に降り立つは黒。

 手にはめた長く鋭利な鉤爪と獣のような身のこなし。夜の暗闇に浮かび上がる金髪だけが鮮やかだ。

 

 その暗く濁ったダークブルーの双眸を愉悦に歪ませながら、かの男は返り血を浴びたキールを見下ろしていた。

 

「貴方の仕事ぶりは僕が見届けました。赤井秀一の始末が完了したことは、あのお方もお喜びになることでしょう」

 

 ニコリと、心無い化け物が嗤う。

 

 FBIが囲う病室で盗み聞いた話によると江戸川コナンに弱みを握られているらしいが、どこまで本当なのやら。

 あの冷徹な快楽殺人鬼、ウルフドッグを御せる人間がいるとは思えない。

 

 キールは背中を伝う冷や汗を極力無視し、努めて冷静に振り返った。

 

「そう……。ならこの重苦しい首輪ももういいわね。私は私の任務を果たしたのだし」

「ジン、問題ありませんね?」

 

 カメラ付きの首輪を指で引っ掛けて、大げさに首を振る。

 ジンのことだ。ここに爆弾が追加で仕込まれていたとして何ら不思議ではなかった。

 

 ウルフドッグが通信機ごしにジンへ指示を仰げば、面白がるような残念がるような、底意地の悪い響きを持った声色でジンが答えた。

 

『ああ。クク、赤井秀一もザマねぇな。こんな女一人の手で逝くなんてなァ』

 

 こんな女、といかにもキールを侮ったような言葉に、キールは内心愚かな男だと嘲笑った。

 侮られているのはキールにとって好都合。いくらでも侮るといい。

 そうして無防備にさらされた喉元に、我らCIAは食らいつくのだから。

 

 通信が切れると同時に首輪の電源が落ちる。ズシリと重いそれを慎重に取り外し、乗ってきたバイクの後部収納に放り込む。

 本当なら投げ捨てて踏み折ってしまいたいぐらいの気持ちなのだが、証拠を残すのは愚策。

 ため息をつくのを最大限我慢して首を回した。

 

 その時。

 つかつかとバーボンが赤井秀一の死体の前へ進み出た。

 

 赤井秀一の死体に近付き、少しだけ思案するような顔。

 まさか。

 耳元に顔を近づける。褥で恋人に睦言を囁くように紡がれる言葉、麗しき唇。

 残酷なまでに優しげな顔をして囁くのは、手向けの言葉ともそれ以外の意味とも捉えられる声だった。

 

「次の機会があれば、貴方を宮野明美とスコッチに会わせてあげますね」

「───ッ」

 

 キールは思わず凍り付いていた。

 まさか、勘付いているのか。赤井秀一の死亡偽装に。この計画に。

 

 動悸が激しい。筋肉が硬直する。動けない。

 もしバレていたとしたらキールの命はない。

 キールの父のように、これまで死んでいったNOC達のように、鉤爪で引き裂かれて苦痛のうちに無残な屍をさらすことになるのだ。

 

 ウルフドッグの冷徹な瞳と、目が合った。

 

「何か?」

「いえ………あとは死体の処理が残ってるから、その処理について考えていただけよ」

「そうでしたか。失礼しました」

 

 緊張に震えそうになる指を何とか抑え、キールはなんてことのないような顔をして返事をする。

 そう、赤井秀一の死体の処理がまだ残っているのだ。

 それをクリアしない限りキールの偽装はまだ終わっているとは言えない。

 未だ大人しく死んだふりをしている赤井秀一が、何処でぼろを出さないとも限らないからだ。

 

 祈るような内心を神がくみ取ってくれたのか、バーボンはくるりと踵を返して射出したフックを崖上の樹へと引っかけた。

 

「では、僕は帰ります。今日はもう遅い。貴方もその『死体』を処理して早く帰ってください」

「分かってるわ」

「それと」

 

 バーボンがこちらを振り向く。そして悪戯げに目を細め、トリックスターとして鮮やかに微笑んだ。

 

 しーっ、と人差し指を口へ当てて秘め事を口にするように。

 まるで悪童が企てごとをするかのような無垢な表情で、彼は決定的な言葉をキールへの置き土産としたのだった。

 

 

「今回のことは、僕の胸の内だけにとどめておきます。……安心して、くださいね?」

 




なんか…今日は筆が進まぬ。
スランプかなぁ……。
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