バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ここ最近、季節が高速かつランダムに移り変わっているような気がする今日この頃。
周りのみんなはおろか降谷さんすらこの異変に気がついていないようだが…神のご意志だし仕方ない。
サザエさん時空に理屈なし。ナンマンダブナンマンダブ。
と、いうわけで今日。
私は無事米花に立つアパート『木馬荘』から焼け出され、家なし子になっていた。
……いや、忘れてたんだよ、原作で木馬荘が一度焼けるの。
夜中に焦げた臭いがして飛び起きたら、部屋中に煙が充満しているではありませんか。
急いで部屋を飛び出せば辺りは火の海。
最早常人には逃げ場はない、といった絶望具合だった。
ここまで気付くのが遅れてしまったのは、深層心理の武家屋敷に新たに大規模な書斎を建築中だったためだ。
新エリア建設ってどうしても胸が躍るものでして。
つい2人して熱中して心の深層に潜り込んでしまったが故に起きた悲劇であった。
火の手に気付いてからはさあ大変。
降谷さんと2人して心理の底でわあわあ叫びながら我先にと表層に向かったためごっつんこ。
派手に衝突して痛みに呻き、両方表に出てしまったが故上手く動けず。
それでもなんとか私を主軸に外に出れば、なんと階段下に大家さんが気を失って倒れているではありませんか。
咄嗟に部屋の水道から水を出して頭から被り、火の海を越えて大家さんを救出。
その後素手で高熱の庇を掴んで壁を回り込む形でなんとか火の手を避けて脱出した。
私以外だったら死んでいただろう修羅場具合だった。
というか、私も割と死ぬかと思った。
その後、庇を掴んだ手を含めたところどころにほんの軽いやけどをした私を救急隊が見つけ、念のため大家さんと共に救急車で病院に運ばれたのであった。
許すまじ放火犯め。
…などとすっかり原作を忘れていた自らを棚に上げて犯人への怒りがつのる。
ちなみに、建設中の書斎とは私たちの新発見を利用した疑似完全記憶能力施設だ。
最近になって分かったのだが、私たちが見聞きした物事を文章や写真として深層心理に保管することができるようなのだ。
それらを蓄積していくことで、通常忘れてしまうような些細な情報をデータベース化して身一つで持ち歩けるようになる。
題して記憶の書斎建設計画。
この実に有用そうな響きのそれは、資料探索下手の私には上手く活用できないという悲しい事実を孕んでいる。
いや、ものの数秒で目当ての本を見つけられる素の記憶力激高なハイスペック降谷さんがおかしいだけだけどな!
私は主に鋭敏な五感や直感を用いたインプット役として活躍予定だ。
書斎の主と化した降谷さんに「ここ、資料が足りないぞ。早く用意しろ」とこき使われる定めにある立場に涙がつい溢れる。
さて、そんなふうに哀れに焼け出された私も一応は火付けの被疑者。
外出中で家にいなかった3人と共にすっかり炭になってしまった木馬荘へと来てみれば。
「あ、安室さん!?もしかしてここに住んでるの!?」
こちらを驚いた表情で見つめるコナン君と愉快な少年探偵団たちが私を迎えてくれた。
「やあコナン君。一夜にして宿を失ってしまった僕を憐れんでくれるのかな」
「……なんか余裕そうだね。一応聞くけど犯人じゃないよね?」
「僕は犯人じゃないよ。まあ、口ではなんとでも言えるけど」
呑気な会話の横から一瞬建物でも吹き飛ばしそうな強さで吹き荒れる殺気の嵐。
同じく一緒にやってきた大学院生の沖矢昴さんである。
正体バレバレになるからそれ止めなよ赤井さん……いや、止めようと思って止められるものじゃないかもしれないけど。
昴さんは私を見るだけ見て、話しかけないつもりなのか黙ったままだ。
殺気の中にわずかな困惑を感じたあたり、彼は彼で来葉峠の一件に思うところがあるようだが。
赤井さんと冷戦をしている間にも警察官とコナン君の推理は進んでいく。
ミニカー好きな大家さんの子、開人君の日記から犯人らしき人物がわかったのだ。
犯人は「黄色い人」。
「黒白君」はコナン君。その推理力からパトカーに例えられた天才児。
「白い人」は開人君に絆創膏をくれた優しき大工さん。救急車に例えられた。
「赤い人」は沖矢昴。花に水をやる姿は消防車を連想させた。
「黄色い人」は土を掘るゲーマーにして放火犯。
私と同じアパートにいる人物程度、降谷さんが既に背後関係を全て洗っている。
だからコナン君が推理するより早く確かに、降谷さんは答えに辿り着いていた。
素早く表へと切り替わった降谷さんが、周囲を威嚇するような足取りでツカツカと無防備な犯人へと歩み寄る。
そして、襟首を掴み。
片手で捻り上げ、憤怒の形相で宙へと持ち上げた。
「なっ、何してるんだアンタ!?」
「安室さん!?」
突然のことに驚いた刑事さんが急いで駆け寄ってくる。
首を押さえて呻き暴れる犯人を持ち上げたまま、なお降谷さんはギリ、と歯軋りした。
そこに殺意や殺気の類は何一つ含まれていない。
降谷さんが表に出た時、殺気の発露に慣れていないが故のことだ。
私がやったなら昴さんも思わず銃を構える殺気が出てしまっていたことだろう。
沖矢昴が降谷さんの右腕を掴み、静かに窘めた。
その様子はやはり困惑が多分に含まれている。
「お怒りは分かりますが、やりすぎですよ」
「……すみません、僕もカッとなってしまって」
男を下ろせば、男はひとしきりむせた後「なっ何すんだお前!!」と激昂した。
ああ。どの立場でそんなこと言ってるんだか。
流石にむかっときて、降谷さんの代わりに睨みつける。
殺気とはこうやって出すんだ。
「………ッヒ」
「土木作業車に例えて土を掘る男たる貴方は『黄色い人』と呼ばれていた。違いますか?」
重い殺気に、周囲の人間も感じないまでも危機感を覚えたのだろう。
ただ黙って私の様子を強張った体で見守っている。
「僕は『カラフルさん』。よく料理をお裾分けしていたので、キッチンカーの高彩度な塗装に例えられていました」
「……っ、な」
「僕もここまでするつもりはなかったんですが、どうしても被害者として死にかけた身で。恨みが先に来てしまいまして」
「………!」
「お恥ずかしい限りです。あとは探偵諸氏に任せましょう。コナン君、もう分かったろう?」
う、うん。とコナン君はおずおずと頷いた。
降谷さんの怒りに引き摺られてしまったが、私は別に怒れるような立場じゃないのである。
多くの殺害をもって組織でのし上がった身は、既に多くの血に濡れている。
罪は罪。罰は罰。
最早言い訳しようもなく折り重なった罪は、必ずどこかで清算しなくてはならない。
なんて。
深層心理にて降谷さんの憂鬱な後ろ姿を見ながら思う日々なのである。