バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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揺れる警視庁1200万人の人質①

 

 突然だが、白鳥警部補の乗った車が派手に爆破炎上した。

 

 日付は11月7日。時刻は夕方。

 暮れていく夕日が不気味に街を照らす、逢魔が時。

 

 ついに始まったのだ。

 降谷さんの警察学校同期2人の命を奪った事件、「揺れる警視庁 1200万人の人質」が。

 

 おさらいをしよう。

 私の主人格たる降谷さんの警察学校の同期は4人いる。

 のちに爆弾処理班に配属される萩原研二と松田陣平。

 捜査一課に配属される伊達航。

 警視庁公安部にして降谷さんの幼馴染、諸伏景光。

 

 この4人だ。

 彼らと共に過ごした半年間は降谷さんの何物にも代えがたき宝であり、青春の一つであり、思い出である。

 

 それを踏まえ、私という転生者が降谷さんへと入り込んで以降私が何をしたか。

 

 まず、私がこの世界で目覚めた時、既に萩原研二は業務中に爆死してしまっていた。

 松田陣平はその時点では生きていたものの、公安警察として潜入中である私が海外任務を命じられれば逆らうことは不可能。

 せめてもと危険を冒して送ったメールも親友の仇討ちに燃える彼を止めるには至らなかった。

 

 つまりだ。

 何の成果も得られませんでした、というヤツだ。

 

 そして今。そうして2人の命を奪った爆弾魔が再び事件を起こしている。

 

 つい先日起きた事件の実況見分のために偶然コナン君達と一緒にその場に居合わせた私は、息も絶え絶えな白鳥警部補が燃え盛る車から転がり出てくるのを目撃していた。

 手には何かのコピー用紙。

 コナン君がそれを素早く手に取って読み上げる。

 

 隣にいた佐藤刑事もそれを覗き込んで目を見開いた。

 それに降谷さんはまるでシンクロするように驚愕の表情を浮かべている。

 

 「安室さんどうしたの?」と子供ならではの感性で異変を感じ取った歩美ちゃんが袖を少しだけ引っ張る。

 

「……なんでもないよ」

 

 激情に強張った表情、震える手、虚ろな返事。

 何をとっても大丈夫とはいえない様子にコナン君もすぐさま気がついたようだ。

 黙り込んでじっとこちらを見つめている。

 

 正直な話。

 親友を殺した仇を前にして、なんでもないはずがないのだ。

 

───大丈夫ですか。恐らく貴方の反応でコナン君にこの事件との関係性を疑われていますが

───その程度なら問題ない。いくらでも言い訳がきく。

 

 深層心理の世界は性質上、心を隠すのが難しい。

 怒りに震える声も憤怒の表情も、どうしても自然と表に出てしまうからだ。

 

 私の罪悪感が顔に出てしまっていたのだろう、降谷さんがふう、と震える息をついて心を落ち着かせてから私の方へと向き直った。

 透明な深層心理の水底が赤く濁り始めている。

 

 降谷さんは瞳を伏せたまま私に静かに言葉を告げた。

 

───お前は悪くない。お前が松田に送ったメールも見た。俺が間抜けにも眠っていただけで、お前は十分すぎるほど手を尽くしたんだ。

───……ありがとうございます、ゼロ。

 

 それでも結果は結果だ。

 私は原作知識にて主人格の親友が死ぬのを知っていながら、その阻止に失敗した。

 

 濁り出す水から分かる通り、 恋人を殺された佐藤刑事並みか、それ以上に降谷さんはキレている。

 

 黙ったまま駐車したままだったRX-7に乗り込めば、当然と言った風体でコナン君が横に乗り込んできた。

 助手席のシートベルトを締め、こちらをじっとうかがっている。

 

「なぁ、今回の事件はオメーと何か関係があるのか?」

「……本当に君は詮索好きだな」

「バーボン、いや。アンタはゼロさんか。それで、どうなんだ?」

「君に答える義理はないな───今回の爆弾犯は友人の仇というやつでして───おい、どういうつもりだ」

 

 心理の底で降谷さんにギロッと睨みつけられる。

 というか、その状況でコナン君に隠し通せるわけが無いんだから、あれこれ探られる前にこっちで情報統制したほうがいいと思うんだよな。

 ニコォ、とコナン君がわざとらしい子供ぶりっ子で微笑んでいる。

 その顔されると何言いだされるか分からんから怖いんだよな。

 

「貴方の今の様子だと遠からずバレます。なら後腐れ無い方がいいじゃないですか」

「そうそう。ゲロっちまえよ、な?」

「───はぁ。他言無用で頼む」

 

 諦めた降谷さんが大きなため息をついた。

 場の空気も少しばかり明るくなってくる。会話を通して少しずつだが冷静になってくれたようだ。

 

 緩やかに発進するRX-7の車窓に未だ燃え盛る白鳥警部補の車と、駆け付けた救急隊員の姿が映る。

 

「7年前にこの事件で死んだ萩原と、3年前に死んだ松田。2人は俺の友人だった。…それだけの話さ。」

「オメーの……2人は警察官だろ?組織の人間が、なんでそんな」

「それを言ったら佐藤刑事と俺が知り合いなのもおかしいことになるじゃないか。組織の人間として警察とコネクションぐらい持つさ」

「………それだけにしちゃ、ずいぶんと感情的だな。今のアンタは」

 

 降谷さんは沈黙でもって返答した。

 

 怒りと、悲しみと、無念と、子供に指摘された恥ずかしさが少々混じった気まずい沈黙だ。

 それを何一つ考慮しない探偵としての鈍感さで、コナン君は言葉を続ける。

 

「バーボンに比べ、ゼロさん。アンタはかなりの激情家みたいだな。そして正しい正義感と倫理観を持ってる。木馬荘が焼けたときだってそうだ」

「………」

「あれは自分の命が危機にさらされたから怒ってたんじゃない。何も知らない周りの人間が命を落とす放火という犯行に、あんたはあれほどまでに憤ってたんだ」

「………君の思い違いじゃないのかい」

「あんたらはまさしくジーキル博士とハイド氏だ。善と悪、二つが同居している」

 

 コナン君の突き付けた真実を、ハッ、と降谷さんは鼻で笑った。

 

「馬鹿馬鹿しい。俺が善の精神?…まさか。俺はバーボンの犯行を容認し支持する、根っからの悪党だよ」

 

 そう言い放ってから、降谷さんは視線を落とした。

 車内に重苦しい沈黙のみが漂い、エンジン音がやけに耳につく。

 

 どうでもいいけど私をハイド氏扱いは酷いのでやめてほしい。

 別に私は快楽殺人鬼ではないので、2人ともそこんとこ宜しく頼む。

 

「……我は円卓の騎士なり。愚かで狡猾な警察諸君に告ぐ。本日正午と14時に我が戦友のクビを弔う面白い花火を打ち上げる。止めたくば我が元へ来い。72番目の席を開けて待っている」

「!」

 

 降谷さんが静かな声で忘れがたき3年前の予告文を読み上げた。

 空で読み上げられるほどに刻まれた記憶は、未だ色褪せず思い出を燃料に燃えているのだろう。

 

「それって」

「3年前の事件、松田が死んだ時に今回と同じように送られてきた暗号だ。───答えは杯戸ショッピングモールの大観覧車」

「72番もあって、かつ円形ってことか。随分単純なんだな」

「ああ。だから今回も、一つ目の爆弾は警察官を誘き寄せるために単純な場所に設置してある可能性が高い」

 

 ハンドルがミシミシと音を立てる。

 仇討ちの実現を目の前にして震える激情が手に力をくわえている。

 

「オメー……」

「行こう。少なくとも、今回の爆弾は東都タワーに仕掛けられている可能性が高い」

「!血塗られたマウンドに…貴様ら警察が登るのを、鋼のバッターボックスで待っている、か。赤い鉄の箱。東都タワーのエレベーターって推理したわけか!」

「そうだ。暗号の前半部はまだ分からないが…行ってみる価値はある」

 

 RX-7のハンドルを切り、一路東都タワーを目指す。

 コナン君はちらりと降谷さんの表情を見てから、もう一度思案するような顔をするのであった。

 

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