バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
東都タワーに到着すると、降谷さんの素早い推理ゆえにまだ一個目の爆弾が爆発する前であった。
コナン君宛に連絡してきた高木刑事によれば、現在鉄道の駅や列車内で不審物が次々見つかっている模様。
大規模無差別テロにまで発展しかねないそれに、降谷さんの怒りのボルテージがどんどん上がってゆく。
深層心理の水はついに濁りきり、赤く血の匂いが漂いだした。
鉄さび臭いから落ち着いてくれ降谷さん!!
警備員を呼んで周囲一帯を探索すれば、東都タワー内の配電盤の制御装置に仕掛けられた爆弾をスムーズに見つけることができた。
時計表示は無いものの、予告状や前回の事件から推察できる爆破時刻までまだ時間がある。
爆弾処理班を呼ぼう、と冷静に降谷さんが言えば、コナン君も同意したようだった。
しかし、配電室から出た瞬間。
危機感、悍ましいほどの圧迫感。何らかの電波。
それらを感じ、私は急いで降谷さんと入れ替わってコナン君を抱え上げ、全速力のダッシュののち思いっきり跳んだ。
背後から聞こえる爆発音に、熱。
爆風にあおられて壁に激突しそうになったが、くるりと体勢を反転して壁に両足で着地することで衝撃を吸収する。
危ない危ない。
被害と言えばコナン君が「いや意味わかんねーよ…野生のネコかよ」とぼやいた程度のものだった。
だからそのぐらい劇場版で君でもやってるだろうがよぉ!
血相を変えた警備員たちがあちこち走り回り、「大丈夫ですか!?」と駆け寄ってくる。
それに答えたのは腕の中のコナン君だ。
「エレベーターの方はどうなった!?」
「それが……中にちょうど人がいたようで、子供が取り残されたみたいなんです」
今刑事さんも到着して様子を確認しているところでして、と私に困った様子で伝えてくる。
少しばかり順序が違うが、原作の流れ通りだ。
どうやら爆発音を聞きつけた高木刑事が、佐藤刑事の制止も振り切って東都タワーに飛び込んできたらしい。
エレベーターホールに向かえば、騒然とした人々とその前に立つ高木刑事に会うことができた。
「安室さんにコナン君!さっき配電室で爆発があったみたいですけど、大丈夫でしたか!?」
「ええ。僕の方は怪我もなく。ですがエレベーターに子供が取り残されたらしいですね」
「僕も安室さんが助けてくれたから大丈夫だよ!」
「それは良かった。しかし……ええ。女の子が落ちかけたエレベーター内で怯えてしまってて。段差の影響で僕らが助けに入ることも難しい状況です」
見れば、おびえた様子の少女がエレベーター奥で固まったまま動かなくなってしまっていた。
大人たちがそろってこっちへと呼び掛けているが、恐怖で動けないようだ。
ぱっと顔を明るくしたコナン君が高木刑事に笑いかける。
「なら僕が助けに行くよ。おんなじ子供同士なら怖くないでしょ?」
これもまた原作通り。私は今後どうなるか知っているが、降谷さんはそうではない。
保護者として首を振ってそれを否定する。
「危険すぎる!子供をこんな危険に晒すなんて…できるわけないだろう!」
「大丈夫だよ。あの子を迎えに行くだけだし、まだ爆破されると決まったわけじゃない」
フラグって言うのだよそれは、と私は突っ込まなかった。
不安そうな降谷さんの様子と、まるでただの子供のように振る舞って子供を無事救助するコナン君の圧倒的光属性になんとなく言い出しづらかったのもある。
しかして。
原作通り、救助の終わったちょうどその時、二度目の爆発によってコナン君とギリギリ滑り込んだ高木刑事がエレベーター内に取り残されることとなった。
エレベーターホール内に悲鳴と怒号、「皆さんすぐ避難してください!」という警備員の掛け声が聞こえる。
一瞬のことで、8メートルほど離れた場所にいた私には手の出しようのないできごとだった。
ただ手を伸ばした体勢で固まる降谷さんが、ゆるゆると何もつかめるはずのない手を降ろす。
沈黙。
東都タワー中腹という高所に取り残される二人。
応援の刑事が焦る声が鋭敏な耳に入る。
「エレベーター内で爆弾が見つかった!?急いで知らせないと…!」
冷や汗。細かな震え。
「はっ、は、……」
降谷さんが強張る身体でなんとか避難誘導に従って東都タワーの外へとゆるゆると向かっていく。
息が荒い。
───落ち着いてください、ゼロ。
───分かってる、分かっているが……クソ!!!
思いっきり息を吐き出して、同時に鬱憤と不安とをたたき出すように深層心理の底を拳で穿った。
ボクシングを嗜む彼らしい丁寧な拳が、ガラスのような床を叩いて鈍い音を立てた。
───もうひとつの爆弾の在処を爆破3秒前に示す、奴のやり方が来る!コナン君なら、高木刑事なら己の命より大衆を選ぶだろう!
───……そう、ですね
───まただ。また俺は失敗して…
絶望と無力感に打ちひしがれる降谷さんに、私はそっと深層心理を暖かく包むように自らを広げた。
魂たる転生者の小技だ。
だからどうというものでもないのだが、多少他の魂を温める程度はできる。
降谷さんはゆるゆると首を上げた。
───大丈夫です、彼は神に愛されてますから
───お前、宗教なんて信じてたのか。無神論者だとばかり思っていたが
───やだなぁ、僕ほど信心深い人間はいませんよ?
神の愛は彼にあり。光の魔人、タイトルロール。世界の中心。
見上げる東都タワーは刻一刻と夕闇に飲み込まれていく。
がなりたてるTVメディア、集まる野次馬、喧騒、ざわめき、光のきざはし。
十分、二十分と着実に経っていく時に、否応なく緊張は高まってしまう。
そして、1時間40分。
時間になっても爆弾は、一向に爆発しなかった。
ざわめく人並みをかき分けて必死で東都タワーを見上げる。
バイブ音で、通話が入った。
『よぉ、オメーらにも伝えとかないとと思ってな』
「コナン君!君、無事で、本当に…」
『次の爆弾は帝丹高校だ。今全国模試をやってっからな。犯人としても狙い目だったんだろうぜ』
「爆弾はどうしたんだ、あれは数秒前にならないと次の場所が出ない仕組みで……」
『爆破まで待たなくても途中で答えが分かったんだよ。爆弾に表示された4文字で、これまでの声明文と足し合わせればピンときた。まぁ、元々ヤマ張ってたってのもあるけどな』
こともなげに答える声の調子は明るくて、降谷零は打ちひしがれているようだった。
その程度のことがなぜ松田にできなかった、なぜその時僕が付いていなかった、なぜ僕は寝ていた。
コナン君が無事でよかった、なぜ彼だけ無事なんだ、なぜ松田と萩原は死んでしまったんだ。
深層心理に広げた魂が降谷さんとふれあい、その心の内をつまびらかにする。
ぐちゃぐちゃでとても言語化できない激情が、荒波のように渦を巻いて打ち付ける。
コナン君はしばらく黙った後、強く射貫くような口調で言った。
『殺すなよ。約束だかんな』
「……ああ。君の信頼を裏切るような真似はしない」
降谷さんの頭脳であれば、次の爆弾の位置の情報だけで犯人の思惑が理解できると考えているのだろう。
そのうえで犯人に会いに行っても殺すことだけはするなと、そう釘を刺したのだ。
降谷さんは噛み締めるような声で返事をした。
もしかしたら己に言い聞かせていたのかもしれない。
RX-7で犯人の居場所──帝丹高校の爆破がよく観察できる絶好のスポット──へと急行すれば、双眼鏡を構えた犯人が醜悪な笑顔を浮かべて爆破の時を今か今かと待ちわびていた。
その後ろ姿へとそっと近づき、トン、と優しく肩を叩くかのように穏やかに意識を刈り取る。
無様に崩れ落ちた犯人を一顧だにせず。
横で鉄橋の手すりへともたれかかり、降谷零は街並みを見つめた。
「コーヒーを買ってくればよかったな。あったかいやつ」
私は「そうですね」とだけ答えて、彼の郷愁へと寄り添っていた。
・高速投稿術のすすめ
①風呂で精神を統一する
②お告げが聞こえてくる
③お告げを書き起こす
④小説ができる