バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
やってきました横須賀にある最後の舞台。
世紀末の魔術師が作った仕掛け満載のドッキリ城。
映画のタイトルである「世紀末の魔術師」とは、メモリーズエッグやこの城の制作者の異名である。
カラクリ職人だった氏は、皇帝への献上品としてメモリーズエッグを作成。
また、若くして他界した妻マリアを弔うためにこの城を建てたらしい。
メモリーズエッグの謎を探しにきた毛利探偵一行だが、私はといえば観光気分で中の探索に終始していた。
直感と作り手が残した気配を参考に部屋を探っていけば、出るわ出るわ仕掛けの山。
あっ、ここに回転扉がある!こっちの階段はブラフ、と。
まさにカラクリ屋敷さながらだ。
降谷さんと一緒に「おおー…!」「西洋版忍者屋敷か?」などと感嘆の声を上げる。
危険な罠も沢山あるから実際は無理だろうが、観光地にしたら本気で儲かりそうだ。
私たちが目一杯屋敷を楽しんでいれば、コナン君にちょいちょいと裾を引かれる。
何かあったのかと思いしゃがみ込むと、どうやらお怒りの言葉だったようだ。
「オメー分かってんなら口に出せよ!!」とコナン君に怒られ、2人してしょんぼり。
でもさ、みんながいつ気付くか見たいじゃないか。
「それで、オメーが現時点で分かっていることは?」
「メモリーズエッグ、というのは魔鏡を利用したアルバムだということ。くらいかな」
正確には後の仕掛けを覚えてないというだけだが。それはそれ。
話しながら、隠し通路を歩く私たちの集団から気配が2人消えたのを感じ取る。
恐らくは美術商の乾さんとスコーピオンだ。
スコーピオンは勿論として、乾さんも結構な盗賊気質だからな。
悪どいこともたくさんしているのだろう。
次いで奥の方から気配が3、4。
私はコナン君に耳打ちした。
「子供達、この城に侵入成功したみたいだよ」
「はぁ?オメー何言って」
「どこかに外部からここへ入れる仕掛けがあったんじゃないかな。気配が近づいてきてる」
「いやそんなんこんな暗闇の中で分かるはずねーだろ」
と、コナン君が呆れた瞬間通路の脇道から物音がした。
すぐさまスコーピオンが潜んでいる可能性の危険性を考え、コナン君が走り出した。
残念ながら、数分もしないうちに肩を落として帰ってきたが。
後ろにご機嫌な少年探偵団を連れ、萎え切った様子でトボトボ歩いているコナン君が若干哀れだ。
ほら、私の言った通り少年探偵団だったじゃないか。
「だから言ったろ、子供達だって。気配も小さなものが四つだったし」
「いや分かるわけねーだろ普通!?ホント人間じゃねーよ!!」
失敬な。
前にも言ったが、私は人の数ぐらい気配でわかるんだ。
そうでなければ敵アジトの強襲任務で思わぬ奇襲を喰らってしまいかねない。
さて。
ここから先は消化試合だ。
大規模なカラクリ仕掛けを楽しみ、美しいエッグの光を鑑賞する。
私はその他大勢に紛れてただ黙って観客に徹するだけだ。
私がコナン君について釘を刺した以上、スコーピオンがコナン君に手を出すことはなく。
つまりラストの炎に巻かれる中コナン君が銃撃される事件が起きる確率も低い。
そう思っていたのだが。
炎に燃える城の中、私は冷たく凍えた無表情のまま煮えたぎるような激情を必死で隠していた。
ここまでコケにされたのは久しぶりだ。
震える拳を握り締め、念の為にと持ってきた鉤爪の持ち手をギリギリと握りしめる。
スコーピオンはエッグを盗むだけでなく毛利小五郎を銃撃した。
その時は間髪を容れずコナン君が助けて大事には至らなかったが、それに逆上したスコーピオンはターゲットを変更。
コナン自身の右目を狙って発砲した。
私が急いで彼の手を引いてその銃弾も外れたが、すぐさまスコーピオンは逃走。
手榴弾で道を埋めた挙句、城に火を放ったのだ。
舐め腐っている。
私達の事もあわよくば生き埋めにしようとしたし、この程度で私が死ぬと思っている。
なんて愚弄。なんて侮辱。
怒りに任せ、私は鉄爪で柱のひとつを思い切り引き裂いた。
熊のマーキングのように柱がバターの如く切り裂かれ、巨獣の爪痕に似た痕として残る。
ふー、ふー、と私は自身を宥めるように息をついた。
───落ち着け、バーボン。お前らしくも無い
───失礼しました。まさかここまでスコーピオンが身の程知らずとは思っておらず…ははは。巫山戯た真似をしてくれる
少々熱くなってしまったのを降谷さんに窘められ、恥ずかしさで火が出そう。
やはりこの落とし前はスコーピオンに付けてもらわねばならぬ。
すばしっこいコナン君の後を追い、仕掛けを抜けて1階へ。
その姿はすぐに見つかった。
スコーピオンを挑発して、わざと銃撃されて残弾数を減らそうとしているようだ。
あちこち走り回るコナン君を天井からじっと見つめながら、私はそっと位置取りをした。
火の回りが早い。
城の一階にぶちまけたガソリンの影響でどんどん火が燃え移っている。
早く処理しなければ、コナン君の脱出も難しくなる。
そうして、残弾一発になった時点でコナン君はわざわざスコーピオンの前に姿を現した。
目を狙わせて、それを強化ガラスで防ぐつもりなのだろう。
あの女が火に煽られて狙いを外したらどうする気だ。
私は蜘蛛のように這い寄り、無音で天井から狙いを定める。
呼吸を静かに。
爪を構え。
滑るように優雅に。
奴の背中へと飛び降りる。
「……ッは!?」
背中を毟るように鉄爪を振り下ろし、そのまま床へ勢いよく押さえつけた。
「ぎぃあぁァァアアアアア!!!」
「醜い悲鳴だ。聞くに堪えない」
肉を剥がされた壮絶な痛みと出血に、スコーピオンは絶叫した。
わざと殺さない程度に、最大限苦しむように削いでやったのだ。それもまた道理だろう。
酷薄に冷酷に微笑んで、首にわざとギザギザの爪痕を残す。
降谷さんは黙ったまま、ただ私の行いを見ている。
「言いましたよね、彼は狙っちゃダメだって」
「……ぁ、あ……!」
本気の怒りと殺気でもって問い掛ければ、女は恐れと痛みとにガクガクと震え始めた。
そんなに怯えるのならはじめからこんなことしなければいいのに。
自らが庇われたコナン君が絶叫する。
「殺すなぁッ!!!」
「…勿論。殺したりしないよ。そんな……勿体無いこと、とてもとても」
女を押さえつける手を離した次のタイミングで、その頭を軽く蹴飛ばす。
女はピンポン玉のように撥ね飛ばされ、棚にあった調度品と激突した。
ツボがバラバラに割れる。
……しまった。貴重そうな壺を割ってしまった。
ごほんと気恥ずかしさをばらすように咳払い。
私ならポケットマネーで弁償できるが、そもそもここはもう直ぐ全焼するみたいだし。ノーカンノーカン。
スコーピオンは脳震盪と多量出血を起こしたか、ピクリとも動かない。
もしかしたらちょっと重傷かもしれないが、このぐらいなら死にはしないと経験則で理解している。
と、そこに私に向けられる銃器が一つ。
「両手をあげてください、ゆっくり」
駆けつけた白鳥警部…否。怪盗KIDだ。
恐らくはコナン君が襲われていると勘違いしたのだろう。
白鳥警部の銃を向けてこちらを威嚇してくる。
普通に同士討ちになるのでその勘違いは捨ててほしい。
なんて言い訳しようか、とちょっとばかり思案する。
「はやく両手を上げて、ゆっくりコナン君から離れてください」
「嫌だなぁ、これは単なる正当防衛ですよ?彼女がスコーピオンなのは、君も分かっているはずですよね」
「だからと言ってあなたが安全なわけでは無い」
それはそう。
ぐうの音も出ない正論を叩きつけられ、私は押し黙らざるを得なかった。
IQ400相手にレスバとか負けるに決まってるわ。
私は苦し紛れに床にいたスコーピオンを持ち上げ、KIDの方へ投げ飛ばした。
根本的に善良かつ紳士であるKIDは、ボロボロのスコーピオンを慌てて受け止める。
「怪盗KID。彼女を警察に連れて行くといい。そのために来たんでしょう?」
「……いつから気付いていたので?」
「初めから。君の気配は独特なので、すぐ分かりましたよ」
くすくす笑って答える。
高校生っぽい若く瑞々しい気配がするから、大人に化けてもすぐわかるんだよな。
私個人としてもKIDは実はかなり好きな部類だ。
彼もまたタイトルロール。神の愛を一身に受ける者であるからしてね。
スコーピオンの片付け役なんて損な役回りを押し付けるのが申し訳ないくらいだ。
ペロリと舌を出して唇を舐める。
スコーピオンの姿を見て、また怒りがぶり返してきそうだ。
「これ以上ここにいたら、今度こそズタズタに引き裂いてしまうかもしれません。なるべく早く、視界から消えましょうね。怪盗KID」
「ッ!!」
KIDはようやく事情を察知したのか、コナン君と私とを交互に見て、悔しそうにその場を後にした。
燃えてくずれゆく家具の数々。
私はすぐさまコナン君を抱き抱えた。
そして出口へ向かって走り出す。
「と、それで君は怪我はないんだよね!?めっちゃ銃撃されてたじゃないか!」
「オメーの情緒どうなってんだよ…ゼロさんからなんか言ってやってくれよ」
「───バーボンは少しサイコパス気味な所があってな。許してやってくれ」
嘘でしょ主人格!?貴方まで私のことそんな風に思ってたの!?
バーボンを演じ始めて最初に身につけた技術
「それはそれ、これはこれ」
身につけざるを得なかった「割り切る力」をそんな風に言われるとは実に心外だ。
私は走りながらもチベットスナギツネ並みにスンとした顔で暴露した。
「傷付きました。ゼロは昔、初恋の女性に構ってもらうためわざと怪我して手当してもらってたのを今ここにバラします」
「ブッッッゲホッゴホァッ!?ちょっ、まっ、オメーそれは自爆技だろ!?」
「いいえ。僕は5年前に生まれた人格なのでこの話には関係ないですから。あれ、ゼロの返事が無いですね。もしもーし」
「追い討ちかけてやんなよ…つーか自分と喧嘩するってどんな状況だよ」
「───この場にいる全員を消して俺も死ぬ」
「待て待て待て待て俺は貰い事故だろうが!喧嘩なら俺のいない所でやれよ!!!」
目の据わった降谷さんが大きな斧を片手に深層心理の底でこちらに迫ってきている。
私は素早く武家屋敷内に隠れた。
「おーい、出てこーい……」というおどろおどろしい声が心理の底に響いた。
ホラー映画じゃんかこんなん。
巫山戯た空気の中、それでもコナン君が気遣わしげに私を見る。
「なあ、バーボン」
「ん?」
「………あんたは…誰かのために怒ることのできる優しい心があるのに、どうして…」
沈み込む彼の心に寄り添う言葉を私は持たない。
私はバーボン。
降谷零の中に沈み、黒の組織の幹部としての役割を願われたものであるからして。
「さて。なんででしょうねぇ」
私の言葉は、誰とも知らず宙へ消えていくのみだった。
コナン君も、降谷さんも、何も答えぬままに燃える城の熱だけが夜空を染め上げる。
喧騒と騒乱の夏であった。