バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
先日。
工藤邸にて、繋ぎのジェイムズ・ブラックと連絡を取り合いながら、自らのPCを覗き込んだ赤井秀一は思わずつぶやいてしまっていた。
「………奴が、潜入捜査官?」
FBIの所有するNOCリストを探れば、ウルフドッグという凶悪犯の真実はあっけないほど簡単に調べが付いた。
以前別件でFBIの捜査員でウルフドッグの手から逃れたらしい男が、ウルフドッグ本人から聞いた話を日本警察に照会して登録したらしい。
PC画面には意志の強そうな金髪褐色の男の顔写真とともに『降谷零』と名前が記載されている。
赤井秀一はただ茫然とその写真を見つめていた。
ぽとりと、咥えた煙草を取り落としそうになってあわてて灰皿へと押し付けた。
まるで別人。しかして事実。
写真は特徴こそ一致すれども赤井の記憶するウルフドッグの妖しげな嘲笑、無垢にみせかけた邪悪な笑顔にはとても結びつかなかった。
同じく工藤邸でPCの画面をのぞき込む小さな小さな名探偵、江戸川コナンが我が意を得たりと強く頷く。
「やっぱり、思った通りだ…!ゼロ、というのはあの人の名前から取ったあだ名であり、組織の名前でもあったんだ!」
「……ボウヤ、いったい何を…」
「潜入開始は、やはり5年前。何かあったとしたら5年前だ。赤井さん、バーボンの任務で5年前何かあったか覚えてない?」
「いや。その頃の奴は下っ端で、ごくごく浅い使い捨ての仕事ばかりだったからな。浅いとはいえ詐欺や殺人は含まれているが」
「殺人!そうか、だからあの人は!」
これまでのウルフドッグの行いを知らないが故、ただ無情に真実を突き止めていく名探偵の頭脳が恐ろしい。
赤井秀一は目の前の不条理な事実にできる限り見ないふりをして、当時の絶望を回顧する。
スコッチは爪で重要な内臓を掻き出されての即死だった。
邪悪な歓喜に満ちた横顔と、驚愕に目を見開いたスコッチと、ゆったりと流れる時間の中で鋭利な爪が振り上げられて、それでもまるで動かなかった自身の身体と。
鮮やかな赤い血の滴る悪意に満ちた猛獣を、きっと赤井秀一は生涯忘れないだろう。
宮野明美の恐怖に凍り付いた顔が忘れられない。
腹に爪が食い込む苦痛の表情も、臓器を抉り出される痛みに痙攣する四肢も、助けを求めるように涙する瞳も。
声なき声で彼女の口が動く。
だ、い、く、ん。
なぜ自分はそこにいないのか。なぜ自分は彼女を置いて逃げてしまったのか。
渦を巻く憎しみが自分を責め立てて、血が出そうなほどにこぶしを握りしめてなお激情が己を苛む。
「馬鹿な、そんなはず、あるわけがない」
「赤井さん?」
衝動に身を任せ、椅子を蹴って立ち上がる。
なら何故スコッチを殺した!明美を殺した!多くの潜入捜査官を惨たらしく引き裂いた!
それほどの力がありながら、何故彼らを助けられなかった!!!
──などと、口には出さない。赤井とて狂人になる気はさらさら無かった。
その主張がいかに理不尽か、自分が一番よくわかっていたからだ。
「ゼロ、とはなんのことだ、ボウヤ」
「あの人は乖離性同一性障害を患っているんだ。僕らのよく知るバーボンとは、あの人の副人格でしかない」
「つまり、潜入捜査官としての主人格が奴にはあると」
「うん。僕も実際話をしたことがあるよ。その彼が自分をゼロって名乗ってたんだ」
殺人に疑念を抱かない生粋の犯罪者人格を生み出して、その手綱を握ることすらできない奴が…潜入捜査官でいる資格などない。
鬱屈とした憎しみと沸々と煮えたぎる激情が胸を焦がしている。
赤井秀一は嘲笑した。
「逆、という可能性はないのか」
「逆?」
「ウルフドッグは組織の一員として公安に潜入しているということだ」
「!!!……それは、でも」
酷い言いがかりだという事は赤井自身すぐ気が付いた。
己の憎悪がそのように真実をゆがめているのだと自覚してもいた。
コナンが困惑して赤井を見上げている。
こんな穴のある推理、貴方らしくもない。そう言っているかのようだ。
コナンの心配を務めて無視し、赤井秀一は吐き捨てた。
「奴の危険性は一級品だ。各国のNOCが恐れ、殺されてきた」
「………」
「それだけではない。奴の爪にかかり、善悪問わず数えきれない人間が命を落としている」
コナンは答えない。ただ真実を映す瞳でまっすぐに赤井を見ている。
「貴方は、大切な人をバーボンによって奪われたんだね」
「………、奴は生粋の殺人鬼だ。気を許すな。心を開くな。そうしたものを一切解さないのが、ウルフドッグたる所以なのだから」
コナンが部屋の隅に立てかけたターボエンジン付きスケートボードを持ち上げ、部屋を出ていこうと踵を返す。
少しだけ。ドアの前で赤井の方を振り返る。
「それでも、僕はあの人を信じたい」
その清廉な決意に、赤井は返す言葉を持たなかった。
病院にて。
道交法違反のスケボーを軽く乗り回して米花薬師野病院に来たコナン君を、私は笑顔でお迎えした。
この病院行きのバスって本数が少ないんだよね。
米花中央病院なら都営のバスがバンバン通ってるのに。格差也。
呼び出しのために顎で使ったのは皆お馴染み警視庁公安部の風見裕也刑事だ。
正確には部下でも何でもない別部署のお方だが、それはそれ。
警視である降谷零には逆らえない悲しきタテ社会の定めである。
「ごめんね、昨晩来てもらったばかりなのに呼び立てちゃって」
「ううん。このひとは?」
「風見さんだよ。僕らの……まぁ、部下みたいなものかな?」
「初めまして。君が協力者の江戸川コナン君だと降谷さんから聞いている」
一応、対外的にはコナン君のことは協力者として通してある。
その方が大っぴらに権力を使って守ることができるし、ウルフドッグの関係で万が一命を狙われたりしたときも緊急で動くことが可能だ。
番号は4869。
小学生の協力者という事で上からはかなりいろいろ言われたが、仕方ないだろギフテッドなんだから!で無理やり通した。
実際爆弾の解体や対KID戦績なんかもあったからギリギリ許可が下りたが、「勝手を通し過ぎれば我々も君を守り切れなくなる」とお小言をいただいてしまった。
降谷さんは青い顔をしていたものの、まあ切れるわけないから大丈夫っしょ。
などと楽観視している私である。フラグって言うな。
コナン君は勝手に協力者にされたことに何だか納得がいかない様子で、ふぅむと難しい顔をしている。
「協力者って……僕、そんなの同意したっけ?」
「今までだって大体そんな感じだろう。その方が君だって動きやすいし、万々歳じゃないか」
「それはそうだけどさぁ」
むすっとした様子のコナン君をベッドから手を伸ばして撫でれば、「子ども扱いすんな!」と怒られてしまった。
私がすでにコナン君=工藤新一だと把握していることはコナン君も知っているからな。
わざとガキ扱いしたと思われたようだ。
ゴホン、と風見さんが咳払いして手元の資料を読み上げる。
「風戸はうちの方で別件で引っ張っていましたが……情報が漏れていたのか、留置場で頭を撃たれて亡くなっているのが今朝発見されました」
「ジンか。ベルモットか、それともウォッカか。報復の可能性は高そうだ」
「我々がこの病院に長くいれば、公安がウルフドッグを確保したとの誤解から組織による奪還作戦で大きな被害が出かねない。そのため、我々もここに来るのは最少人数としております」
頭を撃たれて、ということはジンの犯行の可能性が高い。
普通頭は銃弾が頭蓋骨でずれてしまうことが多いから狙われることが少ないのだが、ジンはその腕前と残虐性から脳天を狙うことが非常に多いのだ。
特に「絶対殺したい相手」「任務の標的」には必ずと言っていいほど脳天の一撃を狙う。
いや、風戸医師はどっちにも当てはまらないから違うか?
別にあんな木っ端犯罪者絶対に殺したいわけでもないしなぁ。
ふむ、と私が考えている間にも風見が今後の話を続けている。
「事態が深刻化する前に手荒でも降谷さんの記憶を取り戻し、業務に復帰してもらわなければならない」
「それは……そうだけど、具体的にはどうするの?」
具体案については昨日風見さんとともに詳細を詰めた。
といっても、単に一番記憶に残っているだろう思い出を想起させる、ということだけだが。
荒療治にもほどがあるが、今回の記憶喪失は心因性でも何でもないから思い出す可能性は高かろう。
心因性だったならストレスのかかるような思い出し方はとても取れなかった。
「君には少々危険な橋を渡ってもらうことになる。……降谷さんとともに松田刑事の墓に行ってほしい」
「松田刑事の?…そうか、降谷さんの知り合いだったんだよね」
「ああ。道中で組織の人間や暗殺を狙う裏社会の者にかち合う危険性はかなり高い。だが、あの事件で松田刑事に代わり爆弾を解体して見せた君ならば、松田刑事の墓に行っても何も不自然ではない」
私単体で行った場合、「どうしてサツなんかの墓参りに行くんだ」と妙な勘繰りをされかねないからな。
コナン君が墓参りを行くのに私が同行している、となればそこそこ言い訳もたつ。
「わかった。任せて。……それと、ゼロさんは?」
「───事情は俺もまるで把握できていないが…わかった」
まだ入れ替わりに慣れていない彼を水中から素早く押し上げ、表へと浮上させる。
突然表へと打ち上げられた彼は目を白黒させながらも、内側まで響いていたコナン君の声に返事をしている。
ちなみにだが、彼が内側にいる間は武家屋敷でゆっくりくつろいでもらっている。
「なんか俺の中に日本家屋みたいなのがあるんだが…これが普通なのか?」と凄い困惑顔で聞かれたので、「仕様です」と答えておいた。
コナン君にそっと手を取られ、降谷さんはやや硬く強張ったまま微笑んだようだった。
「まるでボーン・アイデンティティさながらだな。記憶喪失のエージェントが命を狙われる…か」
「大丈夫。降谷さんならきっと思い出せるよ」
頷き、私も魂の中でそっと熱を伝える。
降谷さんは少しだけ目を閉じ、おのれを奮い立たせるようにこぶしを握る。
そして目を開けた時、既に体の強張りは解け、ただ決意と力強さのみが残っていた。
「いいさ。やってやろうじゃないか。記憶のない俺がどこまでできるかをな」
本日は仕事が忙しいため一話投稿のみになるかも