バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
プラスチック爆弾入りのテーマパークフリーパスIDを受け取ってしばらく。
私と毛利探偵、コナン君の3人は事件捜査のため、高島町3-8-5にある廃ホテルへ来ていた。
廃業から既に2年ほど経過しているらしく、豪華だった内装は崩れ、シャンデリアは無残に床へと落下していた。
さて。ここに来た段階で、私は複数の気配を感じ取っていた。
ひぃ、ふぅ、みぃ。
素人より少しマシといった程度の訓練具合。位置取りからして飛び道具あり。
私は地下室を覗くコナン君にそっと声をかけた。
「ここを張り込みしている人間がいるみたいだ。数は6人程度。おそらく武器を所持してる」
「な……どういうことだ。このビルに何かあるのか?」
「詳細は分からないけれどね。どうしようか、軽く蹴散らすかい?」
すっかり私の相棒となった伸縮式の警棒を取り出せば、コナン君がゆるゆると首を振る。
実は、過去に2度ほどこの警棒を壊してしまったことがある。
2度とも原因は私がいつもの鉤爪のつもりで建造物に振り下ろしたことによる圧力のかかり過ぎだ。
やはり伸縮部分の機構が弱いようで、最近研究者として燃えてきた阿笠博士によってどんどん改良されているものの、課題は多く残る武器である。
そのうち私の全力に耐えるものを作りそうで若干怖かったり。
阿笠博士の科学力ってちょっと理解不能なぐらい凄いからな……なんでソーラーパネルだけであそこまでスピード出せるスケボーを作れるんだ。
「いや、待ってくれ。確かこの間、この辺で怪盗KIDの予告があったんじゃなかったか?刑事さんの可能性もあるかもしれない」
「そうだね、彼らは裏の人間じゃなさそうだ。動きに共通の訓練の跡が見える。SPか、もしくは警察官、消防士の可能性が高い」
固く規格化された統一性のある動きには表の色が滲んで見える。
降谷さんの動きもそういえばよく似た系譜だ。
私は軽く彼らの様子をうかがいながら「ひとまず、早めに探索を終えて脱出しなきゃね」とコナン君へ声をかけた。
毛利探偵が無意味に警察に拘留されても可哀そうだ。
コナン君は子供という事ですぐ解放されると思われるが、毛利探偵が容疑をかけられた場合そうはいかない。
と、自分が捕まるなど思ってもいない感じに思案していると、持っていたスマートフォンが細かく震える。
電話だ。
こっちのスマホは組織の仕事に使っているやつだ。こんな時に!とつい思わざるを得ない。
しかも、よりによってジンからだ。
3コール以内に出ないと酷く機嫌を損ねるため、もう電話に出ないとまずい。
私の緊迫した表情から察しがついたのだろう。コナン君が急いで私のスマホに耳を添えようとする。
「はい、バーボンです」
「ウルフドッグ。仕事だ。今日の午後2時半にxx埠頭まで来い。詳細はそこで話す」
「承知しました。すぐ向かいます」
相変わらずの用件のみ、人の都合や予定を一切考慮しないそっけない電話だ。
これでも、私に対しての依頼は親切な方だ。
私にはこうやって事前に呼び出して詳細を説明してくれるが、相方はマジで用件のみ伝えられ現地投入、みたいなことが少なくないからな。
任務を言い訳に殺しに来ているとしか思えない対応だ。
この間も突然敵対組織に突貫させられたキールが「信じられないわ、あのクソ男」と吐き捨てていた。
仕方ないな。
今回の劇場版は途中棄権。あとはコナン君たちに任せることとしよう。
「ごめんねコナン君。急遽仕事の予定が入った。この事件、君に任せた」
「……任務?」
目線を合わせ、優しく語り掛ければコナン君は怜悧な瞳をするりと細めて問い返してきた。
彼は組織の任務、とは聞かなかった。
付けられた爆弾付きパスの機能で盗聴されている可能性を考慮してそのような言い回しになったのだろう。
「そうだよ。残念ながらね」
「俺も……というわけにはいかねーか。このIDがある限り、位置情報も取られてるみてーだし」
「おそらく音声もね。音を取らない理由が無い」
「!……やっぱりか」
やはり想定はしていたらしい。
私はこれから警察が内部を調べるであろうこの場所に、C-4入りのフリーパスIDをこれ見よがしに仕掛けた。
これで警察も事態を把握してくれればいいのだが。
軽く屈伸。
警察とかち合わないようホテル3階から鉤爪の巻き取り式フックを使って脱出する予定だ。
コナン君が私の様子を静かに見守っている。
私はコナン君の予備の探偵バッジを1個ポケットからくすね取り、ニコッと笑った。
「これ、念の為借りておくよ。毛利探偵には適当に言い訳をしておいて。僕は行ってくるから」
「おいおい、適当に言い訳って何だよ……まぁ、いいけどさ」
3Fまで内部の階段を使い、非常階段からは見えない側の割れた窓から身を乗り出して大ジャンプ。
昼間だからなるべく目立たないよう、路地裏上空を流れるようになるべく近距離で着地に移る。
某蜘蛛のヒーローのように、私は速やかにその場を後にした。
待ち合わせの場所に行けば、面白くなさそうな顔で煙草をくわえたキュラソーが倉庫にもたれ掛かって立っていた。
横にはジンの姿もある。
「遅くなりました、すみません」
「いや、時間ぴったりだ。構いやしねぇよ」
これが下っ端とかだとこの場で銃殺されるんだが、私相手にはいつだって甘いジンである。
ニヤリと悪辣に笑って私を許したようだった。ペッ、とキュラソーが唾を吐き捨てる。
ジンの露骨な贔屓に虫唾が走るのは分かるが、純粋に怖いのでやめてほしい。
今回の任務は割とシンプルだ。
横浜海洋大学に保管されたとあるデータを奪取してきてほしい、というもの。
組織にとってかなり重要なデータであるため、今日明日中の任務完了が望ましい。
また、データの奪取後は必ず痕跡を処分し元データの消去を行うこと。
よくキールやキュラソー、ベルモットなんかがやっている任務が近いだろうか。
私にはあまり馴染みが無いタイプの任務で、少々不安が残る。
気配を消すこと自体は得意なのでそこに言うことはないのだが、肝心のデータ奪取や痕跡を消す技術が若干弱い。
私はその不安を隠すようにこてりと首を傾げ、ジンへと笑いかけた。
「そんなの幹部二人付けてまでやる必要性なさそうですけど。大学なんて聴講生も含めて警備もすかすかですし」
「俺もそう思うがな。あのお方直々の命令だ。拒否権は無ェ」
「そうでしたか。ならばご命令通りに」
「いい子だ、ウルフドッグ」
あの方の命令、と来てしまえば最早私に選択肢はない。
ミスれば死ぬだけだ。ああいや、そのときは殺されないよう全力で抵抗するけれど。
私は軽くキュラソーに目配せし、大まかな流れを相談する。
「夜に侵入、その後火をつけるで問題ないでしょう。シンプルイズベストということで」
「それでいいわ。早めに終わらせましょう」
一言二言で打ち合わせは完了。
元々個人で動くことの多いキュラソーにガチガチの計画はかえって動きを阻害するだけだ。
ジンが「任せたぜ、ウルフドッグ」と言って銀髪をたなびかせながら去っていく。
まるでキュラソーのことを見ていないような風体に、やはりピキリと来たのだろう。
チッ、と盛大な舌打ちをキュラソーがしている。
だからみんな仲良くしてくれよ…。
場を和ませるよう、私は急いでキュラソーへと話しかけた。
「しかし…妙ですね。僕をデータ奪取のような諜報系任務に駆り出すとは。他の幹部が皆別の任に就いていたということでしょうか」
「そうね。アンタを大学のデータ奪取なんぞで浪費するのは、水鉄砲相手に対戦車ミサイル持ってくるようなもんよ」
よっぽど大事なデータなんだろうさ、とキュラソーが静かに呟く。
そんな大事なデータを諜報任務下手な私に任せないでほしい。
「ははは。ミサイルほどに僕が使えるかは置いておいて。あ、キュラソーはこの後どうします?もし買い出しが必要なら僕が車を出しますよ」
「いや。この程度準備するまでもない。0時に大学郊外の…ここに集合するわよ」
足になるついでに今後のコミュを取っておかねば、と思ったら軽く断られた。
ただそこまで険悪な様子ではない。
「気持ちは嬉しいが、ベルモットの愛犬を顎で使っていたと知られたら後が面倒だ。それでも食べていい子にしていな」
「!これは…」
「最近の流行りものの銘柄だ。下っ端に配るでも自分で楽しむでも好きにするといい」
違法薬物入りのキャンディの袋を放り投げられたため、慌ててキャッチ。
これは裏社会の娯楽として良く用いられるもので、売ってもいい値段になる。
私はもちろん使わないが、キュラソー的には親切心…というか他人の犬にこっそり餌をあげる感じなのだろう。
後で風見さんに預かってもらおう、と私は心に決めてブツを車の助手席のポケットへと隠した。
2人の姿が見えなくなってから、車の中で私はコナン君からくすねた探偵バッジに話しかけた。
「もしもし、コナン君?」
「──おう、オメーか!どうだった!?」
「任務の詳細を説明されただけさ。本番はまだ先。君は今どこにいる?」
「横浜海洋大学で服部と白馬って探偵と一緒に調査をしてる。たぶん数ヶ月前の現金輸送車襲撃事件が関与してるんだろうな」
「相変わらず凄いな、君は…。なら、一つ」
「ん、なんだよ」
「夜には確実に大学の外に避難すること。守れるかい?」
静かに、噛み締めるように約束させる。
これが守れない場合、彼の命が危ういからな。
「……どういうこと?」
「燃やす予定でね。他に幹部もいるから、防ごうなんて思わないように」
「…ッ死人が出るかもしれねーじゃねーか!」
怒気をはらんだ声色に、私はせせら笑った。
なるべく酷薄に、非情に聞こえるように。
「それ、僕に関係あるかい?」
「てめぇ…」
「冗談冗談。なるべく校内の人間は避難できるように手配するさ。けれど、君が首を突っ込んでも守り切れないから……そのつもりでね」
ひやりと、爪を突き付けるように脅しかける。
下手に干渉されると計画が失敗しかねないので、ここは心を鬼にしてね。
そしてそのまま返事も待たずガチャ切り。緊張した空気感のまま反論を許さないセコい手である。
このガチャ切り、コナン界によくあるがこれ結構行儀悪いよな。
タイミング的には服部平次君と…怪盗KID扮する白馬探もいるかもしれない。
コナン君もさっきの通話を2人から根掘り葉掘り聞かれるんだろうなぁ。
などとぼんやり思いながら今日は夜を待つのみである。
キュラソー「あのわんこいいなー、こっそり美味しい餌あげちゃお!」
ベルモット「私の犬に健康に悪い餌をあげたわね!?」
ジン「奴は自ら狩りをしている姿こそいいんだろうが。わかってねぇな」
ウォッカ「暖房ヨシ!着心地のいい服ヨシ!おっきな巣穴ヨシ!」