バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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銀翼の奇術師①、とちょっとした魔女

 

 降谷零にとって、もう一人の自分はもはやかけがえのない存在となっていた。

 

「降谷さん、その……解離性同一性障害の治療の方は…」

「何度も言っているが不要だ。今のままで支障が無い以上、下手にバランスを崩したくない」

 

 公安の定期報告の日。

 降谷はいつも通りのカフェへと集合し、風見とは別々の客として入店していた。

 背を向け合うように別のテーブルへと座り、通話に見せかけてお互い手短に話す。

 念には念を入れた会合だ。

 

 そこでもう3度目になる解離性同一性障害の治療の提言に降谷はぴしゃりとそっけなく前回と同じ断りの文言を唱えた。

 

 納得いかないような顔で風見が黙り込む。

 彼が己のことを心配して治療を提言していることは降谷とて分かっている。

 

 しかし、それがもう一人の自分の消失という結果を招いてしまうのならば…全力で拒否しなければならない。

 

 何故なら、もう一人の自分──安室は、降谷にとって既にかけがえのない友であり血の繋がった兄弟にも等しいものとなっていたからだ。

 同じ一つの家に住み、食事を共にし、家事を分担しあい、協力して任務に当たり、笑いあって時には悲しみを分かち合う。

 

 この2年間。

 降谷は本当に楽しかった。

 愉快な同居人と警察学校時代さながらの馬鹿をやったり、仕事を押し付け合ったり。

 

 犯罪の片棒を担いだことに苦い思いを抱かなかったとは言わない。

 人を惨殺する安室の姿に思うことが無かったと言えば嘘になる。

 それでも人は慣れる生き物で、気が付けばあれほどに疎んでいた加害も殺人も正義を成すための手段の一つと化していた。

 

 凍れる心でそれでも折れずに堕ちずに済んだのは、安室がいつも寄り添っていてくれたからだ。

 

 悔しさに涙した日、言葉無く暖かな心の海で包んでくれたことも。

 助けられなかった命に絶望した日、隣に座って優しい朝焼けを空に具現化してくれたことも。

 降谷は生涯忘れないだろう。

 

 解離性同一性障害が健康な状態であるはずが無いなんて、降谷が一番よく分かっている。

 けれど、友を奪うものを降谷はもう二度と近づけさせはしない。

 そう決意していた。

 

 イラついた降谷の様子を感じ取ったのか、風見が怯えるように目線をそらす。

 どうやら熱くなりすぎてしまったようだ。

 降谷も風見が憎いわけではないのだ。息を吐いて、ゆるゆると熱を逃していく。

 

───僕が降谷さんと人格統合されたらどうなるんでしょうね。フュージョンして一定時間戦闘力が10倍になるとかでしょうか

───何を言っているのかわからないが、ひとまず戦闘力は関係ないことは分かる

 

 ひょい、と心の水面から顔を出した安室が興味深そうに独り言をつぶやいている。

 まるで人格統合されてもかまわないかのような発言に、降谷は少々むすっとした。

 

「わ、わかりました。降谷さんがいいなら、それで」

「その他連絡事項がなければ今日は解散とする。ご苦労だったな、風見」

「いえ。降谷さんもお気をつけて」

 

 去っていく風見の後姿をみながらぼんやりとコーヒーを啜る。

 安室が「このコーヒー、結構いい味してますね。ミルの具合でしょうか」と唸ったので、「俺の挽いたやつの方が美味い」と答えておいた。

 

 

 

 

 

 探偵事務所に顔を出せば、ちょうど依頼人が来て話をしているところだった。

 

 依頼人は舞台女優の牧樹里。

 KIDからの予告状を受け取ったとのことで毛利探偵事務所を訪ねてきたそうだ。

 狙いは舞台衣装で使う運命の宝石、スターサファイアとのこと。

 

 蘭さんに代わり笑顔でお茶出しすれば、いかにもイケメンに目が無さそうな依頼人が「あら、いい男じゃない!」と言って上機嫌で紅茶を受け取った。

 そして乱雑にマネージャーからチケットをひったくり、降谷へと笑顔で渡してくる。

 

 嫌いなタイプの女だ、と降谷は思った。

 恨みも各方面から買っていそうで、いつかどこかで殺害されそうな気配がある。

 だからと言って殺人を防ぐ義務もないし、どうすることも無いが。

 

 KIDの暗号の方は毛利探偵がひとまず答えらしきものを出したので、降谷はそれに従って動くことに決めた。

 怪盗KIDのこれまでの傾向的にまず誤答だろうが、口を出すほどのことでもない。

 

 なにせ、依頼人の持っているスターサファイアは偽物なのだから。

 

 ルパン三世に片手間に教え込まれた宝石真贋鑑定技術だが、そこまで詳しくない降谷でもわかる粗悪な偽物だ。

 真贋鑑定は安室の方が才能があるらしく、降谷は「なんでこんなカワイ子ちゃんが分かんねーかなぁ?これ!この愛嬌!おわかり?」とルパンに煽られまくったのを今でも根に持っている。

 

───あんな宝石をKIDはどうして欲しているんだろうな。わざわざ盗んで返還する意味も解らない

───たぶん目的の宝石があるんでしょうね。でも盗んで直接見ないと分からないから、わざわざ盗みだしている

───なんだそれ。そんな奇妙な宝石あるわけ……あるな……

 

 ちょっともごもごした言い方になってしまった。

 実際、ルパン三世がらみで意味の分からない宝石は山ほど見ている。ファンタジーというかSFというか。

 なんだヴェスパニア鉱石って。

 電子機器を無効化する宝石って正直意味が分からない。

 

 

 

 毛利探偵達を乗せたレンタカーを運転して劇場に足を運べば、そこには既にキャストが勢ぞろいしていた。

 

 キャスト用のメイクアップ室だ。

 会場の警備を行っている捜査二課の中森警部に顔を引っ張られつつ、助っ人として呼ばれたらしい工藤新一君へとあいさつする。

 

 江戸川コナンの正体は工藤新一なので、あれがKIDなのだろう。

 

 するり、と表に出ようとする安室に反応して、降谷も素早く中に潜る。

 この辺の息の合わせ方はシンクロナイズドスイミングに似ている気がする。

 

 表人格となった安室がにっこりと降谷には無いほがらかさで笑い、怪盗KIDに近付いていく。

 

「やあ、工藤君」

「あなたは……」

「嫌だなぁ、忘れちゃったのかな。火事の時会ったじゃないか。僕だよ、安室透」

「…!!!」

 

 火事の時、とは先日横須賀の城でスコーピオンこと浦思青蘭が火を放った件のことだ。

 その際に白鳥警部扮する怪盗KIDと出会っているので、これはつまり「お前は怪盗KIDだな」という確信に満ちた指摘に等しい。

 

 蘭さんが僅かに首をかしげて怪盗KIDへと問いかける。

 

「新一、安室さんと知り合いなの?」

「ああいや。探偵としての付き合いでな。久々だったんで忘れてたんだ」

「僕も高名な高校生探偵と繋がることができて光栄だよ」

「ははは」

 

 勝手に己の顔を使っている怪盗が困り切っている様子に、にやぁ、とコナン君が悪い笑みを浮かべている。

 彼は彼で悪童のような面のある子供である。

 

 と、そこで水面に反射する声を聞いた。

 

───窓の外に人の気配あり、追います

───待て、ここは地上4階だぞ。鳩や高所清掃の人間じゃないのか?

───僕らに敵意を持っているようなので、まぁ。普通の人間じゃなさそうです。

 

「ちょっと失礼。気になることがあるので、劇場内をちょっと探索させてください」

 

 一言言い置いて素早くメイク室を出る。

 困惑して「え、安室さん?」とコナン君が後を追おうとしたが、どうやら蘭さんに制止された様子。

 子供の身体だと自由が利かないのが少し哀れだ。

 

 廊下の角を数度曲がる。

 安室へと体を明け渡し、ひとけのない通路の奥側、まだ使われていないホールをゆっくりと歩く。

 

 そして途中で立ち止まり。

 安室は後ろを振り返らないままゆっくりと問いかけた。

 

「君は、誰かな」

「来たわね。高次よりこぼれ落ちたるもの!」

「………うん???」

 

 振り返ったその先にいたのは、トンチキエジプト魔女風の恰好をした若い女子であった。

 

 おしゃれ水着並みに露出度の高い黒服に、今日び漫画でもなかなか見ない黒のマント。

 黒い長髪に金のコブラの飾りをつけている。

 古めかしい竹箒に腰掛け、魔法陣とともにちょっぴり浮いている姿は魔法使いさながらだ。

 

 なんだこれドッキリの企画とかなのか?

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして安室が彼女の言葉を聞きなおす。

 

「えーっと、なんだって?」

「この世界に何の用なの。場合によっては、あなたを追放しなければならないわ」

「う、うーん」

 

 高次よりこぼれ落ちたるものって本当に何だ。

 ひとまず相棒にも聞いてみることとする。

 

───どういうことだ。何か心当たりでもあるか?

───いや、正直僕もわからない。僕はクトゥルフ神格だった……?本気で魔法じゃないでしょうかこれ。だって浮いてますし

───魔法なわけ……あるな。超能力もあったし……

 

 というかクトゥルフって、たしかそういうSF小説があったような無かったような。

 海外小説はあいにく履修範囲外なので、降谷はしばらく記憶を漁ってうんうん唸った。

 

 その代わりに安室の方が会話を引き継ぐ。

 

「僕の目的は、えーと。主人格の助けになること。ひいてはとある組織を壊滅させること。───俺の目的も組織壊滅だな」

「…嘘では、ないようね」

「魔女に嘘はつかないさ」

 

 ファンタジーなアレソレで見破ってくる可能性が否定できないと降谷は知っている。

 主にルパン関係で色々あったので。世界って広い。

 

 安室は歌うように、決意するように唐突に現れた魔女へと歌い上げた。

 

「僕自身に大それた願いがあるわけじゃない。ただ望まれたように力になり、望まれたように振る舞うのみだ」

「……そう。貴方はランプの魔神なのね」

「そこまで万能とはいかないけどね」

 

 それは。

 降谷にとって聞きなれたフレーズで。

 貴方が望むまでずっとそばにいますよ、なんて。重く深い罪悪感にも似た感情を呼び起こす無垢なるあり方だった。

 

 安室の発言に納得したのか、魔女はあきらめたように頷いたようだった。

 くるくると魔法陣が回っている。

 

「いいわ。白い正義と、ランプの魔人さん。貴方たちがこの世に危害を及ぼさないのなら、私は貴方たちの行いを見逃しましょう」

 

 次の瞬間。しゅぼん、と。

 降谷たちが何かを言う前に魔法陣の中に吸い込まれ、魔女は消えてしまっていた。

 後には何の変哲もない劇場の床だけがあり。

 

 

 マジで何だったんだ、と降谷は背後に宇宙を背負った。

 




バボ「もしかして私が転生者だって事見抜いてる?魔女すげー!」
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