バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
突然すぎる魔女の襲撃を乗り越えてしばらく。
私は先ほどの魔女について考えていた。
あの魔女の名前は小泉紅子。
まじっく快斗の登場人物で、赤魔術なる謎ファンタジーの正統後継者とされている。
どうやら口ぶりから察するに魔術によって私の退散──元の現実世界に返すとかだろうか──ができるようだ。
転移やら魅了やら予言やら、割と何でもありの魔女様だ。
転生者たる私を肉体から剥がす程度簡単にできるのだろう。
もし降谷さんが私を必要としなくなったら、彼女の力を借りて元の世界に帰るのもいいかもしれない。
そんな事を考えつつ、そろそろ劇の開演時間となる。
私はコナン君の左隣の席につき、幕が上がる時を待った。
コナン君はといえば怪盗KIDにご執心なようで、望遠機能付きの赤外線カメラという超ハイスペックメガネで工藤新一を監視している。
開演した劇は中々に見応えのあるものだった。
ナポレオンを中心にした歴史ドラマに、細かい小道具、演者たちの迫真の演技。
今回殺されることになる女優・牧樹里も性格こそ悪いがプロ中のプロ。
他とは一線を画す演技力でこちらを引き込ませてくる。
たぶん演劇に才能を振りすぎて性格がカスになってしまったタイプの悲しきモンスターなのだろう。
実は私、観劇は転生して初になる。
降谷さんとあーでもないこーでもないと歓声を上げながら、割と夢中になって劇に見入る。
スパイが必要とする現実の演技とは少々異なるが、それでも学ぶべきポイント…取り込むべき「それらしさ」の表現技法は沢山ある。
降谷さんもメモをとりながらあれは良かった等コメントを交えつつ真剣に演劇を見ていた。
観劇中はお静かに。
けれど深層心理でのみ会話を交わす私達に騒音はなく、ただ優しい団欒だけが心の底に広がっている。
と、その時。
コナン君が怪盗KIDを追って立ち上がり、脱兎の如く走り出した。
目配せされたので急いで一緒に出口へ。
目だけで呼び立てるのは止めてほしいが、緊急事態とあらば仕方なく。
名残惜しいが一時退席するしかない。
「糞、小賢しいコソ泥め」と行儀悪く降谷さんが吐き捨てた。
後日別の観劇を一緒に行く事を降谷さんと約束して、私はKIDを追い劇場の屋上へとひと足先に急ぐこととする。
途中で遠回りしそうになっていたコナン君をキャッチ。
うわわ!と声を上げた彼を背負い、全力ダッシュ。
警備員に変装していたKIDの後ろ姿は、屋上にたどり着いた時点で完璧に捉えることができた。
彼は私の姿を見て厳しく表情を歪めた。
「名探偵、付き合いを考え直した方が良いんじゃねーの?ソイツ、有名な殺人鬼なんだろ」
「お前に言われたくねーよ、怪盗KID」
「これは親切心で言ってるんだぜ。3年前、イタリアの違法研究施設にいた人員80名を残酷に切り裂いてみせたウルフドッグ…裏社会が恐れる快楽殺人鬼」
「!」
3年前、組織から「殲滅しろ」と命令のあった敵対組織の研究施設を襲撃した件のことだ。
そこで作られた『次世代の覚醒剤』を標語に作られた新型の薬剤は、依存性が極めて高く、一度でも吸えばほぼ抜け出すことが不可能になるという。
殲滅理由はよく聞いていないが、おそらくマーケットが被って争いになったとかその辺だろう。
世界各国への輸出を計画していたようだから、研究者は可哀そうだが私も後腐れ無く殲滅することができた。
コナン君はKIDの話を聞き、静かに瞳を伏せた。
「……それが本当だったとして、今俺がやることは変わらねぇ。観念するんだな、KID」
「ちぇっ、名探偵の石頭め」
ばっ、と唐突にKIDが屋上の手すりを飛び越えた。
素早く展開されるは純白のハンググライダー。
「安室さん!!」
コナン君が私の背中に飛び乗った。
ラジャです名探偵。
しっかり私の首を掴んだのを確認し、私もダッシュと同時に手すりを飛び越える。
高層ビルの立ち並ぶ夜の都会へ、身を躍らせて落ちてゆく。
風を切る音、切り裂くような大気の感触。
私は阿笠博士が作ったバングル型の無骨な装置から巻取り式のフックを射出し、向かいのビルへと引っ掛けた。
重力。
素晴らしいスピードで身体が宙を泳ぐ。
コナン君が背中でうめいている。きちんと安全ベルトはつけたみたいだから落ちる心配はないけれど。
前を飛ぶKIDが「おいおいおい」と引いたようなトーンで文句を言った。
これは阿笠博士の発明品、全方位移動できる君Ver.2だ。
あるいは腕につけるタイプの立体機動装置というか。
鉄爪から巻取り式フックの機能だけを抜いてバングル型にしたものだが、組織が作ったそれよりも使いやすさ頑丈さ巻取りスピード全てが飛躍的にアップしている。
さすがMI6もびっくりの天才発明家だ。
都会でないと使えないのが真面目に欠点だが、ビル圏内ならほぼどこへでも移動できる優れもの。
立体移動バングルを利用してKIDを追えば、KIDも負けじと風に乗って自由に空を舞える利点を存分に生かした逃走を始める。
「ここは日本だぜ?マーベルヒーローが現れるのはニューヨークとかその辺じゃねーのか?」
「あいにく、僕はヴィランでね。どこにだって出没するのさ」
揺れる背中から麻酔銃で狙うコナン君をKIDは気づいたらしく、回避行動を取る。
ギリギリ外れた麻酔針がKIDの帽子のつばに当たった。
もう私の背中に乗ることに慣れたらしい。
コナン君はコナン君で大概バケモノである。
単発の麻酔銃を外し、鋭く舌打ちしたコナン君が叫ぶ。
「安室さん!」
「はいはい、仰せのままに」
一旦遠心力に身を任せて思いっきりジャンプ。高度を上げて動くための時間を稼ぐ。
腰のところにぶら下げてあったよく研いだ阿笠博士製のブーメランを構えて、白いハンググライダーへと狙いを定める。
そして心象世界内で降谷さんと頷き合い、息を合わせて同時に水面へと体を出した。
これは私たちの新奥義。
前に誤って2人同時に表へ出てしまった時の経験を活かし、新たに開発した体の使い方だ。
降谷さんがその飛び道具の才能を活かしてブーメランの狙いを定め、私がリミッター解除役として力を加える。
一時的に2人同時に表へ出た、良いとこどりの一撃だ。
ちなみに、練習段階ではふざけ合って「行くぞ安室!ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」「了解しましたゼロ!」とかって遊んでいた。
まるで暇な大人達の遊びというやつだ。
「落ちるなよ、怪盗KID!」
鋭い刃のようなブーメランを思いっきりハンググライダーへと投げつける。
それは埒外の膂力によって大気を切り裂き、ハンググライダーの白い布の一部に大穴を開けた。
「ちょっ、嘘だろオイ、あわわわわわ!!」
なんてコミカルな声を上げつつ、驚くべき腕前でKIDは再度バランスを立て直した。
穴が空いて大気の流れもめちゃくちゃだろうに、若くして素晴らしい技術である。
戻ってきたブーメランを軽く掴み、腰へと戻す。
これ以上攻撃を加えれば、急速に落下し過ぎてしまうからだ。
流石の私もKIDを殺すつもりはない。
ビル風に煽られて多少フラフラ失墜しながらも、KIDは何もない開けた海辺に向けて逃げていく。
海に逃げられては、高層ビルにフックを引っ掛けて移動する私に追う術はない。
「コナン君、一時撤退だ。流石にこれ以上は難しいだろう」
「ちっ……引くしかねぇか」
悔しそうなコナン君を抱え直し、私は帰りやすそうな地下鉄入り口近くの人通りの少ない道へと着地した。
帰りは2人で地下鉄である。
「夜の大都会を飛び回るのはやっぱり爽快だな」なんて満足げな降谷さんに同意しながら、私たちはゆっくりと帰路に就いた。