バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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銀翼の奇術師③

 

 怪盗KIDの逃走から一夜明けて。

 無事宝石を守りきった事を祝して函館で打ち上げパーティが行われることになった。

 

 函館行きの便、ファーストクラスに乗り込みながら、私は「この飛行機落ちるんだよね…」みたいな不思議な感慨に囚われていた。

 スカイジャパン航空865便。

 恐らくはこの世界において日本有数の航空事故報告となるであろう、大災害。

 

 席の近い妃さんと世間話をしながら、私はまったり席に深く腰を下ろした。

 

 妃さんは「料理の腕には自信があるんだけど夫や娘が食べてくれない」と私にそっと悩みを打ち明けた。

 無難に「毛利探偵がどうかはわかりませんが、蘭さんは蘭さんで料理をする身。もしかしたら自分の自慢の料理を母親に食べてもらいたいのかもしれませんよ」と答えておいた。

 

 ものすごい料理下手だもんな、妃さん。

 自分が料理して惨状を回避できるならその方が蘭ちゃんも喜ぶだろう。

 

 こっそり苦笑いしていると、降谷さんがなんだか満足げに頷いている。

 

───やはり既婚者はいいな。俺に粉をかけてくる気がない

───……意味は分かりますがかなり際どい発言になってますよ

───なっ……揶揄うなよ!

 

 顔を真っ赤にした降谷さんがごすっ、と割と強い拳を腹にめり込ませる。

 理不尽。

 人妻が初恋の人だった事実は変わらないだろうに。

 

 リラックスモードの私に対し、コナン君は乗客の一挙手一投足に気を張っている。

 どうやらこの機内でKIDが宝石を狙っていると思っているらしい。

 

 親切心か、降谷さんがするりと表へ出てコナン君に話しかける。

 

「コナン君、そう気を張らなくていいよ」

「……え?」

「あの宝石、偽物だからね」

 

 あんな風に超高級アクセサリーを日常使いしておいて、着用者の牧樹里はちっとも誇らしそうではないのだ。

 これ見よがしにつけてはいるが、そこに優越感が無い。

 

 牧樹里の高慢な性格からすれば、偽物だということしか考えられないのだ。

 

「ならKIDは…」

「普通に乗客に徹するんじゃないか?この大型旅客機の客数に紛れこまれたら見つけ出すのは不可能に近いと思うよ」

「ちっ……まぁいいか」

 

 KIDが出てくることはないと知って、急にブスッと不機嫌になる名探偵君である。

 ルパン三世と銭形警部のように、彼は彼で怪盗KIDと不思議な絆で結ばれているのだろう。

 

 

 さて。そろそろ牧樹里が死ぬ頃合いになってきた。

 目の前でマネージャーからチョコが差し出され、それを食べる牧樹里の姿が確認できる。

 

 私はそれを黙して見送った。

 犯行を知っている理由を説明できない。それだけのために人一人を見捨てる蛮行。

 まぁ、今更の話に違いない。

 

 青酸中毒に苦しみもがく、被害者の壮絶な苦痛。

 見開かれた目、喉を掻きむしる爪、泡をふく口、苦悶の表情。

 

 現実世界では青酸カリは症状が出始めるまでに数分かかるものだ。

 しかしこの世界においては即効性も即効性。

 また、青酸カリは味としても激烈な刺激があるものだが、その辺もオミットされている。

 まさに世の犯人達のために生み出されたと言っても過言ではないスーパー毒物なのだ。

 

 私は切り裂いた方が早いので使わないが、一部組織幹部も持ち歩いていたはずだ。

 口に含んで10秒足らずで死亡するの、本気で暗殺向き過ぎる。

 

 降谷さんが動揺する周囲をジロリと見渡して、静かに心象心理内で呟いた。

 

───毒物が付着していたのはチョコレートではなく指か。

───でしょうね。彼女はトイレに立っていたし、他の乗客の椅子側面にも触っていた可能性があります

───安全のため、飲み食いはなるべく控えてもらった方がいいな

───ええ

 

 などと会話している間に、コナン君がさらっと犯人特定に成功したようだ。

 毛利探偵を麻酔銃で狙っていたので、ちょいちょいと肩を叩く。

 

「んだよ」

「たまには僕がスピーカー役やろうか?」

「スピーカーってな……何があるかわからねぇし、ありがたいけど。いいのか?」

「問題無いよ。僕も毛利先生の弟子としてたまには実績作っとかないといけないし」

「ハハ…大変なこった」

 

 蝶ネクタイ型変声機を操作し、降谷零の声が出るように操作したようだ。

 私も一つ頷いて立ち上がる。

 

 この辺は次に何をコナン君が言うのか想像が及びやすい降谷さんの担当だ。

 降谷さんがパクパクと口を合わせるのを見ながら、私はこっそり思いに耽る。

 

 犯人はヘアメイク担当の酒井なつき。

 

 毒を混ぜたファンデーションを塗ることで、犯行を成立させたとのこと。

 動機はハリウッドで仕事をする未来を潰された恨みだ。

 

 なお、毛利探偵には「むむむむむ…安室、小生意気になりやがって…!」と歯軋りされてしまった。

 そこに妃さんが「あら。貴方よりよっぽど名探偵じゃない。もしかして貴方、名探偵の名前を弟子から横取りしてるんじゃないわよね?」などと火に油を投下。

 蘭さんが仲裁しても聞く耳持たずな夫婦喧嘩を勃発させた。

 

 私達を挟んで喧嘩しないでくれ…。

 降谷さんが心象世界内で耳を押さえてくしゃくしゃな顔をしておられる……。

 

 

 なにはともあれ。

 原作通りだと、この後機長さん達が苦しんでいるのを発見することになるはず。

 

 私は推理を終えて一段落しているコナン君に声をかけた。

 

「なぁ、コナン君。機長さん、大丈夫かな」

「?機長さんがどう───ッ!!!まずい!」

 

 たった一言でコナン君は次に何が起きるのか想像できたようだ。

 ダッシュでキャビンアテンダントさんに駆け寄り、その旨を叫んでいる。

 キャビンアテンダントさんの顔色がにわかに変わる。

 航空機が空にいるのに青酸中毒で操縦士2人とも中毒死、なんて洒落にならないからな。

 

 コックピットに入れば、原作よりわずかに早かったのかまだ機長さん達に意識はある状態だった。

 気分悪そうに土気色の顔をしているが、話すことぐらいはできるようだ。

 

「だが…今我々が抜けてしまえば本機は…」

「そんなこと言ってる場合じゃありません!早くお医者様に見てもらわないと!」

「オートパイロットがあるから多少は大丈夫ですよ。僕もセスナの運転資格を持ってますし」

 

 舞台俳優、新庄功さんが代打での運転役を名乗り出る。

 彼の正体は怪盗KIDだが、それは言わぬが花だろう。

 

 私も挙手し、「僕もセスナなら10度は実際に運転経験があります。副操縦席の役ぐらいはできるはずです」と名乗りをあげた。

 自分の命は自分で守る。是即ち組織の鉄則である。

 

「し、しかし……この旅客機に問題が起きれば、当機に乗る大勢の乗客の命が…う、ぇ…ぁ、」

「機長!お客様の中に医療従事者がいらっしゃいましたのでお呼びしました!こちらへ!空いた席に膝掛けを敷きましたので、横になって!」

「くっ……!」

 

 いよいよ立ち上がることすらできなくなってきたのだろう。

 苦しそうに浅い呼吸を繰り返し、乗客の一人に肩を貸してもらってよろよろとコックピット外へ向かう。

 

 その際、クロスフィードバルブ───各エンジンごとに燃料を区切るための栓だ───が外れてしまっていたのをさりげなく直す。

 

「待て、いまクロスフィードバルブが……いや、君が直してくれたのか。ありがとう」

「いえ、この程度なら。それより早く医者の方に。青酸中毒は命に関わります」

「本当にすま、ない…ぅ」

 

 機長さんに感謝されつつ、これで燃料切れの心配はなくなったと一安心する。

 

 あとは着陸だ。

 

 すでに機長さんがあらかたの準備は終えている。

 私たちはただ座っているだけ。

 異常があれば機内通信を使って機長さんに連絡する手筈となっている。

 

 もっとも、どこまで機長さん達の意識があるかは定かではないが。

 

 舞台俳優達もCAさんも出ていき、ただ無言だけがコックピット内を支配する。

 私は暇つぶしがてら怪盗KIDに話しかけた。

 

「そういえば昨日、魔女の格好をした高校生ぐらいの女の子にあってね」

 

 KIDがブッと吹き出した。

 心当たりがありすぎたらしい。

 

「へ、へー。それがどうしたんだ」

「君の知り合いかい、怪盗KID?なんか箒に乗って浮いてるし、魔法陣出てるし、かなり怪しい見た目だったけど」

「……ナンノコトデスカネ」

 

 カタコトで否認する彼には、月下の怪盗に到底相応しくない汗だくな焦りが見えていた。

 そりゃ困るよねあんなん…ガチのマジに魔法だし。

 

「まあ、今はいいか。流石にファンタジー相手に突貫する勇気は僕にはない。ひとまず目の前の旅客機をなんとかしないとね」

「……そうだな。だが、オーパイも生きてる。機長さん達もなんとか無事だ。これ以上は俺らが気を張らなくても大丈夫だろう?」

「いや。確か今日の函館は雷雨で、風も強い。着陸できなければ長期戦になる」

 

 原作通り機体に雷が落ちるとは限らないが、心配はしておいた方がいいだろう。

 

「ところでさ。セスナの運転経験があるって言ってたけど、本当なのかよウルフドッグ」

「勿論本当だとも。流石に大型旅客機の運転経験はないけどね。君の方は?」

「運転訓練がせいぜいだ。本当に飛ばしたことはねーよ」

「はは。代わるかい、操縦席」

「冗談。乗客の命がかかってんだ。何に使うかわかったもんじゃないオメーには任せられねーよ」

「信用ないなぁ」

 

 まあ、私も乗客216名の命なんて背負いたくないのでありがたく乗っからせてもらうのだが。

 

 さて、管制室の指示に従って順調に函館空港に向かって行けば、夜の空港が雲の切れ間より確認できた。

 ちょうど真正面、着陸予定の滑走路が見える。

 

───まかせたぞ、安室

───勿論。嫌な予感は、拭いきれませんが

───止めてくれ、お前の勘は馬鹿にできないんだ

 

 瞬間。

 神の定める予定通りに、神が賜る運命通りに、大きな雷が機体を貫いた。

 

 「フラグ回収早すぎないか?」と呆然とした声が深層心理に響く。

 別にこんなコントみたいなフラグ回収狙ってないんだが。

 

「っ、まずい!オーパイが復活しない!」

『着陸中止だ!……865便!機体が右に流れている!』

 

 強風で右に流れた機体が管制塔のすぐそばを掠めるように通り過ぎ、エンジンが一基脱落。

 まるで予定調和だ。

 ここまで強い原作強制力は未だかつて見たことがない。

 

 天候に似た感じで、あるにはあるんだけどな。

 萩原研二が死んだ時のように……時折強い原作強制力が吹き荒れて、吸い込まれるように原作通りになることが。

 

 しかしながらクロスフィードバルブはしまったまま。

 脱落したエンジン分の燃料は落ちてしまったが、まだまだ燃料は残っている。

 

 無線も調子が悪いが、まだオーパイが回復するまで上空で数時間待機する程度のことはできる。

 

「まったく、お互い嫌になるね。こんな事件に巻き込まれて」

「あんたも自分の命は惜しいんだな」

「そりゃそうだよ。他人を殺す理由は、自分の命が惜しいからだ」

「……はっ、そうかよ」

 

 私の殺人理由は簡単だ。

 降谷さんの命が失われないよう、この身とこの魂を護る。

 ただそれだけの人でなしなのだから。

 

 実のところ。

 低高度になった瞬間アンカーを出すことで落下の途中で勢いを殺して私だけ助かる、というのは可能だ。

 だが、乗客全員を見捨てるのは流石の私も良心が咎める。

 なにより降谷さんがそれを許しはしないだろう。

 

 沈黙がコックピット内を支配する。

 オーパイも消え、無線も聞こえない余人には絶望としか言えない状況の中。

 

 終始厳しい顔をした怪盗KIDとの会話は、それが今回の最後であった。

 

 火災が鎮火した3時間後。

 無事復活したオーパイによる着陸が成るまで、私たちは沈黙の中函館空港上空を旋回し続けたのだった。

 




次からの2~3話は少し趣向を変えて、ルパン三世のアニメスペシャル沿いの予定です。
番外編なり。
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