バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
某日水曜日、天候は晴れ。
スコッチとはあれからあまり会っていない。
あまり接触するとNOCとしての情報が流出した際共倒れになりかねない、というのもあるし降谷零の皮をかぶった私のことが不審だったのもあるだろう。
キャラ作ってるのは潜入捜査官としてのたしなみだから当然として、違和感は根本に及ぶ。
僅かな所作、表情の作り方、ちょっとした癖。
そう言ったミクロの単位の違和感がスコッチの不信を招いているのだとしたら、私にはもはやどうしようもない。
それに加え仕事でもお互いにスポッターの役目を果たすライ&スコッチがいるから、お互い以外が必要になりにくいと来るのだからもうお手上げである。
精々幹部の集まる会議でちらりと顔を合わせるぐらいでは、不審感の払拭には到底足りない。
側付きを使わず単独で動くことが多いアクアビットやスタウトは別として、私は色々な幹部に関わる結構多忙な立場でもある。
最近だとキュラソーの潜入用具とかの準備に関わったかな。
ちょっぴり口が悪いキュラソーの透明な瞳に見詰められ「フン。悪くないね」とツンデレ風味に褒められたので少しびっくりしてしまった思い出よ。
流石、記憶が無くなってからのキャラと全然違うことに定評のあるキュラソーである。
そういえば、この人も近接戦強いマンなので幾度か手合わせをしたことがある。
酷いけがをさせないように手加減を頑張らなきゃならない身体能力お化けの私にはなかなかやりづらい相手ではあったが、無事勝利を収めることができたのは誇るべきポイントの一つだ。
前、一回手合わせの最中アイリッシュに蹴りをクリーンヒットさせてしまって骨をクッキーみたいにボキボキに折ってしまった事件もあったのでね。
体勢が崩れた状態だったのでずいぶん威力は減衰していたはずなのだが、一般的な玄関扉ぐらい鉤爪で楽に引き裂ける筋力お化けにはかなわなかった模様。
無論アイリッシュ本人と後見人のピスコには謝り倒した。
包帯ぐるぐる巻きの状態でため息をつくアイリッシュに土下座マシーンと化していたら、「気にすんな、受けきれなかった俺が未熟ってだけの話だ」とニヒルにほほ笑まれたものだ。
ピスコにも「私の派閥に来ないか」と誘われたあたりまあまあ気に入ってもらえている自信はあるが、骨折はやりすぎだよね。
さて。
今日は風見さんとの定期連絡の日だ。
今回の会合場所は車の中。
車は走る密室といって差し支えない密談の定番スペースなので、事前に盗聴器等の除去さえ済んでしまえば取り回しもしやすい最高の環境となる。
待ち合わせの場所で風見さんを拾い、助手席へと乗せてRX-7をゆったりと発進させる。
私は肉体操作が苦手な分、運転下手なのでスピードゆっくりの安全運転を心がけている。
穏やかに流れていく景色を見ながら、私は慎重に口を開いた。
「公安において僕の扱いはどうなりましたか」
「……おおむね、静観の意見が強いと聞いています」
まだ緊張の残るこわばった顔の風見さんが私の顔色を確認している。
予想通りの回答に私は内心ほっと一息をついた。
潜入捜査官という替えの利かない立場の人間ならば、多少の精神障害があったとして引かせることはないだろうとは予想していた。
なにせ私の潜入先は各国の捜査官が次々命を落とす魔境、黒の組織だ。
私が潜入するまでにかかった費用も人員もばかにならないだけでなく今後ここまでのし上がってこれる保証もないとくれば、まぁ多少の問題は見て見ぬふりをすることだろう。
私のせいで降谷さんが潜入捜査失敗ともなれば本気で合わせる顔が無いからな。
良かった良かった。
一つ目の悩みが解決したところで、私は多少の咳払いとともに次の話題に移ろうとちらりと隣の席へ目を向けた。
相変わらず風見さんは硬い表情で前を向いているばかりだ。
「組織で先日、スコッチ……諸伏景光に会いました」
「っ!…彼に、会ったのですか」
オウム返しに繰り返す風見さんの意図するところはよくわからない。
どうも風見さんから警戒されている気がする。何か聞きたいことでもあるのだろうか。
まぁ、上司の肉体を乗っ取った別人を警戒する気持ちは分からんでもないが…もう少し言葉に出してくれるとありがたい。
ん?犯罪者である安室透をベースに生まれた人格なんて信じるに値しない?
図星をつくのは止めてもらおうか!
「そこでなのですが。彼に僕の現状について風見さんの方から共有をしていただけませんか?」
「……なぜでしょうか」
「組織で直接話すのは危険が伴う。加えて、幼馴染としての直感か…彼は今僕の状態に対して間違いなく疑念を抱いているものでして」
スコッチとのわだかまりの解消は最優先事項だ。
多少の不信感ぐらいならいいのだが、このまま放置すれば疑念が任務に支障をきたしかねない。
スコッチのNOCバレで切羽詰まった場面で「お前は誰だ」なんて問いかけられた日には目も当てられない。
「致命的なことが起きる前に、公式に僕の多重人格性を彼に正しく伝えてほしいんです」
「わかりました」
僅かの沈黙ののち、風見さんは頷き返した。
そしておずおずと不安げに私の方を見て──瞬きが多い。緊張しているのだろうか。
「ふ、降谷さんの方はどうでしょうか」
「相変わらず眠ったままです。どうやら時折ぼんやりと目を開くことがあるのはわかったのですが、意識の覚醒には至らず」
「それは、一時的に意識が回復したという事ですか!?」
「いえ」
任務中、深層心理の内側でぽやっと寝ぼけ眼で目を開けていた降谷さんに気が付いたときはさすがの私も仰天したものだ。
慌てて声をかけたのだが反応なく、またそのまま眠ってしまったのだが……。
それでも、目を開けたというのはこの2年間で一番の進展だ。
首を振った私に「そう、ですか」と風見さんは萎れたように俯いた。良い報告が出来なくてすまない。
「ですが目を開けていたという事は目覚めも近いのかもしれません」
「そうだと、いいのですが」
「僕も引き続き降谷零の人格へ呼びかけを続けてみます。また何か変化があったら報告しますので」
「頼みました、ふる……安室、さん」
たどたどしく私の名を呼び、風見さんは沈黙した。
交差点を右に曲がり、海沿いの道へ出る。風を切って進むRX-7は軽快だが、車内の空気は固く停滞したままだ。
「もし降谷さんが目覚めたら、あなたはどうなるのですか?」
長い沈黙の後、とつとつと風見さんが口を開いた。
視線は合わない。私も運転に集中しているため、彼の方を向く余裕はない。
「……さあ」
降谷零ご本人が目覚めたとして、私がどうなるって言われても。単純に多重人格になりそうな気もする。
それはそれで潜入捜査後が問題だ。精神病院に連れ込まれても私が憑依系転生者である以上完治の見込みも無く。無駄に薬を飲む羽目になるだけだ。
それとも、私が意識を意識の底に沈めておけば普通に健常な状態の降谷さんが完成すると考えればいいか。
私だって奥に潜って実録降谷零24時を楽しんだ方が気楽だし面白いのだし、それもいいかもしれない。
そう思い、私はちらりとだけ風見さんへ視線を向けた。
「用がなくなれば消えるのが解離性同一性障害というものでは?」
「……そう、ですね」
今日一番重たい空気をまとう返事に、私は内心「どないせいと」とつぶやいた。