バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
西条との会合の後は特段変わったことはなかった。
源氏蛍のメンバー、古美術商の桜正造氏が殺害されたり、事件の合間に甘酸っぱい初恋探しにかまけてみたり。
サスペンスラブコメディの名に恥じない乱高下のテンションであった。
殺された人の遺品探りながら初恋に思いを巡らせるって、心臓にどんな剛毛生えてたらできるんだよ……。
桜氏の古物店を物色する探偵二人をぼんやりと眺めていれば、ふと思い立ったようにコナン君に話しかけられた。
「ねえ、西条さんとあの時何を話していたの?」
「ああうん。西条さん、鞍馬寺で服部くんを殺そうとしてたからね」
「!?!?」
「だから僕に殺されたくなかったらもう服部君を狙ったりしないように、って釘を刺してたんだ」
「だからあんたの直球さどうにかなんねーのかよ」
呆れたような声を出すコナン君とは対照的に、服部君は「なんやて!」と立ち上がった。
「俺を狙うんやったら現行犯逮捕で話が早いっちゅーのに。これじゃ余計に犯人捕まえるんが面倒になってもうたやないか」
「うん。服部君はもっと自分を大切にしようね。コナン君も何か言ってやって」
「服部、オメー推理で犯人捕まえる自信がねーのか?」
「なんやと工藤!もっぺん言うてみぃ!」
「どうしてケンカ腰なのさ!?」と突っ込むものの、突然の悪童二人のじゃれ合いには付いていけないオジサンの悲しきジェネレーションギャップである。
この二人はこの二人でいつも非常に仲が良いよね。
くるっと気を取り直した服部君が私の方へと向き直り、「そういやぁ」と話題転換する。
高校生同士の意地の張り合いはどうしたんだよ。もう終わりか。情緒ジェットコースターかよ。
「さっきの鞍馬寺ではあんがとさん。矢、俺が射貫かれんよう受け止めてくれとったんやろ」
「別に大したことじゃないよ。君たちが無事で良かった」
「……ほんまええ人やなぁ。なんで組織なんぞに入り浸っとるかは知らんけど、足洗うた方がええんちゃう?」
「あ、わりぃ服部。言い忘れてた。この人公安のNOCだ」
「君こそその直球さ何なんだい!?!?何か僕君の不興を買ったりしたかな!?」
「アンタのやり方に従っただけだけどぉ」
ニマニマ顔のコナン君に、へぇーと悪だくみする服部君。
完全におちょくられております。
もー拗ねちゃったもんね。
むすっとして黙々と故人の資料を探る作業に戻れば、2人は破顔したようだった。
「安室さん、悪かったって!な、服部!」
「お、おう!それに矢ぁ素手で受け止めるて今考えたらどないなっとんねん。スーパーマンか何かか」
「今更だろそれ。横浜でスパイダーマンしてた人だぞ」
「そのスパイダーマンを目線一つでこき使っていたのは誰かな、コナン君」
「え、えへへ……あ。そういやその手袋の調子はどうだ?博士が出来栄えを気にしてたんだ」
弱みを突かれた、とコナン君が早々に話題を変える。
小癪な。
しかし博士に罪はないため、うむと一つ頷いて話題転換に乗ることとする。
「上々だよ。矢だけでなくブーメラン使う時も滑りにくくて擦過傷を起こしにくいし。博士もいい仕事をするね」
「それはよかった。博士、材料工学は専門外って言って苦心してたみてーだからさ」
「普通に組織の専門開発チームの作品より出来がいいよ、これ。MI6もびっくりといううたい文句は伊達じゃないな…」
「なんだそりゃ。あんなん近所の変な発明してる変人博士だぞ?」
こてん、と首をかしげるコナン君はまんま小学生さながらの可愛さだが、内容はと言えば名探偵なんてとても言えないすっとぼけ具合だ。
博士ほどヤバい技術者中々いないぞコナン君や。
君の乗り回しているターボエンジン付きスケートボードに伸縮サスペンダー。
あれだけで世界が獲れると言って過言ではない。
というか伸縮サスペンダーの伸縮率、明らかにバグってるけど誰も何も言わないのか。
私は咳払い一つして気を取り直してから、追加での追及があった場合に備え言い添えておいた。
「ちなみに、桜さん殺しの詳細やこれまでの源氏蛍の連続殺人は聞いてないから、悪しからず」
「わーってるよ。人の生き死にに無頓着なアンタがわざわざ顔を突っ込むのは俺やその周りの人達の命がかかってる時ぐらいだ」
ぴらぴらと手を振り、コナン君は資料探しに戻っていく。
服部君は服部君で「俺も何か博士に作ってもらおか…仕込み木刀とか」などと思案していたため、近いうちになにかトンデモ木刀が出来上がる予感がしないでもない。
しかし、無頓着とは失敬な。
私は出しっぱなしの本をしまいながら、そっと物思いに浸る。
埃っぽい室内が鼻につく。
……いや、そう思われても仕方のない行動をこれまでしてきた。
組織における薄暗い仕事に手を出すうち、生死に鈍感になってしまったことも否めない。
僅かに無言で立ち尽くせば、暗号文を見つけたコナン君がこちらを見て心配そうにしているのに気が付いた。
「どうした?」
「……いや、なんでもない。少し考え事をしていてね」
なにはともあれ。
あとは彼が暗号の謎を解き、玉龍寺へ向かうのみだ。
時は流れて。
服部平次と江戸川コナンが玉龍寺へと乗り込んだちょうどその時。
盗賊団・源氏蛍はおおわらわで撤退の準備を始めていた。
ルパン三世の一味にケンカを売ってしまったかもしれない。
その一報は初めは現実味を持たず「冗談だろ」と何か遠いことのように源氏蛍内に流れた。
しかして状況は一変。
ルパン一味の中でも新顔にして石川五エ門の弟子、フォックステイルのお気に入りに頭領が誤って手を出してしまったこと。
フォックステイルはすでに怒りをあらわにし、源氏蛍の存在を認識していること。
そうした具体的情報が出れば出るほど、団はまさに大混乱と言っていい様相を呈するようになった。
ルパン一味は世界を股にかけ、数々の超巨大組織を壊滅させてきた一流中の一流。
対して源氏蛍は日本国内でケチな商売を働くだけの零細も零細だ。
息を吹けば飛ぶような力関係、巨獣と蟻の差がそこにはあった。
フォックステイルのお気に入りに手を出さなければ問題ないとはいえ、万が一のこともある。
急ぎアジトにしていた玉龍寺を撤退し、仕方なく新たなシマを作ろうと大きな決断に踏み切っていたその時。
運の悪いことは続くもので。
荷造りの最中、突然下っ端が血相変えて源氏蛍頭領・西条のもとに駆け込んできて、言った言葉がこれだった。
「お頭!こんなガキどもが外に!処分しますか!」
「………は?」
下っ端3人で取り囲み、刀を突きつけて平次とコナンを脅す姿に、西条は心臓からゾッと血液が逆流する心地に陥った。
顔が青ざめる。息ができない。
自分たちがどれほどアホなことをしたのか、怒鳴り散らしてその場で切り捨ててやりたい心地だった。
あの時無理にでも顔写真を手に入れて周知徹底すべきだったか、けれど顔写真の入手なんて敵対行動と取られておかしくはなかった。
だから、どうすれば、これは。
空回りする思考の中、おぼれるような口調で下っ端を怒鳴りつける。
「アホンダラがァ!!!そいつは、そいつは、ルパンの……」
果たして。
その言葉を最後まで言い終わることはなかった。
「お邪魔します」なんて中途半端に礼儀正しい言葉でもってやってきたそれが。
笑顔で凶悪な爪を月明かりに翳して、うっそりとせせら笑って、顔につけた狐面に返り血を垂らしながら。
こちらを見ていたのだから。
狐は悍ましいほどに凍える声でこちらを糾弾した。
「約束、反故にしましたね?」
「……ち、違うんや!これは、これはそこのアホが勝手に…」
2歩、3歩と後ろへ下がり、桐箪笥の中に隠した真剣へと手を伸ばす。
後ろに控えていた部下が動揺する手で刀を抜いた。
ここには数十人の部下が控えていて、対して相手は一人だ。
狐一匹程度、囲って切り捨てて、一目散に逃げてしまえばルパンの報復からも逃れられるかもしれない。
ルパン一味が聞けば誰しもが「悲しいほど愚か」と形容するであろう思考を、正してくれるものなど誰一人としてこの場にはおらず。
西条は、不意打ちで───本人だけが不意打ちと信じるタイミングで───桐箪笥から刀を抜き放った。
「死ねぇ!!!」
ギン、と。
あっけないほど簡単に一撃は防がれた。
全力の一撃だったというのに片爪で小動ぎもせず、化け物のような膂力で上から振り下ろした一撃を留めている。
フォックステイルの平坦な声が耳に届く。
「残念。半分寝ていても避けられる鈍重な一撃だ。これでは名を借りられた弁慶も泣こうというもの」
「な、なにぃ…!」
「もしかして、僕に本気で勝てると思っていました?この数なら大丈夫だと?不意打ちすれば殺せるだろうと?」
ははははははは。
ひび割れた嘲笑が部屋に響く。
服部平次は焦燥に重心を落とし、最悪の時に備える。
コナンが静かに強く目配せをして、その意思と意図とを伝える。
狐は艶やかにうなずいて、夜の月あかりを背負って鋭利な爪を振り上げた。
「──慈悲です、死なない程度に切り刻みましょう。」
泣いて殺してくれと縋っても、殺してはあげませんから…そのつもりで。
などと目一杯脅したが、基本は五エ門先生直伝の丸裸武装解除斬りをするにとどめた。
どうしても私が下手くそなので皮膚を膾切りにしてしまうことが多々あったが、その程度。
コナン君もむすっとしつつも納得する手加減具合であった。
朝になり、盗賊団の方は全員無事にお縄となった。
源氏蛍を壊滅させたのはフォックステイルの犯行だろう、おおかた獲物かシマがかぶったに違いない、というのが警察の見立てだ。
世界各地を飛び回る奴ならばすぐにでも国外に出ているだろう、と中森警部が推理した。
そのため現在はフェリーや国際線を中心に出国履歴を探っている模様。
料亭で京都での最後の昼食に舌鼓を打ちつつ、服部君がジト目でこちらを見た。
「なんや、兄ちゃん。フォックステイルって」
「僕の通称だよ。特に気にすることでもない……」
話を途中で遮ったのはコナン君の方だった。
「九つの側面を持つルパン一味の大妖狐。鉤爪使いのフォックステイル。だよね?」
「………ははは。そうとも言うかな?」
「まさか組織とルパン一味を掛け持ちしてたなんて、流石の俺も気付かなかったよ。で、どっちが本業なんだ?」
すっごい睨んでくるコナン君に目線をそらしつつ、私はいつも通り正直に答えた。
内側で「おい、いいのか?」と降谷さんが聞いてくるものの、どうせこの手の話題は時間の問題だから仕方ないと割り切った。
「うーん。必要なスキルを学ぶため、組織からルパン一味へ出向してるイメージ?」
「何その例え」
「籍は組織のままだけど、実績を積みながら僕に足りない潜入諜報スキルを鍛えられるから。良い研修先だよ、ルパン一味」
「そ、そう…」
何を言っているのかわからないみたいな顔をされてしまった。
限りなく正確な例えで説明したんだが。
服部君がこそこそ内緒話をする体勢でコナン君に話しかけている。
「なんで工藤にはこんなペラペラ機密事項喋ってくれるんやこの兄ちゃん」
「知らねーよ。初めて会った時からこんな感じだし」
「なんや、幼児趣味なんとちゃうか?」
「……服部君、和葉ちゃんの前で生まれたままの姿になりたいかい?」
「なんでもないです」
秘技・武装解除好きな人の前でマッパになるが良い斬撃!を脅しの材料にされ、服部君はすごすごと引いていったようだった。
誰が幼児趣味やねん。
というわけで、京都の強盗殺人事件は一件落着。
高校生探偵組と仲良くなるという多少の戦果を残し、私たちは東京に戻るのであった。