バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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戦慄の楽譜②

 

 やってきましたステージ本番。

 堂本音楽アカデミーが主催するオペラコンサートの開演日である。

 

 秋庭怜子がトラックで轢き殺されかける事件から今日までの間に、どうやらもう一波乱あったらしく。

 コナン君から聞くところによると、昨日近所を散歩中にエアガンで襲われたらしいのだ。

 

 木々の合間に身を隠しながらとなると結構な距離からの射撃になるのだが、風に流されやすいエアガンの弾で正確に足を狙うとは。

 うらやましくなるほどの射撃の才能である。

 

 コナン君のいるところで白昼堂々命を狙うとは不届きな輩め。

 ちょうどその時私は阿笠博士の新作メカの実験のため不在にしていたのが、少々後悔。

 コナン君も証拠不十分で少々困るだろうが、一思いに切り裂いてやったほうが良かったかもしれない。

 

 はてさて、話を戻すとする。

 

 今回のオペラ会場は正装が基本だ。

 世界各地からやってきたオペラファンたちが最高の設備と最高の歌手、最高の弾き手をそろえた環境で心行くまで音楽を堪能する至高のひと時。

 そこにあって、観客すらも最高の出で立ちでなければならないのだろう。

 

 家のクローゼットからいつものバーボンの服を引っ張り出して着て来たのだが、それを見たコナン君は「んぐっ!?」と言葉を出すのに失敗したような声で鳴いた。

 そしてそれ以上の素早さで灰原さんが阿笠博士の後ろに隠れてしまう珍事発生。

 灰原さんそんな高速で逃げんでも。

 

 小声かつ怒鳴り声という器用なことをして、コナン君が私を問い詰めた。

 

「いやオメーどんな格好できてんだよ!?それ組織の服じゃねーか!」

「ただの正装だよ?バーボンで動く時は正装が必要とされる場面が多いから同じものを着てるだけで」

 

 ほら、爪もつけてないし、と非武装を主張すれば、コナン君はお手本のようなジト目になってしまった。

 

「でも回し蹴りだけでバスジャックの人を殺しかけてたじゃん…」

 

 それはそう。

 私はちょっと言い訳が出てこなくて、深く頷いて「君も体は鍛えるようにね」と言うにとどめた。

 

 やはり最後に信じられる武器は己の肉体のみ。間違いない。

 

 そうこうしているうちに荘厳なパイプオルガンとバイオリンのリハーサルが一息つき、秋庭怜子がついに登壇。

 アヴェ・マリアを歌う美声は透き通り、ホール中に響いて美しく反響する。

 

 やはり綺麗な歌声だ。

 私も鋭い感覚を手に入れてからは歌や音楽が特に好きになったが、生の歌声は感動が違う。

 

 ベルモットと共同出資して音響設備だけを整えた音楽空間、第三セーフティハウスが霞んで見える素晴らしさ。

 あれはあれで結構な金額をかけていたのだが、やはり桁が違うということか。

 

 私がうっとりと音楽に聞き惚れていると、降谷さんが優しげな声でささやきかけてきた。

 

───このまま寝るか?

───え、またですか。綺麗な歌声だし聴きながら寝られるのは嬉しいですが、僕は別に大丈夫ですよ?

───昨日は仕事で疲れていただろう。体は俺に任せて少し仮眠を取るといい

 

 最近よくこうやって、昼前になると私に「仮眠」という名目で酩酊睡眠をとらせようとしてくる降谷さんなのである。

 恐らくは、幼児のお昼寝タイム的サムシングなのだと思われる。

 

 降谷さんの中の私5歳児説が確固たる形をもって襲い来るので、私は思わずバブらざるを得なかった。

 

 私氏(憑依経験5年)、魂の叫び。

 精神年齢は成人してるので、少なくとも知育玩具は必要ないんやで───。

 

 等と間違っても口には出さず。

 従順に昼寝スペースでハンモックに入れば、数瞬ののち強い酩酊感が襲ってくる。

 だんだん癖になりそうな悦楽とふわふわとした心地いい感覚に酔いしれていれば、時間などあっという間だ。

 

 ぼんやりと美しい音色に包まれながら魂のゆりかごに揺られていれば、リハーサルが終わったらしく人々が解散していく。

 

 私はもたつく口を何とか動かし、聞いていた時感じた音の違和感を降谷さんへと伝えた。

 

───ん、おとが……ずれてぇましたね?

───そうだな。調律のズレか。コンサート前には直さないと不味いだろうな

 

 だめだ、頭が回らない。

 この後しなきゃならないことがあったはずだが…ふにゃふにゃとハンモックの中で寝返りを打つばかりで動けない。

 

───ふるやさ、コナンくんを追って、くださぃ

───分かった。だが何故……まぁいいか。あの子なら何が起きてもおかしくないし

 

 景色が流れていく。

 どうやら降谷さんが席を立って歩き出したようだ。

 

 外へ出て、道沿いに川の方へ歩いてゆく。

 また意識が遠のいていく。脳の奥が融けるような快楽に飲まれて意識を保つこともままならない。

 

 今度から出先で昼寝を取るのは止めよう。そう思うのを最後に、私の意識はぷっつりと途切れた。

 

───こっちに向かったはずだが…いない。どういうことだ?おい安室、コナン君達は一体どこに……まだ寝ているか。参ったな

 

 

 

 

 

 私が目が覚めたのは夕方近くになってからだった。

 

 おあああああ!私が寝ている間にコナン君が島流しの刑に処されてしまった!

 犯人によって秋庭怜子ともども気絶させられ、小さなボートに載せられて下流へと流されてしまったのだ。

 

 これは堂本ホールに仕掛けた爆弾の爆発に巻き込まないようにという、犯人にわずかに残った情によるものなのだが……まあそれは置いておいて。

 

 急いで車で川沿いを探索すれば、彼らはすぐに見つかった。

 

───川に流されてるってよく分かったな。俺もかなり探したんだが、行方の手がかりさえ掴めずじまいだった。流石の俺もコナン君から目を離したのを後悔したよ

───そう気負わないでください。僕のこれなんてマジに純粋な勘ですから

───俺もその勘早く欲しいんだが。実装まだか

───まだですねぇ

 

 前の憑依合一により感覚の鋭敏化はある程度共有されるようになったが、それだけだ。

 降谷さんの体に不可逆の影響を与えてしまう以上、あまり進んでやりたい奥の手でもない。

 

 遠く見えるボートから、私たちの車に気が付いたらしいコナン君がおーい、おーいと呼び掛けて両手を振っているのが見える。

 私は車から降り、急いで岸壁から身を乗り出した。

 

 阿笠博士の発明品であるバングル型巻き取り式フックを発射し、船の縁へとフックの先を引っかける。

 そして巻き取り。体が引かれるが、岸壁の鉄柵に掴まっていればどうともない程度の重さだ。

 

 8メートルはあろうかという高い岸壁にボートが接岸し、下からコナン君と秋庭怜子がこちらを見上げている。

 私は特に気負う事もなく、猫のように滑らかに舟へすとんと降りた。

 体重を受け、僅かにボートが揺れる。

 

 うわ、この人どういう運動神経してんだよ……みたいなドン引き顔をするコナン君をぽすんと軽く叩きつつ、私たちは咳払いした。

 コナン君もできるでしょ。劇場版で知ってるぞ私は。

 

「コナン君たち、無事かい?」

「っ、そうだ!安室さん、もうコンサートが始まっちゃう!こうやって怜子さんを引き離したってことは堂本ホールで何か事件が」

「うん、待って、とりあえず君らを引き上げるから」

 

 怒涛の勢いで喋り出すコナン君を一旦制止。

 それは推理タイムは車の中でした方が時間節約になるはずだ。

 

 二人を抱きかかえてフックを岸壁上に引っ掛け、登山のように登っていく。

 

 が、ここから堂本ホールまでどんなに急いでも車で30分はかかる。

 開演には間に合わないだろう。

 

 二人を車に乗せてから、ステアリングを握ってくるりと降谷さんに変わる。

 

「一応、全力で飛ばすよ。シートベルトはしっかりしめたかい?」

「うん。怜子さんも大丈夫」

 

 本当は舌を噛まないようマウスピースがあるといいんだが、と降谷さんがぼやく。

 一般人を乗せての全力走行など初めても初めて。

 世界的オペラ歌手の口を怪我させるわけにはいかないから、多少の緊張は否めない。

 

 そして、エンジンを強くふかし。

 怒涛の如くに走り出す。

 

 シートに押し付けられるような重力感。流れる景色。エンジンの唸り。

 走っている最中、川沿いの道をドリフトする凄まじいスキール音に紛れて、遠くから爆発音が聞こえた。

 時刻は5時15分。ついに開演してしまったらしい。

 

 スマホで中継を見ているコナン君が「出入り口を塞がれてる!」と歯噛みした。

 

「さっきの爆発の影響だ…これじゃ避難もできない。火災もひどいし、鎮火まで無理やりの突入も難しそうだ」

「そんな…じゃああそこにいる観客は」

「周囲を鎮火するまで逃げられないだろうね」

 

 秋庭怜子が青ざめた。

 自分の出るはずのコンサートで起きた大惨事に、胸が冷える思いをするのは仕方のないことだ。

 コナン君が身を乗り出して私へと話しかける。

 

「安室さん!ホールにフックで侵入できない?」

「やればできるとは思う。けど、消防救急警察が取り囲んだホールを堂々と突破して空から侵入、は流石の僕も社会的地位が死んでしまうかな」

 

 夜ではあるものの、火災のせいで明るいから私の姿は丸見えだ。

 たぶん怒られるじゃ済まないだろう。

 翌朝の新聞の一面を飾ってしまうのはまず間違いない。

 見出しはこうだ。

 怪奇!スパイダー男、火災現場に侵入!消防隊による消火を妨害か。

 

悪夢かな?

 

「ならどうしたら……」

「仮面でも被って変装したら?」

 

 青ざめつつも余裕のありそうな高圧的口調で、秋庭さんが投げやりすぎる提案をした。

 顔を隠すという提案はまあまあ有益だが……そういう問題か?

 

 そこでコナン君、余計なことを思いついたようだ。

 ばっと私の方に振り向いて目をキラキラさせた。

 

「仮面!そうだ、安室さん!フォックステイルだ!」

 

 私にフル仮装したあげく燃え上がる堂本ホールへと空中から進入せいとおっしゃられるか。

 全部の罪をルパン一味へとかぶせつつ、事件解決のため現場に乗り込む妙手と言えば妙手である。

 私の尊厳は戻ってこないが。

 

「うーん、慰謝料代わりになんか高級なもの盗むけどいいよね。よし。良いって決めた」

「それなら怜子さんが十分当てはまるじゃん。世界的オペラ歌手で、美人さん。ルパン一味が盗むにちょうどいいと思わない?」

「ちょっとボウヤ!」

「フル仮装で人攫いって本当に僕の人権を無視してくるよねコナン君……分かった。僕の助手の子狐ってことで君も共犯にしてくれよう」

「え゛っ」

 

 信号で停車。タイムロスだが仕方あるまい。

 

 話についていけず困惑する秋庭怜子を置いて、私はこんなこともあろうかとと彫っておいた狐面(子供用)を助手席の収納スペースより取り出した。

 死なばもろとも。こうなれば貴様もルパン一味にしてくれる!!

 

 「えっ待ってやだやだ僕探偵だよ?子供だよ???」などと往生際の悪いコナン君ににっこりとほほ笑む。

 

「子狐君。これからもよろしく頼むよ」

「待って待って待って許して何かほかに手が」

「無い。諦めて共犯になろう。ようこそ盗みの世界へ!」

「ヤダーーーッうわぁぁぁああああ!!!」

 

 車の中に名探偵の悲鳴がこだまする。

 えー、悪党から真実を盗みだす怪盗とは、名探偵のことなり。

 

 そんなかんじなので、まあ諦めたまへよ君。

 




小狐君「今回限りだからな!!!!本当に!!!!」
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