バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
本日の任務の帰り、私は唐突に現れたスコッチに胸ぐらを掴まれ壁ドンされた。
時刻は夜も更けて午前3時。
立地も悪く出入りの激しい安アパートで、私を片手で壁に押さえつけたスコッチは鋭い目つきで拳銃を取り出した。
「スコッチ、一体何──ガフッ!?」
「お前は誰だ」
そして容赦なく私の口の中に銃口を突っ込む。
装填された銃弾が狙う先は私の脳幹、つまりは人体における最大の急所である。
嘘だろおい、初っ端から殺意高過ぎか!?
「お前はゼロじゃない。ベルモットの変装か?」
「………」
「答えろ」
ドスの利いた声で脅しかけ、しばらく待ってからようやく私の口から銃口を抜く。
どうやら公安からの連絡を待たずしてスコッチの疑念が最高潮に達したらしい。
こんなことならば多少無理を押してでも風見さんに早めに連絡を入れるべきだった、と後悔せざるを得ない。
しかし意外だな。
もし私の存在が組織による「釣り」であったなら、彼が自分から接触するのは悪手になる。
だから彼が性急な行動をすることは無いと踏んでいたのだが。
口に残る鉄の味が不愉快だ。
極限まで引き絞られた緊張のせいで胸が痛い。
返事を口に出すのにも精いっぱいな一般人のちいかわ的内心をさぁ、もうちょっと慮ってスコッチは行動を起こしてくれ。
ほら、バーボン泣いちゃった!
「……げほ、っ違いますよ。ベルモットと僕が一緒によくいるのは貴方も知っているでしょう」
「取り巻きを変装させる手もある」
「そんな手間をかける意味がない。貴方を貶めたいなら、もっと単純かつ簡単な手がいくつもある」
「だがお前はゼロじゃない」
断定系の口調だった。
この一週間、私の周りに仕掛けられていた夥しい数の盗聴器やら監視カメラやらはスコッチが仕掛けたもののようだ。
そうだろうな、とは思っていたが…そこまで幼馴染への理解度が高いとはこちらとしても想定外。
私は額をつたう冷や汗を極力無視し、静かに落ち着いて返答した。
「その言葉は語弊があります。確かに僕の人格は降谷零ではありません。ですが、身体は貴方の幼馴染のそれに相違ない」
「……どういう意味だ」
ぐりっと拳銃を強く押し付けられる。ギシギシと軋むような殺気が肌を粟立てた。
止めてくれェ!私のせいで諸伏景光が降谷零を殺すとかいう大惨事になったら死んでも死にきれん!
「初めにした自己紹介に嘘はありません。僕の名前は安室透。バーボンのコードネームを戴くもの」
「バーボンとしての人格が芽生えたとでも言いたいのか?」
「そのものズバリ、ですね。解離性同一性障害。聞いたことありませんか?」
スコッチの顔に動揺が浮かんだ。
私はこれを好機ととり、銃身をゆるゆると両手で覆って「これ、退けてくれません?」と言って笑う。
もしまかり間違って撃たれたら、真実を知ったスコッチにどんなトラウマを植え付けるかわかったものじゃないからな。
ようやく、スコッチはゆっくりと銃を下ろし、目は揺れたまま口だけで嘲笑するように口角を上げた。
「……馬鹿げてる。ゼロはそんな弱いやつじゃない」
彼の言葉に私は思わず苦笑した。
それを言われると弱いんだよな。
実際原作の降谷零は潜入任務を務め上げているわけだし、私という人格も本当に降谷零の別人格というわけではない。
現代の科学では魂を証明できない。
ゆえに私の存在も多重人格と区別は不可能、のはずではあるが。
嘘は嘘だ。スコッチの言葉は間違いない真実を捉えている。
私は極力嘘をつかないよう、ホールドアップの体勢を続けたまま言い訳に終始した。
「と、言われましても。事実として僕は降谷零であり、それについて近々公安から貴方へ連絡もあるでしょう」
「……組織の開発した新種の寄生生物だって言われた方が納得できるぐらいだ」
「物騒なことを言わないでください。それでは貴方がNOCだと組織にバレてる前提になりますよね」
「違うのか?」
「違います。僕は貴方の敵ではないし、貴方がNOCだという情報も組織は掴んでいない」
大まかでいいから、何とかこの場で誤解を解いておきたい。
「こんなところで長話も何ですから、どうぞ。上がってください」と私は横にあるセーフティハウスの扉を指し示した。
スコッチが首肯して僅かばかりの肯定を見せる。
一応部屋に入るのは許可してくれるらしい。吹きっさらしの外での長話は風邪をひきかねないからね。ありがたやありがたや。
室内はやや散らかった生活感のある部屋となっている。
生活感とか聞こえのいい言葉を使っているが、まぁ汚部屋一歩手前だよね。
室内の様子を一目見てすぐにスコッチは眉を顰めた。
本物の降谷零の気性ならば、こういうところはモデルルーム並みに綺麗にしている様子が目に浮かぶ。
恐らくはそうした印象の違いをまた見つけてしまって、スコッチは疑念を深めているのだろう。
でもさぁ、片付けって面倒くさくない?
ただでさえ黒の組織は名前の通りのブラック企業なのに、掃除の時間とかどうやって捻出すればいいんだよ。
実際スコッチの部屋は奇麗だって?うるせぇ!
アパートにしては珍しい畳敷きと、その床の上に設置されたちゃぶ台が古めかしさを醸し出す。
私は部屋の奥側に座り、向かいの玄関ドア側にスコッチが片膝を立てて腰を下ろした。
ワザと逃げにくい部屋の奥側に座ったのは無抵抗を示したかったからだ。
そんな意図もスコッチは汲み取ったうえで、すぐ立てるように警戒して片膝を立てている。
どうしてだよぉ!
「改めて。僕はバーボン。降谷零から生まれた別人格です」
「……俺のことは知っているのか」
「うっすらと。主人格の幼馴染であること、警察学校で同期だったこと、程度の知識ではありますが」
「それだけ知ってるなら俺の弱みはどうとだって握れるな」
スコッチが自嘲するように言った。
とんでもない。だからなにかあればこの場で殺す、と先ほどからスコッチは間断なく意見表明しているのだ。
モノホンの潜入捜査官って怖さが半端ないのな。知らなかったわ。
「同時に僕の弱みでもあります。立場はお互い様でしょう」
「ゼロと話がしたい。変われるか」
「無理です。主人格は僕の中で眠ったまま目を覚まさないので」
「やはりか」
想像はしていたらしい。
できるなら初めから諸伏さんに会った瞬間変わるのが一番話が早いからな。
多重人格というのが本当だったとしたら、そうできない理由があるのだと考えるのは当然のことだ。
スコッチは沈黙した。
一山いくらの安っぽい目覚まし時計がカチ、カチ、と時計の針の進む音だけを室内に残す。
「……本当にお前はゼロの別人格なのか」
「はい。故に、貴方とは敵対したくない」
「犯罪者として生まれた人格なのにか?」
「犯罪者だからこそ身内には親身だ。それは貴方だって知っているでしょう」
「…そう、だな」
好きで犯罪者なわけじゃないのだが、まぁそこは割愛。
いくら悪人相手だったとはいえ、私が殺人犯であることは揺るがない事実だ。
俺の両手はすでに血に濡れているー、なんてカッコつけるつもりは無いけれど、やったことの償いはどこかでする必要がある。
例えばこの自殺するはずのスコッチという名の男を必ず救ってみせる、とか。
うーむ、偽善偽善。反吐が出ないようお口にチャック。
ああ江戸川コナン君や、早くこの組織を壊滅させておくれ……。
「他に何を語れば信じてもらえます?松田陣平と初っ端殴り合ったこととか?教官の首が絞まったから銃を無断発砲した件とか語れば大丈夫です?」
「っおま、それ、いやどういうチョイスだよ!」
「人の失敗の記憶って、時に脳に強く刻み付けられるものですよね」
「………うん、分かった。お前はゼロっぽい何かだ。そうに違いない」
「まあ、間違いではないですけど。ひとまず敵でないと思っていただけたならそれで充分です」
ようやく空気が僅かだが弛緩した。
スコッチも過度の警戒は不必要だと悟ったのだろう。
同僚との不仲ほど仕事に影響の出る問題もないからな。解決してよかった。
と、そろそろ明け方も近い。仕事の支障が出る前に休まねばならないだろう。
「今日はもう遅い。明日も任務があります。話を詰めるのは日を改めたいのですが、予定に空きはありますか?」
「……明後日なら16時から空きがある。お前はどうだ」
「問題ありません。では改めて、このセーフティハウスに──」
「いや」
スコッチが私の言葉を遮った。
「場所は俺が用意する。問題ないな」
「ええ。貴方が場所を用意するなら僕に否やはありません。決まりましたら連絡をお願いします」
「言われるまでもない」
やっぱまだ警戒してますわコレ。
潜入捜査官の警戒心バカ高いなほんと。誰かどうにかしてくれ。