バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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紺碧の棺③

 

 ダイビングを済ませれば、あとは街の散策だ。

 

 こじんまりとした小さな島には観光用の小さなショップ、そして意外と真新しいミュージアムがぽつんぽつんと若干離れて立っている。

 島をめぐるには自転車があると楽だが、ここは軽い運動を兼ねてランニングをするものとする。

 

 走ると海風が少し肌にペとついて、髪がパサつく心地がする。

 降谷さんが「うっ……これは、失敗したか?」とボヤいた。

 

 5分ほど走れば神海島歴史ミュージアムが見えてくる。

 

 ミュージアム入り口には若干ダサめのフォントを使った「君も謎解きに参加してお宝を手に入れよう!」と書かれたポスターが掲載されていた。

 多分この島の観光課の手作りなのだろうと思われる。

 

 私がポスターをじっと見つめていると、降谷さんが心象世界の奥から出てきてそっと声をかけてきた。

 

───やってみるか?気になるんだろう、この謎解きイベント

───興味が無いと言えば嘘にはなりますが。こんなイベントのお宝よりも本物のお宝が目の前にあるんですから、そっちを優先しましょう

───ふふ、そうだな

 

 くすくすと笑って私に微笑みかけている。

 降谷さんの気持ちが上向いたようで何よりだ。

 ダイビングで私が憑依合一第二弾を実行してから、ずっと無言で屋敷内の私の部屋に座り込みをしていたので心配していたのだ。

 

 しかも「二度と俺に黙って勝手に消えようとしないこと。復唱はじめ」と私に何度も復唱させるし。

 ちょっと私が言い訳して「た、単に合一するだけで消えるわけでは…」と言えば、「俺に口答えするのか」と恐ろしいまでの無表情。

 「アッなんでもないです」「よろしい。復唱」「うす!」と謎の軍隊式に移行してしまった。

 

 あれはまさに絶対零度の視線だった。

 馬用の鞭も持ってるし、降谷さんに口答えしてはいけないと魂に刻まれたものだ。

 

 なにはともあれ。

 このイベントによって配られる宝さがしマップは300年前の古地図に記された謎を抽出したものに過ぎない。

 ルパン三世の伝手で宝の地図の写しを手に入れている私には無用の長物だ。

 

 ミュージアムを出た後は近くの売店でアイスクリームを買って食べ、涼んでから港へ。

 

 どうやら日に3本、目的の頼親島まで出ている船があると分かったのでその便が出るまで近場でぶらぶら土産物を物色する。

 

 これはルパン達用の土産だ。

 地図を用意してくれた礼にもなるだろう。

 

 中々いい地酒が売っていたので、2本購入。

 こういう地域限定のお宝発掘って言うのもルパンの好むところだ。

 一番好きなのは五エ門師匠だとは思うが。

 

───俺たちの分も買っていくか?

───それはいいですね。こっちのにごり酒とかどうでしょう。さわやかな甘みかぁ…ゼロはどうします?

───お前の選んだのを分けてくれ。お前の目利きは確かだからな

───え、責任重大ですねそれは…

 

 降谷さんが柔らかく笑う。深い信頼の乗った声色は優しく、包み込むように私に伝わってくる。

 逆にプレッシャーだぞそれは!

 

 結局、特徴的な形の瓶がチャームポイントのにごり酒をひとつ買って、ホテルへと置きに戻ることとする。

 

───また一緒に飲み会でもやるか

───そうですね。あ、折角なので折を見て諸伏さんのところでやりましょうか。

───そうだな。あーあ、ヒロのやつも深層意識に連れ込めたらいいのにな

───無理ですねぇ…それは…でも夢があるのは確かですよね

───だろ?巨大ロボ操縦体験とかもできるし

 

 この巨大ロボとは、前に私が飲み会一発芸で深層意識界にて作ったAI搭載型巨大人型ロボット…つまりはガンダムである。

 

 短時間でどれだけ精密な物を作れるか、というお題で降谷さんと作りあっていたもので、その大きさは屋敷を軽く踏み潰せるほど。

 深層意識の水をかきわけて乗り込めば、きちんと発進してビームサーベルもフィンファンネルも出せる作り込みが売りの一品だ。

 

 当時はかなり酔っ払っていたはずの降谷さんが、乗り込んだと同時に己の手足のように操縦し始めてビビったものだ。

 なんでフィンファンネル六機を本家ばりの高速機動で動かせるんだ…。

 などと、降谷さんニュータイプ疑惑が浮上するなどした当時の思い出である。

 

 話を戻して。

 ちなみに、現在の服装はシックで抑え目な一般的普段着である。

 念のため狐面も持ってはいるのだが、どうせ場合によっては海水でぬれることにもなるし派手な着物は今回持ってきていない。

 

 さて、時間になれば出港だ。

 小さな船だが、窓から潮風を感じながら風を切って進んでいけば爽快感も抜群となる。

 

───風が気持ちいいな。お前もこれくらいのスピードで走ったりできないか?

───できなくは無いですけど。代わりに筋肉が全部断裂します

───そういう時は大人しくできないって言え

 

 怒られてしまった。正確に事実を伝えただけなのに。

 

 そのままの自然の多く残る頼親島は亜熱帯らしい蛇や毒虫も多く、色とりどりに危険があるので奥まで行くのは推奨されない。

 向こうでガイドさんが団体客の案内をしているのを横目に、私はさっと海岸沿いに道を外れる。

 地震で埋まってしまったという女神像の道へ行くためだ。

 

 場所はすぐに見つかった。

 リュックサックに入れて持ってきた鉄爪をはめれば準備万端。

 折り畳み式のスコップも一応持って、ちょっぴりこそこそ作業開始だ。

 

 荷物を下ろし、私はひとまず素手で洞窟の状態を確認した。

 

 地震で穴は広がっているので、そう大きな作業は必要なさそうだ。

 どうしても大人では通りづらい箇所から岩石を切り落としてスコップでどかすだけ。

 

 よいしょ、よいしょと地道に岩を切り落とし、スコップで土砂を運ぶこと1時間。

 

 やはりトレジャーハントはフィジカルが命だ。

 魂のエネルギーでブーストがかかってる私でも意外と辛いのだから、並の探検家では重機でもなければ歯が立たないだろう。

 

 なお、ただの岩を切るには勿体なさすぎて貰った斬鉄爪は使っていない。

 

───そろそろ昼寝時だろ、俺が代わろうか?

───いえ、大丈夫です。というかゼロじゃ重すぎて運べませんよ

───石材切断はともかく、今なら土砂運搬ぐらいなら大丈夫だ

 

 どうやら同化の際に切り離してきた私の魂の一部の効果で、降谷さんにもある程度魂の出力が定着したらしい。

 喜ばしい限りだ。

 

───なら、ゼロの肩慣らしのためにもあとは任せます。もし岩にぶつかってしまったら呼んでください

───任された。お前の負担軽減のためにも早くこの身体能力に慣れるとするさ。お前はゆっくり寝ていてくれ

 

 するりと降谷さんと代わって昼寝用ハンモックに飛び乗れば、すぐに眠気と酩酊感が襲ってくる。

 

 暖かく優しい、降谷さんの祈りの如き想いが魂をふんわりと包み、癒してゆく。

 同一化によって降谷さんへと残していった魂の切り離し痕がゆっくりと回復していく感覚がする。

 

 本気でこの昼寝、魂の傷を回復させる効果があるらしい。

 これは降谷さんへのエネルギー供与、昼寝による回復、と繰り返すことで永久機関が完成するのでは……?

 

 と、ふわふわ悪い事を考えていれば、降谷さんの作業も終わったらしい。

 

 横穴が縦に深い亀裂のような陥穽に繋がったようだ。

 

───そろそろぉ、さんそボンベを、つかってくださぃ……どくガスがぁ、大変れすから…んん

───そうだな。あ、冷水コーナーを昼寝ポイントの横に移しておいたから入ってこい

───らじゃですぅ………っはー、生き返る。というか、昼寝のたびに呂律回らなくなるまで念を込めなくてもいいじゃないですか

───それじゃお前が休めないだろ。いいから気にせずヘロヘロになってろ

 

 そっけなく言い捨てる降谷さんの考えはいまいち読めない。

 念を途切れさせず私に向けるなんて降谷さんも面倒に決まってるんだがなぁ。

 

 ともあれ、中に溜まる毒ガスを警戒して阿笠博士から貰った10分間限定の携帯型酸素ボンベを口に含めば準備完了だ。

 

 スルスル下へ降りれば、中に開けた空間があることに気がついた。

 そこにあるのは大きな仕掛け扉だ。

 カットラスと銃が嵌まる程度の穴が四つ。いかにも仕掛けらしい仕掛けだ。

 が、今回はショートカット。

 

 私が爪で岩扉をスッパリと切り落とし、反応して射出された矢を特段気にすることなく叩き落とす。

 

───空気の流れで射撃を察知って、この感覚か。なるほど…理屈は分からないが肌がゾワゾワするな

───おお!ゼロも分かるようになりましたか!良かった、これでゼロが表に出ている時でも不意打ちを避けられますね!

───察知できることと避けられるかは別だ。どうやったら音速で疾る弾を避けられるって言うんだ…

 

 呆れたような声で降谷さんが首を振った。どうやらダメらしい。

 これで私も一安心だと思ったんだがなぁ。

 

 扉を越えて中に入れば、そこに大きく開けた空間が広がっていた。

 高い高い天井、風化してはいるものの美しく状態を保った木造船、時折岩の間から吹き出すガス。

 

 これはこれで歴史的価値がある光景だ。

 

 私は木造船の上へと登り、アン・ボニーとメアリー・リードの海賊旗を優しくたたんで持ってきたバッグの中にしまった。

 好事家に良い値段で売れるのだろうが、これは私のコレクション品なので売るつもりはない。

 

 用は済んだ。あとは帰るだけだ。

 大広間入り口あたりに人の気配を察知したので、狐面をかぶって顔を隠す。

 

 遅れて海側ルートから入ってきたトレジャーハンター達のようだ。

 暗い中を懐中電灯で照らす男達が、私の姿を見て動揺したようだった。

 そしてすぐさまナイフを出し、私を威嚇する。

 

「テメェ!これは俺たちの宝───ぷぎゅる!?」

「なっ何をゲヘェ!?」

 

 無言で軽く伸して縛り上げ、上へと持って帰ることとしよう。

 ここに転がしておいたらガスで死ぬかもしれないからな。それは流石に面倒だ。

 

 一仕事終えればもう夕方だ。

 帰りの船に乗って神海島本島に帰り、海沿いにある高級ホテルへと帰ってくる。

 

 と、道中で宿に向かっていたらしいコナン君達御一行と偶然会うことができた。

 

「安室さん!?どうしてここに!?」

「奇遇だねコナン君。僕はあれだよ、アン・ボニーとメアリー・リードのお宝を狙ってね」

 

 コナン君も島中に貼ってあったあの安っぽいポスターを見たようだ。

 胡乱な顔で私の言葉を鸚鵡返しにした。

 

「えぇ……こんなところに本当にあるの?単なる客寄せじゃない?」

「そうだぞ安室。俺らは観光だが、とてもこんなとこに宝があるようにゃ見えなかったぞ?」

 

 呆れたような顔の毛利探偵に、「案外子供っぽいところもあるのね」と後ろで灰原さんが囁いている。

 し、仕方ないだろ本当にあるんだから!

 

「ははは。とはいえ、収穫はあったよ。大きな帆船を見つけたんだ。正直僕に管理しきれるものじゃないから置いてきたけど。旗を記念に持って帰ってきた。見る?」

「収穫って……はぁ!?!?」

 

 ばさ、とリュックの中から海賊旗…ジョリーロジャーを広げて見せれば、一同は驚愕したようだった。

 「うっそだろ…」「凄い!ねえ園子、本物かな!?」「うわぁ…!」と各々歓声をあげて旗を眺めたり写真を撮ったりしている。

 

 一緒に一同を案内していた観光課長が転けそうになりながら前へ出て、血相を変えて私に詰め寄ってきた。

 

「これはほ、本物なんですか!?宝が見つかったなんて……!」

「ええ。地図は、えっと。この、頼親島のこの位置にある二つの女神像から下に向けて降りたら入り口があったんです」

「で、でもここは確か地震による崩落で通れなくなっていたはずでは……」

「土を掘りました。で、中にガスが充満しているといけないのでダイバー用の酸素ボンベをもって降りて行ったんですが」

 

 息を呑んで私の言葉を聞く一同に、なんとなく申し訳ない気持ちになりながら言葉を続ける。

 宝は…ないんだよなぁ……。

 

「中には別に宝という宝はありませんでしたね」

「……貴方が持っているのではなく?」

 

 ぎらり、と剣呑な殺意が私を撫ぜる。

 この観光課長、女海賊の宝のためにトレジャーハンターを狙撃するほどの野心家だ。

 宝を手に入れてどうするかは良くわからないが、どうも普通に財宝を私的利用するようなタイプには見えない。

 

「僕はこれ、女海賊を象徴する海賊旗をもらってきたぐらいです。……ですが、本物の大航海時代の現存する木造船ですから、ミュージアムに飾るものとしてはとんでもない価値になると思いますよ」

「そ、その海賊旗を神海島博物館に寄贈していただけたりは…」

 

 震える声で観光課長が私に提言する。

 うん?寄贈?……もしかしてこの観光課長、宝を狙っていた理由は神海島のためだったりするのか?

 

 ふむ。ミュージアムに飾るんなら私が海賊旗の管理をしなくてよくなるし、いつでも見に来れる。

 意外といい話かもしれない。

 

「いいですよ。後で町役場に手続きしに行きましょうか」

「いいのかよ!?」

 

 仰天した声でコナン君が私の袖を掴んで引っ張った。

 内緒話を求めているらしい。

 

「いやいやいや、あんたの今回の獲物だろ、それ?」

「だって断れば下手をすると命を狙われそうだし。あとは神海島の管理に任せるよ」

 

 私は観光課長に旗を押し付けて、そのままくるりと振り返った。

 

「あ、そうだ。よろしければ現地まで案内しましょうか?一応、駐在さんや町長さんを呼んでご一緒に。あ、ガスの危険があるので酸素ボンベも一緒に持ってきてください」

 

 「は、はい!呼んできます!!!」と転げるような勢いで観光課長が走り出した。

 

 置いて行かれた毛利探偵が「それで、俺らの宿はどこなんだよ…」とぼやいている。

 どうやら宿の案内をしてもらっていたようだ。

 

 俺らも行く!と少年探偵団がお宝に釣られて私の周りに集まってきたが、「夜遅いから君たちは寝ること!」と言い含めておいた。

 暫くすれば、観光課の人々と駐在さんが息を切らせながら走ってきた。

 

 これから頼親島に行くとなると、帰りは真夜中になるだろう。

 明日になってから伝えるべきだったか…と少々後悔しつつ、私は彼らを案内すべく歩き出した。

 

 

 

 そんなわけで、発掘された古い木造船は遺産として神海島が管理していくことになったとのことである。

 新たな観光資源として、きっと明日の一面は「神海島で大航海時代の木造船が発見される!」とかになることだろう。

 

 万事、世はすべてこともなし。

 事件のきっかけを全キャンセルしてしまったので、今回はこれにて終幕である。

 

 不完全燃焼、といった顔をした退屈そうなコナン君を添えて。

 




コナン君「事件が起きそうな気がしたけど気のせいだった」
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