バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
神海島からの旅行から帰ったあと。
酒の土産を片手にルパンのアジトへ帰れば「いやーー残念だったな本当に、まぁまぁ、上がれよ!」と謎に歓待された。
ルパンと次元は肩を組んだりバーボン注いでくれたりと謎行動の嵐。
しかも「飲め飲め」「そういうこともあるわな」「何事も経験ってことよ」「ロマンの大切さってのが分かる一件だったな」と心当たりのない同情が飛び交っていた。
意味もわからないまま、ルパンへ酒の土産を渡せば泣き出す始末。
「俺らはいい弟子を持ったなぁ!あんな悲しいことがあったってのにお師匠さんへの土産まで忘れずに!うう!」
「そ、そんなに……?」
「そんなになの!頑張った挙句スカもスカ、身一つでアジトに帰宅する悲しさはなぁ、そりゃもう…」
ブルっと身を震わせ、ルパンは男泣きした。
「もーーなんて切ないコト!俺もあの時と、あの時とあの時とあの時はそりゃもう悲しい思いをしたもんだぜ!」
「涙なしには語れないって奴よ。なぁルパン!」
「おうよ!」
多いな、悲しい思い出。
やはりルパンなだけあって、お宝を得られずトボトボ帰った経験も数知れず、ということらしい。
降谷さんは鬱陶しそうに眉を顰めて腕を組んだ。
「───ふん。別に俺は泥棒じゃないからな。獲物が見つからなかったからといって悲しみはしないさ。地域貢献にもなったし」
「降谷ちゃんてばまたまたー。でも、宝探しのロマンはあったろ?」
「………まあ、遺跡に足を踏み入れた時は多少心躍るものがあったが」
「だろー?まだ見ぬお宝が姿を表すその瞬間!そのロマン!この業界の醍醐味だよなぁ!」
ルパンが土産の酒の箱を開けて瓶を取り出す。
「お、いい趣味してんね。安室ちゃんの方の選定か、こりゃ」「そうだ。俺の相棒が直々に選んだんだ、味わって飲め」と降谷さんが胸を張っている。
だからプレッシャーなんだよなぁ。
などといっている間に、TVのニュース局が騒ぎ立てる声が聞こえる。
どうやら日本で起きたという大事件を報じているようだ。
こんな海外でも報じられるのは、それだけデカいニュースということだ。
内容に思わず目がいく。降谷さんが口を閉じて耳をそば立てている。
国立東京生物研究所から7人組の武装集団によって危険な細菌が盗まれたというのだ。
細菌が感染した場合の致死率は80%。
バイオテロの可能性を視野に、犯人グループである赤いシャム猫を追っているとのこと。
降谷さんの眉間に皺がよった。
生物兵器を用いたテロ。もろに公安の管轄だ。
ルパンが椅子に横になって足をぶらぶらさせながら次元に目を向けた。
「猫ちゃんねぇ、知ってる次元?」
「知らね。どっかの弱小地元組織だろ。調べてやれよ。師匠だろ」
「仕方ねぇなぁ……酒ももらったし、サービスサービス。ちょちょいっとな」
ぱちぱちぱちっとPCに向き合えば、出るわ出るわズラリと情報の山。
これはルパンが常にアンテナを張り巡らせている各種情報のデータベースだ。
その信頼性、正確性は珠玉のものがあるだろう。
降谷さんと私は一緒に映し出されたPC画面を覗き込んだ。
どうやら、赤いシャム猫とは財閥を狙うテロ組織らしい。
現在は活動しておらず、元組織員も海外で寂しい老後を過ごしていることが判明している
最近も特に動きはなし。
結論。
今回のシャム猫と名乗る団体は過去のシャム猫の後継、もしくはそれを騙る別の団体、と思った方が自然といったところか。
「ちっ……しかし何故研究施設を爆破した?財閥専門の衰退した弱小テロ組織の名を騙ってまで行動を起こしたのも謎だ」
「さてねぇ、本巣に行けば公安の降谷ちゃんならもっと詳しいことが分かるかもな。どうする?」
「───決まってる。すぐに日本へ戻るさ。その前に連絡だけしとくか」
降谷さんが水面から顔を出すのに合わせて、私が水の中にトプンと沈み込む。
降谷さんは眦を強く、事件を見据えて睨むようにスマホを取り出した。
かける番号は信頼する部下、警視庁の風見裕也のそれだ。
「風見、聞こえるか。ああ、ニュースは見た。シャム猫については調べたんだが、現在は活動していないらしい」
『はい、風見で……え、降谷さん?え、あの、現在中東にいるはずの降谷さんが何故その情報を』
「ルパンからな。それはいいとして、俺もすぐに日本へいく。報告しておいてくれ。件の犯行は赤いシャム猫によるものではなく、何者かによる騙りの可能性大とな」
『ええ!?ルパン?ルパンから情報を抜いたんですか!?というかまさかですけど今ルパンのアジトからかけてきてるんじゃ』
「じゃあ切るぞ」
『あっちょっと待ってくださ』
名探偵コナン名物、相手の返事を待たずガチャ切りが炸裂した。
風見さんは今頃困り果てていることだろう。
ルパンが口をへの字に曲げて降谷さんへと顔を近づけた。
「だーれが俺から情報抜いたってぇ?」
「言ってない。あいつが勘違いしただけだ」
「いいけどぉ。可愛くねー弟子だこと」
部屋の奥で無言で刀の手入れをしている五エ門が「そんなことより、爪の調子はどうだ」と静かに問いかけてきた。
「そんなことって五エ門ねぇ」
「まだ斬鉄爪を十全に使うような相手に出会えていないので、なんとも。僕も早く切れ味を試してみたいです」
「うむ。刀の真価は鉄火場でしか確かめられぬ。精進することだ」
「はい、五エ門師匠!」
元気よく返事をすれば、五エ門師匠は一つ頷いて刀の手入れへ戻って行った。
恐らく、風見さんはこれから七転八倒しながら各種情報集めに奔走していることだろう。
前もって何故防げなかったか、動きをマークできていなかった原因などなど。
散々詰められるに違いない。
───風見さん、そろそろ胃潰瘍で入院しそうですしこちらで手心加えてあげませんか
───?別に無理をさせているつもりはないが
───そりゃゼロ基準ではそうでしょうけど。もう何日有給取れてないんですか彼…
───そんなものは公安には無い
無いらしい。無慈悲すぎる。
そういえば、ライフワークすぎて忘れていたが私達も純粋な休みとか三ヶ月ぐらいは取ってない気がする。
ともあれ。
そうして、私たちは日本にトンボ帰りすることとなったのである。
帰って早々「安室さん、飛行船乗りませんか?次郎吉おじ様からチケット貰ってて」と園子さんから声をかけられた件。
現在、毛利探偵事務所一階のカフェ、ポアロで私はゆっくりマスターの入れたコーヒーを楽しみながらひと休憩している。
ここでのバイトは忙しさを理由に少し前から休止中だ。
ルパンの業務と探偵業務と組織の任務で普通に時間が取れないレベルになってしまったからな。
少し名残惜しいが仕方あるまい。
ルパンと行動を共にしている時間を「海外を飛び回る探偵」ということで通したら、毛利探偵の弟子ということもあり結構な知名度に結びついてしまったのだ。
あんなに有名な探偵の弟子、海外でも活躍する忙しい探偵、なんてね。
毛利探偵も「すっかり有名になりやがって」とうりうり肘で押してくる始末だ。
「先日は中東のヨルダンで仕事をしてきまして」とヨルダン産の高級ワインを毛利探偵に渡せば、毛利探偵はニコニコ顔でそれに頬ずりした。
ルパンとの仕事だが、まぁそれはそれ。仕事には違いない。
おおー、気がきくじゃねぇか、と毛利探偵も気に入ってくれた様子だ。
日本に帰ってきてから、公安としてシャム猫の動向を調査したり組織の任務をしたりと忙しく過ごしている。
特に公安はおおわらわで、今回のテロ宣言に各方面全力を尽くしている。
降谷さんが伝えた旧シャム猫の現況から、公安もかつてとは別団体の仕業と見て捜査を進めているらしい。
園子さんが興味津々と言った様子で私に声をかけてくる。
「安室さんってほんと多才よね。言葉とかどうしてるんです?」
「知り合いに語学が堪能な方がいるので、その人に教えてもらってます。本当に頭が上がりませんよ」
「へえー、やっぱ毛利のおじさまと違って探偵の人脈も色々あるのね」
「この名探偵毛利小五郎様に向かってなんだと!俺だって刑事時代のツテとか色々あんだよ!」
「蘭から聞いたわよー、おじさま、家のお金をバーで使い果たして生活費が苦しいんだって」
「うっ……それはだな、えーと」
苦しそうに毛利探偵が視線を泳がせる。
ちなみに蘭ちゃんは部活の都合で少し遅れるとのことで、そのためこうして園子さんと毛利探偵、そしてコナン君だけという奇妙な集まりが形成されたのである。
私は飛行船目当てでポアロにずっと張ってたので例外だ。
なお、この話に登場する語学が堪能な知人とはやっぱりルパンのことだったりする。
英語、北京語、ヒンディー語、スペイン語あたりは私も組織で海外任務を繰り返すうち話せるようになったが。
世界各地で行動するルパンについていくためには、現地の言葉くらい使えないと話にならないからな。
話せる幅の広さで言えばやはりルパンは流石の一言だ。
園子さんが「今度の試験のために英語教えてもらおうかしら」と憂鬱そうにため息をついたので、鈴木財閥の園子嬢なら家庭教師ぐらいついているのでは?と思いつつ返事する。
「いいですよ?僕も文法の復習になりますし」
「わぁ!本当ですか!?よければなんですけど、蘭も一緒にお願いできませんか!」
「勿論。一緒に教科書を持っておいで」
おお、どうやら蘭ちゃんを思っての呟きだったらしい。
園子さんにしては踏み込んだ会話だな、と思ってはいたが。
親友のために頑張る女子高生たちの友情は素晴らしきかな。
むすっとしたコナン君が「俺も英語ぐらいできるっての」とぼやいている。
まあ、彼だって英語で推理ショーぐらいできるだろうし楽勝だわな。
じろりとコナン君に睨みつけられ、私は思わずたじろいだ。
「べ、別にきみの彼女を取ったりしないからね?」
「うっせ。どうせあんたの顔面なら組織でハニートラップの任務とかもあるんだろ」
「言いがかりだよ!あるけど、あるけど一般人相手にはしないから!」
「あるんだ…不潔……」
不潔はやめなさい不潔は。
いくら諜報系が苦手とは言え、ベルモットと組むとそういう任務がないわけでもない。
今でこそ私の知名度が上がりすぎでそれ系の任務は無くなったが、昔は顔面の良さから雑魚にハニトラとかは時折あったのだ。
私の弱点なのだが、人間関係の距離感が分かりすぎて使い捨ての親密度上げが苦手なんだよな。
ベルモットには「キティは変に純情よね」と笑われたが、こればっかりは性分なので仕方あるまい。
なお、降谷さんは女性嫌いのためその手の任務を私に押し付けるのが常である。
「俺はパス」って、灰原さんじゃあるまいしパスはなかろう。
「じゃあ、蘭に聞いてからまた連絡しますね!」と園子さんとSNSを交換しつつ。
飛行船の遊覧まであと3日。
私は、帰ったら爪の手入れをしようと思案しながら帰途に就いた。