バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
滝行、という名の滝にあたるのではなく滝を昇っていく修行を敢行中の今現在です。
少し足を踏み外せば断崖絶壁、死ぬしか道はない過酷な道だ。
横ではざあざあと降りしきる滝の水が細かな水滴となって舞い上がり、体と心を冷やしてゆく。
荒々しい岩肌は脆く、手をかければ下手をすればバキリと割れ、細かな石となって落ちていくありさまである。
まさに人が進むには到底向かない地獄の道行きを、身一つで切り開いていく作業だ。
ちなみに、私は五エ門師匠に比べて進むのが幾分楽だったりする。
斬岩技術で岩肌に爪を深く突き立て、ざくざくと雑に上っていくことが可能だからだ。ハーケンの上位互換というべきか。
ようやっと頂上らしき場所にたどり着くと、五エ門師匠はふむと頷いて不自然な三角の形をした大岩の前に立った。
「ここだ。下がっていろ」と低い声で忠告する。
私が素直に下がれば、五エ門師匠は手早く「キエェェイ!」と一声、大岩を真っ二つに切り裂いた。
バランスを失い落ちていく大岩が実にダイナミック。
雄大な自然といった風情を醸し出す。
岩の下にあったのは鉄でできた小さな扉だ。
開ければごくごく浅い窪みの中に、古びたちっぽけな巻物が一つ。
「その巻物が例の、斬鉄剣を越えるという合金の生成方法を読み解くための情報が記されているという?」
「そうだ。これさえあれば、対となる龍の置物が盗まれても用を成さん」
巻物を懐にしまう五エ門師匠に、前々から思っていた妙案を提案してみることとする。
「それなのですが、盗まれないよう読解してから焼却処分してしまえばよいのでは?」
「なに?」
今、この巻物が名も知らぬ悪党に狙われているのは確実だ。
とするなら、知識だけを五エ門の脳内にのみ移し、巻物などと言う如何様にもできる媒体は後草れなく焼却処分してしまえはまいい。
「だが、この巻物に描かれた内容は拙者一代限り持てばいいというものではない。子々孫々残していかなくてはならんものだ」
「それなら、龍の置物を狙っている不届きものを始末してから、改めて巻物の形に仕立て直せばいいんです。なにもずっと口伝しろという話でもないですし」
「それは……だがもし拙者が志半ばで息絶えれば、ここで伝承が途絶えてしまう」
「それは巻物だって消失の危険はありますから、同じことですよ。巻物よりは師匠の方が自衛能力があって強いでしょう?」
そう説得すれば、五エ門も納得したようだった。
何故かムムムと緊張したように震え、そこに記された内容をえいやっと気合を入れて読みだした。
そして5秒ほど固まって、一言。
「分からん」
「い……いや、いやいやいやいや、古文ではありますが、読めるは読めるんでしょう?」
「読めても内容が理解できん。化学か……なんらかの溶液のことについて書いているのだろう」
しまったな、分からないのでは覚えられない。覚えられないのでは意味が無い。
冷静に考えたら単純な方法で分かるんならローラー作戦で突破されてしまうからな。
当時としても相当高度な科学技術でもってその製法の謎を隠したはずだ。
それをまったくの門外漢の五エ門先生に丸々覚えろ、というのも中々酷な話だ。
「それなら仕方ないですよ。別の方法を考えましょうか」
「……うむ」
五エ門師匠はおもむろにすっと巻物を握る手をこちらに差し出してくる。
「お主が読め」
「ええ!?石川の一族の秘伝の巻物でしょう?僕のような部外者が目を通すなんて!」
「お主らとて一族の端くれ。巻物を読む権利はある」
私は思わずたじろいだ。
私達は一族の端くれらしい。良いのかそれで。
しかし押し問答している暇もない。
下から香るように立ち上る悪意からして、もはや襲撃は秒読み段階だ。
「そ、それでは失礼します。緊張しますね……。行きますよ?」
「うむ」
ばさっと巻物を開き、その中身を写真記憶のように書庫へと移していく。
この辺は降谷さんの方が得意なので、私はほぼ眺めているだけだ。
内容は五エ門師匠の言うように、何らかの溶液の製造方法が事細かに記されていた。
どうやらこの溶液の中に龍の置物を入れればいいようだ。
───すごく細かく溶液割合が指定されていますね。作り方も非常に複雑だ……
───そうだな。……ニトロベンゼンを……これは……よし、深層心理内の書庫内に写し終わったぞ。これで問題無いはずだ。
───ありがとうございます。じゃあ、これで巻物を燃やしてしまえば問題ありませんね
よくジンのお付きの時使っている煙草に火をつける用のライターで、無慈悲にシュボッとな。
巻物は小さな小さな炎に喰われ、見る見るうちに小さくなっていく。
残った灰は高所の風に飛ばされて細かな塵となり、そのまま見えなくなった。
『燃えよ斬鉄剣』、完!
「では、帰るとするか。おぬしは今、生きた巻物にも等しい立場の人間だ。拙者が命を賭して守るので、お主もそのような心づもりをしておけ」
「責任重大ですね……まぁ、捕獲されて拷問にかけられようが吐きませんから安心してください───それ、俺はどうなるんだ。───隙を見て逃げ出しますので、ゼロは痛みが届かない深層心理の奥の方に隠れていてください」
私は厳密には憑依者なので、痛みを魂まで届かないようにすることが可能だ。
そのため、拷問や薬剤の使用は特に効果はない。
降谷さんさえ心の奥の方に押し込めて置けば完全自閉タイムが完成し、加えて時間さえあれば魂の力を使っての全力戦闘が可能な万全の守りである。
最近魂のエネルギーがかなり溜まっているので、それを用いて体の各所を強化。
加えて机上の空論ではあるものの、秘技・魂の物質化で魂を装甲のように身にまとい、物理攻撃が可能と思われる。
つまり甲縛式オーバーソウルだね。
まさにルパンの世界観でしか許されないファンタジー具合だ。
もし万が一まじっく快斗の魔女やらルパン劇場版の超能力系の敵やらと敵対することになったら、と考えて最近編み出した技だが。
果たしてうまくいくものか。
どこかで一度試運転をした方がいいのかもしれないな。
そんなわけで滝を降りれば、そこで不意に横合いから奇襲があった。
糸による拘束と爆弾短刀、そして手裏剣の弾幕のお出迎えだ。
悪意による察知で既に分かっていたので、鉄糸は全て私の四肢を拘束する前に切り落とした。
左目に傷がある偉丈夫の忍者、確か名前を幻斎といったか……が私の前に進み出てニヤリと笑った。
「巻物を渡してもらおうか」
「残念であったな。巻物は既に───」
五エ門師匠が正直に巻物を燃やしたことを言おうとするので、慌てて私がインターセプト。
「いえいえ、渡せませんよ。巻物は僕たちがいただきました。貴方たちのような悪意あるものに渡すわけにはいきませんとも」
「身の程知らずの若造だ。どうなっても知らんぞ」
「雑魚に払う敬意はありませんので。悪しからず」
「……ふん、ほざけ。ゆけぃ!」
一気呵成に襲い来る忍者を適当に薙ぎ払う……ことが出来ず、ひょいひょいと避けられる。
この雑魚速いぞ!?攻撃はてんで弱っちいからとくに脅威ではないんだが、素早さが尋常ではない。
流石はルパンに登場する雑魚は格が違う……コナンなら黒幕を張れてたであろう素晴らしい身体能力だ。
動きだけなら初心者だったころの私ほどもあるかもしれない。
この場面でならちょっとばかりお試しも悪くなかろう。
指に這わせるように魂の外殻を纏わりつかせ、硬質化。
私の魂が赤黒く滴る不可視の爪となって五指より伸び行く。
───お、おい。それはなんだ!?お前の心の一部が身体の外に出ている……のか?
流石降谷さん鋭い。内側から見ていてもかなり異様な雰囲気らしい。
若干怯えたように後ずさるのは何にしり込みしてか。この刃は我々の身を守るための刃。怯えることなどないというのに。
さて、試運転と行くとしようか……と、舌なめずりをしたちょうどその時。
そこに現れた、一等濃い悪意の塊。
辺りに急に煙幕が立ち込める。
紫色の煙の中、それでも気配を察知して敵を切り伏せる五エ門師匠に不用意に近づく影が一つ。
「大丈夫かい、五エ門!そして五エ門のお付きの人!」
「その声は…桔梗なのか!?」
美しい和装の女性が歩み出て、私は味方です、みたいな顔をして私達へとほほ笑みかけた。
女忍者、名を桔梗。
実は龍の置物と巻物とを狙う野心家で、幻斎と組んでこちらにワザと入り込もうとしている策師でもある。
桔梗の出現により動揺…したふりをした幻斎達を勢いよく切り伏せ、彼女の案内で近場にある掘っ立て小屋へと急いで向かう。
部外者に見えたらしい私を「ここから先は一族の問題だ。あんたは帰りな」と言って桔梗は追い払おうとした。
これから一族の秘事に当たろうというのだから、ある種当然の配慮だと思われる。
そこで五エ門師匠が進み出てきて、余人には不可解にも思えるセリフを吐く。
「いや、こやつはいい。拙者の弟子だ」
「弟子?五エ門、あんた弟子なんて取ってたのかい?」
「そうだ。呑み込みの早い優秀な弟子だ。一族の末席に加えるには十分な実力もある」
「それは……」
桔梗は若干だが嫌そうな顔をした。
彼女も裏切り者とはいえ一族の誇りを捨てきれていない、という事なのだろう。
それでも、(おそらくは)当主たる石川五エ門と今ここで事を構えても損しかないと飲み込む姿は哀れといえば哀れだ。
「なら、仕方ないね。こっちだよ。あんたは下手な手出しはしないように、後ろに下がってるんだよ」
「勿論です。師匠の邪魔になるような真似は致しません。」
「……いいさ。私が文句を言う立場でもないしね」
一族の裏切り者だもんな。
私が若干内心で生ぬるい顔をしていると、降谷さんが眉間にしわを寄せていた。
───この女、何を企んでいる?酷い悪意の匂いだ。臭くてかなわん
───この程度よくある匂いですよ。今のうちに慣れておかないと、組織のアジトとかで気を失うレベルの悪臭とご対面することになると思います
───なんだそれ不法投棄された生ごみの山とかか???
社会のごみ置き場って言われたら否定できない今日この頃。裏社会ってそういうものでしょ。
なんにせよ。
だからこそ善性や善意が示す爽やかで心地いい匂いが得難いものだと感じるのだ。
・バーボンなオリ主
尽くす系転生男子。実はそろそろ生に疲れている
・降谷氏
人付き合いは深く狭く、何事も感情が重いタイプ
・コナン君
潔癖だが、最近ほろ苦い味も覚えた。
・ルパン
バランス感覚つよつよ男。笑って泣いて、それが人生ってもんよ