バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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異次元の狙撃手②、あるいは夏の田舎の些事

 

 さて、現在はといえば時刻は夕方。

 捜査会議もひと段落ついた帰りのことである。

 

 あれからFBIとの合同の捜査会議があって、私はそこで目暮警部にこってり絞られることになった。

 

 何か言いたげな視線を向けるFBIの面々に気付くこと無く、目暮警部は遠慮なく私に雷を落とした。

 「君は毎度毎度!分かっとるのかね!」と怒号が響き、私はしゅんとするより他無い。

 

 ざわざわと緊迫した空気の漂うFBIが心配そうにこちらを見ている。

 

「銃弾を警棒で弾くことのできる驚くべき技術はワシも分かっとるが、他の客に当たりでもしたらどうなっていたことか!」

「いえ僕、失敗しないので」

「バッカモーン!!!そういう問題か!!まったく最近の若いもんは!コナン君も!安室君と二人で狙撃犯を追うなんて真似をしたのはわかっているんだぞ!」

 

 うげ、とこっそり雲隠れしようとしたコナン君が顔を顰めた。

 リークしたのは私だ。

 一人では死なんよ。死なば諸共…説教は一人で受けると時間が倍になるからな…げへへ。

 

 そこで現れたのは毛利小五郎氏。

 

 後ろからむんずとコナン君をつかんで拳一発。

 ガツンと痛そうな角度でコナン君が頭を押さえた。

 ああ、あれは痛い……。

 と、思ったら私の方にもずんずんやってきて。拳を振り上げ。

 えっ嘘でしょ、私もゲンコツ?

 

 アーーッお止めになって!私は降谷さんの肉体を傷付けるわけにはアーーーッ!

 

 げんこつが炸裂し、私はしゃがみ込んで痛みにうめいた。

 なんという事でしょう。毛利探偵は「ったく、クソガキどもめ…」とお怒りだ。

 29歳にもなる肉体を持つ私もクソガキに入れるのはどうかと思う。

 

 痛みが届かないよう奥の方に引っ込んでいたらしい降谷さんが、良い笑顔で「痛みがおさまるまでは頼んだ」と軽く手を振る。

 サーイエッサー。

 主人格の言葉に否やは無いのである。痛いのに…酷い……。

 

 激高するであろう私を射殺するためか、FBIが皆重心を落として銃に手を伸ばしている。

 凄い緊迫した空気だが、まさに杞憂というやつだ。

 こんな戯れに爪を出したりしないわい。

 

「安室!オメーがそんなんだからこのガキが調子に乗るんじゃねーか!分かってんのか!」

「おっしゃる通りです…はい…毛利先生」

 

 私はぶたれた箇所を押さえながらウィ(はい)と異論なく応えた。

 

 大人として子供を危険から遠ざける、というスタンスを絶対に崩さない毛利先生だ。

 それは間違いなく尊い在り方で、だからこそ敬意を表して今もなお私は「先生」と呼んでいるのだから。

 

 降谷さんが静かに瞳を伏せる。

 

───だが、守っていてばかりじゃ世界のゲームチェンジャーは育たない。人ひとりの人生を使いつぶし、世界を塗り替える逸材を育てることこそが日本を変える一助となる。

───そういう高度に政治的なことに関しては発言を控えたいのですが

───なんだ、お前は僕の味方じゃないのか?

───僕と書いて日本と読む感じのバリバリの右巻きの方はちょっとご遠慮願ってます

 

 同意を拒否したら、バァン!と勢いよく深層心理内の屋敷の扉を降谷さんが閉めた。

 まさか締め出し……違う!私のいない屋敷に大きな日本国旗が掲げられていく!

 なんだこれどうしろと!?

 

───入りたいか?家の中に

───え、ええ…入ってもいいですか?

───入りたければ国歌斉唱しろ

 

 なんでだよ。

 そしてスッと玄関の隙間から手渡されるのは国歌の歌詞カード。

 まさかコレが愛国教育……!?

 

 ひとまず、僕は特定の政党に肩入れする気はありません!!!と言い逃げて表に出る。

 深層心理の奥から「歌うまで家の敷居は跨がせないからな…」などと低い声が響いたが、できる限り聞こえなかったふりをした。

 

 とんだ藪蛇であった。

 

 そんな感じで愛国教育を回避しつつ、無事目暮警部の説教2時間コースを終え。

 私は晴れて自由の身になったのであった。

 

 蘭ちゃんのために一足先に毛利探偵は帰ったから、残っているのは私と一緒に説教を受けていたコナン君のみだ。

 責任をもってコナン君を送っていくと毛利先生と約束しているので、これから車で探偵事務所まで彼を送っていく予定だ。

 

 夜はすっかり更け、暗い街並みに文明の光が煌々と光を反射する。

 

 RX-7の白い車体にネオンが映り込み、淡い色彩となって颯爽と街を走る姿を彩っている。

 私はむすっとむくれるコナン君に話しかけた。

 

「ところで、赤井秀一の様子はどうだい?」

 

 今回の劇場版「異次元の狙撃手」は、赤井秀一とコナン君の連携が重要になってくる一件だ。

 私のせいで二人の仲に亀裂が入っていないかが不安だからな。

 

 コナン君は何を言ってるんだ?みたいな顔できょとんと返事をした。

 

「別に、普通に灰原のこといつも見守ってるみてーだけど。そういやぁ、なんで灰原なんだ?赤井さん、宮野志保との間に何か関係でもあったのか?」

 

 青天の霹靂。

 私は思わず目を見張って聞き返してしまっていた。

 

「え、知らないのかい?FBIから聞いてない?」

 

 原作では来葉峠の一件でFBIからコナン君に事情が伝わっているはずなんだが、その辺が蝶の羽ばたきでなくなってしまっていたようだ。

 私は原作をおさらいするようなつもりで、恐らく知らないであろう情報をコナン君にさらりと渡した。

 

「諸星大…つまり潜入中の赤井秀一は、宮野明美と恋人同士だったんだよ」

「は……えぇぇえええ!!!」

 

 大声に耳がキーンとする。

 「声が大きい!」と降谷さんの注意が飛んで、コナン君は「ご、ごめんなさい…」と小声で謝った。

 

「つまり、死んだ恋人宮野明美を想って、その妹である灰原を守ってるつもりだったってことか?」

「そうだよ。ついでに言えば、組織への目眩ましとして宮野明美殺害のシーンを収めたスナッフフィルムとかFBIに送りつけたりしてた」

「なんて???」

「いやぁ、ジンの目を欺くにはそれが一番有用でね。だからほら、彼女の生存は組織でもFBIでも1ミリも疑われてないんだ」

「何から突っ込んで良いか分からねえ!道理でFBIの人達が緊張してるはずだよ!!!相手は残虐な殺人鬼なんだからな!」

 

 あーもう!とコナン君が頭を掻きむしった。

 すまんて。

 

「オメー、バリバリに勘違いされてるじゃねーか!当然だけど!道理で赤井さんがオメーに塩対応なはずだよ!」

 

 恋人を殺されたと思ってんだからな!と、コナン君が顔を押さえてうずくまる。

 そんな憤らなくても。

 いや、それがしかたない処置だったと理性ではわかっているからこその荒れ具合なのだろう。

 頭のいい人ならではの悩み方である。

 

「───俺は別に日本で違法捜査してるFBIなんぞどうなろうと知った事じゃ無いがな」

「そりゃ日本警察の側からすりゃそんな意見になるのも仕方ねーけどさぁ。つか、あんたらも警察の割に好き勝手動きすぎだろ」

「なんのことか分からないな」

 

 降谷さんが素早くすっとぼけモードに入った。

 地位に任せた独断専行が常だもんな。日本警察側だって迷惑に思ってる自由具合だし。

 

「いや、僕はもうてっきり知ってるものだと思ってたんだ。宮野明美生存は君が知ってるわけだし」

「俺のせいにすんな!あーもー、早く赤井さんに伝えねーと!」

 

 今後の赤井さんへの情報提供について必死で想いをめぐらせるコナン君に、私はそっと囁きかけた。

 

 彼の思いは正しいが、一つ穴がある。

 

「この邂逅は双方にとってかなりのリスクだ。潜入中の一時的でしかない恋人に少し逢瀬の時を与えるだけにしては、危険を冒しすぎている」

「……まあ、な。互いに死んだはずの人間だ。もし万が一バレれば、双方の命の危機だ。今度こそ命を落とすかも知れねー」

「だろう?」

 

 死んだ人間ばかりが集まって、まさにハロウィンの様相を呈してきた私達の集いは。

 その実、見つかった時点で終わりを告げる儚い走馬灯のようなものでしか無い。

 

 もし万が一黒の組織にこれが明るみに出れば、それまでの地位は失せて命は失われ、楽園は荒廃した血の海へと変わるだろう。

 

 私の意地悪な発言に、しかしコナン君は反論もせず飲み込んだ。

 その上で。

 

 光に満ちた強い瞳を私へと向けるのだ。

 

「けど。それが赤井さんの耐え難い傷になっているのなら、俺は会わせてあげたいと思う」

 

 その瞳の強さよ。気高さよ。

 何者にも侵せないまっすぐな倫理観が、夜のネオンよりなお鮮烈に心へと差し込んでくるのだ。

 

 私も降谷さんも、思わず柔らかい笑顔を浮かべていた。

 

 

「なら……そうだな、こういうのはどうだろう?」

 

 

 

 

 

 翌る日。

 灰原と姉である宮野明美の逢瀬のため、遠く県外にある日色探偵事務所への送迎中のこと。

 今回はコナンも付き添いとして一緒に同乗していた。

 

 運転手は沖矢昴。

 未だ恋人の生存を知らぬ、影の残る顔をしたFBIスナイパーだ。

 

「送迎の場所は分かりましたが、いったいどこへ行くんです?もったいぶらずに教えてくれませんか」

「あなたには関係のないことよ」

 

 ツンケンとそっけない灰原に苦笑いしつつ、コナンは二人の間を取り持った。

 

「ま、まあスバルさんも自分の目で見たほうが早いと思うから」

「ふむ。君がそう言うのなら、僕も大人しく楽しみに待っていましょうか」

 

 目的地は比較的田舎と言って相違ない山奥にあり、アクセスは悪い。

 駅まで車で15分のため一応は民家や商業施設はそれなりに揃っているものの、時折猪やらが出没して畑を荒らすこともある。

 

 目的地に着けば、やたらと広い駐車場に車を停め、コナン達は車を降りた。

 日色探偵事務所、という看板の文字が見える。

 

 車のエンジン音でこちらの到着に気がついたのか、引き戸になっている事務所玄関を開けて一組の男女が出てくる。

 

 男の方は無精髭に優しそうな顔立ち。女性の方は美しい長髪に清楚な出たちだ。

 男はコナンの姿を見て顔を綻ばせた。

 

「よ、コナン君に灰原ちゃん。よく来たな」

「しほ……じゃない、哀ちゃん、よく来たわね!」

 

 そっと、コナンは隣にいる沖矢昴の様子を窺った。

 昴はただ無言で、いつもは閉じている瞳を大きく見開いて固まっていた。

 

「は……」

「あ、あんたが送って来てくれたのか。ありがとな」

 

 爽やかに笑う諸伏景光───日色ヒカルに、沖矢は返事もままならない様子だった。

 日色はきょとんと首を傾げた後、特に気にすることもなくコナンと灰原を探偵事務所内に案内しようとする。

 

 それを強い力でコナンの肩を掴むことで止めたのは、沖矢だった。

 

「僕たちは外の空気を吸ってから上がらせてもらいます。コナン君が少し車酔いをしてしまったようで」

「……う、うん。ごめんね日色さん。すこしだけ待ってて」

「そうなのかい?無理はしないで、飲み物が欲しくなったらすぐに言うんだよ」

 

 コナンの頭を優しく撫でて、日色は事務所内に入っていく。

 あの人も、コナンが見た目通りの年齢でないことなど察しているだろうに、小学生へ向ける態度を崩さない奇妙な人だ。

 灰原がコナン達を見て訝しげな顔をしていたが、どうせいつものことだろうとため息をついて踵を返す。

 

 3人の背中が見えなくなってようやく、沖矢は口を開いた。

 

「ボウヤ。どういうことだ」

 

 激情を押し殺したような声に、自然とコナンの背筋も伸びる。

 

「どうもなにも、これがバーボンの真実だよ」

「真実?真実だと?」

「多くの殺人を隠れ蓑に、本当に大切な人だけを逃がしてきた人。血に濡れた手で血まみれの罪を抱えたまま、それでもあきらめなかった人」

 

 彼が、安室透がどのような思いで彼女達を救ったのかはコナンには分からない。

 どのような思いで多くの人々を殺してきたのかも、その血まみれの手に何を思うのかも。

 分からないことだらけだ。

 

 しかし言えることは一つ。

 彼は善性の人間だ。

 

 彼を……正しく形容する言葉を、コナンはまだ見つけられていない。

 殺人が単なる手段に成り下がっても、それでも守りたいものを忘れられない悲しい人。

 外道に堕ちてしまえば楽なのに、それを許さなかったせいで人格を分裂させてしまった高潔な人。

 

 そうして、今も彼は潜入捜査官として任務を全うし、その手を血に染め続けている。

 

「ばかな、明美がバーボンと何の関係が」

「明美さんはバーボンの幼馴染みだよ。まだ母親のおなかの中にいたころの灰原にも会ってるんだってさ」

「!そんな、嘘だろうボウヤ、そんなわけ…」

 

 田舎の森の中に、ひっそりと隠されるようにして建築された掘立て小屋。

 誰にも見つからないように、静かな陽だまりの如き場所。

 

 沖矢は言葉も勢いも失って、ただ立ち尽くしたようだった。

 

「だからここは、大切に切り離されたバーボンの宝箱。秘密の花園なんだ」

「………」

 

 長い沈黙の末。

 

 チッ、と沖矢は鋭く舌打ちした。

 彼がコナン相手にここまで感情を露わにするのは初めてのことだ。

 いつも平静冷静、穏やかな笑みを浮かべている彼らしからぬ様子に、コナンは少しだけ動揺して彼を見上げた。

 

 沖矢は胸元のポケットからタバコを取り出そうとして、「沖矢昴」がタバコを吸わないことを思い出してもう一度舌打ちする。

 

「思考がまとまらん。感情が追い付かないなんざ初めてのことだ。ボウヤ、少し俺は出る。夕方には戻るからここで待っていろ」

 

 荒々しく言い捨てて、沖矢昴は車へ戻り、若干荒っぽい運転で駐車場を走り去っていった。

 

 コナンが一人で事務所へと入れば、心配そうな宮野明美がこちらへと近寄ってきた。

 

「もうコナン君は大丈夫なの?それと……沖矢さんはどこへ?」

「昴さんはちょっと用事だって。夕方には戻るから心配しないで」

「あらそう。お茶も用意したのに」

 

 机には手のつけられていない麦茶が一つ、水滴を垂らしている。

 コナンは沖矢の内心を思い、沈黙した。

 

 

 窓から見える空は青く高く、田舎の夏と同じだけ澄んで見えた。

 




降谷氏「国歌斉唱!」
バボ「きーみーがーぁーよーはー」
降谷氏「音程が違う。やり直し!」
バボ「」
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