バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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異次元の狙撃手④

 

 本日は午後から阿笠博士の実験手伝いである。

 

 私のバングル型の巻取り式フックの整備と、新型警棒の調整があったからな。

 自分の作品がライフルの銃弾をはじいたことを聞いて鼻高々な阿笠博士は、私を伴って連日バッティングセンターに入り浸り、「打ち返す」性能を極限まで高めようと研究を続けている。

 

 また、時折子供達の相手をするのも私の役目だ。

 

 一緒にゲームをしたり、ジュースを運んだりお菓子を補充したり。

 「安室の兄ちゃんも一緒に食べようぜ!」と元太君にポテチを口に突っ込まれるなどしながら、私はまったりと本日の午後を過ごしている。

 

 彼らの今日のゲームは阿笠博士自作のスマブラ風対戦ゲーム。

 格ゲーとかのフレーム単位の読み合いは私の得意とするところなのだが、実際には全力の接待プレイで大敗を喫するにとどめた。

 

 大げさに悔しそうにすれば子供たちの歓声が阿笠邸を柔らかく満たしていく。

 

 私は笑って、悔し紛れに子供たちへ「チャンピオンベルトだ、受け取れ!」と言ってコイン状の大きな平べったいチョコレートを押し付けた。

 子供たちはそれをズボンの間に挟んだり、掲げて走り回ったり楽しそうだ。

 

 くるりと振り返れば、なぜか深層心理内で降谷さんが微笑ましそうにこっちを見ていた。どういう表情それ?

 私5歳児扱いされてるよね絶対。同級生と交流させてる気持ちだよね。

 

 一通り遊べば、次は夏休みの宿題のお時間だ。

 私が算数ドリルの採点・丸付けをしていけば、やはり光彦君が飛びぬけて優秀なことがよくわかる。

 通常この辺は親の作業になるのだが、まぁ少年探偵団の普段の行動を思うに、親たちに貸しを作っておくのも悪くはあるまい。

 

 早々にドリルを終わらせた光彦君とやってられねーと投げだした元太君の要望もあり、早々に次の自由研究に課題は移る。

 

 彼らの夏休みの自由研究は「東都一帯の建物の高さ模型」。

 普通に小学一年生とは思えない超高度かつ手間のかかる内容だ。発案は光彦君。末は博士か大臣か。

 

 あらかじめ私が建物模型用のスチレンボードとカッター、専用のり等を百円均一でそろえてきて机に一人分ずつ並べていってあげる。

 厚紙だとたわんでなんとなく安っぽい見た目になるし、倒れやすいからね。

 

 呆れたように灰原さんがソファに腰掛けながら私を見た。

 

「ほんと甲斐甲斐しいわね、貴方。子供好きなの?」

「どうだろう。子供は嫌いではないけれど、どっちかっていうと凝り性なだけかも。僕も主人格も」

 

 まあ主人格に関していえば「よしよし、よく食べて育って将来の日本を支えていくんだぞ!」的な可愛がり方をする人であることは間違いない。

 私自身も裏表もなくいつも真っ直ぐな彼らを見ていると、元気を分け与えられているような気持ちになる。

 

 総じて、子供好きというのも間違ってはいないかもしれない。

 

 なお、灰原さんの隣で銅像のように思考に入り浸っているのはコナン君だ。

 集中すると周りが見えないというのは相変わらずだ。

 

「しかし……東都の街並み模型を作ろうなんて、少年探偵団は本当にすごいな」

「あら、所詮は子供の発案よ?」

「小学一年生がベルツリータワーから見た写真を使ってビル群の模型を作ろうとか思うこと自体がほぼ天才の所業だよ。君らは17歳だからいいけど、この子らは本当に小学一年生かい……?」

「そ、そのはずだけど…」

 

 ちょっと不安になったらしい灰原さんが苦笑いして子供たちに目を向ける。

 

 最近では灰原さんも結構私に慣れてきたようで、私の持ってきたジュースとかも飲んでくれるようになった。

 

 以前は私がチャイムを鳴らすだけで地下室に鍵をかけてこもってしまうぐらいだったことを思えば、お互いずいぶん変わったのだろう。

 「最近は柔らかい笑い方をするようになったわね」と彼女にも言われている。

 

 カッターを持ったまま走り出そうとする元太君に歩美ちゃんが「危ないよ元太君!」と注意しているのを聞きながら、私は光彦君に話しかけた。

 

「もし角度的に高さが分からない建物があったら聞いてね。僕が覚えてるから」

「え、建物の高さを覚えてるんですか!?」

「記憶力はいい方なんだ」

 

 光彦君の驚いたような声に私は頬をかいた。

 

 正確には深層心理内の書庫に降谷さんと二人でせっせと記していたというだけの話なので、覚えていると言っていいのかはわからないが。

 キュラソーと同じく外部の記憶媒体を使うことなく大容量の情報を扱えるという点では間違いないだろう。

 

「例えば、この高さから見ればね」

 

 ポケットに入れっぱなしだったレゴブロックを極々簡素なビルの模型に見立てれば、光彦君だけでなく歩美ちゃんも元太君も私の方を覗き込んだ。

 

「例の事件の第一狙撃場所はここから構えて、ここ。ってね」

「へぇー、上から眺めるととても遠くに見えますね。こんな距離を犯人は撃ったんですか?」

「歩美こわい……」

「ちょっと、子供達を血生臭い推理に巻き込まないでちょうだい」

「ははは。ごめんね、灰原さん。良い例が思いつかなくて」

 

 と、その時。

 コナン君の携帯電話が鳴り、通話先を見たコナン君が緊迫の表情を見せた。

 もしもし、と静かな声で出る姿に、少年探偵団もなんだなんだと声を潜めて耳を澄ませているようだった。

 

「それほんと、高木刑事!?」

 

 しばらくして電話を切ったコナン君の表情は苦い。

 何か悔いているようなのは、何の手掛かりも無いまま二人目の犠牲者を出してしまったことを悔しく思ってのものか。

 

 私は冷たいアイスコーヒーをコナン君の隣に置きながら話しかけた。

 

「なにかあったのかい?」

「二人目の被害者が出た。今度は狙撃が成功して、即死みたい。被害者の名前は森山仁。自宅に帰ってきていたところを狙われて殺害されたって」

「……なるほど。森山はたしかティモシー・ハンターの妹の婚約者だね」

 

 全然いいのだが、まず第一報を知らせる相手がコナン君ってコナン君何者なんだ過ぎる。

 

 白鳥警部なんかになると、現場でコナン君と会うと同僚と偶然会ったみたいな反応で世間話がてら事件情報を教えてくれるからな。

 高木刑事はもはや上司報告並みにマメに情報共有してくれるらしい。

 

 コナン君は警視庁捜査1課の警部さんだった……?

 私のつぶやきに、降谷さんが「捜査1課は安泰だな。殺人事件は安心して任せておける」と謎の同意を見せたのだった。

 

 

 

 それからは稲光のように事が進んだ。

 2人目の被害者が出てすぐ、3人目たるティモシー・ハンターの死亡が報告されたのだ。

 

 ティモシー・ハンターは今回の最重要容疑者候補。

 その彼がいなくなって、警察は誰を狙っているのか分からなくなってしまったようだ。

 騒ぎ立てるメディアに押され、子供は日中の外出禁止。

 無論、学校も休校。家で自主学習になったとコナン君から聞いている。

 

 無差別殺人という言葉が広まって、東都中がパニック状態で闇雲に傘とかさしだす始末だ。

 

 無責任に無差別殺人というワードを流行らせたメディアを「くそが。徒に世間を騒がせやがって、頭空っぽならわきまえて大衆の場では黙っていろ!」と罵る口の悪い降谷さんがいたりした。

 公安の方も独自でテロの疑いありとして追い始めているらしく、状況は混迷を極めている。

 

 

 その日。

 世良さんと一緒に、コナン君は整備済みターボエンジン付きスケートボードを抱えて探偵事務所の前で血なまぐさい世間話に興じていた。

 

 私はといえば、新しく買ったバイクのお披露目兼今日が事件発生のタイミングだと察してここにやってきている。

 

 車種は省略するが、ホンダのSS(スーパースポーツ)、つまりはスポーツバイクを現金一括払いで購入。

 私は怖くて運転しないので、降谷さんが運転して気に入ったやつをご購入という形である。

 色はもちろんRX-7と同じ白。

 ひたすらに速く走り、レスポンスがいいところが気に入ったそうだ。

 

 見慣れないバイクにコナン君が早速食いついておや、という顔を見せた。

 

「あ、安室さんバイク買ったの?」

「うん。この間の反省を受けてね。これで狙撃を受けても手の届く範囲内なら弾いて防ぐことができるよ!」

「そ、そっか……凄いね……」

 

 若干引き気味なのは一体どういう意味合いか。

 私のアップデートで一番恩恵を受けるのが、私を探偵秘密道具扱いしているコナン君であるだろうに。

 失敬な高校生探偵だ。

 

 隣の世良さんが私を鋭く見つめた。

 探偵らしく探るような、射貫くような冴えた視線である。

 

「あんた、どっかで会ったことはないかな?」

「ん?……うーん、覚えがないな。君は世良さん、だったよね。もしかしてどこかですれ違ったりしましたか?」

「…いや、僕の気のせいだったみたいだ」

 

 世良さんは依然として視線鋭く、私を意味ありげに見て返事をした。

 

 私は本気で身に覚えがない。

 彼女が中学生のころに出会った、とかだとまだまだ余裕が無かった時期になるから私が気づけなかっただけかもしれないが。

 

「ところで何か話しているみたいだったけど、何を話していたんだい?」

 

 真新しいヘルメットを小脇に抱え、私は白々しく聞いてみた。

 どうせ事件のことを話していたのだろうが、この辺は様式美という奴である。

 

「うーん、安室さんならわかる?例の事件、何かピースが足りないような、なぜティモシーが殺害された時犯人は銃弾を外していたのか。なぜあの時だけ違う弾を使ったのか」

 

 何かがひっかかるのに情報が足りないんだ、とコナン君は眉間にしわを寄せたまま静かに答えた。

 ふ、と深層心理内で降谷さんが笑う。

 その答えを、恐らく私たちはすでに握っていたからだ。

 

「情報が欲しいのかい?」

 

 思わせぶりに聞いてみる。

 

 コナン君が電話を見つめて思い悩み、FBIを頼ろうとしていたからの発言だ。

 降谷さんが「FBIにわざわざ情報をくれてやる必要はない」とツンケンとイラついた声色でコナン君を睨んでいる。

 

「何か知ってることがあるの!?」

「───FBIに聞くまでもない。あるとも」

 

 くるりと降谷さんへと代わる。

 雰囲気が変わったのを察したのか、世良さんが驚きに目を見開いた後、真剣な表情でこちらを観察し始めた。

 

「これは公安で掴んでいることだが。ティモシー・ハンターには激しい頭痛の既往症があったそうだ。日本に来てからも病院に通い、効能の強い大量の頭痛薬を処方されているのが確認できた」

「!それって、」

「同時に俺の指示でティモシー・ハンターを病理解剖したところ、脳内に弾丸の破片が発見された。おそらくは昔受けた銃弾を手術で摘出しきれずに破片として残ってしまっていたんだろう。それが原因で、頭痛を発症した。目もよく見えなかったのでは、とは医者の見解だ」

「………シアトルでの第一の狙撃は、ティモシー・ハンターの仕業じゃないってことか!」

「だろうな。ハンターには協力者がいた。奴はもうすぐ第4の犯行に移るだろう。なにせ……」

 

 びりり、と古典的な着信音はコナン君のものだ。

 通話相手はFBI。

 ジョディ・スターリング捜査官からの第一声は、ビル・マーフィーが浅草行きの新幹線に乗って勝手に出て行ってしまった!という内容だった。

 

 新幹線が浅草駅に着くまでにあと5分弱。

 コナン君は時計を確認した後、すぐさま私の声も聞かずにスケボーを急発進させた。

 それにバイクで続く世良さん。

 

 ああ、せっかくバイクを新調したのに置いて行かれた……。

 仕方ない。バイクで追いかけるのもいいが、ここは仕込みに行くとしよう。

 

 電話を取れば、深層心理内で降谷さんが「俺が話す」と一言。

 私はバイクに跨っていつでも発進できるようにしてから降谷さんへと代わった。

 

 ぷるるるる、という受信待ちの無機質な音。

 がちゃり。

 

 降谷さんは相手の第一声も待たずに用件から入った。

 

「赤井秀一。浅草駅前の橋を狙って犯人がビル・マーフィーを狙撃すると思われる。カウンタースナイプは行けそうか?」

『……もちろん。1時間半前に事前に聞いていたんだ。場所取りも準備も十分すぎるぐらいだ』

「ならいい。しくじるなよ。奴に気取られずにスナイプを決められて、かつ取り回しやすく機動力もある戦力はお前ぐらいだったんだ。こんな事今回限りだ」

 

 自分で頼んでおきながらポコポコ怒る降谷さんの理不尽さよ。

 

 ジャック・ウォルツとビル・マーフィーは、あらかじめ公安の刑事に見張らせていたのだ。

 だから1時間半前にはすでにビル・マーフィーが新幹線に乗ったのは把握済みだった。

 

 米国の立場もあり、正式にFBIによる狙撃要請が出てしまえば否やとは言えない日本の弱きことよ。

 だったらせめて、と赤井秀一(沖矢昴)を選んだが……降谷さんの自己満足でしかないあたり、悲しき国家権力の差である。

 

 今日ずっと降谷さんが不機嫌なのはこういう事情もあったりするのだ。

 哀れという勿れ。

 

 さて、あとはバイクで彼らへと追いつき、無謀にも射線上へ飛び出したコナン君を守るだけだ。

 新幹線と狙撃地点との間にある橋で必死で片手を振るコナン君は、すでにレーザーサイトがゆるゆると登っていくところだった。

 

 雑魚が、コナン君を狙うなんて分不相応なことだ。

 

 バイクから飛び降り、コナン君を狙う一発目を警棒で弾く。

 次いで忌々しげに私を狙う揺れる二発目も軽々弾き、そこでようやく犯人は動揺したようだった。

 3発目、4発目と私を狙い、全弾弾かれてやっと状況を把握したのだろう。

 犯人は立ち上がって双眼鏡を構えたらしい。

 

 これが赤井秀一なら一発撃って弾かれた時点で撤退するだろうに、判断の遅いことだ。

 ティモシー・ハンターに教えを受けてはいるものの、実際に仕事をするのはこれが初めてだろうから仕方のないことだが。

 

───いけ、FBI。たまには役に立って見せろ

 

 降谷さんの声無き言葉が深層心理にこだまする。

 

 ごめんねコナン君。今回は事件が大きくなり過ぎた。

 米軍が絡んでいる以上、国際関係における日本の立場からしても、犯人が生きていられる道理は無い。

 

 棒立ちの私を再度、レーザーサイトが狙って。

 

 ばたん、と。

 ケビン・吉野は脳天から血を吹き出して倒れたのだった。

 

 

 茫然として「まさか、」とこちらを見るコナン君に、私はそっと微笑みかけた。

 

「オールクリア。やっぱりいい腕だよね、赤井秀一───だが所詮、狙撃しか能のないFBIだ」

 




赤井「主人格の方の降谷君はなかなかに尖った性格をしているな。どうやってアレから人付き合いの上手いバーボンが生まれたんだ?」
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