バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

85 / 333
沈黙の15分③

 

 さて、今日は複数日に渡って開催されるスノーフェスティバルのうち、ダム建設5周年を祝う記念式典が開かれる日だ。

 

 8年前に事故で植物状態になってしまっていた冬馬君が目覚めたらしいと言う話を聞きつつ。

 もうすぐ時刻は雪の散歩、スノーシュートレッキングの頃合いだ。

 

 スノーシュートレッキングは、スノーシューという特別な雪上靴を履いて楽しむ山歩きだ。

 

 目標地点は北ノ沢村近くの湖で、この時期は白鳥観察もできるらしい。

 天気は朝方雪が降っていたものの、その後降りやんで今は快晴。

 昨晩の雪で樹氷もできていて、実に美しい一面の雪景色となっていた。

 

 朝食前に雪の中で転げまわる子供たちの面倒を見ながら、私は時折雪合戦につき合ったりなど朝から忙しく過ごした。

 子供たちの投げる雪玉を警棒でわざとらしい大ぶりの動きで弾き落とせば、「警棒はズルいですよ!」「安室のにいちゃんも正々堂々勝負しろよな!」と非難ごうごうだった。

 

 「ふっふっふ、僕に爪を出させるような一撃を期待しているよ、少年探偵団の皆」とラスボス風味にゆったりと両手を広げれば、余計に盛り上がってわーきゃーと雪玉づくりに精を出したようだった。

 

 「安室さんもよくやるよな」「子供たちも満足そうだし、いいんじゃないかしら」とコナン君と灰原さんが遠目であたたかい缶コーヒーを飲んでいる。

 保護者の貫禄凄いですね……。

 

 と、そんな感じでスノーシュートレッキングはわちゃわちゃとした空気で始まったのだが、道中で予定通りに事件が発生した。

 

 昨晩のロッジでひき逃げやらダム建設反対やら、死ぬほど辛気臭い話をしていた一団のメンバー、氷川さんが死亡しているのが発見されたのだ。

 

 雪原でポツンと一人座り込んでいるようにも見える死体だったが、私はすぐにそれが死んでいることは理解できた。

 昨晩見た時に感じた気配も悪意も、全てがまるですっかり洗い流されたかのようになくなってしまっていたからだ。

 

 私の気配探知も悪意探知も、死者には効果が無い。

 

 コナン君が私をちらりと見て、静かな声で問いかけてきた。

 

「安室さん、この死体はまだ死んでそこまで時間も経ってないはず。犯人らしき気配は感じられた?」

「いや。僕の感知範囲に入ったころには既にこの人は死んでたし、それらしい気配も無かったと思う。入れ違いになったんだろうね」

「ロッジから誰が出たかはわかる?」

「何人出たかはわかるけど、誰が出たかはわからないな。子供ならともかく、大人の気配はよほどのことが無い限り皆一緒に感じられるから」

「そっか……手掛かりなし、か」

 

 よほどの気配を持つ銭形警部とかなら分かるんだが、それ以外はヒヨコの雄雌を見分けるに等しい難しさだ。

 それで不便を感じたことはなかったけれど、やはり今後のことを考えて個人判別のための感覚を鍛えていくべきか。

 

 などとコナン君と会話していたら、毛利探偵が「分かったぞ!このトリックが!」と騒ぎ立てている。

 もうその声色を聞くだけで間違っていることが理解できるの、凄く毛利探偵という感じだよね。

 まだ推理を聞く前だというのにコナン君が呆れた顔をしている。早いって。まだ聞いてみなけりゃわからないでしょう。

 

 この死体の謎は1つ。

 足跡は被害者のもの一種類であり、被害者から離れていく足跡は何もないこと。

 普通にみればスノーシュートレッキングの途中で心臓発作を起こし、孤独に一人亡くなったとしか見えない状況だ。

 

 そこで毛利探偵の主張はこう。

 

 何らかの方法で殺した氷川さんを犯人が背負ってここまで来た。

 そして死体を降ろし、自分の付けた足跡をうしろ向きにたどるように戻っていった。

 

 自分でつけた足跡を戻る行為はバックトラックと言って、ウサギなどに確認されてはいるが。

 人間の目から見て違和感を覚えないほどの精度で行うなんて、流石に犯人の身体能力がお化け過ぎるんじゃなかろうか。

 

 「安室、ちょっとそこでやってみろ!」と毛利探偵に言われるものの、そりゃ私を選定するのはズルじゃなかろうかと思うのですよ。

 おもわずちょっとジト目になって、毛利探偵をじろりと見てしまう。

 

「僕ならできますけど、一般人にできるとは思いませんよ……?」

「そ、そうか?」

 

 私は死体代わりに毛利探偵を背負い、その場でついついつい、と雪にできた靴底の柄を寸分も崩さずにバックトラックしてみせた。

 おお!と子供たちが歓声を上げる。

 元太君がすげーすげーと私の周りを駆け回っていて、なんともテンションの高い大型犬のようだ。

 

 どうも私がフォックステイルだと明かしてから、子供達の好感度がストップ高なんだよな。

 

 鼻高々の毛利探偵が私の背でエヘンと咳払いした。

 

「俺の推理も不可能ではないという事だな!」

「それはさすがにズルいんじゃないかしらおじさま。安室さんができるってんなら、銃弾を警棒で弾くのも可ってことになるんじゃない?真さんじゃあるまいし、それはちょっと無理があるような…」

「園子の言う通りよ。お父さんが自分でできるかの基準で考えたほうがいいと思う」

「ぐぬぬ…」

 

 秒で女子高生組にぼこぼこにされ、毛利探偵はしおしおと小さくなってしまった。

 あと京極真なら銃弾弾けるみたいな言い回しで少し笑ってしまう。専用のメリケンサックとかはめればできそう。

 

 というか正直、バレエ選手がその身体能力を生かして走行中のジェットコースターの上でターゲットへとピアノ線を引っかける、がトリックとして許されるなら、割と何でも許されるような気がしないでもない。

 犯人の優れたバランス感覚で完璧なバックトラックを成功させた。全然ありでは?

 

 私が下らないことを考えているうちに、トリックを考えていたらしい降谷さんが大きなため息とともに悪態をついた。

 

───くそ、どこのどいつだ、俺たちの癒しの時を殺人事件なんかで遮ったのは!

───悪意の方向性から考えるに。ひき逃げ犯の山尾さんが犯人でしょうね

 

 現場こそ気配探知範囲外だったものの、昨晩の山尾さんは凄まじい悪意を氷川さんへ向けていたからな。

 もし殺人を犯すとするなら彼だろう、という決めつけに近しいものではあるが。

 

 降谷さんが深層心理内で眉間にしわを寄せたようだ。

 

───正直、皆が皆少なからず悪意があってよくわからん。俺にはまだ悪意の方角なんて掴めないしな

───なら同、

 

 まで言ったところで、キッと降谷さんが私を睨みつけた。

 

───同化しようなんざ考えるなよ。俺は俺自身で力を身につけてみせる!

───……わ、わかりました。でも、その、一時的に同化するだけなら悪い選択肢じゃないと思うんですが

───あ゛???

 

 そんなキレなくても。

 

 そこで、私は偶然を装って犯人の胸ポケットから昔の新聞記事のコピーを取り出した。

 どちらかと言えば降谷さんに見せるような気持ちでその記事を読み上げる。

 

「銀行強盗事件……日付は八年前か」

 

 コナン君と降谷さん、2人が同時に目を細めた。

 布石設置完了、ってね。

 優秀な探偵である二人は、もうこれだけでほとんど事件の真相が読めたようなものなのだろう。

 

 原作知識が無ければ私なんて「なんのことですかね…」にしかならないというのに、頭のいい人というのは羨ましいものだ。

 

 

 

 

 

 午後。

 8年前に事故に遭ってからようやく目覚めた中学生、冬馬君をつれて四人でどこかに行こうとする少年探偵団の後ろ姿を見守りながら、私は山頂付近の北ノ沢ダムへ借りたスタッドレスのレンタカーでもって出発した。

 

 この後、少年探偵団たちは8年前に妹を車道に突き落として殺してしまった犯人に猟銃で追い回されることになる。

 

 怖い思いはするだろうが、相手は子供たちを殺すつもりはないから大人からの逃走訓練としてちょうどいい。

 彼らは彼らで修羅場をくぐる回数も多いのだから、こういう身を守るための経験は重要だろう。

 

 降谷さんと共有する表向きの北ノ沢ダムに向かう理由は「犯人の後を追うため」。

 

 気配を通じて彼の行動を観察していたのだが、今朝になって不審な動きがみられた。

 それで、北ノ沢ダムへと向かう犯人・山尾さんの後を追って私達も北ノ沢ダムに向かおうという話になったのだ。

 

 10分ほどして北ノ沢ダムに着いた頃には、遠くで煙が上がっているのが見えた。

 

 携帯の基地局の爆破があったようだ。

 本当にテロリズムのお手本のような犯行である。

 基地局をつぶして連絡を取れないようにした後、満を持してダムを破壊して式典の開かれた北ノ沢村を丸ごと潰す。個人犯だという事が信じられない凄まじさだ。

 

 さて、本命であるダムの爆弾の解体のため、山尾さんの後を追うように私たちはこっそり忍び込んだ。

 

 守衛室にいるダム職員2名はすでにスタンガンで気を失わされていた。

 手並みが鮮やかすぎる。黒の組織でも十分やっていけるレベルの逸材だぞこれ。

 

 そこでようやく気が付いたのか、降谷さんが青ざめた表情でこちらをぎぎぎ、と油の切れたロボットのような動きで見てくる。

 

───おい。まさかとは思うが

───そのまさかでしょうね。宝石強盗で得た宝石を発掘するためだけに、ダムをぶっ壊そうと。そういう事でしょうね

───嘘だろう!?!?そんな馬鹿な、頭がおかしいのか!?

 

 まさに頭がおかしいのだろうな。コナン世界の殺人犯だし多少は仕方なかろう。

 

 ダムの中を急いで確認すれば、出るわ出るわ爆弾の山。

 降谷さんの顔色はすでに土気色だ。

 10を超えて20、30。

 

 って、多すぎるんだが!この短時間でどんだけ仕掛けたんだよ!?

 多くて十個程度かとふんでいたんだが、ちらりと確認しただけで30は下らない。

 

 しかも角を曲がったところで犯人と鉢合わせ、「てめぇ!ここで何やってやがる!」と叫んでナイフで切りかかられた。

 

「それは僕のセリフですけど!?」

「グゲァッ!?」

 

 軽い回し蹴りで一発KO。

 これでこれ以上の爆弾設置は防げたと見ていいが…本当に手際良いなこいつ!

 

───爆弾は時間制限付きで起動済み。たぶんあと10分も無いと思うんですが、全部解体できますか!?

───基本的には不可能、俺に分身の術が使えたらその限りではない、ぐらいの話だ!

───つまり無理ってことですね!

───お前こそ切って解決できないのか?

───切ったら下手したら爆発しますね……師匠でも爆弾は導火線以外切りませんよ…

───せめてさっきの人員を退避させるぐらいしかやれることはないか!基地局がつぶされたから下に連絡ができないのが痛すぎる!

 

 退避するため巻き取り式フックを使ってダム外周へと飛び出て、最短距離でダム外へと出る。

 一応犯人も背負って避難すれば、外には少年探偵団を連れたコナン君が私のことを犯人追跡メガネで確認していた。

 

「安室さん!いったいどうしてここに!」

「爆弾の解体をしようとしてね、あまりの数に撤退してきた。君たちの方はどうしてここへ?」

「山尾さんが仕掛けたであろう爆弾がここにあるって気が付いたんだ。まさか安室さんもそれを解体に来ていたなんて。それに、こんな短時間でそんな量がしかけてあったの?」

「ああ。手の届きにくい外壁部にずらりとね。───小型のものがやたらめったら数だけ多く設置してあったんだ。面倒くさいことしやがって」

「ならダムは…!」

 

 時間だ。

 爆音とともに大きく建物が揺れ、ぱらぱらと砂埃が舞い落ちた。

 爆破されたダムの壁が崩落し、その間から水が噴き出してくる。

 

「始まった!」

「テロ阻止失敗か。最悪だな。僕の甘さが招いたミスだ───それを言うなら俺もだ」

 

 ひとつひびが入ってしまえばあとは雪崩式に崩れていく、ただただ莫大な質量という雄大さよ。

 ダムの水はその圧倒的なまでの水量で脆い文明の壁を吹き飛ばしていく。

 

 もはやどうにもならない。そう思える自然の猛威を前に。

 

「……ちっくしょう!やるしかねぇ!」

 

 ただそれだけで動くことのできる幼い正義を、どうしても私たちは応援したくなってしまうのだ。

 ターボエンジン付きスノボーで飛び出すコナン君を、私はまばゆいばかりの想いで見つめていた。

 

 急いでレンタカーを使って追いかけないと、15分というタイムリミットに間に合わなくなる。

 

 ダム職員さんを急いで起こし、少年探偵団の皆を預けて急いで下に向かう。

 「あんた、どこ行く気だね!?」と叫ばれたが、「コナン君を、下に行った子供を追います!」と言って走り出す。

 下に見える荒れ狂う水はとても人類に止められるようなものには見えなくて、ぞっと思わず背筋が寒くなる。

 

 レンタカーで走り出して3分もすれば、道中で大きく雪崩が起きているのが見えた。

 流石に、無茶がすぎるよコナン君。

 

 雪崩を起こしていたのは途中にある閉鎖されたスキー場だ。

 そこに積もった新雪を思いっきり地滑りさせたのだろう。

 雪がダムの水の流れをほんの僅か、左にずらしている。

 それだけで北ノ沢村は救われるのだ。

 

 旧スキー場に到着してすぐ、私は園子さんに怒鳴りつけるように声をかけた。

 

「15分経つまであと何分ですか!コナン君でしょう、探しているの!」

「っ安室さん!いいところに来たわね、あと9分よ!あのガキんちょを探して!」

「僥倖です。まだまだ時間はある」

 

 9分。十分すぎるぐらいだ。

 

 崩れた新雪に軽く飛び乗って、感覚を研ぎ澄ませる。

 

 これが土砂でも、瓦礫でも、もうもうとした火災の煙の中でも。

 遮蔽物を無視して気配を感知できる能力が私にはある。

 消えそうな命の気配が手に取るように感じられて、私は冷たい汗が背筋に伝うのを感じた。

 

 右、8メートル先。深さは40cmほど。ごく浅いところにいるようだ。

 

 ざくざくと進んでいけば、先に探していた毛利探偵達の必死そうな顔が胸を穿つ。

 「お前も探せ!」と雪をかき分ける毛利探偵の横を通って、ある一点で立ち止まる。

 

「ここですね」

「……安室?」

 

 一気に雪をかき分ける。

 こんな冷たい雪に埋もれて。これを英雄の最期になどさせないから、安心してくれ。

 

 ピンポイントで掘り出せば、そこにはコナン君の姿が見えた。

 

 駆け寄ってきた蘭さんが冷え切ったコナン君の身体を抱きしめる。

 幸いまだ意識はあったようで、「蘭、ねえちゃん……?」と虚ろな声を出した。

 

 私はほっと息をついて、彼に苦言を呈したのだった。

 

 

「まったく、君は。自らを顧みないにも程があるよ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。