バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
初めての試み。
時刻は午前6時。
あんな事件があった後でも朝は来るし腹は減る。
普段通りに降谷さんが走り込みをしていると、ふと通りかかった杉並公園でコナン君を見かけた。
どうやらサッカーの練習をしているようだ。
練習相手は……あのレジェンド、キング・カズだった。
思わず二度見したが、本物のようだ。
道理で嬉しそうに練習しているわけだ。
コナン君専用の天国というか、あんな嬉しそうなところ初めて見たわ。
邪魔しちゃ悪い、とくるりと踵を返して見つからないうちに杉並公園を後にする。
今邪魔したら7代に渡ってコナン君に恨まれること確定だからな。
工藤新一の生き霊が肩に取り憑いて「キング・カズとの…練習ぅぅう」って囁くんだ。面白いかよ。
などとくだらないことを考えつつメゾン木馬───建て直された木馬荘だ。畳敷なのが降谷さん一押しらしい───に帰れば、そこに待ち構えるように先客がいた。
特徴的な季節お構いなしのハイネックに、淡い髪色の大学院生。
厚手の服でわかりづらいが、がっしりとした体格は隠しようも無い。
「よお、安室君。今少しいいか?」
「───帰れFBI。話すことは何も無い」
開幕塩対応の降谷さんがシッシッと犬でも追い払うような態度で手を振った。
日本で大きな顔して違法捜査するFBIがほとほと気に食わないらしい。
「そう言うな。正式な、とは言わずとも内々で捜査は認められただろう?」
「上がグダグダ言ってきたから仕方なく、だ。他国で好き勝手しやがって。これだからUSAの奴らは嫌いなんだ」
「そうか。まぁ個人の信条は色々あるからな」
大人な赤井さんは苦笑して欧米らしい仕草で肩をすくめた。
降谷さんのイライラが加速する。
埒が明かないな。
「───それより、僕に何の用かな。沖矢昴」
「!君は…バーボンか」
「そうだよ、それで何の───違う、バーボンなんてコードネームで呼ぶな、安室と呼べ───ゼロ、外見上凄くややこしくなるので割り込まないで」
中々に険のある声で降谷さんが割り込んだ。
独り言を言いまくる人みたいになった私を、赤井さんは「君たちは本当に面白いな」と興味深そうに観察している。
いいから早く用件を答えて欲しいんだが。
というか、バーボンでも安室でもどっちでも良くないか?
私と降谷さんを区別できればそれでいいのだし。
「君らは意外と仲が良いようだが、一体どう言う理屈なんだ?組織で活動するために作られた快楽殺人鬼の人格と、警察官である主人格は本来相容れないはずだが」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕は別に好き好んで殺してませんが!?───そうだ今すぐ失せろ無神経なアメリカ野郎が」
「……?いわゆる、苦痛を引き受けるために人格が作成されたのだろう?なら…いや、そうか。生贄役の人格がそれを苦痛に思うパターンも多いと聞いたな」
うんうん頷いて赤井秀一は納得したようだった。
「治療する気はないのか?君ほどの捜査官が精神疾患をそのままにしておくのは勿体無いだろう。良いドクターに伝手がある」
「結構だ!!!俺達はこのままでいいと妥協してるわけじゃない。このままが良いと選んでるんだ!」
「そうか。まぁ、多重人格を上手く捜査に活かせるならそれもありだな。だがコンディションの確認のためにも定期的な受診をおすすめする」
相変わらずのマイペース具合だ。
全部親切心で言ってるのは分かるのだが、その全てが降谷さんの逆鱗に触れてるあたり、もはや何かのコントのようだ。
それにしても、降谷さんの方もなんだか随分と頑なだ。
何かに怯えているような、ハリネズミが外敵に棘を向けるような奇妙な荒々しさがある。
別に赤井さんの言っていることは間違っていない。
治療はともかく、定期的に診断を受けることで「対外的な私たちの状況」を公安上層部に伝えるのは非常に効果的だ。
なにせ私たちは現在、表向きは無治療かつ重度の精神疾患を抱えた潜入捜査官とかいう超特大爆弾なのだ。
その上で行き過ぎた犯罪行為、殺人、窃盗などなどその罪は数え切れない。
上層部にとってみれば、私達は切りたくても切れない超級の負債となってしまっている。
治療を定期的に受けると言うことは、私達への接触を容易にして首輪をつけることにも等しい。
医師には公安の息のかかったものを配置して、有事の際は動かすことも可能。
上層部の安心材料としてはかなり上等な代物だろう。
───ゼロ、何をムキになっているんですか?別に私は、
───お前は俺のものだ!前言を撤回するのか!
───い、いえ。そういうわけではありませんが
おやおやおや?
何だか降谷さんの様子がおかしい。
私は降谷さんと約束したわけだし、もう彼の元を離れる気はない。
彼が生涯をまっとうするまでその補佐に努めようと決めている。
だというのに降谷さんはまだまだ不安なようで、全身の毛を逆立てた猫のようだ。
この上で何が不安なのだろうか。彼は何を考えているのだろうか。
苛立ちが限界を超えたらしい降谷さんがギリギリと歯軋りをしている。
歯が欠けるからおやめになって…!
「精神科医ごっこなら他でやれ、赤井秀一。これ以上囀るなら縊り殺してやる」
「……OKOK、降参だ。この話はやめにしよう。俺も君とこの距離でことを構える気はない」
「───それで、用件は何なんですか。良い加減僕らもシャワーを浴びて服も着替えたいですし」
「それはすまなかった」と表情の読めない糸目で言ってから、赤井さんはホールドアップの体勢だった腕を下ろした。
「なに、昨今世間を騒がせている爆弾犯について情報が欲しくてな。彼女も比護選手のファンだろう?万一の可能性は潰しておきたい」
「…まだ今の所は犯人からの声明文は来ていません。場合によっては灰原哀の身に危険が及ぶ可能性も否定できない」
「そうか。なら情報が来たら俺にも回してくれ。すぐ動けるようにしておきたい」
私は少しばかり予想外で、パチクリと瞬きをしてしまった。
「というか、コナン君に教えて貰えばいいじゃないですか」
「聞き返すが。彼がホウレンソウをわきまえた男に見えるか?」
「失言でした。忘れてください」
そうだ、そう言うことだったのか!とか言って電話も忘れて飛び出す姿が目に見えるようだ。
私ははぁ、とため息をついて「また続報が来たら連絡します。それでは」とだけ言ってメゾン木馬の階段へと足をかけた。
「またな、安室君。体にはくれぐれも気をつけて」
「ええ。ありがとうございます。貴方もタバコの吸い過ぎは───お前にそんなことを言われる筋合いはない。早く失せろ」
ふっと笑って赤井さんが去っていく。
どうやらここまで徒歩で来たようだ。てくてく歩いていく姿がどことなくしっくりこない。
降谷さんが黙ったまま、深層心理内でこちらをチラリと窺った。
───さっきは、悪かった
───何がです?
───お前を怒鳴りつけた
───ああ、そんなのいいですよ。ゼロも落ち着きましたか?
また沈黙。
なんだか言葉を探しているように見える。
口を開けては閉め、どこか酸欠の魚のような苦しさが伝わってくる。
降谷さんは目線を逸らした。
───ああ。お前のおかげだ
───……
少し、降谷さんが眠っている間を狙って思考を見てみるべきか。
・降谷氏
実は生きている親友は諸伏景光のみ。
親しい人を何もできず失くすのがトラウマになっている。