バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
連続爆破犯から次なる予告状が届き、騒然としている毛利探偵事務所よりお送りします。
予告状を受け取ったのは今朝、発見者は蘭ちゃんだったようだ。
『次は前回よりもっと多くの人達がその場で爆発を目の当たりにし、恐怖の時間を共有する羽目になるだろう』と書かれたシンプルな手紙が一枚だけ。
消印が無く、犯人が直接投函したと思われる。
現在は高木刑事が近くの監視カメラをあたっているらしい。
毛利探偵が「ちくしょう!ふざけやがって!」と憤りをあらわにしている。
この人はこの人で正義感が強いから、こうして多くの人を巻き添えにするような犯人は許しがたいのだろう。
相変わらずなぞかけに精を出している爆弾犯にイライラな降谷さんが、それでも陰りない頭脳で目を細める。
「───共有する、か。毛利先生、Jリーグを候補から外すのは早計かもしれませんよ。なにせ同じ場所、とは言っていない。その場で、と書かれていますから」
「ん、どう言うことだ?」
「例えば分散を合計して8万人を超えればいい。当日行われるJリーグは全試合同時開催ではありませんでしたか?」
「合計すれば…10のスタジアムの観客数は8万人以上…!」
目暮警部があえぐように息を呑んだ。
だとすれば、犯人の執念はとんでもない。1個の会場にバレずに爆弾を仕掛けるのと、10の会場に仕掛けるのとでは手間も難易度もけた違いだからだ。
犯人はよほどサッカーか、それを見る観客かを恨んでいると見ていい。
コナン君が眦を強く、挑戦的に睨み上げるように声を上げた。
「なら、犯人はサッカー、もしくはJリーグを狙って犯行に及んでいると言うことだね!」
「くぉら小僧!まだヨーコちゃんの出るコンサートが狙われていないとも限らないだろうが!」
「えぇ…でも…」
「ガキが口出すんじゃねぇ!」
しかし、今回は私の出る幕は何もなかったな。
降谷さんはノーヒントで犯人の思惑を読み切ったし、コナン君もいるのだからもう何も心配することはないだろう。
私はソファから立ち上がり、少し凝っていた肩をくるりと回した。
視線が私に集まる。
「僕は少し出るよ」
「……安室さん?」
「少し外の空気を吸いたくてね。すぐ戻るから心配しないで」
そう言い置いて、訝し気なコナン君を置いて2階探偵事務所から出て1階のポアロ手前まで軽く歩く。
スマホを取り出せば、すぐに私の意図に気が付いた降谷さんが眉間にしわを寄せた。
───あんなやつに教える必要はない。あの無神経FBIならどうせコナン君から教えてもらえるだろ
───まあまあ。志保さんの安全のためですので
表示する番号は沖矢昴のものだ。電話して先ほど来た予告状の内容を手早く伝える。
彼の返事は「万一に備えて準備する」とのことだった。
今回狙撃の出番は薄そうだが、あって困るものでもない。
短い通話を終え、私はポアロの壁にもたれかかって街並みを眺めた。
人通りは少ない。
この時間帯はポアロの前は車通りも人通りも極端に少なく、ただ閑散とした静けさだけが満ちている。
降谷さんに私はおもむろに声をかけた。
───ゼロ、ちょっと額を当てて思考を共有してもらってもいいですか
───ブッ……な、どう言う風の吹き回しだ?
互いの思考が赤裸々になるため、流石の私たちも早々にはやらない秘技中の秘技だ。
降谷さんの考えていることを知るためにはこそこそするよりもノーガードでぶち当たったほうがいいと判断した。
その方が手間も無いし誤解も防げる。
───ここ最近、ゼロは調子が悪いでしょう?貴方の悩みを知りたいんです。代わりと言ってはなんですが、僕の内面も探っていいですから
───……本当に、見ていいんだな
───ええ。気の済むままに
───わかった。なら、見てもいい
向こうも私の内面について知りたいことがあると踏んでの取引だ。
ここのところ私を遠目から観察している様子を見るに、相手の内面を知りたいのは降谷さんも同じのはず。
私達は深層心理の奥深くで額を当て合い、静かに目を瞑る。
防壁を一つ一つ脱いでいくイメージ。
その柔らかい心の袂、心理の底を相手に曝け出す感覚。
私は降谷さんの頑なな心の内へと飛び込んだ。
ぐるぐると落ちていくような独特な感覚は、心地よくもどこか深い沼にとらわれるような錯覚がある。
そうして。
私は彼の内側へと入り込んだ。
そこに足をつく感覚はただのイメージに過ぎないが、それでも自らの安定には役立つ。
中を見る。
上に広がるのは幸せと明日への希望を詰め込んだ前向きな部分。
その下に沈む暗い暗い感情が、ひたひたと足に纏わりつく。
彼の感情はまるで何かで切り分けたかのように二極化していた。
そっと下の澱みに手を伸ばせば、ヒヤリと冷たい感触が肌を打つ。
───恐怖。そして自己嫌悪、か
まず恐怖。
私を失うこと、諸伏景光を失うこと、失敗すること、一人になることに怯え恐怖し厭っている。
次に自己嫌悪。
何もできなかった己に失望する心。無力感。己に対する信頼の喪失。
ようは、大事な人を自分一人で守り切れる自信がまるでなくなってしまっているのだ。
だから私を求める。
私という守った実績のある人物に縋って、なんとかそれで失う恐怖から目を背けていられる。
そういう状態なのだろう。
だからこそ私を失うことを極端に恐れる。
そこから雪崩式に全てを失って、ついにはひとりぼっちになるのではないかと。
何も成せずなんの意味もない無価値な男に成り下がるのだと。
そう思っているのだ。
私は驚いた。プライドの高い降谷さんが、まさか自分に失望していただなんて思ってもみなかったからだ。
この湖の如く一面に広がる深い負の感情は、同時に彼の自己嫌悪の深さを物語っている。
と、そこでさらに感情の海に波が立った。
恐らくは私の心理に触れて私の心のうちを理解したのだろう。これでこの恐怖も少しは紛れて……。
何故さらに無力感が増える!?!?
どばどばと上から滝のように降って来た雨は、刺すような冷たさで激しい自己嫌悪を私の中に叩き込んでくる。
待て待て待て寒い寒いここ感情の深層だから建物とか何もないんだよ!
降谷さんの声が深々と空間に響く。
───お前に、俺は酷い仕打ちをした。許されざる裏切りだった。幼子に鞭打つ非道だった
───ゼロ、一体なんのこと…
感情が全部死んでしまったかのような淡々とした声だ。
───俺だろう、お前を否応なく組織で過ごさせて、多くの苦痛を、悲劇を与えて来たのは
はは、言葉にすると随分と薄っぺらく聞こえるな、と降谷さんがひび割れた声色で独白した。
───その上で、お前はまだ俺のことを信じてる。尽くしてる。共に歩もうとしてくれる。……俺がそう望んだからだ。全部全部、おんぶに抱っこなんだ
───待ってください、それは
───ありがとう。俺を見捨てないでくれて。これからもずっと共にいてくれ。どうかお願いだ。頼む。俺は…
ダメだこれ!降谷さんの精神はズタボロだ!
凄まじいまでの激重感情で降谷さんがこちらへと微笑みかける。
ほぼほぼヤンデレじゃん???落ち着け、話せばわかる。落ち着くんだ。
降谷さんが私の肩を掴む。
強く優しく、餓鬼のような必死さと飢えを感じさせる所作で。
ホラーかこれ?
赤井さん並みのディスコミュニケーションでも連発すれば距離感を取り戻せるか…?
一朝一夕で解決する問題ではなさそうだ。
これからゆっくり、時間をかけて彼の壊れ切った自信を取り戻させていかなければならない。
そうしなければ、いつか必ずどこかで破綻がくる。
私は降谷さんの手を取り、安心させるよう頷き微笑んだ。
───勿論。僕はずっと共にいますから。安心してください
───ああ、ありがとう安室。俺の掛け替えの無い相棒…!
どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!
戦犯は私か……。
「安室さん、そこでなにやってるの?」
「ああコナン君」と私は伏せていた目を開けてコナン君に返事をする。
どうやら私が遅いことが気になって2階から降りてきたようだ。
私はあらかじめ考えてあった言い訳を、さも当然のように装って口から出す。
「実は、今から風見さんに電話をしようと思ってね」
「!…Jリーグの開催されるスタジアムを張らせるの?」
「そうだよ。Jリーグ決め打ちで十のスタジアム全てを張らせる。前回の爆破を思うに、かなりの量の爆弾を仕掛けるはずだ。かかる時間を思えばここで現行犯逮捕するのが一番堅い」
「……そうだね。僕もそう思うよ」
コナン君は携帯をチラリと確認して私の方を慎重に確認した。
何か聞きたいことがあるような雰囲気だ。
私は「なにかあったのかい?」と切り出しやすいようにコナン君へと話を振った。
「……ところで、さ。降谷さんは赤井さんのこと嫌いみたいだけど、安室さんの方はどうなの?」
「うん?突然どうしたんだい?───突然なんだ、あのFBIの差金か?」
降谷さんが内心だけでチッと鋭く舌打ちした。
大人げないぞ。
「ははは。で、どうなの?」
「───僕は付き合いやすい人だなとは思うよ。基本的に発言に嘘がないし裏もない。ストレートで論理的だ。感情もフラットで距離感に無理がない」
「……うん。なんというか、そういうコメントは想定してなかったや」
「ただ、頭が回りすぎるせいで言葉が致命的に足りないところはどうかと思う。チャームポイントとしては面白くていいとは思うけど───チャームポイント?安室、お前正気か?」
石をひっくり返したら虫がワッと出てきたみたいな声色で降谷さんに非難されてしまった。
そんな気持ちの悪いことを言った覚えは無いんだがなぁ。
初対面で言われた言葉は、数年前だけどいまだに思い出して笑ってる。
「ガキが、こんなところで何の用だ」───子供がこんなところにいると危ないよ、の意だ。
赤井秀一から次々飛び出す冨岡語録は面白すぎるので自重してほしい。
「赤井さん……誤解もあって、安室さんに酷いことも言ったみたいだけど?」
「それはそれ、さ。あの時は状況が状況だったし、僕にも非があった」
というか、組織時代に多少皮肉を口にされたことはあれ、直接赤井さんに罵倒されたことはほとんどない。
彼は自分の感情を口に出すことは「無意味なこと」だと思っている節があるからな。
感情は行動で示せ、の究極形態だ。
だからこそ宮野明美さんの察する力のバカ高さが光ってくるのだが。
「そっか……」
「赤井秀一から僕の様子を聞き出してくれと頼まれたのかな。それとも、君自身の親切心?」
「ヴッ……いや、その。赤井さんがしょんぼりしてるから放っておけなくて」
しょんぼりしていたらしい。さわやかに笑って去っていったように見えたが、意外と繊細なところがあるんだな…。
私はくすくす笑って、降谷さんは虫唾が走り過ぎて般若みたいな顔になって、コナン君に話しかけた。
「彼はつくづく人間関係が不器用だなぁ。別に気にしてないのに───は?あんなデリカシー皆無男二度と顔も見たくないが???」
「い、意見が割れたね……安室さん達で意見が割れた時ってどうするの?」
「僕が引く。つまり、赤井秀一は嫌われたままってことさ───……そ、それは…でもだめだ、あの男は生理的に受け入れられない」
旅行先で何を食べるかもどっちの部屋に泊まるかも、基本的に対決となったら降谷さんの意見を通している。
主人格特権だ。
今回も例にもれず、生理的に駄目とのことだ。なら仕方あるまい。
「まあ僕も業務連絡ぐらいするから安心してくれ。そこに私情は挟まないさ」
「安室さん、ほんとゼロさんに甘いよね……」
「主人格には甘くもなるよ。じゃ、コナン君は先に上がっててくれ。僕は風見さんに連絡した後戻るよ」
「うん、分かった」
降谷さんがついに恥じらって何も言わなくなってしまった。
ん?そんなんだから降谷零が独り立ちできないんだって?
そういう意見も……あるだろうね……。
・東都スタジアム爆破犯
この後公安に現行犯逮捕された
・降谷さん
恥じらっている。でもジャイアニズムを改める気はない
・赤井さん
しょんぼりしている