バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
さて、今日もお仕事日和。
今日のお目当てはヴェスパニア鉱石だ。
ルパンの真の狙い、ヴェスパニア王国のクイーンクラウンを失敬するため、防犯システムを無力化する手段としての盗みである。
ヴェスパニア鉱石は電波吸収材としての性質を持ち、完璧なステルス兵器を作ることができるのだと囁かれている超希少鉱石だ。
また、特定の電圧を流すことで周囲の電子機器の無効化も可能。
なんとまぁ、ファンタジックな代物なことよ。
私達はその鉱石が採掘可能な立ち入り禁止の鉱山へとやってきていた。
そこまで長くも無い坑道を進めば、そこに広がるのはヴェスパニア鉱石の鉱脈だ。
どうやら近年地震で隆起してきたらしく、こんな地上から浅い絶好のポイントに上がってきたのだとか。
ただし、そびえる大岩は一般的な岩石と見た目上の違いはなく、簡単に掘り出せるようには見えなかった。
鉱山所有者であるヴェスパニア王国も、電波を吸収する性質から発掘には慎重な手作業しかなく、かなり苦労しているらしい。
大きな大きな鉱脈を前に、ルパンがポンと私の肩を叩く。
ニヤっと悪い笑顔。
「頼むぜ降谷ちゃんたち。鉱石の採掘はオメーらが頼りなんだからな」
「任せてください。電波感知の腕は磨いてきました。目で見るように、とまではいきませんが…耳で聞くが如く精密に聞き分けて御覧に入れますよ」
「おー、頼もしー!」
おちゃらけた中にも確かな信頼を感じるルパンの様子に、次元さんが納得の声を出した。
「ああ、なるほどな。ヴェスパニア鉱石が電波を吸収するのを逆手にとって、あの意味わかんねー第六感で安室に探させるのか」
「そうそう。はじめはダウジングでー、と思ってたけどもよ、よく考えたら安室ちゃんが電波わかるだろ?ならそっちの方が早いかなーって思ったワケ」
「そりゃあいい。その持ってきた小型の機械の山は電波発信装置か」
そのとーり!とルパンがシシシと笑って少々の改造を施したWiFi親機を取り出した。
「そーれ、ポチッとな」
ルパンが爆弾のボタンでも押すような大げさな動きで電源を入れた。
わざわざこのために電源ボタンを大きく赤くしたらしい。
なんというか、遊び心を忘れない人である。
鉱脈を取り囲むように設置してスイッチオン。真っ直ぐ進んだ電波が私の感覚にジィジィと奇妙な音となって飛び込んでくる。
次元さんがタバコを吸い始めた。
どうやら自分の仕事は終わりだと思っているようだ。
「この辺に満遍なく電波を発してもらえば、あとは僕が電波の消え方を頼りに探すだけ。少々遠回りなやり方にはなりますが、確実かつ堅実な方法だと思われます」
「ヴェスパニア鉱石の効果で消された電波を追っていく方式か。ま、今なら巡回警備員も無力化した後だし、多少時間がかかっても問題ねぇしな。ゆっくりやれよ」
「はい。とはいえ、ヴェスパニア鉱石も中々の優れもののようです。電波の消え方が凄い……採掘まで時間はかかりませんね」
耳をすませば、スンッと耳栓でもしたかのように音が途切れている箇所がいくつもある。
お、こっちか、凄いな。
あっちにもあるが、たぶんこっちの方が大きな鉱石だろう。
遮蔽物による減衰や反射とはまるで違う、切り取られたみたいな電波の遮断され方に、私はちょっぴり感動した。
ここのところ感覚を研ぎ澄ませすぎてうるさく感じるときが幾度もあったからな。耳栓にいいかもしれない。
私はするりと爪を取り出し、大岩の一点を切りつけた。
一太刀で周りの岩をそぎ落とし、続く二撃目で傷つけないよう赤く澄んだヴェスパニア鉱石を切り落とす。
私はそうして切り出した赤く深い色の石片を、皆の前で掲げてみせた。
「ヴェスパニア鉱石、無事掘り出し完了です」
「おおー!」
私が掘り出した拳大のヴェスパニア鉱石2つに、ルパン達の歓声が上がる。
「流石は安室ちゃん!この程度お茶の子さいさいってか!」
「いえ、そんな───当然だ、俺の相棒なんだからな」
誇らしげ、でもよく聞くとなんだかじめっとしたものを感じる声色で降谷さんが胸を張った。
一つ瞬いて、私の方を見てルパンがニッと笑った。
「おー、やだやだ。降谷ちゃんてば最近重いのなんのって!」
「───お、重いだと!?」
「男がそーんな重々じゃカワイ子ちゃんが骨折しちまう!相棒に寄りかかるのもそこまでにしときな」
「……」
ごくくだらない軽口に見えて、しかし降谷さんの胸の深いところを抉ったのだろう。
図星をつかれたのか、それとも別の何かか。
降谷さんの激情が破裂しそうな気配を感じたので、私はあわてて口をはさんだ。
「ルパンと不二子さんはそのあたり軽やかですよね。まぁ不二子さんはどんな相手でも骨折する前にするりと逃げてお宝をかすめ取っていくタイプだとは思いますが」
「そうだな。というか、ルパンの軽さにはうんざりだ。何度も何度も何度も不二子にしてやられやがって。無駄足を踏む俺の身にもなれってんだ!」
次元さんが横から援護射撃を繰り出し、空気が弛緩した。
瞬時に毒気を抜かれ、降谷さんは怒り時を失ってぶすくれたまま黙っている。
次元さんも彼は彼で的確な時に手を差し伸べる天才である。
補佐というか相棒としての気遣いがハイレベルでまとまっているあたり、本当にルパン一味は結束が固いよな。
そしてルパンが私の方を見てウィンク。
本当にルパンは察する能力というか、つくづくバランス感覚が高すぎる。
私達の関係性をこの短い間に見抜いて、言葉に出さずにこう言っているのだ。
「俺が手を出すのはここまで。今度は自分たちでなんとかしてみな」と。
もうこの人に一生頭上がらないわ。
私は二つあるうち片方をルパンに渡し、もう片方を左手のひらに置いて構えた。
深呼吸。
「ん?安室ちゃん何を……」
疑問符を浮かべたルパンを置いて、私はシッと慎重にかつ素早く斬鉄爪を振り下ろした。
爪先を使い、切り出したヴェスパニア鉱石を美しく花開くバラ型にカットする。
特筆すべきはその薄さ。
宝石の割れる方向を瞬時に見極め、斬鉄爪の切れ味を生かして無駄なく極限まで薄く、透き通るような細工と成す。
ふんわりと柔らかさすら伝わってきそうなほどに。
私が爪を降ろしたとき、そこにあったのは真に迫るような大輪の赤いバラであった。
バラ型に切り出したヴェスパニア鉱石をルパンへと渡す。
勿論、切りくずは一片に至るまで回収済みだ。
できるだけ一片が大きくなるように切りくずを出したので、これ自体もヴェスパニア鉱石として使えるはずだ。
ルパンは目を丸くして「はぇー」と間の抜けた声を出した後。
何故か自分の顔をひと撫ぜ。
手が通り過ぎた後には、うっすら化粧をしてまつ毛の長くなったルパンの顔が。
「まぁ!ステキ!王子様、私に薔薇をプレゼントしてくれるのネ!」とルパンは裏声でくねくねした。
芸が細かい。
サブいぼを立てた次元さんがそっと距離を取る。
「どうです?宝石としての価値、上がりそうですか?」
「おっめー、こういうのはイイ女に渡すのがセオリーだろぉ。おじさんに渡してどーすんのよ」
「誰かへのプレゼントにでも使えばいいじゃないですか。ここまで薄造りだとヴェスパニア鉱石自体の特性も薄いと思われますし」
ルパンはしばらくの間黙ったまま、その薔薇を優しげな表情で見ていた。
そしてそうっと白いハンカチに包んで胸ポケットから取り出したクッション敷の宝石箱へと入れた。
「……あんがとよ。こいつは貰っとくぜ」
「ええ。師匠には孝行するものですから。大切にしてくれると嬉しいです」
まだ降谷さんは相変わらずぶすっとしてむくれている。
先ほど、降谷さんは重いと言われて図星をつかれたように逆上しかけた。
ということは降谷さん自身、自分の異常に多少なりとも自覚があるという事。
これが現状打破の鍵になることだろう。
そのまま鉱山から退避する道中、次元さんが私に声をかけてきた。
「この後だが、そのまま帰国するか?」
「いえ。なんというか、ここにいたほうが良いような気がしまして。次元さんの付き人として一緒にいさせてもらえればうれしいのですが」
「おー、構わねぇぜ。プロにゃ敵わねーが、オメーの飯も十分すぎるぐらい美味いからな。たまには俺も日本の飯を食いたいし」
「契約成立ですね。しばらくお世話になります」
具体的に言うとコナン君がカッとんでくる可能性が非常に高いからな。
無論不法入国である。あの子もやりおるわ。
その12時間後。
コナン君は予想通りのダイナミック航空機密航でビザもパスポートも無いままヴェスパニア王国へと現地入りしてきた。
航空機の足に飛びついて、とか私も……やったことあるけど……でも、それは私が爪で隔壁を切り裂いて機内まで侵入できるという確証があるから行ったことだ。
コナン君みたいな打ちっぱなしノーガード戦法は恐ろしくてとてもできない。
鉄砲玉じゃないんだからそんな命知らずにカッ飛んでいかなくても……と思う今日この頃なのである。
愛の力が偉大過ぎて降谷さんも一連の流れを聞いて白目をむいていた。
あと、蘭さん誘拐に関しては烈火のごとく怒っていた。
日本人を国ぐるみで拉致誘拐するなど言語道断。
表沙汰になって国際問題になるのはそちらの方だ、と実行犯であるキース伯爵に怒鳴りこみたいのにルパン一味として正体を隠しているため何もできず。
いらいらと殺気をまき散らしながら貧乏ゆすりをしているため、コナン君に「ゼロさん。ちょっと」と苦言を呈されていた。
・バボ主
とてつもなく社交的なタイプ。
場に合わせて変幻自在、広く深く関係性を作っていく天性の陽キャ。
常に人に囲まれていた反動なのかさみしがりで、一人飯とかは苦手。
・薔薇のヴェスパニア鉱石
ため息が出るほど美しい深紅の宝石花。
壊れやすいので取扱注意。
ルパンが大切にコレクションしている逸品の一つ。