バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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絶海の探偵③

 

 あれから、立て続けに情報は出そろった。

 

 甲板で見つかったマイクロSDの無いスマホ、そして死因が溺死の笹浦一等海尉の遺体が若狭湾にて発見。

 やはり状況は原作の通りのようだ。

 

 私はわざとカツカツと靴音を響かせて立ち止まり、自衛隊情報保全隊員である藤井一等海佐へと話しかけた。

 

「どうも」

 

 海の音がさざめく艦内で二人、喧騒は遠い。

 薄暗く鉄に囲まれたここにあって、含みを持たせてにっこり笑えば、藤井七海は僅かに重心を落としたようだった。

 

「………何者ですか」

「ふむ。そうですね、名乗り遅れました」

 

 志を同じくしている日本のしもべに何者かと問われたのなら、答えねばなるまい。

 私はくるりと降谷さんと入れ替わる。

 柔和な気配は固く威圧するようなそれへと変貌する。

 

「警察庁警備局警備企画課、降谷零です」

「っ!……ゼロの人員が私に何の用でしょうか」

「海上自衛隊情報保全部隊のあなたに、少しお聞きしたいことがあります」

「私からお話しできることはありません。そちら(公安)へは正式にお渡ししている情報がありますので、そちらをご参照ください」

「笹浦一等海尉のスマホからSDカードを抜いたのは貴方ですね」

 

 ぴくり、と彼女の小指が動いた。

 まだまだ隠し事は苦手らしい。若そうに見えるが…。

 

「ッ……なんのことでしょう」

「笹浦一等海尉には疑惑があった。他国のスパイに情報を流している、内通の疑いが。違いますか」

「お答えしかねます」

 

 彼女の返事は頑なだった。

 まぁ当然だ。彼女だけでなく情報保全隊としての決定で、今回のことは伏せるよう決定しているのだろうからな。

 私とて立場が違えば同じように答えるだろう。

 

 私はすっとポケットからSDカードを取り出して、藤井七海へと見せた。

 降谷さんがとぷんと代わりに沈み込む。

 入れ替わりざまに小さくハイタッチ。何となくだが、ちょっと心が和んだ。

 

「それは…!?なぜ、ッ」

「『落とし物』ですよ、藤井七海一等海佐。貴方が『落とした』のを見たので、拾っていたんです。お返ししましょうか」

「まさか中を、見たのですか?」

「さて。ですが、少なくともイージス艦の内部データなんて誰が持っていても十分以上に怪しい、とは思いましたが」

「……」

 

 ついにだんまり。藤井七海は額に汗をつ、と滑らせて歯噛みした。

 このSDカードはもちろん降谷さんが先ほどすり取ったものだ。

 どうやら諜報員としての経験値では私たちの方が上のようだ。

 一等海佐なんてお偉いさん、現場に出ることなんて無いだろうから当たり前か。

 

 にっこり笑ってもう一度威圧する。笑顔は原初、威嚇であったとはよく言うものだ。

 

「公安は、何処まで掴んでいるの」

「大したことは分かっていませんよ。今朝見つかった不審船を拠点に某国スパイが活動していたこと。その片割れは竹川と名乗る男で、現在我々はその男の行方を追っている」

 

 藤井七海の目が鋭い。

 これは竹川の足取りをどれだけ私たちが掴めているのか、推し量っているのだろう。

 私は演技がかった仕草で両手を広げた。

 

「笹浦一等海尉からの連絡が途絶えたことは向こうも承知しているはず。おそらく、竹川は国外逃亡を目論んでいるでしょう」

「その前に…捕らえなければならない」

「ええ」

 

 右手を差し出す。握手を求めているのだと、向こうはすぐに気がついたはずだ。

 

「一時共闘と行きましょう。我々も、国防を担うものとしてこの事態を見過ごすことはできませんから」

「……いいでしょう。宮島海将補には私が後で伝えておくわ」

「お心遣いありがとうございます」

 

 一礼すれば、「食えない男ね」とため息をつかれた。

 私は何もしていないわけだが…はて。

 苦笑してから、勿体ぶっていたカードを一枚切る。

 

「外事からの報告で、竹川の別名義が判明しました。関空から一席、母国へ渡るため航空券を取っているようです」

「それを押さえれば、ひとまずの下手人の身柄は確保できると」

「ええ。とはいえ、この船にもどうやら情報奪取を狙うスパイが紛れ込んでいるようですが…」

「たしかに。イージス艦の警備が手薄になる今日ほど、潜入に適した日はないと言ってもいいわ」

「誰かはまだ判然としませんが、人数も限られ───」

 

 ひょい、と私の言葉を遮って足元から顔を覗かせたのはコナン君だ。

 どうやら笹浦一等海尉のスマホが落ちていた現場を確認し終わったらしい。

 子供らしく無邪気な笑みを浮かべて、全然無邪気では無い発言を繰り出してくる。

 

「それなら僕分かるよ。スパイが誰か」

「……あの時の小学生のボウヤ?」

「ああ、彼は僕の協力者でして。犯罪捜査のギフテッドです」

 

 コナン君はえへへ、と照れたように笑いつつ、目が推理の熱にギラギラと光っておられる。

 流石は主人公、流石は平成のホームズと称賛されし男。

 犯人を見逃さぬという絡みつくような執着が見え隠れする。

 

 その姿に、藤井七海が目を見開いて動揺した。

 

「君……いったい何者なの?」

「──江戸川コナン。探偵だよ」

 

 ひゅー!出たーっ決め台詞!

 彼お馴染みのこのセリフ、地味に初めて聞いたかもしれない。

 仮面ライダー登場に盛り上がる子供達のような心境でいれば、若干赤面したコナン君に「なに。どうして僕をそんな顔で見てるわけ!?」と怒られた。

 何も言ってないのに。

 

「それで、スパイって誰のことを言ってるのかしら。乗客に不審な人物でも?」

「勇気君のお父さんだよ。あの不審船騒ぎの時、見学場所から不自然に姿を消していたから」

 

 コナン君が静かに推理を披露する。

 滔々と流れる川のせせらぎのような清らかさで真実へと辿り着く、美しき推理の調べだ。

 

「不審船騒ぎ、あの難破船がこちらへ流れてきたときね。確か艦長は緊急事態でCICに来ていたよね」

「なるほど。その隙を狙って艦長室に侵入したという事ね」

「うん、多分ね。まだ確定じゃないけど……カマ、かけてみる?」

 

 いたずら小僧のようにコナン君がニヤリと笑う。

 考えがあるのなら乗るまでだ。

 

 

 

 

 推理を突きつけられたXは、やはりと言うべきかしぶとかった。

 

 「このガキがどうなってもいいのか!」

 

 みっともない悪あがきに、正面にいたコナン君を捻り上げて人質にまで取ってみせた。

 確かに、子供を利用して自然に潜入地に溶け込む手腕はたいしたものだ。

 格闘の腕も悪くない。判断も早い。

 しかし、恐怖による支配はこんなふうにあっけなく崩れるものだ。

 飴と鞭を使いこなせないようでは、やはり二流止まりと言わざるを得ない。

 

 騒ぎを聞きつけた警視庁の面々が「やめなさい!一体何をしている!」と包囲して必死に呼びかけた。

 これは好都合だ。

 甲板で宝探しゲームをしていた乗客たちが多少邪魔だが、Xの逃げ場は自然と制限される。

 

 Xはコナン君と一緒にXを追及した藤井七海に気を取られている。

 彼女は拳銃を取り出して構えていたからな。

 やはり飛び道具はどうしても注視せざるをえないだろう。

 

 この乗客に溢れた中で警棒を取り出せば、後処理が面倒なことになる。

 それに、相手の武装はベルトに仕込んだ隠しナイフが一つだけ。

 警棒を使うまでも無い、な。

 

 私は乗客たちに紛れ、障害物に隠れながらあらかじめXの死角になる位置に隠れていた。

 

 するりと気配を消してXの背後に立つ。

 Xは気付かない。ただ、驚いた顔の藤井七海がはっと動揺をあらわにしただけだ。

 

「無様」

「……ッ!?貴様っ、どこから、」

 

 瞬間。

 首に一発、死なないように手加減した……しかし運が悪ければ四肢が不自由になるかもしれない程度の威力の一撃を叩き込む。

 速やかに意識を刈り取るためだ。

 

 男は高い首を狙った回し蹴りをモロにくらい、強かに甲板へと叩きつけられた。

 ガァン、という骨と鉄がぶつかる人体が立ててはいけないような強烈な音が響く。

 

 降谷さんが冷静に平坦な声でツッコミを入れた。

 

───死んだらまずいんだが。もう少し手心は加えられなかったのか

───いえ、きちんとこう、努力はしたのですが。アレの未熟さにカチンと来たところがありまして…その

───Xを始末した場合、奴の入国経路もつかんでる情報も搾り取るチャンスがなくなる。今後は気をつけるように

───はい

 

 怒られてしまった……。

 尋問で情報吐くようなスパイなぞ三流以下だと言い訳しても良かったのだが、そうすると説教が十倍に膨れ上がる予感がする。

 

 私はしおしおとちいさくなって、Xの体を背負い上げた。

  

 ふと見ると、乗客の中で騒ぎを聞いて隙を窺っていたらしい蘭ちゃんが、目を見開いたまま立ち尽くしている。

 

「ねえ園子。安室さん……実は京極さんぐらい強いかも」

「え、ウッソ!確かにあの人も出来るって思ってたけど、そこまで!?」

「さっきの動き、目で全然追えなかった。それに…力の入り方もバランスも凄い」

 

 バトル漫画の強者を見抜くシーンみたいになってるんだが、恥ずかしさと居た堪れなさが凄いな。

 

 スパイXを肩に担ぎ直して、若干顔を隠して藤井七海の元へ向かう。

 大慌てで近寄ってきた警視庁の面々に怒られながら、私はほっと一息ついた。

 

 ともあれ、蘭ちゃんが落とされるハメにならなくて済んでよかった。

 ああ、帰ったら宝石花のことをルパンに相談して…そういえば私は暗号にはとんと疎いな。

 

「コナン君、ちょっと後で協力して欲しいことがあるんだけど」

「なに?事件?」

「事件じゃ無いけど、うーん。君なら得意かと思って」

 

 きょとん、とコナン君は瞬いた。

 世紀の探偵かつ謎ヲタクに謎を作らせる。

 それもまた乙というものだろう。

 




バボ主はコナン君のファンです。
決め台詞を聞くと水戸黄門印籠シーンみたいに盛り上がります。
それを知ってて、子供向けレンジャーショーを一緒に見る親御さんみたいな優しい顔で降谷さんは付き合ってます。
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