バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
工藤優作氏との話はスムーズ、かつ建設的なものになった。
決まったことは下記の通り。
暗号に力を貸す代わりに、二つの要求を飲むこと。
ひとつ、宝石花を一個提供する。この材料となる宝石は工藤優作が用意、選定する。
ふたつ、小説のネタになることに同意する。なお、小説からネタ元は割れないよう工藤優作は配慮するものとする。
と、そんな感じの契約だ。
かの世界的推理小説家直々に力を貸してくれることを思えば、驚くほど安い対価だ。
宝石は原資ゼロだし、宝石カービングはそこまで時間もかからないし。
実は、当初は私達の方で宝石も用意するといったのだが、そこは奥方へ最高に合う宝石を自分で選びたいとのことで断られてしまった。
確かに、そういうことならば任せるしかあるまい。
「それでは、私は息子と共に暗号の作成にとりかかるとするよ。必ずや美しく高難度、最高の暗号を作ると約束しよう」
「それは心強い。───ご助力、感謝いたします」
「!」
降谷さんがわずかに顔を出し、静かに感謝を述べた。
さらりと私のセリフが取られてしまった……。
私達の声色のわずかな違いを感じ取ったのか、電話越しに工藤氏がわずかに息を呑む音がする。
そして工藤優作氏はふっと息子に似た不敵な笑いを漏らし、答えたのであった。
「任せたまえ、フォックステイル君。宝石花とそれにまつわる暗号を、ラスプーチンのそれに劣らぬ世紀の謎に仕立ててみせよう」
お、おう……私が5秒で考えたみたいな思いつきに力を貸してもらってすまねぇな…。
若干後悔しないでもないが、ここまで来たら最後まで責任を持つべし。
ルパンもずいぶん楽しみにしていたようだから、もう趣味として突き抜けるしかあるまいよ。
五エ門先生に紹介された秘境の洞窟は、あまりに険しすぎて立ち入るのも一苦労の崖の中腹にあったが…。
苦労するだけの価値はあり、洞窟全体が蛍石まみれと言っても過言では無い凄まじい大きさの鉱脈で成り立っていた。
すでに日本の蛍石の鉱脈は掘り尽くしているため、これはこれで素晴らしい発見になるだろう。
……いや、これ私の宝石花園作成なんて適当な目的で使っていいものか?と、若干の罪悪感が湧くけど。
いや、五エ門先生によると一族が昔から一人前になるための儀式の場として使っていたぐらいで、特に問題ないとのことだが。
むしろ一族の減少に伴い忘れ去られていくしか無かった場に日の目を浴びる機会をくれて嬉しく思う、らしい。
あと儀式をするときより綺麗に映えるのでGOODだとか。
それならいいんだが。本当にいいのか…?
とまあ、回想はここまで。
電話をコナン君へ戻せば、コナン君が半分怒りながらまた優作氏となにやら言い争い始めた。
こうしてみると年相応というかなんというか。
と、そのとき。
マナーモードにしてあった私のスマホがヴヴヴとバイブレーションし始めた。
着信相手はルパン三世。
「はい、安室です」と言って出れば、電話口からいつも通り調子の良い愉快な声色が聞こえてきた。
「よお、安室ちゃん達。今いいか?」
「構いませんよ。仕事ですか」
「いやー、ヴェスパニア鉱石が盗まれちまったらしくてよ、ちょっくらオメーの力を借りたいわけ」
「……いやいやいや、それ絶対まずいやつですよね?下手したら世界の軍事バランスが一変する感じの」
「そのとーり!」
ぱんっと電話越しにクラッカーが鳴る音が入る。
だから芸が細かいってば。
しかしヴェスパニア鉱石が盗まれたとは厄介な。
あれは本気でファンタジーの代物なので、あれの組み込まれた爆弾なんてものがもし開発され、大都市に投下でもされたら。
最悪、本気で都市機能が全て麻痺する可能性も否定できない。
被害は計り知れないものとなるだろう。
「というわけで、オメーにも手伝ってもらいたいわけだ」
「わかりました。なら僕の役割を教えてください。とはいえ、単純な戦闘や道を切り開くことなら五エ門師匠の方が得意だとは思いますが」
「おう、オメーにはアラン・スミシーを名乗る男を追ってもらいたいんでな」
名無し男(アラン・スミシー)?
それはもしや、ルパン三世VS名探偵コナンTheMOVIEに登場するジランバ共和国の工作員か。
たしか、隣国からの侵略から祖国を救おうと悪事に手を染めていたタイプの人だ。
うん?
となると、ヴェスパニア鉱石を盗み出したのはイタリアンマフィア・ルチアーノの一派か。
そしてヴェスパニア鉱石を狙う工作員アラン・スミシーを利用してルチアーノ諸共排除しようと、そういう思惑なのだろう。
そのための情報を欲しているわけだ。
しかしこれは原作知識があるからわかることで、それ無しなら偽名も含めて情報量ゼロの男を追えと言っているに等しい。
「名無しとは、それ、実質的には情報なしということでしょうか」
「いやいや、奴の顔写真ぐらいは手に入れてっからよ。それで頼むぜ。勘でもなんでもいいから、情報を集めてくれ」
「無茶を仰る……わかりました。あまり期待はしないでくださいよ」
「おー頼んだ、素行でも性格の方向性でもなんでもいい。頼んだぜ」
「はいはい。わかりました」と言い置いて通話を切る。
全くもって大雑把な指令である。
私達でなければとても対応できなかっただろう。
降谷さんがダークウェブの情報をピックアップした書庫をゴソゴソと漁りながら、私へと話しかけてきた。
「あ、ここだ。これだな」と言って書物の山から仮想の本を引っ張り出している。
半月ほど前から、ダークウェブ上でアラン・スミシーを名乗る人物が取引を持ちかける書き込みをしているのを2件ほど記録しているようだ。
───よ、よく覚えてましたね…素の記憶能力が凄すぎませんか?
───まさか。俺だってぼんやりと覚えていた程度で、この本棚がなければ詳しくはわからなかったさ
ぼんやりとでも覚えているのがおかしいんだよなぁ。
しかし、記録が残っているなら話は早い。そこから情報を辿るのがいいだろう。
恐らくはWeb上のデータは既に消されているだろうが、当時の書き込みの内容からヴェスパニア鉱石を求めていることはすぐにわかった。
ならばやりようはいくらでもある。
「あ、コナン君。僕たち急用ができたから少し出るよ」
「っ事件!?」
工藤優作氏に散々翻弄されて床に倒れ伏していたコナン君がガバッと起き上がった。
「ルパンさんからの頼まれごとで、調べなきゃならないことができたんだ」
「あーーー」
ああ、また床に沈んでしまわれた…。
散々狐ネタで揶揄われた後だと、ルパン関係の仕事のやる気は地の底らしい。
コナン君好みの仕事でもないし、仕方ないか。
ちまちました作業は風見さんに任せよう。
ヴェスパニア鉱石の流出は実際問題国防の危機だという名目もあるのだし。
人手を使わない手はないのである。
そんな邪悪な考えを抱きながら、私はコナン君を置いて家を後にした。