バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
阿笠博士の大きな邸宅にて。
いつも通り集まる子供達の遊び相手で、仮面ヤイバーごっこの悪役として変な仮面をかぶりながら両手を大きく広げている今現在。
広告を丸めただけの剣を構えて、ハイテンションで元太君が剣をぶんぶん振り回している。
光彦君は徒手空拳。歩美ちゃんはかめはめ波のポーズである。
可愛いね。
光彦君の構えが重心が下がり切っていなかったので、「それだと安定性が低いから、腰をここまで落として、肘はここまで引いて」とちょっぴり指導。
あゆみちゃんが「光彦君だけズルい!」とバタバタしたが、残念ながら正しいビームの出し方が私にはわからないので君は指導できないんだ……すまない…。
ちらりと視線を横に向けると、つけっぱなしのTVでは歌う貴公子エミリオ・バレッティの日本初公演の話題でもちきりであった。
当初の予定通り、エミリオは来日してライブを行うらしい。
歩美ちゃんが私の下までやってきて首をかしげる。
「エミリオが気になるの?」
「あ、いや、たまたまテレビが目に入っただけだよ。今話題沸騰中だから全く気にならないというわけでもないけど」
ちなみに、なぜか今日は灰原さんがこちらへ寄ってこない。
何本もある柱の向こう側に隠れてちらちらとこちらをうかがうばかりだ。
最近はずいぶん私にも慣れて隣に座っても怯えられなくなったのに、一体どういうことなのやら。
先日エミリオの後ろ盾であるイタリアンマフィア・ルチアーノの拠点を一つ潰したばかりだ。
この件は彼らにとってもかなりの痛手となっているはず。
ルチアーノらの規模からして、流石に日本のライブを中止するほどのダメージにはならないだろうと踏んではいたが……。
ライブに割く人員だけでなく、黒の組織と小競り合いになっているだろうからそこにも戦闘員が必要になってくる。
彼らも刺激しすぎてもう一度ウルフドッグが出てくる事態になるのは避けたいはずだが、組織の猛攻に無抵抗というわけにもいかない。
もう仮面ヤイバーはおしまいか?と寄ってきた元太君の頭を優しく撫ぜる。
口角が自然と吊り上がる。
最悪、また私が拠点を一つ潰すことになるか───。
ソファで寝転がっていたコナン君がポツリ、とテレビを見たままつぶやいた。
「血の匂い」
「……え、」
いつのまにかテレビニュースはイタリアで起こったという大規模な抗争で89名が犠牲になった件を報道していた。
マフィアが根城にしていた邸宅に大量の死体のみが残されていて、詳細は不明とのこと。
まるでクマや大型の肉食獣が暴れたような凄惨な現場で、現地住民にも不安が広がっているらしい。
怜悧な青い瞳が私を糾弾する。
「ずいぶん派手にやったんだね。もしかして、組織にとって都合の悪いことでもあったの?」
「なんのことか分からないな」
私は口元だけでせせら笑った。
怯えた灰原さんが震えたまま阿笠博士の服の裾をギュッと掴んでいる。
コナン君の視線が鋭さを増す。
彼は起き上がり、いつでも動けるようお手本のように重心を低く取っていた。
そこでようやく、私の気配が剣呑すぎるものになっていたことに気が付いた。
いけないいけない。
久しぶりのウルフドッグに気配が戻り切っていなかったのかもしれない。
私はゆるゆると息を吐いて、意識して肩の力を抜いた。部屋の空気が僅かに弛緩する。
自分が思っていた以上に体が強張っていたようだ。
私は苦笑してコナン君に問いかけた。
「僕、そんなに物騒な雰囲気だった?」
呆れた様子でコナン君はがっくりと肩を落とす。
子供たちは何が何なのかわかっていないようで、のんきに三人で仮面ヤイバーごっこに戻っていった。
「そんなんでよく少年探偵団の奴らと遊ぼうと思ったな……僕、人質取られてるのかと思ったんだけど」
「ご、ごめん…。久々でちょっと緊張が解けなくて」
「あんたが惨劇を望んでないことなんてとっくに分かってるけどさ。あんな物騒な目であいつらを見るのは無しだぜ?」
私にはまるでそんな気はなかったのだが、どうやら本当に組織に吞まれ過ぎていたらしい。
申し訳ないやら恥ずかしいやらで、私は明後日の方向を向いて腕で顔を隠すしかない。
コナン君が背もたれに顎を置いてこちらをじっと見る。
ようやく本題に入れる、といったような雰囲気だ。
今まで何も聞いてこなかったのは、私を刺激しないようにという配慮だったらしい。
爆弾みたいな人間でごめんな……。
「で、エミリオ・バレッティはこの件に関わってくるの?」
「どうしてそう思うのかな」
「さっきニュースを目で追ってたから。あと、カメラに一瞬次元大介が映ってた」
「…僕、今日ボロボロだね……。その通り。エミリオのバックに件のイタリアンマフィアが付いていてね。コンサートを取引の目眩しにしてるんだ」
「それ本当!?一体何の取引?」とコナン君がばっと体を起こして私に詰め寄る。
遠巻きに事態を見ていた阿笠博士がようやくこちらへとやってきて、灰原さんを伴って恐る恐る椅子に座った。
よほど先ほどまでの私の雰囲気が危険だったらしい。
あとで迷惑をかけたお詫びに精一杯高級な菓子折りを渡そうと決意する。
「それはその時々によるかな。麻薬の時もあれば、武器密輸の場合もあるし」
「そんなエミリオに次元大介が近づいてるってのは、ルパンの次の相手はそのマフィア連中ってことか」
いや、まてよ、とコナン君が思考に沈む。
私を置いてけぼりにして推理の深みに身を沈めているようだが、口から漏れ出ている言葉は物騒以外のなにものでもない。
「そうなると何故黒の組織はウルフドッグを派遣した?いや、これは単なる利害の一致と見ていいか。ルパン達としてもこれでマフィアが壊滅すれば手間が省けていいという判断…か」
「貴方達、そろそろその危ない雑談するのはやめてほしいんだけれど」
灰原さんがやや青い顔でこちらをきっと睨みつけた。
精一杯いつも通りの虚勢を張っている姿は何とも言えず健気だが、それ以上に申し訳なさが先に立つ。
間違いなく怖がらせたのは私の雰囲気だしね…。
「わ、悪ぃ灰原」
「子供達は今ケーキをあげてそれに夢中だから良いけど、今度からそういう話は別の場所でやりなさい。教育に悪いわ」
「はい……」
死体に日常的に触れ合ってる子供達に今更教育に良いも悪いもない気がするが、それはそれ。
これ以上尖った英才教育をする必要はないだろう。
私は灰原さんを宥めるように頭を下げて、コナン君に声をかけた。
「と、とりあえずサクラサクホテルにエミリオが泊まることは調べがついてるから、その時に次元さんから詳しい話は聞くとしようか」
「……わかった」
もすっと手元で持て余していたケーキをコナン君が口に運ぶ。
「貴方の分もあるわよ」と灰原さんが指差した先には、手つかずのイチゴのショートケーキが残っていた。
これ以上放っておくと元太君に奪い取られかねない。
「ありがとう。いただくよ」
「……さっきの貴方、ジンそっくりだったわよ。目に悍ましいほど殺気が灯ってて、情のかけらも無くて。どんな非情なことをするかわからない、陰気な気配がして」
「ジンと一緒にされるのは流石に不本意すぎるから、今後は十分気をつけるよ」
「そうして頂戴」
思えば。
ジンよりも私の方が多く人を殺しているだろうし、それもまた当然かもしれない。
一片の情すらなく大量の人間を殺し尽くした殺人鬼という点で、ジンの上位互換ですらあるのだ。
───違う。お前はジンなんかとは違う。俺の意思と目標のもと、俺の代わりに殺人を犯しているに過ぎない
───……ゼロ
降谷さんの静かな声が深層心理に染み渡る。
巌の如き厳格さで、律を読み上げるようにその罪の在処を定めていく。
───お前は俺の代理人でしかないのだから、お前に帰属する罪は何一つない
───それは、虫が良すぎるでしょう
ぱくり、と甘いケーキを一口。
イチゴの酸味が溶け合って、心地よいハーモニーが口に広がる。
エミリオの公演まであとわずか。
ルチアーノ一派が盗んだヴェスパニア鉱石を取引に出すその瞬間を、私たちはひたと待っている。