Monster Hunter Alive   作:魔邇鹿夜

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序章1:死神が現れた日

 

こちらは、かつて私が執筆していた『モンスターハンターアライブ』シリーズのリメイク版の序章になります。稚拙な文章にはなってしまいますが、是非最後まで読んでいただければ幸いです。

 


 

あの日の惨劇は、今でも悪夢に出てくる。

村に現れた“それ”の姿、村中を漂う血と腐肉の臭い、自分に逃げろと呼びかける父の声。その全てが未だに鮮明に思い出せる。

死神が現れたその日、俺の人生は大きく変わった。

 

 

 

メタペ湾から更に南西にある小さな孤島“ダイアス島”、ここには島唯一の村“フラド村”が存在していた。

それほど発展はしておらず、たった一人の専属のハンターがこのフラド村の安全を守っていた。

ダイアス島は大陸との交易が盛んであり、島の特産品を輸出する代わりにモンスターから身を守るための道具や村を発展するための資金等を大陸から貰っていた。

 

 

「それで父さんはたった一人でアルセルタスを討伐したんだ。凄いだろ?」

 

フラド村の外にある森にある一本の大木は、ノアーと親友のフィルの秘密の集合スポットだった。その大木にもたれかかりながら雑談をするのが二人の日常であり、この日は村の近辺に出現した徹甲虫をフラド村唯一のハンターであるノアーの父親が狩猟したという話をしていた。

 

「お前の親父さんは流石だなぁ。俺の親父ならアルセルタスどころかランゴスタ見ただけで泣いて逃げるな。この前なんて家ににが虫いたってだけで叫んで母さんにしがみついてたんだぜ。」

 

フィルは笑いながら話す。彼は陽気な性格をしており、逆立った赤髪が特徴的だった。

 

「交易には虫の取り引きだってあるんじゃないのか?にが虫でビビってて大丈夫なのか?」

 

フィルの父親は大陸からの交易船と取引を行う商人であり、ダイアス島の住人の中で最も特産品に詳しいのである。

 

「オオツノアゲハだとかドスヘラクレスのときは泣きそうになりながら取り扱ってるらしいぜ。ここいらの虫を取り引きに出さないのも触れないからなんだ。本人は生態系を守るために採らないんだとかほざいてるけどな。」

 

「虫って余裕な人と絶対無理って人で別れるけどさぁ、この境界線って何処だと思う?」

 

ノアーはふと脳裏によぎった質問をする。

 

「虫に関するトラウマがあるかとかじゃねぇか?親父は子供の頃にモスの死体から大量にウジ虫が湧いてたのを見たことがあるらしい。嫌な記憶ってのは鮮明に思い出せるらしくてさ、ウジ虫の数やら屍肉を貪ってた虫の形まで憶えてるんだってよ。きっとそれが虫嫌いの原因なんだろうな。」

 

「確かに嫌な記憶は忘れることが出来ないな。7歳の頃にウォグ達にいじめられてただろ?俺未だにアイツら苦手なんだよ。」

 

5年前、ノアーは村のガキ大将のウォグとその腰巾着達にいじめられていた。それを助けてくれたのがフィルであり、それ以降二人は、フィルに殴られて怒ったウォグから逃げ隠れた大木の陰で話すことが多くなった。

 

「あいつ今はめっきり大人しくなったよなぁ。ちなみにあいつもハンター目指すらしいぜ?未来の狩友になるかもしれねぇんだから苦手克服したほうが良いんじゃない?」

 

「アイツがハンターになっても馴れ合う気は微塵も無いぞ。ハンターは一人でもやって行けるだろ。」

 

「それはどうだろうなぁ?良いか?お前は友達をもっと作るべきだ!俺様が友達の作り方ってのを伝授してやろう!まずは会話しなきゃ始まらない!そうだ!今日丁度森の奥の方にウォグ達いるらしいし一緒に会いに行こうぜ!アイツ結構面白い奴なんだよ!例えばこの前…」

 

長くなるフィルのどうでもいい話を聞きたくなかったため、夕日が沈みかけているのを確認してから腰を上げる。

 

「悪い、そろそろ晩飯だから帰るわ。それじゃ。」

 

早口で分かれの挨拶をして小走りで大木から離れる。後ろからフィルの半笑いしながら引き止める声が聞こえたが、気にせず村の入口に向かって歩を進めた。

 

村に着き、自宅へ向かう。玄関扉を開けて中に入ると既に夕食の準備がなされていた。

 

「おかえりなさい。」

 

母親のベルが鍋の中にあるスープをまぜながらこちらを振り向く。それに続くように食器を取り出していた父親のラレクと白と黒の虎柄をした、ラレクのオトモアイルーであるメラがノアーの方に目を向ける。

 

「遅かったな。今日もフィルと話していたのか?」

 

ラレクがスプーンを机に並べながら問う。

 

「うん。いつもの場所でね。」

 

「あそこも決してモンスターが現れない場所なんかじゃニャいから気を付けるニャよ?」

 

メラは皿をキッチンの近くまで持って行きながら少しかすれた声でいつもの注意をノアーにする。

 

「んなこと分かってるよ。モンスターが現れたらすぐに逃げれるって。」

 

「そいつは甘いな。モンスターがわざわざ人の前にこんにちわ〜って現れると思うか?彼らは狩りをする時、獲物に見つからないようにするんだ。それに自分の何倍も大きい存在を相手にして、簡単に踵を返せるか?逃げ切れる保証はあるのか?モンスターっていうのは思っているよりもずっと強大な存在なんだぞ?」

 

ラレクが次々とノアーに質問を行う。現役でハンターをしている父の言葉には説得力があった。

 

「お前もハンターを目指すなら、油断は絶対にしないことだ。」

 

ラレクがノアーにも遺伝している真っ黒な髪をかきあげる。すると額の中央部にある一つの傷跡が現れた。

これはラレクが新人のハンターだった頃、ランポスに襲われて付いた傷らしい。運良く助かり今でこそただの手術痕しか残っていないが、頭を抉られ、頭蓋骨が露出するほどの重症だったらしい。ノアーがまだ産まれる前のため、当時のことは知らないが、かなりの騒ぎになったそうだ。

 

「ほんとあのときは心臓が止まるかと思ったわ。ノアーを妊娠してて大変だったのに更にあなたまで大怪我しちゃったんだから。でもあの時メラが手伝ってくれてとても助かったのよ。」

 

ベルがそう言いながら皿にスープを注いでいった。

ベルは元々病弱であり、妊娠中には様々な困難があったそうだ。

 

「父さん、怪我する事が怖くないの?」

 

「そりゃあ怖いさ。だが、誰かが命を懸けなきゃ皆が危ないだろ?」

 

誰かが命を懸けなきゃ皆が危ない。それがラレクの口癖だった。

家族で団欒をしながら夕食を取り、その後自室に入って床に就いた。

何気ない一日が終わり、その日はぐっすりと眠ることが出来た。

 

翌朝、村がやけに騒がしくなっており、騒音で目が覚める。

 

「んぁあ?なんかザワザワうるせぇなぁ。」

 

目をこすりながら家を出る。

すると向かいにあるフィルの自宅の前に人が集まっていた。

人集りの会話に耳を傾けてみる。

 

「うちの息子もまだ戻ってないんだ!」

 

ウォグといつも一緒にいるメンバーの一人の父親がそう言う。

 

「じゃあ昨日森に行って戻って来たのはアークさんの子だけということですか?」

 

ウォグの母親がベルに質問する。

 

「はい。まさか皆様のお子さんが帰ってきてないとは…」

 

昨日から森に行った奴らが行方不明ということか?まさかフィルも?

 

「も、もしかしてフィルも…?」

 

震える声で人集りに向かって声を掛ける。ざわついていた人々が次々にノアーの方を振り向く。すると一人の女性が飛び出し、ノアーに掴みかかった。

 

「フィルはどこにいるの!?昨日森に行って何をしたの!?早く教えて!!!」

 

フィルの母親は血走った目をしながらノアーに問いかける。息が荒く、かなり混乱している様子だった。

 

「な、何もしてません。昨日は普通に別れました。あ、そうだ。今日って交易船が来てるんですよね?港には…?」

 

「そこにもいなかったのよ!!どうして一緒に帰らなかったの!?どうして息子が帰って来ないのよぉお!!!!」

 

フィルの母親は泣き叫びながらノアーの体を強引に揺らす。その様子や周囲の大人達が焦ったような表情をしながらそれを見つめる様子から事の重大さをようやく掴めた。森で複数人が行方不明、すなわちモンスターが現れた可能性が高いのだ。しかもあの直後に。そして今の人集りにはラレクを含む何人かの大人もいないことに気付き、質問する。

 

「父さん達は?どこ言ったの?」

 

「森に行ってフィル達を探してるわ。」

 

ベルがフィルの母親の背中を擦りながら答える。 

 

ひとまず捜索隊が戻ってくるまでは村人は自宅で待機をすることとなった。しかし、捜索隊は出発から10時間近くが経とうとしている夕方頃になっても戻ってこなかった。行った先で何があったのかは分からないが、何となく嫌な予感が家に漂っていた。

そして静かな家内で突然、ベルがノアーに話しかける。

 

「ねぇノアー、あなたハンターを目指すって言ってたけど、あれって冗談よね?」

 

唐突な質問に口ごもる。ノアーにとって、ハンターを目指すのは本気だった。

 

「え、どういう…え?俺は別に…」

 

「お願いだから冗談だったと言って頂戴。ハンターなんて命に関わる仕事しなくても、商人だったりギルドの役員だったり、安全な仕事はいくらでもあるのよ?」

 

「俺は父さんみたいな人になりたいから、ハンターに」

 

「あの人みたいにならないで。」

 

ベルがノアーの言葉を遮る。ノアーと同じ灰色をした瞳が潤っていた。

 

「あの人は私達のためだとか村のためだとか言って、自分の命を平然と捨てようとするのよ!?今だって何時間も経ってるのに帰ってきてないし…私、あの人が仕事に行く度に心配で心配で…」

 

ベルがその場に泣き崩れる。あまりラレクの仕事に口を出したりすることは少なかったが、心の中では旦那の身が心配でたまらないようだった。

 

「頭を怪我したときだってもうハンターはやめてって言ったのに、あの人は…」

 

「誰かが命を懸けなきゃ皆が危ないから。」

 

ノアーは無意識にラレクの口癖を言っていた。

 

「あの人もそう言った…。結婚して半年くらいの頃、あの人はハンターになったの。私はその時も何度も引き止めた。自分勝手なのは分かってるけど…あなたにまで危険な目に遭ってほしくないの!」

 

「でも俺は、自分より大切なものは自分で守りたい!なんでアンタの都合で夢を諦めなきゃいけないんだ!!」

 

ノアーが叫び終えると、家の中がしんと静まり返った。

 

「…薪を取ってくる。」

 

ベルはそう呟き、家の外にある薪を拾いに裏口から外に出た。

その直後、母の短い悲鳴が聞こえた。

声に反応して裏口の方を見ると、出入り口にある垂れ幕の下から血が流れてきた。

 

「か、母さん…?」

 

裏口へゆっくりと近付くが、垂れ幕を捲り、“それ”が顔を出したことでノアーの身は固まってしまった。

“それ”は、顔だけを家内に突っ込み、辺りを見渡している。顔全体は赤褐色をしており、上にむかって長さの異なる4本の角が生えている。左右には二対ずつ赤い点のような目があった。顎は左右に分かれ、パクパクと動いていた。そして側頭部からは顔の下にあるものよりも長い、赤紫色の顎が生えており、それを開閉させていた。

“それ”はカチャカチャと音を立てて顎を稼働させる。こちらの存在に気付いており、様子を伺っている。

モンスターに出会った時は、背中を向けずに逃げろ。ラレクの言葉通り、“それ”の顔を凝視したまま玄関まで後退りし、扉を開ける。

 

「きゃぁああああああああ!!!!」

 

扉を開けた直後に後ろから悲鳴が聞こえた。咄嗟に振り返ると、そこには丁度扉を開け、外に出ようとしていたフィルの母親がいた。彼女の視線は“それ”に向けられていた。

すると“それ”はけたたましい雄叫びをあげ、ノアーの家を破壊しながら真っ直ぐこちらに走ってきた。ノアーはすぐに横方向へ走り、森へ向かった。辺りを見回すと、村人達が悲鳴を聞いてぞろぞろと家を出ていたのが分かった。フラド村がどうなってしまうかは分からないが、今はとにかく自分の命が第一だった。

 

 

日が半分以上沈み、夜に差し掛かっている時間の森は非常に不気味だった。例の大木までたどり着き、そこにもたれかかる。状況を整理するため落ち着こうと深く深呼吸をする。

数分間深呼吸を続け、ようやく冷静さを取り戻した。

 

「あのモンスターはなんだ?初めて見た…」

 

名前も知らないため、“それ”と言うしかない存在だった。

 

「母さんは無事なのか?村の皆は?もしかして、フィル達はあいつに?」

 

誰の安否も分からない状況だったため、もう一度深呼吸してから村に戻ろうと決意する。ここに来るまでと落ち着くまでで十分は経っていた。戻るまでにも時間がかかる。それまでにモンスターは村を去っているだろうと、ノアーは考えていた。

フラド村への道を引き返し、森を駆け回る。

 

 

十分ほどした時、入口が見えてきた。

 

「もうアイツはいないよな?」

 

辺り一帯を見回すが、“それ”の姿は見当たらなかった。

 

「良かった…もういなくなったか……母さんは…」

 

自宅の裏口まで歩いていく。途中には腐敗したような死体がいくつも転がっており、死体特有の悪臭が漂っていた。

数十分しか時間が経っていないというのに腐敗が進んでいるのは何故だろう?そんな疑問を抱きつつ裏口に到着する。

 

「……母さん?」

 

そこに母の姿は無かった。あるのはかつて人がいた痕跡である、黒い染みだった。

 

「そんな…なんで?…いや、逃げたんだ…そっか、逃げ…られたんだよね?」

 

がしゃり

 

母は逃げたのだろうという小さな希望は、“それ”の足音によって踏みにじられるように消えた。

 

「あ、あぁ……」

 

眼の前に首をかしげた“それ”がいた。

家の中では顔しかよく見えなかったが、今は全身がはっきりと見える。首を最大限上まであげてもその姿の全貌を捉えることは出来ない。

あのおぞましい顔は長い鎌首をもたげた先端に付いていた。

6本ある脚の内、前の2本は鎌のような形状をしており、後ろの4本はがっしりと地面を掴んでいる。

尻尾はムカデのように長く、動かす度にカシャカシャと音を鳴らした。先には前足のものに似た鎌が生えている。

更に全身からは黒いモヤのようなものが漂っており、モヤが何なのかは分からないが、その死神のような姿がノアーにとってはとてつもなく恐ろしかった。

 

そんな…どっか行ったんじゃ…

 

恐怖で言葉を発することが出来ない。逃げようにも足が震え、動くことすらままならない。

“それ”がカパッと牙を展開する。

終わったと思ったその時だった。

 

「おいバケモノ!」

 

聞き覚えのある声がした。“それ”は声の方を向いた。それに続いてノアーも声の方を見る。

そこには左肩に深い切り傷を負ったラレクが、片手剣を構えて立っていた。後ろにはメラもいた。

 

「と、父さん…?」

 

喉の奥からか細い声が出る。

 

「はぁ…ノアー、無事だったんだな…良かっ…た…」

 

ラレクは肩を抑え、荒い息遣いで途切れ途切れになりながら話す。

 

「早く、に、逃げ…るんだ…」

 

「でも、父さんが…それに、逃げるってどこに?」 

 

ラレクがその質問に答えるより先に、“それ”がラレクめがけて突進を行う。尻尾の鎌を振り下ろすが、ラレクはその攻撃を身を翻すことで避けた。

 

「貿易船だ!!船着き場まで行けぇ!!」

 

ラレクは“それ”の噛みつきを盾で防ぐが、直後の右前足きよる引っ掻きを受け、左肩の傷が更に広がる。

 

「父さん!!!」

 

「いいから行け!俺に構うな!!」

 

拳を握りしめ、後を向く。そこから山を駆け上がり、港まで向かった。フラド村から港までは整備された道を走れば15分ほどかかる距離にあるが、獣道や足場の悪い所を通れば7分で着く。このルートはかつてフィルに教えてもらったものだ。

傾斜の激しい獣道やぬかるんだ泥地等で何度も転びそうになるも構わず走り続け、5分ほど走り続けた頃に峠に出た。この峠は整備されたルートとの合流地点だった。峠からはフラド村を一望できる場所があり、そこからラレクの安否を確認しようとその地点を目指して走っていり時だった。

 

「やっと追い付いたニャ!」

 

後ろの声に振り向くと、峠道をメラが爆走して来た。

 

「早く港まで行くニャよ。船の奴らには村人が来るかも知れないから待っててくれって頼んでおいたのニャ。」

 

メラはラレクと一緒に戦っていたはずだ。父は一体どうなったのだろうか気にはなったが、船が出港してしまわないよう港まで急ぐのが最優先だった。あっという間に自分を抜かして走るメラを追いかける形で峠の下り坂を走り続けるとすぐに港が見えてきた。

 

「ほんとうに生き残りが来たぞ!さっきのアイルーと子供が一人だ!」

 

船に乗り込もうとしていた漁師の服を着た男性が他の乗組員に向かって叫ぶ。メラは船に飛び乗り、それに続いてノアーも船に向かってダイブした。木造の床に思い切り顔面を打ち付けたが、不思議と痛みをあまり感じなかった。

 

「大丈夫か!?他の生き残りはいるのか?」 

 

男性がノアーに声を掛ける。

 

「ま、まだ父さんが」

 

「もういないニャ!出港して大丈夫ニャ!」

 

ノアーが話しきる前にメラが大声を出した。

 

「え、待ってよメラ!まだ父さんが!」

 

「船を出すニャ!アイツが追ってきてるかも知れないニャ!」

 

船が汽笛を鳴らし、船は出港した。

 

「なんで!?父さんがまだいるだろ!?」

 

メラを問いただすと、メラは暗い顔をしながら答えた。

 

「ラレクは…あの直後に噛み付かれて…私に…ノアーを頼むって…」

 

メラの緑色の目から涙が溢れる。ノアーも自然と涙を流していた。

 

「父さんまで…」

 

船から見えるダイアス島が少しずつ小さくなる。

メラを除いて周りに見知った顔が無いという状況に故郷は滅びたという信じたくない現実を突きつけられ、船の隅っこにへたり込むように体育座りをする。

 

「お前さんの気持ちは分かりかねるが、出来れば…出来ればで良いんだが、フラドで何があったか教えてくれねぇか?」

 

先ほどの男性がノアーに話しかける。

 

「あ、そうだ、俺ぁアラールっつうんだ。アラール・メニアだ。交易品の取り引きをやってんだ。それで、お前さんの名前は?」

 

アラールはノアーに手を差し伸べる。

 

「ノアー。ノアー・アークです。」

 

ノアーは膝に埋めていた顔を少しあげ、アラールと握手を交わす。

 

「村は…見たことのないモンスターに襲われました…黒くて、腕と尻尾に鎌を持ってて…目が赤くて…こっちを見ていた…!今も泳いで追いかけて来てるかもしれない!皆殺された!お父さんも…お母さんも!友達も皆!あいつにきっと食べられて!!」

 

「無理に思い出さなくていい。落ち着け。悪かったよ。」

 

アラールはそう言うと船の中へと戻っていった。

船を通り過ぎて行く潮風が肌を刺す。島はもうすっかり見えなくなっていた。

寂しさと疲れで動く気力も出ず、座ったまま沈み込むように眠りに就いた。

 

 

 

船での旅は一週間近く続いた。人との会話が苦手だったため、その間はメラ以外の誰かと言葉を交わすことはほとんど無く、ただひたすらに食事して、景色を見つめ、用意された自室で寝る日々を繰り返していた。

船に揺られ続けて7日経った時、アラールに声を掛けられた。

 

「お前さん、今後はどうするんだ?帰る場所はぁ…まあ、アレな訳だろ?」

 

「メラと一緒に暮らそうと思ってます。」

 

「あのニャンコが保護者みたいになるってことか?」

 

「んニャ、その子は私が責任を持って育てるニャ。家は…誰か貸してくれそうな人や良い空き家があったら教えて欲しいニャ。」

 

「空き家かぁ…あ、良い物件あったかもな。買われてなきゃ良いが…向こう着いたら一緒に探そう。」

 

「はい…」

 

小さく頷き、外の景色に目をやる。もう大陸がはっきりも見える位置まで来ていた。

 

 

 

次の日の朝、船は大陸の港に到着した。港には本でしか見たことのないモンスター、ガーグァが荷車を引いて待っていた。

 

「これに乗るんだ。行くぞ。」

 

アラールがノアーの手を引いて荷車に乗る。メラも後に続いた。

 

二人と一匹が乗ると、荷車は走り始めた。

大陸の良く発展した、見たこともないような景色が周りに広がっている。

しばらくすると、正面に巨大な街が見えてきた。フラド村では見ることの無い、巨大な家が複数並び、家には巨大な風車が付いている。

長い木製の橋を渡り、街の広場のようなところで下車した。

 

「ようこそノアー。ここはドンドルマ、大陸の中でも一番デカい街さ。早速、空き家探しに行こう。」

 

第二の故郷となるこのドンドルマは、ノアーにとってはあまりにも大規模な場所だった。存在は知っていたが、想定していた大きさを優に超えていた。

 

「こりゃあ、凄いや…」

 

壮大な街並みに目を輝かせ、歩き始めるアラールの後ろをついて行った。

 

4年後

 

「…長くなってすまんの!年寄りは心配性じゃで!では、改めて、オヌシのハンター登録を認めよう!」

 

16歳になったノアーはギルドにハンター登録を受けに行っていた。大衆酒場のギルドマスターは説明を終え、ギルドカードを手渡す。

 

「ありがとうございます。」

 

感謝の言葉を述べ、ギルドカードを受け取る。

 

「願わくば、この街に更なる実りをもたらす者であることを期待しておるぞ!」

 

その言葉にこくりと頷き、右隣の受付へと向かう。まだハンターとしては一歩踏み出しただけにすぎないが、コツコツと腕を磨いていこうと考えていた。

密林の採取クエストを受注し、出発口へと向かう。

 

「ラレクの背中によく似ているニャ。」

 

メラが後ろからそう言って付いて来る。

 

「さて、行くぞ。」

 

初めてのクエストに心を踊らせ、出発口から外へ出る。

 

角笛による出発を知らせる音が酒場中を響き渡った。

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