ある日の昼過ぎ、俺はティータイムというものを楽しんでいた。この島で採れる茶葉を熱湯に溶かし、ろ紙で抽出するという、まあ一般的な紅茶やコーヒーのそれである。現地ではお湯に溶かした物をろ過専用のストローで飲むのが一般的らしいが、その専用のストローというものがあまり簡単に手の出る値段では無かったため、馴染みのある手法で飲むことにした。
一口飲むと、程よい苦味と酸味が手を繋がながら舌の上を包み込んだ。
紅茶よりは少し青臭さがあるが、気にするほどのものでも無い。砂糖のまぶされた、5つの小さいケーキのお供には丁度良い。そんな至高の時間は、とある人物の来訪によって崩壊の時を迎える。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
激しいノック音、この状況は数日前にもあった。ソイツはその日にここから出ていったはずだったが、帰ってきてしまったのか。床を殴りつけるように歩きながら扉に近づく。
「テメェ戻ってくんなよッ!」
扉を強く開き、その向こうの人物にそう怒鳴る。
「オッス〜久し振りだなノアー!元気してたか?俺いなくて寂しかったろ?」
このクソった──この男、名をスタニスラウ・ウラフィという。
同期のハンターで、過去に一度同じクエストに出かけたのだが、それ以降なぜか気に入られ、更に不幸な事に部屋が隣なのである。
先に断っておくと、俺はこの男が嫌いだ。もとより人間と関わるのが嫌いな自分にとって、積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくる奴は目障り以外の何者でもない。
彼は友人からは“スタン”という愛称で呼ばれているらしいが、俺は此奴に対しては“ウラフィ”と呼んで関わる事にしている。
「俺の至高の時間を返してくれ。」
「話あるからちょっと上がるぞ〜」
「お前は出禁だと言ったはずだが?」
「んな話聞いたことないよ〜だ。」
「じゃあ今言ってやる、お前は出禁だ。俺の部屋の入口前で立ち止まる事も許さん。」
「お、このケーキうめぇよな!俺ナッツみたいなの付いてる奴好きなんだよ。1個貰うぜ〜」
スタニスラウはノアーの言葉を無視して室内に上がり込み、ドーナツを1つ口に入れた。
「俺のだぞ!」
「いいじゃん減るもんじゃねぇし〜」
「いや減るもんだろ。」
「たった1個減るくらいでワーワー言うなよな〜」
彼はそう言いながら2つ目を食べる。
「オイ2個減ったぞ2個!」
「そんなことより話だ。またアンタに依頼をしに来たんだよ俺は。」
「またか?この前なんて大変だったぞ?獣人族とイャンガルルガに喧嘩売られて──」
「今度は人を守ってほしいんだ。」
「守る?護衛か?」
「その通り。依頼人から頼まれたんだが、その依頼人が危なっかしくてな。」
「危なっかしいと言うと?」
「バーク・アルリアって知ってるか?本とか書いてるんだけどさ。」
聞いたことある名前だ。たしかモンスターや自然に関する様々な本の著者として、その名前を見た気がする。命に関わる危険な調査やら実験を自分で行い、その体験談を執筆したという本を読んだことがある。
「でまあ、バークとリエルが知り合いでな、ほら、島に向かう時に船が一隻事故ったろ?あの船に二人は乗ってたからさ。」
「その繋がりで護衛を頼まれたのか?」
「まあそういう事。巨竜森林で調べたいモンスターいるからって。そんでそのモンスターが丁度、貼り出しの緊急クエストなんだ。アンタのとこにも届いたんじゃないのか?」
この島において緊急クエストと呼ばれるものの扱いは複数ある。1つはハンターランク、いわゆる待遇を上げるためのクエストがギルドから個人に届くもので、その個人と協力者の実力を示すためにギルドから直接受ける依頼だ。そしてもう一つは集会所に掲示される貼り出しのタイプで、言うなれば特定のモンスターを賞金首としてそれを討伐した者達のハンターランクを上げるというものだ。
前者は成功させれば当人と協力者は良い待遇を受けやすくなるが、そもそもギルドに評価されなければ直接依頼が届くなんて事がほとんど無い。今そういった類のクエストを受けているのは、大体が10年前に島に送られた、第2期調査隊の歴戦ハンター達だろう。
そして後者は成功による評価値が前者に比べて低い上に、他のハンター達というライバルが存在しているため、遂行するのは難しい。だが、これを乗り越えたという実績を持っていれば、ギルドに目を付けられやすくなるため、結果的に直接的な依頼が来る確率は高くなる。
「今懸賞が付いてるのは、ロアルドロス亜種、ボウクンダルダ、アンジャナフ……ロアルドロス亜種は死沼樹海にいて、ボウクンダルダは寒冷地のモンスター。つまり……お前本気か?」
「だから3人で行きたいんだ。今の俺達で蛮顎竜とっ捕まえたらギルドからの扱いもっと良くなるぜ!」
「俺が今使っている防具では、奴の蹴りですらモロに貰えば死ぬかもしれない。」
「俺だってそうだしリエルだってそうだ。更にバークに至っては何されても即死する。全員危険、激ヤバだ。」
「…行く奴は正気じゃない。」
「まあ、そうだな。」
ノアーはお茶を飲み干し、机にコップを強く叩きつけてこう言った。
「俺は正気じゃなくてね。」
「さっすがだぜノアー!アンタなら来てくれると思ってたよ!」
「勘違いしないよう言っておくが、俺はお前たちと一緒に行きたい訳じゃあない。アンジャナフには元から目を付けていた。高い報酬は見込めるからな。」
「分かるぜ〜、俺達の心配してくれたんだろ?ありがたや〜リエルもきっと喜ぶよ久し振りにアンタに会えるんだからな〜」
スタニスラウが捲し立てながらまたもやドーナツをつまみ上げて口に入れた。
「テメェそれで3つだぞ!俺まだ1個も食ってない!残ってるの2個だ!買ったの俺だからな!?」
「というわけで出発は明日の朝だからよろしく〜」
「話聞けッ!あと相変わらず伝えるの遅すぎるんだよ!」
「善は急げだよ〜ん。」
小走りで出ていくスタニスラウの尻を蹴り飛ばし、扉を閉める。
「アンジャナフねぇ、水属性か……あっ、アイツの武器なら。」
中庭でパイプを吹かして一服した後、数日前に討伐したモンスターであるクォチュエンシの素材と鎧玉、スカルダの防具一式をそれぞれ袋に詰めて家から出た。
向かったのは武器工房で、アンジャナフ対策の武器を作ろうと考えていた。泡を使ってきたクォチュエンシなら、アンジャナフの苦手とする水属性を持った武器が出来るはずだ。
工房に着くと、髭面の加工屋であるグレイヴンが待っていたとでも言うように立っていた。
「おやっさん、オーダーがある。」
「アンジャナフか?」
「…何故知ってるんだ?」
「さっきまでお嬢が来てたんだ。アンジャナフと戦うから武具の強化をしてほしいってな。そんでちょっと話聞いたら仲間と行くって言ってたからな、兄ちゃんかスタン坊あたりだと思ってたんだよ。」
「俺とウラフィの両方だ。」
「なるほどな。で、何造るんだ?」
「双剣。素材はクォチュエンシ。」
「ほうほう、じゃあちょっくら素材見せてくれ。」
袋の中身をカウンターに並べると、グレイヴンはそれらをまじまじと眺めていった。
「う〜ん、爪が少ないから剣を2本造るのはちと難しいな…」
「なら、片手剣は?」
「鱗は潤沢にあるから盾は出来る。じゃあ片手で行くか?」
「あぁ。」
「コイツの元になるのはボーンタバールなんだが、持ってるか?あるなら安くつく。」
「いや、片手剣はハンターカリンガしか無い。」
「了解だ。他には?」
「防具の強化、鎧玉は用意してある。」
「承った。明日の朝には完成させておくから取りに来てくれ。」
「頼んだ。」
「あっそうそう!」
家に戻ろうとした時、グレイヴンに呼び止められたため、少し歩いた先で立ち止まって振り向いた。
「まだ何か?」
「いや、友達からの手紙で気付いたんだけど、兄ちゃんドンドルマの出身なんだってな。」
「そうだけど…」
「サンデルによろしく伝えといてくれって頼まれたんだ。」
「アイツが?」
サンデル・ヴォルフはドンドルマの加工屋で、ノアー行きつけの工房で働いているのだが、グレイヴンと交流関係があるとは知らなかった。
「手紙の最後にはジミーを可愛がってやれって書いてたがこれは?」
「ただのあだ名だよ。」
「ほ〜ん。」
ジミーという名前が黒い仕事に手を染めていた頃の偽名でサンデルとはその時に出会ったが、その後共にその世界から手を引いただなんて事、わざわざ伝えるのも億劫だ。
加工屋から少し歩いて集会所の建物に入る。そこに何か目的があった訳では無いが、夕飯時まで暇を潰そうと思った。集会所には腕相撲やボードゲーム等の娯楽があるが、基本的に複数人で遊ぶものであったため、一人の自分には出来ないものばかりだった。一人でも出来るのは修練場で体を動かすか、射的場に行くかだ。思えばここの射的場を使った事が無かった。
そもそも片目が無い影響で、射的や球技といったスポーツはあまり得意とは言えない。遠近感や立体感、視野角というものが両目ともある人間に比べて著しく低いためである。最近はそれを踏まえた上で物を見る事に慣れてきてはいるが、やはり視覚の正確さに頼るものへの苦手意識は抜けない。
射的場へ行き、様子を見る。他の客はおらず、誰もいないテーブルの奥でからくり仕掛けの的が多数並んでいた。
コースというものがあるらしく、100ゼニーのカジュアルコース、200ゼニーのスタンダードコース、400ゼニーのハードコアコースと3つの難易度が存在している。
初めてなのでスタンダードを選ぶ事にし、オーナーに200ゼニーを渡した。
「スタンダードで。」
「よし!弾は30発。的を30個撃ち抜けばパーフェクトだ!」
ライトボウガンよりも軽い銃を渡され、銃口を的の方に向けた。続けてパイプに火を付け、口に咥えてから中腰になって銃を構える。開始のゴングが鳴ると同時に的が1つ起き上がった。
的を狙って1発撃つが、弾はそれを横切ってしまった。
「チッ、早速パーフェクト失ったか。」
すかさず2発目で的を撃ち倒す。続いて今度は的が2つ出てきた。片方を倒すのに時間が掛かり、もう片方は時間切れ……といったように続いた結果、倒した的は17発であった。
報酬は食堂で使えるパンの食券1枚だった。
まあ初めてで半分以上倒せれば十分だろう。煙を吹きながらそう考えていると、後方から小柄な影が姿を現した。
「あれ?ノアーさん?奇遇ですね!」
リエル・ミシェリア、まさか射的場で遭遇するとは考えてもいなかったが、機銃を撃つ武器であるシールドガンを使いこなせる彼女が射的場に来る事は予想できなくもなかった。
「お前か、会えて嬉しいよ全く。死にそうなくらい。」
「私もです。まさかノアーさんが射的場にいるとは…」
リエルは400ゼニーをオーナーに支払った。ハードコアコースに行くつもりみたいだ。
「…ハードコアか?」
「はい。まだ安定してパーフェクトが取れなくって。」
どうやらコイツは俺とは次元が違うらしい。スタンダードで半分以上に満足していた自分が小さな存在に思えてくる。
「ノアーさんはどうですか?射撃の腕前は。」
「さっき初めてやったが、スタンダードで…まあパーフェクトは取れたな。」
「本当は17点!」
オーナーが横から口を挟む。くだらない見栄を張った自分が更に小さな存在みたいになる。いや、これは紛れも無く小さな存在だろう。分かってはいるが、自分より若い奴に実力で超えられているような気がして、プライドが許さなかったのだ。
「あれ、17点はパーフェクトじゃあ無いですよ?」
「そうなのか?てっきり半分以上がパーフェクト扱いなのかと思ってたな。」
「ルール説明した!最初の一発外した時にパーフェクト外したかって舌打ちしてた!」
オーナーてめぇコラ
「ノアーさん?」
「……」
「よく分からない見栄っ張りはその、みっともないですよ?私に勝ちたいという気持ちは分かりますが…」
コイツ、しばらく見ない内に生意気というか、自信家になっていないか?スタニスラウと一緒にいた影響が出ているのか?前は自己肯定感が地面に陥没するレベルで低かったのに。
「ちなみに私は56点。ハードコアは60発なのでパーフェクトは逃しちゃいましたね。そうだ、折角なので勝負しませんか?」
「勝負?」
「互いに射的で競って、点数の高いほうが勝利。私はハードコアで行くので、ノアーさんがスタンダードをするなら点数は2倍、カジュアルにするなら3倍するっていう形で。結果同点なら、ノアーさんに勝ちを譲ります。」
まるで自分がスタンダードかカジュアルをする事を前提のように話しやがる。もしかすると俺はコイツに舐められているのか?それに同点なら勝ちで良い?情けをかけたのか?
そう思うと無性に腹が立ってきた。
「俺もハードコアだ。」
「でも、ハードコアは的が速いし動くしで、手慣れたガンナーの人でも簡単には行かないレベルですよ?」
「良いか?俺が対人関係で最も嫌なことは、最も腹が立つことは相手に情けをかけられる事だ。難易度は関係無い。ただお前に簡単な方をしていいだとか同点なら勝ちでいいだとかそれが気に食わないんだよ!」
「…じ、じゃあ、ハードコアでしましょう。」
「最も、情けが無いと言っても、お前に負けるつもりは全く無いが。」
結果、リエル・ミシェリア:57点、ノアー・アーク:21点
情けをかけられなかった事により、情けの無い結果となった。
「くそったれが。」
「まあまあ、スタンダードの時よりも点数上がってるじゃないですか。」
負けはしたが、納得のできる敗北ではあった。何より、対等な状況での勝負を行う事が何よりも重要なのだ。だがやはり、歳下の小娘に圧倒的敗北を喫したのは気分が良くない、分かりやすく言うと非常に悔しかった。
「それで、負けた俺は何すりゃ良い?」
「う〜ん、そうですね〜…じゃあ晩御飯奢ってください!決して安い所じゃなくて良いので!」
「やっぱお前生意気になったな。」
といった流れで、彼女に夕飯を奢る事になった。口では高い所に連れて行けと言ってはいたが、実際はどの店でも満足するだろう。少なくともノアーの知る限りではこの小娘はそういった性格だ。遠慮がちで謙遜しがち、ご厚意を受けたら感謝より先に謝罪が出るような奴だった。
ここは敢えて高い店に行ってからかってやろう。
「本気ですか!?」
「どうした?安い所じゃあなくて良いと言ったのはお前だが?」
「いやでも、ここワイン1本で300ゼニーって──」
「そうだ、高級ゴージャスリッチなブルジョワだ。」
「流石にこれは私も…」
「遠慮するなよスナイパーエリート、安心しな払える余裕はあるさ。」
「うう…」
やったぞ、コイツを困らせた。これで俺の復讐はめでたく完了だ。
罪悪感に苛まれながら高級な飯を気まずそうに食べる顔を、まずそうに食べる顔を眺めるのは気分が良い。やはり彼女の根っこは生意気とは程遠い性格で間違いないらしい。
「これが俺をボコボコにした事への仕返しだ。それじゃ、支払いはしておくからゆっくり食うと良い。」
「食べるの速ッ!?」
「お前の申し訳なさそうな顔見てると箸が進んだよ。あばよ、明日はよろしく頼む。」
飲食店では初めて見る額の代金を払い、店を出た。
「………こりゃあしばらく煙草の葉は買う余裕ねぇな。」
パイプは大陸の方で愛用していたものが島には売っておらず(そりゃあそこまで有名でない職人が造ったものだから島にまで輸入してないのは当然だ)、葉もどれが大陸で使っていた種類に近いものなのかが分からず、一昨日にグレイヴンに教えてもらってから、ようやく昨日それを購入したのだが、こんなにも早く再び禁煙をする事になるとは。
最後に残っている分を吸おうとしたが、明日まで取っておく事にした。
翌朝、起床直後に身支度を行い、工房へと向かった。
「よぉ、待っていたぜ。」
グレイヴンの前のカウンターには、緑を基調に金色で縁取られた盾と目玉模様の付いた手斧が、メンテナンスされて光り輝くスカルダ防具と共に並べられていた。
「試着室はあるか?」
「裏手なら表からは死角になって目立たない。」
防具に着替え、片手剣を背中に装着する。
「ソイツはコーノ・スィって名前だ。破壊力は高いが、少し正確性に欠ける。それを補うためにコイツを持ってけ。」
グレイヴンがノアーに赤い液体の入った小瓶を3つ渡してきた。
「刃薬か。」
「ああ。それは特別にサービスしとくぜ。」
昼時、巨竜森林─ノアー、リエル、スタニスラウ、の3人は荷車から降りると、早速それぞれで探索を始めた。探しているのはアンジャナフではなく、スタニスラウに先に出発していますの手紙だけを残して行方不明のバーク・アルリアを探しているのだ。
「…まだ対面すらしていないがこの男嫌いだ。」
「とんだ野郎だな全く!一人で森の中突撃していったのかよ!?」
「こういう人なんです…ギルドにこっぴどく怒られた経験もある人なので…」
アンジャナフがよく目撃されるのは森の中央、この前クォチュエンシを討伐した場所より少し南の地点である。ベースキャンプから数分間移動し、周囲をくまなく探した。
蛮顎竜は鼻から出す黄色い体液を吹きかける事で縄張りを誇示する。しかしアンジャナフはその場に定住するようなモンスターでは無いため、仮に痕跡として見つけたとしても古いものであればあまり役には立たないだろう。
吹きかけるとすれば木の幹や倒木だろうと考え、それらを見て回るも、それらしき痕跡は見つからない。しかし代わりに、違うモンスターの痕跡のような、地面を掘り返した跡を発見した。
イャンガルルガ。痕跡を見つけた時、脳裏によぎったモンスターはそれだった。1週間ほど前から巨竜森林で目撃例が急増しており、それも特定の個体が目立って姿を見せているという。片側の頭部が吹き飛んでいる大柄なその個体はハンター達の間で“スカービーク”と呼ばれ、若いハンターや物売り達には恐れられ、腕に自信のあるハンター達には絶好の獲物として付け狙われている。
ノアー自身もスカービークとは面識がある、というかスカービークの顔の傷を更に深くしたのはノアーと共に戦っていたハンターだ。
「イャンガルルガの痕跡…スカービークのものですかね?」
後ろに立っていたリエルが覗き込むようにして痕跡を見つめながらそう言う。
「恐らくな。前にヤツと出会ったのもこの辺りだった。」
「ノアーさん、スカービークと戦った事があるんですか!?いつの間に!?」
「…ヤツがそう呼ばれる前からだ。」
「どんな感じでしたか?噂によるとすごく賢くて狂暴だとか…」
「たしかに狡猾というか、ピンチになったら追撃されるって事を予期してカウンターをかましてくるみたいなのはあったが、言うほど突出して狂暴とは感じなかったな。血の気が多いのは大体のイャンガルルガがそうだろ。」
「聞いた話では普段から頭を振り回しながら雄叫びをあげ続けてるみたいだとか、きっと頭の傷が痛むからでしょうね。」
「あの傷はシーラが付けた、というか元からあったものを更に大きくした。アイツは歴史に残る特殊個体の生みの親という訳だな。」
「あの大きな傷はシーラさんが、それも元々付いてたってことは…私が砂漠に向かう前日に襲ってきたあのイャンガルルガも…」
「何、アンタらスカービークと知りたいだったの!?」
スタニスラウが横で驚いた顔をして言う。
その後も川や池、草原に崖と様々なポイントを捜索して回ったが、十分な手掛かりすら得られずに日は沈み始め、辺りは暗闇に包まれた。
3人は木の下に腰掛け、夕食の準備のために焚き火台を組み始めた時、遠くから微かに何かの音が聞こえた。
手を止め、周囲の音に神経を集中させる。
ずん、ずん、という音が一定間隔で鳴っていた。これは間違いなく足音だ。音は徐々に大きくなり、傍にある水たまりが音と同時に水の輪を作り出すようになった頃には、他の2人も近くに何かがいることに気付いていた。
「まさか…」
音は真正面から近付いて来ている。真正面の草むらから小型の鳥竜みたいな環境生物が5匹ほど現れ、ノアーたちの足元を通って走り去って行く。
焚き火台のパーツを全て片付け、スタニスラウのバッグに詰め込んだ。
全員がゆっくりと立ち上がり、武器を構える。
風とは明らかに違う何かによって正面の草木がガサガサと揺れる。それを掻き分けて登場したのは…
1人の人間だった。
「バークさん!?」
「話は後です!!」
直後草木を踏み倒しながら登場したのは、雄叫びをあげながら現れたのは、1頭蛮顎竜アンジャナフであった。
「今朝から隠れて彼をストーキングしながらデータを集めていたのですが、木の枝を踏んづけてしまって…」
「古典的な見つかり方だな。だが探す手間が省けた。」
アンジャナフはジャンプでこちらに飛び込んでくる。4人はバラバラの方向に回避し、着地したアンジャナフは真っ先にバークを狙った。
「やっぱり私に目つけてた!!」
腰のポーチに入れていた小瓶を1つ取り出し、中の液体を片手剣の刀身に塗りたくる。そして刃を盾で研ぐように擦ると、液体は赤い炎を発し、手斧の刀身は紅に妖しく光った。
「おいッ!こっちだ!」
大声を出して紅く光る刀身を振り回すと、アンジャナフはターゲットをノアーに変更した。その隙にバークは離れた場所へ移動し、木の陰に隠れた。
真っ直ぐにこちらへと走ってくる獣竜を、横から砲撃が襲った。リエルのシールドガンによるものだ。
「正面は俺が対応すっから、アンタは潜り込んであの脚を狙え。」
スタニスラウに対して頷き、アンジャナフに向かって走る。ノアーを噛み付こうとした瞬間に飛び込み、開いた口の隙間を通り抜けて足元まで潜り込んだ。
スライディング斬りで右ふくらはぎを斬りつけ、流れるようにして傷口に再び刃を差し込む。怯んだ隙にスタニスラウが頭部を大剣で攻撃し、リエルが胴体に弾丸を撃ち込んだ。
アンジャナフは足踏みや蹴りで足元にいるノアーを排除しようとしたが、足踏みは回避し、蹴りは盾で防いだ。
今度はジャンプ斬りで腹部を攻め、再び蹴飛ばそうと脚を振るったのを後転で避ける。
アンジャナフは地面に喰らいつくようにして抉り取り、スタニスラウ目掛けて突撃し、スタニスラウはそれを側面に避けて脚に溜め斬りを食らわせた。
更に頭部をリエルに撃たれ、今度はそっちをターゲットにして火炎ブレスを吐く。盾を地面に突き刺して炎を防ぎ、本人は機銃を持ったまま横に出て発砲し、頭部に5発の弾丸を撃ち込んだ。
アンジャナフの背中から帆のような一対の皮膜が展開し、鼻先からはコブのような物体、鼻骨が突出する。喉は熱によって照り輝き、全体的な印象は先ほどより大きく変化した。
この時のアンジャナフは炎熱蓄積状態と言われ、その名の通り喉元に蓄積させた熱によってより強力な力を使うようになる。つまり、ここからが本番ということだ。
「奴の頭を叩けるよう、お前は脚を頼めるか?」
「あいよ任せろ!焼き殺されんなよ?」
「お前こそ蹴り殺されないようにな。」
「あの、私は?私も水属性のシールドガンですけど…」
「奴の注意を引け。挑発ビンあるだろ?俺ごと撃たねぇようにな。」
そう伝え終えると、頭を振り下ろしてきたアンジャナフの攻撃を飛び退いて避け、その勢いを溜めて顔面に飛び掛るようにして溜め斬りを食らわせた。
それと同時に強い匂いが空気中を漂い、アンジャナフもその匂いに反応して匂いの元、シールドガンの盾に狙いを変えた。
「臭う方に行ったか。」
「それまるで私が臭いみたいじゃないですかぁ!」
「ハンターなんて皆泥と汗と血まみれで臭ぇだろ。」
アンジャナフが口を開いて盾に喰らいつき、盾を持っているリエル諸共空中に持ち上げた。
「嘘っ!?うわぁあああああ───」
そのまま頭を左右に振り回してリエルを森の奥まで放り投げ、さらにそれを追いかけていった。
「すっごい吹っ飛んで行ったな。」
アンジャナフの後を追いかけてたどり着いたのは森の中にある切り開かれたような広いギャップだった。
「凄い飛んでたけど大丈夫?」
「はいなんとか…」
アンジャナフは火炎ブレスを薙ぎ払うように放ち、3人はそれぞれの武器を使って防御する。そしてノアーが頭部に向かって走り、そっちに注意を取られている隙に側面に回り込んだスタニスラウが左脚を斬りつけ、アンジャナフを転倒させた。追撃を与えようと剣を振り下ろした瞬間、空から火球が降り注いだ。
「何ですかこれ!?」
「上だ!」
空を見上げると、羽ばたく紫の影が月明かりに照らされていた。イャンガルルガ、それも右側の顔が大きく損傷している。
「スカービーク…」
「あれが!?」
「待ってくださいここって…!」
木の陰からバークがそう言って現れ、こちらに向かって走って来た。
「おい、なんで出てきた!」
「忠告ですよ、私はこの場所を知っています!」
「どういう事だ?」
「リエルさんも知っているはずです!あの木を見てください!」
バークの指差した木を見ると、幹に大きな切り傷が付いていた。その木だけではなく他のものにも同じような傷があった。
「それにあの木の果実…エタマコールと呼ばれている黄緑の果実を作る木です。この果実は発酵すると、高い度数のアルコールを発生させるんです!」
「そっか…ここって…」
2人が説明する前に、2人の言いたいことが何か分かった。後方から地面を駆ける足音が聞こえ、咄嗟に屈むことで何かを避けた。
それは刃物のような角を持つモンスターだった。頭と尻尾にそれぞれ剣のようなものが付いており、胴体は銀色の甲殻に覆われたそのモンスターの名は斬酔竜ザウルヴァリエ、巨竜森林の生態系で頂点に立つと言われている牙竜種のモンスターだ。
「前門のアンジャナフに後門のザウルヴァリエ、上にはイャンガルルガ、どうするよ?これ。」
起き上がったアンジャナフは突然現れた2体のモンスターに困惑しており、イャンガルルガは頭の傷が痛むのか着地して地面に頭を擦り付け始めた。ザウルヴァリエは他がどう出るかを伺うように全員を見回しながら唸り声をあげている。
「こやし玉はあるか?」
「無い。」
「私も。」
「じゃあ乱戦になるな。構えるぞ。」
ノアーは刃薬を塗って手斧を構え、リエルは機銃をリロードし、スタニスラウも大剣を持ち上げて刃を前に向ける。そしてバークは拳を突き出し…お前は引っ込んでろよ!
「俺はここの主様をやる。」
「分かった。ミシェリア、アンジャナフの相手出来るか?」
「任せてください。」
「狂った鳥に森の頂点の乱入、正気の沙汰じゃあないな。」
「でもアンタは正気じゃねぇんだろ?行くぜッ!!」
スタニスラウの合図と共にノアーはスカービークに飛び斬りを行った。さっきまで苦しそうに頭を擦っていた状態から即座に戦闘態勢に移行し、猛スピードでノアーの攻撃を回避する。続けざまにサマーソルトを繰り出してきたため、バックステップで避けようとしたが、スカービークの尻尾から毒液が噴出している事に気付き、咄嗟に盾を構えた。まるで墨をつけた筆を振り回したように毒液が飛び散る。
「厄介な野郎だ…」
手斧で頭部を狙うが、尻尾で顔を覆ってガードし、その甲殻によって刃が弾かれる。まるで自分の硬い部位を理解しているかのようだった。
尻尾を振り払って攻撃してくる事を見越して盾を構えながら後ろに下がる。案の定尻尾を振って毒液を飛ばしてきた。
次は翼を地面に付け、四つん這いの状態で突進してきた。その様はティガレックスのようだ。
盾で防ぐも、突進の勢いで後ろに吹き飛ばされる。
さらに吹き飛ばされた先にはザウルヴァリエがおり、尻尾の刃をノアー目掛けて振り下ろしてきた。なんとか受け身を取って回避し、スカービークの放った2発目の突進を避けてやり過ごした。通っていった後に強力な風圧が発生し、体が押し倒されそうになる感覚がした。
連続して走り回ったからか少し疲れた様子を見せたスカービークの足元に潜り込み、両脚を交互に何度も斬りつけた。
これに怒ったスカービークが天を仰いでいななくと、顔の傷口から煙が噴出した。
直後に空高く飛び上がり、空中から火球をばら撒くように吐き飛ばすと、周囲は爆炎に包まれた。
縄張りを荒らされ、住処に火をつけられた事に腹を立てたのか、ザウルヴァリエが顔を赤くさせ、低い雄叫びをあげた。
「酔っ払った…」
リエルが言った通り、ザウルヴァリエは本気を出す際に体内に溜め込んだアルコールを全身に回して酔っ払い、暴れまわるという性質を持ち、この事から斬酔竜は、狂酔の剣士という異名も付けられている。
そしてターゲットをスタニスラウからスカービークへと変更し、ジャンプで空中の黒狼鳥に跳びかかった。しかし翼を持つイャンガルルガにザウルヴァリエが空中戦で敵うはずも無く、跳びついては回避され、火球を撃ち込まれるという流れが何度も起きた。しかし、斬酔竜は酔っ払って痛覚が鈍っているからか、その攻撃をものともせず何度もスカービークに挑んだ。その隙に3人でアンジャナフを弱らせようとリエルに加勢したが、それを見たスカービークはアンジャナフと3人に狙いを変え、空中から地面に、クチバシを突き出しながら突撃してきた。3人はなんとか避けられたが、アンジャナフはそれが直撃し、派手に転ぶ。
「コイツ、何がしたいんだ!?」
「暴れ回りたいんじゃあないのか?ここにいる皆を殺すまで満足しないかもね〜。」
スカービークが今度は大音量の咆哮を出し、咄嗟に耳を塞ぐ。そして、黒狼鳥はノアー目掛けて大声を出しながら突進してきたかと思うと、体を捻らせた。サマーソルトで尻尾を当ててくるつもりだ。
「まじかコイツ…!」
鼓膜が破れる覚悟で耳から手を離し、盾を構える。尻尾の攻撃を防ぎ切るも酷い耳鳴りがする。
耳鳴りが収まるまで待ちたかったが、真後ろに気配を感じ、振り返るとザウルヴァリエがスカービークを狙って体を回転させながら突撃してくるのが見え、慌ててスカービークから離れた。
ザウルヴァリエは角と尻尾でスカービークの体に傷をつけ、スカービークもそれに抗うように尻尾を振り回して斬酔竜に毒液を浴びせた。毒が目か口にでも入ったのか、はたまた飛んできた毒液に驚いたのかザウルヴァリエは怯んで攻撃の手を一瞬緩め、その隙にスカービークは空に飛び上がってザウルヴァリエから離れた。
そして今度は起き上がったアンジャナフがザウルヴァリエに対して火炎ブレスを浴びせる。不意打ちを受けた牙竜はサイドステップでそこから離れるも、再びスカービークに飛びかかられ、背中をクチバシで突かれ始めた。
「すげぇよ大怪獣バトルだぁ!!!!」
子供のように大はしゃぎしながら飛び出してきたバークをリエルがを引っ掴んで木の裏に押し戻す。
ザウルヴァリエは体を揺すってスカービークを払い落とし、それを見たアンジャナフはすかさずスカービークの首元に噛み付いて咥えあげた。スカービークもそれに対抗して尻尾でアンジャナフの傷ついた左脚に尻尾を突き刺し、毒を打ち込んだ。
アンジャナフの左脚からドロドロと血が流れ始め、痛みに耐えかねてスカービークを解放し、鼻骨と翼を折り畳んで足を引きずりながら逃げようとした。
しかしスカービークは逃がすつもりが全く無いのか、弱っているアンジャナフに追撃のサマーソルトを食らわせた。
「殺すまで止めないつもりだぞ。」
「バークはユデグエンド島産のアンジャナフの咬合力を検証したいらしいから、生きた個体である必要がある。」
「私がアンジャナフを捕獲するので、お二人でスカービークの注意を引き付けてください!」
「おうよ!」
スタニスラウと2人でスカービークに斬りかかり、狙いをアンジャナフから逸らさせる。更に2人の後ろからザウルヴァリエも飛び出し、スカービークの肩を角で一突きして出血させた。
まるで3対1とも取れる状況になったが、スカービークは逃走の意思を全く見せず、闘争の意思を剥き出しにしており、発狂するように叫びながらザウルヴァリエに体当たりし、続けてノアーを足で踏みつけて拘束した。
頭めがけてクチバシを振り下ろされるが、首をひねる事で回避し、穴の開いた右目を狙う。
「これはプレゼントだッ!!」
そう叫んで右目の傷に手斧を突き立てた。見事に刃が食い込み、これには流石のスカービークも堪えたのか、悲鳴をあげながら頭を振り回して必死に手斧を落とそうとし、そのまま翼を広げて何処かへと飛び去っていった。
その隙にノアーとスタニスラウはアンジャナフの方へと走っていった。後ろを振り返ると、ザウルヴァリエは縄張りから出ていった相手をわざわざ追いかけるような真似はせず、ただ堂々と座りながらこちらを見つめていた。
数分間走った先には既に落とし穴にハマってぐっすりと眠るアンジャナフがおり、そのすぐ横ではリエルが武器を置いて倒木に座り込んでいた。
「あ、お疲れ様です。」
「先に終わらせてたか。」
「さっすが優秀〜!」
「スカービークと斬酔竜は?どうなりましたか?」
「俺の武器をあげたら満足して帰った。」
「ザウルヴァリエは邪魔者いなくなって今頃は一杯やってんじゃない?」
「この子もお疲れだったみたいで、麻酔玉使ったらすぐに寝てしまいました。」
リエルの座っている倒木の上に、小さな鳥竜のような環境生物が登ってきた。前脚で木の実を抱えており、それをカリカリと噛りながらハンター達の顔を見つめている。
「最後はこれを拠点まで運ばなきゃな。」
「てかさ、俺らあの状況で五体満足なの、凄くね?」
「それはまあ、たしかに?」
「運が良いのか悪いのか…ところでよ、アルリア置いていったままじゃね?」
「「あっ…」」
3人は一瞬お互いの顔を見やり、慌てて先ほどまでの地点まで戻った。
「おいノアー!なんでそれもっと早く言わなかった!」
「俺もさっき気付いたんだよお前が先に気付け!」
「んな無茶言われてもさぁ!」
「あっ!あそこにいましたよ!」
バークは茂みに隠れ、広場を見つめていた。観察対象は斬酔竜ザウルヴァリエであった。
「見てください、あの岩で頭剣角と尾剣角を研いでいます。」
バークがヒソヒソと呟くように言う。たしかにザウルヴァリエは広場に置かれた岩を使って角を、まるで砥石を使って剣を研ぐハンターのように研いでいた。
「夜なので写真を撮るとフラッシュでバレてしまうのが残念です。」
そうして一行は広場を去り、アンジャナフの元へと戻ってきた。
「また撮る機会がある事を祈ろう。アンジャナフ捕獲したから、連れて帰らなきゃならねぇ。それまでキャンプで待機しててくれ。リエル、道案内頼んだ。」
「はっはい。」
「ノアー、アンジャナフの体を落とし穴から引き上げるぞ。」
「了解。」
その後、アンジャナフを引き上げて専用の荷車に乗せ、闘技場まで連れ帰ってからノアー達はギルドに報告書を出し、ハンターランクを進級させた。
それから5日後、ノアー、スタニスラウ、リエルはギルドマスターのアルフレッドから呼び出され、ロムポルスのハンターズギルド本部の奥、ギルドマスターの控室へと足を踏み入れた。
彼から素晴らしいスピード出世だと褒め称えられたように、自分達は同じ3期調査隊員のハンター達よりも早く、高い実績を残していっているのが分かる。特に、スカービークとザウルヴァリエとの三つ巴状態で生き残った事からも実力を評価されているらしい。ちなみに、その時の状況証拠はバークが写真として出してくれたそうだ。
「そして君達には、新たな任務として、現在開拓が進んでいる地域に手を貸してほしいのだ。」
小柄でありながら威厳ある雰囲気をまとったギルドマスターは低くてよく響く声でノアー達にそう言った。
「現在開拓中の場所が?」
「そうだ。巨大で、我々の本拠地であるここ、森の都市ロムポルス。島の南部の拠点となる山の町グケラーゴ。そして島の北部にある火山の港町ムソギル・ペラノ、それらがミュトガルズ国の持つ、ギルドの主要な街だ。そして、それらに続く第四の拠点を我々は現在開拓している。島の東、広大な死沼樹海を調査するため、島の東に拠点を置くという計画が現在建てられている。メラ君もその計画に携わっているのだよ、ノアー君。」
「どうりで帰ってこない訳だ…」
ノアーのオトモでもあるメラはギルドの編纂者として、そして職員としてドンドルマギルドでも高めの地位を持っている。新都市の計画に関わっているのも納得だった。
「この都市計画、調査拠点の名はジャグミンルバという。ここが完成するまで周辺環境の安全調査を行うための人員が欲しいのだ。」
「しかし、過去の調査隊ハンターでもそれは間に合っているのでは?」
「第一期調査隊のハンターは高齢化が進んでいてね、体が動かしづらくて座った仕事に従事している人が多い。動ける人材も例の船の事件を追っている。それに第二期調査隊は技術者が多く、ただでさえハンターは6人と少人数だった上に死沼樹海での事故や火山で4名が現在も行方不明だし。今安全調査のために働いているアルキュリエの方々も人数が多い訳では無い。開拓を進める為には三期の君達が頼りなのだ。」
「責任重大って事ですね?」
「俺ぁ良いっすよ!任せてください!」
「私も…皆様の役に立てるなら…!」
「ノアー君は?」
「勿論、行かせていただきます。」
「君たちが乗り気なようで良かった。では早速死沼樹海へ行く準備を進めてくれ!と言いたい所だが…」
アルフレッドは顎髭をいじり、何枚にも積み重なった書類を見つめながら言葉を詰まらせた。
「実は君たちの活躍、もとい実力が街の色んな人々に知れ渡ってしまってね、その…とんでもない数の依頼が舞い込んでいる…ギルドとしてはこれらの仕事にも取り掛かって欲しいんだが……」
アルフレッドから3人に依頼書がいくつも渡される。依頼はどれもモンスターの狩猟や捕獲ばかりだった。
それに目的地もバラバラで、近所の巨竜森林だけではなく、死沼樹海、グケラーゴまで移動する必要のある黄跡砂漠と霧峰凍原、海を隔てた先にある灼谷孤島まで多岐にわたる。
依頼書の塊を見つめながらノアーは呟いた。
「こりゃ忙しくなるな…」
第8話:End