Monster Hunter Alive   作:魔邇鹿夜

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第11話:削株掘根

 

黄跡砂漠に風が吹き、枯れ草が固まったタンブルウィードが広大な荒野を転がる。静かな荒野に徐々に大きくなる騒音が。次に転がってきたのは巨大な赤い球だった。

 

「先輩!来ますッ!」

 

転がる赤い球体の後方からアルバートが声をかけてくる。

それは全身に赤い甲殻を持ち、体を丸まらせて身を守るモンスターこと赤甲獣ラングロトラ。既に戦闘によって手負いのはずだが、この赤い銃弾もとい獣弾の勢いは留まることを知らない。リエルはシールドガンの盾と機銃を合体させた攻防一体状態で構える。

 

「今!!」

 

ラングロトラが射程距離に入った瞬間に連射し、体勢を崩させる。ボールは逆方向に転がっていくと、丸まった状態が解け、サイケデリックな皮膚をした腹を上向きにして倒れた。

 

「喰らえェ!!!」

 

アルバートがラングロトラの胸に乗り、剣に変形させたスラッシュアックスを腹部に突き立てる。更にビンのエネルギーが爆発を起こし、大打撃を与えた。アルバートがバック宙でラングロトラから離れると、丸い背中のせいで動けずにいた赤い牙獣は勢いをつけて起き上がった。そして長い舌をムチのように振るい、リエルを攻撃したが盾で舌をはじき返し、頭部に一発撃ち込む。背後からアルバートがスラッシュアックスを振り下ろすが、硬い甲殻に弾かれ、カウンターに茶色いガスを吹きかけられてしまった。

 

「うっ…」

 

こちらにもほんのり漂ってくるレベルの悪臭を間近に食らった彼は手をついてしゃがみ込んでしまった。

ラングロトラはアルバートに構わず、リエル目掛けて麻痺作用のある黄色い液体を吐く。身を翻してそれを避け、次に前脚を振りかぶってきたのも滑り込んで回避し、腹部に潜り込んで弾倉に残った全ての弾を撃ち込んだ。

腹部の皮膚と肉片が飛散し、ラングロトラは小さな悲鳴をあげると目をひん剥かせてリエルの方へと倒れてきた。盾で赤甲獣の死体を抑え、右側に突き倒す。

 

「大丈夫?」

 

四つん這いになっているアルバートに駆け寄り、手を差し出そうとするが彼の方から待ったと手を突き出された。

 

「いま臭いがヤバいんで近づかないで…ください…うぅ…吐きそう……」

 

彼の方に消臭玉を撒く。青白い煙がアルバートを包み込んだ。

 

「これで大丈夫だと思うよ。」

 

「助かりました。こんな強烈な臭い出すんなら俺も消臭玉買っときゃ良かったっす。」

 

「準備はしっかりとしてこなきゃ駄目だよ?こんな臭いが染み付いちゃったらろくに薬も飲めないでしょ?」

 

「あい…ずんまぜん…」

 

その後、アルバートがギルドの職員に頼んでいたらしく、ラングロトラは荷車に積まれて運ばれていった。

 

「先輩、実は先輩に見せたい場所があって?」

 

「見せたい場所?」

 

「俺、狩りに行けるのここか上の凍原だけなんで色んな場所探索して回ってるんですけど、砂漠の地下に綺麗な景色を見つけて…先輩にも見せたくて…」

 

「本当!?是非教えて欲しいな。」

 

「つ、付いてきてください!」

 

朝の照り付ける日差しの下で熱を帯びた地面を踏みしめる。人間視点だとこんな暑い場所で一生暮らすのは勘弁だが、この地に適応し、命を繋ぐ者達は多く存在する。

彼らがなにゆえ黄跡砂漠に辿り着き、生き延びることが出来たのかは分からないが、こんなにも過酷な環境で生きる術を持つに至った過程は何なのか、極めて興味深い。

恐らく今の黄跡砂漠が生み出されるまでに数え切れない数の生物が、砂漠で生きることに適していなかった多くの種が滅び去ったのだろう。偶然この地に適応した者達が今の今まで生き残っている。またこの地に大きな変化が訪れればそれも変わる、今いる生き物達の多くも命を落とし、再び適した存在が偶然現れそれが生き残る。生態系とはそういうものだ。

そしてそれは人間とて例外ではない。この砂漠にもかつて人々の生活する国が存在していたが、今はそれも滅び去り、その痕跡すらもを砂の下に埋もれてしまった。

 

「そういえば…ここに昔あったっていう国について、何か知ってる?」

 

「国?ああレモディグスっすね。」

 

「レモディグス?それが国の名前?」

 

「そうっす。昔ここと、上にあるグケラーゴが領土だったらしくて、北西のミュトガルズとは戦争してたみたいっすねぇ。理由は宗教観の違いとかなんとか…」

 

一つの島の中でも戦争が起きてしまうとは、人と人が繋がることの難しさを痛感させられる。

 

「戦争が始まってすぐはレモディグスが優勢で、過酷な環境で凶暴なモンスターもいる砂漠っていう地の利を活かしてたみたいなんすけど、ミュトガルズ側がそれに対策して騎士のアルキュリエが生まれたんだとか?」

 

「アルキュリエの人達が派遣されてから戦況がひっくり返ったの?」

 

「って両親から聞いたことありますね。まああの人たちクッソ強いんで、それも分かる気がするっす。」

 

「う、うんそうだね…」

 

2日前にアルキュリエの誤解によって手刀を食らった頭がズキンとした。

 

「あっそうそう!今のアルキュリエが使う鎧とか武器は全部レモディグスの使ってた奴がモデルって聞いたことあります!」

 

「今は二つの国が統合されてるんだよね?」

 

砂漠地方の拠点であるグケラーゴが別国の軍事拠点を利用して開発されたという話は聞いたことがある。今も戦争を続けていた場合、ミュトガルズの1拠点としてレモディグスの領土、それも軍事拠点を使うことは不可能だろう。かつての戦争経験者は誰も生きていないが、両国の戦争が現在の平和に繋がっていることを祈ろう。

 

「戦争ってなんで起こるんですかねぇ?周りにモンスターだらけなのに人と争ってる余裕があるんですか?それも宗教観の違いだけで。」

 

「私は当事者じゃないから本当のことは知らないけど、余裕が無いからこそ心の拠り所としての信仰への解釈がすれ違う事が原因になったのかもね。昔は今みたいに拠点も設備も整っていなかったみたいだし。大陸の方でもモンスターの活性化で資源が急速に減って、二つの国が戦争になった事があるから。」

 

これは大陸の西、シュレイド地方の東側である東シュレイド、その中にある二つの国の戦争の話だ。両国の名前はクラッベルトとシュペアッフェ。ヒンメルン山脈の中に隣接していた国々だが、シュペアッフェ近辺がモンスターの住処になり、家畜やそれを育成するための領土を失った。クラッベルトにそれらの共有を要請したがクラッベルトもまたそのモンスターに影響を受けた他のモンスターが近くに住み着いていたことからこれを拒否、モンスターを刺激すれば国に被害が及ぶ緊張状態の中、両国はギルドが存在していなかった故にハンターを呼ぶことも叶わず、ついにはそれぞれの軍隊を使って領土を巡る戦争が起きた。

山中という環境に国を置く以上、こうなるリスクをしっかりと考慮していれば、軍隊に対モンスター用の動きを教えていれば、もしどちらかの国にハンターがいれば避けられた戦争だとリエルは考えている。

 

「その戦争はどうなったんですか?」

 

「その住み着いたモンスターによって両国の軍隊が壊滅、クラッベルト側がドンドルマまで赴いてそのモンスターの討伐を依頼、そしてモンスターが倒されたことで領土を取り戻して終戦したみたい。」

 

「それ、軍の人達はなんのために…」

 

「本当、救いのない話だよ。」

 

このクラッベルトの軍人の生き残りがこの島にはいる。ヘルムート・ゲルラッハは実力者であり多くの功績を持つと共に多くの問題を抱えるハンターだ。

 

「調査隊メンバーにその生き残りのハンターもいるんだけどその…色々と有名な人でね、悪い意味で。」

 

大陸でも拠点や狩猟地での暴力沙汰をよく引き起こしていたらしい。それでもハンターとして優秀極まりなく、単独での古龍討伐といった功績を讃えられ、この調査に参加することとなった。

 

「ヘルムートって人ですよね?」

 

「知ってるの?」

 

「この砂漠の上に集落があるじゃないですか?中継地点の、あそこに住んでて、お話もしましたよ。」

 

アルバートが言うにはヘルムートは砂漠の集落に一人で穴を掘って生活しているらしい。彼が言うには噂とは同一人物とは思えないほど穏やかで、温和な人物だったという。

過去に殴り合いをした事があるといっても信じてもらえないだろう。

ふと前と見るとアルバートが岩場の傍で立ち止まり、そこで綺麗な景色を見るという目的があったことを思い出した。

 

「入り口が無くなってる…この下なんですよ……やっぱアレが?」

 

アルバートは地面の岩の塊を見下ろしながら何かを呟く。どうやら岩が崩れて入り口が塞がれてしまったようだ。

 

「残念だね…綺麗な景色…アルバート君と一緒に見てみたかったから…」

 

アルバートは顎に手を添えて何かを考えると、地面を片足で強く踏み付けた。

 

「行きましょう!迂回すればもう一つ入り口があります。そこも潰れてないといいですが。」

 

 


 

 

「ねぇ、さっきのやっぱりアレがっていうのは?何のこと?」

 

回り道をして泥沼を歩いている最中に疑問に思った彼の発言について聞いた。

 

「最近、砂漠で妙な事が多いんですよ。例えばジャギィが凶暴化してて、昨日集落の中にまで入ってきたみたいです。ヘルムートさんが処理したけど。それと地崩れも多いんですよ。それで砂漠に出る時、集落入口に立ってる門番に“タフトシュトゥカ”に気を付けろって言われて、地崩れはタフトシュトゥカの仕業で、ジャギィ達は住処を奪われたのかもって。」

 

「初めて聞く名前だ。モンスターなの?」

 

「多分そうだと思います。島の言葉で“掘り進む人”とかそんな感じのをより強そうに怖そうにした感じで、言うなれば…ドギツいモグラ?」

 

「ドギツい…モグラかぁ…」

 

なんとも珍妙な響きがツボにはまり、クスクスと笑ってしまった。

 

「笑わないでくださいよぉ!」

 

「だってドギツいモグラって、ちっとも強そうでも怖そうでもないから。」

 

「じゃあどんな表現がいいんだろう…あ!奥の岩山を登った先です!そこまで競走!」

 

「待ってずるいよ!」

 

アルバートを追い掛けながら周囲に目をやる。そびえ立つ岩山に妙な違和感を感じたからだ。質感がどうもさっきまでの岩と似ても似つかない。アルバートとは別の方角に進み、岩山に触る。

 

「先輩〜?もうすぐで俺の勝ちっすよ〜?」

 

全体的にゴツゴツしていて、表面はザラザラ、細く突き出ている部分があり、強く指で押さえつけると潰れ、指先には黄土色の粉がついた。

 

「こ、これ岩じゃな──」

 

アルバートの方を向くと、彼は岩山の麓で幾つもの細長い物体に巻き付かれ動きを封じられていた。

 

「アルバート!!!」

 

まとわりつく泥の中でオールを漕ぐように必死に足を動かし、急いで彼の元に向かうが、この時に岩山から離れなかったのがミスだった。すぐさまリエルの身体にもヘビのような物体がいくつも巻き付く。

 

「ッ……!!」

 

抗えば抗うほど締め付けてくる力は強くなり、体を動かせる範囲は狭まっていく。

 

何本もの触手、まさか刺胞動物?

 

だとすると毒のある刺胞を持っている可能性がある。幸い触手は鎧の薄い関節部分や頭部には触れていない。両足と左腕はもう動かせないが右手は辛うじて締め付けが甘い。何とかして腰にある閃光玉を取れれば…

手を取られないよう素早く右手を動かし、閃光玉を一つ手に取る。しかしそのタイミングで手の甲に触手が当たったようで、何かが指に刺さるのが分かった。

閃光玉を投擲しようとするが、手に力が入らない。

 

「しまっ…」

 

手が痺れ、危うく閃光玉を落としそうになり慌てて持ち直し、口を使ってピンを抜くいた。

足を締める力が更に強まり、血が止められる。

 

「はやく…こうなったら…」

 

ピンが外れ、展開した閃光玉から光蟲が逃げ出そうとしたためピンを吐き出して虫を歯で押さえ込む。

 

ごめんね…!!!

 

心の中で謝罪し、触手の方を向きながら思い切り光蟲を噛み潰す。

目を閉じていても眩しいと感じるほどの閃光を放ち、締め付けてくる力が一気に弱まった。すぐに触手から逃げ出して岩山から離れた。

口の中の硬く尖った物体とねばついた液体を泥に吐いてからもう一つの閃光玉を持ち、アルバート目掛けて投げる。触手が離れると同時に彼を片手に抱え、岩山の段差の上に乗せた。

 

「怪我は無い!?」

 

「た、助かりました。目眩がする…」

 

「ごめん、閃光玉使うって言っておけば良かったね。」

 

アルバートに続いて岩山を登ろうとすると、触手が足に絡みついてきた。

 

「先輩!」

 

「私は良いから早く上に!」

 

足に付いているのはたった数本、強く足を引っ張って引き剥がすと、更に多くの触手が泥から飛び出し、ついにはその本体が姿を現した。

人間一人がすっぽりと収まりそうな口を持つ巨大なイソギンチャクは胴体を伸ばしてリエルに組み付こうとしたが、その口内に機銃の弾を撃ち込まれ、身体の破片を撒き散らしながら泥の中へと沈んでいった。

ざらついた岩山を登り、頂上から周囲を見渡すと、アルバートが岩山から離れた大きな穴を顎で示した。

 

「あそこです。」

 

岩山に目をやると、至る所に小さな洞穴が点在しているのが分かり、この場所の正体が掴めた。

 

「この岩山を降りて行きましょう。」

 

「ここは岩山じゃない。ここは“蟻塚”だよ。」

 

「蟻塚?」

 

真隣の穴から細いハサミ状のものが飛び出し、リエルは後ろに跳んでそれの攻撃を避けた。それぞれの洞穴からいくつもの影が現れる。

 

「ミランタン、砂漠を歩き回って狩りをする小型の甲虫。」

 

「アイツらの巣だったって事ですかァ!?」

 

両前脚がハサミになったシロアリ頭のアリ、という表現が一番適切であろうか。乳白色の体を持つそれは金切り声をあげて飛びついてきた。盾で跳ね返し、転んだ所を狙撃する。

左右から同時にハサミを突き出してきた2体に対しては一方に盾を構えて防御し、反対側には機銃を向けて発砲した。虫は邪魔な盾を引き剥がそうと暴れ、関節がギチギチを唸っている。それをリエルは盾と地面で挟み込み、遠くから飛びかかる別の個体を処理した後に盾の縁から見える頭部を撃ち砕いた。

 

「キリが無いですよコイツら!」

 

アルバートは泣き言を言いながらスラッシュアックスを剣の形に変形させ、周囲のミランタンを一掃した。

 

「先輩こっちです!邪魔な連中を処理しながら行きましょう!!」

 

「了解!」

 

2人は蟻塚の僅かな足場を跳び継ぎながら下山を始めた。目の前に立ち塞がったミランタン達の猛攻を掻い潜り、山の上から砲撃隊が掃射するかの如く放たれたギ酸の雨は盾を傘にして防いだ。

 

「あの穴です!」

 

目的地が目前まで迫った時、後ろにはおびただしい量の虫がおり、もはやそれは乳白色の津波が迫ってきていると言っても過言ではない。更に面倒な事に、ミランタンらは追いかける傍らギ酸を腹から打ち出し、放物線を描いてこちら側に何発も着弾してきていた。

 

「漫画で読んだことある展開だぁ…人間と巨大昆虫の戦争…」

 

「戦争と呼ぶには戦力差が大きすぎない?その漫画ではどうやって切り抜けたの?」

 

「え〜っと、虫が爆散する超強力な殺虫剤を使って全滅させてました。」

 

「一昨日の買い物で、それも買っとくべきだったね。」

 

こうなったら残された手段は一つしかない。

 

「先輩もしかして…」

 

「腹をくくってね。」

 

「俺の考えてることと違う作戦だといいんですけど…」

 

アルバートに手を伸ばす。彼は戸惑いながらもリエルの手を取った。そして次に彼を包むように抱きかかえる。

 

「しっかり掴まって。」

 

「ひぇ、ひゅ、はいぃ~。」

 

日差しにさらされて彼の顔が赤く見える。至近距離だと、丸っこい子犬のような目と高く尖った鼻、薄く血色の良い唇、左目の下まつ毛に見え隠れする泣きぼくろまで、彼の顔立ちがしっかりと見えた。今まで気付けなかったが、かなり端正な顔立ちなのが分かる。

 

「せせせ、先輩?どうかしましたか?」

 

「ん…いや、何でもないよ。」

 

ミランタンの群れはもうすぐそこまで迫っている。リエルは片手で盾を構え、もう片方ではアルバートの体を支えたまま崖っぷちまですり足で移動する。

 

「お次はどうしまうわぁああああああ──」

 

2人で穴まで飛び降り、アルバートが自分をクッションにできるような形で盾を下に向かって構えた。

 

「落ちるよ!」

 

「もう落ちてます!それと…」

 

アルバートがなにかを話す前に2人は洞窟内の水脈に落下した。急いで岸まで泳ぎ、水から出る。深淵から落ちてきた上を除いてみたが、ミランタンの1匹も確認できなかった。

帽子状の頭防具を外し、濡れた髪を絞りながら盾を見た。何発ものギ酸を浴び、すでに表面から内部まで融解してしまったらしく、中の可動域がむき出しになっている。

 

「もうマトモな盾としては使えないね。」

 

「ガスに触手に虫…災難ですぅ…」

 

そういいながらかぶりをふり、水を撒き散らすアルバートの姿はまさしくイヌのようで、なんだかおかしかった。

 

「ともあれ、もうすぐ着くんだよね?」

 

「はい!すぐそこです!」

 

彼が指をさすまでもなく、目前の場所はどこか判明した。暗く外からの僅かな光とそれを跳ね返す水源しか光源が無い環境で、奥に燦然と輝く紫色の光はそれはそれは目立っていた。

 

 

光を追って洞窟を進み、ついにリエルらはそれに到達した。紫色の鉱石が地面から曲面を描く壁を伝って天井までびっしりを生え揃い、それぞれがまばゆい光を放っている。

 

「わあ…」

 

さながら洞窟にできた星空とも言えるそれは自分とアルバート以外の全てを遮断し、2人だけの世界を作り出してくれた。

 

それから数十分は、ひたすらにその光景を眺め続けた。この石が放つ光は洞窟の暗闇だけでなく、2人の言葉すらも吸い込んでしまったらしく、その間2人が会話を交わすことは無かった。リエルは永遠とも感じられるその一瞬の時間を、これを見ている、これをアルバートと見ているという事実を脳に刻み込む事に費した。

 

 

「すごく綺麗だったね!見せてくれてありがとう!」

 

帰り道、あの虫の巣を通らなくて良いようにルートを変えながらアルバートに話しかけた。

 

「その…でしたか?い、命張ってまで見る意味のあるものでしたか?」

 

「勿論!2人で見られて良かった。」

 

「ふたっ………もし良かったら…きっとここよりも綺麗な場所、この島にはいっぱいあると思うんです…」

 

アルバートは顔を下に向け、頭をかきながら話を続ける。

 

「それを見つけたら…また先輩と…見てみたい…です。」

 

「うん!また教えてね!」

 

苦難を越えた後の絶景を見るのも、ハンターの特権と言える。これまでも現大陸で、夜まで続く長い狩りを終えた後に見えた景色は大きく印象に残っている。

 

「にしても、まだかなり明るいですねぇ。」

 

「ラングロトラを夜明けから相手して朝方に倒したから、まだお昼時かもね。集落に帰ったらご飯にする?」

 

「お、良いですね!さっさと戻っちゃいましょう!」

 

岩のアーチをくぐって集落への小道に入り、仕事終わりのムードに差し掛かっていた2人の表情は、背面から響く轟音によって一変した。

歯を食いしばり、リエルとアルバートはゆっくりと振り返る。

小道の入口前にはモンスターが暴れ回るには狭いくらいの岩壁に囲まれた荒地になっており、黄跡砂漠のベースキャンプとしても使われている。大型の生き物がわざわざ立ち寄るような場所でもないのだが、そこを見ると左側の岩壁は崩落し、様子が分からなくなる程の砂塵が巻き上がっていた。

 

「キャンプが…」

 

アルバートは呟くが、その声は震えていた。安全地帯として設定された場所にモンスターが現れるという話こそ聞いたことあるが、こうして実際に目の前で起こるのは初めてだった。焦りを感じているのはリエルも同じである。

砂埃が晴れると、その中からぬっと大きな影が一つ現れた。

2階建ての家と同じくらいの高さがあり、頭から尻尾までは一般的な大型モンスターのそれを一回り上回っている。

何よりリエルが驚愕したのは、そのモンスターの異質な形態だった。褐色の甲殻に包まれ、身体の下部には淡い黄褐色の鱗がひしめき合っている。それ自体は何も異常ではない。砂漠に生息する生き物にはその色をしているものが多い。砂や岩石に擬態できる色だからだ。異質なのは、他に類を見ないのは両前足にそれぞれ生えた、大剣を思わせる1本の大きな爪だった。そのモンスターは四肢が4つとも強靭な腕と足に発達しており、大きな爪を内側に畳み、腕と足を使って太い尻尾を引きずりながらベースキャンプを徘徊しては時々二足歩行に立ち上がり、周囲を見回していた。

喉をゴロゴロと鳴らし、落ち着いているように見えたかと思えば、急に唸りだしては鼻の上に生えた1本角を右側の岩壁に叩きつけ始めた。

 

「様子がおかしいですね。アイツ急に怒りましたよ。」

 

モンスターは一通り暴れ回ると、今度は半開きの口から舌をぶら下げながら項垂れた。

 

「モンスターにも躁鬱があるんですか?」

 

「分からない。でも変なのは確か。」

 

「そもそもアレなんですか?初めて見ましたよ。」

 

モンスターは舌をしまって口を閉じ、地面を爪で削っている。マーキングの一種だろうか。

 

「私も。」

 

「まるで翼膜だけを引っこ抜いた飛竜ですね。でも下半身は獣竜っぽくも見えるし…どれにも似ててどれにも似てない…」

 

どれにも似ててどれにも似てない。その言葉にハッとした。過去にモンスターの資料でこれに似た姿のモンスターを見たことがあったのだ。

飛竜、獣竜、牙竜など現在“竜”や“ワイバーン”と呼ばれているモンスターの多くは分類学では竜盤目に属している。しかしそれらに近しい、特に飛竜の絶滅種であるシェルレウスに近しい姿を持ちながら、異なる祖先を持つ種族も存在する。名前はたしか──

 

鎌竜(レンリュウ)種だ。」

 

竜盤目ではなく、鎌竜目という独自の分類を持っている。最初に発見されたのは新大陸に近しい、異なる大陸だというが、現大陸などでも発見例が存在する。そしてこの島にも生息していたというわけだ。

 

「俺の知らない種族っすね。てか思ったんですけど、あんな高い岩壁を容易く粉々にしたってことはアイツが──」

 

「タフトシュトゥカかもしれないね。」

 

タフトシュトゥカと仮定したそれは尻尾を地面に何度も叩きつけると、またもや岩壁への攻撃を始めた。

 

「どう出ます?」

 

「私がアレを引き付ける。集落から遠ざけてくる。」

 

「だったら俺も…」

 

「未知のモンスターは何をしてくるか分からない。だから島の調査隊員のみが接触を許されるの。新人のハンターを危険な目には遭わせられない。」

 

「でもあんなのを1人でなんて…」

 

「大丈夫、私を信じて。いざという時は救難信号も出すから。」

 

機銃のビンを交換し、弾倉内の空洞を埋める。装填後、引き金を囲む用心金をレバーのように降ろし、弾を1発、砲身内へと送り込む。

 

「門番を通して集落に注意を呼び掛けて。あのキャンプに残された痕跡を証拠にすれば話を聞いてくれるはず。」

 

「分かりました。どうか、お気を付けて。」

 

「うん。それじゃ。」

 

リエルは機銃を手に、盾を背中にアーチを飛び出し、タフトシュトゥカの方へ向かった。先端から根元にかけて甲殻が重ね合わさっていく大きな尻尾を飛び越えて、砂漠からキャンプへの出入りに立つ。

 

「ドギツいモグラさん、こっちだよ!」

 

鎌竜は岩壁への頭突きを辞めるとリエルを睨みつけ、岩石同士がもつれ合いながら崩れるかのような唸り声を出したかと思うと、その1本角を突き出して突進してきた。

ベースキャンプを離れ、広大な砂漠までタフトシュトゥカを誘い込む。

竜は前足の鎌を振り下ろし、前方を薙ぎ払う。しゃがんでその攻撃をやり過ごし、顎の下に向かって発砲する。次に口を空けて食い付こうとしてきたため、口内に弾を撃ってから体を回転させて回避した。

地面から頭を引き抜いたタフトシュトゥカはかぶりをふりふり、口の中に入った砂を吐き散らし、更に尻尾や鎌を無造作に振り回して地面の砂をばら撒く事でこちらの視界を奪ってきた。

 

「脳筋だと思ってたけど、結構頭が切れるんだね。」

 

黄土色の煙幕の中で耳の神経を研ぎ澄まし、相手の出す音を聞き取ろうとする。

背面左側、ズガガガという音が急速に近付いてきている。鎌を折りたたみ、あの角を地面に突き立て、長い腕で地面を蹴りながら突進するタフトシュトゥカの姿が容易に想像出来た。

 

「そこッ!」

 

後ろに向き直り、機銃を撃つが手応えは無かった。

方角を誤ったわけではない。何故なら今もなお、真正面から大きな音が徐々に近付いてきている。リエルが弾を外したその理由は…

足元から巨大な影が飛び出し、リエルは大きく後ろに吹き飛ばされた。タフトシュトゥカは地面に潜り、地中から急襲を仕掛けてきたのだ。大きな鎌と角、登場時に岩壁を壊し、地崩れを引き起こしているモンスターと推測されている相手、地面に潜るモンスターであることは予想できていたが、完全に油断していた。

 

「うッ…胸が…」

 

防具で守られたとはいえ、肋骨に多少のダメージが入っているのは、自分の胸が呼吸に合わせて痛むことから分かる。そのような状況であってもタフトシュトゥカは手加減というものを知っているはずもなく、角を向いてまっしぐらに突っ込んでくる。何とか飛び込んで避け、体の中に潜り込むと腹部に機銃を数発撃ち込んだ。

タフトシュトゥカは短い悲鳴をあげて身をよじらせる。

どうやら頑丈な外殻に比べると腹は柔らかいらしい。鎌竜は急所に張り付く邪魔者を退かさんと再び噛み付こうと大口を空けて首を曲げた。代わりに盾を噛ませてそれを防ぐが、噛みつかれた盾がみるみるうちに、縁からひしゃげ始めた。すでにミランタンのギ酸で腐食し、防御力が弱まっていたからだ。

 

このままでは盾を食い破られ、腕を持っていかれてしまう。

 

腹部に再び発砲し、それでも怯まなかったため用心金を持って機銃を一回転させることで次の弾を装填、今度は腹部に押し当てて発射した。流石に痛かったのか、怯みこそしなかったが相手がようやく盾から口を離し、その隙に内部から離脱した。

藍色をしていた2つの点に血が走り、鈍い紫色色に変色すると、太かった尻尾は更に肥大化し、タフトシュトゥカは大きな爪のある前脚を地面から離す。尻尾を巨大化させることで重心を後ろに反らし、完全な二足歩行を可能にしたのだ。

もとより大柄だった竜が人のように立ち上がり、両腕を広げて威嚇するその姿は迫力満点の一言に尽きる。などと感動をしている場合ではない。

タフトシュトゥカは殴りかかるように前脚を振り下ろす。その巨体を半分覆い隠すほどの砂煙が前脚の激突した地面から巻き上がった。

その後も攻撃を避けては弾を撃ち込む、攻防戦が繰り返された。ポーチを確認すると、弾薬の残りが底を尽きかけている。一方タフトシュトゥカの方はと言うと、全身に傷こそ負ってはいるが残りの十数発で息絶えるとは考えられない。

更に異様な事にこの鎌竜は怪我をしながらも後に引くということをしないのだ。大抵のモンスターは攻撃を受け続けると撤退し、ハンターがそれを追い掛ける形で第2回戦へと繋がる。しかしこのタフトシュトゥカは引き下がるどころか完全にこちらを潰すまでここを離れる気は無いように見受けられる。

 

「いい加減、逃げてくれないかな。」

 

強撃ビンを新しいものに替え、弾を全て装填してタフトシュトゥカの出方を伺う。タフトシュトゥカはフンと鼻を鳴らすと、鎌と角で地面を掻きむしり、その褐色の巨影は砂の中へ消えた。

逃げたかと思った矢先、砂の盛り上がりがリエルの周囲をぐるぐる取り囲むように移動し、描かれる円の直径はみるみるうちに縮んでいった。機銃をしっかりと持ち、回避の体勢に入る。

砂の山との距離が人一人分まで狭まり、それが右側に来たタイミングで、モンスターは地中より姿を現した。即座に反対方向に身を投げ出して鎌による攻撃を躱し、反撃を食らわせる。しかしタフトシュトゥカの攻撃はまだ終わっておらず、続けざまに尻尾を薙ぎ払ってきた。直撃は免れたがそれに驚いて仰向けに倒れる。

そこに再び鎌の一撃が襲いかかる。盾で防ごうとするも弱り果てていた盾は木っ端微塵に吹き飛び、その破片が頬を掠めていった。急いで機銃を向け、追撃を貰うまいとがむしゃらに発砲するが弾は全て虚空に向かうか甲殻に着弾し、有効打にはならなかった。

タフトシュトゥカは口を開げ、リエルに対して頭を振り下ろした。迫りくる咽頭、回避する時間は無い。

 

「ぐっ…あぁ……!」

 

左腕を突き出し、なけなしの防御を行った。前腕の防具を貫通した牙が肉に食い込み、骨に突き当たる。更に腕のなかに何か痛みをもたらす液体が、毒混じりの唾液が送り込まれている。腕の骨が音叉みたく響いているような、イヤな感覚だ。

タフトシュトゥカはそのままリエルを咥え上げ、砂漠の奥地まで放り投げる。すぐに起き上がって左腕を確認する。鎧に空いた穴から血が止め処なく流れている。これは恐らく消化を補助する、出血毒の一種だろう。解毒薬など持ち込んでいない。更に腕の痛みに伴い、頭痛と吐き気も襲ってきた。

タフトシュトゥカに対して反撃する余裕も無く、ただ容赦のない追撃を避け続けていたが、遂に走る体力も無くなってしまった。後ろを振り返ると自分の走った場所に一筋の血の跡が長く続いている。

砂漠のなかにある小さな岩の穴に潜り込み、回復薬で痛みを抑え、腕の防具を外して包帯による応急処置を行った。しかし出血は止まらず、すぐに包帯を真紅に染め上げた。あえぎながら包帯を巻いた腕を掴み、ぶり返してくる痛みを何とかしようとするも無駄な足掻きだった。外ではタフトシュトゥカが穴蔵を叩き潰そうと何度も体当たりをしている。ここも長くは持たない。理解していながらも中々体を動かすことが出来なかった。

背負った機銃を取り出そうとするも左腕が電流のような衝撃を発すると共に力が入らなくなり、機銃を手から落としてしまった。それと同時に頭痛も頂点を迎え、胃の中身を地面にぶち撒けた。それでも頭痛と吐き気が治まらない。吐瀉するものが無いにも関わらず嘔吐き続け、その度に咳込んでは喉を切り裂くような痛みが走った。

タフトシュトゥカは体当たりでは中々崩れないと思ったのか、今度は穴蔵の中に左腕を突っ込んできた。最奥まで逃げて何とか機銃を構え、空間を探る大きな爪目掛けて発砲する。5発ほど当て続けるとその鎌は大きな音を立てて吹き飛び、タフトシュトゥカは悲痛な叫び声をあげて腕を引っ込めた。

 

「今だ!」

 

呻いている間に穴蔵から飛び出し、脱出とほぼ同時に怒り狂ったタフトシュトゥカの体当たりによって穴蔵は崩れ落ちた。その衝撃波に体を押され、砂の上を転がる。そしてタフトシュトゥカの後ろ脚に踏まれ、リエルは完全に行動不能になってしまった。鎌竜は砕けた左爪を恨めしそうに見た後もう一度リエルを踏みつける。全身に竜の体重が押しかかり、口から血の塊を吹き出す。息も絶え絶え、四つん這いで逃げようとするがすぐさま3発目が降り掛かった。先ほどまであれだけ苦しかった左腕の痛みや頭痛が気にならないようになってきた。タフトシュトゥカは壊れた玩具を転がす子供のように、右の爪で倒れるリエルを弾いて転がした。

そして口を開き、喉の奥が広がり、丸呑みにせんと接近してきた。

 

次の瞬間、タフトシュトゥカの顔面に何かが激突し、鎌竜は大きく横転した。大柄な人影は頭部目掛けて巨大な塊、狩猟笛を振り下ろし、頭部の甲殻を周囲に撒き散らせた。

 

「だ…れ…?」

 

「狩人の小童に聞いた、ここらにいる手頃な相手とは貴様だな?」

 

大柄な人は薄い朱色の革と黒い毛の防具を身に纏い、黄土色の長方形をした狩猟笛を構えた。タフトシュトゥカも立ち上がり、ターゲットをその大男へと変更して飛びかかる。男は角による攻撃を避けようとせず、狩猟笛で受け止めてから頭部に回し蹴りを食らわせ、続けて笛を豪快に振り回す事で1本角をへし折った。更に笛を吹く事で轟音を鳴らして音波でダメージを与える。

 

「どうした!その程度か!」

 

男は何度も狩猟笛を振りかぶり、タフトシュトゥカの顔を殴打した。腹を立てた鎌竜は右の爪を振って男を攻撃するが、男は笛を盾のようにして側面からの攻撃を防ぐ。それに対してタフトシュトゥカは噛み付いて正面を攻めようとしたため、リエルは頭部の甲殻が砕けた目の上、脳天の辺りに向かって弾を撃った。発砲された弾丸は右斜め前から右目を掠めて頭頂部のひび割れた甲殻を突き破り、脳天に突き刺さった。

タフトシュトゥカはしばらくふらついた後に舌をだらりと垂らし、その巨体を砂の上に横たわらせた。

 

「やっと倒れた…」

 

息切れを起こしながらリエルは言う。痺れる体を起こし、男の元に駆け寄った。

 

「その、助けてくれてありがとう…ございます…ヘルムートさん……」

 

「もっと骨がある奴だと思っていたが。貴様がすでに弱らせていたのか?」

 

アンジャナフの防具を来たことでより迫力のある姿となったヘルムートは拳を握りしめ、今にも殴りかかってきそうだったために用心する。

 

「そう慄くな。今は暴れられて気分が気分が良い。それに私には怪我人をいたぶる趣味は無い。集落へと戻るぞ。小童が貴様を心配していた。わざわざ修行をしていた私を叩き起こしてまでな。」

 

小童、恐らくアルバートの事だろう。彼はヘルムートに応援を呼びに行ってくれていたようだ。戻ったら彼にも感謝しなくては。

ヘルムートから追加で秘薬を貰い、それを服用したことで痛みは幾分かは落ち着いた。それでも解毒薬を飲まない事には毒の症状を緩和させられないが。

 

 

そして集落へと帰る途中、崩れたキャンプ跡に違和感を感じ、ヘルムートを呼び止めた。

 

「何事だ?私はさっさと修行の続きを─」

 

「ここを見てください。」

 

砂の溜まりに小さな3本指の足跡がいくつもある。大きさはそれぞれで複数の個体がいるのが分かる。そしてそれらは全て集落のある方へと向いていた。

 

「速やかに帰還するぞ。」

 

集落へとたどり着いたとき、事は既に始まっていた。

橙色の細い身体をした、頭部の周りにエリマキを持つ鳥竜──ジャギィの群れが集落を襲撃していたのだ。

 

「まずいことになった。」

 

ヘルムートは群れの中へ飛び込み、住人の少女に飛びつかんとするジャギィを殴り飛ばした。既にアルバートは戦闘態勢に入っていたようで、数の多いジャギィ達に手を焼いていた。

 

「もう大丈夫だ。」

 

彼はそう言って少女を庇い、近寄ろうとするジャギィを次々と素手で倒していった。リエルは機銃を持ち、スラッシュアックスを振り回して住民からジャギィを追い払うアルバートを援護した。そして近辺のジャギィの数が減った所で集落にある雑貨屋の中へと入り込み、解毒薬を一つ取って一気飲みした。左腕の痛みが和らぎ、肩を回しても痛まなくなった。

ジャギィは次々に集落の中へと入り込み、奥へと避難する住民を追い掛ける。その規模は目に映る範囲でも20体は超えている。タフトシュトゥカに怯え、住処を追い立てられ、ここまでやって来たのだろう。

奥地のジャギィを撃とうとするも、その後ろには住民がおり、発砲すると流れ弾が当たってしまう。ヘルムートもアルバートも、そこまで間に合いそうにない距離にいる。

 

「うわぁあああああ!!!!」

 

ジャギィに飛び付かれた奥地の住民は必死に突き離そうとするが、ジャギィの顎は徐々に迫ってくる。すると、そのジャギィ目掛けて大きな斧が投げ込まれ、ジャギィの胴体を真っ二つに引き裂いた。一瞬アルバートのスラッシュアックスかと思ったが、それにしては長さが足りない。そこへ斧の持ち主であるトゲの生えた甲冑が現れ、ジャギィの尻尾を引っ掴むとそれをムチのように振り回し、他のジャギィを吹き飛ばしていく。その甲冑には見覚えがあった。騎士、アルキュリエのものだ。

 

「砂漠の犯罪者ってコイツらっすか!?カオッロさん!!」

 

「いや違う。しかしそれはそれとして緊急事態のようだ。」

 

別のアルキュリエは左腕そのものが巨大な刃のようになっており、それでジャギィに飛びついて体を斬り裂いた。リエルはその2人の声に聞き覚えがあった。

 

「もしかしてヒリノさんとカオッロさんですか!?」

 

噛み付こうとしてきたジャギィを足蹴にして踏みつけ、頭を撃ち抜いてから2人の騎士に聞く。

 

「あっ!どうもっす!これどうなってんすか!?」

 

ヒリノが聞き返す。

 

「恐らく別のモンスターの影響で集落までやって来たんです!私は避難する住民の誘導を!」

 

「では私は殿を。おいヒリノ、ここの連中は頼んだぞ!」

 

「騎士の者よ!これを。」

 

ヘルムートはそう言って抱っこしていた少女をカオッロに授け、狩猟笛を持って集落に跋扈するジャギィに向かっていった。

 

「自分もサポートするっすハンターさん!」

 

ヒリノもジャギィから斧を引き抜き、集落の入口に現れた一際大きな薄紫色のジャギィ、群れのリーダーであるドスジャギィに斬り掛かった。

 

 

 

リエルは集落の奥から出る住民の列の先頭に立ち、襲い来るジャギィを次々と撃ち倒していった。後方ではカオッロが左腕の刃で取りこぼしたジャギィや生き残りにトドメを刺していく。

もうすぐで避難所の洞窟に到着するという時、地面が揺れ、住民達の前に立ちはだかるようにタフトシュトゥカが現れた。左の爪と角が破壊され、脳天には弾痕が残っている。

 

「なんだアイツは…?」

 

巨大な竜の出現に住民達がパニックを起こす。リエルは周囲の環境を確認する。集落の裏口はモンスターが比較的入りやすく、周りには対モンスター用のバリスタや火薬、そして縄に縛られ積み上げられた岩があった。残りの弾丸は4発。これらを活用して倒すしかない。

 

「私が相手をします。カオッロさんは皆様を。」

 

シールドガンの盾に装着し、モンスターを誘き寄せるための挑発ビンを開け、タフトシュトゥカの意識が自分に向くよう仕向ける。その間にカオッロは住民達を大急ぎで洞窟まで避向わせた。

挑発ビンを持ったまま落石地点まで誘導し、機銃を構える。

タフトシュトゥカが吠え、体当たりをしようとしたタイミングで岩を縛る縄を撃ち抜き、落石を起こす。岩雪崩が鎌竜を襲い、タフトシュトゥカは体を揺すってのしかかる岩を払い除けた。

次に火薬の積み込まれたタルを転がしてタフトシュトゥカの腹部に潜り込ませる。それから相手が攻撃するより先にタルを撃った。爆炎がタフトシュトゥカの体を包み込み、タフトシュトゥカは苦しみもがいている。

次はバリスタだ。そう考えて矢の束を担ぎ、バリスタに装填して発射しようとするが、激昂しているタフトシュトゥカは構わず突撃してきた。飛び退いてタックルを避けるものの、それが直撃したバリスタは弓の部分が空高くまで打ち上げられ、使い物にならなくなった。

 

「まずい…」

 

残り2発の弾で何が出来るのか。火薬はもう残されていない。タフトシュトゥカは右腕を振り上げ、次の攻撃を繰り出そうとしている。

 

「おいこのクソ野郎!」

 

タフトシュトゥカの背面からアルバートの叫び声が聞こえた。鎌竜も反応して振り返ると、アルバートがスラッシュアックスのビンをいくつも綴りつけた縄を投げ、タフトシュトゥカの顔周りに巻きつけた。

 

「先輩!今ですッ!」

 

縄に巻き付かれた強撃ビンを狙うが、タフトシュトゥカも頭を振り回して縄を外そうと暴れる。更にろくな休息も取らずに動き回った影響か、再び左腕が熱を持ち始め、痛みが戻ってきた。

左腕を支えに機銃を持ち、相手に合わせて標準を変えるのではなく、自分の標準に相手が来るのを待つ。

そして標準の中にタフトシュトゥカの頭が入った瞬間、引き金を引いた。

弾丸は強撃ビンを撃ち抜き、その時に散った火花がビンに着火、金色の稲妻状のエネルギーが次々に爆発を起こし、タフトシュトゥカの甲殻が一帯に吹き飛んでいった。

 

「っしゃあ!さすが先輩!」

 

だがタフトシュトゥカは顔の半分が吹き飛んで頭の中が剥き出しになり、右目は飛び出て顎がひしゃげているにも関わらずまだ生き永らえており、そのおぞましい顔をリエルに向けて吠えた。立つこともままならないようで自慢の鎌を振り上げる力すら残っていないのか、口を広げて喰らいついてくるつもりだ。

残りの1発で出来ること……

感覚を研ぎ澄まし、片手で機銃を構え、ある一点に狙いを定める。

 

夕陽が差す集落の外れで両者の僅かな睨み合いが続き、先にタフトシュトゥカが顎を剥き出しに頭を振り下ろした。その瞬間にリエルは引き金を引き、撃ち出された弾はタフトシュトゥカの脳天を、かつて弾が突き当たった部分に正確に着弾し、ヒビの入った骨を砕き、内部の脳を貫通した。

タフトシュトゥカは雄叫びをあげながら頭から血を噴き出し、遂に息絶えた。

リエルは機銃を回転させ、最後の薬莢を排出した。

 

 


 

 

集落のジャギィも掃討し、その遺体の処理に追われて仕事が終わった頃にはとっくに日が沈んでいた。

 

「あの未知のモンスター、タフトシュトゥカと呼ばれていた生き物はギルドによる解剖に回されることになった。」

 

「まさかモンスターの襲撃に巻き込まれるとか…明日も別の調査あんのにさぁ。」

 

ヒリノは面倒そうにかぶりをふり、あくびをするとそれをカオッロに窘められた。

 

「お二人とも、どうもご苦労さまです。」

 

「そういえば君、左腕をやられたと聞いたがそれはもう大丈夫なのか?」

 

「はい。この通り。」

 

リエルは左肩を回してみせた。

 

「ハンターの頑丈さには毎度驚かされるよ。」

 

「先輩〜!」

 

後ろからアルバートが走ってくる。彼は2人の竜人族にも挨拶を交わす。

 

「どーも!ヒリノさん今日凄かったですよ!斧でドスジャギィの首をこんな風にズバンって!」

 

アルバートは腕を大きく振りかぶるジェスチャーをする。

 

「あれが自分のパワースタイルの狩りっすよ!どんなにでかいモンスターも一撃っす!」

 

「ただ脳筋なだけだろう。力が強いのは良いが、やはり攻め方に無駄が多い。」

 

「怪力といえばヘルムートさんもやばかったですよね!アッパーでジャギィの首ひん曲げてましたよ!」

 

「そういえばヘルムートさんどこに行ったんすか?」

 

ヒリノの質問を聞き、周囲を見渡す。既に住民達は集落へと戻り、それぞれの生活を再開させ始めている。その中に一人、見覚えのある大きな影があった。ヘルムートは何やら3人の家族と話しており、その子供はヘルムートがジャギィから助け出した少女だった。

 

「彼、問題行動が多いって聞いてたんすけど、ああ見る限りごく普通の人っすね。」

 

「あれこそがあの人の本来の姿なのかもしれませんね。」

 

ヘルムートは一家と共に家の前で火を囲み、肉を焼いている。それを見てかアルバートの腹が鳴ったのが聞こえた。

 

「あ、すいません。」

 

「お昼何も食べてないからね。いっぱい食べよっか!」

 

「自分もオトモす──」

 

「お前の食事はボックスのを用意してあるからその必要はないぞヒリノ。」

 

「ボックス!?またあの赤とか白の箱に入った麺類っすか!?何日も食っててもう飽きたっすよ〜!」

 

ヒリノはカオッロに引っ張られ、2人の影は見えなくなっていった。

 

その後リエルとアルバートは昼に食べられなかった分、夕飯として現地の料理をたらふく食べた。結果次の日に朝から胃もたれを起こし、帰りの飛行船は部屋から全く出られず苦しみ続ける地獄のような時間を過ごす事になった。

タフトシュトゥカの毒と胃もたれ、どちらが恐ろしい存在かは甲乙つけがたい。そう思いながらリエルは眠りにつけなかった。

 

 

第11話:End




今回のエピソードに登場した鎌竜種は、ラハシア(Twitter:@NEOu10n)様のオリジナル種族です。
この場を借りて、鎌竜種の使用許可をくださった事に深く感謝いたします。
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