Monster Hunter Alive   作:魔邇鹿夜

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第2話:追想

 

ユデグエンド島の唯一国ミュトガルズ最大の都市であり、ユデグエンドギルドの本拠地が置かれている街ロムポルスにはハンター専用の設備や施設が数多く存在する。

古代の遺跡を利用して造られた建造物は、かつてはどれも古く原始的なものであったが、大陸のギルドと共同で開発を進めた結果、この二十年で大発展を遂げ、大陸にあるそれと遜色のないものになった。

この修練場も、昔はこの島におけるハンターこと騎士“アルキュリエ”達が使う施設で、人同士での模擬的な戦闘訓練を行う場所だったらしい。

しかし現在は岩や丸太で組まれた四足歩行のモンスターを模した像が中央に鎮座していたり、からくり仕掛けの動く的が並べてある等、武器の試運転やモンスターの弱点を狙う際の立ち回りの模擬訓練をするための施設へと様変わりした。

リエルは一人、修練場の中で武器を使った模擬戦闘を行っていた。

的の中央を狙い、引き金を引く。しかし着弾したのは的の端っこだった。

 

「思ったように弾が飛ばない…」

 

リエルが使っている武器、それはユデグエンド島で加工屋を営むグレイヴン・アイアンズが開発した15種目の武器、シールドガン。

大盾と機銃の合体武器であり、大盾でモンスターの攻撃を防ぎつつ、ビンの内容物で弾丸を強化して発射して使う。

船の事故の際に武具を紛失したリエルは、島の武具屋でランスを購入しようとしたが、気付けばその際目に入った見知らぬ武器に手が伸びていた。

その後結局使える武器を一通り購入し、狩猟に使う道具一式や日用品を一気に買ってしまったせいでやや金欠気味だが、全く新たな武器を扱う瞬間のこの楽しさに比べれば安い物だ、とリエルは考えていた。

今までも色々な武器を、武器種であればほぼ全てを使ったことがあるが、どれも各々の個性を持っている。このシールドガンもまた、重厚な盾で身を守るだけでなく、囮でモンスターを引き寄せて遠距離から狙撃することも出来る。壁と狙撃者、全く異なる二つの役割を行える武器なのだろう。

 

 

三時間ほどの模擬戦闘を終え、昼前になった頃、クエストに行こうと受付へ向かった。

クエストの受け付けが行われる集会所には、何人かのハンターがくつろいでいたり、防具を見たりしていた。多くは今のリエルよりも豪華そうな装備を身に纏っている。恐らく前に来ていた調査隊所属のハンター達だろう。

 

「最近森林で変な痕跡が見つかってるらしいな?しかもその近くで山菜やらを採りに行くって言ってた町民がそれ以来行方不明らしいぜ?」

 

「沼の近くで見つかった一対のデケェ抉り跡のこと?やっぱアレって新種かなぁ?」

 

「写真見たことあるけどよぉ、なんかあの跡見覚えがあるんだよなぁ…」

 

ハンター達の会話を小耳に挟みながら集会所を歩き、クエストカウンターの前にたどり着いた。

 

「こんにちは。今日はどちらのクエストに?」

 

受付嬢のエヴァンジェリンはお洒落なな黒いドレスに身を包む小柄な少女である。

少女、とは言っても彼女は竜人族であるため、生きてきた時間はリエルよりもよっぽど長いだろう。

 

「エヴァンさん、その…たしか旋翼竜の依頼がありましたよね?」

 

「はいこちらに。これを成功していただければ、貴女の功績が認められ、ハンターランクが昇格いたします。」

 

エヴァンジェリンが依頼書をリエルに向けて見せる。表情一つ変えずに淡々と話す彼女に、リエルは少しばかり不気味さを感じていた。

 

「じゃあ、それ受けます。」

 

「了解しました。ドスケイロスは部下のケイロスと連携を取り、空中から攻撃を仕掛けて来ます。くれぐれもお気を付けを。」

 

エヴァンジェリンが依頼書に印を押し、リエルに手渡す。

 

「ああ、わざわざすいません…」

 

エヴァンジェリンに貰った依頼書を読む。クエスト内容は旋翼竜ドスケイロス一頭の狩猟。最近巨竜森林でケイロスが大量発生しているらしく、複数の群れが暴れまわっているらしい。

そのため彼等の狩猟依頼がリエル達のような“第3期新天地調査隊”のハンター達に出されたのである。

調査隊に推薦されたハンターは皆、何らかの大きな功績を残した者達で構成されているが、これはほんの小手調べだと思われる。また、彼等は島に来たばかりでまともな装備を持っていないハンターでも比較的安全に狩猟が行える存在でもある。自然の多様性を保護するため、現大陸からの物資の持ち込みが禁止されていたということをリエルがすっかり忘れてしまっていたことに気付いたのは、リエルがロムポルスに到着した日の夜、すなわち二日前のことである。

うっかりして物忘れをしてしまうのは治したい悪いクセではあるが、今回ばかりはそのことを忘れ、防具を着て行ったからこそ、あの爆発で命を落とすことは無かった。いや、防具を着ていた上で、同じく物忘れが激しくて防具を着用していたミヒルが庇ってくれたおかげだった。

一番の友達を失ったという現実が、リエルには受け止めきれなかった。未だに彼女がどこかで生き延びているのでは無いかと考えてしまう。

あの時、ミヒルは私の目の前で息を引き取ったというのに。

 

アンタが無事で…良かったよ……本当に…。

 

そう言いながら血塗れの手で涙を流す私の顔を拭い、まっすぐこちらを見つめてくるミヒルの姿が脳裏にちらつく。

 

「どうかされましたか?」

 

エヴァンジェリンの声で我に返る。彼女は物不思議そうにこちらの様子を覗き込んでいた。

 

「いえ、何でも…では。」

 

リエルはエヴァンジェリンに小さく手を振り、クエストカウンターからクエストの出発口へと移動した。

ロムポルスから巨竜森林へはポポが牽引する荷車に乗って移動する。ロムポルスはミュトガルズの北部一帯の所を指すが、そのうちギルド本部の置かれている地点は最北部に存在する。

巨竜森林へは出発口から荷車で数時間かけてミュトガルズの西関所まで下りる必要があり、その関所を抜けてすぐの場所にベースキャンプが置かれている。

出発口には丁度荷車が一台停まっており、御者と思わしき男性がポポに干草を食べさせていた。 

 

「えっとすみません、巨竜森林までお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

クエストの依頼書を御者に見せる。

 

「おう、乗りな。」

 

本来ミュトガルズ内の移動で荷車を使うには大体3〜10ゼニー程かかるが、ハンターのクエストのための移動の場合はギルドが交通費を負担してくれるようになっているのだ。リエルは荷車に乗り込み、重々しいシールドガンを床に置いた。

御者がポポと荷車を紐で括り付けて前の席に座り、手綱でポポを動かし始めたその時だった。

 

「お〜い、ちょっと待ってくれ〜!」

 

一匹のアイルーが叫びながら荷車まで走り、そのまま飛び乗って来た。

 

「もう一人来るから、待っててくれないか?」

 

彼の走って来た方向を見ると、一人のハンターが依頼書を見せながら小走りで駆け寄って来ていた。

 

「俺達も巨竜森林に用がある。」

 

荷車に乗ってきたハンターの男性は、低い声でボソボソと呟くように言った。歳は私より少し上くらいだろうか?話し方といい、片目を隠す真っ黒な髪といい、クマがあって悪い目付きといい、暗い雰囲気を漂わせていた。

防具はロムポルスに来た際にギルドから配布される“アライバル”と呼ばれる装備だ。私も同じものを装備している。恐らく私と同じ3期隊の一員だろう。背中には双剣“ツインダガー”を背負っている。

彼の隣に座るアイルーは所々に汚れが目立つ白い毛皮に黒い縞模様が入った虎柄をしていて目はリエルのものよりも明るい緑をしていた。彼もハンターと同じく、ギルドから配布された武具を身に纏っている。人間社会に来てから相当経っているのか語尾にニャが付いていないようで、毛皮の染み付いたような汚れ等から見ても、かなりのベテランのように見える。

 

「あの〜、始め…まして…。私…リエル・ミシェリアって言います…。巨竜森林へはドスケイロスの狩猟に向かってて…」

 

人と話すのはあまり得意では無いが、勇気を出して軽い自己紹介をする。

 

「…あっそ。」

 

彼は荷車の外を眺めながら素っ気なく返した。横のアイルーが不服そうな顔をする。彼はアイルーの顔をちらっと見やると、口を小さく開きながら話し始めた。

 

「俺はノアー・アーク。コイツはメラ、俺のオトモで編纂者の資格も持ってる。俺達はケイロスの群れを狩るのと調査のために巨竜森林に向かってる。」

 

ノアーがこれで良いか?とでも言うような顔でメラを見る。それに対しメラはやれやれと肩をくすめていた。

 

「せっかくですし、一緒に…行きませんか?」

 

「は?」

 

「ノアーさんはケイロスの討伐が目的ですよね?私はドスケイロスが標的。ドスケイロスの近くには部下のケイロスが多く集まるはずです。ですから、その……」

 

リエルは声が少しずつ小さくなっていき、話を止めた。なぜならノアーがリエルの提案に対し、不満そうな顔を見せていたからだ。

 

「お前を手伝うつもりは無い。俺は俺の依頼を終えたらすぐに帰る。」

 

「勿論、私の事を手伝って貰わなくて結構です。一人でも出来ると思うので…ただ、こうやって会ったのも何かの縁かもしれませんし、えっと──」

 

「仲間とかいねぇの?」

 

仲間…ここでも一緒に狩りに行こうと約束した親友はいたが、既にこの世にはいない。

 

あの時、私を庇って……

血だらけの手が顔を触れる感覚がした。

 

「どうかしたか?」

 

ノアーに話しかけられ、ハッと我に返る。またもあの状況を脳内に呼び起こしていた。

 

「え、いえ、別に何も…。初めて狩猟するモンスターなので心配というかなんというかその、一人での狩りに慣れてなくて…。いつも狩りは友達と一緒に行ってたんです。でも今はこの通り一人で…」

 

「その友達は調査隊に推薦されなかったのか?」

 

「されました。でも、あの…船が…壊されて…その──」

 

体が震え、再びあの時の記憶が鮮明に蘇って来る。

 

「なるほどな。」

 

ノアーがフラッシュバックを遮るようにいった。

 

「こう言ってすぐ出来るわけ無いと思うが、嫌な過去は忘れろ。思い返してもロクなことにならん。」

 

そう言う彼の表情には、どこか含みがあるようだった。

 

「…まあ手伝ってやる。ただ報酬の三分の一くらい俺達に寄越せ。それじゃ、寝るから着いたら起こせ。」

 

話し終えるとノアーは頭の後ろで手を組み、そのまま眠り始めた。メラも床で寝そべり、ノアー同様に眠りに落ちた。

 

そこから到着までの時間は移り変わる風景を一人で眺めていた。

 

 

 

巨竜森林に到着したのは昼過ぎだった。

ノアーを起こして荷車を降り、一行はベースキャンプ内を歩く。ベースキャンプにはテントが一つ、その近くに調理場があり、奥には魚の泳ぐ水辺が存在した。テントの横には荷車を引いていた個体とは違うポポが二頭いた。

地図を頼りに、最初はモンスターの集まりやすい広場になっている草原へ向かう。

 

草原には複数頭のアプトノスが闊歩しており、特に変わった様子は見られなかった。

 

「ここには何もいないみたいですね。」

 

「ああ。メラ、何か見つけたか?」

 

「いや、何も。」

 

続けて草原より北西にある森を探索した。木々が立ち並ぶこの森は、翼竜であるケイロス達が最も好き好む環境だろう。

 

「まずは痕跡を探そう。」

 

ノアーの言葉通り、リエルは周囲の木や草、地面を探り始めた。ドスケイロスは足跡等の痕跡を残すことが少ないが、木の幹に引っかき傷の痕跡を残す。

 

「あっ。」

 

立ち並ぶ木々の一本に付いた、三本の爪痕を見つけ、声を漏らす。ノアーらを呼ぼうとすると、彼らは既に後ろから木の痕跡を見つめていた。

 

「これって…」

 

「コイツぁマーキングだな。」

 

直後、森の木々を甲高い叫び声が駆け抜けた。

痕跡の木の後方を見上げると、二匹の翼竜が木の枝からこちらを見下ろしていた。体表は茶色く、肌色の翼膜を持ち、頭には橙色のトサカが一本生えていた。長い尻尾の先は赤く菱形になっている。

特徴から見て、間違いなくケイロスだ。

二匹の翼竜はこちらに向かって威嚇の雄叫びをあげている。

 

「リーダーはお留守番か?」

 

ノアーは背負っていたツインダガーを引き抜き、中腰の姿勢になって構えた。それに続いてリエルもシールドガン“アイアンシールド”を構える。

ケイロス達はそれに呼応するようにこちらに向かって滑空してきた。

ノアーは攻撃を避けつつケイロスの翼膜を斬りつけ、リエルは真正面から突っ込んできたケイロスを盾で弾き飛ばす。

そして追い打ちでノアーは墜落したケイロスの首筋を切り裂き、リエルの方は盾の尖った下部を頭に突き立てた。

直後、威嚇の咆哮を聞きつけてか、複数のケイロスの群れが縄張りの中に戻ってきたのが見えた。数えた所、十五匹は超えているだろう。その中に一頭、先陣を切って飛んでいる一際大柄な個体が紛れている。リーダーのドスケイロスだ。

 

「凄い数…」

 

「パーティーは人数が多い方が楽しいだろ?一発ドデカイのをブチかますぞ!」

 

メラはそういって巨大なブーメランを取り出し、群れに向かって投擲した。ドスケイロスはそれをいち早く避けるが、その後ろを飛ぶ四匹にブーメランが命中し、頭に直撃した一匹はそのまま地面へと墜落していった。

すかさずノアーが落ちた一匹の側頭部を突き刺し、トドメを刺す。

残りの個体達は空中で円状に並び、その中央にドスケイロスが陣取る。部下達は噛み付こうと口を開きながら滑空して来た。

先端が尖った細い黄色のクチバシの中には針のような牙がびっしりと並んでいた。ドスケイロスは空高くに滞在し、まるで攻撃指令のように吠え続けている。

まずはしつこく突進してくる部下を何とかしようと、リエルはシールドガンの盾を展開して内部に収まっていた機銃を取り出し、こちらに向かってきた一匹に向けて発砲した。弾丸は見事頭部に直撃し、一撃で仕留めることが出来た。

続けて中央のドスケイロスを狙い、機銃のトリガーに指をかけるが、横から別のケイロスが後ろ脚の爪を突き出しながら突撃して来た。

一瞬反撃体勢を取ろうとするが、そのケイロスに対してノアーが回転斬りを行ったため、再び標準をドスケイロスへ向けて発砲した。

翼に被弾したが、弾丸は翼膜を貫通せず、ドスケイロス自身も一瞬怯んだ様子を見せただけだった。すかさず二発目を打ち込み、今度は頭部に命中させた。

翼竜のリーダーは大きくよろめき、地上に落下する。

ノアーが追い打ちをかけようと双剣を構えて飛び掛り、それに対してドスケイロスは尻尾を振り回してノアーを吹き飛ばそうとするも、ノアーはバック宙で攻撃を避ける。

ドスケイロスはゆっくり立ち上がると、翼を大きく広げ、怒りの咆哮を上げた。甲高い金切り声が森を駆け巡る。

 

「用心しろ。」

 

ノアーの言葉に頷き、機銃に強撃ビンを装填する。シールドガンは、ビンの内容物を弾と共に飛ばす事で弾丸を強化出来るのだ。強撃弾をドスケイロスの頭部目掛けて発射し、クチバシに彫刻刀で削り取ったような傷跡を付ける。

ドスケイロスは金切り声を上げながら飛び上がると、周りを飛んでいる部下の一匹を足で引っ掴んでこちらに投げ飛ばして来たが、飛んできたケイロスは盾によって防がれた。

 

「優しい上司だな。」

 

メラは投げられて倒れているケイロスにそう言い、助走をつけてからドスケイロス目掛けて飛び跳ねた。見事ドスケイロスの尻尾に張り付き、そこから背中までよじ登る。

 

「もっかい落ちて貰うぜ、ってうわぁぁあ!?」

 

ドスケイロスが邪魔だと言わんばかりに体を振り回し、メラを落とそうとする。

一方のメラは爪を出してドスケイロスの体にガシッとしがみついていた。

 

「そう暴れなさんな!大人しくしやがれ!」

 

メラは武器のピッケル型の“ボーンネコピック”をドスケイロスの背中に突き立てる。暴れ翼竜は叫び、さらに激しく暴れ始めた。

 

「お、落とされちまうッ!リエルーッ!オレのことはいいから撃って撃って撃ちまくれぇ!」

 

メラの言葉通りにドスケイロスに向かって乱射する。何発かメラに当たったような気がするが、気にせず弾倉内の弾を撃ち尽くすまでトリガーを引き続けた。

暴れ回るドスケイロスの高度が段々と落ちていく。しかし、相変わらず背中に乗っかるメラを叩き落とそうと必死な様子だった。

メラはピックから手が離れて落ちかけるが、すかさずドスケイロスの胸部に爪を食い込ませた。しかし、直後にドスケイロスがメラを咥えあげ、噛み潰そうとし始めた。

弾を撃ち尽くしたリエルは素早く弾丸をリロードしようとするが、先ほど投げられてきたケイロスに飛び掛かられ、そのまま地面に抑え込まれてしまった。

 

「っ…!」

 

両足を掴まれ、身動きが取れない。例え小型といわれる翼竜でも、人間が力勝負をして勝てる相手では無いのだ。首を噛み千切ろうとしてくる顔を両手で押さえるのがやっとだった。

 

「うぐっ……ッ!!!」

 

ケイロスの頭部を押さえていた腕が震え始めた時、ノアーがケイロスの身体を横から切り裂いた。ケイロスの抑えてくる力が弱まり、リエルはケイロスの身体を横に倒した。

その次にノアーは木を駆け登ってから幹を蹴って跳び、体ごと回転させながら空中にいるドスケイロスを斬りつけた。

ドスケイロスは怯んで咥えていたメラを離し、軽く唸ると十匹ほどの部下共々そのまま飛び去っていった。

 

「ごめんなさい…助かりました…」

 

「やれやれ…食われるかと思ったぜ。」

 

「後を追うぞ。」

 

ノアーは素早く砥石で血のこびりついた刃を研ぐと、群れの飛んでいった方角へとメラと共に走っていった。

 

「あ、待ってください!」

 

弾を込め直し、ノアー達の後を追う。

 

ケイロスの群れを追い掛けてたどり着いたのは、森の中の沼がある水辺だった。

ドスケイロスは奥側の沼地で水を覗き込み、そこに泳いでいる魚を捕まえていた。

一行はその様子を手前の岩陰から覗いていた。

 

「頭を撃て。」

 

ノアーが囁くような声で指令を出す。その通りにリエルは頭目掛けて弾丸を飛ばした。

頭に弾丸を喰らったドスケイロスは短い悲鳴を上げ、大きくよろめいた。

直後に幾つもの甲高い叫び声が鳴り響き、上で見回りをしていた二匹のケイロスが一斉にこちら目掛けて突撃してくる。

 

ノアー、リエル、メラは反撃しようと武器を構えたが、二匹のケイロスは突然沼の中から現れたモンスターに飲み込まれ、姿を消した。

 

そのモンスターは、一行とドスケイロスの間に立ち塞がり、咆哮をあげた。

赤い甲殻に青く染まった四肢、大きな顔と下顎に生えた一対の巨大な牙、その姿は間違いなく、ユデグエンド島での目撃情報が未だに存在していない両生種、『鬼蛙 テツカブラ』だった。

リエルはクエストに行く前に聞いたハンター達の会話を思い出す。

 

 

“最近森林で変な痕跡が見つかってるらしいな?しかもその近くで山菜やらを採りに行くって言ってた町民がそれ以来行方不明らしいぜ?”

 

“沼の近くで見つかった一対のデケェ抉り跡のこと?やっぱアレって新種かなぁ?”

 

“写真見たことあるけどよぉ、なんかあの跡見覚えがあるんだよなぁ…”

 

 

なるほど、ここがその沼で、痕跡の主はテツカブラだったか。過去に討伐した事のある相手ではあるが、その時はある程度強固な防具とその外殻を傷付けられる強力な武器があったから成し得られた。しかし今の装備は彼を相手取るには貧弱すぎる。

問題はそれだけではない。そろそろ日が沈み夜になる。暗闇の中森を動き回るのはかなりリスクが高い。ここは一旦引くべきだ。

 

「ノアーさん。ここは一旦引きましょう。この装備では太刀打ち出来ませんし、もうすぐ夜です。一度キャンプに戻って体制を立て直すべきです。」

 

「最近起こった行方不明は恐らくコイツが原因だ。俺はその調査も任されてる。ここで討伐する。」

 

「だから、今の私達では…!」

 

テツカブラが大口を開けて地面を抉り、巨大な岩塊を取り出す。それを咥えたまま、こちらに歩み寄って来た。

 

「岩を持ってる時は尻尾が柔らかくなる。」

 

ノアーはテツカブラの後方に回り込み、尻尾に攻撃する。

しかしテツカブラは怯まずそのまま後ろを振り向き、ノアーの目の前で咥えていた岩をかみ砕いた。

激しい衝撃音と共に岩塊が砕け散る。ノアーは飛んできた岩片を上手く双剣の刃で防いだり身を翻して避けたりし、攻撃をやり過ごした。

 

「そう簡単に怯んだりはしてくれ無ぇか…」

 

リエルはノアーの背面にドスケイロスが滑空しながら近づいて来ているのに気付いた。すぐさまそれを撃ち、発砲音でノアーも後ろの存在に気付くが、ドスケイロスはすんでのところでそれを避け、そのままノアーの頭上を通り過ぎてテツカブラの背中に乗り、クチバシで背中をつつき始めた。

テツカブラは飛び跳ねて体を大きく振り回し、ドスケイロスを振り下ろす。二頭は向かい合わせの状態で吠え、まずはドスケイロスがテツカブラに再び飛び掛かる。

 

「アイツらおっぱじめやがった!」

 

「都合が良い。」

 

テツカブラの頭に乗り込んだドスケイロスは眉間をクチバシで突き、それに対してテツカブラは頭を回して落とそうとする。

そしてドスケイロスが少しバランスを崩した隙に尻尾を咥える事に成功し、そのまま地面に叩き付けた。追い打ちで牙を使って地面もろとも抉り取ろうとするが、ドスケイロスは飛び退いて回避する。

そして攻撃指令のような咆哮を上げるも、テツカブラが口から吐いた緑色の液体によって墜落してしまった。

 

テツカブラは口を広げてドスケイロスに飛び掛かり、今度は体を咥えた。

そのまま体を咀嚼していた所に三体のケイロスがリーダーを助けようとテツカブラに攻撃を仕掛ける。

後方から来たニ体はトゲの生えた尻尾で殴って地面に叩き付け、前から突っ込んできた後の一体に対してはドスケイロスを投げ付けた。

弱ったドスケイロスがか細い声で鳴きながら痙攣する。そこにテツカブラがトドメのボディプレスを食らわせた。

ドスケイロスは投げ付けられた部下諸共身体を押し潰され、短い悲鳴を上げるとそのまま動かなくなった。

テツカブラは死骸を咥えあげ、飲み込み始める。

旋翼竜の体は、鬼蛙の大きな口の中に消えて行った。

その様子を見ていた生き残りのケイロス達は、一頭、また一頭と散開する。

 

「…クエストクリア、だな。」

 

「です…ね。」

 

激しい争いに勝ち、巨大な獲物を平らげたというのに、テツカブラはまだ足りないのか再びリエル達の方を向いた。

空を見ると、もうすぐ日没だ。辺りはかなり暗くなっていた。

 

「流石に退きますよね?」

 

「ああ…畜生。」

 

ノアーがテツカブラにペイントボールをぶつける。桃色の煙と共に、強烈な匂いが周囲を漂う。

テツカブラがその匂いに反応しているうちに、一行はキャンプのある方向へと走った。

 

 

キャンプに到着し、リエルはテントの中に入って武器を床に置き、仮眠をしようとベッドに倒れ込んだ。

仮眠を取るだけのつもりだったが、疲れが溜まっていたリエルはいつの間にか深い眠りに落ちていた。

 

 

 

 

目を開くと、リエルは一人、大海原を漂っていた。周りを見渡しても島一つ見当たらず、あるのは浮かんでいる木片だけだった。

現状がよく理解でき無いが、とにかく助けを待つ必要がある。力を抜き、仰向けになって体を浮かせる。

 

 

その姿勢のまま数分が経過した時、突然左足を何かに掴まれた。

自分の心臓がバクバクと音を立てているのが分かった。左足を見ると、人の手が絡み付いていた。

その手は真っ白で傷だらけ、爪は全て剥がれている。

手は握り潰すかのような勢いでリエルの左足を掴んでいる。それはまるで、彼女を引きずり込もうとしているようだった。

姿勢を崩さないよう、その腕を引き剥がそうとするが、掴む力が強く、ゆっくりと左足が沈み始めた。

 

まずい、早く何とかしなければ。

 

その時、右足にも手が乗っかって来た。右足の手も沈めようと力を込めてくる。

このままだと溺れる。泳いで逃げようと必死に腕を回し始めた。しかし身体は一向に前に進まず、既に下半身が沈んでいた。

その時、左足の感覚が消えた。諦めたのかと思ったのも束の間、再び水面から腕が伸び、今度はリエルの頭を掴んで水中に沈めてしまった。

 

そして、水の中でリエルを沈めようとしていた何かの全貌が顕になった。

それはミヒルだった。

ミヒルは全裸で無表情のまま、リエルの体を掴んで水の中に沈めている。肌は血の気が無く真っ白で、所々が激しく損傷しており、腐敗した傷口には蛆虫が大量に付着していた。

特徴的な青い目には光が灯っておらず、右目に至っては完全に白目を剥いている。

ブロンドの短い髪は色がくすみ、まるで海藻のように水の中で揺らめいていた。

海の中を見回すと、何人もの水死体が沈んで積み上がり、死体の山が出来ていた。全ての死体の目がリエルの方を向いており、幾つかはこちらに向かって手を伸ばしている状態だった。

 

お前も死ね

 

ミヒルはそう言うと、リエルの首に手を伸ばした。ヘビのように細いザラザラとした指で首を強く締め付けられ、完全に呼吸が出来なくなる。

首を締め付けるミヒルは、無表情だったさっきまでとは異なり、黄ばんだボロボロの歯を見せつけ、ニタニタと悪意に満ちたような笑みを浮かべていた。

 

ミヒル…どうして……苦しい………誰か────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の激しい息遣いで目を覚ます。体は大量の寝汗にまみれていた。

さっきまでの夢の内容を思い出し、目眩と吐き気に襲われる。目を閉じて治めようとするも、まぶたを閉じれば再びあれが始まってしまうのでは無いかと不安になる。

 

「あれは夢…ただの夢…」

 

自分に言い聞かせるも、落ち着きを取り戻す事が出来ない。

 

お前も死ね

 

あの声がまた聞こえたような気がして、慌てて周囲を見回す。当然ミヒルの姿はそこには無い。

 

「どうしてこんな夢を……」

 

唯一の友人を、あのような悍ましい姿で悪夢の中に登場させた自分自身を恨む。

 

「はぁ…もう寝たくない…」

 

悪夢のせいもあり、眠気が完全に消し飛んでいたリエルはゆっくりとテントの外に出た。

辺りはまだ真っ暗だが、焚き火の光があり、その俵にノアーとメラが座り込んでいる。二尾のサシミウオを焼いているようだった。一尾だけは火を通っていないようで、そのままメラが貪っている。火を囲むようにノアーの向かい側に座り込む。

彼は焚き火越しにこちらに視線を向けながら口を開いた。

 

「嫌な夢でも見たのか?顔が真っ青だが。」

 

「まさか…!悪夢で飛び起きるなんて子供じゃありませんし。」

 

「俺はまだ子供か?」

 

「それってどういう?」

 

「お前に思い返してもロクな事にならないから辛い過去忘れろって言ったが、俺もそういうの忘れる事が出来なくてな。」

 

「話し合えば少しは楽になるんじゃないか?似た境遇持ってる者同士でよ?」

 

メラがサシミウオにかぶり付きながら言う。

 

「…私はあの船の事故で、友達に庇ってもらって生き延びました…。でも…それってつまり、私のせいで彼女が死んだって事で……私さえいなきゃ彼女は今も生きてたってことなんだってずっと思ってて──」

 

リエルは話しながらまたもフラッシュバックが起こり、震えながら俯く。

 

「はぁ…。逆に考えろ。友達が救ってくれたから今のお前がいる。」

 

「私なんかよりも、彼女に生きてて欲しかったんです…」

 

「相手もそう思ったからお前を守ったんだろ?」

 

「彼女、とても優しくて…だから私を庇ったんだろうけど…でも、あの子を犠牲にしてまで生きる価値なんか私には…!」

 

「お前面倒くさい奴だな。」

 

「…昔から自分に自信が無くて。でも、彼女はそんな私のことをいつも褒めたりとか、励ましたりしてくれたんです。あはは…。今思えばただのお世辞ですよね。それだけでずっと付きまとってきて。きっと私のこと不快に思ってて──」

 

「不快に思ってた奴の事を身を挺してまで庇うか?卑屈になって自虐ばっかりしてるが、俺は別にお前の事をおだててやったりはしないぞ。口で自分のこと卑下しまくって内心はそれを否定して欲しいとでも思ってるんじゃないのか?」

 

「………。」

 

暫くの間沈黙が流れる。

 

 

「そろそろ焼けてきたな。さっき釣ってきた。食うか?」

 

ノアーがサシミウオを火から上げ、片方をリエルに渡す。

 

「わざわざすみません……」

 

震える手でそれを受け取り、口に運ぶ。

パリッとした、少し弾力のある皮と共にホロホロとした身を噛む。脂の乗った柔らかい身の旨味と、皮に染みた塩の辛さがマッチしている。

噛めば噛むほど身がほぐれ、魚特有の旨味が口の中に広がっていった。

 

「美味しい…です…」

 

「ああ。美味い。」

 

「魚は焼いたら本来の旨さが消えちまう!生が良いんだよ生が!」

 

「こちとら前に誰かさんにそう言われて生魚食って腹下してんだ。」

 

「寄生虫とか怖いですよね。」

 

「そんなのにビビってちゃハンターやってけねぇぜ?」

 

「お前の身体の構造と俺の身体の構造は違ぇだろ。」

 

「明日のためにも、体は壊さないようにしないと。」

 

「…?」

 

ノアーが不思議そうに首を傾げる。

 

「明日は帰るんじゃないのか?お前の目的はドスケイロスだろ?もう討伐したし、事についてもメラが編纂済みだ。」

 

「ノアーさんとメラさんに散々手伝って貰ったんです。私にも手伝わせてください。」

 

「お前……」

 

ノアーに向かって微笑みかける。

 

「さては報酬の三分の一くらいを狙ってやがるな?」

 

「違いますけど!?」

 

 

 

食後、日が昇るまでの時間は作戦会議と準備に費やした。

 

「お前、テツカブラ狩った経験は?」

 

「2回ほど。」

 

「じゃあ対策や弱点は分かってるか?」

 

「白く膨らんだ尻尾と頭ですよね。牙を壊すと持ち上げる岩が小さくなります。」

 

「頭や牙を狙いつつ、時によって尻尾を狙うと良いって訳だ。」

 

「オレとノアーは尻尾を狙おう。リエルはソイツで引き寄せて頭を撃ち抜け。」

 

メラはシールドガンを指差す。すっかり忘れていたが、シールドガンは盾と機銃を分離し、盾を囮に遠距離から狙撃をすることも出来る。

 

「ヘマするなよ。」

 

「出来る限りはやってみます。」

 

作戦会議後に空を見ると日が昇り始めていた。

狩りの準備をしようとシールドガンの各部に油を塗り、メンテナンスを行う。

囮にする盾に装着する、モンスターを引き寄せる挑発ビンを二つと、その中に入れるエンエンクのフェロモンが入った袋を腰に付ける。

機銃には予め強撃ビンを装填し、それ以外にも3つの強撃ビンを防具の胴や腰回りに装着する。防具の空き部分には空のビンとニトロダケを詰め、ポーチには複数個の回復薬、携帯食料、トラップツールを入れた。

 

準備を終えると既に日が昇っており、一行はすぐに行動を開始した。

 

「昨日、ペイントボール付けて逃げましたけど、流石に効果は切れてますよね?」

 

「微かだが匂いは残ってる。オレにゃあ分かる。こっちだ。」

 

匂いを辿りながら四つん這いで移動するメラの後ろを追い、クモの巣やツタの葉を拾いつつ、平原、森林、そして沼と昨日と同じルートを歩いた。

 

沼に辿り着いた時、メラが足を止める。

 

「ここだ。」

 

どうやらテツカブラはこの沼を住処としているらしい。

 

「飛び出させて罠に掛けるぞ。」

 

リエルはクモの巣とツタの葉でネットを作り、トラップツールに入れる。

そうして作った落とし穴を沼辺に仕掛け、ノアーが持ってきた生肉の塊を水に浮かべる。最初は小さな肉食魚達が肉を突くが、轟音と共に水面が激しく揺らぎ始めると魚たちは逃げて行った。

 

「おいでなすったなぁ?」

 

テツカブラが水から飛び出し、肉塊を一瞬にして飲み込み、飛び出た勢いで着地地点に仕掛けられた落とし穴に落下した。

 

「やるぞ。」

 

ノアーは双剣を引き抜いてテツカブラの頭を何度も切り裂き、メラはブーメランを投げ飛ばす。リエルもシールドガンで牙に向かって発砲した。しかしながら、やはり武器が貧相すぎて大きな傷は与えられない。

 

「全然効いている気がしませんが!!」

 

「塵も積もれば何とやらだ!ありったけぶちかますぞ!」

 

弾倉内の弾を撃ち尽くし、弾丸と強撃ビンを込め直す。テツカブラが落とし穴から抜け出し、軽く一吠えすると、地面を抉って岩を咥えた。

ノアーは素早く後方に回り込み、リエルはそれを確認して盾を展開し、両端に挑発ビンを装填した。

案の定テツカブラはこちらを狙い、咥えている岩で殴りつけてくる。盾で攻撃を防ぎつつカウンターで牙に二発打ち込む。

テツカブラが岩を噛み砕こうと踏ん張り、それに合わせて盾を構えるが、鬼蛙の巨体が大きく横転した。

 

「やったぞ!尻尾をシバいてやった!今のうちに攻めるぞ!」

 

「やっぱこんな武器じゃあ簡単に転んでくれねぇな…」

 

引き続き頭部目掛けて弾丸を打ち込む。牙に焼き傷が次々と付いていく。

 

起き上がったテツカブラが口を広げ、リエルのいる方向に突撃する。

咄嗟に盾を展開して口を押さえ、鍔迫り合いになる。

 

「ッ!!」

 

あまりの怪力に突き飛ばされそうになり、強く踏ん張る。

単純な力で大型モンスターに勝つというのは非常に難しい。それが力自慢なテツカブラともなれば余計にだ。

少しでも力を緩めれば派手にふっ飛ばされることだろう。何とかこの機銃を盾に着けて口の中に発砲できれば勝機はあるかもしれない。

鍔迫り合いの状態で展開した盾に機銃を装着する。力を抜かず、体勢が崩れないように用心しながら引き金を引き、弾丸を口の中に向けて発射する。

思わぬ攻撃を口内に受けたテツカブラは大きく怯んで後退する。

 

「うおおおおおお!!!」

 

その一瞬で更に押し込むように腕に力を込めて盾でテツカブラを突き離し、その牙に目掛けて思い切り盾を振り下ろした。

派手な衝撃音と共にテツカブラの左牙が砕け散る。

 

「やった!」

 

喜んだのも束の間、テツカブラは尻尾を振り回してリエルを吹き飛ばした。

 

吹き飛ばされた先で木に刺さらないよう盾を後ろに構える。それが幸いして大きな傷は無い状態で地面に激突した。

テツカブラは沼地の奥へと飛び跳ねて行き、沼辺のそばにあった洞窟の中へと姿を消した。

すぐに立ち上がってビンと弾を込め、ノアー、メラと共に洞窟に入る。

 

 

温暖な外の森とは異なり、かなり広い洞窟の中はひんやりとしていた。洞窟内には大小様々な岩が転がっている。テツカブラにとっては戦いに絶好の場所だ。

テツカブラは怒号を上げると巨大な岩塊を掘り起こし、次に細長い岩を咥えて棍棒のように振り回した。

ノアーは攻撃をいなしつつ右牙を斬りつける。

リエルが続いて後方から尻尾を狙撃しようとするが、掘り起こされた岩塊が邪魔で狙いを付けにくいため、岩塊の側面まで回り込んで尻尾を数発狙撃する。

しかしその直後に岩塊が崩壊し、リエルはそれに巻き込まれた。

 

「ッ!重い……。」

 

シールドガンを手放してしまった状態で崩れた岩の欠片の下敷きになり、身動きが取れなくなる。

両手で思い切り岩片を動かそうとするがビクともしない。

そのため岩片を撃って破壊しようと機銃に手を伸ばすも、あと少しの距離で手が届かなかった。

 

「クソ…手ェかけさせやがって…!」

 

ノアーがリエルの方へと走り始める。

テツカブラは細長い岩を砕き、前方に突き出ていたそれが弾丸のように飛び出た。ノアーはそれを回避し、リエルの元へ辿り着いた。

 

「押すぞ…ハアッ…!」

 

二人で岩片を押し、リエルの足が抜ける。立ち上がろうとするも、両足が痛んで上手く立てない。恐らく岩に潰されて足の筋肉を断裂したのだろう。

何とか匍匐前進して盾と機銃を拾い、弾倉内を確認する。一発しか残っていなかったため、腹這いになって弾を込め直そうとするが、後ろからテツカブラが地面を抉りながら突進して来た。

 

「どけッ!」

 

ノアーがリエルを蹴り飛ばし、テツカブラの攻撃に巻き込まれる。

その際、衝撃でまたもシールドガンを手放してしまい、更にはテツカブラの攻撃によってリエルと反対方向に飛ばされてしまった。

テツカブラはノアーを咥え、昨日のドスケイロスにしたように噛み砕こうとするが、ノアーは右手の刃をテツカブラの右手に突き立てた。

テツカブラは怯んでノアーを口から離したが、ノアーの体からは血が吹き出ており、肩を押さえて足を引きずりながら鬼蛙の元から離れた。

 

「クソッ…」

 

「おい!こっちだデカブツ!かかって来やがれ!」

 

メラがテツカブラの周囲を動き回りながらブーメランやピックで攻撃するも、後ろ脚で踏みつけられ、地面に埋め込まれてしまった。

ノアーは回復薬を飲もうとするが、テツカブラのボディプレスによる衝撃波で吹き飛ばされ、壁に叩き付けられて気を失ってしまった。ノアーの元へテツカブラが歩み寄る。

 

「ノアーさん…。」

 

リエルは再び匍匐前進しながら落ちている機銃の元へ向かう。

何とかして助けなければ。

しかし、仮にここでテツカブラを撃ったとして、どうにかなるのだろうか。自分の方に攻撃対象が向いたとして、マトモに動けない今では避けることも出来ないし腹這いの体勢では攻撃を防ぐ事もできない。抗えず、そのまま体をぐちゃぐちゃにされるだろう。

噛み砕かれるドスケイロスやノアーの姿を思い出し、身の毛がよだった。しかし、撃たなければどっちも死ぬ。それならば…

 

回復薬を飲んで足の痛みを抑え、機銃を持ってテツカブラを狙う。すると、テツカブラの背中に向かって一筋の光と砂埃が降って来ている事に気付いた。

真上を見ると、天井の一部に岩が敷き詰められていた。これを落とせばかなりのダメージを与えられるだろう。

天井の岩を撃ち抜くと、見事に天井の一部が崩落し、それに巻き込まれたテツカブラは悲鳴をあげて怯む。テツカブラはゆっくりとリエルの方を振り向き、口を開きながら突撃して来た。

 

時間の流れがゆっくりに感じた。視界が暗闇に染まっていき、頭の中で声が走馬灯のように流れた。

 

 

「せっかく二人でハンターになれたんだし、チーム組まない?」

 

これは三年ほど前だったか、ミヒルと共にギルドにハンター登録を行った直後の会話だろう。

 

「でも…私みたいなのと組んでも…」

 

「ま〜たそーやって自分のこと卑下して。アンタのそういう所ほっとけ無いから私と一緒に来て貰う。二人で色んな功績残して、アンタに自身を持たせる。てかさ、アンタみたいな大人しい子がハンターなんか目指してたの意外だったな。なんで目指そうと思ったの?」

 

「色んな自然とか、生き物が見てみたいから…ただそれだけ。薄っぺらいよね…」

 

「自分の知らない事を目で見たいんでしょ?全然薄っぺらく無いじゃん!一緒に外の世界の色んなもの見に行こうぜ?」

 

「だけど、私なんかと居てもつまらないでしょ?」

 

「全然?私はアンタが好きな事について喋っ────

 

 

ミヒル…ごめん…今…そっちに……

 

 

「リエル!」

 

叫び声で現実に引き戻される。

メラがリエルを押し飛ばす。テツカブラはリエルが直前までいた場所を穿つ。

 

「お〜い、大丈夫かぁ〜?」

 

現在起きている出来事が理解できず、呆然としているリエルにメラが声を掛ける。

 

「え、あ、生き…てる?」

 

「ああ。オレが見てるのが幽霊じゃなければな。」

 

テツカブラが岩を掘り出して近付いてくる。

 

「メラさん、ごめんなさい。足やられて自分だけじゃ動けないです。」

 

「オレも全身潰されて死にそうなくらい痛い。もうエネルギー切れだぜ。無念………ニャ。」

 

メラが仰向けに倒れる。

リエルは急いで弾を込め直すが、テツカブラは既に岩を砕こうと攻撃態勢に入っていた。

またももう駄目かと思ったその時、テツカブラの後方からノアーが姿を現した。

飛び跳ねてテツカブラの尻尾を斬りつけつつ踏みつけるようにしてより高く跳躍し、空中から体を回転させて尻尾から背中を伝うように斬り刻んで行き、最後は脳天を切り裂いた。

よろめくテツカブラの傷付いた脳天を狙い、弾丸を三発撃ち込んだ。三発目が直撃した瞬間、テツカブラは激しく暴れると仰向けに倒れ、体を痙攣させてそのまま息絶えた。

 

「はぁ…」

 

ノアーはため息をつくとテツカブラの身体を剥ぎ取り始めた。

 

「まだ足痛い…」

 

匍匐しながら素材を剥ぎ取りにテツカブラの死体の側へと行き、背中の甲殻を剥ぎ取る。

 

「俺はおぶってやらねぇから。自分で歩け。」

 

とノアー。

 

「別に頼んでないじゃないですかぁ。」

 

鱗を剥ぎ取りながら言い返す。

 

「さっきはその…本当にごめんなさい…。わざわざ手を煩わせちゃって…」

 

「そういう時は謝罪じゃなくて感謝しろ。その方が気分が良い。」

 

「…あ、ありがとう…ございました…」

 

「あとは報酬の件だが、ロムポルス戻ったら取り立てに行く。その時に俺の分も渡す。」

 

「いえ、私は結構です。お金のために協力した訳じゃ無いですし。」

 

「はあ?それだと俺が一方的に金を毟り取る悪者みてぇじゃねぇか。」

 

テツカブラの額の傷にナイフを通し、引っ張っるようにして頭部の表皮を剥がし、頭骨を取り出した。

 

「お前、剥ぎ取るの上手いな。」

 

「え?あ、ありがとうございます。細かい作業は結構得意で。」

 

「思えば鍔迫り合いから射撃体勢に入って押し勝ったのも器用な事したよな。多分俺にはあんな真似無理だ。さすが調査隊に選ばれただけある。」

 

「そ、それは──」

 

「だが、武器を何度も手から離すな。」

 

「あ〜…すいません…」

 

ノアーがどんな状況になっても武器は手放していなかったことを思い出し、自分の未熟さを感じる。

しかし、ここまで自分の動きや立ち回りを見ていたとは想定外だった。自身は的確に立ち回りつつ他人の動きを見てその良し悪しを言える彼に対して、リエルは尊敬を念を抱きつつあった。

 

「その、次狩りに行く機会があれば、是非一緒に──」

 

「ガキの子守りはもう御免だ。」

 

ノアーはぶっきらぼうにそう応えたが、その口元は微かに緩んでいるように見えた。

 

 

何とか片足を交互に引きずりながらベースキャンプに到着した頃には、既に日が傾きつつあった。

道中でノアーに「飯奢ってくれるならおぶってやる」と言われたが、怪我人の彼に負担をかけさせるわけにはいなかったため断った。

テツカブラはユデグエンドでは未知のモンスターであるため、遺骸は研究資料としてロムポルスまで持ち帰る必要があった。

 

「輸送はオレとノアーでやるよ。アンタは足痛えだろ?ゆっくり休みな。」

 

「ありがとうございます。」

 

「俺も怪我人だけどな…」

 

「元々お前に任されてた依頼だ。後始末は俺達でやるのが当然だろ。」

 

「あいよ。」

 

ノアーらは会話を交わしながら遺骸を縛るための縄と運ぶための台車を持ち、キャンプにいた二頭のポポを連れてキャンプの外へと出て行った。

テントに入り、ベッドにゆっくりと横たわる。昨日のような悪夢を見ないよう祈りながら、リエルは眠りに就いた。

 

 

 

目を開くと、リエルは故郷である小さな村、アスタ村の中央広場で椅子に腰掛けていた。隣を見ると、ミヒルが横の椅子に座っていた。

 

「…私はアンタが好きな事について喋ってるのを聞くのが好きだよ。私の知らない事いっぱい教えてくれるし。アンタが村の外の話いっぱい聞かせてくれたから、私もハンターに興味持ったんだ。あとハンターって割と儲かるらしいし。」

 

「そう…お金が良いのは…命に関わるからだけどね…」

 

「確かになりたいつった時お袋に一回は止められたけどさ、私が金のためだけじゃないって色々説明したら納得はしてくれたよ。そっちは?」

 

「両親が私の心配なんかするわけ無いよ…むしろ、私が死んだら喜ぶんじゃないかな。ははは…」

 

「ごめん…」

 

「ミヒルは悪くないよ…親に嫌われたのも、全部私が──」

 

「あれは事故であって、アンタのせいじゃない。」

 

「あの時から皆…私の事を恨んでる…」

 

「私はそうじゃない。アンタの味方だから。辛くなった時はいつでも言って。」

 

 

 

眩しい朝日で目が覚め、現在に引き戻される。寝起きではっきりしない意識の中荷物をまとめ、テントの外に出る。足の痛みはすっかり無くなっていた。

外ではノアーとメラが荷車の横に立っていた。荷車の後ろにはテツカブラの遺骸が台車に乗せられ、二頭のポポに引かれている。

 

「やっと起きたか。荷物は?」

 

「これで全部です。」

 

「じゃあ帰るぞ。」

 

荷車に乗り、シールドガンを床に置く。

 

「ここまでちゃんと眠れたのは久し振りです。」

 

「あっそ。」

 

ノアーは相変わらずの素っ気ない返事をすると、荷車の壁にもたれかかった。

 

「俺は一睡もしてねぇから疲れた。街着いたら起こせ。」

 

そう言い終えると、ノアーは爆睡し始めた。メラはノアーが寝ているのを確認すると、リエルに声を掛けた。

 

「…なあリエル。」

 

「はい。」

 

「なんつーかその、今回はありがとな。」

 

「え〜っと、私何かしましたか?」

 

「コイツ、実は誰かと狩り行くの初めてでな。いつも人と関わろうとしない奴だったから。」

 

「そうなんですね…その、過去に彼に何かあったんですか?」

 

昨日の早朝にメラが言った、似た境遇の者同士という言葉がずっと気になっていた。

 

「ああ…“フラド村集団失踪事件”って知ってるか?」

 

「本で読んだことあります。」

 

フラド村集団失踪事件、リエルが書籍を愛読している操觚者のバーク・アルリアが“ネクロファジー”という屍肉食を行う生き物についてまとめた本で触れていた事件だ。今から十年前、ジォ・クルーク海にある小さな島、ダイアス島のフラド村で住民のほとんどが突然消えたという。

原因はモンスターだと言われているが、ギルドが調査を行った頃には死体の欠片も見つからなかったと言われている。思えば四日前、船の事故の翌日の朝も似たような状況になっていた気がする。

その事件の生存者は村専属のハンターのオトモアイルー一匹と、村の子供一人だけらしく、その生存者の言ったモンスターの特徴が、既知のモンスターどれにも当てはまらない事から、未知のモンスターが原因ではないかと推測されている。

 

「もしかして…生き残ったアイルーと子供って…」

 

「そういう事だ。」

 

「コイツぁ元々内気だったが、あの事件で家族と親友を失って以降さらに人との関わりを断つようになった。でも本心は違うんだろうな。」

 

また狩りに行こうと誘った時、彼が微かに微笑んだ理由が分かった気がした。

 

「口では絶対に嫌だって言うだろうが、これからもコイツと仲良くしてやって欲しい。」

 

「…分かりました。」

 

親友と家族を失った彼の心の欠けた部分を埋めるほどの存在になれる自身はあまり無いが、自分より重い境遇の彼を少しでも助けられる存在になりたいと、リエルは思っていた。

ロムポルスへと向かう荷車の窓には、強い日差しが差し込んでいた。

 

第2話:End

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