早朝のロムポルス。街をランニングで一周し、朝食を摂るため目の前にあった現地の言語、ミュトガルス語で“リダーヴ”(この読み方が正しいのかは定かではない)と書かれた木製の看板が飾られた喫茶店に入った。
店内は狭く静かで、自分以外の客は1人しかいなかった。
「ビェンベニードッラ(という風に聞こえる)」
店長と思わしき痩せ型の初老の男がミュトガルス語で声をかけてきた。たしか、“いらっしゃいませ”という意味だったか?
このユデグエンド島に来る二年前に第3期調査隊への推薦が来た際、ミュトガルス語の書類も同時に送られてきており、それを読んである程度は憶えたのだが、ネイティブの発音が相手となると聞き取るのは難しい。
「え?あ、はぁ…」
どう答えようか分からずしどろもどろになりながら返事し、男が示したカウンター席に腰掛けた。
2枚あるメニュー表の内読める方を手に取る。
あまり胃に負担をかける物は朝には摂らないようにしているため、軽いものは無いかと表を見回すと、チタグァのアトルパという文字が目に入った。
アトルパというのは大陸との交流前からミュトガルス国で伝わってきた伝統料理で、オオモロコシを材料に作ったパンのようなものだ。これにチーズを塗ったり、食材を挟んだりするらしい。オオモロコシと言われると、ハンター的には一風変わったガンランスの素材というイメージが強い。
何を思って巨大なトウモロコシを武器にしたのかは未だに疑問だが…
ササミが使われているチタグァというのは、ユデグエンド島固有の種で、現大陸にいるガーグァの近縁種と見られている鳥竜だ。外見もトサカが赤いガーグァといったところか。
古くから家畜にされていたらしく、味もガーグァに近いらしい。食べ物はこれにしよう。
飲み物はどうしたものかとメニューのドリンクの欄を見る。
コーヒーに自家焙煎と書かれているのを見て関心をそそられる。
元々ユデグエンド島のコーヒーは質が良いらしく、それで店独自の焙煎をしているというのは興味深い。
最も、舌が貧乏であるため、ユデグエンド島産のコーヒーと現大陸のコーヒーの味の違いは良くわからなかったが。
「あっと…すいません。チタグァアトルパとホットコーヒーでお願いします。」
「チタグァのアトルパと、ホットコーヒーですね?分かりました。」
オーダーを終えると同時に浮かんだ疑問を解くためにミュトガルス語のメニューを開き、公用語のメニューと書いている値段を見比べる。
男は柔らかな態度だが、この店を信用していい理由にはならない。ミュトガルスの通貨をゼニーに換算し、公用語メニューに書かれている値段と合致するかを確認するが、値段は完全に一致していた。
どうやら杞憂だったみたいだ。
それから数十分ほど、頼んだものが来るまで座って待っていた。途中暇になってくるとテーブルの模様を目でなぞってみたり、床のシミを数えたりしていた。
「チタグァのアトルパと、ホットコーヒーです。ごゆっくりどうぞ。」
丸い小麦色の薄いアトルパの生地に千切りの野菜と肉が2つ挟まれており、ドレッシングもかかっている。
早速アトルパを一口食べた。
トウモロコシ特有の甘みのある生地にはバターが塗っており、そこにあっさりとしたチタグァ肉がよく合っている。サラダで油っぽさが落ち着き、タマネギとスパイスのドレッシングがしつこくない刺激を与えてくれる。
続けてコーヒーを啜る。苦すぎず甘すぎずの塩梅が良く出来ている。やはり、素材の味の違いというものはよく分からなかった。
朝食を完食し、席を立って会計を終えた。
「ありがとうございました!」
「ご馳走様でした。」
店員の男にそう言って店を出た次に武器工房へ向かう。
一昨日に巨竜森林で発掘した大剣の復元を頼んでおり、加工屋のグレイヴンから明後日には終わっていると言われたため、現在そこへ向かっているというわけだ。
店から工房までは10分とかからなかった。
遠目からでも分かるほど巨大な炉、その周りには様々な武器が飾られており、その手前には無精髭を生やした大男が座っている。グレイヴン・アイアンズ、ロムポルス担当の加工屋で、どうやら対巨龍用兵器の開発や古代武器の研究等を行っている組織“王立武器工匠”の1人らしく、ユデグエンドで最も大きな工房を請け負っている。島でも全く新しい武器を開発、実用化するなど高い実力を持っている。
「あの、一昨日錆びた大剣の復元を依頼したノアー・アークです。」
グレイヴンにギルドカードと武器の預り表を見せる。
「あぁ、もう出来てるよ。ちょっと待っててくれ。」
彼はそう言って立ち上がると、工房の裏手に入っていった。
しばらくグレイヴンが戻って来るのを待っていると、隣に別のハンターが来た。
「あれ?おやっさんは?」
ハンターの男が聞いてくる。
「今俺の武器を取りに行ってる。」
「なるほど〜。てかさ、アンタさっきリダーヴに来たよな?」
リダーヴ?たしか朝食をとった店の名前がそんな感じだったか。ハンターの方を見ると、その顔は自分より先に店の中にいたあの客だった。
「たしか店にいたな。それがどうかしたか?」
「いやぁ〜あの店の飯美味いよなぁ〜。アンタ食ってたのアトルパだっけ?俺はアプトノス使った奴が好きなんだけどよぉ、アンタの頼んだチタグァのやつも美味そうだよなぁ〜。今度頼もうかな?」
「そうか…好きにすれば良いんじゃないか?」
「それとあの店はあれ、なんだっけかなぁ、名前忘れちまったけどライスとか肉とかソーセージとか目玉焼きとかを一皿まとめた奴が好きでよぉ、美味いし腹一杯食えるからオススメだぜ。」
ノアーは少し話をしたことでこの男が嫌いになった。聞いてもいないのにずっと一方的に話しかけてくるような馴れ馴れしい人間は苦手だ。
「それとあの店はコーヒーも美味いんだよ。アンタたしか頼んでたよな?どうだった?ユデグエンド特産の豆をブレンドしてるらしくて自家焙煎でやってるんだってよ。俺ああいうのよく分からねぇけどよ、なんつーか、凄そうだよな!苦いの飲めないから砂糖とミルクいっぱい入れるけどアンタはブラック行けるのか?それとあの店長めちゃくちゃ良い人なんだよなぁ〜。最初行ってから毎日あの店に通い詰めだよ。言うてもまだ5日くらいだけどな!ハハハ!アンタはあの店は初めてか?」
「はぁ……。一方的に質問を何個も何個も…」
「それは悪い、なんか俺に聞きたいこととかある?」
「ああ、あるね。まずお前誰だ?この話するためだけにここに来たのか?」
「俺はスタニスラウ・ウラフィ。友達は皆スタンって読んでるぜ!一緒に狩りに行ってくれる仲間がいないか探してたらアンタを見つけたからこうやって来たってわけさ!よろしくな!」
スタニスラウは握手しようと言わんばかりに右手を差し出して来た。
「そうかよろしく、
「おいおい酷いな!?友達は結構いる方だぜ?現にもうクエストに行く仲間は結構集まってるしな!」
「だったらさっさと行ったらどうなんだ?」
「あと一人メンバーを探してるんだ。」
「なら他当たれ。」
「頼むよ!ここで会ったのも何かの縁だろ?」
「お前との縁はさっさと切りたいんだよ。」
「ターゲットがターゲットだから報酬は悪くないって!」
「報酬は全部独占したいからクエストには一人で行く主義だ。」
「今の装備で死沼樹海のガノトトスを仕留めるにはアンタくらいの実力者がいないと心もとないんだ、頼むぜノアーさんよぉ!」
「ガノトトスか…厄介だが、待て、なんで名前を?」
「さっきおやっさんの前で名乗ってたの聞いてたから。それとアンタの噂は色々聞いてるぜ?俺は情報通でね。アンタ、過去にモノブロス仕留めてるんだろ?それにドンドルマでシェンガオレンを討伐した部隊のメンバーだとも聞いた。」
「なんでそんな話が…」
モノブロスを討伐したことがあるのもシェンガオレンを討伐したのも事実だが、今まで誰かにその話をしたことは一度もなく、他所の人間がそんなこと知る由もないはずだが…
いや、一人いた。自分のハンター履歴をよく知ってて、それを周りに言いふらしそうな奴が、ノアーの狩猟をずっと真横で見て手伝ってきた存在がいる。
「…その話、編纂者をやってるアイルーから聞いたか?」
「お、よく知ってるな!この前飲んだ時に同席して色々話したんだよ!」
「はぁ…やっぱりか…」
メラ、ノアーのオトモであり大陸ではドンドルマギルド職員の補佐を兼任、島では編纂者の仕事を行い、故郷を失った後の彼の保護者でもあったアイルー。友達や仲間を作りたがらない彼の事をしょっちゅう気にかけており、砦蟹討伐隊のメンバーにノアーを推薦したのもメラであって完全に自分の意思で入ったわけでは無い。
あの野郎余計な事を言いやがって…一人での行動のほうが性に合うというのに…
「メラさんからもアイツは凄いから是非連れてやってくれって言われたんだよ!」
「はあ……アイツがそう言ったなら仕方ない。」
「ということは?」
「…行けば良いんだろ?全くあの老いぼれ毛玉め。」
「集合は今日の夕方に中央広場で出発は今晩、明日の朝からクエスト開始だ!」
「それ最初に言えよ。」
「話がまとまったみたいで良かったな、はいこれ、復元した奴だ。」
グレイヴンが裏手から巨大な剣を持って現れ、それをノアーに渡した。
「コイツは…エンシェントプレート?」
「まあ大陸の技術で復元したから似たって感じだな。大元は全く違うものだろう。」
言われてみれば大陸の方で復元したエンシェントプレートとは形状等が違う。大陸でのそれの本当の姿は謎の碑文が記されたエピタフプレートとされているが、こっちの方は元々どんな姿をしていたのか興味深い。そして掘り出した状態からかなり巨大化しているし重くなっているように感じる。大陸のほうでは錆を取り除き、足りない部分を補強している感じだったが、これはまるで錆びを取り除いた物に何重にも金属をコーティングをしたようだ。
「これ本来は大陸の大剣よりもずっと軽い物なんじゃ…?」
「おっ、よく気付いたな!コイツを正しく復元したら恐らく太刀よりも軽い代物になる。と言っても普通の人間が持ち上げられるようなのではないがな。だが──」
「モンスターを相手取るにはあまりにも刀身が細かったから、それを補強する必要があった。」
「その通りだ。なんというかあれだ、アルキュリエ達が使っている長剣に近い。」
「元の剣はモンスターではなく、人間を斬ることを意識して作られたのかもしれないな。」
「俺もそう思ってる。しかしこの素体は一体どんな素材を使ったのやら…見当もつかん。」
「古代武器はどうやって生み出されたのか、どんな素材なのか、色々謎が多いから面白い。」
「ほう、兄ちゃんも古代武器に興味あるのか?」
「武器を集めるのが好きなんだ。大剣なんて全く使ったこと無いのに10本は持ってる。」
「俺も武器収集が好きでね。歴戦のハンターだったりが引退したりする際に売りに出されたのをよく買い取ってるんだ。よく使われたのが分かる物もあれば、兄ちゃんみたいなコレクターが置けなくなって俺に売りに来た事もある。どれも手入れが完璧で新品同様の綺麗さを持っていたよ。兄ちゃんは集める武器ってのは全部自分で生産しに行ってるのか?」
「まあそういう感じ。依頼をこなして余った素材で作ったり、欲しい武器があればそのためにモンスターのクエストをわざわざ受ける事もある。だが、武器作りに夢中になって素材や金が足りなくなって必要な装備を作れないなんてこともあるけどな。」
そんな話をしながら横を見ると、スタニスラウがぼうっと突っ立っているのが目に入った。
「お前まだいたのか。」
「え?あぁ、俺もおやっさんに用があったから待ってたけどアンタが武器語り始めるからよぉ。」
「…悪かったな。じゃ、おやっさん、復元ありがとう。」
エンシェントプレートを鞘に納め、それを右手に抱えた。グレイヴンとは話が合いそうだと思いながら工房から立ち去った。
その夕方、対ガノトトス用に回復薬、ウチケシの実、そして釣り上げる事になった場合を想定して太めの糸と頑丈な針を付けた釣竿を用意し、ロムポルスの中央広場へと向かった。防具は4日前に交易品を使って作成したばかりスカルダシリーズを着用し、武器は一昨日に討伐した鰓蛙ギルゲッコウと呼ばれる両生種の双剣“アシッドスティレット”を使う事にした。これも昨日製造したばかりの新品だ。
広場には複数の人影があるが、あのやかましい金髪刈り上げ男はすぐに見つかった。その横に2つの人影があったのだが、その片方の影には見覚えがあった。
「言われた通り来てやったぞ。」
「よっ!」
「ほほう、彼がそうか…」
他の二人のうち見慣れない方の人物がノアーを見ながらそう言った。背中にはヘビィボウガンの“アイアンアサルト”を背負っている。容姿はハイメタの頭装備に覆われて顔が隠れ、体もハイメタ装備やアロイ装備で武装しているため全く見えないが、声からして恐らく女性だろう。
体格は大柄で身長が高く、重厚な装備も相まって騎士の銅像のような印象を受ける。
ロムポルスは比較的温暖な為に自分を含め多くのハンターが着脱が簡単な頭の装備は外しているが、彼女は暑くないのか疑問だ。
「え?ノ、ノアー…さん…ですか?」
「…ノアーで悪かったな。」
「ん、あんたら知り合い?」
リエル・ミシェリア、島に来て早々に事故で友人を亡くしたなんとも不幸な奴。5日前に彼女のクエストに同行するついでに巨竜森林の調査に協力させたことがある。なんの偶然でここにいるのか分からないが、恐らく自分と同じように一人でいた所をスタニスラウに捕まったのだろう。
防具はドスケイロスのものになっており、武器のシールドガンは赤基調の物、恐らくテツカブラの素材を使用したものだろう。
「まさかまたお会い出来るとは思いませんでした…」
「出来ればもう会いたくなかった。」
「え〜と、どういう関係?」
「数日前に調査に同行させた。」
「その節はお世話になりました。ところでメラさんは?」
「アイツは別件でいない。それで、お前は…その…大丈夫か?」
「え?何がですか?」
「いや…色々と…大丈夫なら…まあいい…」
数秒の間沈黙が流れる。
「それじゃあメンバー集まった事だし、自己紹介でもすっか!俺はスタニスラウ・ウラフィ!気軽にスタンって呼んでくれ!仲良くしようぜ皆!」
スタニスラウは“バスターソード”という大剣を背負っており、防具は一部が赤く彩色されたインゴットシリーズだった。
「私はシーラ・ヘファロフ。スタンとは大陸の時からの仲だ。よろしく頼むよ。」
シーラは丁寧なお辞儀をする。
「えっと…リエル・ミシェリアです…色々な武器を使うのが好きです…」
リエルは誰とも目を合わせようとせず、地面を見ながら話した。
「…ノアー・アークだ。」
軽く手を挙げ、一言だけ発した。
「…あ〜、それじゃあ〜出発しようか?皆荷物は持ったな?忘れ物も無いか?明日の早朝から作戦開始だ!!二人はガノトトス相手したことはあるか!?」
スタニスラウがノアーとリエルを指差す。
「私は…無いです…でもヴォルガノスならあります。」
「ヴォルガノスは仕留めてるのか!流石だ!ガノトトスについて心配とかあるなら飛行船の中で俺かシーラに聞いてもいいぜ?そしてノアーは?」
「ある。」
「それならどんな奴かは分かるな?うっし、そろそろ出発の時間だ!皆付いて来いッ!!しゅっぱつしんこーう!」
スタニスラウは大声を出しながら手を高く挙げ、行進のような足取りで発着場へと向かい始めた。
「れっつご〜」
シーラはノリノリでそれについて行き、リエルは困惑気味にシーラの後を追いかける。
コイツラ大丈夫か?
そう思いながら3人の後ろを歩いた。
発着場に着き、スタニスラウの予約していた飛行船に乗り込んだ。
「さて、これから2時間は荷物を取りに帰れるが、それ以上したら出発だ。オレはこの“リオス”の操縦を担当するヨハン・フェルクマンだ。」
屈強な操縦士のヨハンはそう言いながら4人を甲板にある大テーブルへと案内した。
「コックのアサードはプロだ。大陸の料理と島の郷土料理を合わせた最高の晩餐を提供してくれる。料理が来るまでここで待っていてくれ。」
4人は大テーブルを囲んで座った。ヨハンは4人にそれぞれ酒の入ったジョッキを渡し、甲板下へと入って行った。
またもしばらくの沈黙が流れ、その中で最初に口を開いたのはやはりスタニスラウだった。
「アンタらが大陸ではどんな感じの活躍したのか教えてくれよ!」
「活躍ですか?」
「どんなモンスターを狩猟したことがあるかとかだよ!つまり自慢大会って奴だな!まずは俺から!俺とシーラはポッケ村の集会所で基本二人で活動してた。まあ俺が今回みたいに他のメンバーを二人集める事のほうが多かったけど。それはそれは色んなモンスターを狩猟してきたさ。」
スタニスラウの話を聞きながら酒を飲む。
「私が記憶に残っているのはティガレックスだな。」
「ティガレックス!あれはヤバかった!!アンタらあの突進喰らった事あるか?あの時は本気で死ぬかと思ったぜ!それにあの顎もヤベぇんだよ!一回食われそうになったぜ!突進といえばディアブロスも凄かったな!しかもあの時は繁殖期でターゲットは雌、つまり黒角竜だよ!力が通常のディアブロスとは段違い!しかしあの角を溜め斬りでベコン!ってへし折った時は、なんつーかその、興奮が凄かったよ。…とまあそんな感じだ。まずはノアー、アンタから。」
「なるほど。……ウラフィは知っていると思うが、俺はモノブロスと渡り合った。当然一人だ。その時はオトモも連れてなかった。灼熱のデデ砂漠、奴はそこに現れた。俺以外にも挑んだ奴がいたらしいが、全員ボロボロになって逃げ帰ってきた。しかし俺は違った。誰の手も借りられない状況で奴の動きを観察し、相手への理解を深めた上で仕掛けた。鋭利な一本角、あと突進や体当たりには苦労させられたし、奴の角で右目を失ったりもしたが、最後はあの一本角を根元から折った。自分がココットの英雄になった気分だったよ。そしてその素材で作ったクリムゾンホーンはずっと家に飾ってる。」
酒の影響もあってか、スタニスラウ以上の武勇伝を語ってやろうという気分になっていた。スタニスラウとシーラは腕を組んで頷きながら話を聞き、リエルは目を丸くしていた。
「モノブロスか…」
「す、凄い……」
「なんで右目隠してるんだろっておもったが、モノブロスの攻撃で潰れたのかぁ。」
「ああ。アイツが角を振り上げてきた時だった。少しでも回避が遅れてりゃ顔全体をえぐられてた。頬とか瞼は手術で何とかなったが、目玉は駄目だった。今は義眼にしてる。」
「片目無いとその、距離感とか視野とか大丈夫なのでしょうか?」
「…もう慣れた。」
「それは、良かったです。あ、これって失礼な質問でしたか?すいません…」
「……もう慣れた。」
「あ〜っと……じゃあ次リエル!」
「わ、私の…出会った…強かったモンスターは……あ、多分…リオレイアの希少種です。」
「え、アンタ希少種と会った事あんの!?」
「通常種や亜種との違いとかあるかい?」
「違いは、金色の甲殻は私や仲間の刃が全く通らなかったです。あと、突然頭が青白く光って、とてつもない爆炎を放ったりと、強力なモンスターでした。」
「劫炎状態だったか…そんな特徴を持つ個体もいるとは聞いたことがある。」
「金色の甲殻ねぇ。噂には聞いたことあるが、どんな感じだったの?」
「本物の純金みたいでとても綺麗でした。鱗や甲殻は武器にも出来ずにずっと飾ってます。」
話は真夜中まで続き(主にスタニスラウのせいで続けさせられ)、ノアーの狩りに向かう途中に熟睡しておくことで脳を冴えさせるという狩猟前のルーティンは見事に崩される事となった。おかげで数時間しか寝付けず、起きてもまだ疲れが残っていた。
持ち物の支度をし、武具の整備を終え、飛行船を降りる。
辺りの空気はジメジメとしており、周囲には熱帯植物が生い茂っている。
「全員揃ってるか?よし、ガノトトス狩りに行くぞー!」
全く寝ていないはずなのにこのノリを維持できるのかコイツは。
「れっつご〜」
シーラはコイツと付き合いが長いからなのか順応してやがる。
「が、頑張ります!」
リエルは昨夜あの二人にさんざんおだてられたからか前の時よりもテンションが高い。
「はぁ…」
「どうしたノアー!声が小さいぞ!」
「誰かさんのおかげで全く睡眠を取れなかったからな。」
歩いていると、地面がかなり泥濘んでいるのが分かる。恐らく乾季に変わってからさほど経っていないのだろう。
「ちなみにアンタら水中での狩りの経験は?」
「私は無いです。」
「何度かある。」
「ノアーは大丈夫そうだな。リエルは、水中行くの心配なら陸からの射撃でも良い。」
「私も陸からの攻撃に専念しよう。シールドガンの射程では地上から水中のガノトトスに有効打を与えるのは難しいだろうからな。」
「奴が水中に逃げたら俺達が迎撃、二人が援護って形で行こう。まぁシールドガンの挑発煙筒がありゃあ、潜られる事がほとんど無いだろうけど。」
それからしばらくしてから、山道の中腹で生い茂っていた木が無く、視界がひらけて湿原が見えるに場所に到着した。湿地には巨竜森林にはいなかったモンスターが群れで歩いている。
ギルドにおいてタルピノスと言われるそれはずんぐりとした体つきで、体表の鱗は緑褐色をしており、尻尾にはルドロスのような半楕円のヒレが付いている。鼻筋の所には橙色の袋があり、狩猟笛で奏でたような低く通りの良い鳴き声を出す際にそれが膨らんでいた。コミュニケーションを取るために様々な音を出しているのだろう。
幼体は体が濃褐色で白い模様が入っていてより周囲に擬態出来そうな姿をしている。
「あの子達が…タルピノスですか?」
「そうだね。あの膨らむ鼻から出す音で仲間と連絡するんだ。泳ぎも得意で雨季には群れで川を渡ったりもするらしいよ。」
「あの小さい子可愛い…でも、どうやって子供を守ってるんでしょうか?アプトノスやアプケロスと違って尻尾に武器がありませんけど…」
「彼らは鼻から悪臭の液体を飛ばす。あとは前脚の爪もかなり重厚で鋭いんだ。最も、それが捕食者達を退けられる武器かと言われればそうでは無いが。彼らにとって最も重要なのは捕食者に見つからない事だろうね。」
「だから周りに溶け込めるような色に?」
リエルとシーラの会話を横目に、湿原とは真反対の方向にある急斜面を降り始めたスタニスラウについて行く。
それからしばらく斜面を歩いていると突然スタニスラウが岩場で足を止め、ゆっくりとしゃがみ始めた。
「こんな所にガノトトスはいないぞ?」
「違う。あれ見ろ」
スタニスラウは急に囁くような声で喋り始めた。
「お前、声を小さく出来たんだな。で、何だ?」
「あの倒木の所だ。」
彼が指を差した倒木には黄緑色の甲虫が止まっていた。
「あの虫か?固有種か何かなのか?」
「いや、ありゃ光蟲だ。」
「光蟲?形はたしかに似ているが光蟲といえば黄色い体じゃなかったか?」
「そうなんだよ。同じ種の虫が別の地域で異なる色をしているってことは珍しくは無い。気温、餌、環境…そういった細かな違いが色を変える要因なんだと俺は思ってる。このタイプの光蟲はユデグエンドでしか確認されていないらしい。捕まえて標本にしたい所だが…」
スタニスラウは忍び足で倒木に近付き、素早く手を出して光蟲を捕獲した。
「よし!捕まえ──」
それと同時に突然足元の岩場が崩れ、ノアーとスタニスラウは斜面を真っ逆さまに転げ落ちた。岩場は雨の影響か不安定になっており、二人の体重がかかった事で崩れたのだろう。
この男に着いていかなければ、俺はこんな事故に巻き込まれることも無かっただろうに……
何メートルの高さから落ちたのだろうか。そんな事を考えていると冷たい壁に頭を激突したような感覚がして、湖の中に落下した。
水が濁っていて周りが見えづらい。深さは足がつかない事から人の身長よりあるのは確定だろう。
水中から顔を出して周りを見渡す。ここは広さ5アール程のかなり大きい湖らしい。しばらく周囲を見ていたが、一向にスタニスラウが浮かび上がって来ない。何処かに引っ掛かって沈んでいるのでは、その可能性を考え、再び水中に潜る。
幸い彼はすぐに見つかった。首と両足に何かが巻き付いており、彼はそれを必死に引き剥がそうと藻掻いていた。
ノアーはすぐさま彼に近付き、双剣を抜いて巻き付いている長いものを切ろうとした。首元のそれに刃を振り下ろした瞬間、足元から同じものが飛び出し、ノアーの足を拘束した。
真下に目をやると、この触手の持ち主の姿がはっきりと見えた。それは胴体の部分が甲殻に包まれたイカのような頭足種だった。胴体の側面には細かい棘が1列に並んでおり、まるでノコギリのような体をしている。
中型モンスターとして扱われる程度のサイズではあるが、それでも人間よりは大柄で、尚且つ水中ともなると全く抵抗が出来ない。
牙のようなものが付いた触手が、今度はノアーの左腕を狙って飛び出す。巻き付かれはしたが、右手の刃を触手に突き立てることでそれを引っ込ませた。
スタニスラウの首元の触手も両手の剣で突き刺し、締め付けるのを止めさせる。するとイカ型のモンスターは触手でノアーの首を絞め始め、更には両手を封じてきた。
抵抗するほどに力は増し、意識が遠のいて来た時、突然自分に巻き付いていた全ての触手が切断された。締め付ける力が一気に弱くなり、それらを振り払う。断面から噴き出したモンスターの血で水が青く染まる。
スタニスラウは大剣を構え、今度は本体のほうに刃を向けた。この状況では自分が不利と判断したのか、イカ型モンスターは漏斗から墨を噴き出してより深い方へと消えていった。
二人はそのまま水面に顔を出し、陸地へ向かって泳いで行った。
陸に上がると、スタニスラウが口を開いた。
「いや〜さっきのは危なかったな!助かったぜノアー!」
「全身に巻き付かれた時は死ぬかと思った。」
「俺が助けなきゃ絞め殺されてたもんな!これで貸し一つな?」
「最初に俺がお前を助けたんだからそれは無しだ。」
「俺ァあの後コイツで何とかするつもりだったんだ!アンタが来なくても無事だったからそれは無しだ!」
スタニスラウが剥ぎ取りナイフを取り出してノアーに見せた。
「ナイフ一本で奴を何とかするだと?笑えるな。刺してる間に腕を掴まれて終わりだ。そもそもお前が虫を取りに行ったからこうなったんだろ?だからお前は俺を巻き込んだ上に俺に助けられた。助けてもらったから一つはチャラだが、俺への借りはまだ一つ残ってるというわけだ。」
「はいはい分かったよ!はぁ…。で、どうする?」
「何が?」
「あれ見ろ、あそこにどう戻るんだ?」
スタニスラウが上を目で差した。ここは恐らく自分達がいた場所から百メートル近くは落ちた所だろう。
「お前のおかげで迷子になれた。感謝するよ。」
「ま、まぁガノトトスがいるのは密林の方だし?遠回りすれば帰れるしガノトトスは俺達だけでとっちめて帰るのもまた良し!それにアンタ、狩りは少人数の方が好きなんだろ?」
「一緒にいるのがよりによってお前か。そいつは一生忘れられない狩りになりそうだ。」
「最高だろ?こんなハンサムなナイスガイとサシで狩りに行けるなんてよ。」
「今になって助けたの後悔してる。」
数十分間樹海の中を突き進み、長い川にたどり着いた。川とはいうものの、向こう岸との幅は広く、一見すると海のように見える。しかし、乾季でこれほどの規模の川が存在するとは、雨季ともなれば川幅も水深も現在とは比較にならないだろう。
「ここはこの島で一番デカい川だ。南の方にはデカい湖もある。ガノトトスが目撃されているのも大体この辺だってよ。後はアイツをおびき寄せる方法だが…」
「知らないとは言わせない。」
そう言って釣り竿を取り出す。
「さっすが用意周到!餌は、そこにいるヴァトーロでどうだ?」
スタニスラウが赤ん坊くらいの大きさのカエルを足で抑える。ヴァトーロは環境生物として扱われるカエルで、カエルを餌に釣れるガノトトスには丁度良いだろう。
「ウラフィ、そのまま逃げ出さないようにしててくれ。」
「あいよ!」
ヴァトーロの口に針をかけようとすると、ヴァトーロは口を大きく開けて下顎にある一対の牙を見せつけて威嚇してきた。針をつける場所によってはこの牙で千切られかねない。
糸が牙に触れないよう下顎に針を通す。
「これで良し、こいつを抱えて川の方に投げる。まず持ち上げろ。」
スタニスラウがしゃがんだ状態でヴァトーロの胴体を掴み、ゆっくりと立ち上がる。ヴァトーロは中にぶら下がった状態で暴れまわっていた。
「投げ入れるぞ。」
「頼んだぜ?」
スタニスラウがヴァトーロから手を離したのを確認すると、勢いをつけて竿を振り、川に投入した。
一分もしない内に巨大な背ビレと影が水面に姿を現した。
影はヴァトーロにゆっくりと近付くと、その前で静止した。
足腰に体重をかけ、じっくりと合わせる時が来るのを待つ。
バシャン!と音を立て、巨大な影がカエルに食い付いた。それと同時に竿を引き寄せてフッキングした。
すぐさまリールを巻き始め、大物との勝負が始まった。
馴染みのある鳴き声、瑠璃色の鱗、飛竜の翼を思わせるヒレ、大物の正体は水竜ガノトトスに間違い無い。
後ろに体重を乗せ、大物を釣り上げる。
水竜は数十メートル上に跳ね、ノアーの後方の地面に激突した。
「よくやった!行くぞ!」
スタニスラウは地面を跳ねるガノトトスの首元めがけて溜め斬りを食らわせる。ノアーもすぐさま体勢を立て直して双剣で腹部を攻撃した。
巨大な魚竜は体を起こし、仕返しとばかりに懐にいる人間二人を吹き飛ばそうとタックルした。
ノアーは体を捻らせてそれを避け、スタニスラウは剣を盾にして攻撃を防いだ。
続けて踏みつけようと落としてきた足を回避して回転斬りで斬りつける。ガノトトスがそれで怯むと、スタニスラウが再び首元に溜め斬りを直撃させた。
それが相当お頭に来たのか、ガノトトスは地面を這いずり回り、ノアーは後方へ、スタニスラウは前方へと吹き飛ばされた。
更に追撃としてスタニスラウに噛みつこうとするが、彼はすんでのところで大剣の刀身で防御した。しかしガノトトスは押し通そうと力を込め始めた。牙から出た青白い液体が刀身を伝う。
「クソッ!離れやがれ…!」
スタニスラウは全体重をかけてガノトトスを止めているが、ジリジリと後ろに押されていく。
ノアーはその隙にガノトトスの尻尾を踏み付けて跳躍し、そこから頭部までを回転しながら切り刻んだ。傷口を見ると、双剣の刀身から分泌された酸で体表が溶け、煙が登っているのが見えた。
更に鍔迫り合い状態だったスタニスラウがガノトトスの頭を押し飛ばし、回転斬りで尖った鼻先を斬り裂いた。
ガノトトスは悲鳴をあげて身を引き、小走りで二人から離れた。そこで口を開くと、口内が白く泡立ち始めた。
その直後に圧縮された水が口の中から直線上に噴き出した。水竜はかぶりをふり、二人を水のレーザーで切断しようとする。
ノアーはスライディングで迫ってきたブレスを避け、スタニスラウは身を翻して大剣を納刀しつつ回避し、そこから間髪入れずに剣を取り出しながらガノトトスの懐に入り込み、胸部に刃を振り下ろした。
大きく怯んだガノトトスは踵を返して水中へ飛び込み、川の流れに沿って南へと下って行った。
「俺に怖気づいたかこの野郎!」
「追いかけるぞ。」
砥石で刃を研ぎながらスタニスラウにそう言う。彼は頷くと川の中へと入っていった。すぐに彼を追って川に入る。
「なあノアー!俺と勝負するか?先に向こうに着いてガノトトスに攻撃したほうが勝ちだ。」
「面白い。俺が勝ったら飯奢れ」
「俺が勝ったら〜、そうだなぁ…」
「まあゆっくり考えてろよ。」
ノアーはそう告げてガノトトスの向かった方へと泳ぎ始めた。
「オイ待てフライングだ!ズルいぞ畜生!」
後ろからスタニスラウの叫び声が聞こえてくるが、それを無視して本気で泳いだ。
数十メートル先まで泳ぐと、徐々にガノトトスの姿が見えてきた。どうやら3匹の小型モンスターと争っている様子で、その相手はコドルフという細長い顎を持った海竜種のモンスターだった。
原因は餌の取り合いか、彼らの縄張りに侵入したことだろう。争いの傍で丸い物体が浮いている。これはヅグオスと呼ばれる草食種の海竜だろう。
一匹のコドルフがガノトトスの首に巻き付き、残りの二匹がそれぞれ足と尾に噛みついて攻撃するが、片方は尻尾を薙ぎ払って撃退され、もう一匹は顔を蹴飛ばされたことで距離が開けた。巻きついた個体は締め付けようと巻き付く力を強めるが、ガノトトスはその状態で水上まで登っていくと水中からジャンプで高く跳ね上がり、その後の落下の勢いで巻き付くコドルフを引き剥がした。
それでも海竜達は諦めず、水竜に対して攻撃を仕掛けようとするが、ついにガノトトスは水ブレスを吐いて周囲を薙ぎ払いコドルフ達をバラバラにした。
ノアーもそれに巻き込まれそうになるが、当たる直前に体を翻すことで避けた。
コドルフ達は圧縮された激流によって見るも無残な姿になっており、身体の破片があちこちに沈んでいく。
勝利したガノトトスはヅグオスの死体を丸呑みし、周囲を見回していた。
抜刀し、高速で泳いで後方から首を狙って斬る。
思わぬ不意打ちに水竜は怯み、すぐさま後ろを向いてノアーを発見すると、初っ端から水ブレスを吐き出した。
右に強く体を押し出してそれを回避するも、完全には避けきれずに足防具の表面が削れた。
追い打ちとばかりに今度は尻尾を振りかぶって叩きつけてきたが、そっちはなんとか回避した。
ガノトトスの首筋を移動しながら切り刻み、魚竜はタックルで反撃しようとしたが、スタニスラウの攻撃によって阻止された。そこに追撃で背面周りをズバズバと斬りつけていき、帆のような背ビレを破壊した。
続けてスタニスラウが体当たりを受け流し、カウンターの溜め斬りで翼のように巨大なヒレを破く。
次々と部位破壊をされたガノトトスは再び地上に飛び出して行き、それを追って2人も上陸した。
振り回してきた尻尾を避けながらスタニスラウに話しかけた。
「…さっきの勝負、俺の勝ちだな。奢れ。」
「いやアレは反則だろ!つまり俺の勝ち〜!お前が奢れっつ〜の!」
スタニスラウが叫びながらガノトトスの頭部に溜め斬りを当てる。
「勝負仕掛けてきたのはお前なんだから賭ける物なんて最初に決めとけよ。」
スタニスラウに反論しながらガノトトスの両足を執拗に攻撃し、転倒させた。
「決めるのを待たないにしても先に行くぞって言えよ!スタートが同時じゃないからこれは俺の勝ちもしくはノーゲームだ!」
2人でガノトトスの腹部に追撃を叩き込む。
その後起き上がったガノトトスが尻尾を回そうとすると、スタニスラウがノアーを尻尾の範囲外へと突き飛ばした。
「今のでさっきの借りは返したぞ!ってブレスだ避けろ!」
スタニスラウが言ったようにガノトトスは水ブレスを吐き、それを横に回避する。
水竜は再びブレスを吐こうとするが上手く射出出来ず、そのまま足を引きずりながら奥の方へと歩いていった。
「これで勝負も無しってことで──」
「ふざけんな!割に合わないだろ!たかが飯の一回奢りやがれ!」
「るっせぇ!たかが飯の一回にこだわりすぎでしょうが!」
「お前煩いし馴れ馴れしいしで一番嫌いなタイプなんだよ!だから飯奢らせてお前を下にしてやりたいんだ!」
「アンタこそ厭味ったらしい言い回しとかしてきて印象悪いぞ!?俺を下にするだと!?遂に包み隠さずに言いやがったな!アンタそれでいい気分になりたいんだろ!」
「ああその通りさ!ウザったらしい奴に金払わせて食う飯は美味いだろうからな!」
「アンタホントに酷いやつだな!最低だぞ!」
言い合いをしていると奥からガノトトスが這いずりながら突っ込んできた。
「危ねぇ!」
咄嗟にスタニスラウを押し飛ばすが、ノアーはガノトトスに直撃して大きく吹き飛ばされた。
「ノアー!!!」
スタニスラウが慌てて駆け寄ってくるも、ガノトトスに噛み付かれ、木々に向かって投げ飛ばされる。彼はよろめきながら体勢を立て直し、疲労して棒立ちしているガノトトスの首を狙って大剣を構えながら口を開いた。
「嫌いなくせして俺を庇うとか、どういう事だよ……」
ゆっくりと起き上がり、溜め斬りを受けてたじろぐガノトトスの首にある、一際大きな切り傷へと向かって走り、双剣を前に構えて体を螺旋状に捻りながら飛び掛かった。
魚竜の首は血肉を撒き散らし、やがて攻撃の勢いが収まると同時にガノトトスは地面にベタンと倒れて動かなくなった。
「さぁ、奢れ。」
「ま、まぁ助けてはくれたし、奢ってやるぜ!…とはならねぇよ!あの勝負は無しだ!」
「お前に1回は救われたが、俺はお前を2回助けたんだぞ。残りの分で奢ってもらう。」
「アンタが尻尾に吹き飛ばされないようにしたじゃ〜ん。」
「そんな事されるまでもなく避けられた。」
「はあ〜もう奢れば良いんでしょ奢れば!ったくガキンチョなんだからぁ〜」
「それで良い。さて、剥ぎ取ってからキャンプまで帰るとするか。これ俺達だけでこなしたから報酬は2人で山分けか?」
「俺は別にあの二人に渡っても良いと思うけどなぁ?」
「そうか、好きにしろ。お前がクエスト受注者だからそれはお前に任せる。」
「飯奢らせるのはあんな必死だったのに報酬は割とどうでも良いのか?独占したいから一人で行くって言ってたじゃん。」
スタニスラウとノアーはガノトトスの遺体にナイフを突き立て、使えそうなものを剥ぎ取り始めた。
「報酬の扱い方を決めるのはクエストを受けたお前だ。それに飯奢ってくれる奴にそれ以上は求めない。」
鱗を取り、ポーチに収納する。続けて牙を取ろうと歯茎にナイフを入れた。
「なるほどねぇ。……その、アンタのこと酷いやつとか最低だとか言って悪かった。勢いに任せちゃってよ…」
「…許す。お前みたいな奴に頭を下げられるのは気分が良い。」
「やっぱアンタ酷いやつだな。最低だよ。」
スタニスラウが笑いながら言った。
鱗と牙を2つずつ剥ぎ取ってその場を後にし、スタニスラウに付いてベースキャンプまで戻った頃には既に日が傾き、夕暮れになっていた。
リエルとシーラが信号弾を使って2人を探していたこと、そしてノアー達とは全く関係のない行方不明者達を保護していた事を知ったのはベースキャンプに帰ってきた後のことだった。
翌日、ロムポルスに到着してからシーラとリエルと別れてすぐにリダーヴでアプトノスのアトルパとコーヒーを奢らせ、食後にスタニスラウとも別れて自宅へと向かった。
はずなのだが、自室へ向かう途中、人の気配がしたので振り返ると、スタニスラウが真後ろを歩いていた。
「これ以上はなんだ?さっさと消え失せろ。着いてくるな。」
「着いてくるなって言っても、部屋隣じゃん。」
「は?」
「言わなかったっけ?アンタの左隣の寮が俺のだよ?」
「そんなこと知らないぞ。知りたくもなかった。」
「また狩りに行くときはアンタ呼ぶからさ、改めてこれからよろしく!」
「……引っ越すか。」
第4話:End