Monster Hunter Alive   作:魔邇鹿夜

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第6話:砂の獣

 

「おはようミヒル。今日も来ちゃった。」

 

リエルはロムポルスにある墓地に1人佇んでいた。毎朝のように親友の墓に来るのが、彼女の日課となりつつあった。

 

「あれから少しは立ち直れたと思う。未だに寂しいし、辛くなるけど…それでも、私も私なりにその、気持ちを抑えられるようになったかなって。」

 

肌に冷たい風が当たり、髪がなびく。墓石の前に立つたびにミヒルの死を実感してしまい、涙がこみ上げて来そうになるが、それと同時にこの場所には本人がいるような気がする。もしここに彼女がいるなら、『泣いてんじゃないよ!』と喝を入れてくれるだろう。そう思うと、寂しさと涙を抑えられた。

 

「昨日は巨竜森林に採集のクエストに行ったんだけど、途中でイャンガルルガに絡まれちゃってさ、火で髪の毛がちょっと焦げちゃった。最近森で暴れてるって噂は聞いたけど、いざ本物に出会うことになるとは思わなかったなぁ。それと──」

 

背後に人の気配を感じて振り返る。墓場の入口付近にはスタニスラウが気まずそうな雰囲気で立っていた。

 

「やぁどうも、いや、喪に服してる所を邪魔するつもりは無かったんだ。悪いね。」

 

「おはようございます。邪魔なんかじゃないですよ。」

 

「まあお話があって来たのはそうなんだが。アンタが落ち着くまではそのォ〜、黙っておくよ。」

 

「この人が一昨日言ったスタニスラウさん。それじゃあその、私はお話があるから、またね。」

 

墓石にそう告げ、墓場を後にした。

 

「えっと、本当に俺邪魔になってない?あっさりお墓から離れちゃうもんだから気になるんだけど…」

 

「彼女がいなくなってしまったということは、もう受け入れないといけないので。でもやっぱり、少しでも会いに行かないと寂しいから…」

 

「……………なるほどね。」

 

気の所為かもしれないが、一瞬彼の顔が暗くなったような気がした。

 

 

墓場からしばらく歩き、街の集会所の小さなテーブルを囲った。集会所の窓から外を見ると、広場の方でノアーとシーラ、そしてそこに知らない男性のハンターが小走りで駆け寄って行っているのが見えた。

 

 

「…それでアンタへの話なんだが─」

 

「クエスト…ですか?」

 

「正解。前回はあんまり一緒に動けなかったじゃん?だから誘っちゃったってワケよ。」

 

「どんな依頼ですか?」

 

「それなんだが、黄跡砂漠(コウセキサバク)が目的地なんだ。」

 

「砂漠…」

 

ユデグエンド島の中央に位置する広大な乾燥地帯、黄跡砂漠。かつては国が存在していたが、その痕跡の多くは砂に覆われているという。黄色の跡、すなわち砂を被った人々の痕跡がある砂漠という意味だ。このロムポルスからは丸1日以上の距離にあるため、その近くには活動拠点が建てられている。

 

「そこで標的となるのが、砂進蟲(サシンジュウ)ドガナーファだ。時にリエルよ、有爪(ユウソウ)種という分類を知っているか?」

 

「有爪…たしか、カギムシですよね?」

 

「イグザクトリー!有爪種はモンスターとして扱われているカギムシ達の事だ。現大陸とは別の大陸じゃあかなり多様な種がいるらしい。そっちでは獣って呼ばれてるんだってさ。」

 

「でもそのドガナーファというモンスターは初めて聞きました。」

 

「俺も相手したことは無い連中だ。っちゅうことでコイツの事が書かれた本を買ってきた。用意周到だろぉ?スタンちゃんは。」

 

スタニスラウ改めスタンはそう言って一冊の本を取り出し、テーブルの上で開いた。どうやら黄跡砂漠のモンスターについて書かれたものらしい。スタンは次々とページをめくり、前の方の1ページでその手を止めた。

 

「コイツが獲物だ。」

 

砂進蟲ドガナーファ。その姿は自分の知っているカギムシのそれとはかなり異なっていた。

細長い体に脚が何対も生えたイモムシのような身体、脚の先に生えた爪、頭部に生えた一対の触角と丸い口、そして側頭部には粘液を噴出する粘液腺、大まかな形態はカギムシそのものだ。

しかし、頭部から胴体の中央にかけてまでが肥大化したかのように太く、さらに前方の脚3対は脚そのものが太いだけでなく、爪が巨大な刃物のような形になっており、その後ろの一対だけは粘液腺と似たような形で爪が存在しない。

頭部も大きく、触角は先端がいくつも枝分かれしている。

丸い口は何本も牙が生えたようなおぞましい外見だ。

更に個人的なカギムシのチャームポイントであるつぶらな眼は退化したのか見当たらない。

そして後ろ半分も爪が平たく大きな形になっており、まるで游泳肢を残して殻を剥いたエビのようだった。

 

「奇妙な…姿ですね。」

 

「だろ?コイツはこの鰭爪って呼ばれる翼みたいな脚で砂の中を漕いで進むらしい。この口は砂を取り込むのに使って、砂が溜まってきたら、顔のこの穴か、胸にあるこの噴出脚って穴からポーン!って感じらしい。そしてコイツラの厄介な所だが、数が多いんだよ。」

 

「群れを作るってことですか?」

 

「そうだ。4体だとか5体だとか数はそのくらいみたいだ。それがアンタを呼んだもう一つの理由。」

 

「シールドガンで集めろってことですね?」

 

「理解が早くて助かるよ。それで、来てくれるかい?」

 

砂漠もこのモンスターも興味深い。リエルには行かないという選択肢はもはや存在しなかった。

 

「勿論です。」

 

「よしありがとう。すぐに準備してくれ。必須なのはクーラードリンクとホットドリンク。昼は暑いし夜は冷えるからね。そしてウチケシの実だ。昼前には飛行船が出る。明日の夜にはあっちの拠点に着く予定だ。」

 

「え、今日出発!?」

 

 

 

急いで自室に帰り、ドスケイロスの防具とテツカブラのシールドガン“鬼気関門”と必須と言われたアイテム、そして服の着替えを数着用意した。爆速で武器のメンテナンスも行い、弾薬とビンも数が足りていたため準備はかなり早く終えられた。

 

 

飛行船の発着場では、既にスタンが待機しており、円を描く様にステップを踏む謎の踊りをしていた。しかもその踊りが何故か飛行船操縦士のヨハンに大ウケしており、ヨハンは腹を抱えて笑い転げている。

 

「あ〜〜…準備できました………」

 

「お、来たか!どうよこの華麗なステップ!アンタも一緒に踊るか?」

 

スタンのそれは華麗なステップと言うにはかなりゆったりとした動きである。相変わらずヨハンは笑い転げており、地面をドンドン叩いている。

 

「え?その…」

 

「ドュバハハッハッハッハヘァ!なんじゃそのダンスは!一人でもバカおもろいのに、2人にされたらグヘハッ、オレ笑い死ヌワッハハハハ!!!!」

 

ヨハンが呼吸困難を引き起こしそうなレベルで大爆笑する。どうやらこの空間では私が異端らしい。

 

その後スタンと飛行船に乗り込み、昼前に飛行船は出発した。2人で大テーブルに腰掛けていると、コック服のアイルーが大皿に乗った料理を運んできた。

 

「バンレイ・ディパシュ、ロムポルスの伝統料理ですニャ。」

 

皿の上には料理がいくつも盛り付けられており、豪快な見た目をしている。

 

「ロムポルス産のチタグァの卵を使った目玉焼き、アルコリス地方のアプトノスとモス、そしてフラヒヤ山脈のポポを使った合挽肉、黄跡砂漠のアプケロスを香辛料と混ぜて作ったソーセージと北エルデの火炎エダマメの煮込み、そしてココットライスの盛り合わせですニャ。付け合わせは巨竜森林で採れたアバカテのサラダ。では、ごゆっくり。」

 

「これ俺の大好物なんだよ。」

 

スタンはそう言って食事を始めた。リエルも手を付け始める。

目玉焼きは半熟で黄身がとろけており、濃厚な卵の旨味が口に広がる。パラパラとしたライスとは相性が抜群だった。

続けて挽肉をライスに乗せて口にする。細切れになっているとは思えないほど脂の主張が強く、味が濃い。そのままであればしつこく感じていたかもしれないが、ライスがそれを緩和させてくれる。

サラダとも相性が良いだろう。そう思い、レタスで挽肉を巻き付けて食べてみた。思った通りだ、野菜が溢れんばかりの優しさで暴れる肉を包み込んでいる。それはまるで、反抗期で荒れる息子を優しく抱きかかえる母親のようである。

アバカテというのはサラダに入っている黄緑の果物みたいなものだろうか。意外なことに味に甘み等は少なく、バターのような口どけをしている。

次はソーセージ、噛むとパリッと鳴り、断面からは肉汁が溢れてきた。香辛料の辛味が強い刺激をもたらす。汗が出始めるほど辛かったため、豆をかきこみ、これを抑えた。もしやと思い、ソーセージをアバカテと共に食べてみる。クリーミーなアバカテの魅力が存分に現れつつ、その奥にほんのりとソーセージの辛さと肉々しさもしっかりと感じ取れる。互いに主張し合いつつも、それぞれの一番の強みは無駄にならないどころか、対になる味があることでお互いにその強みを更に補強している。

様々な食べ合わせをしつつ、昼食を平らげた。

 

スタンは食後すぐにテーブルで爆睡してしまったため、リエルは一人飛行船の中を歩き始めた。彼の話によるとこの船には他にも2人のハンターが乗っているらしい。しかしその2人が今回の同行者というわけではなく、同行するハンターは島産まれの新人であり、その人物とは現地で集合するという。

 

ハンター用の部屋は8つあるため、自分の部屋である3番と、スタンの部屋である2番以外のどこかにその二人はいるのだろう。

1番から順に部屋を見ていくが、7番までは全て施錠されていた。しかし一番奥の8番は、まるで入ってくれと言わんばかりに扉が大きく開かれている。相当不用心な人が使っているのだろうか。

扉から室内をのぞき込むと、部屋の中央のテーブルに1人の女性が座っており、まるで自分が来るのを知っていたかのようにこちらをまっすぐ見つめていた。女性は褐色の肌で黒くて長い艶のある髪をしていた。

 

「こんにちは、お待ちしておりましたよ。」

 

本当に自分が来ることを知っていたような態度で、女性はそう言った。

 

「あ、は、始めまして…リエル・ミシェリアです。」

 

「どうぞお入りください。」

 

女性に促されるままに部屋に入る。テーブルの上には布が敷かれ、壁のそこら中にはアンティークな仮面が飾られており、窓もカーテンで閉め切られていて怪しい雰囲気を醸し出している。女性も半透明のベールといかにもな様子のゴシック服を着ている。

 

「向かいの椅子にお座りください。ミシェリア様でよろしいですね?」

 

「はい。それで、あなたは?」

 

「申し遅れました。私はアミーナ・ラムズィと申します。職業はハンター、それと同時に占い師です。」

 

占い師…この部屋の雰囲気を考えると納得だ。

 

「占い…というのは具体的にどのような?」

 

「カードを使って行うものです。私の出身地である砂漠にある村のレクサーラで密かに受け継がれてきたものであり、そのルーツはかつてレクサーラを飛び出し、世界を旅したという大予言者にあると言われています。彼もまた現在のハンターに近しい存在であったと言われており、世界を渡り歩いてはそこで見たものを記してゆき、それが現在のカードに繋がっているとされています。」

 

アミーナは20枚ほどのカードを取り出し、リエルに見せた。そのいずれにもモンスターが描かれており、その種族や生息環境は様々だった。

 

「大予言者はその姿と生き様に運命を感じたモンスター達を描きました。占う人の性格からこのモンスターを解釈します。その人と描かれたモンスター、両者の生き方のどこに繋がりがあるかを考えるのです。」

 

「それで、このカードをどう使うのでしょうか?」

 

「カードを裏向けてシャッフルし、占われる人が一番上の1枚を引きます。そして出たカードの種類と向き、そこからその人が良い方向に行くにはどうすればいいのかを占うのです。」

 

少し胡散臭さを感じずにはいられないが、興味はある。

 

「それじゃあ、一度だけやってみても良いでしょうか?」

 

「お任せください。お代は必要ありません。運命というものは無償で知る権利がありますので。」

 

そう言いながらアミーナはカードをシャッフルし始めた。

 

「ではより詳細に結果を解釈するために、少しだけ貴女の事を教えてもらいます。いくつか質問を行うので、それに答えてください。」

 

「分かりました。」

 

「では一つ、貴女の最も恐れている事は?」

 

「大切な人を、失う事です。」

 

脳裏に兄とミヒルの姿が浮かぶ。

 

「ではもう一つ、貴女の最も欲している事は?」

 

「……大切な人達…」

 

今度は脳裏にこの島で出会ったノアー、スタン、シーラの姿が浮かび上がった。

 

「更にもう一つ、貴女が最も必要ないと感じているものは?」

 

「自分の……。」

 

ミヒルも、そして兄も、自分を庇って命を落とした。この世で最も必要ないと感じているもの……それはリエル自身なのかもしれない。

 

「…それでは最後に一つ、貴女は大切な他人のために、自分を捨てられますか?」

 

「……はい。」

 

ハンターを続けて、これは誰かを救う仕事なのだと気付いた。特にその対象が大切な誰かであった場合、自分の身は喜んで捧げる程の覚悟を持っているつもりだ。

 

「それでは、カードを1枚。」

 

アミーナが山札を置く。言われた通りに上の1枚を取り、その絵を見た。そこにはゲネル・セルタスの尻尾に挟まれ、逆さ吊りになったアルセルタスが描かれていた。しかし取り出した時のカードの向きは逆になっており、絵のアルセルタスは上を向いていた。

 

「アルセルタス、メス個体であるゲネル・セルタスに仕え続け、最期はその身を捧げて餌となることもあります。貴女もそうなのでしょう?」

 

たしかに自分の考えは自己犠牲に近い。今の自分を持ち続けることが大切なのだろう。

 

「亡くなってしまった大切な人達はどっちも、私を庇って命を落としました。私はそんな自分が嫌なんです。それで、ハンターとして大切な仲間を守れるようになりたいって考えてるんです。このカードもそういう意味なのでしょうか?」

 

「たしかにアルセルタスのカードは自らが苦しい役割を買う事が良き未来に繋がると考えられるものです。しかしそれは正しい向きで出た場合。貴女はアルセルタスを逆向きで引きました。」

 

「カードの向きにも何か関係が?」

 

「むしろ向きの方が重要です。これは私の持論ですが、アルセルタスのカードはいわばヒーローの象徴。私は他人のために自分を犠牲にできる人間こそがヒーローだと考えているのです。しかし多くの人は英雄に憧れているとは思いませんか?」

 

「たしかに、なれるなら英雄みたいにになりたいとは考えます。」

 

「カードはそれが表す内容になりたい人、なっている人、そして()()()()()()()()()()()()()()の元に現れます。このアルセルタスの場合は自己犠牲、それだけでなくとも自分にマイナスが訪れても他人のためならばと受け入れられる覚悟の強い人がその対象です。自己犠牲をしてでも何かを成したい人や自己犠牲に当たる決断を何度も行ってきた人、または自己犠牲をする勇気を持っていると思っている人であれば出てくるカードです。ハンターの方でこれが出たという人は少なくありません。」

 

「向きによってその精神をどう持つべきか、ということですか?」

 

「その通り。正しい向きであればその志を持つ必要がある、もしくは持ち続けると良いとなりますが、逆であった場合、その志が牙を剥く事になるかもしれません。」

 

「私は、これから私はどうすれば?私が人のために苦しみを背負いたいと考えることは間違いなのでしょうか?」

 

「自己犠牲の精神は正しい志だと思います。しかし何事にも限度というものが存在します。例えば、貴女の大切な人が危機に瀕した時、貴女なら身を挺してその人を守ろうと考えるのではないでしょうか?」 

 

「多分、そうします。」

 

「あなたの場合それが仇になるかもしれません。その気持ちが暴走して自分が無意味な犠牲になってしまったり、無駄骨を折ってしまう結末を迎える可能性があるということです。自らを盾にせずとも、その誰かを助ける手段があるかもしれないということをよく考えてみる事が大切です。大切な人を失った過去に対しても、自分のせいだと自分を責めるのではなく、過去の苦しみを受け入れ、先に進む決心が必要なのです。」

 

自分が思っているよりも、自分は立ち直れていないのかもしれない。考えてみれば、この自己犠牲の精神も結局は自己嫌悪を正当化するためのものでしかないのだ。つくづく自分に嫌気が差す。

 

「貴女のために命を捧げた人々のために生き続けろ、とは言いませんが、貴女にとって価値のある、有意義な運命を迎えられるよう祈っております。」

 

「その、ありがとう…ございました…自分と向き合うきっかけになりました…それでは…」

 

そう言って部屋を出る。

入口を越えるとほぼ同時にスタンが飛び付いてきた。咄嗟に彼を抱え、勢いに押されて尻餅をつく。スタンは頭と鼻から血を流しており、左まぶたの辺りは紫に腫れていた。

 

「どうしたんですか!?」

 

「あの男危険すぎる…軽いノリで勝負に乗った俺ぁバカだ…」

 

「どの男ですか?」

 

「…自分の腕に相当自身がある口ぶりだったが、想定以下だったな。筋肉の強みを全く活かせていないぞ。」

 

廊下の奥から黒い軍服姿の大男がゆっくりと歩いてきた。漆黒の帽子のつばからのぞく目もまた墨で染められたように真っ黒で、中央に赤い瞳が浮かんでいる。

 

「あの野郎だあの野郎!!」

 

「私が望んでいたのは、もっと骨のある奴だ。」

 

「ど、どうも〜。あの、これどういう状況でしょうか?」

 

「ふむ…。この船にいるのは船員と料理人を除けばハンターのみ。すなわち貴様もハンターというわけだな?」

 

男は腰を低くして今にも飛び掛かってきそうな体勢になった。

 

「さあ、私と拳で語り合おうではないか。」

 

「平和に行きましょう?殴り合いとかそういうのは無しに──」

 

「戦士に話し合いという言葉は存在しない。」

 

「存在してください。」

 

「戦わぬなら退け。私はその者に用がある。」

 

「怪我をしているんですよ!?あなた、何がしたいんですか!?」

 

「その程度かすり傷だろう?」

 

「質問に答えてください。彼をこんなにして、何が目的ですか?」

 

「言っただろう?互いに戦士として、拳で語り合うだけだ。」

 

「……彼をこれ以上傷つけるつもりなら、私が相手になります。」

 

「は!?ソイツは無茶だ!俺のパンチすら平然と受け止めるイカれ野郎だぞ!?モンスターだよソイツ!モンスター!」

 

「良かろう。貴様と私、どちらかが再起不能になるまで存分に語り合おうぞ。聞けッ!!私の拳の雄叫びを!!!」

 

男はリエル目掛けて飛び掛かってきた。まずはそれを避け、反撃の回し蹴りを頭部目掛けて放った。しかし男はビクともせず、目をゆっくりとこちらに向けながら呟いた。

 

「良いキックだ。」

 

足を掴まれ、体が宙を舞って地面に叩きつけられた。後頭部に痛みが走る。

 

「ぐっ…!」

 

よろめきながらも立ち上がり、男のストレートを回避し、その腕を掴んで床に叩きつけようとしたが、大木のような巨体はビクともしない。咄嗟に攻撃方法を顔面目掛けた頭突きへと変更した。

 

「ゴハッ!」

 

さすがの大男でも顔面への攻撃は効いたのか、軽く怯んだ。

 

「よくやったリエル!や〜いザマァ見ろ〜!」

 

スタンが野次を飛ばす。

男は鼻血を手で拭うと、それを顔中に塗りたくり、獣のような唸り声をあげた。再び男は飛び跳ね、上空から殴りつけようと拳を振り下ろしてきた。横跳びで避け、再びカウンターで顔面にフックを食らわせようとしたが、男の想定済みだったらしく、それを受け止め、みぞおちにストレートが直撃した。

 

「ウッ……うぅ………」

 

吐き気を催し、膝をついて腹を押さえる。しかし男は容赦なく顔面に膝蹴りを食らわせてきた。

口の中が切れ、咳と共に血を吹き出す。頭もクラクラして今にも胃の内容物が出てきそうだ。更に追い打ちに何発もジャブを食らい、最後はボディブローを受け、数メートルほど吹き飛ばされた。

もう立っていられず、その場にうずくまる。数メートル先から男の声が聞こえてきた。

 

「私を負傷させたのは見事だ。いや、本当に見事だ。さっきの奴より少しはやるようだな。さあトドメだ…ゆくぞッ!」

 

 

 

「オメェら何やってんじゃい!」

 

ヨハンの叫び声がする。男も動きを止めた。

 

「おうおうおう廊下で何してやがったんだぁ?」

 

「ら、乱闘、かな?」

 

スタンが答える。

 

「なに?乱交?」

 

「違う!!誇り高き戦士同士の語り合いだッ!!!!」

 

今度は男が叫んだ。

 

「俺の船は乱交も殴り合いも禁止だッ!廊下入口の注意書きを読んだのか!?」

 

「私達はこの人に急に殴られて…」

 

「なっ?」

 

「そうなんだよ…俺たち急に襲われて…うぐっ…腹が…」

 

「待て貴様らは私の拳に応えてくれたではないか─」

 

「おながいだいよぉおおお!だずげでぇえええ!!!」

 

スタンが号泣(恐らく嘘泣き)をしながら床を転がり始める。

 

「ヘルムート、お前次やったら出禁な?」

 

「待て!合意の上での決闘だ!」

 

「合意関係なく喧嘩吹っ掛けるのが禁止なのォ!自室のサンドバッグと戯れてろ!」

 

「サンドバッグはつまらん。」

 

「良いから他の人に迷惑かけんな!」

 

「納得できぬ……はぁ……」

 

どうやらヘルムートと言うらしい男はうつむきながらトボトボと5番の部屋へと入っていった。

 

「すまないな。アイツはああいう奴なんだ。だがそれに乗ったおめぇらもおめぇらだ。」

 

「知り合いなのか?」

 

「ヘルムート・ゲルラッハ、元軍人のハンターだよ。俺の同期だった。」

 

「軍隊だったのが、ハンターに?」

 

「アイツの部隊なんだが、実地訓練の時モンスターに襲われて壊滅。アイツが唯一の生き残りだった。それがトリガーになったのか、アイツはモンスターに対して憎悪を抱くようになった。そして軍隊を抜けてハンターを始めたらしい。」

 

「モンスターへの憎悪……」

 

ハンターになる時、ハンターの心得なるものをギルドから配布されたが、そこには“如何なる状況であってもモンスターを悪とは思わないこと”や“対象が如何なる存在であってもそれは自然の理であり、個人的な感情を向けないこと”などハンターは中立であるべきという内容が書かれており、自分もそれに沿って活動を続けてきたため、それは正直疑問を持たざるを得ない考えだと感じた。

 

「そしてハンターなった後は同業者に対してあんな感じで喧嘩を売って回るイカれ野郎になっちまった。元々血の気が多い奴ではあったが、更に暴走しちまったんだろうよ。哀れな男だ。」

 

「ケッ!同情はしてやらねぇよ!あぁ〜頭痛い。」

 

「二人とも医療室に来い。こっちだ。」

 

スタンと共にベッドが4つある部屋に案内された。言われた通りにベッドに横たわり、医者の女性から検査を受けたあとは睡眠を取るように言われた。

 

 

一睡もすれば痛みは治まったが、身の安全のために到着までは医療室を出るなとヨハンに言われた。食事は運ばれてくるし、設備もある程度整っていて、スタンと楽しく話せたため不満は無かったが、医者が検査に来る時と食事が来る時以外は異性と二人きりの状況であったため、それから到着までの時間は常に緊張し続けていた。

 

 

 


出発した日の翌日の夜、ようやく飛行船が目的地の拠点に停泊した。

ユデグエンド島の西側を中央から南へなぞるように跨る山脈の盆地に置かれたロムポルスに次ぐ第二の拠点、それが“グケラーゴ”だ。黄跡砂漠にあったという国の遺跡が唯一残っているといわれる場所であり、近くに川が流れており、生活を行うには丁度よい気候でもあることから、かつても拠点として使われていた可能性が高いらしい。

 

渡された地図を見ながら施設を軽く回ったが、大まかな設備の内容はロムポルスと大差が無いように見える。その中で唯一とも言える最も大きな違いは飼われている家畜の種類だった。ロムポルスの牧場では鳥竜種のチタグァが育てられ、卵や肉を食料として利用されていたが、砂漠や高山に近いここにはチタグァは生息しておらず、代わりに牧場にいたのはケルビとムーファを混ぜたような、白っぽい毛並みの生物だった。

 

初めて目にする生物に心を躍らせ、柵越しにその様子を観察する。足が蹄になっている事から偶蹄目であるのはほぼ確実であろう。白っぽいふわふわとした毛皮や、横に長い瞳孔、家畜の個体達は切られているが、頭部に一対の角が存在すると思われる点などを総合すると、ムーファやメルクーに近い存在なのかもしれない。

 

「気を付けてくださいね、ソイツらたまに唾吐いてくるんですよ。」

 

声が聞こえた後方を振り返る。立っていたのはリエルより少し背が高いくらいの、若い少年だった。唾を吐いてくるのがよっぽど恐ろしいことなのか、彼は不安そうな面持ちでもじもじとしながら立っている。

 

「や、野生のサルターを討伐しに行った時に吐きかけられて、3日は臭いが取れなかったんですよ。消臭玉を使ってなかったらもっと続いてたかも。」

 

「それは〜、たしかに怖いですね。討伐ってことは、あなたは?」

 

「あ、ハ、ハンターです。まだデビューして二ヵ月の若造ですが。」

 

「もしかして、明日のドガナーファ狩猟に同行するのって…」

 

「え、メンバーの?えっとじゃあ、その、あ、ぼ、僕はアリュ、アレ、ア、アルバート…です。えっと姓はハインツで、親が第一期調査隊のハインツ夫妻で、この島を見つけた書士隊員です。生まれはこの島で、あんまり、公用語、慣れてない()()()。」

 

名をアルバートというその少年は、長い髪を後ろにまとめており、吊り目気味なのも相まって凛々しい顔立ちをしていた。公用語に慣れていないという事からも分かるように、話し方にもどこかたどたどしさを感じる。

 

「私はリエル・ミシェリアです。ここに送られたハンターとしてはまだ未熟ですけど、ハンター業で分からないこととかあったら、色々聞いてくださいね?」

 

「あ、お、け、敬語じゃなくて、大丈夫…僕のほうが歳下なので、はい。」

 

「そう?じゃ、じゃあ、よろしくね?アルバートくん。」

 

出来るだけ明るく振る舞おうと無理矢理ながら笑顔を作ってみた。

 

「ハイッ!こちらこそよろしくおねがいします明日は速いので僕もう寝ることにしますおやすみなさい先輩また明日!」

 

アルバートは早口で話し終えると小走りで街の中へと消えて行った。無理矢理な笑顔で怖がらせてしまったのだろうか?もう少し柔らかい態度を心がけようと思い、拠点内の宿まで戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、眩しい日差しで目を覚まし、すぐに準備をして宿の外へ出た。クエストカウンター近くに立っている掲示ボードの前に二人は既に集合していた。スタンは前と同じペイントされたインゴットシリーズと大剣バスターソードを装備しており、アルバートはギルドから配布されるアライバルシリーズを着ており、武器は同じくギルドから配布されるスラッシュアックスの“アライバルアックス”を背負っていた。

クエストボードに近づくにつれ、徐々に二人の会話が聞こえてきた。

 

「だ〜か〜らぁ、俺の名前はアルバートっすよぉ〜!」

 

「でも悪くないあだ名だろ?アルバイトくん。」

 

「それだと俺が一時的にハンターやってるだけみたいじゃないっすかぁ!ちゃんとギルドカードも作って完全にハンターとしてギルドに所属してますってぇ!」

 

「でもまだ調査には行けないんだろ?」

 

「そりゃあ俺は経験浅いし?でも数年後にはこの島の若いハンター達を導くベテランになってっから期待しててくださいっす!」

 

「おう!期待してるぜ!アルバートくん!」

 

「だからアルバートじゃなくてアルバイト…ってそうそう!そうっすよ!俺の名前は──」

 

「やっぱりアルバイトくんじゃぁねぇか!」

 

「ぬわぁあ!引っ掛けられたぁ!」

 

…かなり会話が盛り上がっているようで驚いた。スタンのコミュニケーション能力の高さには驚かされてばかりだ。

 

「おはようございます!お待たせさせてしまって申し訳ございません。」

 

「あ、おはよう!!大丈夫よ俺らあんま待ってねぇか─」

 

「はい!ワタクシめは今来たばかりでございます!」

 

「アルバートくんもおはよう。」

 

「お、おお、おおおはようございます先輩!昨晩はよく眠れたでしょうか!?」

 

「うん。ぐっすりしちゃっていつもより遅く起きちゃった。アルバートくんも元気してるかな?」

 

「長い時間の睡眠は人間にとってとても大切です!それは素晴らしい事です!私はとても元気でございます!」

 

「もしかしてアンタら昨日会ったりとかした?」

 

「私が牧場を見てた時にたまたま彼と出会ったんです。」

 

「……ははーん?なるほどねぇ?どうりでかぁ。」

 

「砂漠へ行きましょう!クーラードリンクは忘れないようにしましょう!」

 

「んなこたぁ分かってる。ヨハンのおっさんに頼んで飛行船で行く。ここからなら昼には到着する。」

 

 

それから砂漠までの移動中は、ほとんどがスタンとアルバートの会話だった。私のような根暗な人間より、明るい彼と話したほうが楽しいのは当然のことだろう。

 


 

黄跡砂漠、軍事国の遺跡が眠る砂の海だ。大陸でもデデ砂漠やセクメーア砂漠に行ったことがあるが、ここは広大な砂漠だけでなく、様々なモンスターの潜む岩場も広がっており、リエルにとってはとても興味深い世界だった。

クーラードリンクを喉に流し込み、早速ベースキャンプを飛び出して眼前に広がる広い草原を見渡した。

 

「凄い……」

 

「こりゃヤバいな…」

 

リエルとスタンは未知なる景色の虜になり、しばらくそこから目が離せなかった。草原を歩くモンスター達も見知らぬ者ばかりで、白黒の縞模様を持った丸い甲羅のアプケロスのようなモンスターと、背中から尻尾にかけて硬そうな甲殻で身を守っているケストドンのようなモンスターが群れを成して草を食べており、その奥にあるオアシスにはその二種類以外にも様々なモンスターが集まっている。リノプロスや小さな黒い翼竜と思われるモンスター、そして子分を引き連れたドスジャギィも闊歩していた。

 

「とんでもない光景だなこりゃ。だが目的地は南西の砂漠地帯だ。えっとぉ、こっちだ。」

 

スタンがコンパスを見ながら二人を引き連れ、乾いた地面を歩き始めた。

 

「アルバートくんはここに来たことあるの?」

 

「へぁ!?初めてじゃな、無いですけど砂漠は無いっす。あの草原の辺りで出来るクエストしか受けたことないっす。」

 

「今まではどんなモンスターを討伐してきたんだ?」

 

「さっきの草原にいたのはだいたい何頭か、ドスジャギィは一回だけあるっす。スラッシュアックスの練習として闘技場でですが。」

 

「じゃあ所謂野生の大型モンスターを相手取るのは初めてか。」

 

「はい。ギルドのアイルーさんから緊急クエストだって言われてドガナーファとやらのを貰ったっす。それで優秀な助っ人もいるから安心しろって言われて。」

 

「あぁメラさんだろ?俺もグケラーゴ戻ったら挨拶くらい行かなきゃな。」

 

メラというとノアーというハンターのオトモであると同時にギルドの職員の仕事も請け負っているアイルーだ。前にノアーと出会った時は仕事でいないと言っていたが、どうやら砂漠の方まで来ていたようだ。

 

「あと数十分もすりゃ砂漠だろうから復習しておこう。砂進蟲ドガナーファは群れで生活するモンスターで、砂の中を魚みたいに泳ぐ。奴らには耳が無いが、音を感じる部位は発達してるらしいから、音爆弾は有効だってよ。砂の中を泳いでるところに投げ込むんだ。」

 

スタンは説明を終えると二人にそれぞれ2つずつ音爆弾を手渡した。アルバートはそれを手に乗せて物珍しそうに眺めている。

 

「使い方、分かるかな?」

 

「あ、わ、分かんないっす。どうやるんすか?」

 

「持ち手にレバーとピンがあるでしょ?このリングなんだけど…」

 

「は、はい。これを引き抜く感じ、で…しょうか?」

 

「レバーを握りながらね。それで投げ付けたら音が鳴るの。」

 

「閃光玉と似た感じでしょうか?」

 

「そうだね。投げる時はちゃんと遠くに飛ばすようにしてね。下手したら鼓膜破れちゃうから。」

 

「怖!?そんな物騒なモンなんですかこれ!?」

 

「初めてではやらかす奴も多いぜ。せいぜい耳をやらんようにな〜。」

 

「が、頑張るっす。」

 

それから十分ほど灼熱の元を歩き続けていると、気付けば周りは砂に囲まれた砂漠に着いていた。そんな中で突然スタンがアルバートを呼び、何かしら耳打ちした。それを聞いた彼は頷くと、リエルの元へ駆け寄ってきた。それを見たスタンは困惑した顔をし始めた。

 

「先輩!えっとそのぉ、実は……」

 

アルバートの後方から砂煙が上がっているのが見えた。砂煙は徐々にこちらに近付いてきて、あと5メートル程度のところで消えた。まさか、こっちを狙っている…?

咄嗟にアルバートの体を抱えて横方向に飛び退いた。それと同時に地面の中から巨大な塊が砂をまき散らしながら突き出してきた。

 

「やっぱり…!」

 

「え、え、え、先輩?」

 

「怪我は無い?」

 

「え、大丈夫っすけど…って、なんじゃありゃぁぁあ!?」

 

細長い胴体に丸い口、そして刃物状の鰭爪が生えた足。砂から現れたそれは間違いなく砂進蟲ドガナーファだった。

 

「相手の方から来てくれたか。二人とも体勢立て直せ。」

 

アルバートにのしかかっていた状態から立ち上がり、シールドガンを取り出す。一方のアルバートはモンスターに腰を抜かしたのか、仰向けに寝そべったまま固まっていた。

ドガナーファはアルバートを狙い、口を展開して食らいつこうと頭を振り下ろした。盾で彼を庇うようにしてモンスターを食い止める。

 

「アルバートくんしっかりして!」

 

「あ、あ…はい!すんません!」

 

アルバートが逃げ腰でその場を離れる。ドガナーファが押し切ろうと力を込めてきたため、機銃で胴体を撃って怯ませ、攻撃を中断させる。

 

3人は近くに集まり、巨大な蟲に注意を向けた。

 

「こ、幸運っすね!群れるって聞いたけどこいつボッチっすよ!余裕っしょ!?」

 

「おっと、ソイツは甘いみたいだ。後ろを見ろ。」

 

3人の周囲を砂煙が取り囲む。既に相手に包囲されていた。

 

「やばいやばいやばいやばい!どうするんすかこれ!?」

 

「落ち着いて。焦りは最大の敵だよ。」

 

「そうは言われてもこんなデケェのが相手とは思いませんでしたよ!」

 

「どっから突っ込んで来る気だ?」

 

左斜め後ろから砂煙が一気に迫ってきてさっきとは別の個体が突っ込んできた。

 

「後ろです!」

 

飛び掛かってきた個体を盾で弾き飛ばす。続けて逆方向からも別の個体が近付いてきていたが、スタンが音爆弾で引きずり出して無力化させた。

 

「コイツラ何匹いるんだ!?」

 

最初に襲ってきた個体も既に砂の中に潜り込んでおり、その姿を消していた。反時計回りに砂ぼこりが渦巻く。機銃に強撃ビンを装填し、襲撃に備える。

 

「すぐに避けられるようにしておけ。リエルは飛んできた奴の迎撃を頼む。」

 

「了解。」

 

そして襲い掛かって来たのは、右方向と後から出現した2体だった。

 

「避けろッ!!」

 

スタンとアルバートが緊急回避で左側に飛び込み、リエルは距離の近い右の個体に機銃を向け、後の個体の方に展開した状態で盾を構えた。

右の個体の口内を狙撃して転倒させ、後ろの個体の突進を防御し、盾で頭部を殴りつけて小さく怯んだ隙に機銃を盾に装着して口目掛けて弾を4発撃ち込んだ。有爪種は雄叫びをあげ、頭を振りながら噛みつきや巨大な爪を使った攻撃を連発してきたが、全て回避し、噛みつこうと大きく開いた口の中に弾丸を発射した。最後の1発は頭部を貫通し、1頭目を仕留めることに成功した。

周りを見ると既に他の個体も暴れ始めて乱戦状態になっていたらしく、たった今討伐した個体を除いて4頭のドガナーファがいるようだった。弾を込め直し、アルバートを追いかけている個体に狙いをつけた。

 

「誰か助けてぇえええ!」

 

アルバートは武器を出さずに全力疾走で逃げているが、ドガナーファとの距離は少しずつ縮んで行く一方だった。

 

「アルバートくん!音爆弾を!!」

 

アルバートは焦りながらも音爆弾を取り出し、ドガナーファの潜り込んでいる場所に投擲した。見事に命中し、砂進蟲は悲鳴を上げて地中から飛び出していった。長い胴体を撃ち抜き、続けてアルバートが切りかかる。

2対1で仕留めようとしたが、また別の個体がリエルを襲撃した。他の個体に比べて一回り大型であり、体色は暗くて鰭爪の表面には傷が大量に付いている。群れのボスとも言うべきだろうか。ボス個体は唸ると、顔の左右にある噴出孔から泥のような塊を飛ばしてきた。それを盾で防ぎ、反撃を与えるも、他の個体と異なって一発程度では怯みもせず、噴出孔から空気を出して真っ直ぐこちらに砂面スレスレを滑空しながら突撃してきた。これもガードしようとするも、あまりの勢いに押し負け、大きく吹き飛ばされてしまった。ボスは再び砂に潜り、回り込むようにしながら近寄ってくる。不意を突くつもりなのか。移動する先を予測して音爆弾を投げようと考えるも、砂中での動きが不規則で予想が出来ない。やがて砂煙が止み、いよいよ何処にいるのかが分からなくなった。より深くに潜り込んでもこちらを認識できる圏内に入ったということだろう。

すると真下の地面が盛り上がり、そこからボスが襲撃してきた。

 

「なっ…!」

 

下半身を巨大な口で咥えられ、そのまま呑み込まれそうになる。必死に盾で頭部を殴り、機銃も撃とうとするが、振り回されるせいで標準が定まらない。

 

「離しッ……!」

 

「せ、先輩!!!」

 

アルバートがボスの背中に貼り付き、ゼロ距離から属性解放突きを食らわせた事でようやくボスはリエルを吐き出した。

 

「ぶ、無事っすか!?」

 

「助かったよ。ありがとうね。」

 

「へへ、礼には及ばないっすよってギャア!」

 

アルバートはボスの尻尾振りで飛ばされ、そこに別の個体が襲い来る。

 

「こっち来んなこっち来んなこっち来んな!!うぎゃあ──」

 

彼はドガナーファに上半身を咥えられ、足を振って必死に藻掻いていた。

 

「アルバイトォ!今助けるぞ!!!」

 

スタンが飛び斬りでアルバートを咥えた砂進蟲の首筋を切り裂き、彼を救出する。咥えていた個体は砂の中へと戻り、2人の元を離れた。

しかし同時に左右から別の2体が迫っており、スタンとアルバートが音爆弾を用意し、それぞれの方に投擲する。引きずり出された2体の内、2人は先ほどアルバートと交戦していた個体の方へと走って行った。ドガナーファは粘液腺からブレスを吐いて対抗し、アルバートはそれに被弾して吹き飛ばされる。スタンの方はそれを華麗に回避し、大剣を引き摺りながら砂進蟲の胴体を縦に斬り上げた。腹が避け、体液と共に胃袋の中身のようなドロドロとした液体を漏らしながらその個体は息絶えた。

続けて引き摺り出されたもう1体がスタンの方まで跳び、鰭爪を振り回して彼を攻撃するが、全て避けられるか大剣で相殺されるかしていなされ、腹部に反撃を喰らうと砂の中に隠れていった。

 

一方ボスと戦闘中だったリエルは、鰭爪を1枚破壊し、その後は頭部を重点的に狙って射撃をしていた。既に顔も傷だらけになっており、あともう一押しといった所だったが、そこに頭部に切り傷がついた個体が割り込んできた。2体はブレスを連発して攻撃してくるが、ジャンプでそれを避け、前方に宙返りをしながら機銃を構え、ボスの口内に2発、そしてボスでない個体の傷口目掛けて2発撃ち込み、着地と同時に再び傷口を撃ち抜いてボスでない個体にトドメを刺した。

ボスも次第に弱りを見せ始め、砂の中に身を潜めて今度はスタンの方へと向かった。音爆弾で止めようとするも、砂を泳ぐ速度のほうが圧倒的に速く、不発に終わってしまった。ボスの引き起こす砂煙がスタンを囲う。またも不意を突こうという考えだろう。

 

「来やがれデカブツ。」

 

スタンは音爆弾を取り出し、起動させずに地面に落とす。音爆弾は彼の右足あたりを転がった。徐々に近付いてきたためか砂埃が収まり、程なくしてスタンの真下の砂が浮き出始める。

 

「やっぱそう来るよなァ!」

 

スタンが大剣で音爆弾を突き刺して起動させる。急襲を反撃されたボスは真下から怯みながら飛び出し、スタンは触角を掴むことで頭部に乗った。

 

「そのツラ貰ったぜェ!」

 

ボスの頭頂部を剣で突き刺し、強く押し込む。ボスは体液を吐き出しながらしばらくのたうち回った後に絶命した。

 

「うっし大勝利〜!」

 

スタンは軽やかにボスの頭から飛び降りる。

 

「スタンさん!その、耳は?あんな至近距離で…」

 

「そうっすよパイセン!アンタあれは鼓膜破れるつってたじゃないっすか〜」

 

「あぁそれね。ま、ちょっとしたトリックだよ。」

 

スタンが頭の鎧を外し、耳から柔らかい材質の塊を取り出した。

 

「昨日使い捨て耳栓売ってるのを見つけてよ、面白そうだから使ってみた。」

 

「なるほどねェ〜」

 

すると突然、地面からまたもやドガナーファが飛び出してきた。先ほどスタンに腹部を攻撃されて退いた個体だ。3人はそれぞれ別の方向に吹き飛ばされ、砂進蟲はアルバートを狙って頭を振り下ろした。

 

「畜生がぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

アルバートはスラッシュアックスを抜刀し、剣に変形させて腹部の傷に刃を突き立てた。そのままビンのエネルギーが放出され、熱を帯びた刃は体内へと更に食い込んでいった。

 

「うおぉおおおおお!!くたばれぇええええええ!!!!」

 

最後にエネルギーが大爆発を起こし、ドガナーファの腹部を崩壊させた。その勢いでアルバートは後ろに吹っ飛んで尻餅をつき、ドガナーファは海老反りの体勢になったまま動かなくなった。

 

「…びっくりしたぁ〜!そういや一体まだ残ってたなぁ。おいアルバイト、無事か?」

 

リエルとスタンが起き上がり、仰向けに倒れているアルバートの元へ駆け寄る。彼は満足そうな顔でスタンに話しかけた。

 

「見ましたかパイセン!今の俺の必殺技!チョーイケてたっしょ!」

 

「流石だったぜアルバイトくん!Yeah!」

 

スタンが仰向けのアルバートとハイタッチをしてから高速でハンドシェイクをした。

 

「私を助けてくれた時もさっきも、アルバートくんカッコよかったよ。」

 

「ひょ、そ、そうでした?ありがとう()()()()()()()…」

 

アルバートは疲れからか急に声が小さくなり、ゆらゆらと立ち上がった。

ドガナーファ達の死骸から素材をいくつか剥ぎ取り、クエスト完遂報告のための写真をスタンが撮影して3人は帰路についた。

 

「今からグケラーゴ戻ったら丁度夜だろうから3人で飯にしようぜ!アンタらは何食いたい?今日は優しい優しいスタン様が奢ってやるぜ!」

 

「ありがとうございます…!」

 

「さっすがパイセン!じゃあ俺リュウノテール!」

 

「あれ高いから自腹で払え〜」

 

「えぇ!?奢るつったじゃあ無いっすか!」

 

「何でも奢るとは言ってない〜高いのは無理よ〜ん」

 

「じゃあ私が奢るよ。アルバートくんは好きなの食べていいからね。」

 

「い、いえ!しぇ、先輩に迷惑をかけるわけには!!」

 

「俺もアンタの先輩なのになぁ〜!!扱いの差がおかしいなぁ〜!!!!!」

 

 

第6話:End




今回のエピソードに登場した有爪種は、極光竜ガルバディス(Twitter:@Galnoaniki)様のオリジナル種族です。
この場を借りて、有爪種の使用許可をくださった事に深く感謝いたします。
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