Monster Hunter Alive   作:魔邇鹿夜

9 / 13
第7話:炭鉱事件

 

灼谷孤島、海を隔ててユデグエンド島の北に位置する火山島であり、孤立した過酷な環境を持っている地である。

ここでは多数の貴重な鉱石が埋まっており、日々多くの鉱員達が出向いては、鉱石を求めて鉱脈を掘り進めている。現大陸との交流が始まる以前からも、この孤島は原住民によって資源の山として扱われていたらしく、ギルドの連中も此処を共用地として立ち入られるように交渉するのには苦労したそうだ。

ヨーガはここから遠く離れたロムポルスで産まれ、稼ぎを得るために灼谷孤島へと出稼ぎに来ていた。35になっても碌な仕事に就けず、親の売れない雑貨屋を手伝って小遣いを稼ぐ生活にもとっくに飽きていた。

 

ここで希少な石を掘り当てて豪遊生活を満喫してやる。デカい遺跡を改築して創った家の中で大陸から来た高価な料理を1日3食美味い酒で流し込み、両手に美人な女を抱いて寝る生活だ。想像するだけで興奮する。そのためにもここで一攫千金を狙ってひたすらに掘り続けよう。

 

現場監督のヒゲモジャ男、たしかフランクとかいう名前だったか、彼の指示に従ってポイントへと移動する。支給されたクーラードリンクを一本飲み、採掘を担当する友人のラヴ、同じく採掘担当の横に太い小男(どうやら土竜族というらしい)ゲンバ、ヨーガと同じ鉱石の運搬を行う金髪の若い男のトラット、そして護衛のハンターであるアガンと一緒に溶岩洞の中を歩き始めた。

ラヴはヨーガの幼馴染で、若い頃から採掘所で働いていた。ヨーガにこの仕事を勧めたのも他でもない彼である。実際にラヴはこれでかなりの額を稼いでおり、それで妻と娘に良いものを食わせているのだろう。近年は大陸からハンターが押し寄せてきた影響で鉱石の需要も更に高まっているため、報酬金は上がり続ける一方とのことだ。

 

「ここにトンネルがあるだろ?この先だ。」

 

ラヴが壁に空いた穴を指差す。目的地に到着したらしい。

 

「ほう、コイツがオメェさんの言ってた坑道か?」

 

ゲンバが穴を覗き込みながら聞く。

 

「あぁ。ワシが掘ったヤツでな、この先に素晴らしい鉱石の匂いを感じるワケだ!」

 

「鉱石の匂いだぁ!?オメェさんそんなのが分かるのか!」

 

「あったりめェだッ!ワシはこの道何十年もやっとる!」

 

「ソイツぁオラもだが、そこまでの技術なんかねェぞ!!」

 

「ガスに気ィ付けろ。マスクして付いてこい。」

 

ラヴの言う通りに一同はマスクを装着し、アガンを先頭にラヴとゲンバ、そしてヨーガとトラットが後ろに続いて坑道内を歩き始めた。

 

「あの、ヨーガさんはなんでこの仕事に?」

 

と、トラットが小声で聞いてきた。

 

「オレか?オレは一攫千金を狙って来た。」

 

「やっぱ金目当てっすか?」

 

「それか鉱石フェチでなきゃこんな仕事やらねーだろ。そうだよなラヴ!」

 

「誰が鉱石フェチだ。否定はできんが。」

 

ラヴが振り向いて言った。

 

「おじさんは鉱石が好きでこの仕事を?」

 

「あぁそうよ。アイツぁデカくて硬ぇ鉱石をブチ込んで達してるような野郎だぜ?」

 

「おいゴラ黙れ!それ他の奴に言うなつったよな!!」

 

「……やってることは否定しないんですか。」

 

「君達少しはマジメにならないか?坑道とはいえモンスターが潜んでいる可能性はゼロじゃあ無いんだ。自然の中で緊張感を持たないということは、崖っぷちで命綱を自ら手放すようなものだ。」

 

「まぁそう言うなやアガン!仕事はみんなで楽しくやってこそだぜ!」

 

「そうやってもしも死人が出た時、まず責任を問われるのは護衛の私だ。それに、このチームのリーダーである君もそうだろ?迷惑をかけるのは辞めてもらいたい。」

 

どうやらこのアガンは人の輪を乱すのが得意らしい。こんな人2人までしか並んで通れないような道にモンスターが潜んでいるハズが無い。

 

「こんな狭い所にいるようなちっこい生物なんて男5人いりゃあ楽勝だろうがよ!だいたいハンターのお前が弱気でどうすんだってな!」

 

「ガハハ!ヨーガの言う通りだぜ!!」

 

「はぁ…危機感の無い連中だ……」

 

 

それから道が枝分かれした場所に到達すると、ラヴとヨーガ、アガンの3人とゲンバとトラット2人で分かれてそれぞれの道へと進んでいった。

ラヴが早速岩肌をピッケルで叩き始め、何かあるぞとヨーガ達を呼んだ。向かってみると青く光る鉱石がその姿を顕にしている。

 

「これはマカライトか?」

 

とアガンが聞く。

 

「そうだぜ!ハンターにとっちゃあ馴染み深いモンだろ?」

 

「コイツは需要が高いからキープだな。頼んだぜヨーガ。」

 

背負っていた革袋にマカライトとやらを入れる。鉱石一つでかなりどっしりしており、この袋がパンパンになる頃にはとてつもない重さになる事だろう。…高価なものが少量だけ見つかって楽に帰れると良いが。

続けてラヴはマカライトの地点から十歩ほど先の岩を掘削し、灰色の塊をゴロゴロと取り出し始めた。

 

「こりゃすげぇ!大地の結晶がこんなに!やっぱここは当たりだったな!まだまだこんなに眠ってやがる!」

 

「大地の結晶っつーのはレアなのか?」

 

「錆びた武器だとか装備の研磨に使われたりする。マカライトの半分くらいの価値はある。」

 

「…じゃあそんなにいらないんじゃ?」

 

「いや、需要は十分にあるものだ。5つくらいは持って帰ろう。」

 

「5つって…本気で言っとるのか…」

 

背中の重荷が更に増えるが、革袋のスペースにはまだまだ余裕がある。過酷な肉体労働になるとは予想していたが、想像していた苦痛を遥かに超えそうだ。

 

その後もラヴは様々な鉱石を掘り起こし、うんちくを垂れてはヨーガの袋に詰め込んで行った。結果として袋はパンパンになり、それに加えて両手に巨大な岩塊を抱えている状態になった。まさかこんな事になるとは考えてもいなかった。何度もつまずきながら、他の二人を待つために分かれ道の合流地点まで戻る。

どうしてこんな重労働をしなくちゃならない。俺はただレアな石で大金を稼ぎたいだけなのに。

ラヴの話を聞く限り、詰め込んでる石達も、今持ってるマカライトの塊も、高額で売れる鉱石では無いらしい。どうしてそんなものをこんな苦しい思いをしながら運ばなきゃならないのだ。ラヴは鉱石そのものが好きでこの仕事をやっている。だから価値の高くないものでも目を輝かせられるのかも知れないが、ヨーガにとっては希少で高いもの以外には全く興味が無かった。こんなのじゃあ夢の生活には程遠い額しか貰えないだろう。

 

「ワシゃヨーガが鉱石に興味を持ってくれて嬉しいぞ!」

 

「興味だと?俺は金が欲しくてここにいるんだ!お前の雑学を聞くためなんかじゃなくてな!」

 

「お前今なんて───」

 

「君達少し静かに。何か聞こえる…」

 

アガンの言う通りに黙り、耳をそばだてる。反対の道、ゲンバとトラットの行った方から何かが聞こえて来た。これは、走っている時の足音だ。

すぐさま2人が汗を垂らしながら走ってきて、トラットが叫んだ。

 

「速く逃げろ!バケモンがいる!!」

 

「バケモンだぁ?ワシの坑道に余所者が来やがったか!受けて立つぜ!」

 

「相手なんて出来るか!あれはモンスターだよ!速く逃げるぞ!」

 

洞窟の奥から低い雄叫びが聞こえ、程なくして一体のモンスターが狭い坑道に体をねじ込むようにして現れた。

それは灰色の甲殻に身を包み、2本の太い足でその巨体を動かしている。顔からは左右に1本ずつ大きな牙が突き出ており、あんなのに刺されたらひとたまりもないというのは簡単に分かった。ヨーガは背負っていた袋とマカライトを手放して逃げ始める。立ち向かう気満々だったラヴも相手の大きさと姿を見て戦意喪失し、5人は背中を向けて逃げ出した。

 

「あのへぐなちゃごめ!オラ達の火薬岩喰いおって!ムカッとしてピッケルで刺したらブチギレやがった!!!」

 

「だから手を出すなって言ったじゃあ無いですか!!」

 

「広い場所におびき出してから追い払う。今は死ぬ気で走れ!」

 

モンスターは巨大に見合わないスピードで後ろから追いかけてくる。少しでも気を緩めれば追いつかれてしまいかねない速さだ。

 

「ぐぉあああ!?だ、誰かァ!!!!」

 

ゲンバが盛大に転ぶ。

 

「君達三人は先に行け!」

 

アガンが立ち止まり、ゲンバを庇うようにして武器を取り出す。剣と盾を構え、モンスターを斬りつけた。二人の事は少しだけ心配になったが、今は自分の命が最優先だ。アガンとゲンバを置いて出口に向かって走った。

 

 

無我夢中で坑道内を走って数分後、ようやく出口が見えた。後ろを振り返る事もせずそこへ向かってダッシュし、坑道の外へ出た。 

ほどなくしてからアガンがゲンバに肩を貸しながら出口から出てきた。ゲンバは転んだ際に足を挫いていたようだ。

 

「本気で死ぬかと思ったぜ!助かったぜハンターの兄ちゃん!借りが出来ちまったな!」

 

「他の3人は?ケガは?」

 

「俺は無い。」

 

「ワシも無事だ。」

 

「寿命が何年か縮んだこと以外は無傷っすね。」

 

「奴はボトアゴドスと呼ばれるモンスターだ。大きさからしてまだ亜成体だろう。性格自体は大人しいんだが、餌となる鉱物を見つけたら豹変する。」

 

「トラットの持ってた鉱石詰めた袋を狙ってたっちゅう事か?そんでゲンバがピッケルで攻撃したからブチ切れた訳だ。」

 

「オラが悪いってのか!?」

 

「しゃ〜ないっしょ。あんなデカブツ相手にしたらそりゃビビりますって。」

 

「今回ばかりは護衛が俺だけにも関わらず、二手に分かれての調査を許した俺に責任がある。鉱石を無駄にしてすまない。」

 

「何もオメェが謝るこたぁねェだろ!オラの命の恩人だしな!!」

 

「それで、これからどうすんだ?安っちい石すら無くなっちまったが。」

 

「これじゃあノルマに届かないから別の鉱脈を探して掘るか、ボトアゴドスとやらをアガンに任せて坑道を進むかだな。」

 

この仕事にノルマが存在しているという話は初めて聞いた。一体どういう事だろう。

 

「ノルマ?ノルマなんてあるんすか?」

 

丁度疑問に思った事をトラットが聞いてくれた。

 

「あったりめェだろ!!ノルマに届くまで休ませてくれねェぞ〜?そんまま次の日になっちまったらノルマが上乗せされてって仕事量がドンドン増えちまう!」

 

「そんなぁ!」

 

「なぁラヴ、ノルマってどんくらいだ?」

 

「あん?ソイツぁざっと4000ゼニー、マカライト鉱石25個くれぇだ。」

 

「はぁ!?さっき俺が持ってた分で幾らだ!?」

 

「さっきのあれがだいたい1000ってとこだな。」

 

「あれを四回分だって!?」

 

「その分しっかり働けば報酬は弾むぞ。まぁ、大抵がノルマ達成出来ずに仕事量だけ増えていって大変な事になるけどな。」

 

「なんでそれ言わねぇんだよ!そんな事知ってりゃ俺はこの仕事受けてねぇよ!」

 

「お前やっぱり金目当てでワシに連絡してきたのか!」

 

「ったりめぇだろ!俺は金が欲しいんだよ!!大金さえ貰えりゃどんな仕事でも良いと思ってたが、なんでこんな──」

 

「楽に稼げる仕事があるとでも?」

 

突如アガンが口を挟む。

 

「でも主任の男は宝見つけたらいっぱい報酬出るって…」

 

「“宝”を見つけられなかったら?」

 

「それは…」

 

「俺達ハンターも同じでね。報酬の高いクエストほど生きて帰れる保証がない危険なものなんだ。」

 

「…俺も金目当てで来ましたが、甘かったっす。」

 

「仕方ねぇ!ンなことしてる暇あったら掘りに行くぞ!!」

 

ゲンバが足に包帯を巻きつけながら全員を奮起させ、結局はラヴのよく使うという別の鉱脈へと向う事になった。そこは溶岩が間近にあるような危険な場所らしく、モンスターも度々目撃されているという。ラヴを先頭に一行は灼熱の山道を歩き始めた。

 

 

「そういえば、アンタは何が目的でハンター始めたんだ?」

 

道中でアガンに質問した。ハンターという、稼げるとはいえ余りにも危険な仕事をしている理由が全く分からなかったからだ。

 

「理由はアンタと同じさ。ハンターは金になると思って始めることにした。ある日、俺なら行けると思ってモンスターと対峙したが、怖すぎて逃げ帰ったよ。それで採取とか採掘ばっかするようになった。だが、それじゃあ下手すると道具やらの方が高くて赤字なんて事がザラだった。結果貧乏になって追い詰められたその瞬間に、モンスターを狩ろうとやる気が出た。どうせ死ぬなら飢え死にするよりモンスターに殺されたほうがマシだって思ったんだよ。」

 

「それで今豪遊三昧になれたのか?」

 

「いいや?モンスター狩って素材と金集めても防具や武器、道具類に消えていくさ。正直、生活面ではあんまり裕福では無いね。」

 

「それなのになんで続けようって気持ちになれるんだ?」

 

「ハンターとしての生活に慣れすぎたから今更辞められないし、それにクサイことを言うと、ハンターとして人の役に立てる事が素晴らしいと感じるようになったからだな。」

 

「へっ、自分より他人優先で生きるなんてまるで奴隷だな。俺は俺のためだけに生きられる人間になりたいね。」

 

「人ってのは皆奴隷さ。金が欲しいとか人の役に立ちたいとか鉱石が好きだとか、目的という鎖に縛られないと生きていけない。」

 

アガンの言葉に、何も言い返せなかった。ヨーガも結局は自分の裕福な生活という理想に縛られ、こうして働いている。

 

「あともう少しで到着だ!!」

 

ラヴが後ろを振り向いて皆に呼び掛ける。たどり着いたのは所々にマグマが池のように点在する岩壁に囲まれた場所で、岩壁には幾つもの割れ目が存在していた。しかし、ラヴは鉱脈には目もくれず、マグマの川に隔たれた奥にある洞窟への入り口を指差した。 

 

「あそこが例の場所だ。」

 

「でも溶岩乗り越えなきゃ行けねぇぞ!?」

 

溶岩の川の幅はおよそ人間一人分、勢いをつけて跳べば届く距離ではあるが、もし届かなかった場合は…考えたくもない。

 

「あまりにも危険だ。ゲンバは足を怪我しているんだぞ?それに帰りはどうする。重い鉱石を担ぎながら飛ぶのか?」

 

とアガン。

 

「心配ねぇ。オラは応急薬と包帯のおかげである程度は動けっぞ!」

 

「この奥に…本当に希少な鉱石があるんですか?」

 

「ああ。宝の山だ。誰にも取られてなけりゃな。だがここに近づく奴はほとんどいない。」

 

「なんでだ?」

 

ヨーガの質問にラヴは間髪入れずに答えた。

 

「誰も死にたくないからだよ、ヨーガ。」

 

「なあラヴ、君、俺達をとんでもない場所に連れてきてくれたようだな。」

 

アガンが地面にある、人間の胴回りより一回り大きい直径の円形に並べて置かれた複数の岩のようなものを指差しながらそう言った。アガンが指したもの以外にも同じようなものがいくつか存在している。

 

「そりゃどういうことだ?」

 

「コイツは痕跡だ。モンスターの。」

 

「…どんなモンスターだ?」

 

「溶岩獣ウロコトル。小さな群れを作る、縄張り意識の強い海竜だ。硬いクチバシで地面を掘って溶岩の中を泳ぎ回る。これはその時や地表に飛び出してくる時に出来た穴が痕跡になったものだ。」

 

彼が話している途中、ヨーガは足元に地震のような振動を感じた。その直後に足元の地面が盛り上がる。溶岩が噴き出してくると思い、咄嗟に飛び退くようにしてその場を離れるが、噴き出してきたのは溶岩ではなく、一体のモンスターだった。

ヘビのように細長い体は溶岩にまみれて赤く照っており、頭には黄色く大きなクチバシが存在していた。アガンの言っていたウロコトルに間違いないだろう。

全員が身構え、ウロコトルの動向を見る。赤い竜はこちらを見ながらクチバシをカタカタと鳴らした。すると、地面から5つほどの影が飛び出してきた。ウロコトル達はクチバシを鳴らしながらにじり寄ってくる。

 

「ど、どど、どうします?」

 

「やむを得ん。君達は避難しろ。俺が安全を確保する。」

 

決死の覚悟で助走をつけてマグマ川を飛び越え、洞窟の入り口付近で待機する。ラヴとトラットも同じようにして入り口の近くに固まり、剣を引き抜いてウロコトルの群れの中へと突き進んでいくアガンを見守っていた。続いてゲンバも助走を付けようとしたが、空を見上げるなり焦ったような顔をしてアガンのもとへ走っていった。

 

「アガン!上にいるぞぉ!!!!」

 

ゲンバがアガンを突き飛ばすと、2人の真上を金色のモンスターが掠めていった。

そのモンスターはボトアゴドスやウロコトルとは比べ物にならないほど大きく、巨大な翼を羽ばたかせ、上空からこちらを見おろしていた。

ウロコトルは視線を金色のモンスターの方に変え、一斉にクチバシを鳴らし始めた。

 

「バカな…そんな…」

 

とアガンが珍しく弱音のような言葉を漏らす。

 

「アイツぁなんだ!?」

 

「セルレギオス…今の装備で勝てる相手じゃない…」

 

「だったら早く逃げるぞ!」

 

セルレギオスは2人目掛けて空中から再び急降下してくるが、2人は横に転がってそれを避け、洞窟に向かって走った。一行は洞窟の中を走るが、セルレギオスは中まで追いかけてきた。

 

「き、来てますよ!?」

 

「やはり相手をするしか…」

 

アガンが剣を取り出し、セルレギオスを斬りつけるが、硬く大きな鱗はその刃を弾き返し、足で摘まれて洞窟の壁に叩きつけられてしまった。

 

「畜生……」

 

「うおおおおおおおお!!!!」

 

アガンに追撃を加えようとするセルレギオスに対してゲンバがピッケルで立ち向かっていった。

 

「何をやっている…はやく逃げろ…」

 

「オメェがはよ逃げろ!さっきの借りを返すぞ!!」

 

ゲンバはセルレギオスにピッケルを向けながら後退り、洞窟の入り口まで行った。セルレギオスもそれに反応して小刻みに跳ねるようにしてゲンバを追いかける。

その隙にヨーガとラヴがアガンに肩を貸し、洞窟の奥へと歩いていった。

 

「護衛の俺がこんな…すまない…」

 

「気にすんな。丁度アンタの役に立ちたいと思ってた所だ。」

 

「目的地はこの奥だ。ゲンバの無事を祈ろう。」

 

 

4人が到着したのは洞窟の脇道から進んだ先にある、小部屋のような空間だった。鉱脈が多数存在し、そのいくつかはピンクや赤の鉱石が露出して光り輝いていた。

 

「桃色のはユニオン、赤いのはエルトライト、コイツらが4つありゃあ簡単にノルマ達成だぁ!」

 

「マジか!4つで良いのか!見える範囲でも6個くらいあるぞ!?」

 

「早速4つ掘りましょう!ピッケル貸してもらっても大丈夫ですか?」

 

「やりたいのか?いいぞぉ、帰りの運搬も頼めるか?」

 

「お任せを!」

 

トラットがラヴの背中に担いでいたピッケルを持ち、低い位置にある赤い鉱石のある鉱脈目がけて振り下ろした。ガツンという音を立ててピッケルが跳ね返り、トラットは尻もちを着いた。

 

「ガッハッハ!もっと腰入れて振り下ろせ!」

 

「へへへ、じゃあもっかい───」

 

再びピッケルを振り下ろそうとした瞬間、鉱石が動き、腕を突き出してトラットを抱き上げるように拘束した。

 

「うわぁあああああああああ!!!!」

 

「おい嘘だろ!」

 

「待て、どうしてこんな…」

 

赤い鉱石は次々と動き出し、3つの鉱石が壁から這い出て来た。鉱石だと思っていたそれは、背中に結晶を背負った、茶色い鱗に覆われたトカゲのような生き物だった。大きさはウロコトルを思わせる。しかし姿は全く異なり、長い腕と指を持っていて巨大な丸い目玉を持っており、顔の側面には赤い目のようなものが4対付いている。長い尻尾からは先端にかけて刃物のような物がいくつも並び、いかにも凶暴な見た目をしている。

 

「ムレオスの巣窟だったか…」

 

「トラットを助け無いと…」

 

「ワシは…こんな……」

 

ラヴにアガンを任せ、トラットの元まで走るが、既にムレオス口を開いて歪な形をした無数の牙を彼に見せつけていた。

 

「嫌だぁああああああ─」

 

トラットの叫び声は木の枝を折るような音と共に途切れた。

ムレオスの口からはよだれがトラットの血と混ざり合って垂れ、地面には粘ついた赤黒い塊がこぼれ落ちた。体の方はまだピクピクと動いており、手が痙攣した拍子に持っていたピッケルを落とした。二口目でトラットの頭は完全に食いちぎられ、首にある管のようなものから血の混じった吐瀉物が噴き出した。

 

「クソッ!」

 

トラットの足元に落ちたピッケルを拾ってラヴ達の方へと戻る。近くにいたムレオスが二人を襲撃しようとした所にピッケルを振り回して乱入する。

 

「コイツらの注意は俺が!急げ!」

 

ラヴとアガンが脱出するまでの囮を引き受け、ピッケルを武器に3体のムレオスを相対する。後ろの1体はトラットを貪る事に夢中でこちらの事は気にも留めていないようだった。

 

「かかってこいやバケモンがぁ!!!」

 

ピッケルを乱雑に振り回して大声を出しながら真ん中にいる1体に飛びかかる素振りを見せる。思わぬ攻撃にモンスター達は一瞬だけ怯んだが、すぐさま右手側の個体が腕を広げてジャンプでヨーガに飛び付いてきた。身を翻して攻撃を躱し、カウンターに巨大な眼球を狙ってピッケルを振り下ろした。

直撃こそしなかったが、顔に攻撃を受けたムレオスは悲鳴をあげて怯む様子を見せた。

 

「どうだ!ザマァ見ろ!」

 

今度は左側の個体が攻撃耐性に入っていたため、それに向かってピッケルを投げつけてから小部屋から抜け出し、洞窟内を急ぎ足で歩いていた2人の元へ駆け寄る。

 

「おい、今のうちに出るぞ!」

 

アガンに肩を貸しながら洞窟の出口まで急ぐが、すぐに後ろからムレオスが現れた。

 

「しつけぇ野郎ッ!!」

 

ムレオスは壁を這い回り、天井まで登ると、腕を広げて上から降って来た。もはやここまでかと思った瞬間、アガンがヨーガとラヴを前に押し飛ばした。

体を起こし、後ろを振り向くと、アガンはムレオスにのしかかられていた。更に後方には先ほどの2体がヨーガ達を狙っている。

 

「俺に構うな…!走れぇ!!!」

 

ムレオスは押さえつけたアガンの頭に噛み付くが、防具に阻まれて上手く噛み砕けず、咥えた状態で首をブンブンと振り回した。そのまま頭を強く引っ込め、彼の頭の防具を引き外すと横に放り投げた。

他の2体は姿勢を低くして力を溜めると、バネのようにヨーガ達目がけて突っ込んできた。

それに反応してヨーガ達も走り始めた。後方からバキッという音が聞こえたが、後ろを振り向くことは出来なかった。

しばらく必死に走り続け、洞窟の出口が見えなかった頃にはムレオス達は追いかけて来ていなかった。

洞窟から出て溶岩の川を飛び越え、外に出た。外には先ほどまでと異なり、セルレギオスやウロコトルの姿は無く、ゲンバもいなかった。

 

しばらく周囲を2人で捜索していると、血の付いたピッケルを1本見つけた。恐らくゲンバの持っていたものだろう。

肝心の本人は何処にも見当たらなかったが、護身用としてピッケルはラヴが貰っていく事にした。

 

「…これから、どうする?」

 

不気味なほど静かな火山内で、ヨーガはラヴにそう聞いた。

 

「…戻ろう…拠点に。はぁ、だが、持ち場を勝手に離れて別の所まで行った上にそこでメンバーを死なせたから、ワシはクビだろうな。」

 

「そんなのって…」

 

「…すまねえなヨーガ。こんな事に巻き込んじまって。」

 

「謝るべきはゲンバとトラット、そしてアガンに対してだろ。」

 

「…………なぁ、ここでワシが死にゃあ、お前はただ一人生き延びた生存者になるよな?」

 

「は?」

 

「いや、その、すまん。ワシは…生き延びた所で、責任を問われて仕事を失っちまう…でもお前は今日入ったばかりの新人だ。何も知らないでワシがしくじったって事にすれば─」

 

「駄目だ。お前にはみんなを巻き込んだ責任もあるし、家族だっているだろ?こんな所で自決なんてふざけた真似はさせん。例えお前がどんなに苦しむ事になってもだ。こんな所で自ら死を選ぶなんてしたら…自らの命を呈してまで俺達を助けたアガンの行動が、無駄になるだろ。」

 

「……………。」

 

「自分のためだけに生きるなんて愚かな事だって、アイツから思い知らされたよ。ほとんど面識のない誰かの為に体を張るなんて、俺には出来ないけど、アイツはそれをやった。俺だってあれを見て、命まで張らなくても、誰かの為に生きられるようになりたいって思えた。お前には家族かいるだろ?お前が食わせてるんだろ?それなのに奥さんと娘さんを置いて死にたいってのか?自分のやった取り返しのつかないミスから逃げるために?」

 

その時突然、上空から巨大な影が舞い降りてきた。セルレギオスはまだここに居座っていたようだ。甲高い咆哮を上げ、再び空中に飛び上がると同時に、2人はダッシュでその場を離れた。

 

 

道中セルレギオスは上空から鱗を飛ばしたり、蹴り飛ばすように急降下してきたりと何度もこちらを攻撃してきた。

 

「下宿先まで付いてこないといいが…」

 

火山の山道を走っていると、またもセルレギオスが蹴りを入れて来たため、右側に飛び込んで回避した。しかし、この時に足を踏み外し、ヨーガは山の斜面を転がり落ちてしまった。

 

「ヨーガ!」

 

 

上からラヴの声が聞こえたと思うと、完全に崖になっている所から勢いのまま飛び出し、ヨーガは下にある水辺に向かって真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

落ちている間は何秒にも、何時間にも感じられた。

ラヴは大丈夫だろうか。セルレギオスをどう対処すれば彼は助かるだろうか。そう考えを巡らせている内に体全体に強い衝撃を受け、ヨーガは気を失った。

 

 

 

 

顔に落ちる冷たい水滴で目を覚ました。身を起こして辺りを見回すと、そこは広大な鍾乳洞だった。どうやら落ちてからここまで流されてきたらしい。鍾乳洞の真ん中を通る水路のようになっている海から陸へと上がり、まずは洞窟の手前側、すなわちヨーガが流れてきた方を目指して歩いてみた。ここは恐らく灼谷孤島の火山のどこかであるはずだが、溶岩が何処にも見当たらないため暑いという感覚は一切無く、洞窟内には植物もいくつか生えている。

更に驚いた事に、洞窟の入り口のには桟橋が架かっていた。

ここが人の手の入った場所であるというこの上ない証拠だ。

今度は逆に奥を目指して歩く。

代わり映えのしない、同じような風景が続いていたが、最奥だけは様子が全く違っていた。

 

「祭…壇…?」

 

人工的に岩を掘って作られたとしか思えない台のようなそれには、目のついた十字型のマークも掘られていた。

これはユデグエンド島を統治している組織、エフィナリティのものだ。ここは彼らの教会だろうか。

エフィナリティを始めとするこの島の竜人族は“イフイ”と呼ばれる神様を信仰しており、彼らの本拠地である建物も神殿としての役割を持っていると聞いたことがある。ここはイフイを祀るための場所でもあるのだろう。ということは、ここにいつか人が来るはずだ。祭壇に全く傷がなく、磨かれている状態である事から、この場所が棄てられているという確率は限りなく低い。

 

空腹に耐えながら祭壇から見える外の様子を観察しながら助けを待ち続け、夕日が沈みかけたその時、遂に遠くから船がこちらに向かってくるのが見えた。

 

助けが来たんだ!

 

 

大喜びで祭壇から桟橋の方まで走る。ヨーガを島から孤島まで送ったものよりは小さな中型船は桟橋の横に停泊し、そこから5人が次々と降りてきた。全員耳の尖った竜人族であり、街でも見たことのある、神を祀る儀式を行う時に着る派手な衣装にを包んでいた。同じ衣装の4人がヨーガを取り囲むように立ち、最も派手な金の装飾がついた衣装を着た、いかにも偉い人といった風貌の小柄な老人が真正面に立った。

 

「あ、どうも。丁度良かった。実は色々あってここまで流されちゃって──」

 

「海に選ばれし者よ。よくぞ来てくれた。」

 

「はい?あの、俺事故で海に落ちちゃって、ここに流されたんですよ。」

 

「事故では無い。運命だ。」

 

「えっと〜、それはどういう?」

 

「貴殿はイフイに選ばれ、此処に辿り着いた。」

 

「あぁ〜、それは〜、ありがたいですね。こうして救助もされましたし。」

 

「その通りだ。貴殿は救われる。イフイの身体となり、この大地に永遠の安寧を齎す。」

 

「身体となる?それってどういう──」

 

言い切る前に取り囲んでいた竜人達に拘束され、祭壇の前まで無理矢理運ばれる。

 

「ちょ、あの、俺帰りたいんですけど─」

 

「貴殿の還るべき場所は此処だ。選ばれし者よ。イフイの糧として身体を捧げ、その魂は神の身体として永遠に有り続ける事が出来るのだ。」

 

「何が言いたいんだよ!?」

 

「生ける者の命とは短い物である。僅かな時しか有り続ける事が出来ず、死すればその身は朽ちていく。しかし神に身を捧げれば、神の身体の欠片として永遠に神と共に時を過ごす事が出来るのだ。イフイは寛容である。如何なる者であろうとも身体を捧げれば受け入れてくださる。」

 

そう言うと老人は紫色の刃物を取り出した。

俺は生贄にされるのか?エフィナリティは、信仰の一環として人間を神への生贄にするために…人目に付かない場所を使って…

 

胸部に激痛が走る。胸元に目をやると、あの刃物が突き立てられていた。傷口に赤いあぶくが沸き上がり、呼吸に合わせて血がどくどくと流れる。

 

「おお我らが神イフイよ、此の者の身体を捧げます。此のか弱き者に神のご意思として時をお与えください。そして、我々により長き命をお与えください。」

 

こんなのおかしい。あまりにも非現実的だ。神様に生贄を捧げて何になるというのだ。

 

「お前ら…うぅッ…狂ってるッ……」

 

胸から刃物が引き抜かれた。傷口から赤黒い血が一気に噴き出し、徐々に意識が遠のくのが分かった。刃物の先端には、握り拳程度の大きさをした脈打つ赤い物体が、えぐり取られた心臓が刺さっていた。

 

「これで貴殿は神に捧げられた!嗚呼、神とその恩寵に感謝を!」

 

「嗚呼イフイよ!」

 

「神の恩寵だ!」

 

さっきまで不気味なほどに一言も発していなかった他の4人が一斉に喜ぶように騒ぎ出した。

連中に対して何かを言おうとしたが声は出なかった。

痛みと謎の集団に対する恐怖と絶望の思いは、早くこの苦しみを終わらせてくれという懇願へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

ラヴ・ヴァレーホは、身勝手な行動で3人の鉱員と、一人の護衛のハンターを死なせたとして事件の責任を問われ、採掘場を追い出された。島本土の小さな村に戻った彼が、妻のマリッサと娘のヒメナを殺害し、自らも命を絶ったのはこの事件から6日後の事であった。

 

 

第7話:End

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。