ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第十一話 不死騎団、再び

「馬を!私の馬を持ってきなさい!」

レオナとアポロは城の外へと走り出した。

「マリン、行くぞ!」

「え、あ、はい!」

マリンは信じられなかった。妹エイミの夫ヒュンケル、マリンにとっては義弟にあたる男である。それがどうして妻の母国に再び攻め入るのか。答えなど出ない。マリンは信じたくなかった。

間違いであってほしい。そう願いながらレオナに続き、城の外へと駆けていった。だが…

 

「一匹たりとも逃がすな―ッ!皆殺しにせよ!」

城から出て見た城下町は地獄絵図だった。そして今、領民に刃を向けて皆殺しにしろと部下のモンスターに命令を下しているのは紛れもなくヒュンケルだったのだ。

不死騎団は城下町のメインストリートを破竹の勢いで走り、城門まで迫りつつある。アポロの指示でようやくパプニカ騎士団の出撃体制が整った。

「女王、私が指揮を執り、不死騎団に当たります!やつらは城を目指しています。女王は城内にお引きください!」

「……」

レオナにアポロの言葉は届かなかった。まだ信じられないと云う目で敵将ヒュンケルを見ていた。

「女王!お引きを!」

 

「キャア―ッ!」

「グアアッ!」

「助けてくれえ―ッ!」

 

領民の阿鼻叫喚の叫びがレオナの耳に響く。

「やめて…やめて…」

馬上でヒュンケルは部下のモンスター兵がやっている殺戮ショーを楽しそうに見ていた。

「フッハハハハハッッ!」

「やめてヒュンケル!何故なの!何故!!」

 

「何故…?ふん、平和に飽きたとでも言っておきましょうか」

「な…」

ヒュンケルは王城の門間近でモンスター兵を止め、パプニカ騎士団の突出に備えた。城下町の入り口から城門に至るまで、おびただしいほどの死体が転がっている。また炎をあげている家、力任せになぎ倒された家屋の数も甚大である。逃げ遅れて焼死した者、家屋の下敷きになっているものもいるだろう。

「女王、敵はモンスター兵と言え数は三百ほどです。こちらの騎士団は八百名、討って出れば勝てます。またヒュンケルは先の大戦で体は戦闘不能のはず。女王、ご命令を!」

ヒュンケルを睨みつけるレオナ。信頼していたからこそ、怒りが激流のように湧いてくる。そして愛する領民を殺された。レオナは命令を出した。

「アポロ、敵将ヒュンケルを討ち取りなさい!」

「ハッ」

アポロは馬に乗り、騎士団の陣頭に立った。賢者の杖を高々と上げて叫んだ。

「パプニカ騎士団、不死騎団に突入開始する。陣形は蜂矢の陣でいく!続けえ!」

 

城からパプニカ騎士団が出撃してきた。不死騎団の先頭に馬上にて立つヒュンケルは小声でモンスター兵に話した。

「わかっているな…。お前たち…」

「「ははっ」」

 

パプニカ兵の突入に際して、不死騎団は迎撃体制を執った。不死騎団はパプニカ騎士団が押せば退き、引けば進んだ。三百と云う少数であれモンスター兵である。数年にわたり平和だったパプニカ騎士団も自然に緊張が緩む。それがこの戦闘ではもろに表面に出た。

モンスター兵の死傷者は出ないのに、騎士団はどんどん兵が減っていった。パプニカ八百の兵、不死騎団三百の兵であったのに、わずか数刻でその数は変わってしまった。パプニカの兵は半数以上討ち死にをしてしまった。後方でレオナとマリンが回復魔法をほどこすが焼け石に水。だが不死騎団は犠牲軽微であるにもかかわらず徐々にパプニカ騎士団に押されだした。

「このへんでいいだろう。引き上げだ」

ヒュンケルは自分の馬を引いていたモンスター兵に指示した。

「ハッ」

モンスター兵は合図の信号弾に火を着けて空に放った。

 

すると今までパプニカ騎士団と戦っていた不死騎団は一斉に退いた。城下町の入り口に向けて走り出したのだ。ヒュンケルも馬を返して城門に走り出した。

後退の統率が取れている。知能が皆無に等しいゾンビ系モンスターたちが整然と乱れずに引いていく。少し冷静であるのなら妙と気づくが、パプニカ陣営にそんなゆとりなどなかった。

「やった…退けたぞ!」

息も絶え絶えのアポロ。もはや魔法力はなかった。逃げ出すヒュンケルに向かい、レオナは叫んだ。

「ヒュンケル!私はあなたを許さない!絶対に許さない!」

それを聞くヒュンケルの顔は残酷な笑みが浮かんでいた。

 

レオナは残された魔法力でアポロとマリンを回復させた。

「アポロ、すぐに城下の消火と救出活動の指揮を。そしてマリン、ソアラ・カンパニーの社長に救援の伝書鳩を。薬と医療具、医師、看護婦、回復魔法を使える者、家屋の下敷きになった者を救出できる資機材と人員。非常食と飲料水、それを出来るだけ集めて大至急パプニカに来られたしと。城や城下にあるのだけじゃ足らない。急いで!」

肩を震わせながらレオナは城に入っていった。

「女王!」

「よせ、マリン。今は一人にしてやれ」

「あなた…」

「マリン、伝書鳩では遅い。ルーラまだ使えるか?」

「ええ、片道なら何とか…」

「ポップ殿の方も先ほどの襲撃の後始末もついておらず大変だろうが助勢を請うしかない。まったく…なんて日だ!」

「エイミ…」

「ん?」

「エイミ…反乱者の妻になってしまったのね…」

「大昔の封建国家じゃないんだ。罪が妻におよぶはずないだろう」

「でも、あの子…もうパプニカに戻れない…」

「マリン…」

 

レオナは玉座に座り、考え込んでいた。

「あれはヒュンケル本人なのだろうか。もし違ったとしても…領民が何百人も殺された今、私は彼を許すわけにはいかない」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ここはソアラの町、ポップはでろりんの家にいた。

「大丈夫か…でろりん」

ベッドで横になる部下を気遣うポップ。

「はい、社長の回復魔法が効いたのでしょう」

でろりんの妻ずるぼんがポップに紅茶を出した。

「どうぞ、ポップさん」

「ああ、サンキュー」

「亭主の怪我、あまり気にしないでね。殺したって死ぬような亭主じゃないんだから!」

「おいおい、ひでぇ言い方するなあ」

愛妻の冗談に苦笑しながら、でろりんはベッド脇で自分を心配そうに見つめる娘メイアの頭を撫でていた、その時だった。

 

でろりん宅のドアがノックされた。でろりんが窓から誰が来たのか見てみると、それはメルルだった。

「奥さんだ。ずるぼん、ドアを開けてくれ」

「メルルが?何だ急用かな」

メルルがでろりんの寝室までやってきた。

「あなた、大変です。パプニカの王都がモンスター軍団に襲われました!」

「な、なんだと?」

横になっていたでろりんも突然の報に、思わず起き上がった。

「なんとかパプニカ騎士団で追い払ったとのことですが、領民も騎士団員ともに被害甚大。薬、医療具、非常食と飲料水、医師、看護婦、回復魔法を使える者、家屋の下敷きになった者を救出できる資機材と人員をできるだけ集めてパプニカに来られたしとレオナ様直々の救援依頼です。マリンさんがルーラでそれを知らせに来ましたが、もう傷だらけで…」

「なんてことだ…」

「社長、私も行きます」

と、でろりん

「すまんが頼む。さきほどの襲撃を考えると船ひとつと云うわけにはいかない。今あるカンパニーの全船でパプニカに向かう。俺はルーラでマリンさん連れて一足先に行くから、でろりんは俺の旗船マトリフの船団長代行を務めて船団の指揮を頼む!」

「分かりました!」

「メルル、全社員に伝えてくれ。出航は二時間後、全速力でパプニカに向かえと!」

「はい!」

ポップはでろりん宅を飛び出して行った。でろりんもパジャマを脱ぎ、船長服に着替えて飛び出していった。降って湧いた騒動に、ずるぼんは呆然としていた。彼女にメルルは頭を下げつつ言った。

「ずるぼんさん、すみません。ついさっき、大怪我して運び込まれたご主人を休ませることもできなくて…。夫にとってでろりんさんは必要な方。特にこういう火急のときは…」

「え?いえ良いんですよ。船乗りと所帯もってしまったのですから仕方ありません。それに怪我と言っても社長の魔法でほとんど治っていましたからね」

「ありがとうございます」

「ところでメルルさん、私も元僧侶です。まあ修行が辛くて逃げ出した駄目僧侶でニセ勇者パーティーのメンバーでしたが、薬草の処方やホイミとキアリー程度なら体得しています。私も連れて行ってくれませんか?お役に立てると思います」

「分かりました。私の旗船ナバラに乗って下さい」

「はい!さあ忙しくなってきたわね!」

「ママもお出かけしちゃうの?」

自分と同じ、青い髪の娘メイアの目線までずるぼんは腰を下ろした。

「うん、ママもパパと同じお仕事でパプニカと云う国に行くの。メイアは社屋の保育園に行ってスティーヌお婆ちゃんの云うことを聞いてお留守番していなさいね。きっと他の子供たちも集まり、メイアのお友達も来るはずだから」

スティーヌとはポップの母親であるが、本社の社屋内に設けられている保育園の責任者でもある。カンパニーの母親衆の信頼も厚く、子供たちにも慕われている。

「うん、私スティーヌお婆ちゃん大好きだもん!」

「ごめんね、メイアが好きなバームクーヘン買ってきてあげるからね」

母を気遣い気丈に見せる娘をずるぼんは抱きしめるのだった。

 

レオナはこの時の救援要請をポップ率いるソアラ・カンパニーにしか依頼していない。カールやロモスとも同盟間にあるが、ヒュンケル率いる不死騎団が襲ってきたことを、まだ公表するにためらいがあった。

また何よりパプニカは三つの大国があるギルドメイン大陸から南に外れたホルキア大陸のさらに南に位置し、船でしか行くことができない。となると救援要請を受けた国々も物資の調達や事務的にどうしても遅くなる。早くても到着まで五日から七日を要する。それでは間に合わない。

しかしソアラ・カンパニーはギルドメイン大陸南端に位置するため、地理的にも近く、そしてポップの『行くぞ』と云う一声で動き、物資は常にソアラの倉庫に備蓄してあり、身分を度外視し能力主義の性質であるから、人材はどの国々よりも揃っている。面倒な事務処理的なものも船内で行う。

また世界で高速船と大型船を一番多く所持しているのもソアラ・カンパニーであった。要請の翌日には十分に到着できるのである。

ポップをパプニカの御用商人と認める時にレオナが出した条件に『パプニカに有事があれば救援されたし。無論それに伴う報酬も支払います』と云うものもあった。

これは契約後の口約束みたいなものであったがレオナは信じた。たとえ今、自分と不仲の状態にあったとしてもポップは絶対にその約束を守ると。

 

ポップはその約束を覚えていたし、またそんな約束をしていなくても動いたであろう。こんな状況で自分個人のレオナとの不仲など何ほどのことがあると自覚していた。

それを示すかのように、彼の家のメイドや使用人たち、父のジャンクも港に行き、ソアラ・カンパニーの社員が総動員されてパプニカ出航の準備をしていた。残っていたのは娘ダイアと母のスティーヌだけである。

「パパ~お出かけしちゃうの~?」

「ああ、パパとママはしばらくパプニカと云う国に行かなきゃならないんだ。お土産も買ってくるから、いい子にしておばあちゃんの言うことを聞くんだぞ」

「ダイア、お土産お人形さんがいいな!」

「お人形さんか。分かった。ダイアと同じくらいかわいい人形を買ってくるからな」

そういって、ポップは娘を抱きしめた。

「かあさん、留守を頼む」

「ええ、あなたも気をつけるのよ」

「うん、行ってくる」

母に娘を預け、ポップは自室に入った。マリンもそこにいた。ポップの邸宅のメイドから応急手当をされたものの、腕や足に巻かれた包帯が痛々しい。

ポップがベホマを唱えようとしたが、自分だけ痛みから解放されては女王に申し訳ないと拒否した。肩に負った負傷に手を当てながら、マリンは港でパプニカ出航のため、その準備に追われている人々を窓から見ていた。

「ありがとうポップくん…。先の黒い鎧の襲来でカンパニーも大変なはずなのに、パプニカのために尽力してくれて…」

「…それより、もう一度確認したいのですが…」

「……」

「パプニカを襲ったのは不死騎団…ヒュンケル…事実なのですか…!」

「事実です」

「馬鹿な!そんな馬鹿な話があるか!」

 

時を同じころ、ロモス大学で薬を盛られたヒュンケルは目覚めた。大学内の医務室でもなければヒュンケルの家でもない。見知らぬ密室だった。そして気づく。自分が捕縛されている事に。

「どういうことだ…」

かつてのヒュンケルならば、たとえ鎖でがんじがらめになっていようと、それを引きちぎることができた。だが、今の彼にそんな力はない。戦えない体は同時にヒュンケルのそういう怪力さえ奪ってしまったからである。

自分の置かれた状況の整理もままならないこの時。その密室のドアが乱暴に開けられた。入ってきたのはパプニカの鎧を着た兵士たちだった。

「ようやくお目覚めか、反乱者め!」

「は、反乱者だと?」

「女王レオナの命により、貴様を逮捕する!」

パプニカの紋章が記されている書簡、つまりヒュンケルの捕縛指令書がレオナのサインをもって、そこにあった。

「な、なんだと…」

「今から連行する、おとなしくしていただこう!」

 

ヒュンケルのいた部屋、そこは古びた山小屋の一室だった。そして今、捕縛されたヒュンケルがそこから引きずり出された。それを遠くから見ている二人がいた。一人はロモス王国大学からヒュンケルを拉致した悪魔神官サイヴァである。その隣にはパプニカを攻めたヒュンケルがいた。

「かつて、魔軍司令ハドラーの前で己を縛る鉄鎖を容易に砕き、威勢のいい啖呵を切った戦士ヒュンケルが麻で作られたロープさえ引きちぎれないとはね…」

「本当にあんな者が役に立つのでしょうか…」

「さあね…。だがそういう命令だから仕方ない」

ニセ者のヒュンケルが煙に包まれる。モシャスの効果が切れたのだ。

黒い翼が背になびき、美しい亜麻色の髪が風に揺れる。世の男誰もが、その愛らしい顔立ちに心を奪われてしまうほどの美少女であった。

人間で言えば十五、十六歳ほどの姿。桃色の戦闘衣に純白のミニスカート、美しい肢体、まさに天使のような容貌である。

「さて、作戦の次の段階に入るとしようか。行くわよ、サイヴァ」

「ハッ、サリーヌ様」

二人の主従、サリーヌとサイヴァは上空へと舞い上がった。

 

ポップはマリンを連れてパプニカに到着した。時刻はもう夜の二十二時となっていた。火災はアポロの指揮が良かったのか、ほぼ鎮火されていたが、崩れた家屋の下敷きになっているものが幾人もあり、まだ予断は許さない状態であった。

城下町には救護所も何箇所も設置されていた。マリンはレオナにポップの到着とソアラ・カンパニーが領民の救助と治療、そして復興に対して全面協力を約束してくれたことを女王レオナに報告するため、パプニカ城へと駆けていった。

 

ポップは救護所の中にいた。そして負傷者たちに回復魔法をかけていた。

「うう…痛いよ…熱いよう…」

「しっかりしろ坊や…今助けてやるからな…」

 

城下の所々からすすり泣く声が聞こえる。家族を亡くした者、家を無くした者、そして激痛に泣く子供の声、悲しい泣き声がポップの耳に痛いほどに響いた。ポップは救護所を駆けまわり、回復魔法を唱え続けた。

「すいません…この子にも回復魔法を」

すでに死んでいる赤子の治療をポップに懇願する女がいた。彼女自身もモンスターに斬られ、血がにじむ包帯が痛々しかった。もう死んでいるとその女にポップは言えなかった。

死んでいる赤子をポップは抱き、顔に刻まれた傷を携帯していた医療具で縫い合わせた。そして使わずに済めばと思っていた化粧道具で赤子に死に化粧を施した。

「おかあさん、すみません、これが精一杯です…」

母親に赤子を返し、そして彼女にもベホイミを唱えた。死に化粧を施された赤子を抱き、そして小さな声でポップに礼を言った。

「ありがとうございました…う…うう…」

 

「おお、女王様だ!」

「レオナ様だ!」

レオナは城から出てきた。気丈に歩いてはいるが、彼女自身も不死騎団の攻撃で負傷を負い、かつ軽い仮眠をとっては魔法力の充填を図り回復魔法を国民や騎士団員にかけ続けることを繰り返していた。

もはや立つことさえ苦しい状態であるが今はそんな弱気なところを国民や部下たちに見せるわけにはいかないのである。

「みなさん、もうすぐソアラから救援物資と医療団が到着します。もう少しの辛抱です」

救護所にいるポップの元にレオナが歩み寄ってきた。

「姫さん…いや、女王…」

「ポップくん、いえポップ殿、支援感謝いたします」

「いえ、これも仕事ですから。途中に嵐でもないかぎり、カンパニーの船団は翌朝には到着するでしょう」

「ありがとうございます。ポップ殿自らも回復魔法を使って領民を助けてくれたのですね」

「俺、いや私が治せるのは肉体の傷だけに過ぎませんが…しないよりは…」

「ありがとう…」

「とりあえず、私はこのまま負傷者の治療を続けます。女王はお疲れかと。ここは任せてお休みください」

「分かりました、お願いいたします」

もはや先日の暴言うんぬんを詫びたり、詫びられたりするゆとりなど二人にはなかった。

 

そして翌朝、夜明けの朝日と共にソアラ・カンパニーの船団は到着した。到着を女王に報告するため、メルルとでろりんがパプニカ城に入った。玉座に座るレオナに二人はひざまずいた。よほど船団の到着が嬉しかったのか、レオナは玉座から降りて、ひざまずくメルルの手をとり立たせた。

「メルル、ありがとう。でろりん船長もよくぞお越しくださいました」

でろりんはレオナに一礼をして、物資の全てを網羅した台帳を渡した。表紙にはポップとメルルのサインが記されている。

「これが船団に積まれた救援物資と人員の詳細です」

「ありがとうございます。確かに受け取りました」

「女王、主人は?」

「昨日、徹夜で国民たちに回復魔法を唱えていてくれていたわ。今は五番救護所で横になっているはずです」

「分かりました。私たちも救出活動に入ります。行きましょう、でろりんさん」

「はい」

 

アポロ指揮のもと、ソアラ・カンパニーの社員たちも救出活動に加わったことによって家屋の下敷きになっていた者たちはどんどん助け出された。それと同時進行してポップは運び込んだ木材によって家を失った者たちに仮設住宅を作ることを部下たちに指示した。

またソアラ・カンパニーに属する医師や看護婦、回復魔法を唱えられる者たちの手により、負傷者の傷はどんどん癒えだした。

ポップ自身がもう回復魔法を使う必要もなくなったので、彼は改めて城に入った。城の中にあった救護所も怪我人がいなくなったので、すでに撤収作業に入っていた。

明日は、今回の襲撃で亡くなった者たちの合同葬儀である。マリンがその準備に当たった。

 

拝謁をしにきたポップをレオナは労い昼食を共にした。

「ポップ殿、こたびの救援、女王として礼を言います。ありがとうございます」

「いえ、私もアポロさん、マリンさんに助けられているので、それはお互い様ですよ」

 

食事を終えると、レオナは給仕たちを下がらせた。会話が公から私になる二人。

「ところで今回のこと、先生やフローラ様には?」

「まだ知らせていないわ。とりあえず国内の混乱を鎮めてから世界に正式に公表するつもりよ。まだ国外のことに心を砕くゆとりはないから。でもアバン先生やフローラ様には今日にでも伝書鳩で知らせるわ」

「そうか、ビックリするだろうなあ。先生とフローラ様…」

「ポップくん、どう思う?ヒュンケルの挙兵…」

「質問に質問で返して済まないが、姫さんはヒュンケル本人がやったことだと思っているのか?」

「分からない…。モシャスと云う魔法もある…」

「俺はそれだと思う。第一理由がないだろう?剣を捨ててあいつは学者として生きることを決めて、しかもそれで頭角を現した。挙兵する理由など皆目ない。ヒュンケルに化けた者がパプニカを襲い、こちらの仲間割れを生じさせるのが目的だと思う。バーンに対してキルバーンを送っていたヴェルザーだ。そういう水面下の謀略はお手の物だろう」

「たとえそうでも、私はヒュンケルを許すわけにはいかないの」

「は?」

レオナは無念そうに目を閉じた。

「『ニセ者でした。ヒュンケルに罪はありません』で、家族を失った国民たちが納得すると思う?それにかつてヒュンケルは一度この国を滅ぼしている。不死騎団によって。あの時の恐怖を忘れていない国民はいる」

「ちょっと待て!その不死騎団長だったヒュンケルを許したのは姫さん自身だろうが!」

「分かっているわよ!でも二度は無理…二度は無理よ…ッ!たとえ今回の襲撃がヒュンケル本人の手でないとしても…!」

もしヒュンケルを捕らえた場合、辛い選択をしなければならないことをレオナは分かっていた。かつての仲間を自分で殺さなければならない。ポップとレオナ、二人のいる部屋、そこにアポロが来た。

 

「女王、ポップ殿、申し上げます」

「…なにか?」

「ヒュンケルを捕らえました」

レオナとポップはアポロの報告に唖然とした。

「女王、二度許せば、それは寛大とは云わず、ただのお人よしです。毅然とした裁きをもって」

「出過ぎですよ!アポロ!」

「今度許せば国民はヒュンケルから転じて女王を憎悪いたします。私はこの国の将軍です。彼を許すことはできません。たとえあの襲撃がヒュンケル本人でなくとも!」

「国民はヒュンケルを捕らえたことは…」

「捕らえた兵士が彼を檻車に乗せ城下を通り、城まで連行しました。ヒュンケルへの恐怖か、投石と罵声は避けられましたが、すでにヒュンケル逮捕の事実は国民周知のことでございます」

「いま彼は…?」

「地下牢に入れました」

 

「アポロさん、ヒュンケルはどうして捕まったのですか?」

と、ポップ。

「兵士が捕らえてきました。何でも山中に潜んでいるところを捕らえたとか」

「パプニカ兵ですか?」

「ええ…しかし見たことのない兵士でしたが…」

 

パプニカ城の地下牢、ここにヒュンケルはいた。ここに来るまでパプニカ兵に聞かされた。自分が不死騎団を率いてパプニカに攻め入り、国民と騎士たちを虐殺したと言うことを。ヒュンケルにとって何の身に覚えのないことである。しかし何故か完全否定する気にはならなかった。つい数年前、実際に自分はパプニカを滅ぼしかけたのであるから。

「これが運命なのだな…。たとえレオナ姫が許してくれたにせよ、天には許されてはいなかったようだ…」

 

同じ頃、ロモスのヒュンケルの家ではエイミが帰宅しない夫の身を案じていた。大学会議に夫ヒュンケルが出席しなかったことは伝え聞いている。突如の失踪に混乱していた。

「あなた…どこに行ってしまったの…?」




前作、火水の法則に登場したサリーヌ、こちらでも登場です。
好きなんですよね、このオリキャラ。
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