「出て行けえ―ッ!裏切り者の女房―ッ!」
「あなたがロモスにいることで、私たちも反乱者扱いされたらどう責任取ってくれるのよ!」
「ロモスから立ち去れえ―ッ!」
ここはロモス王国のヒュンケルの家。すでにヒュンケルがパプニカに攻めたという知らせはロモスにも流れていた。結果ポップの活躍で偽者であることが判明したが、それはまだ世界周知の事実ではない。
ルーラを除けば最速の通信手段が伝書鳩である時代であるし、ヒュンケルが冤罪だったとはまだ伝えられてはいない。
また、今回のパプニカ襲撃がヒュンケル本人ではなくても、やはり元魔王軍の軍団長であったという事実はいかんともしがたく、無罪と知ってもヒュンケルの魔王軍としての過去を許さず、無罪の報をあえて聞こえないふりをするものも多かった。直接レオナやポップから真相を聞いたパプニカの国民の一部にもそういう者はいたのである。
若くして世界でただ一つの大学の助教授となり、大戦の英雄、女性が放っておけないほどの整った顔立ち、そして妻は美女。嫉妬の念は常に彼を包んでいた。ここぞとばかりにヒュンケルを攻撃しはじめた。
いかにレオナが正式に公式文書を世界に回してヒュンケルは冤罪だったと告げても、こういう小人の愚挙は止められない。ロモス王室においては常日頃から若くして名誉をもつヒュンケルを苦々しく思っていた小人の大臣が、そのパプニカからの公式文書を王に見せず破り捨ててしまったのである。人の口に戸板は立てられない。パプニカにいることで再度の襲撃を受けたらたまらないと感じた国民が他国へと移り、それを広めてしまったのだ。話は広がり続け、このロモスにおいてはヒュンケルがパプニカ城を落としたとまで尾ひれが付けられていた。つまりロモスにはヒュンケルの冤罪は証明されていない。
ロモス大学はヒュンケルを学会永久除名に決め、彼の今まで考案した農学技法すべてを否定し始める有様であった。
ヒュンケルの家には、ここ数日心無い投石や罵声が飛んできた。ヒュンケルの妻エイミは一歩も家を出られなかった。毎日心無い所業と夫のいない寂しさのため泣いているだけであった。そしてエイミは信じてはいなかった。夫が、ヒュンケルが私の故郷を攻めるわけがない。誰が何と言おうとエイミはヒュンケルを信じた。
そして今日も、ヒュンケルのパジャマを夫と思い、泣きつかれて眠った。しかし周りの民は冷たかった。
一度攻撃する対象を見つけてしまうと人間ここまで醜くなるものかと思えるほどエイミへの仕打ちは過酷なものとなっていった。
放火はロモスでは死罪のため誰もやらないが、それ以外の嫌がらせはすべてやったのではないだろうか。もはや、家の中に食糧の備蓄もなければ水もない。
そしてとうとう水も無くなった日である。またもや罵声を飛ばす国民たち。
「やめんかあ!!」
威厳と深みのある一喝を国民に投げかける男がいた。
「かよわい女一人になんたる振る舞いを!恥を知れ!」
声の主はバダックであった。彼は大学会議の以前からリンガイアに工学の講師として要請されていた。
ヒュンケルを知る彼はパプニカ襲撃の報を聞いても最初から信じず、そのままリンガイアに留まっていたが、噂でエイミの窮状を知り、飛んで帰ってきたのだ。そして見た。噂以上の悲惨さを。バダックの一喝をヘラヘラと受け流す男。彼はもはや最初のロモスのために出て行けと言っているのではなく、ただエイミを攻撃するのが楽しいからやっているだけだ。
「でもよう、爺さん。こいつは反乱者ヒュンケルの妻だぜ」
「そうよ、そうよ、こんなのがいたらロモスは迷惑なのよ!」
「だまらんか!このロモスは大昔の封建国家のように、夫の罪が妻に及ぶとでもいうのか!お前たちは今、楽しんでやっているだけだ。ロモス国王シナナ様は慈愛で鳴る名君なのに国民の質はそんな程度なのか。自分たちがやっていることがどんなにみっともないか分からんのか、馬鹿者が!」
後の世に『老いてますます盛ん』の代名詞となるバダック。その一喝は人を黙らせるに充分であった。心無い国民は去っていった。
「ふう…すまんエイミ殿…」
そう独り言を言いながらヒュンケル宅のドアの前に立ち、ノックした。
「エイミ殿…儂じゃ、バダックじゃ」
ドア向こうから痛々しいほどの小さな声が聞こえた。
「バダックさん…?」
「そうじゃ、もうエイミ殿を攻撃する馬鹿者たちはおらん。開けてくれぬか」
ドアを恐る恐る開けるエイミの目に、誰もが安堵感を覚える優しく、そして懐かしい笑顔があった。
「バダックさん…!」
よほど不安な毎日だったのだろう。エイミはバダックに抱きついて泣き出した。
「もう大丈夫じゃ…すまんのう、もっと早く助けてやれなくて…」
エイミはバダックの胸で数分泣き続け、ようやく落ち着き、バダックの持ってきたパンと牛乳を胃の中に入れた。部屋の明かりも点け、久しぶりに安心の中で出来た食事だった。
「ありがとう、バダックさん」
「いやなに…それよりエイミ殿」
「はい」
「言いにくいが…ロモス王国にいては危険じゃ。またあんな連中が来るとも限らんからな」
「…本当…なのですか?」
「…ヒュンケル殿がパプニカを攻めたと言うことかね?」
エイミは首を縦におろした。バダックの言うことならば信じられるからだ。
「…事実じゃ。パプニカ騎士団に撃退されたと言うが国民と騎士団の被害は甚大と聞いている」
「………」
「それ以降のことは儂も知らぬが…」
再びエイミは涙をポロポロと流しだした。テーブルの上に雫が落ちる。出鱈目だとバダックに言ってほしかった。しかし真実だったのだ。夫ヒュンケルはパプニカを攻めたのだ。
「う…ううう…」
「エイミ殿…」
「ならば私はパプニカにも帰れません…。同じように攻撃されます。国民ばかりか…女王、姉さん、アポロからも…」
バダックは一つの封書を差し出した。
「ソアラに行きなされ」
「え…?」
「差し出がましいと思ったが、儂の方でメルル殿に連絡を取った」
「メルルに…?」
「エイミ殿の窮状を記し、安全な場所にお連れしてほしいと。で、それが返書じゃ」
『親愛なるバダック様
お手紙に記されていたこと、すべて了承いたしました。主人は現在カールに出かけていて不在ですが連絡を取ったところ了承を得られました。エイミさんは私たちの私宅に食客として礼遇いたしたいと存じます。
私たちの町は元々移民の町。パプニカとロモス両国の体面も視野にない自治領です。安心してお越しくださいませ。十八日の朝七時、ルーラでロモスに向かえますフォブスターを派遣いたします。彼のルーラでお越しください。我ら家族、エイミさんを心より歓迎いたします。メルル』
「メルル…ありがとう…」
「あのカール北部山脈での戦いにて、メルル殿が重傷を負ったとき、エイミ殿が回復魔法をずっと彼女にかけ続けたのでしたな」
「そんなこともありました…」
「人に向けた恩義は必ず返って来るものじゃ。この困難の打破も、かつての自分の行為の恩恵。胸をはってソアラに行かれるがよい。またメルル殿はポップくんと共に襲撃を受けたパプニカにカンパニーあげて救出に動いたと聞いている。その後の情報もメルル殿は持っているはずじゃ」
「そうですね。明日の朝か…急いで準備しないと」
「うむ、じゃ儂は帰るとするか」
「あの…」
「ん?」
「よければ泊まっていってくださいませんか。寝具も用意いたしますので」
やはり、あれだけの仕打ちをされたのだから、一人では心細かった。バダックはそれを悟り陽気に振る舞った。
「おお?よいのか、儂とて男じゃぞ。おおかみになるかもしれぬぞ~」
エイミはニコリと笑った。
「それは無理です。私の体は夫ヒュンケルだけのものですので」
「ハーハハハ!若夫婦はいいのう!儂もたまにはカミさんの尻でも撫でるかのう!」
そして翌朝、フォブスターがヒュンケルの家に到着した。
「お久しぶりです。エイミ嬢」
エイミは苦笑し
「嬢はおやめください。私はもう人妻ですので、フォブスター殿」
「ははは、そうでしたね。いや、本当にお懐かしい。エイミ殿とは大戦以来ですね」
「はい、フォブスター殿もお元気そうで何よりです。今回はご足労かけてすみません」
「いえいえ、これも仕事ですから。さあメルルさんが待っています。まいりましょう」
「はい」
見送りをしているバダックにエイミは振り向いた。
「ありがとうございます、バダックさん…。もうパプニカに仕えていない私にここまでしてくれて…」
「辞めたのは儂も同じ。困った時は何とやらじゃ。元気での。メルル殿にもよろしく」
「はい」
「フォブスター殿、エイミ殿をお願いいたします」
「承知いたしました。ご老体もお健やかに」
フォブスターはエイミの手を握った。
「行きますぞ!ルーラ!!」
飛び立ったエイミにしばらくバダックは手を振り続けた。
やはりルーラは早い。ほとんど一瞬でロモスからソアラに到着した。
「こちらが社長の家です」
フォブスターの示す家を見て思わず驚くエイミ。
「すごい…大きい家…」
エイミが見たのはパプニカ城をほんの一回り小さくしただけと思える三階建ての大邸宅であった。
「まあ、カンパニーの厚生施設も兼ねている建物ですので。それに組織の長があまりこじんまりした家に住んでいると商用の外交でも軽く見られてしまいますから我々幹部の意見を取って、こういう大きさにしたのです。ホールや会議室、大食堂とかもありまして、そこは基本的に社員に解放してあります。あとは客間や食客専用宿舎や仕事中の社員の子供たちを預かる保育室、使用人たちの部屋なども多々あり、社長のご家族は三階の一部に住んでいるだけです。どうぞこちらに」
到着が窓から見えたのだろう。メルルは入り口でエイミを出迎えた。
「ようこそ、エイミさん!お懐かしいですわ」
「こちらこそ、食客として受け入れてくれて感謝しています」
「フォブスターさんもありがとうございました」
「いえ、これも仕事ですから。では私は他の仕事もありますので、これにて失礼いたします」
フォブスターは港にある自分の船へと戻っていった。
メルルの他に、ポップの母スティーヌと娘のダイアがエイミを出迎えた。ダイアのあいさつにエイミは面食らった。
「初めましてエイミおばさん、ダイアです」
「おば…」
スティーヌがあわてて言い直させた。
「こらダイア!お姉さんでしょ。すみませんエイミさん…」
「い、いえ、良いんですよ。私も人妻ですから…」
そしてダイアの視線に腰を下ろした。
「初めましてダイアちゃん、エイミです。これからよろしくね」
「はい!いっぱい遊んでくださいね!」
人見知りしない活発な子だなとエイミは思った。まるで幼年期のレオナを見ているかのようだった。そして同時にこんな子供を産みたい、育てたいとエイミは思う。早く夫に会いたい。そう考えると少し涙もにじんでくる。
「どうしたの?エイミお姉さん」
「いえ、なんでも…」
「さあ、エイミさんのお部屋に案内いたします」
家のメイドがエイミの荷物を持った。エイミは恐縮しながらメルルの案内に従い廊下を歩いた。こういう豪邸だと邸宅内の装飾品なども優美なのが定番だが、ポップは調度品等には興味が無く、いたって屋敷内はシンプルであった。
「ここです。この部屋をご自分の部屋と思い使ってください」
エイミの案内された部屋。ベッドやテーブル、ソファーなども完備されている上質な部屋だった。居候も同然ゆえに、粗末な部屋でも不服を言うつもりはなかったが、メルルとポップは本当にエイミを礼遇する意味で上質な部屋を用意してくれた。
「ありがとう、大切に使わせていただきます」
「それでは落ち着きましたら、お茶にいたしましょう。色々とお話したいこともありますし、一階の食堂でお待ちしています」
「分かりました」
エイミがソアラに来たのは安全な生活の確保のためであるが、それ以前にポップかメルルに夫ヒュンケルがどうなったかと云う経緯を聞くことであった。すぐにも聞きたかったが、さっきはスティーヌやダイアもいたので遠慮した。
彼女は荷物を部屋に置き、普段着に着替えると部屋を出てメルルが待っている食堂へと歩いていった。どんな事実があったのだろうかと不安に思いながら。
社員食堂なのだろう、城の大広間のようなフロアに多くのテーブル。ランチのメニューにあったのか、トマトソースの匂いが残っていた。食事時ではないので料理を作る者も、それにありつく者もいない。その静かなフロアの一角でメルルは紅茶の用意をしてエイミを待っていた。
「お待ちしていました、エイミさん」
「メルル、教えて。あの人がどうなったか」
「…はい、そのつもりでした。少し辛い話になりますが…よろしいですか?」
「ええ…情報がまるで分からないの。包み隠さず教えてちょうだい、お願い」
テーブルに着いたエイミにお茶菓子と紅茶を差し出し、その向かいにメルルは座った。
「では、お話します…」
メルルは語った。偽者のヒュンケルがパプニカに攻め入ったこと。その被害の詳細。驚くことにその翌日に本物のヒュンケルが捕まり、レオナが死罪を言い渡したこと。刑は公開を以て執行されるに至ったがヒムを含む三人の魔族がそれに乱入しヒュンケルを連れ去ったこと。そしてヒュンケルの冤罪が立証されたこと。すべて話した。
驚きと絶望が交互にエイミを襲う。結果的には冤罪と認められたと聞いた時は、やや安堵の顔を見せたが、エイミの顔は怒りを示しだしていた。
「そんな…それじゃ女王は…あの人が冤罪と知りながら死刑を言い渡したと言うの?しかも公開処刑ですって…!」
「私自身、判決後に女王を非難しました。冤罪だと分かっているのに何故かと。でも一国の王として苦渋の決断をせざるを得なかったことは伝わってきました。主人に、こう言ったそうです。『偽者でした。だからヒュンケルは無罪です。そんなことで家族を殺された国民が納得すると思うの』と。レオナ様に選択の余地を与えないためにヴェルザーは不死騎団でパプニカを襲わせたのだと思います。魔王軍不死騎団長ヒュンケルの襲撃を再現し、かつての彼の過ちも付け足して国民にヒュンケル憎悪の気持ちを植え付ける…。これを無罪放免としたらパプニカの法は無きも同然となってしまいます。国民には私情を以て女王がヒュンケルさんを逃がしたとしか映らないのですから。国家元首自らが法を曲げるのを示してしまう結果となってしまいます。レオナ様は泣いてヒュンケルさんを裁いたのです…」
「…許せない…」
「え?」
「彼は…もう戦える体じゃないのよ…。そこまで体を酷使して魔王軍と戦ってくれた彼に何でそんなむごいことができるの…?どうして逃がそうとしてくれなかったの…?国の体面のために私がこの世で一番愛する人を殺そうとした女王を…私は許さない…絶対…!」
「それは違います、そこまでレオナ様を追い詰めたのはヴェル…」
エイミはテーブルを平手で叩いた。人一倍温厚と言っていいエイミの顔に浮かぶ怒りの表情。メルルは思わず息を飲んだ。
「私には国民への点数稼ぎにあの人を殺そうとしたとしか聞こえないわ!いくらでも彼を逃がす方法はあったはずなのに女王はそれをしなかった!しかも…目の前で敵に彼をさらわれる大失態!」
「エイミさん…」
「…怒鳴ったりしてごめんなさい…。でもメルル…貴女ももしポップくんが同じ目に遭ったら国の法を守るためなんて理屈で処刑されることを納得できる?」
メルルは何も言い返せなかった。
「私は女王レオナを…許さない!」
諸悪の根源はヴェルザーである。だがエイミはここまで考えが及ばなかった。夫ヒュンケルをレオナは処刑しようとしたと云う事実。乱入者がいなければ間違いなくヒュンケルは処刑されていたのだから。三賢者を退いたとは云え、エイミにはまだレオナに対する忠誠心に陰りはなかった。だがこの日から、その忠誠心が一転して憎悪と変わった。
「ありがとうメルル…話してくれて…。でも少し疲れたわ。横になる…」
怒りと寂しさが同居した背中を見せ、エイミは去っていった。
話したことは後悔していない。いずれすべて分かることなのであるから。
(ポップくんが同じ目にあったのなら…)
エイミのこの言葉がメルルの耳に重く残った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「う…ここは…?」
ある薄暗い部屋の中、ベッドの上でヒュンケルは目覚めた。
「ようやくお目覚めか。あのオリハルコンの男の当て身はよほど効いたようだな」
「お前は…絞首台の上で会った…」
「悪魔神官のサイヴァだ。よろしく」
「……」
「で、ここはどこか…の答えだが…魔界だ」
「な…」
サイヴァは窓のカーテンを開けた。ヒュンケルは見た。禍々しい稲妻が鳴り響く暗黒の空、荒れ果てた大地、溶岩の川、はるか向こうに見える山は噴火をしている。魔物の気配が異常なほどに漂う森林。ヒュンケルはこんな光景見たことはない。
「魔界だと…!」
「そうだ。そしてここは我が主の居城『冥竜城』。人間の来客は初めてだな」
「なぜ俺を魔界などに…!」
「さあな、そういう命令でな…」
ドアがノックもなしに開いた。
「お目覚めかい、ヒュンケル」
入ってきたのはサリーヌだった。だいたいの男はサリーヌを見ると、あまりの愛らしい容貌に心を奪われるがヒュンケルは顔色ひとつ変えなかった。
ズカズカと歩み寄り、ヒュンケルが横になっているベッドにサリーヌは腰掛けた。
「へえ、よく見りゃいい男じゃないか」
胸元からサリーヌの豊満な胸の谷間が見える。それをわざと見せ付けるが、しかしヒュンケルは何の反応も無かった。
「やせがまんしちゃって…したいくせに…」
挑発的な笑顔を浮かべ、ひわいな手つきでヒュンケルの下半身を撫で回すサリーヌ。サキュバスの彼女らしい冗談めいた誘惑だった。
「なんならさ、たまらなく女が欲しくなる呪文かけたげようか?そのあとお預けするとさ…フフフ…男って、ものすごーくもの欲しそうな顔で私の胸見るのよ。それが哀れで滑稽で笑えるのよ!特にお前のように落ち着き払った男の顔はさ!アーハハハ!」
ヒュンケルの下半身に触れつつ、彼の尊厳を侮辱するような言葉を耳元に浴びせるサリーヌ。無視をしていたヒュンケルだったがついに憤慨した。
「触るな、あばずれ!」
サリーヌの手を叩き飛ばした。
「おお、怖い怖い。これからはお仲間なんだから仲良くしようよ」
「なんだと?」
「とにかく気がついたなら行くよ!私たちの王がアンタを待っているんだから!」
「断る!地上に返してもらおうか!」
「人に頼まずに自分で帰れば?私とサイヴァを倒して、地上への出口が分からないまま、モンスターがウヨウヨいる荒野を駆けてさあ」
「ク…」
サイヴァはヒュンケルの腕を掴んで立たせた。
「あまり手荒にしないでよサイヴァ、その坊や。私の『美味しそうリスト』に入れたから。ハハハ!」
ヒュンケルは無念に思いながらも、サリーヌとサイヴァに引かれるまま歩いた。大きい城だった。造りも優美と言っていい。
この広い城を五分ほど歩くと、ようやく目的の部屋にたどり着いた。黒曜石で作られた荘厳な扉、サリーヌがその扉を開いた。間違いなくもこの城の主がいるところである。
部屋は巨大なホール、そして一番奥に玉座がある。そしておそらくは城の主の側近たちと思えるものが二人並んでいる。扉を開けて、サリーヌはひざまずき、主に報告した。
「ヴェルザー様」
ヒュンケルはその名に驚愕した。
「ヴェルザーだと!」
「静かにしろ」
サイヴァが掴んでいた腕を強く握った。
「ご命令の通り、アバンの使徒が長兄、戦士ヒュンケルを連れてまいりました」
威圧に満ち、そして神々しささえ伺える声が玉座から響いた。
「ご苦労…」
ついにヴェルザー登場ですね。