ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第十九話 天の瞳

まるで雲にも頂が届くのではないかと思える黒金の城。旧魔王軍の居城であった鬼岩城が人の形をしていないだけと思えるほどの巨大な城。それが突如ベンガーナ沖に姿を現した。フローラ、アキーム、ポップは呆然としてその城を見た。その城の影でベンガーナ王都の城下町はすっぽりと覆われてしまう。

「海上要塞…」

フローラが言った。以降、ヴェルザーの城は人類側からこう呼ばれることになる。

「まさか…あれがヴェルザーの居城?」

城下町はすでにパニックであった。浮上に伴う地震と津波。そして異様な巨大の城。逃げ惑う人々で城下は騒乱状態であった。

 

そしてそれはベンガーナの城中も同じであった。

「なんじゃ、あれは!アキームを呼べ!」

クルテマッカ七世は狼狽していた。

「将軍はフローラ様とポップ殿を見送りに出たまま戻ってきておりません!」

臣下の報告に王は玉座を力任せに蹴った。

「なんじゃと!ええい!アキームめ、カールに寝返ったか!」

臣下たちは的外れな怒りに戸惑った。

「陛下!将軍のことよりも今はあの謎の城のことを!」

「分かっておるわ!ええい!アキームを呼べ!」

 

まだ数秒しか経っていないのに、もうアキームが城にいないことを忘れて彼を呼んでいる。病の後遺症で仕方が無いとはいえ、状況は切迫している。とても陣頭指揮を取れる状態ではない。

また国王の側近はいずれもクルテマッカにゴマをするのに長けた無能者ばかりだった。国を思い毅然と諫言も国王に言うアキームなど最近ではクルテマッカから遠ざけられていた。アキームは国王を見捨てずに王宮に残ってはいたが、他の家臣たちは暴君と変貌してしまったクルテマッカを見限り王宮を去ってしまったのである。結果、べんちゃら大臣だけが残った。

「と、とにかくあの城にいる者が敵と決まったわけでもなかろう?」

「うむ、まずは使者を送って用向きを聞いて」

「しかし、アキームめ。こんな時におらぬとは頼りにならぬ将軍だ。これでヤツを罷免する理由ができた!」

 

楽天的な、そしてこの期に及んでも人の足を引っ張ろうとする小人たちの意見が玉座の間に飛び交った。いつになっても兵の出撃が命令されない。

「そうか!フローラめ、余がサミットの出席を拒否したために逆襲に転じよったな!ふざけおって!捕まえて手篭めにしてやる!フローラを捕らえよ!」

王は頼りにならない。臣下たちは自分たちで善後策を練ろうとするも、戦いを知らない文官たちではどうしようもない。何より彼らには国防より自分の保身と派閥レベルの考えしかできない。

 

「なにをしておるか!あのデカい城はカールの出城に相違ないわ!すぐに大砲の用意と騎士団を出撃させよ!絶対にフローラを捕らえるのだ!」

狂ったように叫ぶクルテマッカ七世。支離滅裂な言動に、もう誰も答えようとしない。今は王の機嫌よりも自分の命の方が大事である。筆頭大臣が部下に尋ねた。

「姫様はどうした?」

「確か、今頃の時間は離宮でお昼寝のはずですが…」

「そうか、ならばそのまま寝ていていただこう。あの城は、まず敵襲と思って良いだろう。今のベンガーナでは防げん。我らは逃げよう」

「ならば…」

「ふむ、宝物庫に行き、持てるだけの宝をここにいるものたちだけで山分けだ。あの頭のイカれた国王の機嫌を取ってきたのだ。当然の取り分だ。姫がここに来る前に去るぞ」

コソコソと話をしている臣下にクルテマッカは業を煮やした。

「何をしている!フローラを捕らえてこんか!ベッドの上でじっくりと余が取り調べてやるわ!」

「わかりました!至急フローラ嬢を捕らえ、陛下に献上いたします!」

「よしよし!行って来い!」

 

玉座の間から王以外はすべて出て行った。臣下たちは吹きだすのをこらえ、玉座の間を後にした。

「宝物庫には『キメラのつばさ』もあったな。それでロモスあたりに高飛びとするか!」

とうとう笑いをこらえきれずに、臣下たちは爆笑しながら宝物庫へと走っていった。

 

フローラが見て、思わず口走った『海上要塞』。

完全に浮上を終えて、巨大な姿をベンガーナに見せ付けていた。なんの攻撃もしてはこない。

不気味な静けさだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

地上の様子をはるかな世界で見つめる三つの姿があった。三人は目をつぶり、遠くの情景をそのまま頭に描き、まるで目の前で起こっているように理解できる能力の持ち主であった。

まさに天の瞳から地上の出来事を眺めている。

 

雲の上に立つ天空の城、海上要塞は外観すべて黒一色であるが、この天空城は白銀の光を放つ優美なものであった。

その最上階のテラスでテーブルを囲む三人の姿。それはバーンと似た容貌を持つ者、竜の角を生やし、眼球も赤い。竜族が人間に変化した時の特有な姿をしている者。そして威厳と貫禄にあふれ、水色の法衣をまとい、白いひげも美々しく、万物を知りえた賢者を思わせる老人。そして髯をなでつつ、彼は言った。

「神竜殿…とうとう冥竜王ヴェルザーが動きましたな…」

「そうですね…。さて、地上は貴方の愛する人間たちはどう動くか…」

「さあ…それは結果を見てみないことには…そうですな?ルシファー殿」

「全くです。まさかバーンが倒されるとは思ってもいませんでしたからな。我々の作り出したジョーカーカードの進化たるや驚かされました。フッハハハハ…」

 

眼下に見える地上を見つめる三人。老人の名はゼニス、ふと雲間から見える大地を見つめ言った。

「竜と魔の戦いには魔が勝ち…魔と人の戦いに人が勝った。今回は竜と人…はてさてどうなることやら」

「ヴェルザーの部下には魔も少しいるようですが…どうやら面白い駒と見える。どんな行動を起こすのか楽しみですな…」

そう言いながら、ゼニスに神竜と呼ばれた竜族の男はテーブルの上にあるチェス盤面の駒を一マス進めた。

「やれやれ、やっと駒を動かしましたか。待ちくたびれましたぞ神竜殿」

バーンと容貌が似ており、ゼニスにルシファーと呼ばれた魔族の男は苦笑を浮かべた。そして彼も駒を進める。

「チェックメイト」

「ううむ…。相変わらずルシファー殿はお強いですな」

「これで私の24万5841勝10万8947敗ですかな?」

「いえいえ、24万5839勝ですよ。再挑戦よいですかな?」

「どうぞ」

異様な光景である。外観はほとんどバーンとヴェルザーと変わらない二人が仲良くチェスに興じているのである。ゼニスはそれを眺めていることが好きらしい。

天空城、ここに竜、魔、人の姿をしたものが眼下の情景に興味を持ちながら微笑を浮かべ見つめている。彼らは一体どこの何者なのであろうか。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

浮上した海上要塞、それは広大な島に作られた黒金の巨大な城である。城壁は高く、城門の扉さえベンガーナのデパートと同程度の高さである。正式名称は『冥竜城』。冥竜王ヴェルザーの居城である。

城壁の東西南北には塔があり、その東塔の屋上に一組の主従がいた。サリーヌとサイヴァである。

サリーヌはそこから城の中心を見つめている。ヒュンケルの姿となったヴェルザーが座る玉座の間である。

「ふん…まさかヒュンケルの体を乗っ取るためとはね。竜族とはいえ己の体の老化は嫌と見える。年老いた竜は空さえ飛べない…。飛べない竜などトカゲと同じだものね…フフフ」

「此度のヒュンケルとヒムの招致における作戦、サリーヌ様が勲功第一と伺いました。後日にヴェルザー様から褒美も賜れると聞いています。これで一層、冥竜軍の中での地位も磐石と相成りましょう」

「勲功第一か…。それもいいが、私自慢の魔道士兵たちを糞趣味の悪い不死騎団に化けさせてまで、パプニカみたいなチンケな国に攻め込んだんだ。褒美も半端なものじゃ納得しないよ。フフフ…」

「地上の一つの大陸くらいですか?」

「いいや、全てさ」

サリーヌはバーンがやったように、太陽に手をかざし、そしてそれを握った。強欲、かつ残酷な笑みを浮かべていた。

「私はあのヴェルザーの側近ごときで満足しないよ。女は欲張りなんだ。そのためなら何でもするさ。何のために私の腹の中にお宝を仕込んだと思っているんだい?」

「魔族による覇のための布石のお宝…。それはいつ開花されると?」

「もう少し時が必要だね」

自分の下腹部を撫でるサリーヌ。

「だから今は、ヴェルザーの配下として働くしかないね」

「『急いては事を仕損じる』人間のことわざでしたな。クッククク…」

 

海上要塞の浮上に伴い、津波が二波三波と次々とベンガーナを襲う。海上要塞そのものは何の攻撃もしていないが、その被害の甚大さたるや正視できないものであった。あるものは海に飲み込まれ、津波から逃げ惑うパニックの中で将棋倒しとなり圧死するものと凄惨極まりないベンガーナ城下町の光景であった。

「ポップ殿!後生です。私を城まで連れて飛んでくださいませんか!」

「分かりました!フローラ様もつかまって!」

ポップはトベルーラでフローラとアキームを連れてベンガーナ城に向かおうとしていた、その時であった。

 

黒金の城、冥竜城の天守閣に漆黒の竜の旗が、何本も一斉に掲げられた。

「おや、合図だ。サイヴァ、やれ!」

「御意」

サイヴァは魔法力を右手に集中させた。紅蓮の炎がサイヴァの手の上で踊る。

「メラゾーマ!」

 

はるか上空から、巨大な火球が降ってきた。ポップはそれを

「カッ、カイザーフェニックス…!?」

フェニックスの姿こそしていないが、威力は拮抗すると分かったポップ。

海上要塞から放たれたメラゾーマの業火、それにより生じた膨張した空気が爆風となって三人を襲う。

トベルーラで浮きかけていた三人は吹っ飛んだ。そして業火の炎は城下町を直撃した。すさまじい炎と爆風がベンガーナを襲った。爆煙はキノコ雲となって行く。

 

アキームはヘナヘナと座り込んだ。

「あ、あそこには二千人近い国民が住む住居区が!」

「ちっくしょう!」

メラゾーマの放たれた方向を睨むポップ。そしてトベルーラを唱え上空へと舞った。

「ポップ!一人では危険だわ!」

フローラの叫びも届かない。自分とダイが命を賭して構築した今の平和な世。それを踏みにじろうとしているものが現れたのである。

頭に血が上がる。バーンを倒してから商人として頭角を現し、それに伴い身に付けていった教養すべてが吹き飛んでしまった。ベンガーナを破壊したことも許せなかったが、何より自分とダイが必死になって掴み取った平和な地上を蹂躙したことそのものがポップには許せなかった。

 

トベルーラでポップの体がグングンと上空に上がる。そして冥竜城の東に位置する塔の上、そこに不敵に立つ、二つの人影を見た。

「あの女!」

空を飛んできて、自分たちの前に現れた人間をサリーヌとサイヴァも見た。

「おや?あの坊や、ベンガーナに来ていたのかい」

「なるほど…相変わらず大した魔法力…」

はるか上空、強風も逆巻く冥竜城の東塔の上、そこでポップは再びサリーヌと対峙した。しかしポップは一人、サリーヌには強力な悪魔神官が共にいる。

サリーヌは腕を組んだまま、そのままポップを見ている。サイヴァが主君を守るように前に出てきた。

「懐かしいかい、サイヴァ?」

「そうですね、彼とはカール北部山脈での戦い以来ですから。元気そうで何より。再会できて嬉しいですよ」

サイヴァは指先に魔法力を集中する。

「だが彼は私を知りますまい。あの当時は雑兵でしたからね…だが…」

最初は小さかった指先の炎が紅蓮の炎が逆巻き、火球となった。そしてサイヴァは仮面とマントを脱ぎ捨てた。整いすぎた顔立ちがいっそう残酷さを描写する。

「死ぬまでの間、覚えていてもらいましょう!我が名は悪魔神官サイヴァ!」

サイヴァの左手から火球が炸裂した!空中でポップも呪文を唱えた。

「メラゾーマ!」

 

二つの火球が空中で激突する。呪文の威力は拮抗していて互いの火球は激突してから寸分も動かない。

サリーヌはそれを感心して見つめた。

「なるほど、やるもんだ。パプニカにて私に冷や汗をかかせたのはまぐれじゃなかったわけか」

「確かに。メラミでは失礼だったようですね…」

サイヴァはメラミを放ちながら、その呪文のレベルを上げた。さきほどにベンガーナを襲ったメラゾーマがそのままポップめがけて放たれた。

「これならどうですか!大魔道士!」

「…!」

拮抗が崩れた。サイヴァの炎にポップのメラゾーマはどんどん押されだした。このままでは自分のメラゾーマと合わせて自分に激突する。

「クソ…!」

(まずい…予想以上に俺の魔法力はナマッちまっている!)

「クッハハハハ!どうしたのですか!そのままでは骨さえ残らずに黒焦げですよ!」

「馬鹿笑いしやがって!」

「フフフ…。年月とはむごいものですね、あの戦いで初めて貴方を見た時、本当に人間なのかと思うほどの魔法使いでしたが、今では私の方が上です」

「やかましい!てめえのような顔だけが良いような野郎に負けてたまるか!」

「フ…顔だけが…ですか。旧主にもさんざん言われましたよ…!」

サイヴァはさらに魔法力を上げていった。

「グ…!くそったれ!」

「寂しくはありませんよ、ポップ殿。すぐに貴方の愛妻もあの世に送ってあげます。私に夢中になった、その後にね!」

メラゾーマの打ち合いはサイヴァに軍配があがった。二つのメラゾーマがポップを直撃、巨大な業火がポップを襲った。

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