ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第二十二話 バーンの置き土産

さんざんに罵詈雑言を並び立て、キャサリンはテントを出て行った。いや連れ出された。テントの外からはまだアキームやアバンを罵る大声が聞こえる。彼女は味方となりえたであろうアバン陣営からも無視される結果となり、頭に血が上り、思いつくままの罵りの叫びをあげている。

 

「かわいそうに…」

フローラはキャサリンの出て行ったテントの出入り口を見つめて言った。

「フローラ…」

「あなた…私には分かるわ…。国を滅ぼされた者の悔しさが…」

「…ああ」

「バランにカールを滅ぼされた時、私もずいぶん回りに八つ当たりしたものよ」

「意外ですね」

アキームの言葉にフローラは笑った。

「そう?でも世間が思うほど、私はおしとやかではないし辛抱強いわけじゃない。人間だものね。悔しくて泣きたい時もあるし…きっとパプニカを滅ぼされた時のレオナ姫も同じだったと思うわ」

「そこから立ち上がるか、潰されてしまうか、が問題ですね…」

と、マァム。

「姫様にその気概があれば良いのですが…」

そうアキームが言うと、ポップは笑い出した。

「何がおかしいのですか!」

「お姫様などあてになるか」

「な、我が王女を愚弄するか!」

ポップはアキームを指して言った。

「あのお嬢ちゃんだから言っているのじゃない。たとえどんな名君の資質を持ったお姫様でも俺は同じことを言っただろう」

「……?」

「アンタだよ!アンタが何をするかだ!」

「わ、私が?」

自分より年少であるポップの言葉に思わずアキームは気圧された。そして何も言い返せなかった。アバンとアポロもポップの言葉に微笑んだ。

「そうですね、アキーム殿。ポップの言うとおりです。ベンガーナの復興については我々も助力させていただきます。しかしベンガーナの復興もさりながら、まずは間近で起きている火事であるヴェルザーの侵攻です。それに対して我らは自分で何をするか、それを今、決めなくてはなりません。万事はそれから。そうですね?ポップ」

「そうですね。俺もアキーム殿に大きなこと言ったんだ。自分に出来る仕事はするつもりです。さあ妃殿下、会議を続けましょう。まずはサミットの開催でしたね」

「はい、まずはオーザム、リンガイア、そしてロモスの王に出席を促します。ロモス王が先日に私に言ったことは理解出来なくもも無いですが事態はそれどころではありません。一刻も早く世界が打倒ヴェルザーに一つにならねばならぬ時。よって私は再びロモスに。そしてマァムとノヴァはオーザムとリンガイアに使者として赴いて下さい。公式文書は明日渡します」

 

「あの…」

「なにかしら、ノヴァ」

「リンガイアは私の母国ですので問題ないですが、オーザムは…」

「オーザムは?」

ノヴァはマァムをチラリと見て、一つ咳払いをした。

「何よ、ノヴァ」

「いや…オーザムのライド陛下はベンガーナ劇場の看板女優マァムの大ファンで、マァムが使者だと何かと…」

「初耳よ、そんなの…。でも一国の王がファンだったなんて光栄ね」

「いや、実際に会っているよ。ほら、カーテンコールのたびに鼻の下を伸ばしてマァムに花束を渡していたチョビ髭の…」

「ああ、あの人!」

その場面を見ているということは、ノヴァもマァムの舞台に通っていたということになる。レオナに想いを寄せていると言っていたくせに、一方では女優マァムの隠れファンでもあるのだなとポップは思って苦笑した。

「マァムの舞台があると政務をほっぽり出してベンガーナの劇場に行っていたらしいぞ。もし使者で自分の前になど現れたらサミット参加どころじゃないと…」

 

フローラはその様子を想像したか、思わず吹き出してしまった。

「それならば、オーザムのサミットの参加は決まったようなものね。いいじゃない、きっとマァムを守るため頑張ってくれるはずよ。マァム、使者をお願いね」

「承知しました」

「あとポップ、貴方はテランに赴き、フォルケン老を召しだしてほしいのです」

「妃殿下、テランは…」

「分かっています。これをフォルケン老に渡してください。お招きする意図を老公ならご理解してくれるはずです」

アバンの書状をポップに渡した。

「分かりました。必ず老公をお連れします」

「さて、次の議題ですが…」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

キャサリンは自分のテントに戻り、ベッドと枕を蹴って鬱憤を晴らしていた。

「馬鹿にしおって、今に見とれ!」

「今まで周りが貴女に平伏したのも、ベンガーナと言う国があったればこそ。今の貴女は何も持たない、ただのワガママな小娘に過ぎません」

さっき自分を取り押さえ、このテントまで無理やりに連れてきた兵士の一人が言った。

「なんじゃと!」

共にキャサリンをここまで連れてきた兵士二人がその兵士の肩を抑えた。

「言いすぎだぞ!」

肩を掴まれた兵士の瞳がキラリと光った。そして次の瞬間に二人の兵士は蒸気と化した。叫ぶ間もなかった。そして兵士の姿から仮面の魔道士へと変わった。

「な…!」

「お初に御意をえる、私は冥竜王ヴェルザー様に仕えし、悪魔神官サイヴァ」

「魔族!」

「いかにも」

「わ、わらわを殺す気か!」

「いや…一つお聞きしたい」

「な、なんじゃ」

 

「黒のコアはどこにあるのですか?」

 

「……!!」

顔面蒼白となったキャサリンにサイヴァ

「ちょうどいい機会です。お話しましょう。どうして我が軍がベンガーナを一番先に滅ぼしたか…」

 

黒のコア、言わずと知れた魔界最強最悪の爆弾である。ヴェルザー自身がバランを倒すために使用したが、あまりの破壊力のために自ら使うことを禁じたほどである。あのハドラーの体内に組み込まれ、世界に落とした六本の巨柱ピラァ・オブ・バーンの最上部に設置された爆弾兵器である。

大戦後に六つの黒のコアはアバン、マトリフ、ポップの手により極寒の永久氷壁に封印されている。マトリフ亡き今、場所はアバンとポップしか場所を知らない。彼らはこの封印に伴うことは自らに固く秘密とし、この場所を記した書も残さず、愛妻にも伝えていない。邪心を持った者が使うことを危惧してのことである。

 

「バーンが死んで数年、アバンとポップが邪心を持った者が使うことを危惧して絶対の秘密とした『黒のコア』の場所。そこを秘密裡、かつ地道に調査して、ついに場所を突き止めた者がいる。それが貴女のお父上、クルテマッカ七世です」

「そんなこと、わらわは知らぬ!」

「貴女の父上は、北西の隣国カール王国に脅威を感じていた。あまりにも国王アバンが英邁な君主であり、またアバンがその気になれば、ベンガーナの騎士団など彼一人に撃破されるからです。狭量な君主の陥る病、一種の強迫観念と被害妄想、そして疑心暗鬼。その結果、貴女の父上は『黒のコア』を見つけて、それをカールに落としてやろうと思っていたのです」

「嘘じゃ、そんなこと、わらわは知らぬ!」

「確かに前大戦において、貴女の父上は勇者ダイの武勇を認め、そして後方支援においては人材物資共に協力も惜しまなかった。これだけでも名君の資質はありました。しかし平和になり、隣の国に名君がいるとなった途端に疑心暗鬼の虜となってしまった。典型的な狭量君主ですね。まあ、貴女のお父上の名誉のために、それらは頭の病の後遺症として、と一応受け取りますがね…クックククク…」

 

確かにキャサリンの父親、クルテマッカ七世は近年様子がおかしかった。国の足元はなんら揺れていないのに、妙に他国の侵略を危惧し、やがて家来が自分にとって変わるのではないかと言う根拠のないものに怯えもしていた。

クルテマッカ七世はバーンとの大戦後、しばらくして頭の病を患った。頭痛と耳鳴りに悩まされていたと言う。

彼の様子が変わったのも、この病気の快癒後であることから後の歴史家はこの病により、ベンガーナ国王は変わったと位置付けている。

他の者は何とも思っていなかった、ソアラ・カンパニーのベンガーナ王都色町での豪遊にしても、クルテマッカ七世は激怒したと言う。ポップを国の御用商人から解くとも言ったがソアラ・カンパニーとの商線が切れることを危惧したベンガーナの商務大臣が国の認める歓楽街で、かつ相方を務めたのは成人に達している女性たちであるから誰も文句を言うようなことではないと諫言しても無駄だったと云う。

しかし、翌朝には手のひらを返して許し、その夜にはまた激怒したと云うから、彼の頭の病気は深刻な状態であったのかもしれない。

隣国カール王国には傑出した君主がおり、その家臣たちも優れた者が多く、何より国民が王を慕う、その人徳は人類史においても飛び抜けていた。だから彼は怯えたのである。いつアバンが全軍を率いてベンガーナに侵攻をするのではないかと。

無論アバンはそんなことを考えたこともない。それどころか超竜軍団に滅ぼされたカールの人々を救い、妻フローラを厚遇してくれた恩は忘れておらず、感謝の気持ちはあっても攻める気などは毛頭ないい。

だがクルテマッカにはそれが分からなかった。

大勇者と呼ばれる国王アバン、希望の女神と称される王妃フローラ、その両翼を担う家臣団と騎士団。どの要素を見てもベンガーナはカールに勝てるものがなく、攻められたらアッと言う間に滅ぼされてしまう。

思い余った彼は禁断の果実に手を伸ばした。それが黒のコアである。それさえ使えばカールは滅ぼせる。彼はそう思ったのである。本当に使えばカールはおろか、地上全てが終わりであったのに。彼の病の後遺症は運命が間違えば、人類滅亡の引金にもなったのである。

 

そんな彼の心の拠り所は娘のキャサリンだった。だから彼は言ったのだ。普通は娘に聞かせるようなことではない。だが彼は言ってしまった。

 

「とぼけても無駄です。貴女は知っているはずなのです、キャサリン嬢。そしてヴェルザー様はベンガーナが『黒のコア』を見つけて使うことを考えているのを知っていました。お分かりですか?人間に先走られ我らの楽園となりうる地上の大地を吹っ飛ばしてしまったら元も子もありませんので」

「で、では…それゆえにベンガーナを滅ぼしたと言うのか!」

「その通りです、キャサリン嬢。そして城を落とす際も貴女だけは殺さずに置いておきました。そして近衛兵に化けた私が、さも後日に見つけたようにお救いしたわけにございます。クッククククク…」

「ふ、ふざけるなあ!」

思わず怒りのあまり、サイヴァに殴りかかるキャサリン。サイヴァの仮面にキャサリンの拳が叩き込まれる。サイヴァは避けもしなかった。そしてサイヴァの仮面が取れる。

「……!」

あまりの端正な顔立ちにキャサリンは動きが止まった。キャサリンの顔は瞬時に紅潮した。そしてサイヴァはキャサリンのあご先をつまみ、顔をキャサリンに近づけた。

「貴女をないがしろにした、アバンとその一行…鼻をあかしてやりたいと思いませんか?『黒のコア』さえあれば、アバンたち、そしてヴェルザーの首さえ取ること容易でございますよ…」

「そ、そなたはヴェルザーの配下ではないのか?」

「今は『利』によって従っているだけでございます。貴女も『利』により私と手を組むと良いでしょう。アバン一行とヴェルザーに先ほどの屈辱を果たさんために…」

サイヴァはそのままキャサリンに口づけをし、そのまま彼女をベッドに押し倒した。キャサリンは抵抗しなかった。

サイヴァは容姿の美しさのみならず、房中術も超一流であり快楽が増幅する魔法も心得ていた。味わったこともない極上の快楽にキャサリンは溺れていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日、使者となった者はアバンとフローラのサインが記された公式な書簡を持ち各国へ出かけていった。

マァムとノヴァはまずリンガイアへと行った。ノヴァのルーラですぐに行けるからである。同国の騎士の職責を辞したとはいえ、ノヴァは前大戦において『北の勇者』と呼ばれるほど活躍をした戦士であり、将軍であるバウスンの息子である。国王への謁見は容易であった。

 

「久しぶりだな、ノヴァ。元気そうで何よりだ」

リンガイア国王ギリアムはノヴァと年齢が同じである。バラン侵攻の際、先王は戦死、王子ギリアムは勇敢に戦ったものの力及ばず重傷を負った。しかし辛うじて生き残り、大戦後に改めて即位したのであった。

ノヴァとは主従を越えた友である。だがギリアムの負った傷は重く、現在彼は歩行ができない。ロモス大学の工学教授バダックの作った車椅子、それが彼の玉座であった。その横にはノヴァの父、リンガイア王国将軍バウスンが立っている。

「もう一端の剣くらい打てるようになったのか?」

「いや、まだまだでございます」

ノヴァは思わず赤面した。大戦前は『俺、お前』の間柄だったのに自然に敬語を使ってしまった。知らない間に友は国王としての風格をつけていた。

「それからマァム殿、数年前我が家臣が無理を言ったこと。改めてお詫び申し上げる」

ギリアムが国王に即位の際、一国の王が独身では格好がつかないと家臣たちが考え、アバンの使徒で、かつ美人の誉れ高いマァムを候補にあげた。使者がマァムの元に訪れたが丁重に辞退されてしまった。後にギリアムがこれを知り、マァムに詫びの手紙を送ったことは、後に残るマァムの伝記に少しのロマンスを添えている。

「そのお話は以前にいただいたお手紙で済んでございます。お気になさらないで下さい」

ニコリと笑ってマァムは答えた。また、それが縁だったか、ギリアムもまたベンガーナ王立劇場看板女優マァムのファンであり、オーザム国王ほどではなかったが、政務の合間にも時間を作り、不自由な体でマァムの舞台を観に行っていた。

 

マァムがフローラから預かったリンガイアへの親書をノヴァが持ち、主君ギリアムに恭しく渡した。ギリアムは一通り読み終えると言った。

「分かった。ベンガーナのことは聞いている。アバン殿が言われるように今は世界が一つにならねばならぬ時、喜んで出席させていただこう。リンガイアからは余とバウスン将軍が出席する」

「分かりました。アバン公にそう報告いたします」

よき返事に満足するノヴァだった。ギリアムは親書を折りたたみ、隣に立つバウスンに渡した。

「バウスン、財務長官に国防に関して、いかほどの費用を捻出できるか、至急算出させて報告せよと伝えよ。そして卿はいつでも騎士団を出陣できるように陣容を整えておけ。リンガイアは世界連合軍の旗の元に参じる」

「承知しました」

「士気を上げるため、余も陣頭に立つ。だが戦闘状態に入った場合の作戦、指揮系統はすべて卿に任せるゆえ、卿もそのつもりで頼む」

「御意」

バウスンは右手を胸に置き、息子ノヴァと同年の主君に頭を下げた。リンガイア式の敬礼である。そしてギリアムはマァムに微笑んで語った。

「マァム殿、先日の公演、中止になり残念です。私は二日目のチケットを購入していたのですよ」

「はい、私も稽古を積んだ舞台でしたので無念に思います」

「チケット、無駄にならぬよう再び平和を取り戻さなくてはなりませんね。リンガイアも及ばずながら力を尽くしますぞ」

「ありがとうございます」

 

ギリアムは傍らのバウスンに支えられながら立ち上がった。

「ノヴァ、マァム殿やレオナ殿をしっかり守ってくれ。頼んだぞ」

「御意」

ノヴァがマァムと共に玉座の間から立ち去ろうとした時、父バウスンが声をかけた。

「ノヴァ」

「なんですか」

「その…なんだ…」

「…?」

「気をつけてな」

ニコリとノヴァは笑った。

「はい、父さん」

 

ノヴァとマァムが出て行った。

「もっと話せば良いではないか。バーンとの戦い以降から一度も会っていなかったのだろう?」

「いえ、私は将軍として職務中です。息子もアバン殿の使者として来たのですから、そうもいきません。息子はロン殿に託しましたゆえ」

ギリアムは苦笑した。

「親子そろって堅物だな」

 

ポップは妻メルルの故郷テランに使者として来ていた。しかしテランはすでに国として成り立ってはいない。フォルケンには世継ぎがいなかったのである。あまり自分の命が長くないことを悟っていたフォルケンはテランの人々の信仰する竜神に自ら王位を返上した。ポップとメルルが結婚して翌年のことである。

財産もなかったテラン王室ゆえに、国から町への変換はさしたる支障もなく行われた。今はテランの町として自治され、テラン城は町の役場となっていた。

フォルケンは町外れの小さな家に隠居し、町の後見人として生活をしていた。テランの町長になったのは町民の入り札により選ばれた元テラン王国の自警団長だった。

 

無論、テランが王国から町となったことはアバンも知っている。そして世帯五十しか存在しないテランに出兵も出資を要請する気もない。元国王フォルケンの知識を借りたいのだ。智者は智者を知るとおり、向かい合って話すことによって、より良い作戦が出るかもしれない。

またヴェルザーに対しての情報はほとんどない。サリーヌ、サイヴァ、そして赤い鎧の男以外にどんな者が幹部にいるのか、海上要塞の武力はどの程度なのか、あまりにも情報が無かった。海上要塞の破壊力はポップ、フローラ、アキームも見ているが、分かったことと言えば、どんなモンスターが突出してきたかと、大砲の有無とその大まかな数、そして『海上要塞はバーンパレスと同様に移動する』という点だけである。

『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』と言うが、ヴェルザーの現在の情報を集めるのには不可能に近い。海に浮かび場所が特定できないヴェルザーの本拠地。たとえアバンの元に情報収集に長けた者たちがいてもどうしようもない。

だからアバンはバーンと再度戦うと言う想定を立てて、作戦を考えた。場所は海、そして巨大な要塞を擁している前提の下で立案していた。だがやはり一人で考えるには相手は強大すぎる。知恵者が欲しかった。

テランという国の背景はなく、フォルケンはアバンの相談役として個人の資格でカール陣への参加を要請されたのである。

 

ポップはアバンの手紙を携え、フォルケンの住む家へと向かった。その日、フォルケンは庭いじりに興じていた。王の衣を着ていた当時の威厳はないが、まるで静かにたたずむ大木のような雰囲気を元国王は出していた。

「お久しぶりです。フォルケン老」

「ポップ殿か。久しぶりじゃな」

庭の椅子に腰掛けることを促すフォルケン。そして彼の出す茶をポップはすすった。

「ゲホッ、苦いですね、これ」

「ははは、歳を取ると、その苦味がまたたまらないのじゃよ。で、何か用かな?」

「はい、これを師から預かり、使者として参りました」

アバンからの書状をフォルケンに差し出した。フォルケンは文面が分かるかのように書状を静かに受け取った。

「俗世のことには背を向けるつもりであったが…」

「恐れながらテランは世界で唯一、竜神を信仰している国でもありました。此度の敵は、その魔の竜神です。フォルケン老ならば、竜神に関する何かをご存知かもと師も言っておりました。お力添えを願えませんか?」

「だが、儂はすでに七十を越した老体。アバン殿やポップ殿のお役には立ちますまい」

断るフォルケンにポップは言った。

「いえ、そうではありません。老人には皺と皺の間に経験と知識という大切な宝物が潜んでいます。どうか、その宝物を、師アバンや私のような後に続く世代に役立てていただきたいのです」

フォルケンは驚いたような顔でポップを見た。そしてニコリと笑った。

「なるほど、ポップ殿が商人として成功したのが分かった気がするのう。大した人たらしじゃ」

「それでは…!」

「分かりました。及ばずながらアバン殿のお力添えをいたしましょう。余にとり…いや儂に取り最後の仕事となろうヴェルザーとの戦い。全力を尽くします」

「フォルケン老!」

「少し待っていて下さるか、荷物をまとめる。妻の位牌も持っていかんと」

 

そしてオーザムとロモスもサミットの参加を表明。ベンガーナをわずか一日で壊滅させたヴェルザーの力のすさまじさがロモス国王レンドルの重い腰を上げ、オーザム国王ライドはマァムの言うことなら何でも聞くのではないかと思うくらい、すぐに参加を決めた。

勇者アバンの冒険記で共演をしていたグレンも同国騎士団の小隊長に就任していた。小隊長とはいえオーザムの騎士の中で最強の剣士は彼である。ライドはグレンに随伴を命じ、後日のカール行きを約束した。

 

吉日が選ばれ、サミットは開催される。各国王は船でカールに向かっていた。バーンとの大戦から数年、初めて世界の指導者たちが顔を合わせるのである。開催の趣旨は、巨悪との戦いへの備えである。

平和目的や各国共存について、このサミットが今まで催せなかったことは、カールを含め一様に自国だけで手一杯だったのであろう。現実に言えばバーン侵攻による傷跡が癒えないままに、世界はヴェルザーと言う脅威に立ち向かわなければならない。

今回はバーンの時のように勇者ダイはいない。戦力は当時と違い格段に落ちている。そのうえでバーンと同等の力を持つヴェルザーと戦わなければならない。

アバンはサミット開催日の朝、いつもより早く目覚めた。隣で眠るフローラを気遣い静かにベッドから出て、水平線の向こうから昇る朝日を見た。

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