ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第二十三話 サミット開始

ソアラの港は軍船が並び、各軍船に大砲が搭載、いつでも出港可能である。

サミットは明後日に開催される。ポップはベンガーナの野営地から戻り、ソアラ・カンパニーの商用による出港を一旦停止することを命じた。そして今まで一度も発したことのない全社員集合を呼びかけた。社員たちは戦いが近いことを察しながら集合場所である港へと集まった。幹部や一船員、荷物運び、事務職にある者、全てである。カンパニーの老若男女全員が港に集まった。

社員の整列が終わると、ポップは用意された台座へ立ち、言った。

 

「みんな、楽に聞いてくれ」

戦いの緊張で凝り固まっていた社員の肩から力が抜けた。

「これから、ソアラ・カンパニーの軍船はカール国王アバン陛下の采配に従う。サミットの内容は言うまでもなく各国首脳同士の話し合いだが、結論はどうあれ軍事行動に移ることになるだろう。しかし、これは俺や幹部たちと決めたことで、船員や職人、商人、港員、事務のみんなと何の相談もしていないし、実戦経験のない者もいっぱいいる。また実戦経験があったとしても、大魔王バーンとの戦いから数年、俺を含め、当時と同様な戦いは出来ないだろうし、大事な人、妻や夫、子供が出来て先の大戦のような腹を括れないのも事実だろう。だから、明日、同時刻この場所に再び全社員集合をかける。そしてすぐにカールに出港する。自分はヴェルザーとの戦いに役に立てる思う者だけ来てくれ。酷な言い方だが、そうでない者は連れて行っても足手まといになるだけだ」

社員にどよめきがおきる。それは明日に来なければ社長の印象が悪くなり、カンパニーに居場所がなくなるのではないか、と言う危惧だった。

「だが、みんな心配するな」

ニコリとポップは笑った。

「ヴェルザーとの戦いに加わらなかった者を戦いの終結後に不当に遇することは絶対にしない。俺は魔法使いのくせして無宗教だから神に誓うことはできないけれど…」

ポップは右の人差し指を海に指した。

「この海と!妻メルルと!娘ダイアと!そして親友勇者ダイと守ったこの大地!それに俺は誓う。繰り返す、役に立てる思う者だけ、明日にこの場所に来てくれ、以上!解散!」

神妙な顔をして社員たちは港を後にした。

 

社屋に戻ったポップにバロンが詰め寄った。玄関に入るなりポップを呼び止めた。

「なぜあのようなことを!船員がいなければ船は動かないのですよ!せっかくの軍船が絵に描いた餅となってしまうではないですか!」

「その時はその時で考える。戦う気のない者、戦えない者を連れて行く気は俺にはない」

「しかし…!」

心の中ではポップの言葉は間違ってはいないと思うバロン。だが現実に船が動かなければ戦いにならない。

「君も来る来ないは自由だ」

「私では足手まといになるとお思いか!」

「……」

「どうして他の者にも一緒に来てほしいのに、素直に来いと言わないのですか!みなせっかく覚悟していたものを!」

「ほう、どういう覚悟を?」

「ソアラの商船を軍船に造り変えろと言う指示があった時から私を含めて、みな覚悟しておりました。この地上をヴェルザーの手から救うため。いえ地上すべてをベンガーナと同様に破壊しつくさんとするヴェルザーの手から家族を守るために!それこそみんな死を覚悟して!」

「そんな覚悟は必要ない。第一俺自身生きて帰るつもりなんだからな」

「な…」

「君にも、すでにネネという愛妻、カイトという息子がいるんだ。軽々しく死を口にするな」

「社長…」

「バロン、カンパニーと云う言葉の意味は『同じ釜の飯を食う仲間』だ。仲間を無駄に戦場で散らせることは出来ない」

「……」

「以上だ。俺も今日は家族と過ごす。外してくれないか」

「分かりました」

バロンが立ち去ろうとした時だった。ポップが呼び止めた。

 

「あっと、そういえば忘れていた。今日はネネの誕生日だろう」

「え、ああ…はい」

正直、バロンはすっかり忘れていた。

「プレゼントは用意したのか?」

「い、いえ」

「しょうがないやつだな」

ポップは社屋の玄関に飾るために毎朝花屋から届けられている花束を手にとった。今日は社屋で働く者も忙しく、昨日の花がまだ飾られたままだった。今日に飾る予定だった花束をバロンに渡した。

「ほら、これで格好がつくだろう」

「いえ、そんな…」

「いいんだ。持っていけ」

「は、はい」

社屋を出ると同時に、バロンは花束を握ったまま、泣いた。

「アンタ一人で行かせやしない…!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

カールへの出航の日、バロンはずっと伸ばしていた長い髪を愛妻に切ってくれるよう頼んだ。身を清めて滅多に対することの無い鏡の前に座っていた。彼の愛妻ネネは戸惑いつつ、夫の長い髪を握った。

「ほん…ごえ…いの?(本当にいいの?)」

バロンの妻ネネは言葉が不自由であるが、バロンは妻の言葉を理解できた。

「かまわない、バッサリ切ってくれ」

「ん…(うん…)」

「戦いには、こんな髪、邪魔なだけだからな…」

鏡台の上には、二度と頭にいただくこともないだろうと思っていた賢者のサークレットが輝いていた。

パプニカの賢者は国王から一人一人シンボルを与えられている。三賢者と呼ばれたアポロは太陽、マリンは海、エイミは風のシンボルをサークレットにいただいている。バロンのシンボルは月だった。

レオナ殺害計画の失敗の際、当然それは剥奪の対象となったがバロンは『ダイとの戦闘中に紛失した』と言い張ったので現在も所有していた。たとえ反逆罪を犯そうとも、これだけは奪われたくなかったのだ。このサークレットは彼の誇りであったのだ。

「ういにあえっえいてめ…(無事に帰ってきてね)」

「もちろんだとも。さ、切ってくれ」

 

バロンの長い髪が切り落とされた。そして彼は月のサークレットを頭にいただき、愛妻がパプニカの布地で作った水色の『賢者のローブ』を着た。愛刀は『はやぶさの剣』だ。一瞬で二度敵を切り裂ける剣、熟練度も十分だ。

全ての装備を整えると、バロンはまだ眠っている息子カイトの顔を見に行った。そして優しく頬をなでた。

「留守の間、カイトを頼む…」

「…(はい)」

そういうとバロンはネネを抱きしめて口付けをした。

「じゃ、いってくる」

バロンは家を出て行った。ネネは自分が信じる建築の神に祈った。

(あの人が無事に帰ってきますように…)

 

バロンは港に向かいながら願った。カンパニーのみんなが来てくれることを。次の角を曲がれば港の全景が見える。祈るように歩いた。港に人が溢れているように。しかし…バロンの見た光景はそれとまったく逆のものだった。

軍船はズラリと並んでいた。装備も充実している。だが港には誰もいなかった。静かだった。一人いたのは旗船マトリフの前で一人立っているポップだけだった。

 

「…何てこった…!」

悔しさを押し殺し、ポップに歩み寄るバロン。逆方向からでろりん、ずるぼん、へろへろ、そしてメルルとエイミが歩いてきた。たった六名である。そしてポップの前に横一列で並んだ。

「君たちは来ると思っていた。だがもういい、帰ってくれ」

バロンは首を振って答えた。

「お断りします。お一人でどうなされるつもりですか?ソアラの艦隊もアバン陛下の作戦に組み込まれているはずです。連れて来られなかったでは済みません」

「だろうな。だがカンパニーに属する者は王国の騎士団員とは違う。戦う戦わないの選択肢は本人たちで選ぶべきなんだ。強要はできねえよ。なに、俺は一魔法使いとして戦いに加わるだけさ。船団を引き連れていけなかったのは先生に詫びる」

エイミが一歩前に出た。

「ならば、私は一賢者として」

おなじく、ずるぼんとへろへろも前に出た。

「私は一僧侶として」

「おっ、俺は一戦士として」

「俺は一勇者として!まあ偽者だけれど!」

ニセ勇者一行と言われた、でろりん、ずるぼん、へろへろがポップと行動を共にすることを名乗り出た。まぞっほも存命なら、老体に鞭打って参戦を望んだかもしれない。クロコダインがロモスを襲った時、戦いから逃げたポップに『勇者とは勇気ある者』と叱咤したのは彼なのだから。

 

でろりんは笑って言った。

「ヴェルザーとの戦い…。そんな物騒なところを大将一人で行かせたら笑われるぜ」

「でろりんの言うとおりです。私も一賢者として、一緒に行きます」

髪を切ったバロン。その決意がポップにも、そして、でろりん達にも伝わった。そして最後にメルルが言った。

「私はあなたの妻として、最後までついて行きます!」

ポップは苦笑を浮かべた。本当はものすごく嬉しいのに顔に出せない。

「みんな、あまり器用じゃないな」

「ポップくんに言われたくないわね!」

エイミが笑って言った。

「全くだ!」

エイミの言葉にでろりんが手を叩いた。他の者も苦笑した。これほど『不器用』が誇りに感じることがあろうか。

社長ポップを筆頭に、バロン、でろりん、ずるぼん、へろへろ、エイミ、メルルと七人揃った。これなら旗船マトリフは運用可能である。バロンが丹精込めて改修した旗船の船壁にポップは触れた。

「いい仕事だ」

「当然です」

バロンはニコリと笑って答えた。ポップもそれに笑顔で返した。そして、でろりんを見た。

「でろりん、旗船の船長及び運用を任せる。すぐにカールに向けて出航だ」

「分かりました」

船の入り口に取り付けた階段車から、それぞれ船に入っていった。最後尾にいた、へろへろが手前を歩くずるぼんの肩を叩いた。

「お、おい。あれ」

「なによ、へろへろ」

「あ、あれ」

「あれじゃ分からないで…」

 

へろへろが指した方向からは自分たちの船の旗をほこらしげに掲げなから、走ってくる一隊がいた。

ロモス武術大会六人集の雄、ゴメスの一団であった。筋骨隆々のレスラーのマークが象られた旗印をなびかせて駆けてきている。ゴメスの一団は船員も兼ねているが、ソアラの町で格闘技団体も主催している。全員が腕に覚えがあり、そして士気に溢れた顔だった。

「社長!俺たちも行くぜ!」

船にあがったポップもそれに気づいた。

「ゴ、ゴメス…」

「あなた!あちらからも!」

メルルの指す方向からは、フォブスターの一団がやってきた。そして後から後からやってくる。狩人ヒルト、ムチの名手スタングル、戦士ラーバ、剣士バロリアの率いる一団が旗船マトリフの前に整列した。ラーバが一歩前に出た。

 

「申し訳ございません。部隊編成に手間取りまして」

「部隊編成?」

ラーバの言葉にポップは驚き、整列した者を隅々まで見た。戦闘に長けた船員だけでなく、船大工たち、港の荷物運びの者たち、そして燃料となる石炭を掘っている炭鉱夫たち、現在はただのソアラの町民でも元は戦士や武闘家、僧侶であった者たち。そしてベンガーナの滅亡を知り、平和に危機感を抱いた各国の腕に覚えのある者たちが一斉に集まったのである。

 

中には、歳を取った者もいた。齢六十を越えた炭鉱夫であり、ソアラ炭鉱一番の頑固親父であった。ポップはその男に言った。

「ゴルド爺さん、あんたまで…」

「なんじゃ、その辛気臭い顔は!帰れとでも言うんじゃなかろうな!」

普段は孫とほぼ同年の歳であるポップにも丁寧な言葉を使うゴルドだが、気合いの表われか乱暴な口調となった。

「だけど…」

「老いたりとはいえ、まだまだ、そんじょそこらの若い者には負けはせんわ!」

ポップの不安の顔を見て、ゴルドは笑って言った。

「儂はな、このカンパニーが大好きなんじゃ。炭鉱夫となって五十年。どこの王国も自治領主どもも、儂らの掘る石炭で生活が成っているのに、みいんな下に見よる!じゃがここは違う。ここには身分の上下もなく、どの社員も働きによっては認められ、給金も上がり、社員と、その家族たちが笑って酒を酌み交わせる!こんな素晴らしい夢のような所は初めてなんじゃ!このカンパニーが大好きじゃ!ヴェルザーかバルサンかは知らんが、儂らの大事な場所をとられてなるものか!」

ゴルドに言葉に触発された社員たちがポップに連呼した。

「そうだそうだ!一人じゃ行かせないぜ社長!」

「俺たちも連れて行ってください!」

 

隊列の一番後ろで一人立っていた男がいる。ポップの父親ジャンクである。父と息子に無言の会話が交わされた。

(すげえじゃねえかポップ!みんなお前に付いていくとよ!もう男として俺はすっかりお前に追い越されてしまったぜ。父親としてこんなに嬉しいことねえぞ!)

(親父…)

父ジャンクの横には町長のデビット、そして母スティーヌ、娘ダイアもいる。ダイアはデビットの肩車に乗り、父のポップと母のメルルに両手で手を振っていた。

(留守は任せておけ。思う存分暴れてこい!)

ジャンクは大きな口でニッと笑い、息子に拳を掲げた。

(ああ!行ってくるぜ親父!)

ポップは全身に鳥肌が立つほどの高揚感を覚えた。そして傍らにいたバロンとメルルに言った。

「勝てる…!」

「ハッ!」

「はい!」

そして整列している社員たちに叫んだ。

「勝てるぞ――ッッ!」

「「オオオ―――ッッ!」」

でろりんが剣を掲げた。

「全員、船に乗り込め!我らは船団長ポップの下命により!カール王国に出航する!ソアラ艦隊、全艦出航だ――ッッ!」

「「オオオ―――ッッ!」」

士気は天を突かんばかりであった。晴天、波穏やか、そして吉日であるサミット前日、ソアラ艦隊はカール王国に向けて出航した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌朝、アバンはフローラと朝食を取ると、建設された台場に向かった。そして一つ一つ砲台と弾薬の点検をしていた。台場の建設と大砲の設置を任せたレオナの手腕は信用しているものの、やはり最終チェックは自分でやらないと落ち着かない。そこへカール王国筆頭大臣ホルスが来た。

「陛下」

「何か?」

「ソアラ艦隊がカール湾に入ったそうです。そろそろ到着の頃合いかと」

「そうですか」

水平線にまだポップ率いる艦隊は見えないものの、愛弟子が来るであろう方角をアバンは見た。

「しかし、たいしたものです…」

「は?」

「私や姫は国と言う後ろ盾があってこそ、ここまでの戦力を示すことが出来ましたが、ポップはほとんどゼロの状態から海の商人として成功し、多くの船を率いられるほどの男になりました」

「陛下の薫陶のたまものでしょう」

「あははは、私が彼に教えたことなんて、そんなに大したものじゃありませんよ。ましてや交易のノウハウなどは、現在は私の方が彼の方法を参考にしているくらいです」

誇らしげに弟子の自慢をするアバンを見てホルスは苦笑した。

「彼は師匠を越えたということですね。あのお若さで見事です」

「師匠ですか…。いえ、彼がもっとも学んだ師は私やマトリフでもなく…」

「え?」

「ハドラーだと思います。彼は男の死に様、いえ生き様をポップに教えてくれましたからね」

「なるほど…強大な敵将から戦いを通じて学んでいく…。漠然とした机上の学問など比較にならない生きた経験でしょう。人物になるわけですな」

「ええ、ポップは私の誇りです」

ソアラ艦隊は無事にカールに到着した。アバン自らポップを出迎え、固い握手を交わした。

 

一方、ここはカール王国の郊外、ここに大人数の作業チームを連れているフォルケンがいた。そのフォルケンに現場監督のカール騎士が報告した。

「フォルケン老、作業完了いたしました」

「お疲れ様です。これで五箇所すべてに建てられたのですな」

カール王国の簡略図をフォルケンは広げた。

「はい、老公のご指示の位置に」

「ふむ、何とか間に合いましたか」

フォルケンは簡略図に五つ目の印を書き入れた。

「念のため、使用の時まで隠しましょう。運んできた木々をあれの周りに植えて下され」

「かしこまいりました、早速!」

簡略図を胸のポケットにしまいこむフォルケン。

「我ながら、バーンの所業を使うことを思いつくとはのう」

苦笑して、フォルケンは作業の仕上げを見守っていた。今やっている作業の一連は、フォルケンとアバンが練りに練った作戦の一環であるわけだが、後にそれは絶大な威力を発揮することになるのである。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

約束した刻限にあわせ、世界各国の指導者たちがカールに集まりだした。前大戦のサミットにおいては魔王軍に対して秘密裡に行うため、レオナは少数で会場に来られたしと各国に伝達したが、アバンはあえてその方法で来ることを要望しなかった。今回はそうはいかない。浮島に要塞を構えている敵が相手である。各国とも兵を率い、軍艦の船団でカールへとやってきた。

五隻の軍艦と共に、オーザム国王ライドはカールに到着した。無論、護衛のグレンはライドにピッタリとついていた。海沿いに築かれた台場をライドは感嘆して見つめた。

「見よ、グレン、すごい陣容だな」

「ええ、大砲およそ百門というところですね。しかも砲身が長く、かなりの射程距離が想像できます」

ライドはフレイザードに滅ぼされたオーザムの国王の四男である。剣の技を尊ぶオーザムの慣習に合わず、幼い頃に僧侶としてなるべく寺院に預けられ、事実上、追放された。それがフレイザードの襲撃で命を落とさなかった理由である。

寺院では酒を飲み、肉も食べれば女も抱く破戒僧であったが、回復呪文に長けていた。バーン侵攻の世の時には、その破戒僧ぶりから寺院も追い出されていたが、彼は酒や肉、金を交換に怪我人などを助けながら諸国を歩いていた。宿無しの根無し草であったが生活には困らなかった。

バーンが勇者ダイに倒されると生き残った旧家臣たちがライドを探し出して、還俗し王位を継承することを願い出た。放浪にも疲れていたライドはこれを受けて三十一歳の時に戴冠した。元破戒僧が国王で大丈夫かと言う危惧もあったが、意外にも彼は貧しい人々にも気を配る名君であった。それは他ならない放浪の日々で身につけていた彼の飾らない気持ちの表われなのだろう。

また彼は放浪時代に娼婦へと落ちぶれた元オーザム王国貴族の娘と結婚もしていた。病気の母の薬代もなく、そして生活費にも困った娘が身を売ろうとした時、最初に声をかけたのがライドだったのだ。

その糟糠の妻も王妃となり、国王ライドを陰日向と支えている。

しかし、マァムへの熱狂ファンぶりには呆れているようである。

 

「アームストロング砲と言うそうです」

そのライド主従に声をかけた女がいた。

「マ」

「マァム殿!」

グレンが言うより早く、ライドがマァムに駆け寄った。

「いや~相変わらずお美しい!此度はマァム殿と共に憎きバリカンに立ち向かえて光栄ですぞ!」

マァムの両手をがっしり掴み、激しい握手をするオーザム国王ライド。

「あ、はあ…」

苦笑いを浮かべて、ライドの握手に応じているマァム。グレンが助け船を出した。

「コホン、マァム殿が困っておりますぞ、陛下。あとバリカンではなくヴェルザーです」

「ん?あ、いやいやすまん!ついつい憧れのマァム殿を間近で拝めて舞い上がってしまった!あっはははははっ!」

頭を掻きながら、ライドはマァムに詫びた。

「いいえ、カールへようこそ、ライド陛下、グレン殿も」

「はい、マァム殿もお元気そうで何よりです」

公人と云うお互いの立場を考え、二人は尊称をつけて呼び合った。

「しかしすごい大砲ですね、アームストロングというのですか」

「ええ、射程距離およそ千五百メートル。ソアラ、カール、パプニカの職人たちの努力と技術の結晶です」

「なるほど」

ライドも興味深く大砲を見ていた。アームストロング砲はアバンが図面を立てた。

そして、それを具現化したのは、弟子ポップのソアラ・カンパニーである。カールとパプニカの職人たちは、その図面を見て『机上の空論だ』と言ったが、ソアラの職人たちは違った。

バーンとの大戦後には大砲の製造をベンガーナは止めている。開発費や人件費が掛かる上に、バーンが死ぬと注文が激減したからである。それにより職を失った者をポップは召抱えていた。砲術において、ベンガーナの職人たちより秀でたものはいない。また鉄砲製造のみならず、造船にも彼らの技術は生きた。

台場の建設が決まると、ソアラの職人たちは惜しみなく、大砲製造の技術をカールとパプニカの職人に教え、二つの国と一自治領の鉄砲職人たちが総動員でこの大砲を作った。元ベンガーナの職人たちはかつて同僚であったポップの父ジャンクと共に、自分たちの故郷を滅ぼしたヴェルザーに鉄槌を下したく、それこそ寝る間も惜しんで大砲の製造に取り組み、そしてアバンが定めた期日に百門を立派に作り上げたのだ。

「ふむ、これならば海上要塞とやらもひとたまりもないですな。さすがマァム殿」

「いえ、ですから鉄砲職人たちの力と…」

マァムとグレンは苦笑した。

 

それぞれ各国王も到着し、カール城の大会議場に歩き出す。前の大戦後、初めての国際会議である。

新たな脅威となったヴェルザーに対して、世界がどう対するか、いずれの諸侯もこの日のために練りに練った国防の論を持ち、会議の椅子に座った。

議長はアバン、議事録はマリンが務めた。フローラ、レオナ、ポップ、マァム、ノヴァ、アキーム、フォルケン、そして各国の王が一つのテーブルについたのである。最初に各々の自己紹介から始まった。

「カール国王アバンです。今回、この国際会議の議長を務めさせていただきます」

「ロモス国王レンドルです。世界の平和のためにロモスは進んで犬馬の労を取りましょう」

「リンガイア国王ギリアムです。第二のベンガーナを作らぬためにも、我らも働く所存」

「え~オーザム国王ライドです。マァム殿の舞台を邪魔…いやいや、世界を蹂躙するヴェルザーに対して激しい怒りを我らも持っております。協力は惜しみませんぞ」

「パプニカ女王レオナです。よろしく…」

まだあまり以前の元気を取り戻せていないレオナを不安に見つめ、マリンは今のレオナの言葉を書きとめた。

 

「ではまず、議長の私からの存念を述べたいと思います」

アバンが席から立ち上がり、諸侯を見つめた。諸侯もアバンを見つめ、耳を傾けた。

「私の存念、それはヴェルザーとの共存です」

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