ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第二十七話 輝く息

「馬鹿な、あそこから冥竜城まで砲弾が届くはずが…しまった…!風に乗って!?」

砲弾の風を切る音がアグリッサの耳に響いたと思えば砲弾は冥竜城の台場に直撃した。

「まさか、威力もさることながら、この命中精度…。我らの大砲を凌駕するというのか!」

 

冥竜城は激震級の衝撃、玉座に座るヴェルザーの体にも埃が落ちた。

「ちっ…!」

忌々しそうに、ヴェルザーは肩に落ちた埃を払った。傍らにいるヒムが皮肉を込めて言った。

「人間を侮りすぎたな。ポップやフローラ王妃は、この冥竜城の力を目の当たりにしている。ならば当然、それを凌ぐ力を作って備えるのが当たり前だ」

「黙れ…!」

「バーンも結局は人間を侮ったがゆえに足元をすくわれた。お前も少なからず、それを反面教師として油断大敵と戒めていたはずなのにな」

「黙れと言っている!」

「だが、ベンガーナをあっさり滅ぼしたことと、アバンの和睦と言う話で、その戒めが取れたな。その程度で外す教訓ならば最初から持っていないほうがましだ」

「貴様!」

ヴェルザーはヒムの首を掴んだ。

「言ったはずだ。俺はハドラーとバーンのように寛大な男ではないと」

「どんなに強大な力を持っていたとしても、お前はやはり俺の主君には遠く及ばない」

「何だと?俺がハドラーに劣ると言うか!」

「ハドラー様はアバンの使徒に幾度も打ち破られ、名誉や保身を欲する心を捨てない限り勝つことは出来ないと、痛みを伴った教訓から学び人間への侮りを捨て、最後には敵手にも尊敬される武人として散っていった。だがお前はなんだ?開戦前に略奪してきた女を抱いて、そして、それを棚にあげて部下を叱り付ける。お前は『人間を侮るな』と言うハドラー様の教訓をまるで分かっていない。冥竜王だと?笑わせるな」

ヒムはヴェルザーに力任せに投げ飛ばされた。壁に叩きつけられたヒム。

「駒の分際で出すぎた口を叩くな」

 

再びカール陣より発射された砲弾が冥竜城に着弾した。地響きにも似た激しい揺れが生じる。ヒムは竜王の間の壁にもたれている。口元は笑みを浮かべていた。

「何が可笑しいか」

「何時間後だろうな、アバンとポップがここに乗り込んでくるのは…」

「何だと?」

「ヒュンケルの体で戦うんだ。傷一つ付けるなよ」

「馬鹿な!人間どもがここまで辿り着くはずもないわ!」

「賭けてもいいぜ」

「百歩譲って、彼奴らがここに辿り着いたとしても、その時、彼奴らは来なければ良かったと思うだろう。俺には勝てぬ!全員をボロクズのように引き裂いてくれる!」

「それが慢心…。油断というのだ」

「油断ではない。自信だ。バランならともかく、ただの人間ごときに俺を倒せるものか!」

「ここにあいつらがここに乗り込んできた時は、そのヒュンケルの体を守るために俺も戦ってやる。せいぜい頑張ることだな」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

冥竜城の台場では双眼鏡を使い、アグリッサがカール陣をつぶさに観察していた。

「なるほど、風向を追い風とし、かつマホカトールでの防備か。しかも…あのマホカトールはたとえアバンとポップ二人がかりのものとはいえ、規模が大きく呪文の壁の層も厚い。何か仕掛けたわね…」

双眼鏡を下ろし、アグリッサは微笑を浮かべた。

「アバン、アンタが名将であることは認めましょう。だけど戦場での作戦は、絶対的な戦略とか、いかなる環境、戦況に通用する固定した作戦などは無い。この戦いに勝つのは冥竜王ヴェルザー軍ということだけは揺るがせない」

 

レッドの元に伝令が走った。伝令を聞き終えるとレッドは

「直線的だが、この方法しかないのも事実だ。アグリッサ様にレッド委細承知したと伝えよ」

と答えた。伝令者のモンスターはレッドの元から走り去った。モンスター兵たちにレッドは告げた。

「よいか、冥竜城はしばらく進行を止めて、大砲の射程外に留まるが、我らは海棲モンスター兵と共に海中を進み、カール陣の突入を開始する」

戦うことはモンスターの本能である。士気は高い。

「敵の将帥は、あの勇者アバンであり、共にいるものも大魔王バーンとの戦いを潜り抜けた猛者ばかりだ。油断するな!」

「「ハハッ!」」「「オオッッ!」」

モンスター兵たちは、各々の武器を掲げて大将であるレッドに応えた。

 

アバンが持ち出した偽りの和睦、ヴェルザーはこれで緊張を解いて房事へと行った。その緊張の緩みはモンスター兵にも伝染して、サリーヌの奸智があったとはいえ飲酒に至った。バーンならば、バーンの兵ならば、こんな策にはかからないだろう。

戦端を制することが出来た。これだけでもアバンの『偽りの和睦』は成功と言っていいだろう。

 

「相変わらず、したたかな男だ。ハドラーと戦っていた時より磨きがかかっているな、アバン。だが俺も負けるわけにはいかないのだ。ヴェルザーではなく、あの方を、彼女を勝たせるために…!」

レッドの目に、カールの水塞と本陣の向こうにあるカール城のトンガリ帽子の屋根が見えた。その頂上にはカールの旗がなびいている。かつてフローラ王女がハドラーとの戦いのために騎士兵士、国民を鼓舞する時に立ったテラスも見えてきた。その視線の先の光景に、レッドは自嘲した。

「まさか…この俺がカールを攻める日が来るなんてな…」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

冥竜城はカール水塞より後退した。アームストロング砲の射程距離を読み取り、安全地帯まで引いたのである。

こうなると、カール陣も迂闊には動けない。本陣にいるメルルが水晶玉の投影で冥竜城の様子を伺うと、破壊された大砲を退けて台場に新しい大砲を設置していた。メルルはその指揮を取っている女を見た。

(意外だわ…。女性が海上要塞の陣頭指揮を取っているなんて…。しかもこんな美しい人が…)

傍らにいたノヴァもその映像に気づいた。

「すごい美人だが…」

「え?」

「この女、前大戦のアルビナスと似た雰囲気を持っている。見た目は美しくても脅威の存在であるのは間違いなさそうだ」

「そうですね…」

 

海上は不気味な静けさだった。カール水塞と冥竜城が睨み合っている状態である。改修を済ませた台場に立つアグリッサはカール陣を見つめて待った。海中からカール水塞に突入するレッドの攻撃を。

海中には、カール陣を目指して泳ぎ進む、数百のモンスターがいた。海棲モンスターを含め、それに乗って進む上陸部隊のモンスターたち。やはり海の中を活発に動けるかという点では人間はモンスターに遠く及ばない。無論、水が適さないモンスターもいるので、それらは要塞に残り出撃、もしくは迎撃に備えている。

「さあアバン、どうでる?さすがのマホカトールも海中にまで配備するのは無理のはずだからね…」

 

アバンは冥竜城と海面を交互に見ていた。アグリッサの思うとおり、海中にまでマホカトールの配備は及ばない。だから、彼も海中での侵攻を危惧していた。モンスターの中には海中で地上と同様に動ける者は多々いる。だから彼はアームストロング砲の他にもう一つ、兵器を作っていた。それによりモンスターを海中より出して船上での戦いにもっていくために。

船上にたどり着く前にたいていのモンスターはマホカトールの外壁に触れて絶命するだろうが突破してくる者も何体かいるかもしれない。マホカトールの効果はあくまで破邪である。

二線級のモンスターは侵入出来なくても、バーンパレスにいたような一線級のモンスターには破られる恐れもある。現にハドラーとザボエラは何の障害もなかったかのように、マホカトールの結界を越え、デルムリン島に入ってきた。

しかし、それ以前に海中でマホカトールの境界を通過することは可能な話なのである。水塞前に配備された船の役目は、そのマホカトールを突破した者を迎撃することにあり、また台場にいる弓手隊も一斉にそのモンスターに矢を射掛ける準備を整えている。

 

マホカトールの発動を五芒星の魔法陣で発動させようとアバンに提案したのは元テランの国王フォルケンであった。

テランは世界で唯一、竜神を信仰していた国である。竜に対する古文書などもテランの蔵書には存在する。それはテランがハドラー侵攻のはるか以前の世に、邪竜に滅ぼされかけた国であるからである。

そして、その危機を救ったのもまた竜であると伝えられている。邪竜によって現在の中心地をのぞき、焼け野原にされてしまったテラン。それに立ちはだかったのは、一人の少女であった。

少女はテランに五芒星の陣図をひいて、破邪の結界を張って、竜に侵入を一切許さず、持久戦に持ち込み、その持久戦に邪竜が戦意を落としかけた瞬間を狙い、時の竜の騎士に倒させることに成功した。戦いが終わると少女は白い竜と変わり、いずこかへと消え去ったと言う。

テランの人々は、その少女こそが母聖竜、つまりマザードラゴンであると信じ、現在に至るまで神として崇拝している。フォルケンが起草した策は、その故事に沿ったものである。

 

さらに丈夫な岩石を用いて大柱を作り、その頂に輝聖石を設置する。バーンが世界に落としたピラァ・オブ・バーン。頂上に設置した黒のコアによる地上消滅作戦。これを転じて破邪の結界に利用したのである。

星の配置場所はカールの領土図を見てフォルケンがすぐに計上した。しかしマホカトールそのものは、破邪呪文を得意とするアバンさえ一人では手に負えず弟子ポップとの同時発動でようやく、カール一国を包める破邪の結界を作ることに成功した。

しかも、この作戦は一切訓練ができない。どこにヴェルザーの密偵がいるか分からないのだ。アバン、ポップ、フォルケンは作戦を練りに練って理論と根拠を確立し、実行に至ったのである。

 

そして、それは無事に成功した。マホカトールはカール水塞と本国の領土すべてを包んだ。輝聖石も呪文を増幅、さらに五芒星の魔法陣がそれを二乗三乗と威力を高める。ベンガーナは空から来襲してきたモンスターにいいように攻撃を受けた。それを教訓としていたのである。空中からは一切モンスターはカールに侵入できない。無論、地上からも。

侵入出来たとしても、そのモンスターの戦闘力はマホカトールの中では半分以下に落ちている。まさに念には念を入れた防備であった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

冥竜城と水塞が互いに攻撃を仕掛けない状態がほんの数分続いた。アバン船上からずっと海面を見ている。神経を集中して迫っているであろうモンスターの気配を追っていた。ポップもマァムも、ずっとそれを追っていた。そして三人はキャッチした。モンスターの気配を海の中から見出したのである。

アバンが合図のラッパを吹かせた。ポップも気配を感じていたので動きは早かった。

カールの旗艦ポセイドンとソアラの旗船マトリフから砲弾が発射された。

「撃て――ッッ!」

だが、その射程は短く、三十メートルだけ飛んで海に落下した。アグリッサもそれを見ていた。

「なんだ?打ち損じ…!?」

海の中から鈍い爆発音が轟いた。

「…!しまった!爆音弾か!」

 

「続けて撃つんだ!」

続けて爆音弾が発射された。爆音弾の衝撃そのものは少なく、自分たちの船が巻き添えを食うことはない。だが海中にいる者には絶大な破壊力を持つ。海の中、つまり水の中における音の衝撃は容赦なくモンスターの鼓膜を破壊していくのだ。

アバンの計算は的中した。海中にいるモンスターたちは悶絶した。耳から出血もしている。兵士たちはアバンの策の成功に歓声を上げた。

 

「考えたわね…」

「『おまえの智恵は油断ならん』か、なるほど、バーンも的確な評を言うものだ」

「我が君…!」

アグリッサのいる台場にヴェルザーがやってきた。その後ろにはヒムもいる。そしてヴェルザーは研ぎ澄まされた竜の瞳でカール陣を見た。

「なるほど、あれがアバンのみが精製できるという輝聖石か…。それもご丁寧に五芒星の魔法陣で発動させるとはな。味な真似をしよる」

 

そして傍らのアグリッサに命じた。

「冥竜城をカール陣に近づけよ」

「しかし、それでは敵の砲弾に」

「かまわん、俺がすべてかき消してくれるわ」

「ハッ!冥竜城、前進!」

アグリッサは操舵室にいる部下に命じた。

 

時を同じころ、海中にいたモンスター兵たちは一斉に海面に現れた。

「クギャアアアア!」

「クエエエエッッ!」

だが、マホカトールの壁に触れて、低級なモンスター兵は瞬時に全身を炎に包まれて、海に落ちていった。それを見て、モンスター兵たちは再び海中に戻る。そしてさらに進んだ。いかに聴力を失おうと、戦うことが本能そのもののモンスター兵は引かなかった。

そして彼らは海中でマホカトールの境界を越えた。しかし、それもアバンの想定内のことである。

マホカトールによる防備の狙いはモンスターの空中からの攻撃阻止、敵大砲の無力化、そして侵入してきたモンスターの戦闘力の軽減にある。

三つ目の目的は、ある意味フレイザードが行った氷魔塔と炎魔塔による氷炎結界と類似しており、タブー視される感もあるが、それは人間同士の公然かつ堂々の合戦におけるルールである。ヴェルザー相手にそんな綺麗ごとを言うほど、アバンはロマンチストではない。

 

アバンは開戦前にあらかじめ諸侯に述べてある。『白兵戦は必ず起こる』と。各国の王と将、そして兵たちもそれに備えて船上にいるのである。

「よいか!モンスター兵の大半が今、マホカトールの境界線を越えた!彼らは船に乗り込んでくるぞ!モンスター兵はマホカトールの中に入れば力は半減する。二人一組で落ち着いて当たれば十分に勝てる!白兵戦準備!」

「「「オオオッッ!!」」」

カール騎士と各国の騎士たちが自分の剣を掲げてアバンに応えた。

 

モンスターの中には船底に穴を開けようとするものもいた。しかし、前線に配備された船は、すべて鉄甲船である。おいそれと破れない。しかも船底の内側は縦横何層にも仕切られているので、一.二箇所破られても沈むことはない。

そして、何よりモンスターは戦うことが本能である。船底への攻撃より甲板にいる人間との戦闘を望み次々と甲板に上がっていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『デルムリン島みたいに、マホカトールの中に入ればモンスターの邪気が消え失せるかもと少し期待していたが…そんな生半可な邪気ではないようだな』

思念でポップはメルルに語り掛けた。

『そのようですね』

メルルとポップは近距離であるなら思念で交信が可能である。大戦後は周囲に奇異と思われる能力のために、あまり活用していなかったがメルルとポップの夫婦は離れていても言葉を交わすことが可能なのである。

『で、海上要塞の様子はどうだ?』

『はい、こちらに向かい始めました。また…』

『また、なんだ?』

『敵将確認しました』

『敵将を?』

『はい…』

水晶玉の中にいた女性指揮官の横に知った顔を見た。そして戦慄した。

『まぎれもなく、ヒュンケルさんです。その後ろにはヒムさんが…』

『そうか…』

水晶玉でしばらく台場に立つアグリッサとヴェルザーを見ていたカール本陣の面々だが、水晶玉の中にいたヴェルザーとメルルの目があった。純粋な黒い瞳と邪悪な紅の瞳が合った。

「なんて禍々しい瞳…」

 

『そうかね?俺は気に入っておるのだが』

 

「……!?」

『覗き見とは、いい趣味ではないな』

「そ、そんな?水晶玉に投影されている人物がこちらの気を見抜くなんて!」

ヴェルザーの口元がニヤリと上がった瞬間、水晶玉は光を放った。

「あぶない!」

ノヴァがとっさにメルルの手にあった水晶玉を叩き落し、それを窓の外に蹴り飛ばした。

「な、何をするんです!あれはお婆様の形見の…!」

水晶玉は爆発した。

「……!」

「あぶなかった…」

額ににじんだ冷や汗を袖でぬぐった。

「ノヴァ、よく分かりましたね」

「ええ、凄まじい邪気でしたから」

「あやうく、本陣にいる者は全滅するところでした。ありがとう、ノヴァ」

美女のフローラの誉め言葉に恐縮してしまうノヴァ

「いえ、今は鍛冶職人ですが元は騎士!当然のことをしたまでです!」

「ありがとうございます、ノヴァさん」

祖母の形見を失ったメルルは少なからず肩を落としていたが、命には代えられない。

「いやいや、それより思念で今の事態をポップにすぐ報告したほうがいい。大規模ではないものの、上空で突如の爆発、船の連中は困惑しているはずだ」

「分かりました」

メルルからの思念で事態の詳細が前線に伝わった。そしてそれを各船に伝書鳩で知らせた。安堵の声が流れるも前線の状況は緊迫していた。続々とモンスター兵が各船の甲板に上がりだしたのだ。特にリンガイアの旗艦は伝書鳩の連絡書を見るゆとりさえなかった。

 

ノヴァの見たとおり、船団にいる者たちは突如の上空の爆発に困惑した。だがリンガイア国王ギリアムが一喝した。

「よそ見をするな。本陣にはノヴァがいる。本陣で起きたアクシデントは本陣で処理させればいい。我々は目の前のモンスターを倒すのだ。一兵たりとも上陸させるな!ギルドメイン大陸をこれ以上ヴェルザーに蹂躙させてはならぬ!」

「「おおっっ!」」

兵士たちは鼓舞した。そして将軍バウスンの号令がリンガイア旗艦ガルーダの甲板に轟いた。

「かかれえ――ッッ!」

ガルーダ号に乗り込んできたモンスター兵は四十体強、海の魔物のマーマン、マーマンダイン、そして白兵戦を得意とするスライムナイト、ガーゴイル、サタンパピー、鉄球魔人が侵入してきた。

兵士たちはかねてよりの手はずどおり、二人一組で敵に当たった。世界の運命がかかった戦いに参加しているという高揚感。兵たちの士気は高かった。

ロモスとオーザムの船も状況は同じであった。ソアラの船を含めて、世界連合軍の船はおよそ五十艘、モンスターが甲板に上がっていない船はわずかしかなかった。

 

時を同じして、冥竜城は再びカール水塞のアームストロング砲射程距離に入っていった。射程距離に入ったら冥竜城の主要箇所に大砲を撃ち続けるようアキームはアバンから命じられている。

喉が張り裂けんばかりにアキームは全砲手に号令した。

「撃て――ッッ!」

砲弾は一直線に冥竜城に向けて撃たれた。それを見て台場に立つヴェルザーは笑った。

「そんな砲弾、我が冥竜の力の前では小雨に過ぎぬ!」

ヴェルザーは軽く深呼吸をした。赤い瞳が金色に輝いた。そして大気を震わす息吹を吐き出した。

「カアアアアア――――ッッ!!」

 

バロンとエイミの放ったラナ・ウインドの風が一瞬逆流し、そして、それは熱波としてカール水塞にまで及んだ。遠距離のために、水塞に届いたころは多少の高温を伴う熱波に過ぎなかったが、砲弾はその熱波により一瞬で消滅するに至った。

 

本陣にいたフォルケンは額に冷や汗をにじませた。

「これが『輝く息』か…。竜神のみが使うという破壊の息吹…。この目で見ることがあろうとは…」

世界でただ一つ、竜神を信仰するテラン。その王であったフォルケンは古文書で幾度か竜神が破壊の息吹『輝く息』で思い上がった魔族や人間を駆逐する古代の絵を見たことがある。絵の中の魔族と人間はなす術も無く、ただ竜神に駆逐される小者の邪鬼のように描かれている。

 

かつて天上の神々が竜の騎士を作る前に、野心を抱いた人間と魔族を駆逐していたのが竜族とテランの伝承では言われている。

やがて、その竜族も地上に野心を抱き、竜の騎士の誕生となるわけだが、ドラゴンの持つ力は今だ畏怖され、かつ尊敬もされ、テランでは信仰の対象となっている。

 

「竜を信仰する気持ちは実際に竜と戦うことになっても変わることはない。人間に正邪があるように竜にも正邪があるのじゃろう。我らテランの民が崇めるのは、我が国を助けてくれた母聖竜…。断じてヴェルザーではない。たとえ古文書にあるような強大な力をヴェルザーが有していようとも、後に続く世代のため、アバン殿とポップ殿の子や孫の時代のため儂らは負けるわけにはいかぬのじゃ。たとえヴェルザーから見て、我らが小者の邪鬼であっても…」

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