ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第三十話 突入、冥竜城

海上要塞から不気味に青く輝く閃光が放たれた。ヴェルザーが放ったものである。あらゆる魔法補助と防御を無力化させる、それは『凍てつく波動』と呼ばれるものだった。バロンとエイミが放ったラナの風を切り裂いて青い波動は迫ってきた。

「あれは『凍てつく波動』!アバンよ、あれが当たればマホカトールは消滅するぞ!」

「いえ、心配いりませんよ、ロン殿」

「な、何?」

「想定内のことですから」

 

マホカトールの外壁に『凍てつく波動』は直撃した。だが次に驚いたのはヴェルザーだった。

「なっ…?」

傍らにいたアグリッサが双眼鏡で見た。

「我が君…マホカトールは消滅していません…!」

「馬鹿な…!」

 

ロンも自分たちを覆うマホカトールの堅固さに言葉を無くした。

「馬鹿な…。冥竜王の大技を人間の技が跳ね返しただと…」

「ポップが戦った悪魔神官も威力は異なれど『凍てつく波動』使うことが出来たとか。ならばヴェルザーも使えると見込み、あらかじめ仕込んでおいたのですよ」

「何をしたんだ?」

「マジャスティス…という呪文をご存知か?」

「マジャスティス…あの伝承上の破邪呪文のことか?」

「はい『破邪の洞窟』の地下七十五階に、その魔導書がありました。もっともギラやラリホーのように戦闘中に簡単に使えるものではなく、魔法陣を構え、長い呪文詠唱を必要としますが、あらかじめ配備しておけば、これほどに有効なものはありませんからね」

 

『凍てつく波動』は補助呪文すべてかき消してしまう厄介な技だ。マホカトールは破邪呪文だが、さらに上位の呪文が『マジャスティス』である。さすがのヴェルザーの『凍てつく波動』も破ることは出来なかった。

ヴェルザーが『凍てつく波動』を使うことは想定済み、アバンは五つある輝聖石に開戦に至る当日までマジャスティスを注入しておいた。それが今、カールに設置された五芒星魔法陣により増幅され、ヴェルザーの『凍てつく波動』をかき消したのだ。

これはヴェルザーのミスと言うより、ポップとの戦いでトベルーラを消去するため『凍てつく波動』を使ってしまった悪魔神官サイヴァの失態と言えるだろう。ハドラーとの戦い、そして前大戦でも『凍てつく波動』を使った敵手はいない。ポップからの報告でアバンは、その存在を知りマジャスティスを使うことを考えたのであるから。

 

「備えは十分。アバンの勝ち誇った顔が見えるようだな」

「我が君、やはり、これは上陸作戦を取り、あの輝聖石の五芒星魔法陣の一角でも落とさぬ限り、こちらの攻撃はすべて無効化されてしまいます」

「こちらの大砲はどうした。ずいぶんと静かなようだが」

「カール水塞の大砲の方が射程距離は長い上、追い風を利用して打ち込んでまいりました。再び配置した大砲も同じ結果となり、こちらの大砲はすべて沈黙いたしました」

そして、砲撃によって生じた火炎が、要塞のあちらこちらで見えている。風にあおられ、自然の鎮火は望めない。

「ふむ…俺が出てくるのが少し遅かったか。まあいい、まだ手はある、アグリッサ」

「はっ」

「このまま冥竜城を進めよ。どれだけの砲弾を打ち込まれようとかまわん、突き進め」

「しかし我が君、それではカール水塞と冥竜城が激突して…!」

「そうだ」

「まさか…」

「この冥竜城、アバンにくれてやるわ。カールの水塞に突っ込め。物理的に衝突してしまえばマホカトールも意味があるまい。冥竜城もろともカールに乗り込んでくれる!」

一見、乱暴ではあるが効果はどんな作戦よりもあるのは確かである。しかし…

「我が君、勝つにも形がございます。そんな特攻のような作戦ではヴェルザー様のお名前に傷がつきます。またこの城は浮島も含めて我らの地上の根拠地でございます。そう簡単に無くすわけには…」

「名など傷がついても、俺に痛みなど感じぬ。戦いに形も糞もない。要は勝てば良いのだ。相手を滅ぼせれば良いのだ。それに砲台が沈黙してしまっているこの城が役立つのはそれしかあるまい。城など、また新しいのを作ればよいわ、いいから突っ込め!」

「はっ!」

 

マホカトールが『凍てつく波動』をかき消したことでカール陣営は湧いていた。

「驚いたな、さすがはダイたちの師ということか」

ロンもこの時ばかりは手放しでアバンを褒めた。

「あはは、元ですがね。弟子たちはもう私を越えていますから。しかし…」

「しかし?」

「どんなに研究しても闘気技の類いをかき消す方法は分かりませんでした。もしヴェルザーがヒュンケルの技を使えるのであれば『グランドクルス』も撃てるはず。ヴェルザーがカール水塞の間近に来て、あれを撃てば、こちらのダメージは甚大でしょう」

「フバーハを、あの五芒星魔法陣で増幅しても駄目なのか?」

「竜の息吹、つまり『輝く息』に対しては有効でしょう。たとえヴェルザーが炎と氷の属性を変えて吐いたとしても、突き詰めればそれも灼熱の息と氷点下の息。防備はマホカトールとマジャスティスで可能です。しかし闘気技はそれらに属さない攻撃ですからね」

「ふむ…」

「だが幸いにして『グランドクルス』の射程距離は短い。長くすればするほどに、先端の破壊力は落ちます。だがヴェルザー自身が間近に迫り放ったとしたら…」

「『グランドクルス』に限らず、闘気技は一定の溜めがいる。俺の『星皇十字剣』もそうだしな。たとえ我らに気取られず、背後に回って放とうとしても、闘気が上がれば俺とお前の察知から逃れることはできない。その溜めの時間中にヴェルザーに迫り、二人がかりで攻撃をするしか術はないか」

「その通りです。とにかく撃たせる前にヴェルザーに迫り、倒す倒さないは別にして、少なくとも妨害はしなければなりません。ヴェルザーがどんな叡智を持っているかは知りませんが『グランドクルス』は闘気の放出技としてコントロールがもっとも至難な技です。十分に撃つ前に彼に近づくことは出来るはず…」

「なるほど…危機の瞬間でもあり、絶好の好機でもあるわけだな」

と、アバンとロンの会話が落ち着いた、その時だった。

 

海中から一人の武人がカール王国旗艦ポセイドン号に乗り込んできた。マァムはその男を知っていた。

「あいつは!」

海水に濡れた赤い鎧、彼は静かに剣を抜いた。ロンが剣の名前を言った。

「『メタルキングの剣』この目で見ることが出来るとはな…」

カール騎士たちは、その男に詰め寄るがアバンに止められた。

「君たちの敵う相手ではありません。その場で待機していなさい」

「しかし陛下!」

「命令です。さて、赤い鎧の人よ、貴方ですか?マァムの舞台に乱入した赤い鎧の武人とは?」

「そうだ」

アバンは眉をひそめた。聞き覚えのある声だったのだ。

「私はカール国王アバン、貴公のお名前を伺っても?」

「人は私をレッドと呼ぶ」

「では…レッドさん、この船に何か用ですか?」

「総司令官の船に単身乗り込んだのだ。敵将の首を取る以外に何がある?」

 

「そうはさせない!アムド!」

マァムは魔甲拳を装備した。

「許さない…。私の舞台を壊したのも…!私の仲間たちを殺したことも!」

ロンはその時、レッドから独特のにおいがしたのを感じた。そして、それはかつて嫌になるほどに味わったにおいだった。

「気をつけろ…!」

「ロン殿?」

「そいつは…超魔生物だ」

「ハドラーがなったというやつね。でも私は退かない!許せない、私の仲間たちを殺して舞台を壊したこの男が!ハアアアアッッ!」

 

マァムの回し蹴りがレッドの首に決まった。レッドは避ける素振りさえせず、それを受けた。まるで効いていないようだった。だがマァムは攻撃を止めない。好きなようにマァムに攻撃をさせていた。

「お前の攻撃など効かない、そう言いたいのかしら?ならば!」

マァムは猛虎破砕拳の構えを執った。だが技の発動と同時にレッドはマァムの背後に瞬時に移動していた。拳が空を切って体勢が崩れたマァムの首元にメタルキングの剣の切っ先が触れた。

「隙だらけだ。話にならんな」

「くっ…!」

「……!」

アバンはそのレッドの言葉と剣の突きつけ方を見て愕然とした。

「どうした?」

ロンの呼びかけにもアバンは答えられない。それほどの衝撃だった。

「馬鹿な…あの言い方と、あの剣の突きつけ方は…!」

 

「拳に闘気を集中して突進して繰り出すだけでは敵に容易に避けられてしまい、カウンターも受ける恐れがある。もう少し考えてその技を使うがいい。また私のようなパワー主体の戦士に力で当たるのは愚だ。スピードでかく乱するなりすれば、もっといい勝負になるだろう」

マァムはレッドに背中を突き飛ばされ、甲板に倒れた。

「偉そうに…!子ども扱いしてくれるじゃない!」

再びマァムは構えた。だが

「よしなさい!マァム!」

「止めないで下さい先生!こいつは私の仲間たちを!」

「いいから…私に任せて下さい」

「先生…」

「レッドでしたね。次は私が相手です」

「いいだろう…」

 

アバンは剣を抜いた。愛刀、稲妻の剣である。無刀陣にてハドラーを切り裂いたのもこの剣である。

「念のため、お聞きしますが…」

「なんだ?」

「この『稲妻の剣』に見覚えはないでしょうか?」

「…いや、初めて見るが」

「そうですか。若いころ戦友と所有権を巡って喧嘩したことがありましてね」

「…興味ないな、そんな話は」

「そうですか。では、行きますよ!」

 

アバンとレッドの一騎打ちが始まった。稲妻の剣とメタルキングの剣がぶつかりあう。まさに双方、一騎当千、万夫不当の剛の者。一合ごとにポセイドン号は揺れた。

「この太刀筋は…!!」

「……」

「レッド、やはり君は!」

「………」

「答えてくれ!」

アバンの剣には戸惑いが見えた。当然ながら隙が生じてレッドに足払いをかけられた。

「ぐあっ!」

アバンは転倒した。レッドはアバンに馬乗りになり、左手でアバンの顎を掴み、剣を上げた。

「ぐっ…!」

 

ロンの強烈な蹴りがレッドに叩きつけられた。レッドは吹っ飛んだ。

「何をしているアバン!一騎打ちの最中にそんな戸惑いを見せるとは!」

「…すみません」

立ち上がるアバン、マァムが駆け寄り

「先生、あの男を…レッドのことを知っているのですか?」

「い、いえ…」(言えるわけがない…。もしそうならレッドは…!)

 

船室の壁を突き破り、室内まで吹っ飛ばされたレッドはゆっくりとロンのところに歩んでいく。

「ちょうどいい、その剣を戦利品としていただくとしよう。前々からメタルキング系武具の金属構成を知りたかったのでな」

「取れるものなら取ってみるがいい」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

冥竜城の前進が突然止まった。

「城が止まった…。そんな命令は出していないのに」

水塞突入まで、まだ遠い海上で浮島は止まってしまった。アグリッサは『悪魔の目玉』を通して操舵室にいる部下たちに言った。

「何をしているの!カールの水塞に向けて冥竜城を進めな…」

「どうした?」

操舵室は騒乱としている。悪魔の目玉を通してその光景がヴェルザーとアグリッサにも見えた。

「何をしているの、誰か答えなさい!」

アグリッサの言葉に答える者はいない。室内には魔法の火炎や氷撃が飛び交っていた。

「アグリッサ様―!アグリッサ様―ッ!」

目玉の中は要塞の操舵室にいるモンスター兵が息も絶え絶えに映っている。血相を変えていた。そして、アグリッサに驚愕する報告がもたらされた。

「どうしたのですか、状況を説明しなさい!」

「大魔道士ポップ率いる別働隊が城内に進入しました!敵の精鋭が上陸を開始して操舵室の占拠を!」

「なっ…!」

アグリッサはその報に唖然とした。ヒムは笑った。

「思ったより早かったな」

 

「そんな馬鹿な…!この城に近づいてくる船など一つもなかった。トベルーラで飛んできても、城を囲む呪文封じの結界で入れず何よりこちらの察知を逃れる術はない。やつらはどんな方法を使ったの!」

「海を潜る船で…!ウグアアア――ッッ!」

モンスター兵の変わりにポップが悪魔の目玉に映った。

「いい城だな。うちのカンパニーの営業に使えそうだ」

悪魔の目玉を通して、ヴェルザーとポップの視線が合った。お互いの姿もそれで見ることができる。

 

「お前がヴェルザーか?」

「そうだ」

「どうやら、城ごと水塞に突っ込むのが一番な有効策と気付いたようだが少し遅かったな。そういうことをさせないため、そしてお前をぶっ飛ばすため、俺たちは乗り込んできた」

「ほう…」

悪魔の目玉に映るヴェルザーの姿は、まさしくヒュンケルであった。不死騎団を率いていた当時のヒュンケルとは比べ物にならないほどの悪の威圧を感じるポップ。

「なるほど、ヒュンケルの体を乗っ取ったと聞いてはいたが本当のようだ」

「乗っ取ったのではない。同化したのだ」

「どう違うのか、言語博士でもない俺には理解できないが?」

「すまないが俺も上手く説明できない。まあ、俺を殺せばヒュンケルも死ぬということだ」

「魔界ではどうか知らんが、人間の歴史じゃ人質作戦を使って大事を成したやつはいない」

「それをポップくんが俺に証明すると?」

「フッヘヘヘ、冥竜王様が俺の名前を知っていたかい。ザマーミロだぜ」

ポップの後ろにいた女がポップを押しのけて悪魔の目玉の映像の人物に迫った。

 

「ヒュンケル!」

「エイミさん、無駄だよ、そいつはヴェル…」

必死の形相のエイミにポップはそれ以上言えなかった。

「ヒュンケル、私よ!妻のエイミ!」

「ほほう、貴様がヒュンケルの妻か。なるほど世界を救った戦士の妻だけのことはある。顔と乳房は一流だ」

「下品な!」

容貌はヒュンケルだが、出てくる言葉は侮蔑に溢れていた。

「夫を返して!仮にも冥竜王なんて名乗っておいて人質作戦取るなんて恥ずかしくないの!」

俺と同じことを言う、ヒムは苦笑した。

「ならば、俺を倒して奪回すればいい。だが俺が死ねばヒュンケルも死ぬ。困ったな?フッハハハハ」

「ヴェルザー!許さない!」

「落ちつきなさいエイミ!」

マリンがエイミの肩を押さえて諌めた。

「…ごめんなさい、でも許せない!絶対!」

ヴェルザーはメルルの水晶玉を遠隔から爆発させたように、その力を『悪魔の目玉』に送った。危険を察したポップがエイミをどかせ、ブラック・ロッドでそれを突き殺した。

「器用な真似をしやがる。メルルにこの攻撃を聞いておいて助かったぜ」

 

そのポップの横では怒りで肩を震わすエイミがいる。

「エイミさん」

と、ポップ。

「…なにかしら」

「ロンが以前言っていたが、ミストバーンの時と異なり『空の技』をもっても精神体のヴェルザーを攻撃するのは無意味らしい。まるで効かないばかりか、いたずらにヒュンケルの体にダメージを負わせるだけだと。残念だが今の俺たちにはヒュンケルとヴェルザーを切り離す術がない」

怒りと悲しみが同居した顔でエイミはポップを見つめた。まるでポップが次に言う言葉が分かっているかのように。

「最悪の場合は…覚悟していてくれ…」

「……」

「もう俺はヴェルザーがヒュンケルの姿で、この世界を蹂躙するのが耐えられない。殺すもまた情け…。ヒュンケルも…それを望んでいるのではないかと思う」

「……」

 

そんな会話の中、操舵室にあった図籍棚をひっくり返して、でろりんとフォブスターは探し物をしていた。そしてやっと目的の物を見つけた。

「あった、社長ありましたよ!」

でろりんがポップの元に来て大きな紙を広げた。

「間違いなさそうです。海上要塞の各階平面図かと」

「よし、これさえ手に入ればトラップの場所なども検索できる。いそぎ最短ルートを探そう!」

 

「エイミ…」

「姫様…」

エイミは少し首を振り、微笑んだ。

「ポップくんの言葉は正しいです。主人もそれを望んでいると」

「そうかしら?私はエイミが今思っていることの方が正しいと思うな」

「え?」

「ヴェルザーを倒して、かつ旦那様を助けたい。これがベストな結果でしょう?そうしたいんだったら、やはり悪あがきするべきよ!」

「姫様…」

「人の恋路を邪魔するやつはエイミに蹴られて死んじまえ―ッてね!」

レオナは笑ってエイミの肩を叩いた。

「私は馬ですか」

エイミも笑って答えた。

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