カール王国旗艦ポセイドン船上でレッドと対峙するアバン、ロン、マァム。
その時、海上要塞から信号弾が上がった。
「先生、ポップの合図です!」
レッドもそれを見た。
「合図…?上陸しただと…」
「その通りです。レッド」
「接近している船など一艘も無かった。トベルーラでは絶対に近づけないはず…」
「種明かしは簡単です。このカールの水塞、そのものが囮なのですから」
「ほう…」
「ベンガーナを襲ったモンスターはざっと累計して三千から四千、破壊と殺戮が本能のモンスターです。生殺与奪思うがままだった戦場にはヴェルザー陣営のモンスター兵すべてが出ていたと想定されます。つまりヴェルザーの兵は多くても四千。思いの他少ない数字ですが、ドラゴンは元々孤高を好む種族。そして自分の力に絶対的な自信を持っているのならば配下の数が過少でも支障はないのでしょうね」
「……」
「水塞は、それをこちらに襲わせるための囮です。そして各国とソアラの船団でマホカトールの中に引きずりこみ、パワーを半減させて駆逐する。モンスター兵を討ち取った報告は多く届いております。つまり海上要塞にはもうさほどの数のモンスター兵しかいないでしょう」
「……」
「敵城の兵をおびき出して駆逐する。そして同時に後方から精鋭で攻め入る。そういうわけです。そんなに難しいものではないでしょう」
サミットと称して、ヴェルザーにミストバーンが鬼岩城でパプニカへ攻め入ったという故事をそのまま再現させる。
まだ海棲モンスターや狂暴な巨大魚も脅威で、ヴェルザーの本拠地が浮島に築かれた要塞であることから、各国王は間違いなく最大の軍事力を持ってカール王国に集結する。つまり招致の名目はサミットだが、実質は世界連合軍の集結であった。開戦前に三国の王に陣払いを要求したが、アバンは各国王が帰らないことは確信していた。
そして、フォルケンと軍議を繰り返し、各国王が納得する堅固な陣立てと、輝聖石による五芒星魔法陣を構築したのである。マホカトールとラナ・ウインドの成功によって兵の士気も上がる。鉄壁の守備と兵士の鼓舞を同時に行ったのである。
白兵戦が船上で起こることも前もって予想はされており、しかもモンスター兵の力はマホカトールの影響で通常の半分以下である。ベンガーナを襲ったモンスターの種別をフローラ、ポップ、アキームから聞いて半分以下の力に落とせば、各国の騎士団が秩序よく戦えば撃退出来ることも計算されていた。
だが、モンスターとの船上戦にはパプニカとソアラの一部は参加していない。別行動を取っていたのである。ソアラとパプニカの本隊はカール、オーザム、ロモス、リンガイアの艦隊とモンスター兵と戦っていたが、ポップ率いる別働隊が開戦と同時に海上要塞に向かっていた。
総司令官のアバン、そして五ヶ国と一共同体の連合艦隊そのものが敵城からモンスターをおびき寄せ、そして海上要塞の注意を引きつける役目を担っていたのである。
「どうしても分からぬことがある」
「なんでしょうか?」
「どうやって冥竜城が在る浮島に辿り着いた?」
「ヴェルザー陣営の方々は人間が書いた著書は読みませんか?」
「なに…?」
「ダイくんの伝記の冒頭に登場する、ある賢者がいましてね」
「……?」
「その賢者は壊れたキラーマシンを直せる技術者なのです」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アグリッサは『悪魔の目玉』を海岸に飛ばした。そして見たのである。
「なに、あの乗り物は!?」
それは巨大なキラーマシンであった。ただし人型ではない。キラーマシンの装甲と同じブルーメタルで出来た円筒状の乗り物であった。操縦席の窓と思えるものが、かつてのキラーマシン頭部の名残が見える。
「まさか…海の中を航行出来る乗り物だと言うの!?」
アグリッサは予想もしていなかった乗り物の出現に驚いた。
「どうして…私たちよりはるかに短命な人間が我々をしのぐ文物を作れる…」
「この戦いに勝つために必要だった。だから作ったのだろう。単純なことだ」
「……」
「人間は竜、魔、人、その中でもっとも数が多い。同種族でも競い合う相手は多いだろうし、また人間の前に常に圧倒的な力で立ちはだかっていたのは竜と魔。彼らにとり自分たちよりも強い相手だ。強者は力でねじ伏せる。弱者は知恵と工夫でそれを打開しようと考える。強者の武勇が弱者の知恵に屈する、この海戦はその縮図やもしれぬな」
「我が君…」
「ふっはははははッッ!面白い!ハドラーとバーンの気持ちが少し分かってきた。俺も戦ってみたくなったわ、人間と!」
ヴェルザーのドラゴンローブが向かい風になびく。そして彼の闘気も体から湧き出ていた。
「地上を人間に与えたのは神々、一番人間が脆弱と言う理由でな。だが結果を見ると人間は竜と魔の侵攻を退け倒している。結束した人間は脆弱などではない」
「では、討って出るのか?」
ヒムが訊ねた。
「いや落ちかけた城とはいえ、王が玉座を放り出して敵陣に突入するなんて愚は負けと同じだ。ましてや敵が乗り込んで来ているのに逃げるのは性に合わぬ。迎え撃つとしよう」
「そうかい」
「この冥竜城に乗り込んできた者たちを血祭りにあげて、しかる後に俺は討って出る。順番が違うだけだ、結果は変わらん」
「…そう、お前の言うとおり上手く事が運べばいいがな」
ヒムを睨むアグリッサ。だがヴェルザーは笑って言った。
「そう願いたいものだ」
「我が君、どちらに?」
「せっかく来てくれたのだ。玉座が空席ではポップくんたちに失礼だろう。竜王の間で彼らを待つとする。ふっはははは!」
その場にはヴェルザーの笑い声だけが残った。
「ヒム」
同じく立ち去ろうとしたヒムをアグリッサは呼び止めた。
「なんだ?」
「我が君をお守りするのよ。そのために貴方をパワーアップさせたのだから」
「…貴様は何も分かっていない」
「なに?」
「オリハルコンのチェスの駒から生まれた俺が言うのも何だが『士』と言う者は駒ではない。ただ能力だけを欲して奸智を巡らせて自軍に引き入れたとしても、その『士』には『心』が伴わない。『誰がために』の気持ちが生まれない。貴様がどんなパワーアップを俺に施したとしても役立たずだ。そんな今の俺がポップやアバンに勝てると思うか。かつてヒュンケルは俺と同じオリハルコンの『兵士』を素手でぶっ倒したが…今日の俺の運命もそんなところだろう」
「ならばなぜ、今まで我が軍に!」
「最後までこの戦いを見届けるためだ」
「我が君をお守りしたならば、その功によってヒュンケルの体を返すと約束しても?」
「はっははははは!」
「何がおかしい!」
「男の嘘は見抜けても女の嘘は見抜けない、と言うが俺は女を必要としない者なんでな。嘘は通じないぜ。今さら貴様の甘言には乗らねえよ」
「……」
「だが、ヒュンケルの体をアバンたちが攻撃をするのであれば俺はそれを止める。それだけだ」
ヒムも竜王の間に歩いていった。ヒムは
(…ヒュンケルは殺してくれと願っているだろう…。だが俺は受け入れられない。すまないヒュンケル…)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、悪魔の目玉を通じて、アグリッサはポップたちが乗ってきた乗り物に攻撃を仕掛けたが、危険を察知したキラーマシンは頭部をクルリと悪魔の目玉に向け、ボウガンを放った。目玉はあっけなく絶命した。
海中を航行出来る乗り物から操縦者は離れていたが、その彼のポケットから機械音が響いた。
「おっと」
「どうした?バロン」
と、ポップ。
「潜水艇が敵に見つかったみたいです。一応隠しておきますか」
バロンはリモコンをポケットから出して、スイッチを押した。するとキラーマシンは自動的に海の中に沈んでいった。
冥竜城の操舵室から潜水艇は肉眼で見られる場所にあったので、バロンのリモコン一つで潜水艇が自動的に沈んでいく様をレオナは見て、ただ驚いた。この世界には、これほど高度な技術は伝わっていない。設計図はアバンが書いたが、それを形にしたのはバロンと、その部下たちである。世界初の潜水艇、発明者はアバンとバロンであった。
「すごいわ、バロン」
「えっ…」
レオナからバロンに声をかけた。何年振りであろうか、主君レオナの声を聴いたのは。潜水艇の中でバロンはレオナを避けていた。アバンの決めた陣立てと作戦は絶対である。顔を合わせづらいというだけで放棄は出来ない。レオナもそれを察してか操縦しているバロンの気持ちを乱しても仕方ないと思い、あえてレオナはバロンに気づかない振りをしていたが、思わずその技術力に感嘆して声をかけた。デルムリン島のバロンの裏切りなどなかったかのように。
「開戦前のラナ・ウインドに加えて、この技術…。貴方はもう反逆者でも裏切り者でもない。月のサークレットに相応しい賢者だわ」
「ひ、姫…」
「そういえば…貴方に謝らなくてはならないわね。フレイザードからパプニカを奪取した時に恩赦を発布しておいて、サミットやバーンのことだけで頭が一杯となってしまい、貴方の免罪の公布まで手が及ばなかった…。肩身の狭い思いをさせてしまってごめんなさい」
「姫…!」
全身の力が抜けるほどに感動した主君レオナの言葉。
「もったいなき、お言葉でございます…!」
バロンは改めてレオナに跪いた。許された。そう思った瞬間バロンの目から大粒の涙が流れ出した。
「私をお許しくださるのですか…!」
「もちろんです」
レオナの後ろにいた、アポロ、マリン、そしてエイミも笑って頷いていた。顔を涙で濡らすバロンにマリンがハンカチを渡した。
「これで、久しぶりに四賢者が揃ったのね」
「そうだな。パプニカ王女レオナ様を守るために集められた我ら四人が揃ったと言うわけだ。な、バロン」
「ああ、アポロ。待たせたな」
「まったくだ」
戦い前の静けさか、操舵室に乗り込んだ面々の心に温かい風が吹いた。共にいたでろりん、ずるぼん、フォブスターも微笑んだ。しかし、このひと時を味わってもいられない。
「信号弾を見た先生やマァム、ロンがこちらの上陸を確認したはずだ。手はず通り、急ぎ合流ポイントに向かい第二の信号弾をあげて先生たちと合流する。そしてバロン、エイミさん」
「はい」
「何かしら?」
「パプニカ女王の護衛に入れ」
ポップの計らいにアポロは微笑み、バロンも頷いた。そしてそれにレオナも応えた。
「では行軍陣形を整えます。バロン、アポロ、マリン、エイミは私の東西南北に位置しなさい。四方陣で前進します。同時に前衛のポップくんとでろりん船長、ずるぼんさん、フォブスター殿の援護。いいですね!」
「ハッ!」
「承知いたしました!」
「四方陣ですね」
陣列が組まれた。前衛にポップ、でろりん、ずるぼん、フォブスター、後陣にバロン、アポロ、マリン、エイミ、そしてレオナと隊を組んだ。総数九名。これが潜水艇の収容ギリギリの数だったからである。
「フォブスター、四方陣って?」
ずるぼんの問いにフォブスターが答えた。
「特定の人物を東西南北に囲み、歩を合わせて前進する隊形だよ。真ん中の人物が囲んだ者の援護を一人で行い、四方に位置する者は全て攻撃のみに集中する。五人の信頼関係がなければ出来る隊形ではないし、多数を相手にする場合には絶大な威力も発揮するパプニカに伝わる最強のパーティー隊形だ。特にパプニカ四賢者のそれは強力だと聞いている」
「なるほど、心強い隊が後ろにいるってのもいいよね。私もバギマどんどん使って活躍しちゃうから!」
四方陣の北、つまり先頭を努めるのはバロン、しんがりはアポロ、左にマリン、右にエイミ。中央のレオナも含めて、五人は不思議な高揚感を覚えた。昔、この隊形の習得のために五人は訓練にあけくれた。実戦で使用するのはこれが始めてであるが恐怖は無かった。
「行くぞ!」
ポップが先頭を切って走り出した。まずは師アバンと合流。その予定地点へと駆けていく。だがその地点に行くまでもモンスターとは遭遇するだろう。だが、その士気たるや天井知らず。バロンは後ろに主君レオナがいることが無上の幸せだった。
そして、四方陣は一糸の乱れもなく、前進していく。まるで数年の空白など無かったかのように。
走りながらエイミは思った。絶対にヴェルザーの中にはまだ夫ヒュンケルの意識が残っているはずだ。誰が呼びかけて答えなくても、きっと私の声で、それは目覚めてくれる。
でも、これは全てヴェルザーの元に辿り着いての話。今は目の前の敵を仲間たちと駆逐して前進するのが大前提。エイミは雑念を捨ててレオナの右翼を守り駆けていた。
冥竜城内に残っていたモンスター兵はアバンが見越した通り少数であったが九名の彼らからすれば多勢である。
ポップは図面からルートを選定し、あえて狭隘な通路を選んだ。囲まれることが無いからだ。前衛のポップたちは目の前の敵、後陣のバロンたちは背後から迫る敵だけに神経を注げた。モンスターは陣形も作戦も立てずに本能のまま攻撃している。多勢とはいえポップたちにほとんどダメージを与えられずに倒れていった。
またモンスターたちは別段ヴェルザーに厚い忠義心を持っているわけではない。ヴェルザーの圧倒的な力の前に恐怖で付いていただけである。孤高を好むドラゴンの性格が祟ったか、ヴェルザーはバーンと違い、配下の者を使いこなす術に長けてはいなかった。モンスター兵たちは相手が強いと分かればどんどん逃走もする。
四方陣はモンスターが後ずさりするほどに強力なものだった。四方を囲む者は一定の方角に留まらず、レオナの指示と状況に応じて右旋回左旋回と回転して車がかりのように敵に当たる。中央を守るレオナが回復魔法と攻撃補助、防御補助の呪文に徹底する。
だが、上からの攻撃には敵側から見て手薄に見える。跳躍に長けたモンスター兵が槍で中央のレオナに迫る。だがレオナはそれに対して避けようともせず、バイキルトの呪文の詠唱を続けていた。
「馬鹿め、死ねえ!」
モンスター兵の槍がレオナに迫る、その時
「「パプニカ体術!」」
バロンとアポロが同時に宙に舞っていた。
「「双竜脚!」」
二つの強烈な蹴りがモンスター兵に炸裂、吹っ飛び、天井に叩きつけられた。上は隙だらけ、そんな単純な隊形ではない。そしてレオナは北と南にいるバロンとアポロが自分を守ってくれることが分かっていたから呪文の詠唱を止めなかったのである。
無人の野のごとく彼らは進軍した。しかしアグリッサも黙っていない。新手を向けた。彼女自身が作った『兵』である。
狭隘な通路を選び、前後の敵にしか遭遇しないように備えるパーティー。だがアグリッサの向けた新兵は通路の壁を突き破り、突如現れた。前衛のポップ四人、後陣のレオナ五人、この間に入ってきたのである。一挙に五体も。
それは全身が金属で出来たキラーマシンである。だがバロンがかつてダイを襲い、潜水艇の母体にしたタイプの物ではなかった。背中にエンジンを背負い、巨大なマサカリを持つ鉄の人形だった。顔の眼と思える部分は血のように赤く光り、ポップたちを見た。
「シンニュウシャ、ハッケン。ハイジョスル」
その音声はアグリッサの手にあるリモコンにも入ってきた。
「さあ行きなさい!『からくり兵』!」