ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第三十二話 からくり兵との戦い

巨体、機械仕掛け、喜怒哀楽も何も無い殺人マシーン。それがハドラーとバーンの侵攻時代にも人々を苦しめたキラーマシンと言う怪物である。

アグリッサが作ったのは、その最新式のキラーマシンで彼女はその作品に『からくり兵』と名づけた。特に二人の魔王が使っていたマシンより高性能になったと言う印象は受けない。だが、その装甲は厚く、剣の攻撃などまるで歯が立たず、そして鉄の体から繰り出す攻撃は圧倒的破壊力であろうと言うことを想像出来る。

 

バロンが指示を出した。

「どんなタイプのキラーマシンであっても関節部分はもろく出来ている。そこを徹底的に狙うんだ」

『からくり兵』に視界が遮られてしまい、ポップたちからはレオナたち五人が見えない。

「姫さん、バロン!ここでこのキラーマシンを迎え撃つには地理的に不利だ。さっき広いフロアを通過したが、何とかそこまでこいつらを誘導できないか!」

ポップの指示にレオナも同意した。

「みんな、ポップくんが言ったフロアまで後退しましょう」

「「ははっ」」

しかし、この会話も『からくり兵』を通じてアグリッサに筒抜けである。

「そうはいかない…。狭隘通路を選んで囲まれるのを避け前後の敵のみに備えられるよう進むのは敵城攻略の常道。しかし相手が悪かったわね。そんな教科書通りの作戦が私に通じるものか。隊列の横腹を突く敵に対して備えを忘れるのを待っていたのよ」

アグリッサはリモコンのスイッチを一つ押した。

『からくり兵』が突如平伏したと思えば、両手両足から車輪を出した。両脚歩行の『からくり兵』が四輪の車に変化したのである。ルーラを除けば陸地の移動方法の最速手段が馬車であった時代である。アグリッサが潜水艇を見て人間の技術に驚愕したように、バロンもまた敵方の技術に驚愕すると共に恐怖した。『からくり兵』が何をしようとしているのが分かった。

「ひき殺す気か!」

 

鉄の車となった『からくり兵』はレオナたち五人めがけて爆進した。狭隘通路、横に逃れる術はない。しかし上には空間が十分にある。一瞬で宙に浮かぶ方法がたった一つだけあった。

バロンはその術を体得していないがアポロは体得している。バロンのアイシグナルでアポロは急ぎ呪文の詠唱をはじめ、そして激突寸前にそれは間に合った。

「トベルーラ!」

レオナたち五人は宙に浮き、天井に激突したが『からくり兵』の直撃よりはましである。『からくり兵』はそのまま猛スピードで五人の下を通過してしまった。天井に激突して、アポロのトベルーラは消滅して、五人はそのまま『からくり兵』が通過した地に降りた。頭にできたコブを撫でつつバロンはアポロに訊ねた。

「アポロ、浮きっぱなしというのは出来ないのか?」

「無理言うな。そんなことしたら俺の魔法力がすぐに枯渇してしまう」

「だろうな」

しかし、いざとなったらそれをやってレオナを救うしかないとアポロは感じていた。通過していった『からくり兵』は車の状態を解除して、ギシギシと不快な機械音を鳴らしながら歩いて戻ってきた。

レオナたち五人は囲まれた。ポップたちもまだ前後に挟まれている状況だ。

 

狭隘通路で、隊列が延びた瞬間を狙って、『からくり兵』は通路の壁を破って現れた。地理的にはポップ側に不利とも思えるが利点もあった。『からくり兵』は、その右手に持つマサカリが振るえない。天井と壁にマサカリがひっかかってしまうからだ。からくり兵は一度二度マサカリを天井と壁に引っ掛けてしまい、自分の得物が今の地形では使えないと悟ると、もう使わなかった。この辺が旧時代のキラーマシンと少し違う。学習機能があるようだ。

 

だが、そのパワーは圧倒的である。無論のことだが冥竜城にマホカトールの作用はないし、またあったとしても機械の化け物に効くとは思えない。

バロンの言うとおり、確かに関節部分は他の装甲よりももろいが、それでも簡単に破壊はできなかった。でろりんの愛刀『ドラゴンキラー』は破損著しい。

「ちくしょう…。ヴェルザーを引き裂いてやろうと思ったのに、これじゃあな…」

一旦は広い場所に移ろうとしたが、そこにいけば『からくり兵』はマサカリを使う。その直撃を食らえば即死は確実である。ポップたちは今この場で仕留める方が得策と考えたが、それでも劣勢は免れない。

 

ポップたち九名、からくり兵五体との戦い。バロンの指示どおり、パーティーは徹底的に関節を狙った。フォブスターとずるぼんは呪文で、ポップはブラック・ロッドを槍のように使い、突きを撃ち、でろりんも剣で突く。しかし、相手は機械ゆえに正確に、かつ無駄なくそれを避ける。攻撃動作で生まれた隙を嫌らしいくらいに狙ってくる。

そしてさすがのパプニカの四方陣も今回は役に立たない。右旋廻、左旋回と回転し車がかりのように敵に当たるのも、言うなれば必殺の一撃を敵に叩き込むための予備動作。

だが敵は必殺の一撃を繰り出される瞬間だけを用心して、不気味なほどに静かに立ち、そしてレオナたちが出した攻撃を何事もなかったかのように避け、その攻撃により四方陣の形が乱れた瞬間を見逃さず襲ってくる。

陽動作戦も何も通じない。人間の筋肉の作用を外観で判断し、本当の動きか陽動の動きか彼らは見抜いてしまうのか。ポップたちの攻撃はほとんど当たらず、当たったとしても装甲の厚い部分で与えたダメージはゼロのままだ。

 

「だめだ…!まるで我々の攻撃が通じない…!」

息も絶え絶えにフォブスターは膝を折った。

「こうして…私たちにやらせるだけやらせておいて疲れきったところを殺すつもりなんだわ、なんて嫌なやつ、海に放り込んでやりたい。きっとサビて壊れるだろうし!」

『からくり兵』の足を憎々しく蹴るずるぼん。そんな虚しい抵抗を笑うかのように『からくり兵』は大木のように立っていた。

 

前衛と後陣が完全に分断されてしまった。魔法を使うポップは『からくり兵』に魔法を撃つことが出来ない。外れた場合でも、そして仕留めたとしても、その先にいるレオナたちに当たってしまう。

オリハルコンさえ消滅させてしまう極大消滅呪文メドローア。だが今それを撃つことはできない。『からくり兵』ごとレオナたちまで吹っ飛ばしてしまう。

かといって無限のスタミナを思わせるような機械の化け物と消耗戦になるわけにもいかない。もはやポップとて『からくり兵』の繰り出す攻撃を凌ぐのがやっとである。

「くそ…」

 

「ポップくん。やはりマサカリを使われるリスクを入れても、さっきの広いフロアに後退するしかないわ。そこでメドローアを使えば掃討できるはず!」

ポップに立ちはだかる『からくり兵』の向こうでレオナが言った。

「それしかないか…。だがこの場での『逃げ』をこのデク人形が見逃すと思えないが…」

「でも、このままではいずれこのキラーマシンの餌食になってしまうわ!」

「そうだな、よし!ずるぼん、姫さん!ピオリムをパーティーにかけてくれ。そして何とかデク人形の横か股下を通って姫さんと合流して後退する」

ずるぼんとレオナがピオリムの呪文の詠唱を始めると、パーティーは全速力でこの『場』を逃れるため、疾走に備えた。それを見た『からくり兵』が動き出した。だが、この時はレオナとずるぼんの呪文の方が早く発動された。

「「ピオリム!」」

 

ポップ、でろりん、ずるぼん、フォブスターが風を切るように道を塞いでいた『からくり兵』の横と股下を通り抜けた。いかに素早さに長けた『からくり兵』でも、体重が普通の人間の数倍である。ピオリムの作用を受けたポップたちには追いつけなかった。やっと『からくり兵』を振り切った。

しかし、ポップたちが見越していたフロアまで、まだ三百メートルはある。しんがりはポップが立ったが、『からくり兵』は全員が鉄の車に変化して悪鬼のように猛追してくる。

 

またピオリムとて、そう長い時間は持たない。およそ三分程度、これしか呪文の作用の素早さを維持しない。

「まずい…!何とかフロアまで逃げ切れそうだが、そのころにはピオリムが解けている!素早さが元に戻った瞬間に、こいつらのマサカリが襲ってくるぞ!」

「そんなこと言ったって社長!今さらどうしようもないよ!」

ずるぼんが青い髪を振り乱して悲壮に叫ぶ。

「くそ…ッ!ちょうどいい具合にデク人形は一直線に追撃しているってのに!メドローアを撃てれば倒せるのに!」

だが誰も今は立ち止まることはできない。立ち止まった瞬間に『からくり兵』の変化した五つの鉄の車にひき殺されて肉塊である。

「みんな!フロアに着いたら一斉に八方に散るんだ。そして何とかメドローアを詠唱する時間を……ッ!」

 

先頭を走っていたバロンが見た者。それはバロンたちの目指した広いフロアの入り口に立ちはだかる者だった。

「いかん…ッ!魔族が!」

「そんなあ!」

ずるぼんは思わず目をつぶってしまった。

「いや待て!あいつ…!」

ポップは見た。そこには銀髪に青い肌の魔族、槍を持ち、静かに立っていた男がいた。

「ラーハルト!」

 

「待たせたな」

そしてラーハルトは『からくり兵』向かって走った。冥竜城に乗り込んできた九人とすれ違い、『からくり兵』に迫る。

「心を持たぬ機械人形よ!消えうせるがいい!」

ラーハルトの槍が空を裂きうなりを上げた。

「ハーケンディストール!」

 

「グガ…ッ!」

「ウゴガ…!」

 

『からくり兵』五体は縦から真っ二つに切り裂かれて爆発した。

「フン…」

「すごい…」

初めてハーケンディストールを見た者たちは、その威力に唖然とした。

 

無機質な機械音がアグリッサのリモコンから聞こえてきた。

「ポップの声で『ラーハルト』と言っていたのが聞こえたわね…。バラン配下の猛将と名高いあの男のことね…」

リモコンをポイと海に捨てるアグリッサ。

「ならば太刀打ちも出来ないわね『からくり兵』では…。ミストバーンの持っていたオリハルコン軍団さえ一瞬で全滅させたのだから」

潮風がアグリッサの群青の髪を流した。

「さて…いよいよ私自らが戦わなくてはならないかしら」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「来てくれたのか、ラーハルト…」

「ああ、遅れてすまなかった。で、ポップ、状況は?」

「先生やロンたちと合流するポイントを目指しながら、モンスター兵を駆逐してきた。今のデク人形が敵さんの最後の隠し玉と見るべきだろう」

ラーハルトにポップは要塞の図面を見せて合流地点を指した。

「なるほど、走ってあと三分ほどか」

 

そして改めてポップはラーハルトを他のパーティーメンバーに紹介した。

「みんな、彼は陸戦騎ラーハルト。竜騎将バラン配下の猛将であり、ダイただ一人の部下だ」

彼が…一同は、感嘆するようにラーハルトを見た。なるほど伝え聞いていた話と同じく、まさに一騎当千の猛将に思えた。見たことはなくても、ラーハルトの名前は誰もが知っている。バーンとの最終決戦にてヒムと共に元魔王軍でありながらもダイに加勢した義侠心に富んだ男と魔族を敬遠する者たちさえ彼への賞賛は惜しんでいない。

 

「ところで、ラーハルト。お前が追っていたあのサリーヌとか言う女には会えたのか?俺たちは会わなかったが…」

と、ポップ。

「いや、何人か倒れていたモンスター兵を締め上げて聞いてみたが、やつはここにはいない。あの女は部下の悪魔神官を連れて今回の戦い直前に戦線を離脱したらしい」

「そうか…。逃げたのか、それとも何か意図があってかなのかは分からないが、いなければいないで不気味なやつだ」

 

ラーハルトは腕に少しの負傷をしていた。さきほどの『からくり兵』がつけたもののようだ。エイミがそれを見つけた。

「ホイミ」

「ありがとう、貴女がヒュンケルの奥方か?」

「ええ、そういえば夫の戦友なのにお話しするのは初めてですね。エイミです。よろしく」

その言葉にラーハルトは微笑を浮かべた。

「…戦友か」

「え?」

「…ヒュンケルは…貴女に俺のことをそう言ったのか」

「はい」

「そうか」

ヒュンケルとは流れ着いた町の酒場で喧嘩別れをして以来会ってはいない。だが農学者となって世界の食料の実りに人生を賭けていることは伝え聞いていた。ラーハルトはそんなヒュンケルの活躍が嬉しかった。

ダイを探す旅を続け、世界を放浪していたラーハルトがたまに耳にするヒュンケルの噂。喧嘩別れをしたとはいえ、ラーハルトは影ながらヒュンケルを応援していた。エイミと結婚したと聞いた時も、ヒュンケルの家の前に花束を置いて立ち去ったこともあった。

 

だがヴェルザーは、そんなヒュンケルの生きがいや夢を土足で踏みにじった。愛妻との幸せな暮らしを奪い取った。サリーヌとサイヴァに母を侮辱された怒りもあるが、その主君の方には更に怒りを覚える。

ヒュンケルに無実の罪をかぶせ自分の体とし、何より主君ダイが命を賭けて掴み取った今の平和を乱すヴェルザーを許すわけには行かない。もはやただのポップやアバンへの加勢ではない。自分の戦いなのだとラーハルトは思っていた。

 

「図面を見るかぎり、トラップらしき箇所はないな。そろそろ行こう。俺がしんがりに立つ」

「頼むラーハルト。じゃみんな、合流ポイントに急ごう。信号弾をあげて三十分以上ロスしてしまった。先生たちも気をもんでいるだろう」

と、ポップが先頭に立って、再び合流ポイントに歩き出した時だった。

 

ハイ…ジョ……スル

 

「……!」

技術者のバロンだけが壊れた機械の発した音を聞き取り、『からくり兵』の残骸に振り向いた。すると一体の『からくり兵』が最期の力を振り絞って右腕を上げていた。持っているのは研ぎ澄まされたマサカリ。そしてその狙いは金色の鮮やかな長髪をなびかす女だった。

「姫!!」

「えっ!?」

投擲されたマサカリは回転しながらうなりをあげてレオナを襲う。

「キャアアアッッ!」

「ぐあああッッ!」

 

レオナの顔に鮮血が散った。恐怖に眼をつぶったレオナがまぶたを開けた時に見た光景。それは投げ飛ばされたマサカリの前に立ち、体に深々とそれを突き立たせていたバロンだった。

「バロン…?」

マサカリはバロンの左胸に突き刺さっていた。鮮血が噴水のように左胸から飛び出した。

「ひ、姫…」

ポップを始め、他のパーティーメンバーも信じられない光景に立ち尽くした。そしてマサカリを投げた『からくり兵』はそのまま崩れ落ちた。もはやただの鉄屑である。

「バロン!」

 

バロンはそのまま倒れた。そのバロンにレオナは泣きながら駆け寄った。

「バロン!バロン!」

「…姫…ご無事で…」

「私より貴方が!」

「よかった…」

「バロン!」

「最後の最後で…やっと…家臣として…働けた…」

「バロン…貴方…!」

「姫…」

バロンの眼が静かに閉じた。かつて野心に狂い反逆を起こしてレオナを殺そうとした男が、そのレオナを命がけで守って死んでいった。レオナは叫んだ。

「バロンッ!起きなさい、バロン!」

ポップはガクリと膝を下ろした。

「なんてこった…。ネネとカイトに何て言えばいいんだよ…」

 

「気持ちは察するが、そう嘆き悲しんでいる暇はない。追撃の可能性もある。彼はヴェルザーを仕留めたあとに丁重に弔えばいいだろう」

ラーハルトの言葉にアポロたち三賢者は激怒した。

「なんだと!」

「貴方には武人の情けがないの!」

「……」

ヒュンケルばかりかバロンまで…エイミは深く悲しみ、アポロとマリンも涙が止まらなかった。

 

「ちょっと待って」

レオナは涙を拭い、マントを脱ぎ捨て立ち上がり、そしてネックレスに在る輝聖石を握り締める。

「姫様…?」

「何が『最後の最後でやっと家臣として働けた』よ!あの潜水艇の技術、パプニカにも教えてくれなきゃ困る!この戦いが終わったら、たっぷりとこき使うつもりだったのだから!」

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