ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第三十三話 カール本陣の混乱

「ラーハルト、そんなに時間は取らせない。しばらく待ってちょうだい」

「…好きにしろ」

「ええ、ありがとう」

そして、レオナは呪文の詠唱を始めた。

 

「まさか…!」

僧侶のずるぼんがその呪文を理解した。

「ザオラル…!?」

かつて、バランにメガンテを放ち絶命したポップにレオナが使った伝説の蘇生呪文である。

「ザオラルだと…!」

そしてポップはその呪文が失敗したのも知っている。

「しかし、あの時…!」

「そうです社長、熟練した僧侶でも成功率は五十パーセント以下です。しかも女王はキラーマシンとの戦いで消耗しきっている。下手すれば共倒れに…」

「いや、確率が1パーセントでもあるのならやるべきだ」

ザオラルの成功をポップは心より願った。

 

レオナの集中力を乱させないため、パーティーは静かに見守った。

「神よ…ご加護を!」

レオナの手から白い光が発せられた。

「…その御名において命の炎尽きたるこの者の身に魂を蘇らせたまえ…」

そして横たわるバロンの上に金色の十字が象られた。

「ザオラル!」

ずるぼんも、フォブスターも、でろりんも、そしてポップも祈る。アポロ、マリン、エイミを祈る。同胞の帰還を。

(お願い、成功して…!)

 

かつて自分を殺そうとした臣下バロンを、いまレオナは生き返らせようとしている。だがやらずにはいられない。

死刑が確定されたバロンにレオナは牢屋越しに聞いたことがあった。どうして自分を殺そうとしたのかを。バロンは答えた。

 

『逆に私が聞きたいですね。貴女を討ってパプニカの実権を握る。それがそんなに醜悪な行為ですか?』

『なんですって?』

『私は王家の世襲制に納得が出来ない。貧しい小作人の子に生まれれば、どんなに優秀でも小作人。王家に生まれればどんなに馬鹿でも王様。こんな世の中、誰が一生懸命になるって言うのですか?』

『私が、その馬鹿だと?』

『私は自分より劣る者になど忠誠は誓えません。だから貴方から奪おうと思った。それだけですよ』

『……』

牢屋から立ち去る時、バロンは一言だけ付け足した。

『姫、良き君主となれ。でなければ第二第三の私が出てくる』

『……』

 

 

(考えてみれば…あの言葉があったからこそ、私は為政者として少しはましな政治が出来ているかもね…。貴方に笑われたくない…。そう思えた私がいたから…)

バロンの顔に生気が戻らない。レオナは

「起きなさいバロン!命令です!」

その時だった。バロンの指が動いた。

「…!あなた!いまバロンの指!」

マリンはそれを見逃さなかった。アポロも。アポロは親友の帰還を祈る。

「神よ…!私の親友を帰還させたまえ!この戦いが終わった後、彼と酒を飲むことを楽しみにしているのです!お情けあればどうかその願いを叶えて欲しい!」

レオナは再びバロンに叫んだ。

「生き返りなさい!自然の摂理に反しようが何だろうが女王の命令です!」

意識が無くても、耳は言葉を拾っている可能性があるとレオナは聴いたことがあった。その可能性に賭けた。すると

「成功だわ!心臓の鼓動が聞こえる!」

 

「う…うう…」

「バロン!聞こえますか、私の声が!」

「姫…」

 

「やったあ!」

ポップは喜びのあまり、それをどう表現していいか分からずに、ずるぼんの手を握って変な踊りをしていた。

「よかった…」

でろりんとフォブスターは力が抜けて、床に座り込んでしまった。三賢者たちは言葉も出ず、歓喜の涙を流している。

「いい具合だ。士気もこれで上がる」

冷静に言葉を放つラーハルトだが、心に温かい風が吹き満足そうな顔をしていた。

 

「姫…私を…」

「ええ、もう大変だったんだから…」

「ありがとうございます。私などのために…」

「だから、一言だけ。いえ一発だけ」

「え?」

 

レオナはバロンの顔を力任せにひっぱたいた。

「な…」

「馬鹿っ!貴方の命は私のためにあるのではないでしょ!貴方自身と、そして貴方の奥さんと可愛い子供のためにあるのよ!」

しかし、バロンがああしなければ…と見ている者は思った。だが今のレオナにそんな突っ込みを入れられるわけがない。

「助けてもらったのは感謝しています。貴方がああしなかったら私は死んでいました。でも、でも!今後二度とあんな真似はしないで!私に貴方の奥さんや息子さんにどのツラ下げて詫びろと言うの!」

「は、はあ…」

「またあんな場面があったら私も助けて、かつ貴方も無事にやり過ごせる方法を一瞬で考えて実行してちょうだい。そんな都合のいい方法など無いと言わせない。かつて私に馬鹿と言ったのです。ならばその知恵者ぶりを行動で見せて下さい。主君のために死ぬばかりが家臣の道ではありません!いいですね!」

「分かりました」

「でも…」

「え?」

「ありがとう…」

バロンの前から立ち去るレオナ。ザオラルを使い、もはや心身ともに疲労困憊の主君の後ろ姿をバロンは見た。

 

「姫」

「何よ?」

「あの時、牢屋で言った言葉は取り消します。貴女は馬鹿などではありません」

「おだてても、何もあげないわよ」

照れ隠しのように笑うレオナ。

(もう、十分にいただきました…。感謝いたします。姫…)

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

再びバロンがパーティーに加わった。その士気たるや激闘の後なのに充実していた。そして一行は進む。やがて合流予定地である冥竜城のテラスに到着した。開戦直前に作った同城の立面図から、そのポイントは予め決められていた場所だ。ポップはアバンから渡された袋を取り出し、入っている粉を自分の体につけた。

「それがルラムーン草の粉ですか?」

バロンが訊ねた。

「ああ、不思議な粉でな。どんな離れていようが、これをつけていればアバン先生の『リリルーラ』で合流出来るんだ」

「すごいですね。製法を教えていただき、今度我が社で販売するのもいいですね」

「いや、駄目だな。便利な物だけれどアバン先生しか使えないのを売っても仕方ないよ。リリルーラは『破邪の洞窟』の五十九階まで行かないと会得出来ないらしいし」

「確かに。あはははは」

 

ずるぼんが一人一人に回復魔法を唱えた。全員の体力が全快した。その後に彼女は『エルフの飲み薬』を飲んだ。

「うわ~ッにが!」

舌が数分は緑色になるほどの苦さで涙も出てきた。ずるぼんは舌を潮風に当てた。

「ねえ社長、もっと飲みやすいの開発しましょうよ。一日二本は飲んだら魔法力回復しても吐き気が止まらなくなるよ」

「簡単に言うなよ。わが社の製薬部は病気や怪我対応の薬しか作っていないんだから、エルフ族が門外不出にしているような秘薬なんか作れるわきゃねえだろ」

「『良薬は口に苦し』と言うだろ、我慢しろよ」

でろりんが言うとずるぼんは頬を膨らませた。それを見てレオナやマリンも微笑む。とても敵城に乗り込んでいる最中とは思えないが、かつてバーンパレスに乗り込んだ時も、こうして途中で休み、食事と魔法力の回復をしたものである。メンバーは軽く食事も取った。

レオナは食後に『エルフの飲み薬』を飲んで後悔した。あやうく食べた物を嘔吐しかけた。

 

 

時を同じころ、カール旗艦ポセイドンの甲板、そこではまだアバンとレッドが睨み合っていた。

しかし、冥竜城にポップ率いる別働隊が乗り込んでいた。事態は変わっている。

モンスター兵たちも再度の突出は開始していない。おそらくはアグリッサから引き上げ命令が出て、乗り込んできたポップたちに当たらせているのだろう。

冥竜城は数箇所で火災も発生している。大砲もカール水塞のアームストロング砲でほぼ沈黙してしまっている。まして敵が乗り込んだ。実質、冥竜城は陥落したも同じとレッドは考えた。同時にカールの水塞は落ちぬとも。

(このままこの船の上にいても意味はないな、俺はアグリッサ様を守るのが仕事だ…)

レッドはアバンの前から歩き去りだした。

「どちらへ?」

「帰る」

「そうですか」

「邪魔したな。冥竜城で待っているぞ」

レッドは懐から『キメラのつばさ』を取り、宙に放った。レッドの体は空に浮き、そして冥竜城へと戻っていった。

 

「ふう」

「ふう、じゃありません!どうしてあの男を逃がしたのですか!」

マァムがアバンに食って掛かった。

「これ以上、彼と戦っても時間が経過するだけですよ、マァム。ポップが第二の信号弾をあげて数分経ちました。彼らも気を揉んでいるでしょう。そろそろ我らも行かなければ…」

「あ…はい」

「では、マァム、ロン殿、合流の準備を、私はフローラに急ぎ指示を出しますので」

「分かった」

ロンはもう準備が出来ているのか、冥竜城を見つめて、アバンが伝令兵に命令を伝え終わるのを待った。アバンの命令、それは『全船団、海上要塞に向けて出航し、一定の位置で包囲する』であった。

アバンはポセイドンの船長を騎士団小隊長アモスに任せ、リリルーラでマァムとロンを連れて冥竜城に飛んでいった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

フローラとメルルは急ぎアバンの命令を各船に伝達するため、速記に長けた書記官たちに命令書を書かせていた。

「『別動隊の攻撃に備えるため、海中のモンスターはすでに退却しました。海上要塞の操舵室も奪取したため、もはやこちらに進んでくることもありません。この上は各船団、海上要塞に迫り取り囲み、牽制の任に当たっていただきたい。

なお、要塞の中には当方の陣営の戦士が多く進入していますので、大砲の発射はしばらく見送って下さい。私たちは敵将ヴェルザーとの戦いに全力を尽くすため、各国王に指示を送れるのは、これが最後です。みなさんの健闘を祈ります。カール国王アバン・デ・ジニュアール三世』…」

フローラが、書記官たちの書いた命令書を確認し宰相印と国王印を押して伝令兵に渡した。

「急いでください!」

 

「「ははっ」」

と、伝令兵が本陣から出て行くのとすれ違い、五芒星魔法陣を守備していた兵士が傷だらけで本陣へとやってきた。

「ひっ、妃殿下に申し上げる!」

「メルル!」

「はい!」

フローラの指示でメルルがすぐに兵士の傷に回復呪文を施した。

「ありがとう…」

「ですが、失血した血液までは戻りません。急ぎ安静に…」

「その前に妃殿下に…」

「五芒星魔法陣に何かあったのですね?」

ひざまずく兵士の視線に合わせ、フローラも膝を折った。

「はい、黒衣の怪物が陣図を守備していた兵士たちを…ほぼ、全滅!」

「なんですって!」

「妃殿下、まさか主人ポップを襲った黒騎士と言う男では?」

フローラに報告して兵士はそのまま気を失った。

 

「医療班!急ぎ彼の治療を!」

「「ははっ!」」

「ノヴァ、へろへろ殿、バダック殿、私と共に急ぎ魔法陣に!一角でも崩れたらカール水塞は丸裸同然!行きますよ!」

バダックは青くなってフローラを止めた。

「何を言われる!本陣の将たる妃殿下をそんな危険な場所に!」

「将が安全な場所にいて兵に危険な場所に行けなどと言えますか!急ぎますよ!」

「し、しかし…!」

 

「心配はいりませんよ、ここももうじき『危険な場所』に早変わりです」

 

「な…?」

丁寧な口調だが、それは身も凍えるような残酷な意図を感じさせる言葉だった。

本陣の階下から静かに歩んでくる男がいる。そして次の瞬間にフローラからアバンの伝令を預かった兵たちが階下から吹っ飛んできた。すべての伝令兵の全身が切り刻まれていた。

「い、医療班!」

フローラが急ぎ治療を指示した。同じく回復魔法を使うべく兵士に触れたメルルとノヴァが悔しそうに首を振った。

「なんと言う惨いことを!何者!」

フローラの怒声を流すかのように静かな笛の音が聞こえてきた。

 

「気取りやがって!」

笛の音のする方向にノヴァはナイフを投げた。

しかし投げられたナイフはそのままノヴァに飛んで戻ってきた。

「なんだと…!」

顔面に刺さる寸前にノヴァはナイフを掴んだ。

「なに者だ!」

「くっくくくくく…」

黒衣の者が姿を現した。

「な…!」

フローラは絶句した。ノヴァは剣を構えた。だが冷や汗が止まらない。何故こいつが。メルルも声が出なかった。それほどに現れた男は彼らにとり衝撃だった。

 

「グッドイブニング…。カール本陣の皆さん…」

 

「「キルバーン!!」」

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