「何て再会なの…」
レオナはマァムにかける言葉さえなく、そして、この残酷な再会に涙した。他の者も雨に打たれながら、その運命の皮肉を静かに見つめていた。
最も憎んでいた敵手が、よりによって実の父だった。これほどの残酷な運命があろうとは…。天を呪い、神をも呪った。
「男に生まれていたら武闘家にさせたかったと…昔マトリフに言ったことがあるが…男だ女だ関係なかったな…。お前は立派な武闘家になった…」
「父さん…!」
マァムは倒れるロカを腕に抱いた。アバンもやってきた。
「ロカ…」
「アバン…。フローラ様に詫びておいてくれ…。カールに攻めて…申し訳なかったと…」
「何故ですか…!」
「……」
「ロカ、何故マァムに倒されることを選んだのですか。今マァムがどんな気持ちでいるか…!」
「すまん…。俺にはもう…全てを語る力は残っていない…」
「父さん…。父さんはもしかしてわざと私に…!」
「違う…。全力で戦った…。そして敗れたのだ。悔いはない…」
子供のころ見た、自分を抱き上げて優しく笑う父、その記憶のままのロカの顔だった。
「父さん…!」
「ふ…泣き虫は治っていないな…」
ロカはマァムの頬に触れた。
「すまなかった…。そして…ありがとう…。愛する娘よ…。し…あわせに…な…」
マァムの頬を優しく触れていたロカの手が静かに離れ、そして地に落ちた。
「父さん…?」
ロカは笑っていた。そして、もう動かなかった。
「父さん!父さん!父さ――んッッ!」
もはや動かない父を、マァムは抱いて号泣した。自分が殺した。父を、この手で。どうして、どうしてこんな運命が自分を待っていたのか。もうどうしていいか分からない。アバンはマァムの肩に抱いた。
「マァム…」
マァムはアバンの腕を強引に振り解き、アバンを睨んだ。
「先生は知っていたのですね!レッドが父さんということを!」
「…はい、ポセイドン号で戦った時に…分かっていました」
「どうして!どうして教えてくれなかったのですか!」
「すまない…」
「許せない!先生なんか大嫌い!顔も見たくありません!」
瞳に涙を溢れさせ、マァムは師アバンを罵った。こうするしかなかった。そしてアバンもそれを分かっていた。ロンが
「おそらく彼は…娘であるお前に倒されたかったのだろう…。アバンはそれを知っていた。だから言えなかったのだ」
「いえ、ロン殿。言うべきだったのです。娘に倒されたいなどと思うのは…死者に鞭打つようですがロカの身勝手です。娘マァムがそれによりどんなに苦しむか…。それをロカは分かってはいなかった。しかしながら…その気持ち、私は分かる。道を外してしまったのなら愛する者の手で滅びたいと思う気持ち…。ロカの気持ちが私には分かる。だから師弟の絆より、ロカとの友情の絆を…私は選んでしまった…」
アバンもまた大粒の涙を流し、マァムに詫びた。
「すまない、マァム。私は…師匠失格です」
ロカの亡骸がだんだん崩れてきた。ハドラーと同じように湿った砂が乾きだして徐々に崩れ落ちるかのようにロカの亡骸は崩れ、豪雨と強風の中に消えていった。マァムの前にあるのは赤い鎧の抜け殻だった。
マァムは父の返り血がついた拳を忌々しそうに睨み、魔甲拳の鎧化を解き、それを地面に叩き付けた。もう二度と装備するものかと言わんばかりに、それこそ憎しみを込めて。魔甲拳を作ったロンは、その光景を見ても怒りも不快も湧いてこない。ただ黙って泣きながら魔甲拳を地に叩き付けたマァムを見ているだけだった。
「どうして…どうしてこんなことに…私が何をしたっていうのよ!」
もはや抜け殻となっている赤い鎧の横で、マァムは膝と手を地について号泣している。仲間たちはかける言葉も見つからなかった。女たちは泣いていた。共に泣いてあげることしかできない。男たちは、ただマァムの涙雨を浴びて、黙ってマァムの震える背中を見ることしか出来なかった。ポップがマァムに歩み寄る。
「マァム…」
雷雨がマァムを濡らす。顔は涙と鼻水と雨でずぶ濡れである。
「ごめん…ポップ…アバン先生…。私…もう戦えない…。もう嫌だ!」
父親を倒した自分の拳を地に叩きつけるマァム。
「実の父を殺した…!何が正義の使徒…!」
その時だった。重厚な鎧の揺れる音が戦場に響いた。ポップたちに近づいてくる。
「貴様…!」
ポップとでろりんには忘れられない黒い姿が現れた。同じくその者を知るアポロとマリン、フォブスターは身構えた。
漆黒の鎧にマント。剣は鞘の形状から大刀、あの『真魔剛竜剣』である。でろりんが船長を務めるオーシャン号がアグリッサの派遣したモンスター兵に襲われた時、ポップが加勢に駆けつけたのを見越したかのように突如姿を現した、あの黒騎士である。
「黒騎士…!」
黒騎士はゆっくりと戦場に歩いてきた。マァムを見つめる。その視線に気づいたアバンはすぐにマァムの前に立ち、構えを取った。マァムの顔にはもはや生気がない。ポップが静かに訊ねた。
「お前は知っていたのか…?あの赤い鎧の正体を」
「……」
「何とか言え!」
黒騎士は答えない。静かにパーティーの前に立っている。
「口が利けないのか?それとも前大戦のミストバーンを真似ていやがるのか!」
仲間たちはポップと黒騎士の睨み合いを静かに見つめていた。黒騎士は威風堂々とした佇まいだった。まさに強者のみが持つ雰囲気である。しかしポップも負けていない。その雰囲気を静かに流し、言った。
「最終決戦前のバトルってわけか。いいだろう、受けて立つぜ。だが仮面を取れ」
「……」
「…最後くらい、顔を見せてもいいだろうが!」
ポップには、この黒騎士の素顔をどうしても見る必要があった。何故なら、その正体に心当たりがあるからである。そして、その見当は外れて欲しいことだった。
「……」
黒騎士は静かに兜のアゴ紐を解いて兜を脱ぎ、無造作に地に放った。黒騎士の素顔が明らかになった。生気を失っていたマァムもその顔を見て息を呑み、アバンとラーハルトは絶句し誰もが自分の目を疑った。だがポップは顔色を変えなかった。
「やはり…お前だったか…。お前だったか!」
稲光が二人を照らす。そしてポップは黒騎士の名前を呼んだ。
「ダイ…!」