いよいよ最終決戦が始まる。十四人の勇士がヴェルザーの前に立つ。ブラックロッドを構えつつ、ポップが言った。
「先生と俺、ラーハルト、ロン・ベルク以外は戦いに臨まない方がいい」
レオナも賛成した。
「そうね。私たちのレベルではどうにもならなそうだわ。今ポップくんがあげたメンバー以外は戦闘の間合いから大きく離れ…」
「その必要はない」
ヴェルザーが短く言った。そして次の瞬間ヴェルザーの赤い眼球が光った。すると、でろりん、ずるぼん、フォブスター、バロン、エイミ、マリン、アポロ、ノヴァの体が宙に浮いた。
「な、何だ!?」
でろりんがどんなに暴れても、地に足はつかない。
「体が!」
エイミとマリンがいかに魔法を使っても、その場でかき消される。マホトーンの作用まで付与して彼らを宙に浮かしている。
「場違いな役者は舞台から降りてもらおう」
「「うわああああああっっ!」」
宙に浮かんだ彼らはヴェルザーの力でアッという間に冥竜城の外に放り出された。最上階にある竜王の間から猛スピードで投げ出されたのである。海面に激突すれば死は確実である。レオナは思わずと唾を飲む。戦闘面においてバロンやノヴァに及ばない自分がなぜ残されたのか。
「パプニカ女王よ。そなたは見届けろ。冥竜王に逆らった者たちの哀れな最期をな。…ん?」
宙に上げられたメンバーの中でエイミだけが壁に激突して倒れていた。
「エイミ!」
レオナの声も届かない。完全に気を失っていた。頭から出血もしている。
「ほう、あの娘は運がいいな。いや悪いのか。ここから放り出されずに壁に激突したか。ふっはははは!」
「姫さん!エイミさんの治療を!!」
「分かったわ!」
エイミの倒れている場所に行くとレオナは真っ青になった。耳の穴からも出血している。
「いけない、急がなくちゃ!」
ヴェルザーの前にいるのはアバン、ポップ、ラーハルト、ロン・ベルクである。ヴェルザーは満足気にそれを見た。
「ふっはははは、こうでなくてはな。対バーンと少し顔ぶれが違うが俺にとっては貴様らが残ってくれればいい。他に雑魚がいては興ざめをする。悪く思わんでくれよ。彼らも運が良ければ助かるかもしれん」
「ふん、お前が武人として雌雄を決したがるとは意外だったな」
「そうだな、ロン。久しぶりだよ、こんな気持ちはバランと戦って以来だ。さあ、どこからでもかかってこい!」
「外に放り出された連中も気になるが、今はヴェルザーに集中しろ。来るぞ」
ロンは構える。
「ああ、分かっているさ、バロンやフォブスター、ノヴァもいる。連中が黙って吹っ飛ばされるはずもない。しぶとく生きているに決まっているぜ」
ポップはブラックロッドをヴェルザーに突きつける。
「さきほどポップが言ったように、私も彼の体内にはヒュンケルの意識が眠っていると思います。しかしそれを考慮し力を押さえて倒せる相手ではありません。皆さん、全力で戦いましょう!」
稲妻の剣を抜いて構えるアバン。
「もとよりそのつもりだ。ヴェルザーにその意図があるのかは知らんが、やつの取っている手段は歴然とした人質作戦。卑劣な戦い方をするやつには、この魔槍を叩き込んでやるのが俺の流儀。遠慮なぞするか!」
魔槍の柄をしごき、闘気を高めるラーハルト。
「ほざけ、若僧どもがあっっ!!」
ヴェルザーの振るう剣から衝撃波が炸裂した。
「大地斬!」
それを相殺すべくアバンが放った大地斬だが、あえなくかき消された。しかし相殺はかなわなくても迫り来る衝撃波の速度は落とせた。四人は衝撃波を避けたが、これはヴェルザーにとって牽制程度の攻撃、だが直撃すれば即死の破壊力を秘めている。
「散れ!」
ロンの指示で四人は散った。疾風のごとくの素早さで四人は四方向からヴェルザーに迫る。
助走をつけた浴びせ蹴りを炸裂させるべく、体をしならせたロン。それに呼応して、ラーハルトがハーケンディストールの構えでヴェルザーに迫る。アバンもストラッシュの構えで走る。
「せやあああ!!」
とんぼを切り長い黒髪をなびかせ、闘気を帯びたロンの蹴り。まさに光速のかかと落としがヴェルザーに叩きつけられる。
だがヴェルザーはそれを片手で受け止め、ロンの足を掴んだまま、ストラッシュの構えで迫るアバンに投げつけた。
「ちっ!」
「ぐっ!」
ロンとアバンは衝突した。稲妻の剣に帯びていた闘気もそれで弾けた。
「ヴェルザー!」
ラーハルトの握る魔槍が闘気を帯びる。そして一閃!
「ふはははははは!どうせバランの技には遠く及ぶまい。撃ってみろ!」
ヴェルザーの剣は『はかいの剣』である。呪われた剣であるが攻撃力絶大な剣。人間なら到底使いこなせない剣であるがヴェルザーにとっては普通の剣と変わらない。軽々と振り回し、そしてハーケンディストールを迎え撃つべく放たれる、その技は…
「ブラッディースクライド!」
はかいの剣の破壊力、そしてヒュンケルの技の攻撃力が重なる。はかいの剣はうなりを上げて回転し、ラーハルトを襲う。その時…閃光!
「メドローア!!」
ヴェルザーの背後に回りこんでいたポップが極大消滅呪文メドローアを放った。ヴェルザーはラーハルトに技を放っている。
「ちっ」
はじめてヴェルザーに焦りの顔が出た。
「まさか卑怯なんて言わねえだろうな、ヴェルザー様よ!」
「とんでもない、良い作戦だよ。それに、これをしのげんで何が冥竜王か!」
竜の頭脳で計算する。
(ハーケンディストールとの衝突が0.05秒後…、メドローアは1秒…!)
メドローアに完全に背を向けて、ヴェルザーはそのままラーハルトにブラッディースクライドを撃ち続けた。ハーケンディストールとブラッディースクライドが激突した。
「ぐおっっ!」
軍配はヴェルザーに上がった。ラーハルトは吹っ飛んだ。肩のプロテクターがバラバラとなり、ラーハルトの左肩にブラッディースクライドは直撃した。しかしラーハルトも負けてはいない。ヴェルザーのドラゴンの盾は真っ二つに切れ、鎧もその衝撃で亀裂が入った。そして次の瞬間ヴェルザーはメドローアの閃光に
「カアアアアアッ!」
『輝く息』で相殺に入った。ドラゴンの息と地上最大の攻撃呪文が衝突する。輝く息とメドローアはその場で消滅した。だが輝く息を放っているヴェルザーの隙をアバンとロンは見逃さない。ロンの烈蹴とアバンの斬撃がヴェルザーに入った。
アバンの斬撃で、ラーハルトの一撃によって破損していたドラゴンの鎧は切り裂かれ、ヒュンケルの肉体が露出したところにロンの蹴りが入った。ヴェルザーは吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
「ちっ…」
忌々しそうに四人を見るヴェルザー。この時、彼の頭によぎる。
(やはり脆弱な人間の体では、彼らを圧倒的に倒すのは無理か。いや、考えればこの体を使い実戦で戦うのは初めてのこと。俺が慣れていないだけだ…)
「皆さん、今の調子です。二人一組が攻撃し、もう二人がその迎撃に出たヴェルザーに攻撃を加える。四人で一斉にかかるより彼にダメージを与えられる」
アバンの言葉にロン、ラーハルト、ポップは頷いた。だが同じ戦法が通じるほどにヴェルザーは甘くない。
ラーハルトとアバンが一斉に攻撃を開始し、ロンとポップがその迎撃に出たときの隙を伺った。
しかしヴェルザーはアバンとラーハルトの攻撃に何の構えも見せない。だが彼のマントがヴェルザーの気の上昇と共にバサバサと逆巻いた。
ヴェルザーの体に暗黒のエネルギー『冥』が覆った。ロンがヴェルザーの間合いに入る瞬間のアバンとラーハルトに叫んだ。
「いかん!暗黒物質放出呪文だ!二人とも避けろ!」
「…人の心配をしているゆとりがあるのか…?ロン」
「な、なに?」
ヴェルザーを覆う『冥』のエネルギー。その色は濃い茶色か、黒か、そして金と銀の結晶のようなキラキラ輝く物質も含まれる波動。まさに『冥竜王』だから使える呪文。ポップがその恐ろしさを悟った。
「単体を攻撃する呪文じゃない!全体攻撃だ!全員防御に!」
そしてポップは一計を案じていた。慌ててパーティーに指示を与えた彼だが、その左手は自分の背後に回して呪文を唱えていた。『マホカンタ』を。
(発射と同時に俺が前面に立てばやつの呪文を弾き返せる!)
その刹那、ヴェルザーから呪文が放たれた。
「ダークマター」
『冥』の大呪文がパーティーを襲った。アバン、ラーハルト、ロンの前に走り出すポップ。
(自分の呪文でくたばりやがれ!)
その時だった。ヴェルザーは間髪いれずに『輝く息』を放った。カール水塞を襲った桁違いの熱波ではなかった。今度は氷点下の息吹である。しかも全体ではなく、前面に立ったポップ一人にピンポイントで放った。息吹は光速さながらにポップに迫る。ダークマターより後に放ったのに、息吹はダークマターを追い越した。
「しま…ッ!」
「まずい作戦だったな。海商王」
「フバ…ッ!」
息吹のダメージを唯一減らせるフバーハを唱えだしたポップだが間に合わなかった。
「ぐああああっ!」
ポップは瞬時に凍りついた。このままダークマターを食らってしまえばポップは氷の彫像のまま砕かれて即死である。
「ラーハルト!」
「分かっている!」
ロンの言葉より早く、ラーハルトはポップの前に立ち、ダークマターに背を向けた。どんな呪文であれどラーハルトの鎧には呪文が通じない。
アバンとロンは何とかダークマターを避けて、転じて回り込んでヴェルザーに斬りかかりたかったが、今はこの大呪文をしのぐだけで精一杯である。ラーハルトも、アバンとロンも全闘気を防御に転じた。ダークマターは四人を直撃した。
「「ぐおおおおッ!」」
「ポップくん!先生!ロン!ラーハルト――ッッ!」
戦場から離れていたレオナの悲痛な叫びが冥竜城竜王の間に響く。
「ふっふふふ、魔法を反射させて逆転を狙う…。以前にポップくんがバーンの天地魔闘を破った時に使った手だな。残念だったな。俺はあの戦いをちゃんと見ていたのだよ」
凍傷なのか、火傷なのかも分からない外傷に覆われたアバンとロン。ラーハルトにはその外傷は無いものの、呪文の持つ衝撃まで避けられない。背中に強烈な衝撃波を受け、たまらず膝をついた。
「ベホマラーッ!」
レオナの全体回復呪文が四人にかけられた。だが一度のベホマラーで到底パーティーは回復しない。二度三度、レオナは繰り返してロン、アバン、ラーハルトを回復した。レオナはヴェルザーに殺される覚悟で回復魔法を使ったがヴェルザーは黙ってそれを見ていた。
(…どういうつもり?)
「なるほど、バーンが『余のものになるのだ』と言ったのも分かるな」
「……?」
「実に美しい。そしてその気の強さも気に入った」
「なに…?」
「決めたぞ、パプニカ女王レオナ。そなたは俺のものとなれ」
「ふざけるんじゃないわ!」
男だったら回復魔法を仲間に使う自分を殺したのだろう。女だから軽く見られ、かつ生かしておいて自分の性欲を満たすためにヴェルザーは何の攻撃もしてこなかった。そう思うとレオナは腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えた。
ヴェルザーはレオナに近づく。好色そうな顔。頭の中でレオナをどう抱こうか考えているそんな顔だった。レオナが一番嫌悪する男の顔である。
「近寄るな!」
ヴェルザーはそんな怒りを示すレオナさえ楽しんだ。レオナの顎をつまみ、自分の顔を近づける。
「触るな!」
かつてバーンにもやったように、レオナはヴェルザーの手をアサシンダガーで切りつけた。バーンはこれを不快としてレオナを『瞳』に閉じ込めたが、ヴェルザーはお構いなしだった。
「たまらんな、そういう向こう気の強い女をベッドで支配するのは実に趣きがある」
「誰があんたなんかに!」
「…汚い手で…姫に触るな」
倒れているアバンがヴェルザーの足を掴んだ。ギロリとアバンを睨むヴェルザー。
「死に損ないが…。誰に向って口を利いているか」
力任せにアバンを蹴り飛ばすヴェルザー。いかにベホマラーを数度使っても彼らのダメージは深い。蹴られたアバンを悔しそうに見るロンとラーハルト。まだ呼吸も荒い。
「さて、邪魔が入った。さあ姫、俺のものとなるのを受け入れよ。そうすれば若き姿のままで悠久の時を生かしてやるぞ」
「ふざけるな!あんたの玩具として悠久の時を生きろというの!」
「そうだ。何ならこの地上の半分をくれてやってもいいぞ」
「お前にそんな力があるとは思えねえがな…」
「なに…?」
ポップの氷像に亀裂が生じた、次の瞬間だった。
氷は水となり、そして蒸気に変わった。ポップは氷像になっても意識を失っていなかった。そしてレオナはヴェルザーの手を振り払い、すぐ伏せた。次にポップがどんな攻撃に転ずるかレオナには分かったからである。
自己の氷像を溶かした瞬間、すでにポップはメドローアの構えを執っていた。
「メドローア!」
「ちいいいっっ!」
ヴェルザーは急ぎ防御に転じたが遅かった。
「ぐああああ!」
ヴェルザーの左腕が消滅した。
「ベホマラー!」
ポップがロン、アバン、ラーハルトに回復魔法を唱えた。魔法力のレベルではレオナをはるかに凌駕するポップのベホマラーである。三人はすぐに立ち上がった。そしてすぐに攻撃に転じた。
さらにポップはヴェルザーに向って走る三人一人一人にベホマを唱えた。さすがは大魔道士、それは正確に三人に注がれた。ラーハルトは『命がけでかばった甲斐があったぜ』と思った。さきほどの劣勢が転じて好機と変わった。ヴェルザーは左腕を無くしてしまった。その隙を徹底して狙われた。
「アバンストラッシュ!」
「ハーケンディストール!」
「竜撃脚!」
特にロンが放った竜撃脚は強烈だった。アバンとラーハルトの攻撃を何とか避けた時に襲い掛かられた。ロンの両足は研ぎ澄まされた大刀のような切れ味、そして目にも止まらない無数の連続蹴りであった。
「ぐうお…」
ヴェルザーが膝をついた。忌々しそうにポップとロンを睨む。そして次の瞬間、ヴェルザーの左腕が生えた。つまりヒュンケルの左腕が蘇生した。
「はあはあ…」
左腕の蘇生をポップは内心喜んでいた。
「さすがはトカゲの親分だな。腕が生えやがった」
「小僧…よくも…!」
「けっ、戦場で暢気に女を口説いていたテメェが悪い。あんまりガッカリさせるんじゃねえよ、冥竜王様よォ」
「小僧ォォォッ!」
ヴェルザーの顔はポップたちに対する怒りで満ちていた。そしてその時だった。
「……ケル」
ヴェルザーとアバン、ポップ、ロン、ラーハルト、レオナは声の主に振り返った。この戦場で、その存在が忘れられていたエイミだった。レオナのベホマで意識を取り戻したものの朦朧状態である。
「ヒュンケル、もう帰ろう。あなたの好きなシチュー作ってあげるから…」
ヴェルザーがエイミに与えたダメージは甚大であり、いかにレオナのベホマでもまだ全快には程遠い。剣を杖に立ち上がり夫ヒュンケルを見ているだけである。
「ふん、死に損ないの小娘が何を勘違いしておるか。まだ分からんのか。俺はヒュンケルではなく、ヴェルザーとあれだけ…」
(…違う)
「……?」
(俺はヒュンケルだ…)
「な…?」
ヴェルザーに激烈な頭痛が襲った。
「何だ…この痛み…!」
(痛み…?俺はお前に痛みなど感じるとは思わんがな…)
「おのれ小僧!今まで隠れておったか…!」
(そうだ…。ずっと潜み続け、機会を待った。ポップたちの攻撃によりお前に焦りが生じた瞬間…それこそが俺の待ち続けた好機…!出て行けヴェルザー!)
「小僧…!」
(俺の妻を傷つけた落とし前も、つけてもらうぞ!)
ヴェルザーの髪の毛が黒髪、銀髪と交互に変わる。レオナがエイミを支えてアバンたちの元に歩んできた。
「先生!」
「そうだ、姫。やはりヒュンケルは機会を待っていた。今、彼はよみがえろうとしている」
「不死身の称号は伊達じゃないってか」
と、ポップ。
「だが、まだ黒髪の時間のほうが長い…。その娘の呼びかけがもっと強ければ…ん?」
「どうしたの?ロン」
「その娘…目が!」
「え!?」
「ヒュンケル…」
エイミの目は開いている。だが焦点が全然合っていない。
「そんな…!ベホマをかけたのに!」
「壁に激突した衝撃で、脳内の視力を司る箇所を破損したのか」
アバンがすぐにエイミにベホマをかけるが、やはりエイミの視力は戻らない。
「何てことなの…。やっとヒュンケルが覚醒するかもしれないのに…。今度はエイミの光が奪われるなんて…!」
愕然としてレオナは膝を地につけた。エイミは再びフラフラと苦悶するヴェルザーに歩んでいく。
「ねえ…ヒュンケル。いいニュースがあるの。あなたが研究したオーザムの冷害にも負けない麦、大学会議で発表出来なかったから、私オーザムの国王にレジュメの写本を渡したの…。そしたら、その王様なんて言ったと思う?」
目が見えないのに、エイミはフラフラとヴェルザーの元に歩いていった。ヴェルザーは自分の体の中にいるヒュンケルと戦って苦悶している。
「ヒュンケル殿を最上の礼をもってオーザムに迎えたいだって…!あなたの学説と麦は認めてもらえたのよ!」
エイミの言葉のたびに体内のヒュンケルの意識は増幅していく。ヴェルザーの眼球もすでに赤い色を発してはいなかった。
「ぐっ、くく…こっ、この小娘が!」
憎々しくエイミを見るヴェルザー。
「さあ一緒に帰ろう…あなた」
「だまれえ!」
ヴェルザーはたまらずエイミに剣を突きつけようとした、その瞬間、ヴェルザーの髪が完全に銀髪へと変わった。
「ぐああああっっ!!」
(出て行け…ヴェルザー!)
「愚かな…!俺が体外に出る衝撃、貴様に耐えられると思うか!」
それと同時にエイミも睨むヴェルザー。
「あぶない!」
ロンはヴェルザーに近づくように歩くエイミを抱きかかえて急ぎ離れた。
ヴェルザーを宿すヒュンケルの体が光る。その光の正体。それを忘れもしないポップがその名を言った。
「ドラゴニックオーラ!?」
「くっくくくく。そうだ、バランそしてダイも使う竜闘気ドラゴニックオーラ…。これが俺とヒュンケルを無理に離そうとすると、ヒュンケルが死ぬと言う答えだ…」
「ヒュンケル…!」
「やってくれたな小娘が…!よもや貴様ごときに俺の呪縛を解き放たれようとはな…!ロンごと…死ぬがいい!」
ヒュンケルの体はドラゴニックオーラに包まれだした。桁違いの闘気エネルギー、それがヴェルザーの精神体ならば、ヒュンケルの肉体離脱時にそれはほぼ無防備の状態で直撃となる。ヒュンケルの髪はすでに銀髪に戻り、眼球は黒い。ヴェルザーの呪縛は解かれたと分かる。
しかしそれに伴う代償は大きすぎた。ヒュンケルはドラゴニックオーラに包まれ、もう意識がない。
「ふっははははは、そらヒュンケルの妻よ、夫の体を返してやるぞ。死体でよければなあ!」
肉体離脱と同時に、ドラゴニックオーラはすさまじい衝撃波を放った。まさに大爆発。その場にいた者は吹っ飛んだ。ドラゴニックオーラではなく、衝撃波による爆風であったが、そのダメージは甚大であった。
ポップとラーハルトはレオナを庇うように吹っ飛ばされたが、その甲斐むなしくレオナは意識を失っている。
「ふっははははは!」
アバンは見た。その笑いの主を。
「なんと…」
「そうだ、アバン。冥竜王ヴェルザーの精神体の正体…!それはドラゴニックオーラ生命体だったのだ!」
「そんな…」
「おや?今の爆発でロンは戦闘不能になったようだな」
ロンはエイミを庇って爆風を受けた。エイミは再び失神し、ロンのダメージも大きい。アバンはベホマラーを唱えるが、外傷の傷が治癒されていくだけで肉体の中までのダメージはそうアバンの回復呪文でも治らない。止血程度にしかならなかったが、現時点では最高の応急処置である。
「ふっははははは!だがまだ勝負はついておらぬ。俺の肉体はこの地上にある。光栄に思うがいい。貴様らは冥竜王ヴェルザーの真の姿にまみえることができるのだからな!」