ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第四十二話 アムド!!

地上が一瞬で夜に包まれた。いや夜と言うのも生ぬるいほどの暗黒のカーテンに包まれたと言った方が正しいか。竜王の間にいる者たちは肌で感じた、その夜の到来と共に禍々しい邪気の風が吹いていることを。

 

テランの湖、竜の神殿があるこの湖の湖面が激しく波を打つ。そして湖の中心から天に伸びる水柱が吹き出した。

その水柱の中に赤く光る玉がある。それが冥竜城に向かっていった。そしてそれは冥竜城の竜王の間の天井を貫き、ヴェルザーの元に到達した。

 

「ふっははははははっ!」

ドラゴニックオーラ生命体のヴェルザーと赤い玉は融合した。

「見るがいい、我が真の姿を!恐れよ、そして後悔せよ!俺に戦いを挑んだことを!」

 

ドラゴニックオーラと赤い光は徐々に形を成していく。手と足と羽と尾、そして恐るべき形相の竜の顔。

「これが…」

汗がとめどなく流れるアバンとポップ。すでに先ほどのドラゴニックオーラの爆風に伴いレオナとエイミの意識はない。立ち上がっているのはアバンとポップだけである。ロンとラーハルトは意識が朦朧としていたが、目はしっかりとヴェルザーを向いている。

 

ヒムが目を覚ました。ヴェルザーの怪光線を受けつつも息はあった。

「う…うう…」

全身がボロボロであった。動けば体を成している金属がポロポロと落ちていった。そして見た。銀髪のヒュンケルを。ヴェルザーと分離したことを理解したヒム。

「…ヒュンケル…!」

だがドラゴニックオーラの直撃を受けたヒュンケルに意識はない。彼は奇跡的にもヴェルザーがもたらした衝撃から耐え切った。おそらくはドラゴニックオーラが体内で炸裂する際、彼自身がずっと雌伏の日々に練っていた闘気を自己防御のため使ったのであろう。しかし、そんなことはヒムが知るはずもない。

自分の闘気を防御に回したとはいえ、ドラゴニックオーラの直撃を受けたのである。辛うじてヒュンケルに脈はあるが、死んでいないのは奇跡に等しい。

「うう…」

 

「おお?ヒュンケルはまだ生きているか?全く人間のしぶとさには恐れ入る」

やがて、ヴェルザーの体は光から肉体をなし、徐々に竜の体らしく強固な鱗に覆われていった。

「ふっはははははははっ!」

赤い眼球が光る。鋭い爪は鉄をも切り裂く剛爪。鱗の強固さは鋼。

 

冥竜王ヴェルザーが現れた!

 

「我こそは冥竜王ヴェルザーなり!さあかかってこい!」

竜の咆哮が天に轟かんばかりに響いた。そんな喧騒の中、ヒムは腹ばいになってヒュンケルに近づいていった。

「はあはあ…」

「うっ、うう…」

ヒュンケルの意識は薄れ掛けていた。

「ヒュンケル…生きているか…」

「う…」

ヒムはうつ伏せで倒れているヒュンケルに触れた。

「ヒュンケル…。これが、これが…俺とお前の末路なのか…?」

「う、うう…ヒ…ム…」

「だとしたら、あんまり惨めすぎるぜ…!」

ヒュンケルは何とか目を開けた。

 

「ヒ…ム…」

「ヒュンケル…!」

「最期にお前と再会出来て…良かった」

「あきらめんな、馬鹿野郎!」

「もう…俺の体は…」

「俺の命をやる」

「な、なに…?」

「聴け、いい考えがある。糞ヴェルザーをぶっ倒せる…いい作戦がな」

「な…?」

ヒムは息も絶え絶えながらヒュンケルに秘策を説明した。

「そ、そんなことをすれば、お前の命が…」

「くれてやると言っただろう。このままじゃ二人とも死んじまう。あの糞ヴェルザーに一矢でも報いてやらにゃあ…俺は死んでも死にきれねえ!」

「ヒム…」

ヒムはヒュンケルを仰向けにさせた。

「さっさと言えっ、俺が死んでからじゃ意味が無くなる。言うんだ!」

「ヒム…」

「なんだ?」

「ありがとう…戦友よ」

「水くさいこと言うな…戦友よ…」

 

「「忘れない…」」

 

ヒュンケルは自分に触れるヒムの手を握り締めた。ヒムは微笑む。ヒュンケルも。

そして最後の力を振り絞り、ヒュンケルは吼えた。

 

「アムド!!」

 

ヒムの体が金色に輝いた。そしてそれは天に登り、再びヒュンケルに降り注いだ。

ヒムは自分自身が金色に輝き、そして命の炎が燃焼するのが分かった。苦痛も何もない。まるで彼の旧主ハドラーは後にこんな場面が来ることを分かっていたかのように。

 

倒れるヒュンケルに、ヒムは動けない体を腹ばいで引きずり近寄った。その時だった。彼に強烈な記憶がよみがえった。それは勇者ダイとの最終決戦前、ハドラーの部屋でのこと。

『ハドラー様、アバンの使徒打倒のため、いつでも俺を盾と鎧として下さい!』

『いいや、お前は剣として使う。俺にはもう自分の身を守る防具など必要ないからな』

『はあ』

『だが、ヒムが鎧や盾になってくれたら心強いな。そうだ、お前に一つキーワードを言っておくとしよう』

『キーワードですか?』

『お前が俺に触れて、俺がある言葉を言った時…』

ハドラーとの会話、戦い前のほんの雑談とも言っていい話であるが、それがヒムの脳裏に鮮明によみがえった。

「そうだ、あの時…」

 

『よいか、ヒム。お前が心の底から、この人物を守りたいと念じて触れる。そしてキーワードの【アムド】を、その人物が言った時、お前は強固な武具として転生することが出来る』

『ハドラー様の武具になれるなら!』

『いや、俺にはそんな機会は訪れまい。ヒムが転生した武具を纏うのは俺以外の者だろう』

『ハドラー様以外の者に纏うことなど!』

『はははは、分からんぞ』

 

(まさか…本当にハドラー様以外の者に纏うなんて、あの時の俺からじゃ考えられなかったな。だが悔いはない…。最強の敵手であり…そして戦友を守れるのだから…)

ヒムの意識はどんどん薄れていく。ヒュンケルを包む黄金の光から金属の接合する音が響く。さきほどロンに砕かれて落ちた腕も同様に輝き、それはヒュンケルの傍らに飛んでいき、研ぎ澄まされた長剣となった。ヒムがヒュンケルの兜、鎧、盾、そして剣に変身したのである。

そしてヒムから生命力を譲り受けたかのように、ヒュンケルは力強く起き上がった。

 

「なんだと…あの死にぞこないが!」

ヒュンケルは『ヒムの剣』を手にし、ヴェルザーに突きつけた。

「覚悟を決めろ、ヴェルザー…」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

マァムはまだ、亡き父が装備していた赤い鎧と共にいた。敵か味方の攻撃か分からないが爆発音がした。激しい戦闘であることはマァムにも分かる。だが、もう闘志が湧かない。ヴェルザーがいる竜王の間を見つつ、父の鎧を愛しく撫でている。

 

「レッドは死んだのね」

声の主を見て、マァムは驚いた。

「ア…アルビナス!」

「そんなに似ているのかしら?」

「…ええ」

「話せば長くなるけど…前大戦で貴女が戦ったハドラー親衛騎団の女王アルビナスは私の容貌を元にハドラーが作ったのよ。もっとも私は女王のように強くはないけれどね」

「本当に似ている…。貴女は?」

「私は精霊カトレア。レッドにはアグリッサと名乗っていたけれど」

「アグリッサ…!では父を超魔生物にしたのは!」

「ええ、私」

 

父の人生を狂わせた女。魂の貝殻から聞いた父ロカの述懐からマァムはそう受け取っている。拳を握り精霊カトレアを睨むマァム。そのカトレアは愛しそうにロカが装備していた鎧を撫でていた。

「いいわ、撃ちなさい。レッドの娘に討たれるのなら、それもいい」

父の人生を狂わせた女、自分が父と戦ったことも元を辿れば彼女の陰謀から端を発している。それと同時に父の命を助けたことも事実。理由はどうあれ父を病魔から助けてくれたのも紛れもなく目の前にいる女なのだ。

そして、もはや抵抗すらしようとせず父の鎧を愛しそうに撫でる精霊カトレアを見て、マァムの戦意は薄れていく。

 

「レッド、いえ戦士ロカはね…。もう余命幾ばくも無かったのよ」

「え?」

「ハドラーもダイとの最終決戦前、血を吐いたと言うけれどもレッドもそうだった。カールに攻め込み、この冥竜城に戻ってきた直後に尋常ではない吐血をしたの。本人はそれを隠していたけれどね」

「では…」

「本来戦場に立てる体ではなかった」

「父さんはやはりわざと私に負けたのね…」

「それは分からない…」

「え?」

「でも分かっていることはある。ハドラーはアバンの使徒打倒のために命を捨てて戦った。レッドは愛する娘に倒されるために戦場に立った。ハドラーは勝利のために。レッドは倒されるために戦った。それだけのことよ」

 

やがて精霊カトレアはロカの赤い鎧に魔法を放った。

「なにを…!」

その魔法により破損していた鎧は筒状の武具に変形していった。カトレアは魔法で用を成していない鎧の金属を使い、新たに武具を作ったのである。

「これ…魔甲拳!」

一つの紋章が新たな魔甲拳に刻まれていた。カール騎士団の紋章、父ロカの誇りである。

「利き腕の装備に合うようにしておいたわ。レッド、いえお父さんが守ってくれるかもね」

「カトレア…」

「さ、行きなさい。戦うにせよ戦わないにせよ、貴女はこの戦いを最後まで見届けるべき者なのだから」

「……」

マァムは先ほど悲しみに任せて地に投げつけた魔甲拳を左腕にとりつけ、右腕にカトレアから渡された魔甲拳を装備した。

 

「アムド!!」

 

二つの魔甲拳が同時にその言葉に命を与えられたように花開く。ロンが作った白銀の魔甲拳と紅蓮の炎の色である魔甲拳の色が調和をもってマァムを包む。肩のプロテクターには左に師ブロキーナの文字『武』。右には父の誇りであるカール騎士団の紋章が記されている。そして左右の四本の指にナックルを装備した。

「似合うわよ」

マァムは精霊カトレアの言葉に微笑み、その場を走り去った。向かう先はヴェルザーがいる竜王の間。マァムの目にもう涙はない。

父の鎧が自分を包む。父ロカが守ってくれているような、そんな高揚感の中マァムは駆けた。そのマァムの後ろ姿を見つめる精霊カトレア。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「敵に武器を作って差し上げるなんて、アグリッサ様もヤキがまわりましたか?」

「ヘル…」

ヘルヴェルザーが城壁から浮き出るように姿を現した。

「なんの用?」

「冷たい言い草ですね。僕を作ったのは貴女ですよ。言ってみればアグリッサ様の息子も同じでしょう?」

「失敗作に用はないのよ」

「サリーヌ様も同様で?」

「……」

「主人から伝言です」

「へえ、何て?」

「『死ね、中古女』以上です」

まるで、その言葉を分かっていたかのように精霊カトレアは笑った。

「ふふ…相変わらず口の悪い娘ね」

「それで、僕がその命令の実行者なんですが…死んでください」

「そうね、もういいわ…。斬りなさい」

「最後に言い残すことがあれば、僕が伝えますが?」

「ではサリーヌに伝えて」

「はい」

「『あばずれのメス豚』とね」

「それはご勘弁下さい。そのまま伝えたら僕がサリーヌ様に殺されてしまいます」

「それもそうね…ふふ…」

「では…」

 

ヘルヴェルザーの大鎌は振り下ろされた。アグリッサこと、精霊カトレアの首はポトリと地に落ちた。何の抵抗もせずに彼女は斬られた。

首が落とされてもわずかな時間だけ意識はあるままだと言う。自分の首が地に落ちて、死に至るまで彼女が考えたことは何だったのか。実の娘であるサリーヌの刺客によって殺される彼女の胸中はどんなものだったのか。それは彼女しか分からない。

かつて竜戦士ヴェルザーを愛し、冥竜王ヴェルザーを封印した精霊でもある天界の精霊カトレアは長くも、そして薄幸な生涯をここに閉じた。




ヒムがヒュンケルの武器と防具に変化すると言う設定は昨日今日思いついたものではなく、ダイの大冒険が少年ジャンプに連載中に私が予想していたものです。バーンの前に辿り着いた時のヒュンケルは丸腰のうえ防具も身に付けていませんでした。こりゃあヒムがヒュンケルの武器と防具に変身するに違いない。はらたいらさんに3000点だ。

と、思っていたのに、そんな展開はありませんでした。なら、自分がこのエレガントビューティーな設定を使うしかないと思い、こうしてお披露目出来ました。
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