ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第四十三話 死闘

体躯は、さながら山。そして深紅に光る眼球が放つ恐ろしいほどの威圧に溢れた視線。爪と歯は研ぎ澄まされた大剣のごとくの鋭利さ。

ヴェルザー自身が何の動きもしていなくても対する者は恐怖に縛られるだろう。だがヒュンケルはそんなヴェルザーの圧迫を流し、静かに立ちヴェルザーを睨む。ヴェルザーも今まで自分であったヒュンケルを静かに見つめていた。

 

ポップはロンとラーハルトに回復魔法を使い、急ぎ倒れているエイミとレオナを戦いの間合いから遠ざけベホマを。ポップの行動に気づいていないはずのないヴェルザーだが、彼もまたバーンと同じで、本体となったからには敵手にそれなりに楽しませてもらいたい、そう思ったのではないだろうか。油断なのか自信なのか、仲間の治療に当たるポップを黙って見過ごしていた。

またアバンは自分とポップにシルバーフェザーを刺し、魔法力の回復を図った。無論ヴェルザーはアバンの行動も黙って見過ごしている。

「すごい自信ですね…。私たちが回復するのを黙って待っている。それともヒュンケルとの睨み合いで戦気を高めているのか…」

「ふん、魔王級の強さを持つ者の悪い癖だ。『豚は太らせてから食う』のが趣味のようだ」

忌々しそうにロンは立ち上がった。

「特にドラゴンは孤高を好み、好戦的だ。我々との戦いを楽しみたいと思っているのだろう。望むところだ。その高いところから見下ろす偉そうなツラ。恐怖で引きつらせてやる」

ペッとラーハルトは唾を吐いた。装備は破損だらけであるが、体力と魔法力は回復した。

 

そしてヒュンケルとヴェルザーはまだ静かに睨みあっている。ヒュンケルの闘気が高まる。

「人の体を好き勝手使ってくれたばかりか…妻エイミの光を奪い、そして俺の戦友に度重なる侮辱を与えてきた貴様を許すことは出来ん。斬る!」

ヒムの銀髪が兜からバサリと垂れた。完全にヒムはヒュンケルの武具に変身したのである。

その鎧は白銀に輝く。オリハルコンはこの世で最強の強度を持つ金属。まさに考えられる最強の装備である。

「俺に命を与え…この身を守ってくれる戦友のためにも…!」

 

「ふん、虚勢はよせ。たとえヒムが命を貴様にくれてやった結果がベホマやメガザルに匹敵するほどの回復をもたらせようと、お前の体は俺と離れたおかげで再び戦闘不能に近いダメージを負ったはずだ。立っているのもやっとであろう」

「それがどうした。俺のすべての骨に再び微細なヒビが入ろうと、この身を包む戦友の魂が補ってくれている。人のことより自分の心配をするがいい!ヴェルザー!」

「ほざけ若僧っ!」

 

ヴェルザーの口が光に包まれた。

「輝く息だ!散れ!」

アバンの指示で全員が散る。しかし本体のヴェルザーの『輝く息』は人間の姿の時と違い一呼吸の溜めがない。瞬時にそれは吐き出された。

 

この息吹だけは、マホカンタもロン・ベルクの鎧も無効化は不可能である。闘気技でもなく、魔法力を含む息吹ではない。桁違いの高温の熱風である。単純なものであるが、それゆえに高密度である。

直撃すれば瞬時に塵と化し、しかも広範囲である。竜王の間は当然ながら室内である。避けるにも限界がある。ポップは仲間たちを一箇所に集めフバーハとマヒャドを同時に唱えて、即席だが氷の小ドームを作り仲間たちをすべてそこに入れた。それでもすごい熱さである。

 

「そんなものは無駄だ。そんな小細工を弄すにも貴様らは魔法力をどんどん使う。だが、この息吹は無限に出すことが可能なのだからな。魔法力が尽きた時、貴様らは蒸気と化すのだ」

そしてヴェルザーの右手のつま先が光る。ポップは戦慄した。

「ダークマター!?」

「そのとおり。『フバーハ』は炎熱と冷気のみ対応の防御結界。炎熱でも冷気でもない『冥』のエネルギーをどう受け止める?海商王よ」

ポップは現在フバーハとマヒャドを同時に唱えている。マホカンタは唱えられていない。そして一瞬でもマヒャドを解除すればフバーハの結界ごと蒸気と化してしまう。

「先生…ッ!マホカンタをフバーハの外周に!」

アバンはポップに言われるまでもなくマホカンタの詠唱をしていた。しかしダークマターもまた一呼吸の溜めもなく、すぐに発射された。しかも左右の手から同時に発射された。

「遅いわ!」

 

だがヒュンケルがダークマターの前に立った。

「い、いかんヒュンケル!たとえオリハルコンでも衝撃まで無効化はしない!吹っ飛ぶぞ!」

ラーハルトがフバーハの結界の中からヒュンケルに叫んだ。だがヒュンケルは退かなかった。

 

ダークマター二発がヒュンケルに直撃した。

「ふっはははははははっっ!オリハルコンの鎧の防備を過信したな!確かにダークマターそのもののエネルギーによるダメージはなかろうが、その衝撃により貴様は…ッ!?」

ヒュンケルの体が冥のエネルギーであるダークマターに包まれていく。しかしヒュンケルは微動だにしていない。

「あ、あれは!」

ポップが叫ぶ。

「シャハルの鏡!」

「どうやら、シグマの魂も加勢してくれているようだ。ポップ」

ふっ、とヒュンケルは笑った。彼は左腕に装備されている盾をダークマターに向けていた。その盾はかつてあらゆる呪文を跳ね返すシャハルの鏡そのものだった。

「馬鹿な…!」

赤い眼球の瞳孔が驚きのあまり開いた。

 

「跳ね返せえっ!」

跳ね返ったダークマターはヒュンケルの声に応えるかのように『輝く息』の強風をものともせずにヴェルザーに向った。

「ちいいいいッッ!」

たまらず『輝く息』の放出をやめたヴェルザー。そして同時にヒュンケルは走る。

 

「うおおおッッ!」

自分の放ったダークマター二発がヴェルザーに直撃した。ヒュンケルはその隙を見逃さない。走りながらヒュンケルは構えた。アバン流の奥義の構え。師アバンとて、ヒュンケルがあの技を使うのを初めて見る。ヒュンケルはこう言ったことがある。

『使おうと思えば使える、だが俺はそう呼ばないだろう』

だが、それは師に対し顔向けが出来ないと己に課していた時、今は違う。彼はアバンの使徒の長兄として、一番弟子としての誇りを決して忘れない。師は言った。『あなたは私の誇りです』と。

だから今は堂々と言える。彼は放った。あの技を。

「アバンストラッシュ!」

 

ヴェルザーの下あごに強烈な斬撃が入った。ヒムの魂が宿る剣、すさまじい切れ味だった。

「うがああああッッ!」

下あごが吹っ飛んだ。完全に竜の口が立てに真っ二つに切れたわけではないが、もはやヴェルザーは歯を食いしばることができない。攻撃力の激減は否めない。

「おのれぇッ!小僧があッ!」

 

ヴェルザーの強力な拳がヒュンケルを直撃した。たとえ歯を食いしばれなくなったことで力の減少はしたものの、その巨腕の放つ鉄拳の威力はすさまじい。ヒュンケルは吹っ飛んだ。

 

「ベホ…ッ!」

すぐにヒュンケルに回復魔法を使おうとしたポップ。ロンとラーハルトにベホマラーを唱えていたアバンは光速のごとくしなるヴェルザーの尾に横なぎにされた。

「「ぐあああッッ!」」

特にポップのダメージは甚大である。他者と違い、魔法使いのポップの肉体は並みの人間より少し筋肉質になった程度の防御力しかない。装備もミスリル銀の『魔法の鎧』『ミスリルヘルム』である。盾は『水鏡の盾』であるが、それで尾を受け止めたとして衝撃まで盾は面倒見てくれない。

何より、その三つの装備一連は先刻に全体凍結された時に防御力は弱まってしまった。尾の直撃に耐えられるものではない。

「ポップ!」

急ぎ自分に回復魔法をかけたアバンがポップに駆け寄る。

「大丈夫ですか、ポップ!」

「うう…」

しかし状況はポップの治療に当たらせる時間を与えない。アバンは応急処置にホイミだけ唱えてポップを抱きかかえ、再びヴェルザーに対した。尾の攻撃でロンとラーハルトは再び倒れるが、彼らは何とか立ち上がった。

 

「厄介だな、あの尻尾」

ロンは口に溜まった血を吐いた。中には歯も混じっている。

「ああ、だが攻撃の軌跡は横なぎ一閃で単調だ。次に来た瞬間を捕らえて槍を刺してやる」

「無駄だ。ドラゴンの尾にはさほど痛感神経は行き渡っていない。刺したとて結果は同じだ」

「ならどうしろと」

「根元から切るか折るしかない。そうしなければ我々はヴェルザーの間合いにも入れんぞ」

 

ヒュンケルも起き上がり、再びヴェルザーと対するアバン、ヒュンケル、ロン、ラーハルト。しかもアバンはポップを抱きかかえている。

「ふっははははは、いいのかアバン?弟子を庇っていると貴様が死ぬぞ」

「ふっ、ポップを間合いから遠ざければ貴方は真っ先にポップを殺すはず。貴方が一番に恐れているのは私でもヒュンケルでもない、ポップなのですから」

「ふっふふふ…。ああ、その通りかもしれんな。しかし、それはメドローアを使えられる状態の彼に限定されている。今なら貴様ごと殺せるわ」

 

輝く息、ダークマター、尾の一閃、どれをとっても隙がない。ダークマターの反射とヒュンケルのアバンストラッシュでヴェルザーにもダメージはあるが、全体的に見てまだ軽微なダメージしか与えられていないのが現状である。

どの攻撃で来るか、ヴェルザーと四人の勇士たちは静かに対峙する。そしてヴェルザーが取った攻撃。それは尾の一閃だった。

「来たぞ!跳躍で避けろ!」

だが尾は右と左と、まさにドラゴンの咆哮のごとく襲い掛かる。しかも当たればアバンたちはともかくポップは即死である。

体すべてを動かして避けに徹しなければならない四人。まったく攻撃へ転じられる隙がない。ラーハルトが、ロンが、ヒュンケルがやがて避けきれずに吹っ飛ばされていく。アバンは懸命にポップを守る。

 

「くっ!」

「ふっははははっ、どうしたアバンよ。その程度の力で『大勇者』とは片腹痛いわ!」

アバンは避けながら徐々に後退していた。ポップはまだ意識がない。そして後退しながら尾の攻撃を避けるアバンにヴェルザーがさらに尾を伸ばしきって攻撃する瞬間だった。

 

「武神流・土竜昇破拳!」

 

「ぐっ、ぐあああああ―ッッ!」

ヴェルザーの尾が根元から折れた。

「ほっ、作戦成功…」

肩で息をしながらアバンは笑った。その笑顔にウインクして答える武闘家の女。

「小娘…ッ!貴様が…ッ!」

「…その通り、私は戦士ロカの娘マァム。アンタがヴェルザーね」

「我が尾が…いかなる名刀に勝る俺の尾が、貴様ごとき小娘が折っただと…っ!」

「途中で先生が徐々に後退しながら避けていることを気づかなかったの?わざと後退してアンタの尻尾が完全に伸びきって根元が脆弱になる瞬間、筋肉の伸縮により当然に臼のような骨が縦に繋がっている尻尾の脊椎は伸び、いわば張り詰めた弓の弦と同じになる。それなら私の土竜昇破拳で根元を破壊出来ると言うわけ。私がアンタの後ろにいて隙を伺っていることを見た先生と、とっさに目線で交わした作戦と言うことよ。油断したわね」

土竜昇破拳は武神流開祖ブロキーナの奥義であり、前大戦では不発に終わったとはいえブロキーナがミストバーンに炸裂させている。

本来は、地を叩き敵手を宙に浮かせ、術士系の仲間に絶好の呪文発射好機を与える技であるが、弟子のマァムは少し変化を加えた。敵手を宙に浮かせるほどの拳圧を、そのまま地に叩き込み直接的なダメージを与えると言うものである。

 

自分を睨むヴェルザーを無視してマァムはアバンに担がれているポップをアバンから引き摺り下ろした。

「ちょ…マァム、何をするので…」

ポップの横っ面を思い切り叩くマァム。

「起きなさい!何ノンキに寝ているの!」

 

パンパンパンパンドゴッ!

 

「ちょっとマァム…。それじゃ止めに」

「先生!こいつは甘やかしたら駄目!」

「う、ううう…」

「ほーら、目が覚めた」

「…本当ですね」

「ベホイミ」

マァムがポップにベホイミを唱えた。

「う…あいたた」

身に覚えのない頬の痛みに不思議に思いながらもポップは立ち上がった。

「な、なんだマァム。来ていたのか」

「まあね。さ、ここからが勝負よ、みんな!」

マァムの参戦、そしてあれほどに手を焼いた尾の攻撃を粉砕した事で士気は上がる。ロン、ラーハルト、ヒュンケルも立ち上がった。

「横っ面をはたく女神、健在か」

ふっ、とヒュンケルは笑った。

 

ふう、とヴェルザーは一呼吸ついた。尾の痛みを感じながらも臨戦体勢を整えるように両手を構える。剛爪がキラリと光る。まだ予断は許さない。一呼吸着いて、静かに自分たちを見るヴェルザーを見てロンは言った。

「油断するなよ、やつは冷静さを取り戻した」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

すでに竜王の間の天井はヴェルザーが精神体と肉体を合体させた時の衝撃で崩壊している。浮島にそびえ立つ冥竜城を囲む各国の船団たちはその巨躯を見て息を呑む。

「何たる巨体…!」

ロモス王レンドルは呆然と立ち尽くす。雨はまだまだ降り注ぐが、誰も船室に入ろうとはしなかった。聞こえるのは激しい雷鳴とヴェルザーの咆哮。見上げるような高さで稲光によって照らされるヴェルザーの姿は恐怖だった。

全船団は『輝く息』の間合いギリギリで待機している。だがヴェルザーの咆哮はその場にいた者の耳に轟く。

 

最終決戦が眼前で行われているのだ。また、戦いの直前にヴェルザーの間から飛ばされたでろりんやバロン、マリンたちもその船団に救われた。魔法を封じられ、誰もトベルーラは使えなかったが最終決戦に備えて纏っていた防具が功を奏した。落ちるのが大地だったら即死の可能性もある高さだったが、全員なんとか命は助かった。船団に救われ、回復魔法で戦いのダメージから回復すると、彼らも冥竜城の戦いを船の上から見守った。

「あんた…」

でろりんは愛妻ずるぼんの肩を抱いた。

「もう…祈るしか出来ん…。信じよう!」

 

また別の船ではバロンが拳を握り、冥竜城を無念極まる目で見つめていた。

「何てこった…。姫とエイミはまだあそこだ!」

雷雲うずまく暗黒の空。そこから怒号のごとく降り注ぐ冷たい雨。バロン、マリン、アポロはその雨に打たれ、冥竜城を見つめる。

助けに行きたい。それに自分たちでは戦力的に貢献できない。かえって足手まといになる可能性が高い。バロンは甲板を拳で叩いた。

「くそっ、不意を衝かれたとは言え戦場に姫を置いてきてしまうとは…!」

「バロン…」

「アポロ、お前のトベルーラで戻ろう。せめて戦いの喧騒をぬって姫とエイミだけでも連れ帰ろう。あんな巨体が暴れていたのではいつ踏み殺されてしまうか分からんぞ!」

「そうだな、すぐに行こう」

「待ってあなた、バロン!危険よ!」

「それは承知だ、しかし、このまま手をこまねいているわけにもいくまい!」

自分の腕を掴むマリンの手をアポロは振り解いた。そしてアポロとバロンの体がトベルーラの魔法力に覆われたときだった。

 

「お待ち下さい、アポロ殿、バロン殿。本陣より命令が届いています!」

それはノヴァだった。そして彼の手によりトベルーラの魔法はかき消されてしまった。

「何をなさるか!」

「落ち着いて下さいバロン殿、いま我々があの戦場に行って何が出来るのですか。元々私たちの役目はいかにしてポップやアバン公を無傷に近い状態でヴェルザーの元に辿り付かせるかでございましょう。辿りつかせたら戦線離脱、これもアバン公の命令にあったはずです」

「しかし現実、姫とエイミはあの戦場に取り残されているのです。せめて彼女たちだけでも助け出さないと!」

「信じるしかありません。わが師ロン、アバン公、ポップ、ラーハルトがついていてむざむざお二人を死なせるはずがありません。それに本陣の命令も軽視できるものではございません」

「しかし…!」

いつも冷静なバロンが尋常でないほどに取り乱している。だがノヴァはそれに答えず静かに言った。

「アポロ殿、マリン殿、バロン殿」

「な、何でしょう」

気が昂っているバロンとアポロに代わりマリンが応じた。

「本陣の妃殿下から主なる戦士は集まるようにと命令書が届いています。アポロ殿、マリン殿、バロン殿も列記されていますので、至急メルルの旗艦ナバラに乗ってください。本陣に引き上げます」

「な、何を言っているんですか!私の話を聞いていたのですか!助けに行かなければ!」

ノヴァはバロンの言葉を制した。

「いえ、この指示は私にも心当たりがあります。実は…」

 

本陣で起きたヘルヴェルザーの騒動を簡潔に話した。

アポロ、マリン、バロンはノヴァの言葉を唖然として聞いた。

「キルバーンと同タイプのサイボーグだって?しかも一つ目ピエロの使役を要しない!?」

「そうですアポロ殿。彼から渡されたメモを見た時のフローラ様とメルルの驚きは尋常じゃなかった。何せ失神してしまったのですから。私はお二人が気づかれる前に前線にやってきましたので、その後の情報は知りませんが、こんな火急の時に戦士たちを招集すると言うことは、よほどのことでしょう」

「ノヴァ殿、それはヴェルザーが関与していることなのでしょうか?」

バロンの問いかけにノヴァは首を振った。

「わかりません、でも関与していることを私は願います」

「願う?」

「だってそうでしょう。ヴェルザーが関与していないと言うことは、まだ邪悪の勢力が別に存在すると言うことですよ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ヴェルザーの力は強大であった。尾による全体攻撃、彼は折れていようが平気で使ってきた。

使うたびに自身にダメージはあるだろうが、彼に取り少しの痛みで使うことを放棄できるような武器ではない。そして巨体にそぐわぬ俊敏な動き。単純な拳の繰り出しが、さながら雷神の槌のようである。

 

「「ぐああああッッ!」」

ヴェルザーは冷静だった。そして油断ももはやない。自分の拳で吹っ飛びダメージ著しいアバンたちに対しても構えはけして解かなかった。

「はあはあ…」

アバン、ロン、ラーハルト、ポップ、マァム、ヒュンケルは肩で息をしていた。ダメージは与えている。ヴェルザー自身も呼吸が荒くなっている。せめてバーンと違い、ヴェルザーに回復魔法の会得がなかったのが幸いである。

スクルトやピオリム、バイキルト、フバーハでこちらの防御と攻撃の補助呪文を唱えてもそれはヴェルザーの『凍てつく波動』ですべてかき消された。ロン、ラーハルト、マァムの鎧もあちこちとヒビが割れており、ポップとアバン、マァムの魔法力もそろそろ底が見え出した。

 

「どうした…。もう終わりか人間ども…。これならバラン一人の方がよほど強かったぞ」

「くそ…。なんて化け物だ。あんなに出血もしているのに…まるで全然堪えていねえみたいだ…。だてに冥竜王は名乗っていねえってことか」

「いや、ポップ、効いている。だが、やつにとっては軽微なダメージが積み重なっているだけで、決定的なダメージを与えられていないだけだ…」

ヒュンケルの体は徐々に悲鳴を上げてきた。体中が痛い。立っているのもやっとの状態である。

下唇を噛み、戦場の外で倒れる愛妻を見つめ、そして考える。アバンストラッシュも、ロンの烈蹴も、マァムの多彩な武神流の攻撃も、それはヴェルザーに軽微なダメージを負わせただけだった。ヴェルザーが一番に警戒しているのはポップのメドローアである。

全員でその魔法力を練る時間を作り出そうとしても、それはヴェルザーが許さなかった。あと残す攻撃は…。ヒュンケルは『ヒムの剣』を握った。

 

「師よ」

「ヒュンケル?」

「メドローアを囮に使いましょう。やつがもっとも恐れているのはポップのメドローア、それを逆用して注意をひきつける…!」

「…まさか、ヒュンケル」

「それしかありません」

「しかし、そんな体で撃てば…!」

「戦友も一緒です。それに…」

「それに…?」

「師よ、私はバーンの残した傷跡によって飢えて腹を空かせている人々を救いたいと思い、農学一筋に打ち込んで参りました。しかし、ここでヴェルザーを倒さなければ私の望む食料の実りはやつの息吹一つで消し飛んでしまう。私が、かつて不死騎団長として蹂躙したこの地上を緑豊かな田園にしたいと言う私の夢、いえ成すべき男子一生の仕事が奪われてしまう!私は世界の平和は無論のこと、自分の大望のためにも!やつは倒さなくてはならないのです!」

思わずアバンは胸が熱くなる。そして思った。

(…バルトス殿、あの世でいま見ておいでか。いま貴方の自慢の息子が言った言葉を聞きましたか。貴方は立派な男をお育てになられた。そしてよくぞ私に巡り合わせてくれました。感謝いたします…。そして私もこれに応えるのみです!)

 

「でもヒュンケル…!そんな体であれを…!」

マァムが止めるより早く、ポップは右に炎、左に氷の魔法を出した。

「マァム、先生、ロン、ラーハルト…生半可なことじゃ囮にやつもかからない。やつを翻弄させてくれ。残り全ての魔法力を込めてぶっぱなす!」

 

「何をぶつぶつ言っている。逃げ出す相談でもしているのか?」

竜の瞳がパーティーを見下ろした。

「へっ、今しがた貴様を仕留めるための作戦が決まったとこだよ。確実にこの作戦で貴様は俺たちに倒される。とっとと竜の爪で俺たちを一斉に始末することを薦めるぜ」

「ほほう」

ヴェルザーはポップの言葉にニヤリと笑うが、目はまったく笑っていない。

 

(バーン戦の時と同じく賭けに出たな、ポップのやつ)

ラーハルトは笑った。なまじ『輝く息』で攻撃されれば防御に徹するしかない。今まで、その『輝く息』のダメージを軽減してきたフバーハの呪文だが、これ以上使うと肝心のメドローアを放つ魔法力が無くなる。だが竜の巨腕による攻撃ならば巨体な分、動作に隙が出る。破壊力は『輝く息』よりも上であるが、ヴェルザーにはこちらの攻撃をしてくれた方がアバンたちには有利なのである。

しかし、バーンはこのポップの挑発に乗り天地魔闘を破られ、あげくダイに左腕を切り落とされている。ヴェルザーに迷いが生じた。

 

だがその時だった。アバンの顔が異形に変わった。

「行きますよ、皆さん!私たちの魔法力と体力も少ない!これ以上の消耗戦は避けなければなりません。ヒュンケルとポップの大技に全てを賭けて一斉に攻撃を仕掛けます!」

アバンは全身を震わせ、呪文を唱えだした。マァム、ロン、ラーハルトも闘気を高めた。アバンの髪が逆立つ。

「ドラゴラム…!」

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