ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第四十五話 到来した順番

「おい偽者」

ポップがダイに言った。

「俺のことかい、ポップ」

「気安く名前を呼ぶな。何を企んでいる」

「大したことじゃない、俺は竜の騎士として使命を果たしに来たんだよ」

「使命だ?」

「うん、竜の騎士って言うのは、この世にいる三種族、竜と魔そして人のいずれかが地上に厄災をもたらす存在となった時、それを討つのが使命と言うのは以前に話したよね」

バランとの戦いのあと、テランで療養していた時、確かにポップはダイからそれを聞いている。

「ああ、確かに聞いた」

「で、ヴェルザーは父さんに、バーンは俺に倒されてきた。竜と魔と続いたんだ」

 

アバンは背筋に寒いものを感じた。

「まさかダイくん…」

「そうです、先生。やっともう一つの種族に順番が回ってきた。つまり俺が倒す種族は…」

「人間…!?」

「その通り!あはははははっ!」

ダイの笑い声が壮絶な戦いを終えたばかりの冥竜王の間に響く。アバン、ポップ、ラーハルト、マァムは唖然としてダイを見た。ヒュンケルにはまだ意識がない。だがロンは辛うじて意識を取り戻して言った。

 

「これで分かったぞ…。何故『ダイの剣』の宝珠から輝きが消えたのが…」

「へえ、ロン。俺の剣から輝きが消えているのを初めて知ったよ。で、どう言う理由で?」

ヨロヨロと立ち上がり、ロンはダイに言った。

「お前は『ダイの剣』から見放されたのだ。我が使い手にあらずとな!」

「なるほど、でもかまわないさ。ダイの剣が無くても、この真魔剛竜剣が俺にはある。もっとも素手でも先生たちを倒せそうだけれど」

真魔剛竜剣を抜き、アバンに突きつけるダイ。

 

「り、理由を聞かせてくれ。ダイくん。何故私たち人間が竜の騎士に滅ぼさなければならないのか…!」

「理由も何も、さっき言ったではないですか『地上に厄災をもたらす者を討つ』これが竜の騎士の使命だと」

「俺たち人間がいつ地上に厄災をもたらした!それを言うならヴェルザーこそがそうだったんだろうが!」

「そうとも言えないよ、ポップ。今回ヴェルザーは彼自身知ってか知らずか、地上を救っているんだ」

「ふざけるな!やつはベンガーナを滅ぼした。かつて俺とおまえが守った地上を破壊しているんだぞ!」

 

「そのベンガーナだよ」

「な、なに?」

「知らないのかい?ベンガーナはカールを攻める気だったんだよ。ある強力な武器を手に入れた後に…ね」

「強力な武器…?」

「そう、この地上で先生とポップ、そして亡くなったマトリフさんしか知らない場所に在るもの」

「「………!!」」

アバンとポップは驚愕した。

 

「でも、俺はベンガーナの王様を責める気にはならないな。そこまでベンガーナ王を追い詰めたのは、先生、貴方だから」

「わ、私が…!?」

「隣国に優れた国王あり、その国王直属の騎士たちは世界最強の軍隊、そしてその国王の前身は勇者、その気になれば単騎でもベンガーナ王国を焦土に出来る者、おびえるのは当たり前じゃないか」

アバンの額に脂汗がにじむ。

「かつてハドラーを倒した後にカール王国に戻らずに下野したのは何のため?ハドラーを倒すほどの力が転じてカールに混乱をもたらすことを避けてのことでしょう?才気を表に出さず、伊達眼鏡をかけてひょうきんに振舞っていたのは何のため?他人の警戒やねたみを買わないためでしょう?だがバーンを倒した後に先生は国王に収まった。それも才能をフル活用して富国強兵にはげみ、領内では賢王と呼ばれる名君ぶり。しかし他国が、隣国がそれを歓迎するとは限らない。ベンガーナ王は頭の病を患ってから被害妄想著しく先生の影におびえだした。カールの情報力ならベンガーナ王のそう言う不安定な状態も周知だったはず。だけど先生はカールの繁栄のため隣国の警戒を無視し、ついに隣国の王に禁断の果実に手を出させるほどに追いやった。何てことはない、引き金は先生の無用心なのさ。隣国の王の小人ぶりを侮ったからだよ。賢王などと呼ばれ、その自慢の眼鏡が曇ってしまったんだ」

 

稲妻の剣を地に落としたアバン。弟子ダイの言葉に何の反論も出来なかった。ベンガーナ王クルテマッカ七世の病の後遺症は知っていた。前大戦当時の英邁ぶりは消え失せて暴君になってしまったと。

しかしアバンは見舞いの使者くらいしか出してない。知らない間に自分の統治力が隣国を怯えさせていたと言う事実は彼にとり衝撃だった。

ベンガーナは前大戦でほとんど攻撃を受けておらず裕福かつ大国。カールの発展など歯牙にもかけていないだろうと思っていた自分の認識をアバンは恥じて後悔した。

 

「私は…私は…!」

「先生、そんなもんは結果論に過ぎない。隣国の発展と、その君主の才能に怯えて攻め込もうなんて被害妄想もいいところだ。ダイの言うことは詭弁に」

「あっはははははははっ!!」

ダイは腹を抱えて笑い出した。

「おかしなことを言うんだね、ポップ」

「なんだと?」

「人間の中でも、そんな被害妄想を抱く狭量な小人たちこそが、この地上を支配しているのじゃないか。先生やポップのような才能を持つ人間の方が少ないのだろうし、そして狭量な小人たちは、一斉にその才のある者の足を引っ張る…。いや集団で殺しにかかる!」

ダイの顔がその瞬間険しくなった。

「かつてベンガーナで俺を白い眼で見た、あの連中のように!」

「ダイ…」

「そして、そして…その小人たちは俺の最愛の女性を殺したんだ!」

息を荒げてアバン、ポップ、ラーハルトを睨むダイ。

「竜の騎士は竜と魔と順に地上に野心を持つ者を倒してきた。そうやって一番脆弱な種族である人間を守ってきた。だが、それももう終わりだ。守る価値など無いものだったんだ。人間なんて」

 

「では…そのベンガーナ王の暴挙を天界が察知した、と言うわけですね。ダイ様」

「そうだよ。分かるかい、ラーハルト?実行されればどうなったと思う?カール王国が吹っ飛ぶだけじゃすまないんだよ。だが同時にそれはヴェルザーも察知していた。だから真っ先にベンガーナを攻めたのさ。ベンガーナ王が実行に移す前にね。無論のこと手に入れる予定の地上が魔界同様の世界になってはたまらないと言う気持ちの表れだろうが、それでも彼は地上をある意味では救っているんだ。いわばヴェルザーは地上の恩人。みんなはそれを殺しちゃうのだから、やはり人間は地上に厄災をもたらす種族だね」

「たった一人の暴挙のために、どうして竜の騎士が人間を滅ぼす理由になるんだよ!」

「たった一人の暴挙か。でもそんなもんなんじゃないのかいポップ?きっかけは些細なことでも、それが国や町を滅ぼした事例はあるよ。アルキード王国がそうじゃないか。父バランが純粋な人間じゃないってことで処刑を決めて、俺の母ソアラが犠牲になった。そして激怒した父に滅ぼされた。必ずしも歴史に変換をもたらした出来事が、その結果と同じくらいに大きな火種だったなんて事例の方が少ないと思うけどな」

「屁理屈を…!」

「じゃあポップ、逆に聞くけれども、もしカールかパプニカが、ベンガーナの暴挙を察知したとしたらどうしただろう?」

「そ、それは…!」

「そうヴェルザーと同じく、攻撃の大小の違いはあれども戦うしかない。別に王国間の戦争などは今始まったことじゃないし、ハドラー台頭前の人類の歴史なんて戦争ばかりだった。つまり人間は自分の正義の元に多くの同種である人間を殺している」

「確かにそうだ、だがそれは人間同士で解決するしか!」

「やれやれ、では少し見せようか?人間が正義の名の下にどれだけ殺戮をしているか」

ダイは手のひらに魔法力を集め、丸いスクリーンを作った。

「なんだ…!?」

 

それはダイとポップたちが初めて死の大地でハドラー親衛騎団と戦っている時の映像だった。画面の中のポップがメドローアを放った。親衛騎団がメドローアの光に包まれる。だが、その場面はすぐに転換された。ダイが見せたのはメドローアの放たれた先である。

親衛騎団の後ろにあった丘と森。そして海。メドローアは何ものも寄せ付けずに瞬時に消滅させていく。

そしてポップは見た。あの時に放ったメドローアに恐るべき真実が隠されていたことを。森の中に住む猿や鳥の動物たち、緑豊かな木々は瞬時に消滅し、海の中まで放たれたメドローアにより魚たちが次々に死んで浮かんでくる様を。ポップの顔から血の気が失せた。

 

「あ~あ、ずいぶんと罪のない動物や魚を殺しちゃって。しょうがない大魔道士様だね、ポップ」

「なんでこんなものを見せる…!」

「まだ分からない?人間が地上の害虫と言うことだよ。もしかすると天界は地上を人間以外のもの、たとえば動物とか純真なものに与えようとしているのじゃないかな?悪くないと思うよ、それは」

「ダイ…。貴様本気で言っているのか!」

「本気さ、さっきも言っただろ?俺の最愛の人は人間に殺された。父さんの気持ちが今ならよく分かる。守ってなんかやるべき存在じゃないんだ」

「歴史は繰り返すか…。ならば止めるしかありません」

魔槍を杖代わりにしてラーハルトは立った。

「止められるかい?ラーハルト」

「ダイ様…。私は貴方の父バランを主君であると同時に我が父とも思ってきた。貴方の前に最初に出た時、私は臣下の分をわきまえましたが同時に同じ父を持つ弟とさえ私は思っていました」

「光栄だね」

「今までのお言葉で、この数年でダイ様が味わったことは私にもだいたい分かりました。おそらくバラン様と同様な…悲しいことが」

「同情かい?」

「…私は貴方の臣下として、そして兄として止めましょう。命を賭けて…!」

「……」

「かつて貴方が父のバランを止めたように!」

 

ダイは口元をあげた。そして

「ベホマズン!」

勇者のみが使える最高回復呪文を使った。その場にいる者すべてが全回復した。ヒュンケル、マァム、ロンもそれで回復して意識を取り戻した。が、それと同時に、かつてバーンが使った眼力による宝玉化の呪文。バーンが『瞳』と呼んでいた宝玉の中にヒュンケル、マァム、ロンは閉じ込められた。

 

「な…!」

ポップはマァムが閉じ込められた瞳を拾った。

「心配いらないよポップ。バーンがやったやつと同じだ。覚えてみれば大した魔法ではなかったよ。魔力による産物にすぎないのだから」

「ダイ…。お前、気は確かか!」

「もちろんさ。ヒュンケル、マァム、ロンにはこの戦いの証人となってもらう。だからポップたちを殺したあと、とりあえずは殺さない。まだ地上にいるであろう人間たちにせいぜい派手に喧伝してもらうさ。お前たち人間の嫌われ者ダイが嫌われついでに竜の騎士の使命によって貴様たちを駆逐すると!はーははははははっっ!」

 

ダイの手には、さらにもう二つの宝玉があった。レオナとエイミが入っている。盲目となってしまっているエイミは今の状況がまったく分からない。まるで水中にいるかのように瞳の中の空間に体が翻弄されている。

「どうしたの、これは!ヒュンケル!姫様!どこにいるの!?」

 

宝玉から、もう一つ小さい声が聞こえる。レオナの叫びであった。涙声で懸命にダイに訴えていた。

最愛の人を殺されたと言うダイの言葉は聞こえていた。だが嫉妬心など湧かなかった。それどころではない。耐えられなかった。レオナにとって最愛のダイがバランと同じ運命を辿っていることが。自分たちの敵として現れたことが。

「ダイくん、気をしっかり持って!どんなつらいことがあったのか分からないけれど私がいる!きっとその心の傷を私が癒してあげる!だから!だから!私たちと戦うなんて言わないで!ダイくん!」

 

ダイはレオナとエイミの宝玉を無造作に捨てた。

「うるさいな、レオナ」

「ダイくん…!」

「ここにいるのは勇者ダイじゃない…。竜の騎士として使命を果たす、ただのダイだよ」

「姫さんに対して、よくも…偽ダイ!」

「俺は本物だよポップ。もう分かっているのだろう?」

「……」

「さあ、そろそろ体力も全回復しただろう。俺のベホマズンは特別製でね。魔法力さえ全回復する。めでたく振り出しに戻った。人間が正しいと言うのならば力で語ってほしいな」

「そりゃあどうも、余裕のつもりかよ!」

「かつてバーンも俺がレオナのベホマにより全回復するのを待っていたことがあった。今なら、その時のバーンの気持ちがよく分かる。もはや息も絶え絶えの者を討ってもつまらない」

「ダイくん…君は本当に我らと戦うつもりか…!」

アバンには躊躇いがあった。戦いたくない。出来ることなら、どんなつらい思いをしたのか聞かせて欲しい。聞いたうえなら説得出来るかもしれない。しかしダイは語ろうとしない。

 

「戦うのじゃありません、先生。排除するのです」

「ダイくん…!」

「しかし、心配はいりません。今まで竜の騎士は魔と竜の種族と戦ってきましたが、その種族を完全に絶滅させるに至るほど駆逐していません。だから少数の人間は生き残るでしょう。子孫を絶やさない程度に。そうだな、田舎の農村や漁村の一つか二つくらいは残しますよ」

 

「ダイ…てめえの飼い主はどこの誰だ!」

目に涙を浮かべているポップ。あまりに残酷な運命であった。あれほどに再会を望んでいた親友のダイ。今そのダイと戦わなければならない。ダイにとっては師、親友、そしてただ一人の部下と。だがダイはそんな戸惑いなど一切ない。

「竜の騎士に使命を与える者…。そんなの分かっているだろ?」

「分からねえから聞いているんだよ!マザードラゴンか!」

「竜の騎士は代々マザードラゴンによって生み出されているとある。しかし俺は一度バーンと戦って破れ、ほぼ絶命状態に至ったけれどもマザードラゴンが自分の命と引き換えに俺を蘇生させた。だからマザードラゴンはもう存在していない」

「では誰が…!」

「神さ」

「なんだと?」

「父バランが言っただろう?竜、魔、人の神が竜の騎士を作ったのだと。マザードラゴンは神々と竜の騎士当人の間に立っていたに過ぎない。地上の乱を鎮める最強の騎士は元々神々によって作られるのさ」

「では人間を駆逐しろとお前に命令したのは…!」

「そう、神々だ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ここはカール本陣、最初は主なる戦士だけ集めたが、ことの重大性からフローラは各国王も呼び寄せた。冥竜城の包囲はソアラ船団を中心に継続して行っている。

 

「交戦状態なのに、急遽みなさんを集めたのは他でもありません。ヴェルザーには別働隊がいました。いや、もしくは違う勢力か、いずれにせよ恐るべき陰謀が考えられます」

フローラの言葉に各国王と戦士たちは戦慄した。

「妃殿下、それは?」

リンガイア王ギリアムが訊ねる。フローラは壁に貼っておいた世界地図を指した。そしてヘルヴェルザーが置いていったメモを見せた。

このメモの内容をいち早く察したメルルはまだ本陣の医務室のベッドで横になり、カール王国給仕長マグダレーナの看護を受けている。

 

「あのヘルヴェルザーが残していったメモの内容。これは『ベンガーナ座標』です。ベンガーナが戦時にて敵方に場所を気取られないように独自に作った座標。そうですね、アキーム殿」

「はっ、そしてこの座標によると、そのヘルヴェルザーと言う男が指していた場所はここになります」

本陣にいた者全てがアキームの指す地を見る。

「死の大地…」

オーザム国王ライドが言った。アキームは頷く。

「そうです。それもかなり北端に近いところで、ご承知のとおり永久氷壁がそびえ立つ領域です」

「妃殿下、その地にいったい何があると言うのでしょうか」

ロモス国王レンドルは不安に感じながらも訊ねた。額に汗をにじませ、フローラは続けた。

「ヘルヴェルザーは、この地にある物はアバンとポップしか知らないと言っていました。我が夫アバン、今は亡き盟友マトリフ、両名の高弟ポップ、この三人しか知らないことはこの世に一つだけです。つまり、大魔王バーンがこの地上に残していった物…」

本陣にいた者たちは、フローラの言葉に凍りつく。

「そう、黒のコア…!」

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