ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第四十八話 メガザル

サリーヌを包む竜闘気は徐々に消えていった。

「ふう…」

「大丈夫ですか?サリーヌ様」

「ああ、パワーの制御方法も全て分かっている。そう教えてくれるのさ。勇者ダイのスキルがねえ!あっははははは!」

「サイヴァくん、サリーヌ様が勇者ダイと性行為をしたのは…」

「そう、竜の騎士としてのスキルを得るためだ」

「スキルを…」

「サリーヌ様は特殊な魔族で男の精液から、その男の持つスキルを得られる力をお持ちなのだ。少なからずこのようなパワーアップを続ければ肉体にその反動が襲い掛かってくるものだがサリーヌ様にはそれがない。サリーヌ様は魔族と精霊の混血であるため、このような能力を得たのではないかと思うが確証は無い」

「まあ、そんなのはどうでもいいさ。何にせよ、やらせるだけでその男の能力が得られるのだから安いもの。しかし、さすがは竜闘気、他の特技や呪文と違い摂取したと同時に発動は出来なかった。ずいぶんと待たされたけど、これであの最強の闘気技が私のものになった。早く使いたいね!うふふ」

 

『やらせるだけで能力が得られる。安いもの』

サリーヌが本心でこれを言っているのかはサイヴァも分からない。ただ言えることが主君サリーヌは『好きな男に抱かれる』というのを一度も経験してはいないだろう。何度も房事を共にした自分さえ、おそらくは魔族の女が本能で持ちうる旺盛な性欲の処理相手に過ぎない。

 

サリーヌは子供のころ母アグリッサ、つまり精霊カトレアに疎んじられていた。母と娘の愛情などなく互いに憎悪していた。父ザボエラのことも嫌悪していた。だから十歳の時に家を飛び出すが、すぐに魔族の男たちに捕らえられ凌辱の憂き目に遭う。悲惨な初体験であるが、サリーヌは男たちに輪姦されているうちに自分の中にどんどん力が湧いて来ることを感じた。使ったこともない呪文と特技が自分の脳裏に記されていったのである。

それは、たった今、自分を輪姦している魔族の男たちが持っている呪文と特技であった。もう何人に犯されたのか、数えるのも面倒になったころ、サリーヌは無意識のうちに突如立ち上がり、その場で男たち全員を呪文で殺した。

その時に彼女は覚醒したのである。自分の秘めた能力に。それ以来強力なスキルを有している男を知れば篭絡し自分を抱かせることによって能力を得て、そのあとは殺した。

 

ただし、万能に見える能力であるが光属性、つまり僧侶などが使う癒しの呪文、そして人間が魔を打ち倒すために編み出した特技などは得ることは無理であった。自分のみを治癒する回復呪文はベホマに至るまで体得したが、その他の僧侶の呪文は使えない。

 

今回のダイの能力にしてもアバン流の技全般、そして勇者のみが使えると言われている電撃呪文もサリーヌは得られない。サリーヌの属性が『闇』であるためだ。光属性が得られないがゆえに、強大な能力を会得しても彼女の体に異常が発生しないのかもしれない。

サリーヌが得た力は『ドラゴニックオーラ』のみであり、ドラゴンの紋章も額に浮かばないが、それでも大幅なパワーアップは疑いない。

 

やがて野心を持った彼女は主君を失ったばかりの妖魔師団を自分の軍勢とし、その中でもっとも脆弱な祈祷師の部隊に所属していたサイヴァを自分の副将に据えた。容貌が美しいからではなく、知恵者であったからである。

その知恵者ぶりをサボエラは気に入らず彼を重用しなかったのだが、娘のサリーヌは重用した。ザボエラはサイヴァを極度に嫌った。それは自分が醜くサイヴァが美しいからである。そして同時に恐れてもいた。自分に劣らぬほどの智謀を誇り、そして呪文にも長けていたからである。

サイヴァ、惜しむらくは仕える主君を間違えたと言うことだ。

 

ザボエラはサイヴァを妖魔師団の中でもっとも位階の低い祈祷師として扱った。主君に疎んじられて警戒もされていることを知っていたサイヴァはその力を表に出すことはなく、もっぱら妖魔師団の雑務などの閉職に甘んじていたが、やがてザボエラはクロコダインに討たれて死んだ。息子ザムザもすでに死んでいる。

 

だが、その後に自分の軍勢として妖魔師団を登用したサリーヌに見出されて副将となり、やがて妖魔師団の最高敬称『悪魔神官』となったのである。主君サボエラに忌み嫌われ、妖魔師団の中でも『顔がきれいなだけの無能』と言われた彼にとって、自分を見出してくれたサリーヌはかけがえのない主君である。

 

そして彼は進言したのである。

『バーン亡き今、魔族を束ねるのはサリーヌ様である。だが貴女の母アグリッサが冥竜王ヴェルザーの封印を解くために動いている。どうやら我々が魔界の一勢力として準備が整うより、その封印が解かれる方が早そうだ。ならばいっそヴェルザーの配下となり『埋伏の毒』として、彼の陣営に身を置き、地上への侵略戦争で漁夫の利を得たらどうか』

サリーヌはこの献策を取り上げ、大嫌いな母親に頭を下げて戦陣に加わることを許可してもらった。自分の野望のためならサリーヌは憎悪する母親にも頭を下げる。母アグリッサは娘の性格はともかく力はあることを見越し、利用するつもりで幕僚入りを許した。サリーヌとて母親を捨て駒にする気でいた。

 

それとほぼ同時期にサリーヌは魔族の神ルシファーに命令を受けた。いかに彼女が力を持ったとはいえ、ルシファーには敵わない。その命令を受けるしかない。『勇者ダイを篭絡して愛される女となり、その後人間たちに惨殺されたふりをせよ』と言う命令。人間を憎悪する破壊の竜魔人へ変えるために。

 

だが、これは渡りに船だった。勇者ダイの精液もサリーヌが欲するものだった。ドラゴニックオーラ以外の能力はダイから得られないだろうが、それでもおつりがくるパワーアップである。

だが肝心のダイの居場所をサリーヌは分からない。それをルシファーが教えてくれるのだ。

サイヴァはダイの出生と、今までダイが生きた軌跡を念入りに調べ、ダイがどんな容貌の、どんな性格の女性を好むか、その結果をサリーヌに報告した。サリーヌとは全く真逆の従順可憐な乙女、それこそダイの母親ソアラを元にした女性像だからである。

 

サリーヌはエルフの美しい娘フィーダに化けて女性経験など皆無のダイを難なく篭絡し、ついには初精をその身に取り込んだ。あとはルシファーの指示通り、人間に殺されるふりをしたのである。

任務成功にあたり、ルシファーはサリーヌに褒美は何が欲しいかと聞いてきた。サリーヌは空を飛べる翼が欲しいと願い出た。ルシファーは快諾し、サリーヌに美しき黒い翼を与えたのである。空を自由に飛べて、かつ起こす風は大軍を吹っ飛ばせるほどの爆風を生じさせる翼を。

 

やがて、その力からヴェルザーにも『冥竜将』の地位を受け、時期を待ちながらもヴェルザーからの指令を円滑にこなしていき、そしてついに『黒のコア』の発見に至った。『埋伏の毒』がついに動き出し、やがてヴェルザーは地上の勇士たちに倒されていった。あとは『黒のコア』を入手するのみ。

 

 

「サリーヌ様、黒のコアの封印、残すところあと一つです」

兵の魔道士が報告した。

「そうか、慎重にことを運びな」

「ははっ」

「ところでサリーヌ様」

「なんだ、ヘル」

「そろそろ教えてくれませんか『黒のコア』の使用方法。バーンの使い方だと地上の塵が空に舞って太陽を遮り氷河期の到来は必至ですよ。それじゃあ意味ないでしょう?」

「確かにね」

「ならば、なぜ?」

「今にわかるさ…。くっはははは!」

 

サリーヌはまだ疼きが残っている下腹部を撫でた。

「感じるね…。あっちの方角から…」

「ああ、冥竜城のある方角ですね」

ヘルヴェルザーが言うと、サイヴァもサリーヌと同じ方向を見つめていた。

「来ているんだな。あの男が…」

「あの男?サイヴァくん、誰なんだい?」

「すさまじきかな…竜魔人…」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「バーンは言った。『力こそが正義』と。そして俺はそれに『否』と言った。こんなものが正義なものかと。あははは」

瞳の中にいるレオナとマァムは目の前に光景から目を背け、盲目となっているエイミも、外で繰り広げられたであろう悲劇を察して涙し、ロンとヒュンケルは目を閉じている。

「いつか、あの世に行ったら俺はバーンに謝らないと。貴方が正しかったんだと!あっははははははっ!」

 

勝負は一瞬で終わった。ポップのメドローア、アバンのアバンストラッシュ、ラーハルトのハーケンディストールはダイの体にかすり傷一つつけられなかった。いや、発動すらされなかったと言う方が正しい。

ダイはドルオーラも紋章閃も使わず、そして真魔剛竜剣すら抜いていない。ただ力任せに三人を殴っただけである。雷神の鎚とさえ思える剛拳が三人を襲い、そして成す術もなく三人は倒れた。

 

「う、うう…」

「おや?ポップ、まだ生きていたのか。すまなかったね、いま楽にしてあげるから」

ポップは自分に回復魔法をかけつつ、何とか立ち上がった。ホイミからベホイミ、徐々に魔法の位階を上げつつだ。ベホマだと返って効きすぎてダメージを負う。

「なぜ、わざわざ苦しむ方を選ぶのかな。楽にしてあげようと思っていたのに…」

「俺はあきらめが悪い男なんだよ…」

「ああ、知っている」

やっとベホマが出来る状態になった。ダイの前に立つポップ、アバンとラーハルトに回復魔法をかけるゆとりはない。

 

「ならば、お前の心を壊してから止めを刺す」

「なに?」

「『アナザーワールド』」

これはマヌーサ系の最上位呪文だ。ダイは神々から学んだ高度な精神破壊の魔法をポップに撃った。ポップは防ぎようがなく、それをまともに受けてしまった。

 

 

【賭けてもいい。余に勝って帰っても、お前は必ず人間に迫害される】

 

 

気が付けばポップは見知らぬ町で雨に打たれていた。そして目の前にはダイ、ヒュンケル、マァムの首がさらされていた。胴体は打ち捨てられて鳥獣の餌へと。罪状は『国家反逆罪』と記されてある。呆然とそれを見つめている自分がいた。

 

『指名手配中のポップだ!捕らえよ!』

いつの間にか多くの兵士に囲まれていたポップだったが

『許さねえ…!』

 

その国はポップの魔力開放により消滅した。世界を敵に回してしまったポップ。

身にかかる火の粉を何十倍にして返すうちに、いつしかポップは魔王と呼ばれることに。

 

父のジャンクと母のスティーヌは息子の罪を嘆き自ら命を絶った。妻のメルルと生まれた娘の行方も分からない。

アバン率いる世界連合軍と戦ったが鎧袖一触、死を覚悟して向かってくる師マトリフを惨殺、捕らえたレオナを凌辱した。これら全て見ているのではない。追体験である。

最期はダイの剣を握る娘に突き殺されて死んだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「………」

長い悪夢を見終えたポップ、最期に見た少女、あれは娘のダイアだろうか。

「おかえり、ポップ」

再び気が付けば冥竜城竜王の間、時間が全く経過していなかった。

「………」

「バーンの予言が当たっていたら、お前がどうなっていたか。その世界を見せたわけだ。どうだった?」

「一歩間違えていたら、俺はああなっていたと…」

 

ポップは膝から崩れ落ちた。レオナが閉じ込められた瞳が側にある。ポップを心配そうに見つめているレオナ

(俺は…姫さんを…!)

罪の意識が激流のように押し寄せる。

「うがあああああああ!うあああああああああ!」

ポップは頭を両手で押さえ泣き叫んだ。そして激しい嘔吐。ついにはブラックロッドを自分に突きつけた。首に刺して死のうと。

しかし、それはダイが許さなかった。麻痺を起こす呪文をポップへと。ロッドの切っ先は喉の寸前で止まった。

「自裁など許すわけないだろう、ポップ」

ポップはダイに何も答えず、意識を失ってしまった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

瞳の壁を叩いてレオナは叫ぶ。しかし、そんな叫びもダイには届かない。レオナはダイが最初は何者かに操られているのではないかとも考えた。ポップ、アバン、ラーハルトに対する攻撃があまりにも容赦なかったからである。

ただ神の指示、人間への憎悪だけで、親友、師、部下にこれほどに残酷になれるものであろうかと。だが操られていようとなかろうと瞳の牢獄に閉じ込められているレオナには何も出来なかった。そして何より、ダイは誰にも操られてはいない。

 

『これほど残酷になれるだろうか』レオナの疑問の答えはイエスである。人間だろうが魔族、竜族でも意思と感情を持っていれば、憎悪と復讐の魔酒はその者を狂わせる。数年前には真っ白い紙と言えたダイの心は憎悪というインクで真っ黒になってしまったのである。

彼の父バランが何のためらいもなく、かつて命がけで守った人間を虐殺したように息子ダイもまた、何のためらいもなくかつての仲間を殺すのである。

「どうして…こんな結末が…!」

もはや瞳の壁を叩く気力すらなくなってしまったレオナは、ただ泣いた。『神の涙』の神通力もない。瞳がダイを攻撃することはない。

 

「ダイ――ッッ!目を覚まして!さっき貴方は私に父の声が残る貝殻をわざわざ届けてくれたじゃない!貴方はまだ優しい人のはずよ!どうしてこんなことを!」

「あれはほんの気まぐれだよマァム。いや、もしかすると俺の心の中に残る最後の慈悲だったのかもね」

 

もうダイの目は情けの欠片すらない。薄れる意識の中、まだ息のあったラーハルトは見た。そのダイの目を。

(同じだ…)

かつて母マチルダを集団で陵辱したあげく殺した人間の男たちの顔。ラーハルトはその男たちの顔と眼を忘れたことはない。母の首を切り落とし、槍の穂先に突き刺し、愉快そうに笑っていた男たちの顔。

(同じだ…。ダイ様の顔は…あの時の男たちと…!)

主君とも、弟とも思うダイがラーハルトのもっとも憎んだ男たちと同じ顔をしている。無念だった。運命を呪う。だがラーハルトにはもうどうすることも出来ない。立つことはおろか、指を動かすことさえ出来ないほどに深いダメージを受けている。

 

アバンは横たわったまま動かなかった。もはや意識も無い。彼はダイに殴打されている時、どう思っただろう。あのデルムリン島で無邪気に自分を先生と呼んだダイ。自分はそのダイに殺されかけている。そして竜の騎士に人間を駆逐させると言う神々の決断の発端に、少なからず自分の不用心が関与していると言う事実。殴られる痛みより、その運命の皮肉がアバンの心を切り刻んでいった。

 

「そういえばみんな、面白い話があるんだ。覚えているかな?レオナとポップと一緒にベンガーナのデパートへ買い物に行って、その時にキルバーンがドラゴン数体で攻めてきた。俺はそれを退けたけれども『怖い、このお兄ちゃん怖いよ!』と泣いてレオナにしがみついた女の子、ヴェルザーがベンガーナを滅ぼした時、ふふっ、ははは!その子も死んだんだけれど…」

あの時の女の子が…レオナはダイに怯えて自分にしがみついた少女の顔を思い出した。

 

「両親と弟と一緒にモンスター兵に追い詰められて、その時にあの子なんて言ったと思う?何と『勇者ダイ様、お助け下さい!』だ!ははっ、はははははは!」

ダイは腹を抱えて笑った。

「身勝手もあそこまでくると気持ちがいいくらいだよ。あれこそ、まさに人間。たとえ助けたとしても、どうせまた俺のことを化け物扱いするくせになぁっ!」

 

一転してダイの顔が険しくなる。

「冗談じゃない。もうあんな女のため指一本だって動かしてなるか。人間は自分たちと異質の者を排除するしか考えない。たとえそれが命の恩人であろうとも!」

 

レオナが閉じ込められている『瞳』を見るダイ。

「いつか言ったね。『私にはどう考えても人間が滅ぼされても仕方ないとは思えない』と。その答えを言ってやる。仕方がないんだよレオナ。何故なら人間の心こそが魔物、人間に属性があるのなら紛れもなく闇!邪悪だからだ!」

 

「ダイくん…」

もやは、ダイは完全に人間への憎悪で凝り固まっているとレオナは思った。父親バランが持っていた人間の憎悪の尺度を凌駕するほどに。

「そして、その女は目の前で両親と弟を殺されて、最期はモンスター兵に食われて死んだよ。実にいい気味、笑えたよ」

 

さきほどまでヴェルザーの死闘の場となった冥竜城竜王の間、その冷たい床にポップは倒れ、もはや動くことは出来ない。意識は無いが耳はダイの言葉を拾っていた。だが何の反応も出来ない。ダイが放った精神破壊により生きる気力も失せていた。

妻メルル、娘ダイア、父と母の顔が脳裏に映る。

(親父…母さん…。もう俺はここまでみたいだ…。先立つ不孝を許してくれ…)

メルルの笑顔と暖かい肌の温もりの記憶がよぎる。

(メルル…。俺はいい夫じゃなかったな。商人として成功したのを驕って浮気をした…。それを君は知っていたのに何も言わなかった…。ごめんな…。でも出来ることなら…生まれ変わっても君を嫁さんにしたい…)

意識がどんどん暗闇に落ちる。

(ダイア…もっとお前と遊びたかった、抱きしめたかった…。仕事ばっかりで俺はほとんど父親として何もしてやれなかった。ごめんな…。お前がどんな女性に成長するのか見たかった…。お前がどんな子を産むのかも…。こんなに早く死んじゃうパパを許してくれ…。ママを大事にするんだぞ…)

 

…もうあきらめちゃうの?

 

(…?)

 

…そんなポップ、嫌いだな。

 

(……?)

 

すでに天井は崩落した冥竜城、上空はよく見える。暗黒の空、そこにキラリと流れ星が光る。そしてそれは竜王の間に向かっていた。

「さあ、とどめだ、ポップ!」

真魔剛竜剣の切っ先がポップの首に振り下ろされる、その刹那、流れ星がその真魔剛竜剣を弾き返した。

「な…!」

黄金に輝く球体がだんだんとその姿を見せだす。それは黄金に輝く一振りの剣だった。

「俺の剣…ッ!?」

それは『ダイの剣』だった。宝珠がまぶしいくらいに輝く。だがそれはダイの生存を示す、あの光ではなかった。金色に輝く光。ダイの剣はさらに光を放ち、違う形になっていった。それはダイの剣の前身の姿であった。それはロモス国王シナナより賜った

「覇者の冠…!?」

そしてその覇者の冠を頂く者。それはポップのソアラ・カンパニーの旗印となっている翼を生やしたゴールデンメタルスライム。

「ゴ…ゴメちゃん!」

 

『君はだれ?』

「なに言っているんだ!ダイだよ!」

『君は、ボクの知るダイじゃない。ボクの前にいるのは破壊を好む化け物に過ぎない』

自分の異形を改めて見るダイ。

「…そうか、ゴメちゃんは俺のこの姿を知らないか…。でもどうして?言っていたじゃないか、復活するまで十年以上はかかるって!」

『ボクは【神の涙】と呼ばれるアイテムだ。小なりとはいえ、色々と人の夢を叶えてきた』

「…知っている」

『だからボクはバーンに砕かれる直前に願った。ボクの友達が危機に陥った時、もしくは道を外してしまった時、一日だけでいい、復活したいと』

「では…」

『そう、ボクは最初で最後の自分の願いを自分の力に込めて、そしてバーンに破壊されたんだ』

「そうだったのか…」

『そして今日、危機に陥っている友達ポップ、道を外してしまった元友達もいる』

「……」

『そう…君はもうボクの大好きなダイじゃない…』

 

生まれてはじめて出来た友達、ゴメにも絶縁状を叩きつけられた形となったダイ。寂しさを含ませる笑みを浮かべた。

「じゃあどうするんだい、ゴメちゃん。俺を倒すの?そんな非力で」

『そんな必要はないよ』

「なに?」

『どうやらもう一人、君を止めに来た人がいるようだ…』

「……?」

ゴメの言葉と同時にダイの額に輝く双竜紋から激痛が走った。

「ぐ…ッ!」

異常なほどの心臓の動悸、そして頭痛が襲った。双竜紋はダイの意思に反して、無理やり分離し、元の場所である左手の甲に移っていった。左手に戻ったドラゴンの紋章、それの本来の持ち主は…。

「なんだ…ッ!どうして紋章が…!」

 

『ディーノ…』

「……!?」

『…何をしている…。父と同じ過ちを犯す気か…』

「父さん…!?」

『この馬鹿者が!』

父バランの紋章が宿る左手が、ものすごい勢いでダイの顔面に叩きつけられた。

「うわあああっっ!」

自分の拳に殴られて、ダイは吹っ飛んだ。ダイの左手は容赦なくダイの顔面に何度も叩きつけられた。

「父さん、話を聞いてよっ!人間は!人間は!」

『人間が…なんだ?』

「俺の最愛の女性を殺したんだ!父さんならこの気持ち分かるでしょう!」

『分かる』

「なら何で邪魔をするんだ!」

『それは勇者ダイと名乗っていたころの自分に聞いてみたらどうなのだ。人間を憎んでいた私の前に立ちはだかったのは、ディーノ、お前ではないか』

「父さん…!」

『……』

「辛かったよ、悲しかったよ、寂しかったよ、彼女が死んだ時、俺はどうしようもなかった。どうしてその時に今みたいに出てきてくれなかったの?なんで今…。どうせなら俺が苦しんでいる時に出てきてよ!」

『甘ったれるな!』

ダイの瞳からどんどん涙が出てきた。

「だって…だって…!」

『忘れるな…ディーノ…』

「え?」

『お前の母ソアラもまた…人間なのだぞ』

父バランの声はそれから届かなくなった。左手の甲にあったドラゴンの紋章も消えている。

「父さん、父さん、もっと声を聞かせてよ!」

 

『ダイ、今の自分の姿を見てごらん』

ゴメは初めてダイをダイと呼んだ。ダイは自分の姿を見た。

「竜魔人じゃなくなっている…!?手に父さんの紋章も消えて…!」

『お父さんは何か言ってくれたのかい?』

「……」

『まあいい、では始めようか』

「え?」

『ボクたちの最後の戦いを』

「ゴメちゃん…!」

ゴメは金色に輝く。そして一つの呪文を詠唱した。自己犠牲をもっての最大回復呪文。

『メガザル』

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